BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

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傷心のティラミス(オリジナル、ジャンアル)
日時: 2014/01/18 07:40
名前: 冬華 ◆tZ.06F0pSY (ID: WnNKWaJ3)

テーブルに置かれた、オシャレなティラミス。

フォークで一口分だけすくう。隣には誰もいない。
恐るおそる口に運んで、君を忘れるために。苦みのなかに君をかき消すんだ。

でもあれれ、甘い。思いの外、ティラミスは甘かった。

ぼろぼろ、涙が海のように流れ出して、ティラミスは甘い、しょっぱい、やっぱり苦い。


消えない。いつまでもいつまでも、飲み込めない。
あぁ、君は僕の中の永遠のティラミス。






いらっしゃいませこんにちは、冬華と申します。
ここではオリジナルBLを中心に短編集とか書きあいっことかを載せています。
カキコさまのルールを守っていただければ特に言うこともないので、どうか楽しんでいってくださいー♪

自分の書いた小説で、誰かが喜んでくれることを祈りながら。


+*短編。

>>1(君と僕は、ピンクでグレー。)
>>2(Happily ever after.)
>>3(拒食症。)
>>4(君のぬくもり)
>>19(いい夢を。)
>>23(Damaged Lady)

+*書かせていただきました!

>>5(こっち向いて、)はなちゃんちの詩音と椿。
>>6(SweetSweet,Sour.)り@ちゃんちの佐野とゆーき。

+*進撃の巨人

ジャンとアルミン。
>>25(海色の瞳。)
>>27(trick or treat!)
>>36( Always in my mind )New!

+*オリジナルキャラクター達

星と空。
>>7(精神安定剤)
>>8(不意に訪れる幸福、)
>>9-10(本編的な。)
>>11(離れる辛さもたまには、なんて。)
>>17(指輪をあげるね、)
>>20(俳句ネタ。)
>>24(女の子、)
>>29 >>32(自殺と君と。)まだ途中。!

成と菊ちゃん。(プロフィール的なもの。>>16)
>>12(ご無沙汰、)
>>13(お風呂)
>>14(夜勤明けのでーと)
>>15(たまにはこんな日だって、)
>>34(キャンパス・ブルー)


+*できごと。
2013-08-11 誕生 君と僕と、ピンクとグレー。
2014-01-08 傷心のティラミス


+*冬華なう!
進撃の巨人らぶ…!!ジャンとアルミンとか、はたまたミカサとアニとかユミルとクリスタとか、結構幅広め。君と僕。も好き。世界観とか絵柄とかすてき。。
最近はジャンアルとミカアニ押しです+*




tiramisu of heartbreak

Re: 君と僕と、ピンクとグレー。 ( No.7 )
日時: 2013/08/11 13:35
名前: 冬華 ◆tZ.06F0pSY (ID: 3Sm8JE22)
プロフ: 星×空。







「—————…。」


『やめて、っや、やだやぁだお母さんやだぁ……ッ!』

正直言ってこの女嫌い、もっと言ってしまえばこの性癖も対人恐怖症も、自分じゃなく神様じゃなく、アノ母親のせいだろう。

そんな過去のコトなんか責めても人ごみへの恐怖なんか消えないし、隣の怖い香水の臭いだって紛れてはくれない。


 
 タタン、、タタン、、タタン、、、

静かな、…僕にとっては大きなその規則的な音が。
ドクン、ドクン、と嫌にはねる心臓音に重なってゆく。


ココハ電車ノ中。 逃ゲルコトハデキ無イ。

「……っ、………っ!!」

まずい、また発作を起こしそうな気がする。 じんわり、頭皮ににじみ始めるいやな汗。



「……ぉぃ、空? 大丈夫か?」

「…ん、へーき……。」

俯いた自分の顔を覗き込んで不思議そうな顔をする星。
あぁ、これ以上になったら気付かれてしまうなぁ。


脳へ送られる酸素が薄くなりはじめて、でもうまく息を吸い込むことが出来なくて、涙まで溢れてきて。

どうしようどうしよう、星に心配はかけたくない、


けど、苦しい。
苦しくて苦しくて、目の前はすでに霞みはじめていて、もうどうしたらいいかわからないしこんなのどうしようもない。


「……空?」

無理やり息を吸い込んだら隣の女の人の香水が鼻を突いて吐き気が込み上げてきた。
ぅぇ、小さくえづきが漏れて立っていられなくなる。

倒れてしまったらそれはそれでもっと大変だろうから、いつも限界が来る前にしゃがみ込んでしまう。

ひゅ、と壊れた音を立てた喉が絞まるような感覚に陥る。

「……あ、やっぱり発作起こしちゃったか。 ほら、大丈夫かー。」

自分の隣に座り込んで額に触れてきた綺麗な手。

だめだよ、星。星が汚れちゃうよ。



「ぅ、……っは、ぁ…ぁ、っ……ぅあ、」

ますます苦しくなって。こんな自分、星に優しくしてもらう資格なんかないと思うから。

ん、ん、って変な声で何かを求めるけど、その何かなんて自分にさえ分からなかった。

のに。


「うん、大丈夫だよー…。怖くない怖くない。俺がいるよ、」

自分ですら分からなかった求めを、星はしっかり分かってて。

微笑を混じえた優しい声で、自分の心を落ち着かせること。
それからぎゅーっと自分のこと抱きしめて、隣のキツイ香水から思考を切り替えること。

変に安心してしまって、我慢していた涙がとめどなく溢れかえってくる。

当たり前だけど余計息が出来なくなって、じゃがんでるのも辛くなって星の腕の中に倒れてしまった。

「……おっと、…って、そら、そら、」

少し不安そうになった彼の声が優しく響いて、落ち着け、落ち着けって自分に言い聞かせるのに逆に呼吸は浅く速くなってゆくばかりで。



「で、きなっ…できないっ…ぃき、できな・・・ッ!!」

目の前が白黒してきて、いよいよパニック状態。ちいさい、甲高くなった声が星に何かを訴える。
このまま死んじゃうんじゃないかって錯覚にとらわれて、いつも死にたいと思う気持ちなんか忘れて。




「、」

「んん……ッ」

少々荒く口に押し付けられたこの唇が、僕の精神安定剤。





Re: 君と僕と、ピンクとグレー。 ( No.8 )
日時: 2013/08/11 13:37
名前: 冬華 ◆tZ.06F0pSY (ID: 3Sm8JE22)
プロフ: 星空。


(そうして、不意に訪れる幸福。)



「……だいじょうぶ?」
「ぅ、ぅえほっ げほっ   …あんまり……。」
「案外よわいよね、からだ。」
「お前ほどではないけどな……。」
「あははw  僕ら、こんなんで将来どーすんのかなぁーww」


呑気に笑って天を仰いだその姿。 きらら、と瞳が無邪気に輝いている。


「まぁなんとかなるよねー。」

ふぅ、と伸びをしてから漏れたため息とコトバ。
そのため息は、疲れからでも気だるさからでもなく……幸せからのもののように聞こえた。


熱、上がったかな。ぼんやりと甘く鈍くなってゆく思考の中で、どうでもいいことばかり馳せる。

基本的、隣のコイツのことばっかだけど。


空、最近発作起こさないけどコイツちょっとは強くなれたのかなとか、
どーでもいいけど空の髪の毛すげぇおいしそうミルクティーみたいとか、

ふわりふわり、優しい布団の匂いのなか。なんだかとっても、心地いい、なぁ。





「……ん…。」

「あ、おはよ。」

あらら、いつの間にか、眠ってしまったらしい。


窓越しに見える空。 オレンジ色に、マンゴーみたいにきらきらしてる。
隣の、嬉しそうな空。ミルクティー色の瞳を、マンゴー色に照らされて明るくしている。

にんまり、してて。なんか嬉しそう。 ……何がそんなに、

「寝顔、ゲットー♪」

やる気のなさそうな声に おんぷ、てゆかはぁと?みたいのが混ざって。
奴はこちらにケータイの画面を向けてにっこり笑った。


そこに映っているのはもちろん自分で。 バカっぽい寝顔。うわぁ、最低だ。

それを消してやろうと手を伸ばしたら頭がくら、と。目の前がゆがんだ。

「っ、」

込み上げた胃の辺りの気持ち悪さのせいでまたまくらに顔をうずめる。


あ、気持ち悪いかもしれない。ぼんやりした頭がそんなことを思って尚更バカらしかった。

「星、……ごめん、ごめんね大丈夫?」

少し不安そうな声はなんだか少し遠くにいるみたいに聞こえて、うーん、いつも空はこんな嫌な世界を味わってるんだろうか、そう思った。


ほんのり、涙が瞳を包む。そっと髪の毛を撫でられて、目を細めると空の微笑が耳をかすめた。



「……ねむいー…。」

「ふふっ  なんか作ってあげよーか?おかゆ、とかオートミールとか。」

完全にいつもと立場が逆で、口に、表に出してこそいないけれど多分俺達かなりノってる。

「…うーん……どっちでもいい、けど、 オートミールは朝ごはんだからおかゆがいいかなぁ。」

「りょーかい、」


いつもそんなに表情出さないくせに、今日はやけに にこにこ 嬉しそうに笑ってる。
ふいにおでこにキスされたりして。なんかすごい照れる自分も変。。

「……やけに楽しそう、ですね…。」

「だってあなたが弱ってる姿なんてめずらしいですから…。いつもは世話されてばっかりだから、 かわいいなぁとか思、たりして楽しい、ですよ?」

ちょっぴり恥ずかしそうに、それでいて幸せそうに話す姿。

綺麗な顔立ち。ミルクティー色の瞳と髪の毛に乳白色の肌、それらが柔らかな部屋の木の色によく映える。

こんな感覚は、ずぅっと忘れたくないなぁ、ゆっくりとそう思った。


「ねぇ、不思議だね、星。」

「……ん?」

「僕、幸せだよ。 変だね、あんなだった僕がこんなになって幸せだなんて。…あ……、なんか、やば ぃ……泣きそ、」

ふにゃっとわらってからその顔崩してまぁるくしゃがみこんだ空。


努力した人っていうのは、案外簡単に泣く。努力が結果に変わったら、もういくら泣いても誰も怒らないからかもしれない。

最後に笑ってるのは、ホラね、お前なんだよ空。
……まぁ、今はなんか泣いてるけど。でも悲しい訳じゃないはずだし。


ふらふらする頭を必死に引っ張りあげて、立ち上がった。
そんでいつものように俺が隣に座るんだろうと思ったら、違ったらしい。

空が勢いよく立ち上がって、そのまま俺ごとベットにダイブしてきた。


「………っは、」

「あ、ごめん熱あるの忘れてたw」



「……痛い…。」

「ごめんってw」

もぞもぞ、また俺ごと布団に入れてはにかむ空。



さぁ、そろそろ空が闇色に染まる。そして顔を出す、銀色の綺麗な星。

いっそこのまま眠っちゃおうか? ふたりでゆったり柔らかな幸せを噛み締めて。


のろのろ、しっとりと過ぎる時間。 幸せっていうのは、こうやって不意にやってくるものなのだ。




Re: 君と僕と、ピンクとグレー。 ( No.9 )
日時: 2013/08/11 13:39
名前: 冬華 ◆tZ.06F0pSY (ID: 3Sm8JE22)
プロフ: 星空。







さらさら…みたいな音とかブォ——…って音。

遠いようで近いような街の音がまだちゃんと働かない頭にぼんやりと入ってくる。

ちゅんちゅん、かわいらしいスズメのさえずり。透き通った風が人々に朝を伝えてまわる。



……そして自分にも当然、その朝が伝わって起き上がるわけですが。

「ぁー…。」

ずぅうん、重たい身体。 ホントに、すぐくたばる自分が憎い。

ぐわぁん、て。


起き上がって、なんとかベットから降りて、世界が傾く。

「ぅ、」

どうしても焦点も合わなくて、目の奥の痛みに涙が溜まる。

もう、ちくしょう。 じんわり身体の芯が熱くて、なのに指先は冷たくて。

なんとなく息苦しくて、今発作起こしたらどうしよう、死ぬ・・・までは行かなくても気絶しちゃうの怖いな、なんて縁起の悪い事を考えてしまう。

ずきずき、ずきずき、主張してくる頭痛も嫌い。あぁ、やだなぁひとりなの。



嫌い嫌い、ソレが溢れた大嫌いな世界でただ1つの好き。

そう導いてくれたよね。好き、たった1人の自分の好き。

「っ、星、」

思わず名前を呟いて、当たり前だけど返事は返ってこなくて凹んでしまう。

はぁ、ともう一度溜め息を吐いて再び布団の中にもぐり込み、真っ白な世界に包まれて、また気を失うみたいに眠った。






『 お母さん、空のことだぁいすき。 』

びく、と体が震えて目が覚めた。思わず短く吸い込んでいた息を詰めて、吐き出す。

その吐息が妙に熱くて、目に浮かぶ涙とかも熱くてじんわり。
熱、上がったな。 てか今の、いつの夢?

自分でも少し可笑しくて、くく、て苦笑する。
お母さん、なんであんたは自分をも殺そうとした?
ああやって、こうやって、愛してるって。

ゆったくせに。

あーだめだ、脳みそが鬱モード。



さみしいな。隣にいてくれたらな、星。

あいにく彼は、自分ほど暇じゃないので自分がいてあげられるようにはいてくれない。


彼を求める自分が怖くなって、ぎゅ、て縮こまる。
自分を抱きしめて。無理やり愛して。傷を癒して。

「は、……、ぅ、ぇっ うぇっ、げぇっ」

笑った。笑ったら、泣けてきた。我慢してたら吐きそうになって、もうめちゃくちゃ。

吐けない。胃液ばっかりこみ上げて、余計気持ち悪くって涙がぼろぼろこぼれて。


……そいえば、昨日は丸1日絵を描いてたしかれこれ3日は食べてない……?
そんなのぶっ倒れて当たり前だし吐けなくて当たり前だし、さみしいのも当たり前だ。

星どころか、日の光さえ浴びてないとか自分吸血鬼ですかね。


「げぇっ げほ、げほぇっ   ん、っ、……っは、ぁ」

のど、渇いた。 そろそろ水くらいは飲まなきゃ死ぬぞ、てことくらいはさすがの自分も分かってたのでベッドをずるずると這い出る。


がらん、と空っぽの冷蔵庫。 あらら、牛乳が腐っちゃってる。

みねらるうぉーたー。力の入らない手で苦戦しながらキャップをきゅ、そのキャップは手から零れ落ちてしまったけど気にしない。
縋るように両手で持ったボトルに口をつけて、ごっくごっく、音がするほどのどに押し込んだ。

零れ落ちたキャップ。こぼれおちた、小さな自分。

かしゃん、と音を立てて自分の中の僕は消えた。





—————…カツン、コッ、コツン、カッ、カッ、

アパートの階段を上る、近づいてくるその音。お仕事用のパンプス?……いや、男の人捕まえるための武器??

『あんたが、 ……あんたが生まれてきたりするからぁッ!!』

それでまた、僕を踏みつけるの? 僕がぐぇ、なんて音を立てるのにも構わずに?

こつんかつん、徐々に近づいてくるその音。


こないで。ぶたないで。


が、がちょがちょ、がちゃっ!開いた、ドア。


お母さん?



「……っぁ、あぁ…っ   っは、はぁっ、はぁ、 ぅ、あぁ」



ごめんなさいごめんなさ、






もうだめだ、次こそ殺される。

ひゅ、と気管が狭まるように呼吸が遮られる。ぜぇ、ぜぇ、と激しく運動した後みたいに鳴るのどを両手で包んで、どうしようもなく苦しくて胸元のパジャマを握り締めて、ガタンッ、テーブルに倒れこむ。

ばくばくばくばく、落ち着かない心臓はただただ加速していく。

嫌だ、熱い、熱いよ火はもう嫌だ———・・!

痛いイタイイタイ、ぎゅうと心臓か肺か、何かがぢくぢくと痛む。
止まらない、痛み 吐き気 涙 記憶 記憶 記憶。

「ぅ、あぁぁっ、ぁあぁぁあぁ! っう、あぁいやだぁ!やめっ、やめ・・・!」

ふらふらと前かがみに動いてぎゅうぎゅう髪の毛を握り締めて、頭皮が痛いような気がした。

苦しい苦しい、立っていられない。


信じられないスピードで記憶が渦巻いて、目の前がちかちか、赤くろ緑に白、火花がぼんやりとうごめく視界。


 あの日。

 ばしゃ、突然後ろから冷たいものをぶっ掛けられた。

 母親も同様に、その水にまみれていて。


 かちゃ、と。冷静な顔つきをしてお母さんはコンロの火をつける。
 フライパンも鍋もかけずに火を見つめる母親はなんだか弱々しく見えた。


「……お母さん、なに?この水…。」

 
 くすっと寂しそうな顔をして笑ったお母さん。くしゃ、と綺麗なその顔を崩して涙をこぼす。

「お、かぁさ……?」

………ごめんね、と口が動いた気がした。


 刹那、火に手を突っ込んだお母さん。僕は叫んだ。

 驚異的な速さで火は彼女を襲って、ようやく気付く。


 ちがう、この水、水じゃない、油だ……!


助けて!助けて! お願い、お願いだよまだ死にたくない死になくない!

悲鳴を上げる15の少年を助けたのは、隣のおうちのきらきらの少年。



星は、僕に奇跡をもたらした。






「空! 空、そら、そらぁ!?  そらってば!だめ、だめだって死ぬなぁ!」

あぁほら、あの時の声まで聞こえてきちゃった。 

ごめんね、星。 あの人と同じ言葉、ごめんねって。許されないことくらい、分かっているんだ。


でも、僕はもうダメだから———…。


遠のく意識の中で、最期にあなたの声が聴けたらそれでいい、そう思った。



Re: 君と僕と、ピンクとグレー。 ( No.10 )
日時: 2013/08/11 13:40
名前: 冬華 ◆tZ.06F0pSY (ID: 3Sm8JE22)
プロフ: 続き。








「……あ、」
 
「はよ。 大丈夫か?」

がらがら、と白い病室のドアが横に引かれて彼の姿がのぞく。

「うん、今日はへーきだよ、」

にこり、笑って見せると星も安心したように微笑した。

まぁ、あれから自分はといえば史上最悪の発作症状を起こし5日近く眠りこけ、病院で目を覚ましてもしばらく熱が引かずいろんな人にお世話になり続けたわけですが。

星は僕が目を覚ますまでずっとずっと、眠ることも出来ずにそばにいてくれていたらしい。


『……お母さんが、帰ってきたかと思った。』

目を覚ました僕がぽつんと呟いた言葉に星はあはは、って疲れた顔で笑って、僕に少しだけ指先を触れて、…泣いた。

星が泣く姿を見るのははじめてか、そうじゃなくても本当に久しぶりで。

『おれ、だって、また…。またっ、お前が死ぬのみるのか、と、おもった……っ』


僕があの、15歳の愛をなくした日に残した背中のヤケドは消えないけれど、ねぇ星、星は自分に底の無いほどの愛をくれるよね??

なんとなく分かった、今回のことで。
自分が発作を起こすのは、愛情が足りないとき。

自分の鼓動は恐らく愛で動いていて、それがなくなってしまったら愛情不足で死んでしまう。

前、元気になってそう星に言ってみたら星はなんだそりゃ?って笑った。
笑ってから今度は あー とか ぅー とかもごもご言って、自分の手を握った。きゅ、ってあまぁく。

ぇーと、その、ほら、空…あのさぁ、ぐちゃぐちゃな前置き。


「一緒に、暮らそう。」

俯いたままのぶっきらぼうな言葉には色んなモノが詰まっていて、それと一緒に自分は息まで詰まってしまって、泣いた。

ぎゅうぎゅう星に抱きついて、大人になりきれない泣き方。

きっと僕らは、10年も15歳だった。あの日を抱えて俯いたままで生きてきたんだ。


「大好き」

そう囁いて、星に抱き上げられる。
ほら、今からでも絶対遅くはないよ。頑張って、大人になろう。

時に任せて大きくなったのは、表面上だけ。だからこそ気付けなかったけど、今なら分かる。


「……愛、して、ね?」

照れ隠しに疑問系。 これ、ちゃぁんとあいしてる、が言えるようになったらきっと今度こそ僕達は立派な大人だね。

うん、って僕を膝に乗せたままで笑う星。


自分 にバイバイ。 僕 に、ようやくこんにちは。





Re: 君と僕と、ピンクとグレー。 ( No.11 )
日時: 2013/08/11 13:46
名前: 冬華 ◆tZ.06F0pSY (ID: 3Sm8JE22)

(星空、25とかくらい。社会人です。)


が、って鍵がささる音。がちょがちょ、じょきんっ、鍵が乱暴に開かれて、ばぁん!……がちゃんっ、ドアが開いて閉まって。

玄関がやたら騒がしい。 まぁ、その主くらいは見なくとも分かるのだけど。

どたどた足音が近づいて、部屋のドアも開いて閉まった。


「星!」

「おー、おかえり、っうわぁ」

エプロンをしたまま振り返ろうとしたら変な角度で体当たり混じりに抱きつかれる。

「ただいまぁっ…!」

「痛いよ空……。」


実に1ヶ月ぶりの再会、ではあるけどこれはひどい。
全く、俺はお前のおもちゃじゃないんだから……。

「ぅー星ー…。 会いたかった会いたかった会いたかったよぉっ」

ずるずると俺に抱きついたままずり落ちていく空。
俺のシャツも一緒に引きずられて、襟元が絞まってるんですが……。

「うん、俺も会いたかったってば、ちょ、くるしっ、」
「……ん、んん〜…っ …お腹、痛いぃ……。」

俺の言葉なんかお構いなしにぎゅうぎゅう俺のシャツを握り締める空。
なんだどうした、どっか故障しちゃったか。
不思議に思って上半身を屈めてその顔を覗き込む。


……泣きそうに眉毛を寄せて奥歯を食いしばった顔。うわぁ、どうしちゃったんだよ空。
いつもの綺麗な乳白色の肌はと言えば、白いなんて騒ぎじゃない色になっている。


「……おいおい、お前大丈夫かお前?」
「、っんんー……」

しんどそうな顔して、床にへたり込む空。少しは強くなったんじゃ、なかったのかよ。

「……そら?どう、…どーしたぁ?」

声がふにゃふにゃと揺れて、我ながら情けない。昔はこんなの、いつもだったじゃないか。
ほら、コイツの母親死んですぐの頃とか。 あぁもう、また余計なことまで思い出しちゃうし。。




「もう後半くらいからずっとだよ…薬飲んでも直んない腹痛がぁ……くそーほんっとに行かなきゃ良かったぁー。もう、恨むぅ…マネージャーのあほぉ、死ねぇ……」

人のベッドでうずくまってぐちぐちぐずぐずとうだる空。


コイツの職業は基本的自由業の芸術家。でっかい絵を描いたり、小さい切り絵してみたり、詩や小説を書いたり。

これが毎回驚くほどの額で買い取られて、小説なんてベストセラー。
普段本を読んだりする素振りは少しも見せないのに、書いたら書いたでベストセラー。

まぁ今回も、画家としての研修会やら自分の展示会回るやらサイン会やら、だったらしい。
美術館だとか、もう実は日本中でひっぱりだこだったりして。まだ若いのに!って、みんなが言う。

まったく、神さまは不公平だ。どんなに俺が必死に絵を描いても値なんか付きっこないのに、空がぼんやりした顔で描いたそれは億単位。

もとから俺は絵なんて描かないけどね。


あぁ、俺ってほんとだめだなぁ。ずるい、とか思って。





「んん……っ」

ちいさな声を漏らして俺の肩に額をすりつける空。
たかが1ヶ月でこんなになって、コイツこの先どうする気なんだ?

空の涙か、はたまた鼻水か、俺の肩はぐちゃぐちゃに濡れている。

「星ぃ、星……。」

虚ろになったミルクティー色の瞳。
淡いオレンジのランプが灯るだけの薄暗い部屋。なんだかたまらなくなって、ぎゅうっと空を抱きしめた。


ちくたく、ちくたく、夜の時間はゆっくりしっとりと過ぎてゆく。


「…星ー?」

しばらく、そうして自分のことを抱きしめたまま、静かになってしまった星。

きゅ、と痛んだ腹部に思わず顔をゆがめてしまう。
っ、とその服を握ると星は曖昧な声を漏らして自分ごとベッドに倒れこんだ。

「……星、?」

もしかしてこいつホントに聞こえてない?
ちょっと可笑しくて小さく笑うと、星が薄く目を開いた。

「そら、」

「なーに?」

「んー…んん…」

小さな声。 ちょっと掠れて、優しい低さの声が好き。
眠そうな瞳。ちろりとのぞいている赤みがかった茶色の瞳が好き。

そんな風に数えだしたらきりがないのに、声にして伝えられるのはほんの少しで。
その少しも、なんか好きって言葉で濁してしまってうまく言えなくて。

不器用でごめんね、そんな気持ちをこめて君のために絵を描くけどそれもいつも空振ってしまって。




眠っているのか寝ているだけか、そこまでは分からないけど星の寝顔。

何故かその顔がものすごく寂しそうだった。
気が抜けているようで変な部分力入っちゃってる、みたいなむずかしい顔。

まるで昔の自分を見ているみたいな苦い気分になって誤魔化すみたいにそのおでこに口付けを落とす。


離れる辛さもたまには、なんて。
そんな嘘を吐いて、僕を安心させようとしたの?


「ばかだなぁ……。」

寂しい時はさびしいって言ってくれた方が安心するし、そう言われたくらいで仕事をほっぽって家に帰るほどもう子供じゃない。

……数年前ならやりかねなかったから寂しいなんて言えないのかもしれないけどさ……。
昔にあった色んなことを思い出して、思わず少し苦笑した。


いつもごめんなさい、心配かけてさびしい想いさせて。

チョコレート色の君。優しくて甘くて、ちょっと意地っ張りな君。

とろけてしまうね、そっと微笑する。





ねぇ、聞こえてるかな??


「愛してる、」



そっと耳元でささやいて。聞こえてなくたって構わない。


離れる辛さもたまには、なんて。そんな嘘、もう二度と吐かせない。






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