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- 【BL松】ナポレオン・コンプレックス
- 日時: 2017/07/14 21:37
- 名前: 日暮ヒポクラシー (ID: NTjRWWeg)
保バスに小営、レスカマ、その他色んなものが描きたいのですが、意識の高い彼らというのも面白いかと思いました。
注意!
同軸リバ本命の書く小説です。
地雷の方はお戻りください。
基本の軸は一カラ一(受け攻めは固定していません。)で、あつトド、東おそ、十カノなども入ります。地雷がない!全くない!もしくは自己責任がとれる方のみお進みください。
設定紹介
松野一松 赤塚第二高3 学年25/320位 偏差値78(進研) 囲碁部(ほぼ幽霊)
志望・表向きは東北大工学部だが本当は東大理一
ひねくれの鱗片が見え始めているが、まだねじ切れてはいない。まだ真面目な性格。
松野カラ松 赤塚第二高3 学年300位 偏差値58 バスケ部スタメン
志望・東北大工学部
ナルシクソ松が完全に出来上がっている。が、スポーツが得意でめっぽう優しいため女子には人気の部類。勉強はすればできる子。
松野十四松 赤塚第二高3 学年一位 偏差値89 野球部バッター
志望・東大理三
ブラックボックス。運動神経も成績もおよそ人間のものではない。一松とカラ松を慕い、兄さんと呼ぶ。
松野トド松 赤塚第一卒九州大学教育学部卒
バスケ部の顧問、進路指導担当、一松とカラ松のクラスの担任。新卒採用なのに重たい仕事ばかり任せられている。あざとさも腹黒も健在。あだ名はトッティ。
松野チョロ松 赤塚第二卒東大理一
自意識ライジング先輩。カラ松の一つ上の兄。スペックの高い男に女は憧れるだろうと思い勉強して東大に合格したが、まだ彼女ができない。
松野おそ松 赤塚第一卒早稲田大商学部
一松の二つ上の兄。一橋経済学部を志望していたが、実は…
あつしくん 赤塚第一高3 学年20位 バスケ部スタメン
赤塚第一の一軍。先輩であるトッティと仲良し。おそ松と面識がある。
- Re: 【BL松】ナポレオン・コンプレックス ( No.2 )
- 日時: 2017/07/14 21:36
- 名前: 滅子 (ID: NTjRWWeg)
「はー…」
赤塚駅から30分地下鉄に揺られて最寄の駅に着いた。
スタディプラスの記録時間は4時間38分。平日だし、学校の授業抜きの勉強時間としてはまずまずの方だ。えっと、計算して…授業が45分×7コマ=315分、自分の勉強が278分、通学が地下鉄30分+車が15分、往復で90分、睡眠は6時間で300分、余った時間が457分だから大体7時間。7時間ならもう少し勉強しないとダメだ。
「おーっす、一松!」
「おそ松兄さん、今日は早いね。」
「今日午後授業無かったからね〜。」
おそ松兄さんの車に乗り込んで、シートベルトをしめる。サブバックからセンター日本史暗記を取り出して、ストップウォッチをつけた。
「またパチンコ負けちゃったよ〜、商学部入れば楽勝だろと思ったのに、株も外れるしさあ!」
「株は十四松に頼めば。てか、おそ松兄さん早稲田も経済学部にしなかったの、まだ意外…」
おそ松兄さんは二年前、一橋の経済学部を受けた。模試は一年生から三年生までずっとB判定、お墨付きとは言えないけれど、彼には強みがあった。強靭なメンタルと根拠がなくても湧き出る自信。受験において、それらは努力と伴って強力な武器になる。
いまだに、なんでおそ松兄さんが早稲田商学部に行ったかなんてわからない。おなじ経済学部にしなかったのも、謎のままだ。
「やーちょっと現役で入るには足りなかったかねえ、流石のカリレジェも十四松みたいなのが滑り止めでいっぱいいたらね〜」
「…十四松は、すごいからね…」
「お、今週末洗車しなくて済むな。」
雨が降り出した。信号や電灯が、ガラスの雨で光が屈折して綺麗に見える。屈折率は二分の一で覚える。絶対屈折率だけ分母分子逆で、速さとラムダとsinは上が1。
伴健岑、橘逸勢は承和の変。源信、伴善男は応天門の変。源高明は安和の変。藤原純友。平将門。平貞盛。源頼信。源頼義。源義家。みなもとの…
「……一松ー、お前、ナポレオンコンプレックスって知ってるか?」
みなもとの?
「…背が低い人は負けず嫌いってやつ?」
「そ、それそれ。まあ背が低いに限らず、昔からバカにされたり見下されたりする奴はだと思うけど。」
浄土教。平等院鳳凰堂。法成寺。
「俺さー、ぶっちゃけ……お前らほど頭いい高校ではなかったけど、大体一位だったし低くて8番くらいだったじゃん。」
「赤塚第一だって赤塚第二とあんまり変わらないと思うけど…」
「いやでもやっぱ第二の方が頭いいでしょ。センター模試744ったらもうこっちなら10位以内確定なのに21位ってお兄ちゃんはびっくりしたよ」
「ヒヒ…やってもやってももう一桁には戻れない僕にお似合いの数字だよ…」
「まあどうでもいいよ第二は。俺さー、負けず嫌いではあったしずっとずっと勝ち続けてたけど、なんかもうずっと一番上っての、なんか飽きちゃったんだよな〜…例えばそう、お前くらい……4番くらいに、なりたくなったんだよね。」
「……僕、4番?」
そう言って運転を続けるおそ松兄さんの横顔は、厳しくて、凛々しくて、珍しい真面目な顔だなと思ったけど、何故か寂しそうだった。
北魏様式。法隆寺釈迦三尊像。南宋様式。法隆寺百済観音像。
「縁起悪いね…」
「一って名前についてるから、お前もそういうのあるかもしんねーな…」
中宮寺、広隆寺半跏思惟像。
「そういえばカラ松は?あいつ勉強してんのか?」
「クソ松ならバスケばっかやってるよ…センター模試もちゃんと600行ったかどうか…」
「あちゃー、お兄ちゃん一番カラ松心配だわ。一松面倒見てやれよ」
「あいつ引退まだだから無理。」
「ウワッ、八方塞がりじゃん。」
「エイトシャットアウト…フヒッ」
「いたたた!折れちゃう折れちゃう!」
- Re: 【BL松】ナポレオン・コンプレックス ( No.3 )
- 日時: 2017/07/14 21:37
- 名前: 滅子 (ID: NTjRWWeg)
「一松!こんなところでお前と出会うなんて、運命は悪戯好きだな!」
図書室に向かっていたら、パンパンの部活バッグを背負ったカラ松がバスケ部の奴らと騒ぎながら歩いていた。まさに俺が苦手な集団だ。
「……クソ松。まだ部活なの。」
「フッ、バスケ部の高体連は今週末なんだ。スタメンの俺には華麗にシュートを決めるなんて、ビフォアーブレイクファスト…!」
「朝飯前はa piece of cakeだろ。」
「そうなのか?」
これじゃ、センター模試500点以上が疑わしい。俺がため息をついて、「んじゃ、図書室いくわ」と言ったら、クソ松は俺の手を掴んだ。
「一松!高体連……来て、くれるよな。」
クソ松の目は三年前と全く同じだった。
「行かねーよ」
手を払って、そっぽを向いて図書室へ歩き出した。
「今週末、赤塚第一の体育館だからなー!」
後ろで何か叫んでいたが、他の仲間に連れ去られて行った。
「あれ、一松。来ないと思ってたよ。」
「あ、そっか。トッティ顧問か。……これ差し入れなんでみんなで飲んでください。」
「わ、麦茶じゃん。ありがとー。」
赤塚第一の体育館は応援に駆けつけた生徒や保護者でうるさい、上に暑い。反面バレー部、反面バスケ部が試合を繰り広げている。その脇に、朱色のはっぴとメガホン、もしくは紅色のはっぴとメガホンの生徒の群れ。
「一松は本当メガホンもはっぴも似合わないねえ」
「うるさい……本当は来るつもりなんてなかったし大体クソ松が」
「はいはい生徒応援場所は体育館右端だからあっち行ってね。多分チョロ松もそこにいるよ」
「チョロ松先輩が!?」
チョロ松先輩は、元囲碁部、東大理一現役合格したOBだ。そしてカラ松の兄でもある。去年卒業して以来はあまり話していなかったが、いや、その前も忙しそうだったからそんなに話してなかったけど……1年生の頃は囲碁部に行けば大抵いつもいて、ちゃんと囲碁をしたり勉強の面倒を見てくれたり一緒にビリヤードをしたり、僕にとっては「先輩」という位置に一番よく似合う人だ。
「弟の勇姿を見るとかなんとか言ってたけど、一松が会いに行ったら喜ぶんじゃない?」
「あ、はい。ありがとうございます。」
カラ松はディフェンスか。勢いよく足音が響く、床が動くくらいに。紅色のはっぴから直接肌にエナジーを刷り込まれてる。生徒応援場所に向かって、後ろの方にチョロ松先輩がいたから場所を取った。
「お久しぶりです。チョロ松先輩。」
「久しぶり、一松。久々に第二に来たけど、だいぶ変わったね。大学のレクチャーが忙しくてさあ。」
「相変わらずライジングですね。」
「いや、高校の時よりはマシな方だと思うよ。」
「チョロ松先輩の参考書レビュー楽しみにしてたんですけどね。赤本やチャートのようなサーフェイス的なメソッドではなくコアな部分から……ってやつ。」
「名問の森だっけ?よく覚えてるねえ」
しゃべっていたから見ていなかったけど、いつの間にか第一がシュートを決めていたらしい。応援団が指示を出す。メガホンを取って叩く。
「赤二ー!赤塚区民の恥さらしー!」
第一の方から野次が飛んでいる。第一と第二の野次合戦は一応問題視されているが、ほとんど伝統としてみなされている。
「野次かあ。僕は野蛮だしプリミティブだと思うから好きじゃないな。」
「先輩、プリミティブの使い方間違ってません?」
「あっ、カラ松が!」
チョロ松先輩の言葉にハッとして目を戻すと、第一のゴール下でカラ松がボールをとった。カラ松はドリブルを床が割れそうなくらい叩きつけながらゴール下まで走る。途中のディフェンスを避けている。おそらく、いやきっと動きの先読みをしている節もある。くねくねというよりは、しゅるりしゅるり、すり抜けているようなドリブルだ。
ディフェンスを翻弄しながら、左側に陣を取りだす。彼は左から入るセットシュートはやや苦手だったはず、どうか入ってくれ。
しかし彼はそのままゴール下まで走ってカラ松はレイバックを決めてしまった。応援団がまた叫んでいる。やけにはっきりと聞こえた。
「ナイスナイスガイグッジョブカラ松ー!」
応援団が太鼓をたたくのに合わせて後から叫、
「ナイスナイスガイグッジョブカラ松ー!」
たかった。
俺は叫べず、笑顔ですらない顔で仲間たちと軽くハイタッチしているカラ松を見ていた。
「これ、カラ松専用のフレーズなんだって。」
「第二狂ってんじゃないの……。」
「全校生徒の肋骨が心配だねー」
「一松兄さんチッスチッス!」
やけに土臭い十四松が紅色のはっぴとメガホンを持ってやったきた。
「やあ、久しぶり十四松。」
「遅かったね。」
「練習試合!後輩怪我してピンチヒッター!」
「つってももう終わるよ。試合。7分しかない。」
「ねえねえ今どうなの……」
黙って掲示板を指す。45-42。
「わっせー!カラ松兄さんボウエーッ!」
「いやそれ応援になってないから。」
しかしクソ松はちらとこっちを見て一瞬だけあのクソ顔をしたので間違いなく聞こえている。いつもだったら「オ〜〜マイリルじゅうしま〜〜つ」と言っていたはずだ。真面目にやれよ。
と思ったら案の定足を縺れさせて転けた。言わんこっちゃないと思う暇なく、カラ松はすぐに立ってディフェンスについた。
なんだ。普通に……
「カラ松兄さん転んでも泣かない!」
「さすがに泣かないでしょ、高3にもなって……」
第一のオーバーヘッドパスの軌道を邪魔して、味方の1人が……取れてない。ボールはどこだ、あれは朱色のユニフォームだから……
「キャーッ!あつしくん頑張って!」
赤塚第一で女子に人気のあつしくんだ。苗字は不明。ルックスも成績も運動も二重丸の一軍、女子に人気がある……というくらいしか知らない。
「あつしくんだ!」
「知り合い?」
「トッティと仲良いから!」
「え、何で……」
あつしくんも、カラ松と同じにそのままゴール下へ走って、あの流れはレイアップか、レイバックか、それとも……
「わっすごい、ダンクだ!」
「ダンク!?マジ!?」
47-42。
あつしくんは笑顔でハイタッチをする。カラ松は汗でダラダラの真顔でボールを受け取りエンドラインに立った。
ああいうときの、変に冷静なカラ松が面白いなと思う。必死なのに、テンション爆上げなのに、それを一枚の理性の皮で覆って透かしている。どうやったら点を入れられるかどうやったら勝てるかをあのカラッポそうな頭が必死に練り出しているのだ。悔しそうに睨む視線の先には、リラックスして笑顔の一軍様がいる。
(対抗意識、ギンッギンに燃やしてんな……)
カラ松は片手だけでボールを持った。マジかお前、
「おおー投げたねえ。」
あのでかい腕で掴んだボールは綺麗に対角線側の味方がしっかりキャッチした。味方はタップシュート、
応援団の声、
「ナイッシュー!」
俺たちの声、
「ナイッシュー!」
47-44。
朱色のユニフォームが、すぐ近くの味方にボールを投げた。そこからパスがどんどん繋がる。終着点は、あつしくんだ。ゴール下はガラガラ、おい、誰か!誰か移動しろよ!パスが回っちまう!
「よっと!」
横からボールの軌道を邪魔して紅色のユニフォームがパスを止める。カラ松だ。
カラ松は空中でボールを受け取り、そのまま走るのか、と思いきや、そこで両手でそのまま、
応援団員の声が、やけに静かな気がしたコートで響いた。
「スリーポイント!」
誘起されたように生徒が騒ぐ。メガホンを持って、応援団員でもないのにチョロ松先輩が叫ぶ。
「ナイスナイスガイグッジョブカラ松!」
周囲の生徒も、応援団員さえも真似する。この若い集団特有の暑苦しい必死なノリは、久しぶりに美味しいなと思えた。
「ナイスナイスガイグッジョブカラ松!」
クソ顔じゃないカラ松がチョロ松先輩を見た気がする。あとで愛してるぜブラザーとか言うんだろう。
「いやー、僅差だったねー。」
トッティがペットボトルの麦茶を開ける。
「最後またあつしくんがスリーポイント入れちゃうとは思いませんでしたね。」
「あ、噂をすればだよ。」
「トド松先輩!」
「いやトド松先生だから!」
あつしくんがトッティの方に駆け寄ってくる。
「ああ、実は僕さ、第一のOBで。あつしくんも僕と同じ大学入りたいみたいだから。」
「へえ。」
教育学部か。なんか彼みたいな人が入りたいなんて意外だ。経済学部とか入りそうなのに。
「君、カラ松くんの応援によく来る子だよね。知ってるよ。」
「な!」
顔の熱が上がっていく。
「コソコソしなくていいのに。」
「一松そんなことしてんの!?乙女かよ!」
「それ知ったら喜ぶと思うのになあ。」
あつしくんは笑っている。一軍特有の余裕な朗らかさに極秘事項を知られていた、しかもバラされた。なのに彼を恨むこともできない。これが、一軍……
「おーい、あれ、なんか一松灰になっちゃった。」
「ただいマッスル!」
「ボウェッ」
意識を取り戻す。どうやら十四松が俺の背中に突進してきたらしい。
「十四松くん、久しぶりだね。」
「お久しぶりっす!」
「君もバスケ部だったらよかったのに。塾やめちゃってから会ってないけど勉強どう?」
「頑張りマッスル!今は赤塚会で勉強してる!」
「赤塚会かあ……すごいなあ。」
チョロ松先輩以上に意識高いキラキラ会話をされては目が潰れそうだ。三人に勘付かれないようにフェードアウトする。
「いっちまあぁぁ〜〜つ」
後ろからクソ松の声がする。振り返ってないけどクソ顔をしているのがよくわかる。そろそろ顔芸は引退したいのに、顎の下の皺がよっているのがわかる。
「なんだぁ……クソ松……」
ゲス一松が振り返るとそこにはごくごく普通に笑っているカラ松がいた。
「はっ」
「フッ……天使のファンファーレの音色を耳にして振り返ればそこには紅の衣をまといし」
「黙ってろクソ松」
どうやら普通と思ったのは俺の勘違いだったらしい。形状記憶合金みたいに顔が戻っていく。
「ともかく応援に来てくれて嬉しい。麦茶だってお前がくれだのだろう?アーハーン?」
「ばっ、なんで知って」
「トッティが教えたもうたのさ!」
あの口軽ビチグソトッティが……。
「まあ、これであんたは引退なんだし真面目に勉強しろよ。」
「ああ!」
少しくらいセンチメンタルになるかと期待して吐いたのに、笑顔で返された。
- Re: 【BL松】ナポレオン・コンプレックス ( No.4 )
- 日時: 2017/07/14 21:38
- 名前: 日暮ヒポクラシー (ID: NTjRWWeg)
(まただ!)
数3の定期テストの点数が64点。
全くわからなかった証明が-10点として、それはともかく、くだらないミスばかりで-26点。
(iの書き忘れ、コサインのマイナス書けてなくて勘違いして三分の2πが三分の一πになってる、あとはなんだ、ここも同じ間違いしてる、うしろの照明はなんだ。あっ、z=0の時が!分母が0だ!あとの間違いはなんだ、ドモアブルの利用の説明はしよっただけで四点取られんのかよ!)
「クソッ……」
高2の1月からずっとこうだ。気持ちが先行して焦って足元がふらついて、思考停止でずっと勉強してるから何をしたらいいのかわからなくて空回りしてダメになってる。
「一松!」
「カラ、松……どうだった?」
「フッ、血塗られた運命に従った……」
カラ松の答案を無理やり奪ってみれば39点。
「ギリギリ赤点か。」
「ノープランだ!」
「あながち言い間違いじゃないよね、それ。」
「一松はどうなんだ?」
いたたまれなくて64点の答案をファイルにしまった。
「言ってもしょうがないだろ」
化学も有効数字や計算ミスで-14点、英表は英作文見落としが痛すぎる。古典は助動詞位完答したかった。三人称なら絶対推量ってわけではないことを忘れているし、ああ助詞もだ。同格と主格の違いだ。英表はスペルミスこそなかったけど、関係代名詞と細かい動詞の語法がひどい。
元々得意な英語は大丈夫だろうと踏んでいたのに、高校に入ってから一切自学してなかったのがとうとう来たか。クソッ、家計的に塾を増やすわけにもいかないし。
デカパン先生が前で無限等比級数の解説をしているが、そんなことを今聴いている場合ではない。回答解説読んでわかったし、居ても立っても居られない。そうだ、ルーズリーフに去年のセンターの過去問があるはずだ。あれを解かなきゃ。
ちらっと前を見ると、カラ松はデカパン先生の話を真面目に聴いていたようだった。最終的には寝ていたけど。
「あれ……」
「トド松先生、どうしたダスか」
「や、見てくださいよこれ。」
三年6組の今回のテスト結果を集計していて気づいた。赤点大魔王ことカラ松が、今回は珍しく1科目しか赤点がない。数学IIIの39点以外は、すべてきちんと平均点以上をとっている。九教科総合点数は568。中でも物理の76点はかなりのファインプレイだ。
(ナイスナイスガイ、グッジョブカラ松。)
「ホエホエ、数学はあとちょっとダスが頑張ったダスね。」
「バスケ部引退して火がついたんでしょうか。それに対して……」
568点、の下に記録されているのは、720点。松野一松。カラ松と同じ中学校で、ずっと同じクラスで、いつも一緒というわけではなかったが、1番のカラ松の理解者と兄貴分としてリードしていた。
「一松くんはちょっと振るわなかったみたいダスね。」
「彼の成績は第二の中でも一軍に入るし、理一目指したいって本人も言ってたんですが、彼はメンタルが闇ですからね。響かないといいですが。」
「確かに最近の数学の添削も、2年と同じくらいのペースで提出はしてくれるダスが、最後まで解ききれなかったり当てる時間が短かったり、字が雑とか条件が抜けてるとかが多いダス。答えはちゃんと出てるダスが、減点が多いタイプの答案ダス。」
一年生の頃は真面目で面倒見のいい優等生だったのだが、2年の終わりからだんだんかれがやさぐれてガサガサになってきているのは僕も感じてた。まともな友人はカラ松と十四松くらいになったし、寝癖がつきっぱ、クマが出来るようになって、一度パジャマで学校に来たことさえある。遅刻はしないしむしろ学校には早く来る方だが(遅刻常習犯はカラ松の方だ)、図書室に朝からこもって強い筆圧でカンカンカンカン問題を解く姿は、七不思議になりかけたのにも頷ける。
「全くもう、闇松のくせに心配させないでほしいね!」
- Re: 【BL松】ナポレオン・コンプレックス ( No.5 )
- 日時: 2017/07/14 21:40
- 名前: 日暮ヒポクラシー (ID: NTjRWWeg)
結局定期テストは全教科平均76点。今までで一番ひどい。最近の収穫は一年も2年も壊滅的だった物理がある程度できなくはなくなったことくらいで、引き換えに数学の神が去って行った。どんどん遠ざかる。
部屋の机に向かっていた俺はペンを落とした。休憩がしたい。ついついスマホに手を伸ばすような気力もない。漫画を読んでも頭に入りそうにない。外に走りに行くような体力もない。風呂には、もう入った。
時計は10:31。
寝よう。もう寝るしかない。一度寝たら6時まで起きられないのわかってる。そのままぼやっとした頭で地下鉄乗り継いで1時間も仕方ない。その間鉄壁をやらなきゃいけないのも仕方ない。仕方ないさ、受験生なんてこんなもんさ。
脳裏に今日見かけたトト子ちゃんの姿が浮かぶ。地元の、そこそこの高校に入って、ラケットを背負ったかっこいい彼氏と歩いていた。楽しそうに笑っていて、同じ幼稚園と小学校で毎日一緒に遊んでたはずなのになんでこうも違うんだろうとか、
そんなこと思ってないよ。
真っ白い、どこまでも白い、部屋なのかどうかすらもわからない、そういう空間に俺はいて、全速力で走っている。地平線すら、真っ白すぎて見えないけど、走っているのだ。走るだけではなくて、とにかく前へ前へ進めば良いのだ。足をつまづいて転びそうになっても手をついてそのまま前転。立ち上がったらさっきのことなんか忘れている。向かい風。向かい風。ボサボサの髪。ふくらはぎは乳酸をどくどく脈ならせ、足はもう無理と喘ぐ。それでも脳は働き続けさせる。
横を見るとクソ松。いつの間にか追いついていたらしい。さっきまであんな後ろにいたはずなのに。サラサラの髪は前になびいて、キリッとした眉、眉間にたらり汗。腕は軽く曲げられ、ジョギング程度の軽さで走っている。
「急げよ、クソ松!」
「でもこの方が楽しいぞ」
あえぎあえぎ出した声を、元気に無下にはねのけられた。そんな呑気なカラ松に腹が立った。やっぱりこいつ、ダメだ。
「楽しいとかそんなん……どうでもいい、早く!」
俺はカラ松の腕を引っ掴んで走り出した。ほぼひっぱるような形だが仕方ない。そしたら突風が前から吹いて来て、思わず俺は
「あ」
あれ?背中が地につかない。初めての感じだ。バランスを崩した時のフワッとした感じが止まらない。
後ろは崖だった。無理やり顔を下に向けたけど底が見えない。どこまでも白。どこまでも白。カラ松の顔を見る間もなかった。
引きずり込まれ続けた後に、体がぷるっと震えて目が覚めた。
動悸が止まらない。
そうだ今日は木曜日だ。河合塾から講師が来て何か話をするんだ。聞きたくない。勉強方法と対策傾向だけじゃなくて精神的なこととかに触れられて来たら、僕はもうどうなってしまうかすらわからない。
何を着るが迷った(私服高校だから)が、テンプレートの黒いスラックスと適当なポロシャツを着た。制服みたいに見えなくもない。
化学の授業。
「化学反応は活性化状態になるまですすみません。エンタルピーが影響しているために、このようにハードルがあって、これを超えないと反応しません。反応熱だけ与えても無駄です。」
受験と同じだ、と思った。
- Re: 【BL松】ナポレオン・コンプレックス ( No.6 )
- 日時: 2017/07/14 21:41
- 名前: 日暮ヒポクラシー (ID: NTjRWWeg)
記述式。進研模試が終わった。
数学が全くダメだった。積分の計算すらできない。複素数平面なんか全く全部消えていて、定期試験でやったことは一体何だったのか分からない。数列なんか漸化式すら解けなくなってた。手も足も出なくてパニックで、三つも問題を捨てた。
疲れた。今日も激しくバシバシ雨が降っている。俺は赤塚第二高校前駅からビニール傘をさして歩いていたのだが、靴下どころは脛までぐっしょりとズボンも靴も濡れて、リュックサックの中の教科書はいくつか水を吸っていてもおかしくない。体が重い。
(猫に会いに行きたい。)
そんな暇すらない。おそ松はバイトが七時からだから帰るのは遅くなれない。わざわざ片道420円のバスで帰るわけにもいかない。
地下鉄がきた。
赤塚駅で待ってきたら一松がのそのそ歩いてきた。猫背でゆっくりだけど歩幅が大きい。
「最近早いね。」
「勉強、しなきゃいけないから。」
ビニール傘を畳んですぐに車に入る。
「ビジャビジャじゃん、」
俺が渡したタオルで腕を拭く。一松のグレーのTシャツは黒っぽくなっていた。
「俺が私立行ったの気にしてる?」
「いやそれはない。理系は私立あんまりないから…」
信号、電灯、ネオン、看板。ガラス越しに光は拡散されて薄い光を放っている。本当は直視するには難しいまばゆい光だったり、大したことないぼんやりしたあかりだったり。
「スーパー行くけどくる?」
「いかない、寝てる…」
一松はシートを倒して目を閉じた。一松は決して睡眠時間は少なくないし、車の中では眠れないはずなのに。証拠に眼球は動いている。勉強っていうどこまでも自分しかない世界に身を投げて、そのうち本当にどこかへ行きそうな頼りなさなのに、なあ。
(尊い子だ)
生協のアイスコーナーは涼しい。
「お、カラ松」
「おそ松!」
だから涼みに兼何を買おうか迷っている男子高校生に会えたりもする。
「もう部ジャー着ねえのか」
「引退したから、節目だ!」
「相変わらず赤点大魔王か?」
「フッ、聞いてくれおそ松……レッドポイントは今回、数学だけだぞ。」
「うっそマジで!?!?」
今の言動はそんなに痛くないのに、驚きのせいであばらは軽くミシミシ音を立てている。
なんだあ、そんなに一松が言うほどカラ松バカじゃないじゃん。あいつプライド高いからなあ。
「そうか、カラ松も成長するもんだな!」
「共に歩んできた一松とこの先も運命を共にするための努力は怠らないぜ…」
「え?お前も東大?」
「え?」
カラ松は素っ頓狂な顔をしている。思ってもいなかったという顔だ。
「言ってない?あいつ表向き東北大だけどさあ。すげー切羽詰まっててお兄ちゃん見てられない!」
明るさを装って頭を抱えてみて、ちらっとカラ松の顔を盗み見たのだが、「全くそんなこと考えていなかった」と痛いほど伝わってきた。
かわいそうな奴ら。
一松はカラ松を置いてってひたすら走ってる、逆にカラ松は追いかける、けれどもう一松は限界で、簡単にカラ松は一松を追い越すだろうし、そのときの一松の顔はどんな風だろう。
「お前たちは並んで走れないのね。俺はできてたのにな。」
「んあ…?」
朝目を覚ますと、もう時計は10:26だった。こりゃあ1限でられねえな。ぼやぼやする頭を置いてけぼりにして何度か寝返りを打つ。少し寝汗をかいている。もう7月、暑いな。
一階から電話のベルが聞こえる。
ジリリリリリ。
うちはうるさいタイプの電話なのだ。
ニコール目をしてこなかったら大した用事じゃないだろう。もしくは家族なら二度目はスマホにかけるだろうし。
ジリリリ。
ようやく止まったから立ち上がる。
ジリリリリリ。
ええ〜また鳴るのお。
ふらふらの足取りで階段を手すりをちゃんと持ちながら歩く。
「はあいもしもし」
「一松くんのお宅ですか?」
女の先生の声だ。確か担任は男のはずなのになあ。
「兄です」
「ちょっと一松くん気分が悪かったそうで、体育の時間に倒れてしまいまして。」
あーらら。追い込みすぎちゃったか。
そういえば今朝も目の下のクマはいつもより濃いし半目だし(それはいつもか)なんとなくフラフラしてたけど、キーマカレーちゃんと食べてたから大丈夫だと思ってたのになあ。仕方ない。だそう。俺の愛車の赤のタント。
腹がすっきりして軽い。力は出ないがとても楽だ。カラマツに一度男子トイレに連れてってもらって、朝食べたキーマカレーを吐いたからだろう。保健室の硬いベッドで考える。休め休めと言われてるし自分もそう思ってるけど、休もうとするとどうしても休めなくって、かえってよしもとばななの小説を開いたり、猫の生態とか、ヨーロッパ服飾史とか、工学にはどうあがいても結びつかない本ばかり読んでしまう。それが疲れるとわかっていても。
「お前さあ、寝てる?」
保険医が話しかけてきた。低くて地獄から響くような男の声だ。
「まあ、一応は。」
「そのわりにはクマひどくね?」
「寝ようとはするんですけど、なかなか寝れなくて本とか読んで……ます。」
保険医がベッドの方へ歩いてくる。逆光で、大きな影がカーテンに落ちている。
「お前、追い込むのはいいけど効率悪いよ?」
カーテンを開けたのは、自分にそっくりな顔の、白衣を着た保険医だった。
俺はめちゃめちゃびっくりして、ぶるっと震えた。ベットが派手にがたんと音を立てた。
覚めた。
カーテンは閉じている。
すると女の保険医の声で「起きた?お兄さんがきてくれるって。」と聞こえる。そうだ、うちの学校は女の保険医しかない。夢か。
「一松!」
シャッとカラ松はカーテンを開いた。思ったより必死な顔で、おでこに汗で髪の毛が貼っついている。
「大丈夫だから。寝不足なだけ。」
寝っ転がったまま返事をする。逆光が眩しい。カラ松は黒い影になってまるで浮いているみたいに見える。
「全くギルティなキャットだ。俺に頼ればいいものを…」
「無理無理、クソ松に?」
お前なんかに頼ったら共倒れだ。とは言わなかった。
「失礼します」
おそ松兄さんの声だ。
「ありがとなカラ松。あいつ人に頼るの嫌でさ。」
「そうなのか、フッ、伝説に伝えられしこの俺が…」
「いたいいたい!折れちゃう!俺まで保健室のお世話になる!」
カラ松は通常運転で人の兄にあばら攻撃を加えてくる。
「ほら、一松帰るぞ。」
おそ松に起こしてもらった。骨がないみたいに体がくにゃっとなって力が入らない。
「なんだ貧血か?うわあっちい。熱じゃん。」
「ねつ?」
頭は働かない。
「んじゃま、カラ松あとはよろしくー。」
おそ松兄さんによっかかったまま、ずるずると引きずられて保健室を出た。
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