BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

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±± 少年たちの恋 ±±【完全オリジナルR‐15】
日時: 2014/02/24 17:53
名前: 希 紀子 (ID: JzVAb9Bh)

 どれほど楽だろう。
 あいつの悲しみや苦しみ、痛みを全て俺が変わってあげることができたら、あいつはどれほど楽になるだろう。
 一人じゃない。そう言ってあげられるのは俺しかいないのに、あいつはいつも強がっている。なんでそんなに……。 
 
 あいつの力になりたい。だから俺はあいつのそばにいたい。———ずっと先まで。


☆☆☆

皆さん初めまして!
新人の希 紀子(nozomi kiko)です。これから頑張りたいと思います。
今までBLは他の掲示板で書いてきたのですが、ここではまだ無くて。アドバイスや注意がありましたら気軽にどうぞ。
駄作、にならないように精一杯キーボードに指を走らせます!どうか温かい目で見守ってください。


作者紹介
名前:希紀子
年齢:15歳
趣味:読書、アニメ鑑賞
特技:暗記
性格:お人好し、シャイ
好きな言葉:清廉潔白
嫌いな教科:社会、数学

皆様に一言:気にいったら応援(コメ)ください。

Re: プラスマイナスゼロ ( No.2 )
日時: 2014/02/22 16:22
名前: 希 紀子 (ID: JzVAb9Bh)

第1章  嫌悪
 第1話  保健室


 足取りが重い———
 廊下を曲がって保険室までの距離が妙に長く感じる。壁に手を添えながら、ふらふらと揺れる体を支える。先ほどから体温も少し上がってる気がする。


 その少年、沢凪 純也(サワナギ ジュンヤ)は頭痛に苦戦していた。


「くっそー、マジ痛いわ」


 授業中に席を立ったものの、付き添いを連れてくるべきだったと後悔している。一人で階段を下り、廊下を歩くのは思うより困難だった。あまりの痛さに視界がぼやけてきた。危機感を覚える。



———うわっ!


 ついには転んでしまう始末。
 立ち上がろうと床に手をついて気付いた———力が入らない。頭を殴られたような感覚に陥り、体を起こす気力がもてないのだ。純也を助ける者など今この時間いない。


 俺、何か病気かも。不治の病だったらどうしよう……。



 しかし実感が持てない。なぜなら彼は中学校3年生の今日まで1日も体調不良で休んだことがないからだ。健康には一番の自信を置いている。それなのに———

 廊下でうつ伏せに倒れる純也。だんだん意識が遠のいてきた。



「はあ、眠い……」



 保険室まであと数十メートル。授業終わりまであと27分。他の生徒からこの状態を見つけられるまで、それだけの時間辛抱しなければならないのかと思うとため息が漏れた。1月、冬のこの時期に廊下で一人。



 
やがて、瞳を閉じ、純也は睡魔に襲われた。







 目が覚めた時にはどういうわけか自分は保健室のベッドの上にいた。記憶が掴めない。誰か運んでくれたのだろうが、気付かなかった。
 頭痛は治まりはしないものの、先ほどよりも和らいでいたのがせめてもの救いだろう。薬でも飲まされたのだろうか。
 とりあえず、起き上がって仕切りのカーテンをスライドさせた。


「あら、起きたの」軽快な声が聞こえた。

「あの、……俺いつ」


「偶然ね、見つけてくれた生徒がいたの。感謝しなくちゃだめよ。
熱は38度あったから、親に今日は早退って伝えといたから」


 熱……言われるまで気づかなかった。確かに体が熱い。早退は嫌だが、仕方ないだろう。
 純也と会話している養護教諭の増野 あかりは生徒から絶大の人気を誇る美人先生だ。胸が大きい分、つい目がそちらに向いてしまう。

 ふと、隣のベッドも仕切りがされていることに気付いた。


「そこで今寝てる子なの」
「え?」

「あなたを見つけてくれた子。廊下からここまで運んできてね」
「一人で、ですか?」

「ええ。引きずって運んできたけど」


「はい!?」


 見てみると自分の制服が埃を帯びていた。ズボン、学ランが汚れている。最悪だ。


「誰ですか ソイツ」
「だからベッドで寝てる子って……ちょっとまさか」


 純也は隣の仕切りを思いっきりスライドさせた。確かにベッドで寝ている奴がいる。しかも男子。毛布を肩までかぶっている。


「てめえ」


 毛布を引っぺがし、男子の胸ぐらをつかみ上げた。本人はまだ寝てるのか気付いてない。一言文句を言わなければ気が済まない。



「やめなさいよ。恩人なんだから」
「普通引きずります?制服もこんな汚しやがって!」


「気をつけないとその子———」


 増野をよそに純也の掴む手に力が入る。
 すると、その男子の体がピクっと動いた。視線を戻すと、目を覚ましたそいつと目があった。やっと起きたか、と怒鳴ろうとした時だ。


「ひゃっ!!!」


 その男子が女々しい悲鳴を上げたのだった。

Re: プラスマイナスゼロ ( No.3 )
日時: 2014/02/22 03:09
名前: 希 紀子 (ID: JzVAb9Bh)

第2話  臆病者


 その男子は純也から逃げるようにベッドの隅に移動した。当然、その大袈裟なリアクションが純也の気をより悪くさせたのは言うまでもない。挙句に、毛布を今度は頭までかぶり、ガクガクと震えている。
 この瞬間、こいつは“嫌な奴”と純也の中で位置付けされた。


「やめなさい、沢凪君。あなたが悪いわ」
「俺は何もしてないですよ、なのに……。こいつまるで人を」


 化け物見たみたいに恐れて、最低だ。
 人は引きずるし、自分を見たら逃げて震えて……。これで悪いのが純也といわれても反論しかない。ひょっとしたら増野はその男子に一目置いてるのか。だとしたら立派な差別だ。余計腹が立つ。


 しかし、純也に怒る体力は無かった。


「痛てて。頭がガンガンする〜」
「騒ぐからよ。今クラスの人がカバン用意してるから、待ってて」

「親は?」
「あ、そういえば……お兄ちゃんが迎えに来るとか」

「—————ッ!?クソ兄貴が!!」
「しぃっ、ここ保健室よ!」

 純也が声を張り上げた時、ベッドのほうで「ひいっ」とまたも女々しい声が聞こえた。きっと怒鳴り声にビビったのだろう。

 それより、純也の兄は高校2年生だが、なぜ兄の香哉(キョウヤ)が迎えを引き受けたのだろう。もちろん学校があるはずだ。まあ、純也にしてみれば考えられる理由は様々なのだが———


「とにかく静かにしてちょうだい」
「す、すいません」


 純也が軽く頭を下げると、増野は「よし」といってデスクに向かった。その背中を見ながら、香哉が来るまでどれほどの時間がかかるか考える。


「あ、あぁあの……」


 それがビビり男子の声と気付くまでに数秒かかった。振り向くと、毛布から窺うようにしてこちらに目を泳がせている。茶色の髪は、その目のあたりに少しかかっていた。

「何だよ」

「ひっ」
「おい!」

「沢凪君、スマイルスマイル」

 増野がなだめるが怒りは収まらない。だいたい、この状況だけ見たら、まるで自分がその男子をいじめているみたいだ。違う。悪いのは、廊下を引きずって運んだあいつだ。


———ああー、むしゃくしゃする!


「ご、ごめんなさい」
「あ?」

「僕、力無い、から。……だから、引きずって、その……。力、無いから。廊下、さむ、いし。……だ、から」

「いや、別にいいけどよ……」


 その男子の喋り方は妙にたどたどしかった。臆病な性格から考えれば普通だろうが、それとは少し違った。まるで自分の言ってることにさえ不信感を抱いてるような、そんな感じだ。さらにまだ肩が震えている。



「———対人恐怖症」

不意に、増野が口を開いた。


「人間関係において、上手にコミュニケーションをとることができない病気よ。おもに思春期でよく見られるわ。彼はその典型、かな」


 対人恐怖症、聞いたことあある。
 だが、実際にその症状の人間を見るのは初めてだった。思い起こせば、男子の反応は最初から不自然そのものだった。純也の顔を見ただけで怯える、自分の言いたいことをうまく伝えられない、それが症状だったのだ。

 はっ、と思った。


「それ、俺に喋ってよかったんすか?」

「うん。君なら大丈夫かな。彼の親にはできるだけ内緒にって言われてるけど」
「それ思いっきりダメじゃないですか」


「沢凪君って正義感強そうだし、信頼できるかな。言いふらしちゃだめよ」
「は、はい」


 言いふらして何にもならないネタだ。おそらく明日には忘れているだろう。
 その時、コンコンとノックの音が聞こえた。増野が返事する。
 扉が開き、立っていたのは香哉だった。


「お迎えに来ました。沢凪 純也の兄です」

相変わらずの飄々としたオーラ、業務的笑顔、透き通る声。
完璧すぎて、純也には気持ち悪いほどだ。女子からの人気は———言うまでもないだろう。それほど見てくれはいい。

「はあい、どうも。お疲れ様です。
職員室に荷物が置かれてると思うので、気をつけて帰ってくださいね」

「弟がお世話になります。では」



 結局、その日純也は嫌々、香哉について帰った。

Re: プラスマイナスゼロ ( No.4 )
日時: 2014/02/22 04:02
名前: 希 紀子 (ID: JzVAb9Bh)

第3話  兄弟愛


 沢凪家の家は普通の、というか一般よりやや大きめの一軒家だ。
 父親は一流企業の人事部長、母親は有名大学の教授という華々しい家庭に生まれた純也は、近頃息苦しさを感じていた。毎日毎日、言われるのは「成績はどうなんだ」「勉強についていけてるのか」ばっかりでうんざりする。ちなみに、結果はよろしくない。
 
 それに比べて兄の香哉は天才だった。何をやっても成功し、何をやってもその分野で右に出る者はいない。親はそんな香哉をひどく愛した。



——————純也は、そんな兄が嫌いだった。


「ストレスや疲労がたまってるんじゃないか、純也」
「るっせー、放っとけ」

 帰りは香哉の自転車に乗って(2人乗り)家についた。親は仕事で、夕飯の時間になっても戻ってこないことが多い。


「電話来た時は驚いたね。あの元気いっぱいな純也が倒れたって聞いて」
「ゴホッ、エホッ」

 
 午後4時。
 家についたときは純也の頭痛は悪化していた。ついには咳や目眩までして体調はかなりヤバい。
 とりあえず、自分の部屋で安静にしておこうとベッドで寝ているのだが、どういうわけか香哉まで部屋に来た。


「うちの友達に親が医者やってる奴がいるから、そこの病院に行こう。
タダで診てもらえるかもしれないよ」


「病院は行きたくない。ゴホッ、ホッ」

「どうしてだよ。薬もらわないと治らないよ?純也」
「薬なんてドラッグストアで———ダメだ。喋りたくない」


 冬の寒い気候にも関わらず寝汗をかいている。熱はさっき計ったところ38度5分あった。しかし、熱くはなく悪寒がする。
 目を開けているのもだるいのに、バカ兄貴と会話するのは無理だった。


「純也」
「う〜、うるさ……い」


 香哉はさっきまで座っていた勉強机の椅子から腰を上げた。
 
 そして体の右側を下に壁を向いて寝ている純也の背後へと回った。ベッドのふちに右膝を乗せ、右手を純也の頭の上あたりの位置に置いた。


 左手で毛布をめくり、上半身が出るようにする。
 


 また左手を純也の上着の下から滑りこませ——————


「くっ、ハァ…バカあに、き」

「感じてるの?かわいいね、こうしたら温まるんじゃないかな」


 胸の突起を指先でこねるようにいじる。
 人差し指と親指でつまみ、手の平を使って軽く刺激する。

「はぁっ、……っん」
「声、出しなよ」

「バカ、兄貴が。……死ね」
「嫌だよ〜、そんなこと言う奴は———」


 香哉は手の動きを止めた。そして純也の左耳を甘噛みする。


「やめっ———、」
「本当にかわいいな、純也は。けど熱もあることだし、今日はこの辺にしておくよ。何かあったら呼んでね」



 そう言って、香哉は部屋を出た。 
 残されたのは、はだけた服とヤラれた感触。香哉はいつからか自分の体を求めるようになってきた。



———あの野郎、いつか殺してやる。



 『ブラザー・コンプレックス』
 俗に言う過度の兄弟依存だ。自分は嫌いなのに、香哉は好きだと近づいてくる。彼には立派な彼女もいるというのに。
 親はこの実情を知らない。それをいいことにやっているのだから当然と言えばそうなる。


「風邪、早く治らないかな」


 一人っきりの暖房のきいた部屋で、純也は一筋の涙を流していた。


「クソ兄貴」

 






Re: プラスマイナスゼロ ( No.5 )
日時: 2014/02/22 13:39
名前: 希 紀子 (ID: JzVAb9Bh)

第4話  幼馴染


 次の日、純也の熱はあっさりと下がっていた。
 兄や両親は(一応)心配してくれたが、受験生なため登校せざるを得ない。というか、皆勤賞を狙っている。


 クラスに入ると、一番に声をかけてきてくれた人物がいた。

「おはよ。大丈夫だったか?」
「ああ、熱下がったし、頭痛も……大丈夫、多分」

 曖昧な返しだったが、彼は「そう」と言って微笑んだ。純粋で幼げな笑顔。自分より少し背が低いが、顔は悪くない。いや、むしろ良い。小顔で、細い目にやや高い鼻。ジャニーズ系の顔立ちだ。髪は茶髪で短めだ。

 彼の名前は白石 翔太(シライシ ショウタ)。小学生からの純也との付き合いだ。
 こうしていつも自分のことを気にかけてくれている。大の仲良しだ。


「お兄さん来たんだって?」
「来たよ、クソ兄貴。親が仕事で迎え来れないからって、はぁ…」

「元気だしなよ」

「うっせー。兄貴の話は———」
「ごめんごめん、もうしないよ。純也、嫌いだもんね。お兄さんのこと」


 相談や悩みごとは、いつも翔太に付き合ってもらっている。
 気性が荒く、バカな純也と一緒にいる友達は多くはないが、中でも翔太は心を開ける存在だ。とても頼りになる。
 そう言えば———


「昨日、保健室に変な奴いた」
「変な奴?」


 触るだけで震えて、声聞いただけで震えて、逃げて。臆病な性格。


「対人恐怖症って言ってたな」

 しまった、思わず漏れた。増野に言いふらさないように言われたのだが。


「悪い、今の俺が言ったって……」
「分かった、内緒にする。それで?」


「何かすげえ怯えててさ……。
それより、俺が廊下で倒れてたら引きずって保健室まで運んだんだぜ!」

「ハハハ、面白いじゃん」


「ガツンと文句言おうとしたらいきなり悲鳴上げて」
「女子?」
「男子だった」
「名前は?」

 訊き忘れていた。
 保健室にいたということは、体調でも崩したのだろうか。今度会ったら名前を訊いておこう。まだ感謝の言葉も伝えてない。引きずられたのは許せないが、一応というか、とりあえず。


「もしかして、保健室登校の人かな」

「は?何それ」

「授業には出たくないけど、出席はしないといけないじゃん。
そんな人は、保健室まで行けば、出席したことになるんだ。だからそこで」

「出席日数かせぐために、か。でも、そうとは言い切れないだろ」


「対人恐怖症なんでしょ、その子。だったら不登校になってもおかしくないじゃん」
「なるほど」


 確かに、あの性格で日常を難なく過ごすのは無理だろう。
 保健室登校———ということは、いつでも会えるのだろうか。いつでもはさすがに無理として、早いうちに礼を言っておきたい。


「ねえ、純也。今日いい?」
「え、」


 こちらを見つめる翔太の瞳。
 それに目がってしまえば、なぜか胸が痛い。耳が熱くなるのを感じる。

 そうじゃない。決して翔太はそんな意味で言ったんじゃない。勉強ができない自分のために、家庭教師を買って出てくれているのだ。


 変な気を起こしているのは——————自分だけ。




「いいよ。学校終わってすぐでいいか」
「もちろん」




 沢凪 純也は、幼馴染に恋をしていた。




 
 

 

Re: プラスマイナスゼロ ( No.6 )
日時: 2014/02/22 17:01
名前: 希 紀子 (ID: JzVAb9Bh)

第5話  平常心


 初めて自分の感情に気付いたのは、小学6年生のころだった。
 家の近くに住む幼馴染———白石 翔太に惚れている。受け入れようのない事実を、純也は内に秘めていた。誰にも本当のことを話したことはない。


「だから、この現象を……で、実験の時に見られる反応が……」

「え、ごめん。もっとそこ詳しく」
「いいよ。あのね……」


 純也の部屋で二人は机に向きあい、理科の宿題をしていた。
 受験まであと2カ月はあるが、クラスの同級生ですでに昼休みを使って勉強してる者がいる。そろそろ、気を引き締める時だ。


「ありがと。翔太はやっぱ天才だわ」
「そんなことないよ、ただテストでいい点取れるだけ」

「またまた〜。で、高校、決めた?」

「うん。央友学園(おうともがくえん)にしようかなって。私立の」

「うっそ、マジ!?」


 偏差値は上の上。県内でもトップレベルの私立に———
 入学して卒業したら、それだけで名誉が与えられる。大学進学にはかなり強いと聞いた。


 そして、央友学園は、香哉が通っている高校でもあった。


「すげえな、翔太。じゃあ高校に入ったら離れ離れか……」

「そうなるね。でも、純也の家近いし、たまに遊び行ってもいい?」
「おう、いつでも来い」


「純也は、松戸北(まつときた)高校だよね。県立だけど、頑張って」

「あ、……うん」


「どうかした?」



 また綺麗な瞳で自分の顔をのぞく翔太。
 計算なのか天然なのか分からないが、いつもこの動作に胸が苦しくなる。


———今すぐ、こいつを……。



 自分は汚い人間だ。
 兄からの影響があったかどうかは分からないが、そこらの女子より翔太を強く意識してしまう。男に興味があるのかといわれたら、はっきりと否定できる自信が無い。


 翔太が好きだ。


 けど、この気持ちを伝えたら間違いなく自分は嫌われるだろう。
 

 もう二度と、勉強も教えてもらえないし、翔太の笑顔を見ることもできなくなる。
 それは、そんなのは絶対に嫌だ。



「また具合悪くなったのか?」

「いや、兄貴は頭のイイとこ行ってんのに俺はさ……。
親からもダメな子って言われてて。何か、辛くなるんだよ、そういうの」


「大丈夫。純也はダメなんかじゃないって」


 また目を細めて微笑みを見せる。
 一体自分は何回、この笑顔に救われたことだろう。こいつの純粋な気持ちが、今の純也の支えになっている。


「ありがと」
「うん」

 その時、純也の部屋のドアが開いた。





「なあんだ、白石君も一緒か」

 いつ帰って来たのかは気付かなかったが、ドアを開けたのは香哉だった。あの気持ち悪い笑みは、翔太とは比べ物にならない。


「何か用か」

純也は、突き放すように問うた。

「今、俺の部屋彼女いるから静かにしてよ。
あと、いつも弟が世話になってるね、白石君。ゆっくりしていきなよ」

「はい、どうも」


 それだけ告げると、香哉は「またね」とドアを閉めた。
 さすが顔が良い分、こういう展開に持っていくのがうまいと思った。性格が悪いのは別として。


「気持ち悪いだろ?」

「フフっ、それは純也が思ってるだけかもよ。やさしそうな人じゃん」
「どこがかね〜」


 しばらくして勉強を終わらせた。
 今日はみっちり3時間だったため、時刻は8時を過ぎていた。親はいつも通りまだ帰ってきてない。

「飯食っていく?」
「いいよ、お兄さん彼女連れてきてることだし」


「遠慮すんなって」
「……から、」

「ん?何」


「いいや、別に。うちの親が心配すると思うし」
「そっか。じゃあな」


 純也と別れた翔太は、沢凪家の玄関を出た。
 路地に入り、勉強部屋のほうを振りかえると、窓のそばに純也が立っているのが分かる。見送りをしてくれる心やさしい友達だ。


———これ以上いたら、平常心じゃいられい、から。


 純也に対する想い。
 翔太は、寒い風が吹くその道を、一人で歩いて帰った。






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