社会問題小説・評論板

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フォンダンショコラの狙撃銃
日時: 2017/07/17 21:07
名前: 水瀬アキラ (ID: 3YwmDpNV)

はじめまして。
『フォンダンショコラの狙撃銃』の作者、水瀬アキラです。

誹謗中傷、晒し、荒らし、私怨、転載等が目的の方は御遠慮ください。
また、こことは別のサイトも併用して書いていますので、ご了承ください。

以下は、この作品シリーズに関するものです。
それらを読んだ上で、自己責任で閲覧してください。

・物理的及び精神的に、病んでいる、もしくは痛い表現があります。
・曖昧な同性愛表現があります。
・誤字脱字があります。
・自分は言わずもがな素人であり、この小説は自己満足である為、皆様が満足いくようなものを書けない可能性があります。
・現実には居ない個性的な登場人物が多いです。
・シリーズ(長編)にする予定です。

もし何か改善や忠告の意見がありましたら、よろしくお願いします。
この小説が皆様に快く読んでいただけるように、努力・配慮します。

Re: フォンダンショコラの狙撃銃 ( No.4 )
日時: 2017/07/19 15:47
名前: 水瀬アキラ (ID: 3YwmDpNV)


縁側の方に行って、雨戸を開け、部屋に朝陽を浴びせた。
網戸を残せば、心地良い風が入ってくる。
寝間着代わりのシャツと下着を洗濯機に放り込み、シャワーを浴びて、冷蔵庫に入っていたものを思い出す。
風呂から上がれば、新しい下着と部屋着用のワンピースに着替え、髪は乾かさずタオルを肩に羽織った。
すぐに昨日炊いておいたご飯を確認し、味噌汁の為に湯を沸かし、豆腐とワカメを用意する。
火にかけておいたフライパンが熱せられれば、すかさず卵とベーコンを落とす。
それから野菜も必要だと思い出して、ミニトマトも洗う。
皿に盛り付け、朝刊と共にテーブルへ運んだ。
チラシから今日の特売品を見つけながら、箸は休むことなく口に食物を摂取させ続ける。
途中で橋を置き、赤いペンでチラシに載るいくつかの商品に丸をつけた。
今日買うものが決まったようだ。

「タマネギとジャガイモ? これ今日買うのかい?」

「はい、今日の晩御飯に。冷蔵庫にニンジンと挽肉もありましたから」

「タマネギ、ジャガイモ、ニンジン、挽肉……あ、今夜はカレー!」

「……ごめんなさい。肉じゃがのつもりでした」

Re: フォンダンショコラの狙撃銃 ( No.5 )
日時: 2017/07/19 15:48
名前: 水瀬アキラ (ID: 3YwmDpNV)


彩乃はゴミ出しの為に外に出ると、向かいに住む山本家の主婦、山本亜里沙さんに会った。

亜里沙さんは一児の母であり、三十路だが、その容姿は若々しいものだった。
子供っぽいわけではない、むしろ大人びている。
彼女が自己紹介で二十歳と偽っても、誰も疑わないことだろう。
しかし、そんな美貌を持っているにも関わらず、元暴走族ーーなんて噂もあり、近所ではどこか浮いた存在になっているのも、また一つの事実だった。
決定打は、昨年産まれた実の娘に『星凛(きらり)』という、所謂キラキラネームをつけてしまったことだと思われる。
虐待をしているのではないかとまで噂されているが、亜里沙は星凛に対して愛情がないわけでは、決してない。
事実、以前は煙草を吸っていたが、星凛さんを妊娠してからは、きっぱりとやめてしまった。

「おはようございます、山本さん」

「あら。彩乃ちゃん、おはよう。ほら星凛、あんたも挨拶なさい」

亜里沙は背負った星凛を、彩乃の方に向け、挨拶を促す。
喃語を話しながら、星凛は小さな手を出してきた。
その手が彩乃の眼鏡を掴もうとして、亜里沙は慌てて振り返り、謝ってきました。
彩乃にとっては眼鏡を触られるくらい、別に大した問題ではないのだが。

「あたしに挨拶してくれんのなんて、ここらへんじゃあ、彩乃ちゃんくらいのものよ」

「山本さんには、お世話になっていますから。昔からずっと」

「あー……お母さん、どう?」

彩乃は目を伏せ、顔を横に振った。

亜里沙は彩乃の家の事情を知っている。
知っている、と言っても具体的に何があったのかは知らない。
ただ、彩乃の母親が引きこもるようになってしまったことだけは理解していた。
あえて深くは聞いてこず、せめてと思い、彩乃に料理や家事を教えてくれたのだ。
親代わりとまではいかなくとも、彩乃は亜里沙をとても信頼しており、亜里沙もまた彩乃を妹のように可愛がっていた。

「まあ、何かあったら言ってよ。こんなおばさんだけど、悩み相談くらいなら受け付けるわ。頑張りなさい」

「ありがとうございます」

亜里沙は好意で言ってくれている。
妙な言い方をすれば、彩乃に同情してくれている。
そのことを彩乃は分かってはいたが、最後の返事の時に、素直に笑うことができなかった。

『頑張りなさい』だなんて。
もう頑張っている。
頑張って、現状なのだ。

Re: フォンダンショコラの狙撃銃 ( No.6 )
日時: 2017/07/19 15:51
名前: 水瀬アキラ (ID: 3YwmDpNV)


歯磨きを済ませ、彩乃はまた服を着替えだした。
彩乃は露出の多い格好が苦手の為、膝まであるスカートにタイツを履いた、清楚な格好を選んだ。
髪はいつもどおり、後ろで三つ編みにしてまとめた。
鞄に教材を入れ、大学へ行く準備が完了した。

しかし、まだやることは残っていた。
とても大事なことが。

盆に自分の朝食と全く同じメニューを乗せ、彩乃はそれを二階へ運ぶ。
木製の階段は、彩乃が一段ずつ登るたびに、軋む音を響かせた。
登りきった突き当たりには、左右に二つの部屋があった。

右側は、彩乃の部屋だ。
僅かに開いた扉の隙間から、中の様子が見えた。
質素で女性らしさの感じられないその部屋は、ベットと勉強机、幅広い種類の本が詰まった本棚、そしてあの姿見鏡しかない。
彩乃は密かに思う。
我が部屋ながら地味ですね。
離婚前はもっと華やかだったんですが。

姿見鏡に僅かに映ったマシロが、不服そうに彩乃を見ていたが、彩乃は気づいていないようだ。
部屋を一瞥すると扉を閉め直し、もう一方の、左側の扉に向き合った。
盆を床に置き、彩乃も扉の前に正座をした。

静かに三回、ノックをする。

「ご飯、ここに置いておくね」

彩乃の声は普段よりも優しいいものだったが、扉の周囲の雰囲気は重苦しいものだった。
陽が差し込んでいるにも関わらず、じとじとと纏わり付くような、何か悪いものが溜まっているような、そんな気味の悪い、不快な空気が流れている。

それから彩乃は、扉に向かって世間話を続けた。
昨日は何があって、今日は天気が良くて、そういえばーー他愛のない話を、ただただ続けた。

あれから、五分か十分ほど経ったのか。
彩乃はスマートフォンで時間を確認し、立ち上がった。

「……行ってきます、ママ」

扉から、返事はない。

Re: フォンダンショコラの狙撃銃 ( No.7 )
日時: 2017/07/20 21:57
名前: 水瀬アキラ (ID: 3YwmDpNV)


彩乃の通う楠木大学は、幅広く緩い坂を登った先に建てられている。
その歴史はとても古く、七年前に創立百年を迎えた。
また、広大な敷地面積を誇る楠木大学は、その長い歴史ゆえに、煉瓦造りや木造建築が点在していた。
ずば抜けて古い建物があると思えば、アーティスティックな現代風の建物まである。
ゴシック建築の講堂は全国合唱コンクールの会場に、噴水の備え付けられた庭園は映画撮影に、使用されたこともあった。
大学情報サイトには、同じ敷地にいながらタイムスリップをしたような感覚を味わえる、と口コミされているほどだ。

校門までの桜並木は、先々週までは桜が舞い、芳しいトンネルが出来ていたが、今はもう葉桜になりかけている。
アスファルトに広がる押し潰された花弁を踏みしめながら、彩乃は残念に思った。
夜の桜吹雪は、本当に美しいのに。

自宅から大学までの距離は近くはないが遠くもなかった為、彩乃は毎日大学へ赴いていた。
平日は授業を、休日にも講習を取っていた。
何もなくとも、勉強の際には大学図書館を利用し、自主的に教授達に質問をしていた。

そのおかげか、入学して一ヶ月足らずで、彩乃は望まず、教師界隈では、ちょっとした有名人になっていた。
三つ編みに眼鏡という見た目も相まって、真面目すぎる学生として。

しかし当の本人は、それを知らないでいる。
もともと彩乃は目立つことは、好きではない。
さらに言えば、大学に友人と呼べる存在があまりいない。
それゆえ、誰に聞かされるわけでもなく、淡々と過ごしていたのだ。

今日も幻がちらほらと見える景色を眺めて、彩乃は大学を目指した。

Re: フォンダンショコラの狙撃銃 ( No.8 )
日時: 2017/07/30 16:24
名前: 水瀬アキラ (ID: 3YwmDpNV)

校門まであと僅かという所で、不意に、彩乃は立ち止まった。
鞄に入れたスマートフォンが震えている。
どうやら電話がかかってきたようだ。

液晶に表示された『三角紗雪(みすみ さゆき)』の文字を見て、彩乃は溜息をつき、嫌々通話ボタンを押し、耳に当てた。
彼女から電話が来る時、彼女からの用件は、一択しかない。

「もしもし?」

『もしもし彩乃ちゃん?』

私のスマホに私以外の誰が出ると?
また溜息をつきそうになったが、うっかり相手に聞こえてはいけないと直前で飲み込んだ。

「どうしたんですか三角さん? こんな朝早くに」

用件なんて、分かっていた。
しかし敢えて聞く。

『バイトを頼みたい』

「時間、内容、給金によります」

『今日か明日、学校終わってからでいい。再来週イベントがあるんだけど、まだペン入れが終わってないから、アシスタントとメシスタントを頼みたいんだ。時給八百円……いや、九百円』

「……あの、メシスタントとは何ですか?」

『ご飯作ってくれるアシスタント。僕の好き嫌い知ってるの、両手で数えるくらいしかいなくて』

「今日の夜、喫茶店のバイトも家事も終わって、真夜中でも大丈夫だと言うのであれば、引き受けますよ」

『んー、ありがとう』

「はい、それではさようなら」

彩乃はそう言い、スマホを切った。

三角紗雪。
彼女と彩乃は、友達とは言い難い仲だ。
こうしたバイトを頼まれることはあっても、プライベートでは全くと言っていいほど、関わり合いがない。
お互いがお互いの、都合が良い時だけの友人だ。
紗雪にとっては臨時のアシスタント(兼メシスタント)、彩乃にとっては給金の良いバイト先の一つ。

彩乃と紗雪は、仲が悪いわけではない。
ただ昔、彼女とーー正確には彼女を含めた六人と、色々あったのだ。
他の五人のことを考えれば、紗雪は何も気遣うことなく話せる仲ではある。


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