社会問題小説・評論板

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死にたがりの彼女はそう言った。
日時: 2019/04/04 15:00
名前: ( ´∀` ) (ID: 3NNM32wR)



 
 自分より不幸な奴がいるのは百も承知だった。
 アフリカや中東の貧しい子供たちと比べれば自分の不幸なんて百分の一にも満たないことも。
 親から殴られたり蹴られたりしたあの子たちの方が人生ハードモードなことも分かってる。
 治る確率のない病気にかかって闘病中の人たちの方が苦しいのも知ってる。


 そんな人たちに対して自分の不幸があまりにも小さすぎるのに、この程度の不幸で辛いって死にたいって思ってる自分が情けなくて不甲斐なくて、それでまた死にたくなるんだ。

Re: 死にたがりの彼女はそう言った。 ( No.1 )
日時: 2019/04/04 15:19
名前: ( ´∀` ) (ID: 3NNM32wR)

プロローグ


 僕が高校一年生になって暫くが経った。
 第一志望に落ちて嫌々通うことになった私立高校で一番偏差値が高い特別進学コースは、思ったよりガリ勉ばかりじゃなく騒がしいクラスだった。それが良いとも悪いとも言わないけれど。
 担任の先生は厳しいしどちらかといえば嫌いだけど、他の教科担当の先生には面白い先生もいた。


 「そのゲーム俺もやってる、グループ招待しといたから入れよ高津」


 僕は真面目で勉強熱心で成績優秀——なんて事は全然無いけれど、明るくて面白くてクラスの中心なんて事は有り得なかったし、そういう人たちと一緒にいる事も多いわけではない。スクールカーストで言うと真ん中あたりだ。中のちょっと下、が一番正確な位置かもしれない。
 だから入学して早々授業中にげらげら笑って騒げる奴に声をかけられて驚いたし、嬉しくもあった。あの瞬間、このクラスには確かにスクールカーストなんて存在しなかった。

 それがちょっと前、僕が高校に入学してすぐの事だった。結局陽キャと陰キャとそのどちらでもない奴らが混じり合うことなんて不可能で、白人が「差別なんてしない」と言いながらも黄色人種や黒人を揶揄った言動が度々取沙汰されるように。いつからか陽キャが陰キャを馬鹿にして笑うようになった。
 一度『陰キャ』のレッテルを貼られた奴はもう二度と『陽キャ』と対等に笑いあうことなんて出来なくて、笑うのではなく笑われる事しか出来なくなる。


 「高津くん」


 ある出来事がきっかけで、僕が『中の下』という心地よいポジションを引きずり降ろされ、とうとう教室に存在する窒素に同化し始めた頃の話だった。 
 僕の斜め前に机のあるあの子は、僕に話しかけた。その様子は決して上から目線ではなくて、対等で。僕は自分に向けられた笑顔が、言葉が、優しさが、なんて温かいものだと思ったのに。







 
 彼女は消えた。

Re: 死にたがりの彼女はそう言った。 ( No.2 )
日時: 2019/04/05 13:14
名前: ( ´∀` ) (ID: 3NNM32wR)

第一章 高津光
第一話 『あれ』が起きるまでの僕の話


 僕の話をしよう。
 高津という苗字のように僕は至って平凡で、人と比べて秀でている所なんて何も無い奴だ。そんな僕に『光』なんて名前はあまりにも似合わなさ過ぎたけれど、誰もがあからさまにそれを言う事はなかった。裏で言っている人はほんの何人かいただろうけど、ほんの何人かで済んだのは僕に関心がある人間も、僕の下の名前を把握している人間も殆どいなかったからだ。

 地頭は勿論良い方ではなかったけど、学校に行く以外には排泄と食事と入浴くらいしかする事が無かったので暇を持て余していて、その時間を勉強に使ったおかげで僕は成績優秀な方だった。中学三年生になると自然に、地元で一番偏差値の高い県立高校への進学を目指すようになった。
 けれど、「中学三年生にもなってスマホがないのは不便だ」と親に言われてスマホを得た僕はスマホゲームに熱中して成績を落とし、受験にも見事落っこちた。
 
 そして現在、猿並みの馬鹿からそこそこ成績優秀な奴らまで揃う私立高校の一番頭の良いコースにいる。勿論、真面目でも勉強熱心でも成績優秀でもない。


 「高津ってmaim●iやるっけ」
 「やるけど最近はオ●ゲキにハマってるかな」
 「あ、俺ちょうどオ●ゲキ興味あったんだよな!」
 「あれ結構面白いよ」
 「じゃあ今日の帰りゲーセン強制連行な」

 
 親は僕が第一志望の高校に落ちた事に難色を示していたけれど、僕は案外高校生活を楽しんでいた。趣味の合う友達が出来て、人と過ごす時間が一日の大部分を占めるようになった生活はいい物だと知った。
 

 「高津そのゲームやってんの!」
 「まあ」
 「うわ、超ランク高いじゃん。フレンドなろっ、な!」


 今までの僕なら関わることのないはずのコミュニティとの接触はとても刺激的で。多分、客観的に見てこの辺りが僕の人生の全盛期だったのだろうと思う。

Re: 死にたがりの彼女はそう言った。 ( No.3 )
日時: 2019/04/04 15:56
名前: ( ´∀` ) (ID: 3NNM32wR)

第二話 差別がこの世からなくならないように


 未知との遭遇はいつだって大きなリスクを孕んでいる。
 自分と違うものを最初は恐れて攻撃する場合もあるし、最初は新鮮に見えて仲良くなる場合もある。どちらも悪いことだとは思わない。多分、僕自身もそうだからだ。

 陰キャのノリは正直、寒い。

 小学生くらいのネタでゲラゲラ笑っているという点では陽キャも変わらないはずなのに、何かが違うのだ。中間辺りにいる僕だからこそ分かる。寒々しいネタで笑っている彼らを見ると鳥肌が立つ。
 まあ、勝手に他人の話を聞いて勝手に評価するなんて失礼な話だが。

 それでも僕らのクラスの陽キャはだいぶ優しい方で、陰キャともげらげら笑っていた。今思えば、面白くもないのに合わせて無理やり笑うなんていうのが良くなかったんだろう。人はあんまり無理をして我慢しすぎるとその分大きく爆発してしまうものらしいから。
 

 「既読はついてるんだけど全然返信来ねえな、高津なんか知ってる?」


 陰キャも陽キャも混合だったスマホゲームのグループは実質の解散状態になっていた。多分もう新しいグループを作って陽キャだけが入っていたのだろう。陽キャたちは元のグループから続々と退会していった。気が合わないのに無理して一緒にいるのがおかしな話だったのだ。
 小学校高学年から今まで……いや、下手したら物心ついた時から全く違う世界で生きてきたのだから。住み分けが始まり、クラスはいくつかのグループに分かれた。
 
 昼休み、一番広いスペースを取るのは勿論陽キャだった。人数比で言うと陰キャよりも少ないのに、いろいろなものを広げてゆったりと座っていた。
 『住み分け』が始まっても僕らは全員対等だと僕は考えていて、僕と同じ考えを持つ誰かが言った。


 「そこの机貸してくれないかな、僕達スペース狭いし」
 「お前らさすがに場所取りすぎだろ」


 彼らの言葉に対する返事はなくて、僕達の心を苛立たせるだけの無意味な笑い声が教室に響いた。人権侵害、と言っても過言ではないんじゃないかと僕は思った。


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