社会問題小説・評論板
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- いのち─生きる道─
- 日時: 2016/10/27 19:22
- 名前: 茂片みづ (ID: l8Wvg9Qa)
人は、美しいものが好きだ。
私はというと、美しいものがすこぶる嫌いである。何故なら、死にたくなるからだ。
この美しい世界にあと何日滞在できるだろう?あとどれだけの時間が、私に残っているのだろう?
明日にでも、死んでしまうかもしれない。
そんな発想に、いつも胸が締め付けられるのだ。
だからこそ、貴方との出会いは美しかったんだろう。
「大丈夫、まだ生きられるよ」
「あたしは、明日死んじゃうけどね」
- Re: いのち─生きる道─ ( No.3 )
- 日時: 2016/10/30 10:19
- 名前: 茂片みづ (ID: l8Wvg9Qa)
愛がゆっくりと振り返ると、切れ長の綺麗な目をした美少女─沙樹が立っていた。その目はふわりと笑っている。
「沙樹」
愛も大きな瞳を細めて笑い返し、その美しい髪の毛を靡かせた。
君島愛と山口沙樹は、東山中学校のツートップ美少女だ。
その美しい顔立ちは両者引けを取らず、学校内にファンクラブすらあるほど。
だが、沙樹がいじめをしていることはファンクラブを通して既に知れ渡っているため、派閥…といってはなんだが、愛派の人間からしては沙樹の評価は決してよくない。
愛がいじめの主謀者などとは、誰も気付かないのだ。それほど、愛は演技が上手い。顔色一つ変えず、賞味期限を過ぎて破棄された「食べ物」を見つめるのだ。
この学校の誰も、愛の本性を知らない。
もちろん、ターゲットも。
知っているのは、沙樹だけだった。
教室の隅でおしゃべりに花を咲かせている、二人の美少女。
「本当、沙樹の無慈悲さには笑っちゃう」
「何言ってんの!元々あれ考えたの愛でしょ」
「あたし、あそこまで考えてないわ」
いつもの食べ物を調理する時とは打って変わった口調や笑い方。沙樹の中で、愛はどれほどの存在なのか。
「まあ、あれくらいがちょうど良いんじゃないかしら?そろそろ賞味期限も迫っているでしょう」
「そうだね、そろそろ新しい食べ物調達しなきゃ」
楽しそうに笑う二人の美少女の会話がここまで薄汚れているなんて、誰が想像しただろう。
クラスの誰も、その内容を聞き取ることもできず。ただ二人をうらやましそうに見つめているだけだった。
- Re: いのち─生きる道─ ( No.4 )
- 日時: 2016/10/30 11:59
- 名前: 茂片みづ (ID: l8Wvg9Qa)
午前の授業がすべて終わり、各々昼食の準備へと急ぐ。愛も古典の教材をカバンにしまい、トイレへ足を向けた。
「あはははっ」
思った通り、トイレからは笑い声が漏れている。ほぼ毎日、この時間、北校舎の薄暗いトイレで朱音の調理は行われているのだ。昼食の時間が始まるまでの10分間。
「あ、愛」
沙樹が愛に気付き、朱音を殴っていたモップを動かす手を止める。
「愛も、やる?スッキリするよ」
「そうそう!愛ちゃん、たまにはやってみなよ」
「沙樹と仲良いんだしさ!」
沙樹に続いて、周りの人間が愛を促す。それを愛は笑顔で拒んだ。
「ごめん、今日日直だから、これ運ばなきゃ」
「えー、つまんない」
「ごめんねみんな」
あくまでチラッとトイレを覗いた風─を装い、愛は去って行った。
「愛ちゃんって不思議な感じだよね…」
「ね。まあ、人のこといじめといてファンクラブでチヤホヤされてる沙樹よりはマシか−!」
「なにそれひどーいっ」
トイレに、高い高い笑い声がこだました。
- Re: いのち─生きる道─ ( No.5 )
- 日時: 2016/11/01 16:46
- 名前: 茂片みづ (ID: l8Wvg9Qa)
全部全部、あたしの思惑通り。
一人パンを頬張りながら、愛は歪んだ笑みを浮かべた。
愛には、全部見えているのだ。この先沙樹がどんな目に遭うか。朱音がどうなるか。
だからこそ、笑わずにはいられない。沙樹も朱音も、学校のみんなも、あたしにはめられている。でもそのことに気付けない。
バカを使うっていうのは、こういうこと。あたしはみんなに、自分の生きる道を教えてあげているだけなんだから。
昼休みが始まるチャイムが鳴り、沙樹と朱音、二人だけが教室を出る。愛はひっそりと付いていった。
常に開放されている屋上から、小さな悲鳴と大きな笑い声が聞こえる。
愛は屋上へと続く扉を少し開け、中の様子を覗いた。
「やめてっやめて!!ほんとに…ほんとにやめ…!!」
「うるさいっマジでこれバレたら大変なんだから!黙っててよ」
右手でハサミを持ち、左手で朱音の髪の毛を掴む。そしてその刃をゆっくりと入れた。
長い朱音の髪が、無惨にも床に落ちていく。失望した目でただそれを見つめる朱音と、楽しそうな表情の沙樹。
でも愛は気付いていた。沙樹の表情が、若干引きつっていることを。ハサミを持つ手が、震えていること。
───あぁ、こいつももう使えないなぁ。
- Re: いのち─生きる道─ ( No.6 )
- 日時: 2016/11/01 16:56
- 名前: 茂片みづ (ID: l8Wvg9Qa)
たまらず逃げ出した朱音に見つからぬよう影に隠れ、それを追いかけてきた沙樹の腕を、愛が強引に掴む。
その手には、ゴム手袋がはめられていた。
「あ、愛!?」
「来て」
それだけ言って、愛は屋上へ入っていく。怪しげにこちらを見る沙樹の肩は震えていた。
「あ、愛、わたし、ちゃんとやったよ…一人で、朱音の…」
「あんた、もう使えないわ」
「えっ…?」
「食べ物を調理するのに手こずるなんて、どんな神経しているの?あんたにこの仕事は向いてない。もうあんたはいらないわ」
「まっ待ってよ!!」
愛の腕を必死に掴む沙樹の目には涙が溜まっていた。
「やだ、やだ…わたし、こんだけいじめてきたし、愛に見捨てられたらわたし…!!」
「──いじめ?」
低い声で、愛は問いただした。
「いじめなんかじゃないわ、これは…あたしの、あたしなりの″教育″。それはあんたが一番わかってると思ったけど…やっぱりダメね」
「そんな、そんな…ねえ、愛、ほんとになんでもするから、お願い、見捨てないで…」
「そうやって見返りばかり求めているからこんな貧弱な人間になってしまうのよ」
愛はにこりと笑って、沙樹の肩に触れる。そしてそのまま前進し、沙樹の背中がフェンスに当たったのを確認すると目を閉じた。
「さよなら、沙樹。あんたが生まれ変わって、もっと役に立つステキな女の子になったら、また使ってやってもいいわ」
ゆっくりと、沙樹の体制を後ろに押した。
「───!!!!」
落ちる直前に沙樹が言った言葉は、風となって愛の記憶から抜けていった。
- Re: いのち─生きる道─ ( No.7 )
- 日時: 2016/11/02 17:40
- 名前: 茂片みづ (ID: l8Wvg9Qa)
予定より、少し早く殺してしまった気がする。
手にした学級通信を横目にし、愛は小さなため息をついた。
山口沙樹が死んでから、1週間。学校側によるクラスの事情聴取で朱音へのいじめが発覚し、その主犯が沙樹だったと知って「償うために自殺した」という答えに辿り着いた。クラスの誰一人、沙樹の死を哀しむ者はいない。
沙樹の家族が住んでいた家も、もうなくなっている。
「山口さんってさあ、屋上から飛び降りたんでしょ?」
「そうそう、まあでも良かったんじゃない?これで。西条さんもいじめられることないし、食べ物制度ももう終わるし」
後ろの席の女子の話が聞こえる。
愛はくるりと後ろを向き、
「ね、本当に怖いよね」
と苦笑いを浮かべた。女子達も頷き、
「ほんとにねー」
「山口さんの家、もうないんでしょ?家族も恥でしょー、あんなのが娘って」
小さく笑う彼女達の顔を見、愛は横に目を逸らす。一番後ろの席に座る西条朱音は、沙樹の死についてが記された学級通信を眺めていた。
ゆっくりと席を離れ、朱音に近付く。そして彼女の肩に手を触れた。
「……っ!!」
「あぁ、ごめんなさい。そこ、痣になっていたかしら?」
「い、いえ……大丈夫、です…」
沙樹が死んだあの日から、朱音いじめは止まっている。リーダーであった沙樹がいない今、朱音をいじめる理由などないからだ。それほどに、沙樹の犯した罪は重い。訳もなく朱音をいたぶったのだ。
「かわいそう…」
「え?」
愛はどこか遠くを見つめるように目を細めた。
「西条さん、本当に可哀想だわ。あたしも助けられなくて、ごめんなさいね。でも沙樹がいなくなったおかげ…といっては何だけれど、どんな形であれ西条さんへのいじめが無くなったことは本当に良かった。でもね、沙樹がいなくなったのはあたしとしても惜しいことがあるのよ」
「……」
「どういうことか分かる?西条さん」
「──西条さんを、沙樹の変わりに。この学校のツートップの一人にして差し上げましょう」
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