複雑・ファジー小説

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この話、内密につき
日時: 2013/02/19 20:09
名前: 卵白 (ID: JQzgI8be)

足を滑らせ、パソコンで頭を打って死んでしまった中学生、"五十嵐もえな"は自分が執筆した物語の中へと生まれ変わり、"主人公"の相棒として新しい人生を歩んでいくことになる。

しかしその世界は自分の知る物語とは少しズレが生じていて……?
綺麗事と嘘と、そして生きる為に人を蹴落として、時には人を救いながら……

これは、世の中の厳しさに苦悩しながらも異世界で"コタロー"として生きていく少女の物語。





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皆様、こんにちは、始めまして。
卵白ことるりぃと申すモノです。
本日より当サイトにて執筆活動を開始させていただきます。
至らない所等は多々ございますでしょうが、読んで頂けると幸いです。
荒らしや過剰宣伝行為はスルーいたしますが、アドバイス、コメント等は歓迎いたします。
むしろお願いします。


この作品には残酷な描写が存在する上、雑で、亀更新です。
この話はNSFP(なんちゃってサイエンスファンタジーっぽい何か)です。
以上が許せる方のみ、御覧くださいませ。

『本編』
「Opening」 >>1
「01 Death is deaf to our wailings.」>>4-7
「02 Blood is thicker than water」>>10-12
「03 A little learning is a dangerous thing.」

Re: この話、内密につき ( No.6 )
日時: 2013/02/07 21:20
名前: 卵白 (ID: bMBSwVLq)

 リア充なんか、リア充なんか嫌いだ。
 今まさに始まろうとしている親、姉不在というパラダイスを目の前に私の心は一足早く朽ち果てる枯葉のように萎びていた。もう夏休みが終わるとはいえまだ秋には早いぜセニョリータ。
 私は熱湯を注いだカップラーメンを涙目で凝視しながら、子供部屋にある新しいPCを思い浮かべた。
 ご隠居は長年使ってきて、壊れたときには茫然自失という言葉が似合うほどに泣きじゃくったものだ。
 だが、新しいPCとの出会いはそれを吹き飛ばすような慶事なのだ。
 私の趣味が創作活動ということは、学校の子達に知られれば私の内心等知らずに『キモオタ』扱いされて倦厭されるので、今まで誰にも創作活動について話したことがなかった。
 皆に囲まれてニコニコしながら、順風満帆な学生生活……俗に言う青春というやつだ。それを送っているのだから文句言うなとか言われそうだけど私はどうしても、趣味について一緒に語り合える友達が欲しかった。
 だから勉強も出来て運動もできるのに、俗に言われる腐女子やオタクといった分類に入っても語り合ってくれる仲間がいる姉が、羨ましくて憎らしかった。いや、姉のことは尊敬している……けどさ。
 私は子供部屋の本棚に隠すことなく押し込められた、表紙を見せるだけで厳重注意されかねない薄い本を思い浮かべ、それを自費出版して全国各地のコミケで散財し、家族や友人に見せたらドン引きされかねない笑いを浮かべている姉の姿を思い出す。
 ……あぁは、なりたくないかな。
 だが、姉に連れて行かれたイベントでは作家さんたちのアンソロジーとかも売られていてすごく勉強になった。そこからスカウトされた人もいるというのだから、私もそういったのを目指してもいいかもしれない。
 それに、私は一次創作から入ったとはいえ二次創作に走ったこともある。けれど、キャラが掴めなくてやめた。
 ちらりと時計を見やると既に三分経って……いや、少し過ぎていた。ぐだぐだ考えているうちに経過していたようだ。
 割り箸とカップラーメンを引っつかんで階段を駆け上がる。子供部屋にたどり着き、自分の机にカップラーメンを置いてPCの開封をしようとして……私の机に貼られたメモが目にとまって、高速で目をそらした。
 えぇい、でも現実逃避してちゃ始まらないよね! と気合いを入れ直して直視する。

『もえ へ
 ちょっと本棚に収まりきらなくなった本、そのPCのダンボール空いたら入れておいてくれない?
 やっておいてくれないとアンタの大切にしてるマンガ切り刻むぞっ☆』

 総毛立った。
 嘘だろう、と思うかもしれない。姉もマンガが好きだからしないだろう、と思って見逃したときがあった。
 でも、やりやがった。
 姉が中学生の時に、同じようなメモを残されて、その時はスルーしたのだが、その次の日に起きたときに見た悪夢は忘れられない。
 その当時私はガンプラにはまってて、一体一体丁寧に組み立てた作品を十体ほど机に並べていたのだ。
 それが、分解されていた。
 粉々に。
 パーツを分解しそのパーツをさらに半分にするという念の入れようで、嬉々として分解する姉の姿が容易に想像できた。
 それ以来、姉には逆らわないようにしている。
 逆らわなければ、たまに、今日みたいにいいことをしてくれるからだ。
 割り箸を割、すっかり伸びてしまったカップラーメンをガツガツと掻き込む。好みの醤油味ではなく味噌味の為、普段より美味しくないと感じてしまう。
 スープまで飲み干してから、容器と割り箸をそのままゴミ箱へ放る。若干汁を飛ばしながら、容器と割り箸は放物線を描いてゴミ箱へとホールインした。後で拭かなきゃ……。

「ったく、凍葉もなんでこんな事するかなぁ」

 新しいPCをどっこいせ、と持ち上げると入口付近まで移動させる。なぜかとう言うと、姉の机が入口と対局に存在して、姉の机の前に本棚に収まりきらなくなったBLでR18な本が山積みになっているからだ。
 そっと一番上の本を見ると、表紙は肌色まみれだった。可能な限り触れたくもなければ表紙も見たくない品である。
 しかし脅されてしまっている以上はしっかり移行させねばならない、と涙を飲んで我慢した。
 早く終わらせてしまおう。
 決意して十分後に、私は拳を握った。全部詰め終わったから、あとはダンボールを外に出せばパーフェクト!
 例え残り少ない夏休みといえども、だらだらゲームをして、ほぼ姉のいいなりになって過ごした大半よりも、残りをすべて新PCに注ぎ込めばその充実感は跳ね上がる。
 明るい未来がすぐそこにみえて、私は精神的にも肉体的にも疲れた体に鞭を打って、ダンボールを持ち上げる。
 しかし、一歩踏み出したところで、自業自得としか言えない罠が私を襲った。

 つるっ。

 ダンボール越しで視界が塞がれていたが、何か液体を踏んだような感覚を足元に感じた。

「えっ」

 紙類は散乱していないし、そもそも飲み物類を、姉も私もこの役五時間の間に飲んでいない。
 嘘だろ、とか思いながらせっかく詰めたのにまた散乱していくBL本を見て絶望に陥り、そして命の危険を感じた。
 ——この後ろ、ご隠居じゃね?
 頭から一気に血の気が引いた。
 頭が角にぶつかれば即死するだろうな。
 体勢を立て直そうにも既に間に合わない体勢になっている。それなのに悠長に考えているのは……走馬灯ってヤツか、それともマンガとかでよくあるピンチの時だけスローモーションになるアレか。
 とどめをさすような痛みが腹部にはしった時に見えたのは茶色の液体。
 ……味噌ラーメンスープの、汁。
 私はそれを加速した思考でぼんやりと眺めていることしかできなかった。
 走馬灯として脳裏に浮かんだのが、今までの思い出とかではなく書きかけの小説であることは、墓場まで持っていける唯一の秘密になった。

 五十嵐萌奈、13歳。
 滑って転び、PCの角に頭をぶつけた事により死亡。




 彼女から吹き出した血液に塗れた同人誌が散乱した部屋。
 彼女の死因となったパソコン——ご隠居が、蜂の大群のように鈍い音を立てて起動した。
 青い背景に白文字で、何かが表示される。



The program is found and prevents the damage to your computer.
When I ignore this, your computer is destroyed.
When I destroy a computer, I can change memory for the USB.

—— The computer discovered a memory device.
A memory person's name: "Moena Igarashi"

Enter: Continuation

I continue it
I continue it
I continue it

I download it. Please wait for a while.

...

An error occurred.
There is not the reaction of the memory device.
I cancel the shift of data and finish a PC forcibly.

Enter...


 ばつん、とPCの画面が黒一色に塗りつぶされる。
 起動音の止んだ部屋は、再び静寂に満たされた。


Re: この話、内密につき ( No.7 )
日時: 2013/02/10 11:23
名前: 卵白 (ID: bMBSwVLq)

 睡魔から開放された場所は、真っ暗闇だった。
 しかし、唯の闇では無く、懐かしいような泣きたくなるような感情に襲われる、暖かい闇。耳をすませば、音が聞こえてきた。
 これは、海のさざ波……? テレビの砂嵐にも似てるような音。よく耳を澄ませば太鼓みたいな音と、洞窟の中のエコーをもう少し柔らかくしたような、くぐもった話し声……のようなもの。
 ええっと、この状況は何なんだろう。
 再び睡魔に攫われそうにになったけど、現状把握しようと思考を始める。
 私の名前は五十嵐もえな。ごく普通の中学一年生で……やたらハイスペックな姉と母を持つ。彼氏いない歴イコール年齢……いや、別に気にしてないけどね! ってか、それはどうでもよくないけどどうでもいいんだよ。
 私は、死んだはずだ。
 しかも、味噌スープで滑って、ご隠居に頭を打ち付けるという間抜けな死に方で、そのうえ新しいPCを買った当日という、最悪なタイミングに。
 どこまで運がないんだよ私は。
 でも、そう考えるとおかしな点が一つ。
 なんで私は意志を持ってこんな暗闇にいるのか、という事。
 とりあえず歩いてみようと足を動かすけど、自分の手足すら見れないなんてどういう事? どんだけ真っ暗なの?
 地面を蹴ろうとすると、ふにょん、とした感触の暖かい何かに触れた。えっ、と驚いて手を伸ばすと、すぐに表面が濡れた、滑らかな壁のようなものが当たる。

「あら……? この子、今動きましたわ」
「そうか? 私も見……いや、触れたいのだが」

 聞こえにくいが、確かに聞こえた言葉に硬直した。最初が女の人の声みたいで、次が男の人の声みたいだった。女の人の声は、自分の中に響く感じがするような……太鼓が刻むリズムが少しだけ早くなる。砂嵐も同じように早く。
 砂嵐にも聞こえるけど、この音どっかで聞いたような……。
 そう考えてからはたと気がつく。ビニール袋をガサガサする音に似ているんだ。
 そういえば赤ちゃんがビニール袋のガサガサ音で落ち着くのは、子宮の中の音に似ているからだっていうのを聞いたことがあるなぁ……。って、ちょっとまって。
 ここ、子宮だったりするの? まさか、地面だと思ってたのは胎盤?
 とりあえずお腹のあたりを探ってみると、何かがヘソのあたりから伸びている……おそらく、へその緒だろう。さっきから聞こえるビニール袋のガサガサ音のような、砂嵐のような音はきっと血流で……太鼓のような音は、きっと『お母さん』の鼓動だろう。
 母さんがまだ生きているのに、お母さんが新しく出来てしまった。なんて奇妙な体験だろう。
 慌てていると、暗闇が僅かに明るく、赤みを増した。緋、と表現するのが正しいような色合いの壁から、黒い影が近づいて来る。某名探偵の犯人みたいだ、とか思ったのは内緒。

「父様、このような所では寒うございますわ。この子も驚いて暴れだしたようですよ」
「私の子だぞ、それくらいは大丈夫だろう。……元気な子を産めよ、リーベ」
「素敵な男性に育つような、立派な男子を産みますわ。期待していてくださいませ」
「それは嬉しいな。ミサも喜ぶだろう」

 穏やかな会話な後に、優しい笑い声が響いた。夫婦仲は良いようだ。ひとまず安心した。
 ……母さんも、こうやって私を産んでくれたのかな。
 じわりと涙が生まれて、周囲の水——おそらく羊水——に溶けて消えた。
 お母さんは、女手一つで私達を育ててくれた。家族のために仕事を頑張るお母さんだったけど、どうしようもなくそれが寂しかった。
 凍葉は我慢しなさい、って言って平然としていたから、余計に。
 シングルマザーだからって小学校では虐められて、そんなの気にせずに支えてくれた人達がいなければ、私は中学校で不登校になって、中卒でどこにも就職できず、部屋の中に閉じこもったまま一生を終えていただろう。
 仕事のストレスが溜まっているのか、男みたいに乱暴な口調の母さんは、いっつも出来のいい凍葉ばっかり褒めて、私には「もっと頑張れ」って言うだけだった。
 私はもう頑張っているのに、これ以上何をがんばれっていうの!? ってキレて、反発したことも何度もあった。
 普段、母親がいることが当たり前になってて、母さんは私みたいに出来の悪い子じゃなくて凍葉みたいに出来のいい娘がもうひとりいたほうがいいんだ、なんて思うようになってた。
 だから、忘れてたんだ。子供が親に望まれて生まれてくることを。
 母さん、親不孝な娘だったね、ごめんね。もっということ聞いて、イイ子にしてればよかったね。
 お母さん、まだ顔も見てないけどさ、精一杯親孝行するね。
 今度は、後悔しないように、一生懸命……自分の道を生きて、お母さんを大事にするから。
 あぁ、こんなことになるんだったら育児関係の本とか読んでおけばよかった。でも夜泣きをしないようにってことはわかるから、頑張ろう。
 まず、最優先事項は……からだの向きを変えることだな。逆子で難産とか、イヤだしね。

Re: この話、内密につき ( No.8 )
日時: 2013/02/10 00:09
名前: 唯柚 ◆0Tihdxj/C6 (ID: 8HTDhaI.)

おいもえなちゃん、さっきお母さん男子って言ったぞ男子って。

Re: この話、内密につき ( No.9 )
日時: 2013/02/10 09:55
名前: 卵白 (ID: bMBSwVLq)

>>8
まだもえなちゃんは『自分望まれて生まれるんだURYYYYY』的な感動に浸っているので、男子発言まで頭回ってません。きっと脳内補正かかってます。
所詮中学生ですからね!

Re: この話、内密につき ( No.10 )
日時: 2013/02/10 10:52
名前: 卵白 (ID: bMBSwVLq)

 子供一人を置いておくにはいささか広すぎるような洋風の部屋に、上質なベッドがど真ん中にちょこん。庶民が見れば「なにこれスペースの無駄遣い」と言うような、そんな空間。
 庶民の筆頭である私は、そのど真ん中に配置されたベッドの上で、居心地悪そうに身を捩らせた。
 どういうわけか、ラノベ的な転生を果たしてしまった私は、誕生から五年経ってしまった。
 私には、出産から三歳になるまでの記憶が一切ない。ショックで忘れていたのだろうか? 乳児の時の記憶はすこーんと抜けているのは、すごくありがたかった。
 何もしなくても熱を出してしまうこの体が、ひどく憎たらしかった。熱を出すたびに母上(母上と呼ぶように執事達に言われた)が、心配そうな顔をして、慣れない手つきで自ら世話をしようとするのが、嬉しくもあったし、申し訳なくもあった。
 熱を出すのは、大人でないだけマシかもしれないが、多分脳みそが私という『少女』の思考についていけないからだろう。もしかしたら単なるストレスかもしれないが。
 口から溢れ出たため息に苦笑して、ベッドから起き上がる。起き上がろうとして着いた手が、低反発のベッドに沈み込んだ。
 ふっと近場の窓を見やるとまだ月が見える、ちょっと早すぎたかな? なんて思いながら、現代にあるようなものよりも、ちょっと近未来的なデジタル時計へ視線を移す。……どうやら私じゃない私の記憶も、体には染み付いているようだ。おおう、六時でこの暗さ? ってことは今は冬か、どうりで寒いわけだ。
 ぶる、と震える体を両腕で抱いて、肩口を摩る。

「失礼いたします」

 その声と同時に誰かが入ってくる。驚いて視線をドアの方向に向けると、金髪碧眼のイケメンで……私の専属執事である、バートラムがいた。彼はにっこりと微笑むと、優雅な足取りでこちらに歩み寄り、恭しくお辞儀をする。

「今日は体の具合は如何で御座いましょうか。具合が悪いようでしたら、朝食は此方にお持ち致しましょうか?」
「ふむ、こちらでたのめるか?」

 いつものように私が五歳児らしくない口調で要望を口に出すと、彼はなんでもないことのように「畏まりました」と頷いた。そして「失礼します」と断りを入れてから私に触れ、それに気がついて両手の力を抜いた私の寝巻きを手際よく脱がせていく。
 この家の家族構成は父上、母上、姉上、つい先日生まれた弟、そしてそれぞれの専属執事たちと、その他の執事や庭師やら調理師やら。
 近代的、というよりは些かそれを追い越したような科学技術。多分、というか確実に私のいた世界とは違う世界だろう。
 それでも、平然としていられるのは私がもともとは物書きで、空想の世界に夢を見ていたからだろうか。

「申し訳ございません、お立ちくださいますか?」
「ん、あぁ…ありがとう。すまないな」

 視線を落とすと、白のブラウスに水色のベストといった簡素な服が着せられていた。主人に全く不自由させないで着替えさせるバートラムは、もはや執事の鏡といってもいいだろう。
 ベットからのっそりと立ち上がって、寝巻きのズボンを脱ぎ捨てる。バートラムがそれを回収して、黒の半ズボンを私に履かせる。……最初の頃は気恥ずかしくて凄く抵抗したけれど、もう慣れてしまった。簡潔に言うと諦めた。
 再びベッドに座ると、ズボンと同じ黒の靴下と靴が素早く履かされた。
 どっかの悪の貴族みたいな服装は、バートラムの趣味ではなく、両親の趣味だそうな。

「着替えが完了致しました。朝食を持って参りますので少々お待ちくださいませ」
「ごくろう。なるべくはやくたのむ」
「御意に」

 バートラムは一歩下がって丁寧にお辞儀をしてから、私の寝巻きを持って部屋を出る。再び一人になった部屋はがらんとしていて、落ち着かなさに拍車をかけた。
 ふと肩甲骨辺りまで伸びた髪の毛が目に入る。流石の天才執事バートラムでも、朝食前にこの髪に触れるのは気が引けたようだ。あの笑顔の仮面の裏で、この髪を怖がっているのかと思うと少し笑えた。

 次男としてこの間生まれた私の弟は、父上によく似た金髪と、母上によく似た緑の眼を持っていた。将来は美少年になる事間違いなし、と執事たちが褒めちぎっていたのを覚えている。
 美しい金の髪と青の目を持った父上と、亜麻色の髪に緑の瞳を持った母上は、美男美女であり、どこからどう見てもお似合いな二人だった。彼らから生まれる子供はさぞかし美しいのだろう、などと言う言葉を、私がまだ母上の胎内にいるときにさんざん聞いた。
 しかし、私は日本人らしい黒髪に黒の瞳を持って生まれた。記憶がない三歳の時まで部屋に軟禁状態になっていたため、周囲から『悪魔の生まれ変わり』なんて言われている事を知らないまま記憶を思い出し、それからは使用人や乳母の手を煩わせる事も無くなったのだから、やはり恐れられてしまった。
 どこにでもいる噂好きの者たちが母上の浮気を疑っていたけれど、母上はそんなことをする人じゃないっていうことを、私は理解している。あんなに仲睦まじい夫婦なのだから。
 母上はあまり会えない為よくわからないが、父上は優しく私に接してくれる。だけれど、たまに父上の目の奥に、底冷えするような冷たい感情を垣間見てしまう。
 その目は、「この子供は私たちの子供になりすましている、化物なんじゃないか」ということを雄弁に語っていた。
 そんな考えに怯えて、私は過呼吸を起こして倒れてしまう。随分な虚弱体質になったものだ。……実質、父上の目を見ただけで倒れているのだから、父上に良い感情は持たれていないだろう。
 そんな日常を改善するために、私は父上と母上にすべてを打ち明ける決意をした。このまま、あの優しい両親を怯えさせたくはないからだ。
 バートラムには昨日、私が父上と母上へ、三人だけで会いたいと、そう言っていることを伝えてもらった。今までワガママを言わなかった子供が初めて言うワガママ。そんなふうに捉えられているだろう。
 バートラムが私を嫌って、変な対応をしているから……なんて、思われないことを祈る。バートラムはとても優秀な執事なのだから。

「朝食をお持ちしました」

 噂をすればなんとやら、というやつだ。バートラムが、料理の乗った小さなワゴンを引いて現れた。
 私は腰掛けていたベッドから立ち上がると、部屋に備え付けられた椅子に座り、背もたれに体を預ける。
 バートラムが料理を一つずつテーブルの上に置いてから私の背後に回って椅子をテーブルから僅かに遠ざける。
 そして、僅かに震える指先が私の髪を纏め始めた。震えているとはいえ、そこはやはり天才執事としての誇りなのか、手際よく結い上げていく。
 数分もしないうちにポニーテールが完成し、アンティークな装飾がついた鏡を目の前に差し出される。

「ありがとう」
「礼には及びません」

 振り返って礼を言うと、バートラムは穏やかに笑う。いつもと同じような微笑には、安堵の色が見て取れた。
 バートラムが椅子を押してテーブルへ近づける。用意された料理は薄味のものばかりで、私好みのメニューだ。いただきます、というと怪しまれるので心の中でつぶやいてから、スプーンを手にとってスープから口を付ける。
 お腹は空いていないのだけれど、このあと両親と話すのだから、と思って無理やりにでも腹に詰め込む。
 バートラムは、脇に控えたままそんな私の様子をじっと見ていた。


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