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【カゲプロ】「爽快ワンダー」 ——セト
日時: 2015/02/28 23:47
名前: 鮫 (ID: ont4q9aA)

伝説のメドゥーサ、薊の能力「目を盗む」。

他者の思考を読み取り、盗んでしまう能力は、幼少期から人の顔色を窺って生きてきた瀬戸幸助には、実に最適な能力と言えた。

孤児院においてそんな彼は、同様に能力者である木戸つぼみや鹿野修哉と打ち解けたが、しかし他人の思考を、心を読み取ってしまう。彼は人に対して距離を置き恐怖を感じるようになった。

そんな鬱とした幼少期から幾星霜、彼は能力を制御できるようになり、「目を盗む」は誰に対しても無害な能力になった。

しかし。

盗むだけならば、だが。


「爽快ワンダー」



瀬戸幸助、通称セトは、その日の午後六時から入っていた交通整理のバイトを終えメカクシ団アジトに帰る道中、うっかりバイクと正面衝突してしまった。
普通に考えてうっかりで済む出来事ではないのだが、向こうも走り始めであまりスピードが出ていなかったので、幸い掠り傷程度で済んだのだ。
本当に大丈夫なのかと言い募る運転手に爽やかに対応し、彼はアジトへの道程を急ぐ。
因みに現在時刻は午後十一時。
恐らく誰も起きていないだろうが、一刻も早く身体に溜まった疲労を消化するため、彼は107の扉を目指し、アスファルトを踏み鳴らしながら夜道を急いだ。

Re: 【カゲプロ】「爽快ワンダー」 ——セト ( No.1 )
日時: 2015/03/01 15:33
名前: 鮫 (ID: ont4q9aA)

107と記されたアジトの扉を開けると、何か黒いものが吹っ飛んできた。
避け損ねて顔面に喰らい、それともどもひっくり返る。
咄嗟に受身を取ったので頭は打たなかったが、未だにのし掛かっている何かのせいで前が見えない。
痺れる腰を動かして起き上がると、それはべしゃりと太腿の上に落ち、ぐえ、とくぐもった悲鳴を漏らした。

カノだった。

「うわ」
「うわって何さ! こっちはもう大変だったんだよ!?」
「とりあえず暑苦しいから降りて欲しいっす」

足の上で喚く猫目を蹴り落とし、立ち上がって掌の砂をはたきながら扉の方を見やる。
のっそりと暗雲を背負って現れたのは、我らが団長キド様だ。
カノが普段着の黒いパーカーを着ているのに対しこちらは寝間着。そして般若のように殺意を滲ませた顔に、奇妙な黒い線が数本走っている。
セトはカノを振り返り、爽やかな笑顔で言った。

「カノ、謝れっす」
「え、僕が悪いこと確定?」
「キドの寝顔に落書きしようとしてばれたんじゃないんすか?」
「すいません僕がやりました」

態度を変えて平謝りするカノをその場に転がし、セトは髪を逆立てているキドの背中を軽く叩く。

「キドも落ち着くっす。夜中に暴れたら近所迷惑っすよ。それよりも顔を洗ってきた方が良いっす」
「……わかった」

少しだけ殺気を収め、キドが洗面所に向かう。セトはそれを見届けてから、背後のカノに向き直った。

「それで、カノ。熱は測ったんすか」
「え」
「風邪っすよね。欺いても無駄っすよ」
「……」

一見いつも通りのへらへらした笑顔にしか見えないが、セトにはわかる。

——これは、欺いて調子が悪いのを隠してる顔っす。

「ほら、部屋まで送るっす。後で水と薬も持ってくっすから。熱測って、明日は一日中寝てるんすよ」
「……もしかして、盗んだ?」
「盗まなくてもそれぐらいわかるっすよ」

バカノ、と悪態を吐けば、カノは観念したように能力を解いた。
平然としていた顔が熱で紅潮し、身体がぐらりと前に傾く。
腕を伸ばして細い身体を支えれば、やはり熱く、脱力しているように感じる。そのままよいしょと抱え上げると、軽そうに持ちやがって、と文句が零れた。

「脱力してるからいつもよりは重いっすよ」
「そういう問題じゃない……」
「こっそり薬を取りにキドの部屋に入り込んで、起きそうだったから慌てて顔に落書きしに来た振りをして投げられるとか、馬鹿っすか」
「……君には敵わないよ、本当」
「そりゃ弟っすからね」

なにそれ、と、彼にしては珍しく力無く笑う。
カノはベッドに入った途端、眠ってしまった。

※※※※※

水と薬を取りに行く途中で洗面所に寄り、キドにカノのことを伝えた。
翡翠色の前髪から水滴を滴らせる彼女は、そうか、と頷いて、あっさり体温計と薬の位置を教えてくれた。

「気付いてたんすか」
「薄々な。こいつはまた大事なことを欺きやがってと思ったよ。お前のように確証がなかったから言わなかったが」

成程、彼女が苛烈に怒っていたのも頷ける。不調を欺いていたことにも、彼女は怒りを感じていたのだ。
寧ろ、そっちの方が大きいだろう。
自分にとっても彼女にとっても、カノは大切な兄なのだから。

「ちゃんと心配してやれば良かったかな」
「あはは。カノにとっては、キドの鉄拳が何よりも薬っすからね。欺くとどうなるか、身に染みてわかったんじゃないすか?」
「……それはある意味気持ち悪いが」

口の端を引きつらせたキドに、冗談っすと笑いかけると、華麗な裏拳を頂いてしまった。

カノの部屋に水と薬、体温計を運び、濡らした手拭いを額に置いたところで、意識が途切れた。





Re: 【カゲプロ】「爽快ワンダー」 ——セト ( No.2 )
日時: 2015/03/01 17:49
名前: クレープ (ID: ZUyffco7)

こんにちは!クレープです!!
とっても小説面白いです!!
はいってもいいですか??
はいってもよろしかったら,名前の読み方教えてください。。。

Re: 【カゲプロ】「爽快ワンダー」 ——セト ( No.3 )
日時: 2015/03/01 22:27
名前: 鮫 (ID: ont4q9aA)

クレープさん、返信ありがとうございます。

「鮫」と書いて「さめ」と読みます(名前ってこっちの名前ですよね? 違ってたらごめんなさい)。

初心者なもので色々と至らぬ点があるでしょうが、面白いと言って頂けて光栄です。長くなる予定ですが、最後まで指摘やご感想を頂ければ嬉しい限りです。

最初に書き忘れましたが、この話には蛇の能力、及び登場人物に取り憑いた蛇の設定の捏造を含みます。そのような内容を不快に思われる方は読まないことをお勧めします。

また、題名でもわかる通り、これはセトの生い立ち、能力、思考に焦点を合わせて作られた物語です。一部流血表現を含むことが予想されますので、ご了承ください。

長々と失礼しました。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

Re: 【カゲプロ】「爽快ワンダー」 ——セト ( No.4 )
日時: 2015/03/02 00:56
名前: 鮫 (ID: ont4q9aA)

水の音がする。
何処かで水が、川が流れている。

ざり、と砂を踏んで、川岸に降りる。
大きな川だ。流れはそれほど速くないが、浅瀬から先は底が見えないほど暗く、深い。真っ黒な水底に沈んだら、二度と上がれないだろう。
川岸には、白い砂と河石が敷き詰められている。所々瓶の破片のような物も見え、転んだら痛そうだ。

夜なのか、辺りは暗い。
しかし真っ暗と言うわけでもなく、川岸だけがぼんやりと明るく見える。

ふと、川岸の更に奥、水際の辺りに、白いものが見えた。
目を凝らしてみると、どうやら川岸を照らす光は、その白いものから発せられているようだとわかった。
ゆっくりと白いそれに——水際に近付く。

——……子供?

ただ白く見えていただけのそれは、生き物であるらしかった。
白い服を着た子供が、水際に群生する背の低い植物の間に座り込んでいる。

何でこんな時間に、こんなところに子供が、とざわめく心を落ち着かせ、着実に歩み寄る。
ざり、ざり、ざり、ざり。
子供の背後で一メートルほど距離を開けて、立ち止まる。

潺々と流れる水際には、白いパーカーのフードを被った少年が踞っていた。

その体勢のまま小さな頭が振り返り、無表情な白い顔と、真っ赤な目がこちらを向く。

鮮烈な赤に、脳を貫かれたように感じて——

気付けば、仰向けになって黒い水に落ちていた。
耳元でごぼごぼと鳴り響く気泡の音が、やけに煩い。
黒の向こうでは黒を背負って、白と赤がこちらを見つめていた。
まるで、向こう側も水の中であるかのように。

——君は……

ゆらゆらと歪む輪郭に向かって話しかけようと口を開いて——

え?
あれ?

息が。
息ができない——

絶叫しそうになって、口を開けばまた空気が逃げた。
前後不覚に陥って狂ったように四肢を暴れさせるが、水の重さで鈍くなった両手足は、冷たい液体を掻き回すだけだった。
息ができない。息ができない。息ができない。
水の中は、息ができない。

息ができなければ、死んでしまう。

何かの機会で習ったはずの着衣水泳や溺れたときの対処の仕方などは、すべて吹き飛んだ。
『溺れたときは、落ち着いて手足を投げ出し、肺に息を溜めましょう』
落ち着いていられるわけがない。
だって、水の中は、息ができない。
水。
息ができないもの。
自分達は今まで、こんな怖いものを毎日飲んでいたのか……!?

——し…

死ぬ——

※※※※※

「……セト?」
「っ!?」

唐突に、目が覚めた。
先程までの黒い風景は跡形もなく、朝の白い光が部屋の中を暖かく包んでいる。
そこで、あれと首を傾げる。
自分の部屋ではない。しかし、見覚えがないわけではない。
見回すと、柔らかい茶色の猫目と目が合った。
それで合点がいく。此処はカノの部屋だ。
昨晩風邪を引いていたカノを自室に送り、看病しようと道具を持って枕元に座ったところで、眠ってしまったのだ。
それに気付いて、慌ててきょとんとしているカノに向き直る。

「おはようっす。調子はどうっすか、カノ」
「ああ、うん、おはよう……昨日よりは良くなった、かな?」
「それは良かったっす。薬は飲んだっすか?」
「いや、まだ……今起きたとこなんだよ。目が覚めたら君がいて、凄くびっくりした」
「昨日うっかり寝ちゃったんすよ。辛うじて頭は冷やしたはずっすけど」
「あ、これか。冷たくて気持ち良かったよ。ありがと」

カノはそう言って、温くなった手拭いを渡してきた。
手拭いを受け取るのとは反対の手で彼の額に触れると、昨日抱えたときのようなじっとりとした熱はないように思える。
元々彼は睡眠不足の傾向があるので、ぐっすりと眠って体力が回復したのかもしれない。
現在時刻は午前七時三十六分。
キドはもう起きている時間だろう。

「食欲はどうっすか?」
「んー……お腹は空いてるけどそんなに食べられないかも」
「じゃあお粥でも貰ってくるっす」

カノに体温計と水の入ったペットボトルを渡し、熱を測り水分を摂っておくよう伝える。薬を飲むにしても恐らく食後でなければ胃が荒れると思うので、何か食べさせるべきだろう。

「体温、誤魔化しちゃ駄目っすよ」
「わーかってるってー」

いってらっしゃーい、とひらひら手を振るカノを残し、廊下に出る。
今日はバイトが午後からなので、無理しがちな兄を看病するのも、偶には良いかもしれない。









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