社会問題小説・評論板

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フォンダンショコラの狙撃銃
日時: 2017/07/17 21:07
名前: 水瀬アキラ (ID: 3YwmDpNV)

はじめまして。
『フォンダンショコラの狙撃銃』の作者、水瀬アキラです。

誹謗中傷、晒し、荒らし、私怨、転載等が目的の方は御遠慮ください。
また、こことは別のサイトも併用して書いていますので、ご了承ください。

以下は、この作品シリーズに関するものです。
それらを読んだ上で、自己責任で閲覧してください。

・物理的及び精神的に、病んでいる、もしくは痛い表現があります。
・曖昧な同性愛表現があります。
・誤字脱字があります。
・自分は言わずもがな素人であり、この小説は自己満足である為、皆様が満足いくようなものを書けない可能性があります。
・現実には居ない個性的な登場人物が多いです。
・シリーズ(長編)にする予定です。

もし何か改善や忠告の意見がありましたら、よろしくお願いします。
この小説が皆様に快く読んでいただけるように、努力・配慮します。

Re: フォンダンショコラの狙撃銃 ( No.1 )
日時: 2017/07/19 15:43
名前: 水瀬アキラ (ID: 3YwmDpNV)


「おはよう、彩乃」


その優しく無邪気な声で、黒河彩乃は目を覚ました。

自分の体温によって温められた布団が心地良く、もう少しそのままでいたかったが、大学に遅刻をするわけにもいかない。
嫌々起き上がったが、眠くて仕方ない。

眠気の原因ははっきりとしている。
昨夜の幻のせいだ。
話し声のような、足音のような、電子音のようなーーとにかく不快で仕方のない音達が、彩乃の耳に響く。
生物のような、絵のような、物体のようなーー奇々怪界で現実離れした幻覚達が、彩乃の視界に映る。
今更ではない。
小学生の頃から今日までの八年間、三日に一度はそれらを経験して過ごしてた。
しかしここ最近は、ほとんど毎日だった。
特に眠る前、疲れが溜まっている時に多かったような気もしている。
ストレスだろうか。

しかし、彩乃はそれについて、誰かに相談したことはなかった。
医者にも、友人にも、両親にも。
彩乃だけの秘密であり、それはむしろ『自分だけが知っている』という優越感にも似たものを感じさせていたほどだ。
その感性は異常なことであり、彩乃もそれを自覚してはいる。
しかし、慣れてしまったものは仕方がないと、半ば諦めつつ楽しんでいた。

眼鏡をかけていない彩乃の視界は不明瞭で、かろうじて周囲のシルエットが分かるだけだった。
枕元に置いたスマートフォンを、充電器から引き抜いて電源をいれる。
明るい画面に瞬きを繰り返し、現在時刻を確認しようと眼前に持ち上げた。

[4月24日 火曜日 5時30分]

彩乃の胸中に、安堵の息と同時に、残念な気持ちが浮上した。
まだアラームが鳴る前ではないか。
あと三十分は眠れただろうに。
……しかし、遅刻をするよりはいい。

Re: フォンダンショコラの狙撃銃 ( No.2 )
日時: 2017/07/19 15:44
名前: 水瀬アキラ (ID: 3YwmDpNV)


「おはよう、彩乃」

彩乃の耳に、自身を起こした声が、また聞こえた。
そして気づいた。
まだ返事をしていないことに。
彩乃はベッドから降りて、狭い部屋を歩き出す。
部屋の隅に置かれた、アンティーク調の姿見鏡の前に座り込んだ。

四角い鏡は、丁寧に装飾された、重厚な木枠に囲まれている。
一点の曇りもなく磨かれた鏡面には、殺風景な彩乃の部屋と、『真っ白な』彩乃が映っていた。

鏡に映った彩乃は、勝手に口角を上げ、また口を開いた。

「おはよう、彩乃」

「はい、おはようございます。マシロさん」

鏡の中の自分ーーマシロに向かい、彩乃も微笑を浮かべながら、朝の挨拶をする。
自分だけが知っている、もう一人の自分に。

彩乃は眼鏡をかけていないにも関わらず、マシロの姿だけは、いつでもどこでも、今も、はっきりと見えていた。
まるでそこだけ、解像度を上げたように。
不自然なほどに、しかし自然に。

双子のように彩乃とマシロは同じ顔だが、マシロはその名前の通り、全身が真っ白だった。
彩乃の目は落ち着いた黒目だが、マシロの目は真珠のように白い。
彩乃の髪は染めたことのない黒髪だが、マシロの髪は染めたわけでもないのに絹の糸のように白い。

鏡の中の私は、メラニン色素でも欠乏しているのでしょうか?

彩乃がマシロと初めて対面した時に、失礼ながら、抱いた意見はそれだった。

「えっと……あれ? 今日って何をするんでしたっけ?」

彩乃は独り言のように呟きながら、勉強机の上に置かれた手帳で、今日のスケジュールを確認しだす。
シンプルな手帳はカラフルなボールペンによって、端から端まで、多くの予定が記載されていた。
これを見れば、何をすればいいのか一目瞭然だろう。
たまに手帳に収まりきらないこともあるのが悩みの為、来年はもう少し大きな手帳に買い換えようかと考え中だった。

今日のページに辿り着いた瞬間、マシロが解説するかのように、スケジュールを言い始める。

「大学で一限から五限まで授業だよ。三限目は渡辺教授にレポート提出だから、忘れないようにしないとね。その後は十九時から二十一時まで喫茶クローバーでバイト。う〜ん、今日も多忙だね〜」

「渡辺教授の授業はレポートの点数が大きいから、大変なんですよねぇ……」

「アッヒャヒャヒャヒャッ! それ彩乃が言える台詞なのかい? レポートでS評価を貰い続けてるくせにさ〜」

彩乃とマシロは、容姿こそ瓜二つだが、中身は全くと言っていいほど違っていた。
それはもう、驚くくらいに。

彩乃が朝起きて最初に言葉を交わす相手は、身内ではなくマシロだった。
毎朝、姿見鏡に向かって挨拶をする。

親しい仲だ。
しかし、深く知る仲ではない。
彩乃がマシロについて知らないことは多い。
それは、彩乃がマシロに、あまり質問をしてこなかったこともあるが、何よりマシロ自身が知らないというのが、最大の理由だろう。
自分自身のことなのに、プロフィール帳に書くようなことすら知らない。
マシロは彩乃の幻であり、発現者である彩乃が知らないことをマシロが知っているのかは不明だった。

例えば、マシロは『僕』という一人称だが、精神的性別がどちらなのかを、彩乃は勿論、マシロは知らない(肉体的性別は彩乃の身体の為、言わずもがな雌である)。
考えてみたことはあった。

「う〜ん、僕の性別か〜」

「そもそも人間の性別ってさぁ、持ち合わせている生殖機能で分類してるんだよね?」

「性別なんて種の繁栄の為にあるのであって、精神的性別はぶっちゃけオマケみたいなもんでしょ〜」

「僕としてはどっちでもいいし〜、てゆーか、どうでもいいし〜」

「あっ、じゃあ両方ってことで!」

と言って、それっきりになってしまった。
じゃあ両方って……。
マシロが笑顔で話すものだから、彩乃も妙に納得してしまった。

Re: フォンダンショコラの狙撃銃 ( No.3 )
日時: 2017/07/19 15:46
名前: 水瀬アキラ (ID: 3YwmDpNV)


一階に降りてきた彩乃は、リビングの電気をつけ、まだ覚醒しきっていない頭を働かせるために、洗面所に向かった。
冷水で顔を洗えば、嫌でも目は冴えてきた。
ようやく眼鏡をかけ、視界は良好となる。

彩乃の朝は早い。
家のことを、一人でしなければならないからだ。

彩乃には兄弟姉妹がいない。
祖父母も死んでしまった。
親戚とは疎遠になっている。
両親は彩乃が小学三年生の冬に、離婚してしまった。
名字は母方の黒河に変わり、彩乃は母子家庭で育ってきた。
しかし、その母親は今現在、色々あり、部屋に閉じこもって出てこれない状況になっていた。

父親とは離婚以来、会っていない。
仲が悪いわけではないが、父親にとって彩乃は『年の離れた大して知らない女』でしかなかった。
彩乃も、もう父の顔も名前も声も覚えていなかった。

離婚後、生活費は父親から、毎月送られている。
一円の差異もなく、一日の遅れもなく、義務だと言わんばかりに。
彩乃はそのお金に対して、感謝こそしてはいたが、愛情の類は一切感じ取れなかった。
しかし、そのお金にも限度があり、彩乃と母親は貧困とまではいかないが、裕福とは程遠い生活を送ってきた。
住居は、母方の祖父母が遺してくれた木造の一軒家に、母親と二人暮らし。
部屋数も少なく、小ぶりな家ではありますが、それでも母親と住むには十分だった。
贅沢をしなければ、衣食住のどれも欠けることなく、質素ながら普通の生活を送れた。

そして今朝も、その生活が始まる。


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