BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
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- 蝶よ花よ【刀剣乱舞】
- 日時: 2016/06/25 04:16
- 名前: 緋雪 (ID: ejGyAO8t)
諸事情により移転しました。
はじめまして緋雪と申します。
普段は別版で別のHNで活動しております
今回、新たに二次物への執筆のため心機一転いたしたしだいです
こちらは刀剣乱舞、二次創作短編集です
CPやにょたなどなかなかに地雷もののネタを扱うため
閲覧は自己責任でお願いいたします
刀剣男士の口調が違ったり、なんかチガウ(´・ω・`)という違和感は
海のような寛大な心でどうかお許しください
リクエストも受け付けておりますが、
作者の都合上(文才のなさとか!)亀よりも遅い執筆になりますことを
ご了承の上でお願いいたします
コメントも随時お待ちしております
〜ただいま取扱中作品〜
・熱誠の瞳【大倶利伽羅×燭台切光忠♀】
女体化要素うすめです。
みっちゃんside
くりちゃんの出番が少ないので、
別sideで、そのうち書こうかななんて、思ったり思わなかったり
・沫雪と華【鶴丸国永×一期一振】
思わせ振りな終わり方です。
これはそのうち続編を書きたいです
いちにいside
・あやし、かひなし、あな いとし【大倶利伽羅×燭台切光忠♀】
「熱誠の瞳」のくりちゃんsideです
ほとんどがくりちゃんの回想、糖度は低そうでいて
コップの底のほうに直球でガムシロ三杯分くらいの甘さがあります
甘々が苦手な方は御注意を…
・みをつくし【へし切り長谷部×燭台切光忠】
(バレンタイン企画)長谷部がチョコレート作りに励みます。
手伝いを頼まれたは本丸一の女子力を誇る光忠、
さて…実るのは長谷部の恋【長谷部×審神者】か、みっちゃんの恋【長谷部×光忠】か…?
光忠side。後日、審神者おちを「bitter chocolate」。光忠おちを「sweet chocolate」としてうp予定
・花水木と加加阿の香『bitter』1・2
【へし切り長谷部×審神者】
バレンタインデー企画、bitter chocolateです。
さっそく1日遅刻いたしました…
そしてsweet verが一文字も書き進められていない…(絶望)
内容だけとればけしてbitterではございません。
初の審神者おちでしたが、
こんなもので良いのかと…胃痛が加速するばかりでございます。
実はうpする直前まで「本命だと言ったら(以下略)」の台詞を
審神者ちゃんに言わせるか、長谷部に言って頂くか悩んでおりました…
…なので、審神者ちゃんverもあるのですが…あれが陽の目をみることはたぶんないでしょう(笑)
では、作者の心が折れなければsweet verもじきうpします
《お詫び。》
長らく留守にしてしまいました。
sweet verが書けなかったから居留守をしていたわけではないのです(震え声)
ただし、舌の根も乾かぬうちに申し上げますが、
残念(?)なことに作者の心が近頃へし折れているため、どうやらsweet verが書き上げられない模様です。
代わりというほどのことはありませんが、できる得る限りはやく次作品をうpできるように尽力致します。 2016.4.23
・皎月色澤【三日月宗近×山姥切国広】
初のside入れ替わりです。
微シリアス、そしてまた思わせぶりな終わり方でございます。
まんばちゃんがなんだか気になる宗近おじいちゃんと、
おじいちゃんにそばにいてほしいと思うまんばちゃんです
《お知らせ》
ただいま、長期執筆停止中です
- あやし、かいなし、あな いとし ( No.3 )
- 日時: 2016/06/19 19:59
- 名前: 緋雪 (ID: 1.72.7.1)
光忠を最初はお節介な奴だと思った
ことある事に、俺に構ってくる
「今晩、食べたいものはないかい?」
「好きな食べ物は?」
「ずんだ餅、食べないかい?」
ただ、あいつの作るずんだ餅は懐かしい味がして
はじめて食べた時に泣きそうになったのを、いまでも覚えている
ある時、あいつが作った料理を「うまい」と言ったら
あいつは「僕の料理をくりちゃんが、こんな風に美味しいって
ずっと笑っていてくれたらいいな…」そう言って微笑んでいた
思えばその時からだろうか
光忠に傍にいてほしい
光忠に笑っていてほしい
光忠を、守りたい
ただ、その願いは叶わなかった
ある日、なんの前触れもなく
光忠が「明日、江戸に行くんだ…」
と言った
返す言葉が見つからなかった
俺は「そうか」としか言えなかった
あの時の光忠の泣きそうな顔が頭から離れない
それからしばらくして
江戸で大きな天災があり
その後の火事で
光忠が、焼けたと聞いた
不運にもその時になってはじめて、
前の主から光忠が女であったことを聞かされた
なぜ、俺に打ち明けてくれなかった…?
なぜ、俺は気づけなかった…?
答えは出ないまま
「明日、江戸に行くんだ…」あの時の光忠が
俺の脳裏には焼き付いていた
・ー・ー・ー・ー・ー・ー
まさか、再び現世に呼び出されるなんて思いもしなかった
今度は歴史を守るために審神者の元で戦うのだと言う
本丸の刀剣たちが集められて軽く紹介される
語るほどの事など無銘の俺にはない
幾つか見知った顔も見える
本丸の雰囲気も良さそうだ、そんな事をぼんやりと思っていると
懐かしい、気配が近付いている気がした
「くりちゃん…!」
肩を上下に動かし
駆け込んできたのは
光忠だった。
なぜ、俺に打ち明けてくれなかった…?
なぜ、俺は気づけなかった…?
再びあの問いが呪いの言葉のように響く
聞きたい、聞き出したい
口を開きかけて、はっとする
目の前にいる、光忠は幸せそうに笑っているではないか
再び。思い出させるのか…?
それが、もし
光忠にとって悪夢のような記憶だとしたら…?
聞けない、聞いてはいけない
「光忠…」
俺はまた、何も言えずに目を逸らした
・ー・ー・ー・ー・ー・ー
厨で光忠が料理をするのをぼんやりとながめる
まじまじと後ろ姿を見つめれば、確かに
白く細い首筋から落ちる肩は華奢で
器用に調理をする指先はしなやかで美しい
動き回る度に微かに揺れる藍を透かしたような黒髪からは、心なしか色香さえ感じる
俺は、何を考えているんだ。
俯きやや自嘲を込めて笑う
頬が熱いのは、たぶん気のせいだ
そういえば、伊達家にいるときも光忠が料理をするのをながめているのが好きだった
俺には料理はよくわからないが、
段取り通り順を追って、物事を片付けられるのを見るのは好ましい
…なんて平穏な時だ
いいのかも、しれない
この穏やかな本丸で光忠と過ごすのも悪くない
あとで光忠にずんだ餅を頼もう、
そう思って立ち去ろうとした時
ーガシャーン
けたたましい音に振り返れば
光忠の苦しみに歪む顔。
・ー・ー・ー・ー・
?「…りちゃん、…くりちゃん!!」
大倶利伽羅「う…ん?」
光忠「なんで、勝手に僕の部屋に入って居眠りしてるの…!?」
光忠…ぷう、と頬を膨らませて怒ってみたって可愛いだけだぞ。
反則だ。
結局、光忠の厨での怪我は軽度の火傷で大事には至らなかった
大倶利伽羅「急に光忠に会いたくなってな…」
そう言って抱きすくめるとずんだの薫りがかすかに立ち上る
愛しさと懐かしさと、少しの切なさ。
俺にはやっぱり言葉に出来なくて、思わず光忠の首に顔を埋める
光忠が恥ずかしそうに体を捩ると
互いに髪がサラサラとかすれる
光忠の傍にいる
光忠を笑わせる
光忠を、守る
それらはもう願いではなく、決意
光忠「好きだよ、くりちゃん…」
大倶利伽羅「俺は、愛してる」
- みをつくし ( No.4 )
- 日時: 2016/06/19 20:02
- 名前: 緋雪 (ID: 1.72.7.1)
光忠「ちょこれいと…?」
長谷部「ああ。ばれんたいんでい、と呼ばれている日に
愛する人に渡す物らしいのだが…」
'愛する人'
長谷部くんが顔色ひとつ変えずに口にしたその言葉に
心の臓を掴まれるような気がした
光忠「そ、それで…?」
長谷部「日頃の感謝を込めて、主に贈りたいと思ったのだが…
正直、料理の勝手がよくわからん」
光忠「ぼくが、手伝よっ!!」
食い入るように言ってしまってからしまった、と思う。
好きな人が、好きな人にあげる物を一緒に作るなんてできる訳がない…けど
長谷部くんが言いづらそうに俯いた時、耳が微かに赤くそまっていて…
好きな人の、そんな表情をみたら…
手伝ってあげたい。そう思ってしまったんだ
・ー・ー・ー・ー・ー・
光忠「えーっと、まず
カカオマス、カカオバター、粉砂糖、粉ミルクを加え
よくすりつぶします。だって」
長谷部「…こんな感じか?」
光忠「強い、つよい!もっと優しく!!
じゃあ、次。なめらかになってきたらザルなどで濾します。」
そろりそろりとザルにちょこれいとを流し入れる長谷部くんは真剣そのもので…
誰に作るものであれ、今この瞬間に、この表情を見ているのは
僕だけなんだ
普段は主命を的確にこなしている長谷部くんが、こんな顔をするなんて
きっと、誰も知らないんだ
長谷部「…で、次はなんだ?」
光忠「あ、ああ…えっと。湯煎しながらゆっくり練るみたいだよ」
眉間に浅くしわを刻みながら一生懸命に練ってるけど…
光忠「強すぎるよ、長谷部くん!
湯煎のお湯が入ると無様になっちゃうらしいからね……ほら、貸して!」
そう言って木箆を受け取りゆっくりと練っていく
手元からは、なんとも言えない甘い香りがして
…急に、切なくなった
光忠「………」
長谷部「光忠…」
不意に名前を呼ばれて
振り向くと
予想より近くに長谷部くんの顔があって驚く
目が合うのはきっと、僕よりも背が低いはずの長谷部くんが
少しだけ背伸びをしているから
そうして、目を逸らすことのないまま長谷部くんが僕の手に触れた
光忠「は、ははは長谷部くん!?」
長谷部「俺が作らなくては意味がないだろう…」
呆れ顔の彼をみてようやく理解した
要するに、僕が作ってしまっては意味がないってこと、なんだよ、ね…
続けろと言わんばかりの長谷部くんに促されながら
ゆっくりと木箆を動かしていく
背中にわずかに感じる体温がくすぐったい
うるさいくらいに聞こえる自分の心臓の音が、
長谷部くんにまで聞こえてしまうのではないかと不安、
ただ、さっきまで冷えきっていた胸が温かいのは何故だろう…?
- 花水木と加加阿の香 ( No.5 )
- 日時: 2016/06/19 20:05
- 名前: 緋雪 (ID: 1.72.7.1)
いつからであったか、主を心から慕うようになったのは…
始めは心配だった、
今までの主というのは信長様を筆頭に、
自分の意見を押し進める種類の人間
主が悪人だと言えば
僧侶であろうと、村人であろうと、敵方の女、子供であろうと
皆一様に悪となり。
部下にきな臭い動きがあれば釈明のいとまも与えずに腹を切らせる。
主が黒だと言えば、たとえそれがどんなに眩しい白であろうと黒なのだ
主命とあらば
情けなど、捨てた。倫理観や道徳心それに準ずるものも、捨てた。
自らへの怠慢を戒め、油断や隙を作らぬように努めた
そうして主命を、主の命だけを全うした
それなのに。
俺は、すてられた
主命すら無くしてしまった俺はからっぽで眠り続けた
・ー・ー・ー・ー・ー・
この本丸にやって来た時、まず明るい雰囲気に驚いた
そして、新たな主にも…
審神者「長谷部さん、長谷部さん!」
長谷部「何度も申しておりますが'さん'付けは無用です、
長谷部と御呼びください
そして廊下はくれぐれも走らない、主に怪我をされては困ります
…で、何かお困りごとですか?御随意にどうぞ」
まだあどけなさの残るような少女で(と言えど成人はしているそうだが)
刀たちの一挙一動にくるくると表情を変える
目が、離せない
審神者「う…すみません。明日、鶴丸さんが本丸に来て一年だから…
お祝いのために鶴丸さんの好みをリサーチしようと思って…
あ、あと…さん付けはやめられない、です…」
そんな、頭に耳がついていたら垂れるかのように落ち込まれると、
こちらとしても複雑なのだが…
長谷部「刀ごときのお祝いなんて、随分とまた変わった事をなさいますね…
ああ、でも…鶴丸なら奇想天外を好むのでは…?」
言った途端に瞳を輝かせて激しくうなずく主の頭に
思わず手をのせてなでてみる…
審神者「ですよね!、やっぱり鶴丸さんと言えば驚きですもんね…
頑張って考えてみます!」
そう言ってぺこりとお辞儀をすると足早に立ち去っていく
後に残されたのは中途半端に手を上げた、立ちすくむ刀一振り…
・ー・ー・ー・ー・ー・
2月14日
俺は主の部屋の前で'ちょこれいと'なるものを持ち佇んでいた
無論、贈るためなのだが…
事の経緯をさかのぼること5日ほど前…
・ー・ー・ー
唐突に乱藤四郎が部屋にやって来て開口一番
乱「長谷部さんってさあ…
主さんのこと、好きなんだよねー?」
長谷部「………は?」
乱「だって、主さんにだけ優しい気がするもん…
べつに否定してくれてもいいんだけど…ね?」
長谷部「っ何を言って…寝言は寝てからい…
乱「僕がもらっちゃうよ…?」
長谷部「…え」
乱「なんでも、今度ばれんたいんでいっていうお祭りがあって…
主さんの世間ではちょこれいとっていうのを好きな人に渡すんだって」
・ー・ー・ー
- 花水木と加加阿 ( No.6 )
- 日時: 2016/06/19 20:09
- 名前: 緋雪 (ID: 1.72.7.1)
・ー・ー・ー
それから、そのばれんたいんでいとやらを血眼で調べ、
手を尽くしてちょこれいとを作り上げ今に至る…
しかし、冷静になってみると刀と言えど男が
夜な夜な女性の部屋を訪ねていいものなのか、否か
そうこうして立ちすくむこと約3分…
審神者「あれ?長谷部さん、どうしたんですか…?」
後ろから声をかけられ背筋に冷たいものが走る
部屋にいないとは、想定外…
言いよどむ俺に主は優しく笑いかけて
審神者「廊下は寒いですし、とりあえず部屋に入ってください」
・ー・ー・ー
審神者「長谷部さんが部屋を訪ねて来てくださるなんて驚きました…
…はい、これ」
西洋風の湯飲みに温かい飲み物(?)を入れ、
こんなものしか出せなくてごめんなさい、と申し訳なさそうに眉をひそめる
長谷部「こちらこそ夜分に申し訳ございません…これは?」
審神者「そんな、気にしないでください!…
…あ、これココアって言うんです。眠れない時はこれに限ります」
勧められ、おそるおそる湯飲みに口をつける
この味は…
長谷部「…ちょこれいと?」
審神者「そうです…!おんなじ原料なんですよ」
言い終えるとなぜか俯き何かを言いよどむ
長谷部「主?…どうなさいました…?」
審神者「い、いや…そのですね……
あ、長谷部さん、何か用事があっていらっしゃったんですよね!」
長谷部「それはそうなのですが…」
しばしの沈黙、
お互いに何か、言い出しづらい事を抱えているのか…
長谷部・審神者「実は…」
ほぼ同じタイミングで言い出して口をつぐむ
長谷部「お先にどうぞ…」
審神者「あ、あの…実は、これ…長谷部さんに渡そうと思って…」
そう言うなり、おずおずと丁寧に包装された小包を差し出す
長谷部「俺に…ですか?」
審神者「実は今日、いつもお世話になってる人にチョコレートを渡す日なんです…」
なるほど、もしやこれは義理ちょこというものではないか…?
複雑ではあるが…嬉しい誤算だ
長谷部「ありがたく頂戴いたします…実は、俺からも…」
ちょこれいとの包みを差し出すと、主は嬉しそうに包装を解いていく
やがて、ちょこれいとまで到達すると子供のように無邪気に顔を綻ばせる
桜の花弁のようなその形は愛を表す形なのだという
審神者「ありがとうございます…!
…ハート型ですね!…えっと、その…義理、ですか?」
長谷部「…え?」
審神者「い、いや…私なんかにチョコレートをくださるなんて、嬉しくて
…そんな気遣いができるなんて長谷部さんらしいな…って」
そうか、俺から貰うと、やはりそうなるのか…
長谷部「…本命だと言ったら、どうしますか…?」
驚いたように顔をあげる主にかまわず距離をつめる
長谷部「実は、もうひとつあるんです…」
そして小さな髪飾りを差し出す
審神者「これは、はなみずき…?」
長谷部「本来は男が愛する女性に、花を贈る日なのだと聞いたので…」
髪飾りをうれしそうに眺める主はやはり、目が離せない
審神者「あ、ありがとうございます…着けても、いいですか?」
もちろん、と俺が手で促すと自らの髪を手に取り髪飾りを着けようとする
しかし、その手つきはおずおずとしていておぼつかず…じれったい
長谷部「…貸してください。」
主の手から有無を言わさず髪飾りを受け取り、髪に触れ
…湯浴みのあとなのだろうか…艶のある黒髪を一束とりとめる
審神者「わあ…ありがとうございます!」
無邪気に笑いかけてくるその顔は花が綻ぶようで…
その耳もとに僅かに口を寄せてみる
長谷部「よくお似合いです…主、はなみずきの花言葉をご存じですか?」
俺の行動にいささか驚いたのか、少し目を見開いてから
「わからないです」と小さく答える顔は、心なしか赤い
赤くなった耳に指をかけて
とびきりの笑顔で微笑みかけ、俺は精一杯の思いの丈を口にした
長谷部「私の想いを、受け止めて」
- 皎月色澤 ( No.7 )
- 日時: 2016/06/19 20:11
- 名前: 緋雪 (ID: 1.72.7.1)
わかっていた。
どんなに手を伸ばしても、届かぬものがあると
ああ、あれはいつだったか…
思えば、遠い昔にも
同じように届かないものがたくさんあった
諦めることを、覚えた
しかし、どうも爺は忘れやすくて困る
心の痛みは消えないのに、また手を伸ばすのだ…
・ー・ー・ー・ー・ー・
じじいというのはくつろぐことを生き甲斐にするいきものだ…
俺とて例外ではなく縁側で、自室で、あるいはお茶間で…
茶をすする事が小さな、日常の幸せとなっている
三日月「雨か…」
ある日、縁側に腰掛けていると中庭からなにやら物音がした
誰かいるのか…?
ひとつ、茶飲み相手でも頼もうかと庭を覗くと、
切国がひとり刀を振るっていた
これは俗にいう、自主練なるものではないか…
真面目なのは良いことだが…
傘もささず、一心不乱に、宙のある一点だけを見つめながら
幾度となく刀を振りおろす
彼が動くたび髪からわずかに雫が飛び散る
なぜ、そんなに一生懸命なのだ?
知りたい、何故かそんな衝動が込み上げた
三日月「真面目なのは良いことだが、身体に障っては元も子もないぞ…?」
突然、声をかけられ驚いたのか
目を見開きこちらを振り返る
切国「そういうあんたこそ、傘をささずに出てきているぞ…
俺は身体を動かしているから平気だ」
三日月「ははは…それもそうだな。どれ切国、ひとつ茶飲み相手にでもならぬか…?」
切国「俺は、いい…」
三日月「この季節の雨を馬鹿にしてはならぬぞ…?
…そなたが体調を崩せば主も心配する」
そうして、渋々ながら刀を鞘に納めた切国を、半ば強引に自室へ引っ張ってきたのだった
・ー・ー・ー
いくつかの手拭いと、温かいお茶を差し出すと
切国はぶっきらぼうに礼を述べて、それらに手をのばした
湯飲みからのぼる白い湯気の向こうに切国の金色の髪が見え隠れする
思わず俺は、その髪に手をのべた
勢いよく顔をあげた切国の翡翠の瞳が
俺をとらえた
・ー・ー・ー・ー・ー・
天下五剣とは、よくわからないものだ
写しの俺には感情を読みきれない
自主練をしていた俺を自室へ引っ張って来て
茶を勧めるなんて
写しの俺なんかと茶を飲んでなにが楽しいのか
熱い茶の水面に息を吹きかける俺の姿をみて
にこにこと微笑んでいる
ふと、三日月が俺の髪に触れた
三日月「切国、そなたはとても清らかだな」
切国「…突然、口を開いたと思ったら何をとぼけているんだ…?
俺はただの写しだぞ」
三日月「とぼけてなどいないぞ…?そうか、綺麗と言えばよいのか…」
切国「綺麗っていうな。」
俺の反応をみてくすくすと優雅に笑う
からかわれていることなんて始めからわかってるぞ。
三日月「よきかな。よきかな…ああ、でも切国、そなたはまこと美しい…」
そう言って白くしなやかな指先で俺の髪を布ごしになでた
美しい…俺が?
この天下五剣は気でも触れてしまったのだろうか
やれやれと反論しようとして口をつぐむ
なんだ、この鬱憤とした心持ちは
髪をなでる指先から伝う温もりが
やけに、あつい…
その時になって、俺ははじめて三日月の目を見た
刹那、息を飲んだ
二の句がつげないとは、このような心境を言うのだろうか…?
美しい。その言葉をもう一度、頭のなかで反芻してみる
美しい、美しい、美しい
もしかして、目の前の'これ'が「美しい」ではないのだろうか
静かな水面のような澄んだ蒼に黄色く浮かぶ、これは…
切国「…月?」
三日月は少し眉を上げた後、
ああ。と微笑むと、ずいとおもむろに顔を近付けた
三日月「そう。三日月だ…もっと近く寄って見るがよい」
切国「…っえ、遠慮する」
頼むから、そんな風に、俺を、揺さぶらないでくれ…
どうせ、この天然な天下五剣は俺のことなどなんとも思っていないのだろう…?
切国「主からの頼まれごとを思い出した。失礼するぞ」
・ー・ー・ー・
勢いよく立ち上がり背を向けた切国は、
そのまま声をかける間もなく部屋を飛び出して行った
三日月「主、か…」
宙に伸べられた自ずの手をおろして切国が残して行った湯飲みをぼんやりとみつめる
切国、そなたは、主への思いだけであの雨の中
ひとり、剣を振るっていたのか…?
真剣な瞳、髪からしたる雫、体に貼りつき泥で黒ずんだ布…
なぜ、少しだけ悲しそうに見える…?
なぜ…?
知りたい。
その気持ちだけが静かに、けれど確実に、俺を行動させた
翌日、
ひょっとしたらまた、切国がいるのではないかと中庭を覗くと
案の定、切国が一人でそこにいた
しかし今日は岩に体を預けるようにして…
…寝ている?
そっと近づき顔をのぞきこむ
その寝顔には少年のようなあどけなさと少しのせつなさがにじむ
まぶしいのか顔をしかめ、時折ちいさく呻く
俺は、切国に陽の光が直接あたらぬように、彼の前にしゃがみこんだ
三日月「そなたは、なぜ…?
…なぜ、そんなに悲しそうな顔をするのだ…?」
ひとりごちた後、
寝顔を見られるのは良い心地ではないだろうと立ち去ろうとした時
切国の手が力なく俺の腕を掴んだ
切国「………れ」
三日月「すまない、切国や…起こしてしまったか?」
切国「おいて、いかないで、くれ」
はっとして切国の顔をのぞきこむが彼の目は閉じられたままだ
三日月「案ずるな…爺はここにいるぞ」
切国の頭をかるくなでたあとゆったりと隣に腰をおろした
放っておけない、この心持ちは
はて、なんであったか…?
・ー・ー・ー・ー・
誰か、説明してくれ…
何故、庭でうたた寝したはずの俺が
天下五剣の膝に頭を預けて寝ているんだ…?
しかもなぜ、この天下五剣は
人を膝の上に乗せておきながら自分も寝ているんだ?
起こさないように、なるべくじっとして三日月の顔に意図せずも見いる
白い肌によく映える、深い空のような色を思わせる髪が風にそよぐたび
ふわりと高貴な香のかおりがあたりに漂う
普段は月を閉じ込めた瞳を美しく縁取る長い睫毛が今はとざされ時折ちいさく震える
美しさとは縁遠い刀の俺でもはっきりとわかる…これが世に言う「美しい」だ
思わずその寝顔に吸いよせられそうになる
そして、この美しい天下五剣に自分が少しでも思慕をよせたことに気づき
罪悪感と絶望にさいなまれる
叶うはずがない、わかっている
主や今の本丸の仲間にさえ、好かれるどころか嫌われないようにと必死の俺が
ひとりの相手に、ましてや天下五剣に思いを通ずることなど…
ただ…でも、せめて…
切国「写しの俺でも飽きられないように努力する、だからそばに、いさせてくれ…」
独り言のつもりでこぼれた言葉に三日月の瞳がゆっくりと開かれる
三日月「爺は懲りない性分でな…俺はここにいるぞ?」
切国「っな…いつから起きて…
三日月「切国が熱い視線で見つめてきたからな…まあ、ざっと10分前ほどか…?」
悪びれもせずにあっけらかんと微笑む、
細められた瞳の月は今日も「美しい」
切国と三日月の思いが通じあうのはもう少しだけ先の話……
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