社会問題小説・評論板

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

残酷な報い
日時: 2017/08/20 18:10
名前: しじみ (ID: LJMHYFdO)

すべては嘘から始まり、嘘で終わるのだ。

Re: 残酷な報い ( No.6 )
日時: 2017/08/21 01:03
名前: しじみ (ID: LJMHYFdO)

ただのお嬢様ということであれば、私はこんなに焦らないはずだ。
でも違う。みんなは「クラスの頂点に従う」という風習に慣れていたから。それを作り出したのは間違いなく冴理だった。
「おはようございます!泉さん」
「今日もお美しいですね!」
教室に入ると、皆一様に笑顔を貼り付けて私に挨拶をしてくる。
タメ口で気楽に話しかけられたのは初めて冴理に話しかけられてお嬢様という噂を肯定してしまった日だけだった。今ではもう、みんなが私の機嫌を損ねぬよう努めている。

ところが私も単純なもので、教室でピラミッドの頂点として過ごしていると罪悪感を感じることがなくなるのだ。
なんて都合のいい人間だろう。自分でも嫌気が差す。でも、身分の差もないのに同じ年のクラスメイトから恐れられるのは、何故か気分が良いものなのだ。

「あの、今日泉さんのお宅に伺ってもいいですか?」
初めてクラスメイトにそう言われた時、私は冷たい汗をかいているのがはっきりと分かった。
「──えっと」
なんとか、無理矢理にでも言い訳を作らねば、と考えた時、冴理がそれを遮った。
「何言ってるの?あんた如きが泉さんのお宅にお邪魔できるとでも?それこそお邪魔虫ね」
冷たくそう言い捨て、声をかけてきたクラスメイトを睨み私に「行きましょう」と言った。

Re: 残酷な報い ( No.7 )
日時: 2017/08/21 01:10
名前: しじみ (ID: LJMHYFdO)

そんな日々を送って早三ヶ月。
罪悪感を失った私は、調子に乗るのがお決まりだ。
「なんだか暑いわ」
「はいっ」
冴理とその周りにいたクラスメイトが一斉にノートやら下敷きやらで私に風を送り始める。
「…」
そんな時、ふと目についた少女がいた。
花田加子。地味で、いつも席に座って絵を描いているような子。
私が何を言っても何をしても全く反応しない、つまらない子。
「──冴理」
冴理に耳打ちをする。冴理は一瞬驚いたように目を丸くし、すぐに残酷な笑みを浮かべた。
「もちろんです、泉さん」

女王という立場を、最大限に利用するだけ利用しなくちゃ。


放課後、私はどの部にも所属していないので1人帰ることとなっていた。
門を出れば再び罪悪感に見舞われる。でも、今日は違う。
私は教室を出ると、くるりとスカートを翻して昇降口とは逆方向に歩き始めた。

Re: 残酷な報い ( No.8 )
日時: 2017/08/21 01:17
名前: しじみ (ID: LJMHYFdO)

誰もいない廊下を歩き続けると、人気のない校舎の裏側へ辿り着く。
そこを真っ直ぐ歩いて、突き当たりの角を右折した時、笑い声が聞こえてきた。
「…ははっ!…しなよぉ!」
途切れ途切れのその声は、近づく度にどんどん明白になる。
声がする空き教室の前に立つ。どうやら2人の少女が遊んでいるようだ。
「あんたこんなの好きなの?趣味悪、ヘッタクソ〜」
「やめっ返して!!」
高らかな、高らかな少女の笑い声、そして消え入るような掠れ声。
軽くドアを押すと、中の様子が一望できる。構造的にこの場所はあちらから死角だ。

…空き教室の中にいたのは、冴理と花田。
『今日の放課後、花田加子にお仕置きをしてきてくれる?あの子、気に入らないの』
私の命令で、冴理は花田にお仕置きをしている。
冴理の手には花田のものと思われるバッグ、そして何やら白い紙の束。懸命に取り返そうとしている花田が滑稽で、つい笑ってしまう。

本当は出て行くつもりはなかったけれど、あまりに面白そうなので私はつかつかと2人に歩み寄った。

Re: 残酷な報い ( No.9 )
日時: 2017/08/27 09:56
名前: しじみ (ID: LJMHYFdO)

「たのしそうね、冴理…と、花田さん」
何も知らないような無垢な瞳で見つめたのに、花田は怯えている。
明らかに、身を震わせている。
この優越感がたまらないのだ。
「ああ、勝手に入ってきちゃってごめんなさいね。あんまりにも楽しそうな声が響いてたものだから、気になって見にきたの」
淡々と、怯える花田を横目に嘘を並べる。
あの日から何度もついた嘘は、もう計り知れない。

私は冴理に視線を送った。それを合図のように、冴理は手に持っていた紙の束を私に手渡す。
「なあにこれ?」
「やめっ…やめて!!」
「うるさいっての!!!」
私から紙を取り返そうと手を伸ばした花田の腹に、冴理が蹴りを入れる。花田は酷く咳き込み、床に倒れた。

その紙は、何枚にも及ぶ漫画だった。
ヘタクソな絵だ。ヘタクソな話だ。センスの欠片もない。
私の中に生まれたその感情はやがて憎悪となって、私はこの紙を破り捨てたい衝動に駆られた。
ちぎろうと手に力を入れた瞬間、冴理の手がそれを制した。
「…こんなところでやっても面白くないじゃないですか!」

Re: 残酷な報い ( No.10 )
日時: 2017/08/29 22:38
名前: しじみ (ID: LJMHYFdO)

5階建ての美しい校舎の階段を登り、ほとんど使われない屋上へと続く階段も上がる。
私の後ろには冴理と花田がいた。

重い屋上の扉を開けると、時間が急に動き出したかのような風が吹き抜ける。
「…この風なら、住宅街へも飛んでいってしまうかもしれないわね」
私はポケットからマジックペンを取り出し、例の漫画に一枚一枚、上下に花田の名前を書いた。
「やめてください…!ほんと、やめて…」
泣きながら訴える花田を冴理が押さえつける。

「私ね、あなたみたいな人、嫌いなの」
それだけ言って、私は屋上から漫画を破いて手を離した。
「…っ!!!!」
ばらまかれた白い破片が、舞うように落ちていく。
私はただ堕落していくその破片が、自分のようだと思った。


Page:1 2



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。