複雑・ファジー小説
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- 坂道リズミカル
- 日時: 2012/04/03 12:27
- 名前: しおぐり (ID: k9gW7qbg)
いきづまってます;
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ジャンルは青春もの。
ちょっと重ためな青春かな?
主人公の性格上とはいえ一人称なのに堅苦しすぎるかも。
アドバイス・感想、是非是非くださると嬉しいです:))
---目次
第一話 >>1-4
第二話 >>5-6>>9
第三話 >>10 >>14
---Special Thanks:D)!!
霖音さん べ、別に名前なんてないんだからね!さん 楽朝さん
- Re: 坂道リズミカル ( No.6 )
- 日時: 2012/04/05 01:41
- 名前: しおぐり ◆cP1G9Wr7dw (ID: k9gW7qbg)
制服に着替えて玄関を出る。
スクールバッグには、財布と携帯、最低限必要なものを入れてきた。ショッピングモールや繁華街があるので、どうせならよっていきたい。
私が、かかとを潰したローファーをちゃんと履いたのを見届けた唐澤は、「行こう」と言って、道路へ背を返した。
*
「久し振りに来たな……」
私の家から徒歩二十分ほどで駅に着く。やっぱり隣の市の方に行くとなるとわくわくしてきた。都会の繁華街は好きなものの、休日は引きこもりに近い私はこういう機会がないとなかなか行かないから、きて正解だったかもしれない。確か最後に行ったのは半年前くらい。
私の呟きはさして彼を引き留めるものではなかったようで、彼はすたすたと駅の入口へ歩いて行ってしまった。小走りでついていく。
駅の中は、昼過ぎとあってか大して人は多くなかった。あっちの駅は時間帯関係なく多いのだろうけど——。
私と唐澤は切符を買い、ホームで待っていると五分と経たないうちに電車がやってきた。
電車に乗ると、ツンと電車やバス独特の匂いが鼻についた。そしてやっぱり、人が少なくガラガラだった。
「座れるね」
彼が相変わらずやる気なさげな声(といっても元々なんだろう)でそう言った。彼が腰かけた隣に、私も腰かけると、まもなくしてドアが閉まった。
「行きはかなり多かったから……」
都会からだと電車を利用する人が多いうえ、午前に電車に乗ったから混んでたんだろう。しかも彼を見やると、枝みたいに細い腕。その細い体で、人波に揉まれに揉まれたんだろう。
やっぱり申し訳ないことしたかな。それに、うまく会話もできないし、つまらないのはわかっててもなかなかうまく喋ることができない。
「なんか、ごめん」
思わず謝ると、彼はこちらへ視線は向けずに「そんなつもりじゃなくて」と意外にも芯強く言ったので、つい目を丸くした。彼なら無表情に、別に、とでも返すのかと思っていた。
膝に乗せたスクールバッグを握りしめながら二回目の謝罪をすると、いや、と彼はぽつりと言った。
それからすっかり沈黙が落ち、ゴトリ、ゴトリと電車の揺れる音がやけにはっきり聞こえ始めた。
ひとつめの駅に電車が停まり、ドアが開く。私たちの目的地はここから三つめの駅だ。あと三十分ほどだろう。
そろそろ沈黙が息苦しい。——いや、沈黙は嫌いではないのだけれど、人が隣にいるというのは息苦しいものなのだ。できれば唐澤と人五人分離れて座りたい気分だ。
すると、向かいのシートに座っている、携帯を見ているサラリーマンが突然噴き出し、おろおろと周りを見渡し始めた。ああやっちゃったなあの人、と思いその人を見ていると目が合ってしまい、バツが悪くて俯くとそのサラリーマンがわざとらしい咳払いするのが聞こえた。
唐澤はそんなのお構いなしでふわっとあくびをしている。
「なんでさあ」
「え?」
突然話しかけてきた唐澤に咄嗟に返事をした。
「なんで、ついてきたの。別に、別々でもよかったのに」
「……え」
彼の言葉を聞いた瞬間、腹の底が熱を帯びた感じがした。自分の反射的なそれは、「ついてくる」というあまりいい気のしない言葉に反応したのか、いきなり否定的な扱いをされた気分になる言葉に反応したのか。喉が急速に渇いていく感じがした。
ただ、彼のその言い方は、怒ってるというのではなく、なんとなしに呟いてみた程度の言い方だった。
「まあ、なんていうか……ごめん」
結局、今日何度目かの「ごめん」を私は口にした。
「いや……ただ不思議だっただけ」
怒ってないのだろうか。つい唐澤の顔色を伺ってしまう。
きっと無関心でやる気なさげな人に批判されるのは、普通の人に批判されるよりも特別自分が悪いような気がするからだろうか、と分析する。それにしても、あんなことを言い出すとは意外だった。さっきから意外なことばかりだけれど。
「掴み所がない」。
まだ彼と出会ったばかりだし、勿論掴むものなどまだなくて当然かもしれないが、彼のイメージはその一言に尽きる。
……そしてまた、沈黙が私たちを包んだ。
- Re: 坂道リズミカル ( No.7 )
- 日時: 2012/02/17 18:25
- 名前: 霖音 (ID: GrVDPcij)
はじめまして、題名に惹かれてきました。霖音と申します。
人や自然や建物の雰囲気のどこか懐かしい感じが素敵で読み込んでしまいました。
表現の仕方。見習いたいです…。
これからも読ませていただきます!
- Re: 坂道リズミカル ( No.8 )
- 日時: 2012/02/17 19:56
- 名前: しおぐり ◆cP1G9Wr7dw (ID: k9gW7qbg)
>>7 霖音さん
初めまして。
題名で惹かれたとは、なんか感激です。
表現、ちょっと堅苦し過ぎて読み辛かったらごめんなさい;
とっても嬉しいです。ありがとうございます!
- Re: 坂道リズミカル ( No.9 )
- 日時: 2012/04/05 01:49
- 名前: しおぐり ◆cP1G9Wr7dw (ID: k9gW7qbg)
三つ目の駅、つまり目的地に着いて電車のドアが開いたとき、沈黙がちょっとましになると思いほっとした。社交的じゃない、自分と同じ『種類』の人だと思っていたけど、「掴み所がない」。
唐澤はさっと立ち上がると、すたすたドアへ歩いて行ったので、私も慌ててついていった。
一歩電車を出ると、ホームはやっぱりあっちの駅より人が多かった。それでも混雑してるというほどではない。
人をよけ唐澤に着いて進みながら、ポケットから携帯電話を取り出した。鍵同様ストラップもついていない、白いシンプルなものだ。開いて時間を確認すると、一時半。またすぐポケットに戻した。
そして、改札口を出て、しばらく進んだとき。突然、唐澤が立ち止まって振り返った。
私もつられて立ち止まる。
唐澤は、視線を彷徨わせて口を閉じたり開いたりした。まるでさっきの、送っていくことを言い出す私みたいに迷ってるようだった。
さっきから彼を不審に思い始めた私は、眉根を寄せた。「何?」
唐澤は軽くうなずくと口を開いた。
「繁華街のほうに、バンド仲間が手伝いをしてる喫茶店があるんだ。よかったら、一緒に寄っていこう」
私は少し目を丸くした。喫茶店……ちょっと興味がある。それに、断るのも気が引けて——。
「唐澤がいいなら……」
そっけない返事になったけど、ちょっとだけ心が躍っている自分に、自分自身が驚いた。思えばこんなふうに誰かと喫茶店に行くなんて、随分久し振りな気がするから。なゆとは学校でだけの付き合いで、二年生になってからほとんど一緒に過ごしているけど、遊んだことが未だにない。浅い付き合いなのだ。向こうはどう思っているかは分からない。
唐澤はただもう一度頷いた。その表情が、少しだけ安堵したように見えたのは気のせいだろうか。
再び歩き始めた彼に続いて駅を出ると、車通りの多い交差点が目の前に広がる。その向こうにはデパートや様々な店が立ち並んでいた。何回か来たことがあるのだから、勿論知っている。
土曜日の昼頃の繁華街は人が多かった。ざわざわとした人ごみの向うで、ショーウィンドウから流行りの洋服が覗いている。
「こっち」
と唐澤は人が行き交う横断歩道の向こうを指さし、歩き始めた。
- Re: 坂道リズミカル ( No.10 )
- 日時: 2012/03/09 22:38
- 名前: しおぐり ◆cP1G9Wr7dw (ID: k9gW7qbg)
第三話
両側にショーウィンドウの並ぶ通りを、唐澤の後に続いてしばらく歩いた。所狭しと店の詰まっているごちゃごちゃしたこの街は、私の好きな風景などほとんどないに等しいけれど、新鮮な感じがするのは嫌いじゃない。
ジャンクフードの香りが漂ってきて、思わず歩きながらお腹を押さえる。そうしてから、昼に何も食べていないことを今思い出した。ぐるる、と音が鳴ったがそれは周りの雑踏に掻き消された。
当然唐澤にお腹が空いてますなんて言う筈もなく、それどころか会話も一回も交わさず、ただ彼の背中を追いかけて歩き続けた。
彼は、細い道に入った。私は思わず、おお、と小声で呟いた。
——綺麗。
狭い道の両側は、喫茶店や小さな雑貨屋さんが並んでいた。すぐそこの店はイタリア風のカフェなのか、イタリアの旗が看板に立てられていた。鉢に植えられた小さな木は、落ち着く自然の風景とは対照的に、見てるとなんだかそわそわした。
綺麗だし、なによりお洒落な感じがたまらなくドキドキする。こんなところ、あったんだ。
私が立ち並ぶ店に見惚れてきょろきょろしながら歩いている間も唐澤はどんどん前に進んでいた。
心中、無頓着め、と思いながら大股で歩き唐澤に追いついた。
ここ、と唐澤が立ち止まって示した場所は、やはりお洒落な店だった。焦げ茶や白を中心にした色遣いの外装は、小さめながらすごく素敵だった。こんなお洒落なお店、滅多に入ることはない。
私がひとりなら絶対入らないだろうな、というその店に唐澤は普通にドアを押して入った(当たり前だけれど)。ドアについた小さなベルが音をたてた。
そのドアから、「舜くんいらっしゃーい!」という、元気のいい大人の女性の声が聞こえた。
私は、唐澤が押したドアからコソドロのようにそっと店内に入った。
少し暗めでお洒落な店内にどきまぎしつつも、ドアを閉めて前を向く。すぐ目の前にカウンターがあって、そこに、さっき唐澤の名前を呼んだと思われる黒髪をポニーテールにした女性がニコニコ笑っていた。薄緑のエプロンをつけている。艶やかな唇を笑ませた彼女は私の姿をみとめると目を丸くし、あら、と呟いた。私は慌てて頭を下げ挨拶をする。
「こんにちは、朝原明子、です」
そのとき、カウンターから女性と同じエプロンをつけて両手に缶を持った男がひょっこり姿を現した。
「舜、きたの?」
腰を屈めて作業をしていたと思われるその人も、私を見るとあれれ、と不思議そうに顎に手をやった。
「あの、こんにちは」
一応挨拶をすると、その男の人は愛嬌のある笑顔を見せた。
テーブル席お客さんが数人、何が来たんだとこちらを振り向いたけど、大したことがないとわかると視線を外した。
唐澤に目をやろうとしたら、身長差で丁度襟の辺りしか目に入らなかったので首を上向けて彼を見る。
唐澤は一瞬だけ私と目を合わせると、カウンターのふたりを指差した。
「この女の人がここのマスター」
「幹野由梨香っていうの。よろしくねえ」
大人っぽいその人は、長い睫毛をぱちぱちさせた。
「で、こいつはさっき言ってたバンド仲間……ここでアルバイトみたいなのしてる」
男の人は、自分の黒髪を片手でかき混ぜながら笑顔で会釈をした。
私はバンド仲間、と聞いて驚いた。どこか大人びていて、雰囲気からしっかりしてる感じがして、成人していてもおかしくないように思えたから。唐澤も大人っぽいがそれは老けているという表現が正しい気がする。
「藤月要。ここで長いことお手伝いさせて貰ってる。ちなみにバンドではベース担当ね」
唐澤に小声で、同い年? と聞くと、同い年、と返ってきた。
「朝原明子です。なんか、突然ごめんなさい」
藤月君はいいよいいよ、と手をひらひらと振った。
藤月君が唐澤を見て、それで、この明子ちゃんって子はどうしたの? と聞いた。
唐澤が、気怠そうに一連の流れを説明する。藤月君は、ふうん? とまたも目を丸くした。
幹野さんはふっくらした赤い唇に指を当て、微笑んだ。
「いやいや驚いちゃってごめんねえ、舜がだれかを連れてきたってのは初めてで」
私は、そうなんですか、と答える。もっとも、唐澤は確かにだれかを連れてくることはないんだろうとは思うけれど。