複雑・ファジー小説
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- ※救世主ではありません!
- 日時: 2013/08/25 18:24
- 名前: 朝陽昇 ◆5HeKoRuQSc (ID: Drat6elV)
(注意書き)
一応、異世界ものです。
ちょこちょことグロ等挟みます。苦手な方はご遠慮ください。
荒らし、誹謗中傷は受け付けておりません。
その他誤字等があれば教えていただけるとありがたいです。
更新が遅い時と早い時がありますのでご理解ください。
(目次)
『プロローグ』>>1 >>2
第1話『終わりから始まりへ』>>3 >>4 >>5 >>7 >>8
第2話『現実と思ったら負け』>>10
- Re: ※救世主ではありません! ( No.2 )
- 日時: 2013/08/25 12:04
- 名前: 朝陽昇 ◆5HeKoRuQSc (ID: fqLv/Uya)
世の中の人間は俺のことをさぞかし滑稽だと感じるだろう。
誰にも分かるわけない。分かるわけがないんだ。
別に理解してくれなんて頼んだりはしないし、これからも俺はこの性格のままで居続けるだろう。
何も、困ることはない。何故なら、それで満足しているから。俺はこういう人間なんだと、開き直ってさえいるから。
他人がいじめられていたら、勿論見捨てる。標的が俺に代わりたくないからな。
友達が助けを呼んでいたら、勿論知らないフリをする。面倒だからな。
クラスメイトと行事で一致団結を叫んでいたら、勿論心の中で断固として拒否する。適当にやること終わらせて居ても居なくても関係ないように振る舞い、さっさと帰りたいからな。
自分でもクズだと思う。周りに合わせて、内心はくだらないとバカにしてる。
それでも、俺は間違っているとは思わなかった。どれだけクズだと理解してたとしても。
家に帰れば、"あの世界"があったから————
「何で、いなくなったんだよ……!」
パソコンの目の前に項垂れる俺。
画面は既に『LOAD OF BRAVE』の世界が広がっている。だけど、フレンド欄の中にあるはずの"タク"という名前が消えていた。
どういうことだよ。連絡をしようとしてもまるで返事が返ってこないし、連絡が取れなくなってからもう一週間は経つ。
そんなに俺がキレたことがムカついたのか? 確かにそんなことは今まで無いっていってもおかしくなかったけどさ。俺がそういう人間だってことは既に気付いていたはずだ。だから一緒にツルんでたんだろ? なぁ、おい。聞けよタク。
「どこにいったんだよ……!」
頭を抱えて悩んでも、何も浮かんで来るはずもない。
だから俺は既に調査を開始していた。あいつがどこに行ったのか、どうして消えたのか。
一度『LOAD OF BRAVE』がサーバー不調で一時運営をストップしていた時、そういった場合の為にも連絡手段として電話番号を教えてもらっていた。俺が携帯を持っていないということもあって家の電話番号で、タクが失踪してから三日後にかけた。
もしもし、と電話に出たのはタク本人ではなく、タクの母親だった。聞いてみたらタクは家にもいないらしい。
外出した形跡も無く、どこかに消えてしまったかのように帰って来ていないんだそうだ。タクの母親は泣いていた。
何度か電話した経験があり、母親が出ることもあって多少面識のあった俺だったが質問攻めが始まる前に早々と撤退した。
その他、様々なことを調べてみると、色々と分かったことがある。
タクは誘拐されたわけではなく、外出せずに失踪したということ。靴もちゃんとあるし、それらしい形跡も見当たらないらしい。
警察には既に届出を出しているということ。それから一週間後の現在でもタクは見つかっていない。
全く関係ないように思えた『LOAD OF BRAVE』のフレンドリスト欄からタクの名前が消えていたということ。あれは故意でやらなければ削除することは出来ないが、俺のフレンドリストの中からもタクの名前は存在しなかった。
つまり、タクはゲームの中でも失踪したことになる。
俺の単なる仮説に過ぎないが、ひょっとしてタクはゲームの中で何かに巻き込まれたんじゃないかと思い始めてきていた。
パソコンの画面前で突っ伏す俺はそんなことは有り得ないと思いながらも考える。タクはゲームのことで何か気になることを言っていなかったか。
そこで考えついたのは、"あのクエスト"。
「……あの胸糞悪いクエスト、もしかして一人でやったのか……?」
もしそうだったとしても、失踪とは何の裏づけにもならない。そんなことは分かっているが、調べずにはいられなかった。
パソコンでインターネットを開き、すぐに検索をかけた。胸糞悪いクエスト名だったから覚えている。
結果は、何も無い。どこにもそれに該当しそうなものはなかった。多くは『LOAD OF BRAVE』と関係のないものばかりだ。
「クソッ……やっぱり、違うのか……?」
夢みたいな話だよな、と心の中で自分を笑う。
ゲームの中に巻き込まれた? バカかよ。それこそ夢見すぎだぜ。第二の世界としては見れるけど、まさかこちらの現実にまで支障をきたすものではないだろ。たかがオンラインゲーム如きで。
再びゲームの画面に戻る。ゲームの中に手がかりなんてあるはずない。そんな風に思いながらも何故か俺はゲーム画面に戻った——その時、
ピコンッ。
音が鳴る。それと同時に、俺の心臓の音も一際大きく聞こえた。
画面右上を見る。そこには、"タク"と書かれた個人チャットに繋がるそれが出ていた。
「ッ、え、ぁ」
驚きのあまり、声が出ない。探していた当人からまさか個人チャットが来るとは。あれだけ探しても検索にかけても見当たらなかったタクが存在している? そんなバカな。マジで?
マウスを持つ右手が震える。心のどこかできっと俺はタクを見捨てていたのかもしれない。あいつは救世主とやらが好きなんだろう。だからあんなクエストをやろうと持ちかけてきたんだ。だから罰があたった。……そういうことにすれば、俺は無関係じゃないかって。
けど、タクの方から来た。まるでそれを許さないと言っているかのように。
唾を大きく飲み込んだ。今回はワクワクなどしていない。今度こそ、緊張しまくってる。心臓が飛び出しそうなぐらい、もうやめてくれと叫びたいぐらいに。
「はぁ、はぁ……」
息が乱れ、ようやくカーソルがそこにたどり着き、クリックを押すまで何分かかったのかというほど長く感じた時間を空けて、開いた。
『"タク"さんからクエスト《救世主になってみませんか?》の招待が送られました。参加しますか? YES/NO』
心臓が跳ねた。
あのクエストだ。何の説明もなしに、突然招待? ふざけるなよ。説明しろよ。
無心に手を動かし、文章を作り上げていく。途中で何を言おうか迷った時もあったけど、とにかく文句を言いたかった。
シュン:お前一体何してたんだよ
※エラーです。
……は? 何だこれ。
もう一度繰り返す。
シュン:何してたんだ
※エラーです。
わけがわからない。どうしてエラーになる。フレンドじゃなくてもチャットは出来るはずだぞ。ボイスチャットはフレンドにならないと出来ないけど。
今までこんなあからさまにエラーを表示されたのは今までずっとやってきて初めてのことだった。
「ふざけんなよッ!」
声を荒げてデスクを思い切り叩く。痛い。手のひらがヒリヒリする。
痛みのおかげか、冷静に物事を考えられるようになった。そうだ、よく考えろ。これは手がかりだ。このクエストは胸糞悪いけど、今このタイミングで失踪しているはずのタクから送られてくるって、絶対何かがあるはずだ。
俺の仮説があっていたのかどうかは分からないけど、試す価値は十分ある。これで何も無かったら、もう諦めよう。タクはいなかったと考えるしかない。
「よし……!」
唾をまた飲み込む。でもさっきほどじゃない。緊張とかよりも、やってやろうと思ういきり立った気持ちが俺を後押しした。
マウスを動かし、YESをゆっくり、しっかりとクリックした。
瞬間、画面が一気に真っ暗になった。
「は? え? ……あぁっ!? やっぱりバグかよチクショウ!! ふざけんなよ! タチの悪いイタズラしやがっ——!」
真っ暗になったパソコンの画面を思わず両手で左右の末
- Re: ※救世主ではありません! ( No.3 )
- 日時: 2013/08/13 11:44
- 名前: 朝陽昇 ◆5HeKoRuQSc (ID: Drat6elV)
目が覚める。瞼は自分の意思で開くというより、辺りのまぶしさによって反射的に開いた。
どういうわけだか、目の前に青空が広がっていた。それに加え、何だか全身がとても痒い。何だこれ、どこだここ。
ゆっくり腰を起こしてみる。いてて、何だか久々に動いた感覚がするなぁ。あれ、何か手に触れ……土?
「え? 外?」
思わず呟いた。
見渡すと、辺り一面草むらだらけだった。木々もそこそこあって、といったところだ。
よく前方を見つめると、少し遠目に草むらとは全く異なった洋風の町並みが並んでいた。それもなかなかお洒落な感じの雰囲気で、例えるとファンタジーもののゲームで出てきそうな外国風な町並みってところか。
それも、なかなかの規模だ。建物が立ち並んだそれは一列だけでは勿論なく、多くの家々が連なっている。ここどこだよ、まさか夢か?
「それにしてもリアルな手触りだな」
手に触れたままの草を千切ると手の中に収めた。この手触り、間違いなく草だ。絶対そうだと確信できる。
俺は今リアルな夢を体験しているのか? あれ、元々俺何してたんだっけ。寝てしまったのか? 何をしていて寝てたんだ? よく思い出せない。
とりあえず立ち上がることにする。着ている衣類を叩いて付着した草を……と、ここで俺の服装に気付いた。
「俺の寝巻きじゃん」
見ると、まんま俺の寝巻きである浴衣スタイルだった。半そで半パン状態の藍色の浴衣寝巻きはまさしく俺のもの。
あー、なんとなく思い出してきたぞ。そういえば俺、パソコン弄ってたんだった。それで……そうだ、タクだ。あいつのことを調べてて……それで、どうした?
「あの時、もう夜だったよな……」
タクのことを調べていたあの日、既に夜だった。だからこうして寝巻き姿になっているわけだけど、どうして外にいて、それにこんなに青空が燦々としているんだ?
気になることはまだある。万が一俺に何らかの記憶に障害がもたらして、外に出ていたんだとしても、どうして裸足なんだ。だから足がさっきから痒い。あぁ、痒い痒い! どうして草むらで寝てんだよ!
「ったく、何だよこの状況。どんな夢だよ」
一人でツッコんでみるが、大して混乱しているわけでもない。とりあえず、足が痒いぐらいが今の所困っているぐらいで、多分今頃俺はこの足の痒さにベッドの上でうなされていることだろうと思ってる程度。はぁ、目覚めたら速攻でムヒでも塗るか。
とにかくこの痒さは草むらのせいだと思い、街の中はレンガで道が造られているようで痒さを凌げるだろう。さっさと街の中に入ることにする。
「ん……? 何だ、あれ」
と、街に少し入ってから前方より何者かが走ってきていた。
そういえば、街の奥の方は賑わってる感じがするのに、どうしてだか俺のいる場所はまるで人気がない。なんつーか、無人街みたいになってる。
それに入ってみて気付いたことだが、見た目以上に広い。見渡す限り家家家家、と民家が立ち並ぶ。それも家自体が何だか洋風チックで一つも日本という感じがしない。俺ってば日本人ですよ? 誰か日本人いないの? もしかしてここテーマパークかなとか思い始めてきた。
そうこうしている間にも前方から走ってくる人影は俺に近づいてきていた。おい、待て、こっちくんな。
「はぁっ、はぁっ」
息を乱している様子だけど、何をそんなに慌てているんだい、と声をかける暇はない。っていうかただ単に関わりたくない。だから何度も言うようにこっちくんな。
「おいおい、とまれって——ぁ」
と、危ない。後ろにあった石で躓きそうになった。体勢を少し崩し、目線を自分の足元に移した次の瞬間、
「あっ!」
「うぉぉっ!?」
前方から近づいてきていた奴が俺にぶつかった。いや、避けろよ。何してんだよ。俺は避けたくても避けれなかったのに、お前が避けないでどうする。何余所見してんだよ、とか色々言いたいことが詰まっている中、俺は押されるがままに後ろへ盛大に尻餅をついたというわけだ。
俺にぶつかった奴はフードを被っていた。見た目的に子供だな。フードのせいで男か女か分からない。服装も何だか女装なんだか男装なんだかよく分からない格好をしていたから服に詳しくない俺には全く分からない。
で、そいつは俺の激突して前のめりにこけていた。俺は尻が痛く、こいつはきっと膝か顔面が痛いことだろう。
「っ、何突っ立ってんのよ!」
突然こいつは俺に向けて怒鳴り始めた。声的に女だろう。随分と生意気な野郎だ、お前からぶつかってきたクセに。
「は、お前が勝手にぶつかって——!」
「やぁっと捕まえたぜぇー!? お嬢ちゃんよぉ!」
誰だよ、俺の言葉を遮った奴は。俺の文句を遮る奴はどんな奴でも——とか言おうとしたけど、やっぱやめておく。
いや、だってほら、いかつい顔してゴツい体をした男が二人、斧とナイフをそれぞれ持って突っ立ってるんですもの。そりゃ言いたいこと言えませんわ。嫌な世の中になりやがったもんだ、本当に。
「は、はは、こんな朝っぱらから強姦? 元気いいねぇ、君たち」
「あ? 何だこいつ?」
……やばいやばいやばい、こいつの顔本気で怖い。なんだよ、そんなマジで怒ることないじゃんか。冗談のつもりなんだから、そのノリで返してこいよ! 何斧とか持っちゃってんだよ。プラスチックとかでよく出来た奴か? 自分で憧れて自作しちゃったのか? こいつそう思ったらどんだけ厨二病なんだよ、俺も人のこと言えないけどさ。
「あ、ああの、じゅ、銃刀法違反ですよ……?」
「何意味わかんねーこと言ってんだてめぇ」
「け、警察に突き出すぞ! いいのかよ! 傷害罪でお前ら臭い飯食うハメになるぞ!」
「だから何言ってんだって言ってるだろうが! あぁんっ!? 殺されてぇのか!」
「ひぃぃ!! すみませんすみません! ごめんなさい!」
すぐに頭を下げて謝るナイス俺。じゃないとマジで殺されるわ。こいつの目、おかしいもん。狂ってるよ。いくら斧がプラスチック製だからといって、こいつに殴られたらきっと痛い。ボッコボコにされたら病院送りは間違いない。こいつの筋肉だけは認めてやるよ。
「どうする、殺っちまうか?」
「待て。いくら無法地帯のこの場所でも死体は控えた方がいい。……おい、お前! その後ろにいるフードの嬢ちゃんをこっちに渡したらお前は見逃してやっても構わねぇ! どうだ?」
斧男の後ろにいたナイフを持った男がナイスな交渉を持ちかけてきた。マジナイス。俺助かるじゃん。後ろのこいつって、フードのあいつだよな。ぶつかった奴が悪いんだし、俺は関係ねーし。いくら夢でも、起きた時に心臓に悪くないように殺されたくないんだ。
だから、俺は迷わず選ぶ。
「よし! 分かった。それじゃあお構いなく——!」
「あんた達に"あれ"は渡さない!」
って、お前遮るなよ。人の言葉をよ。せっかく俺がお前をエサに逃げようとしてんのに。
立ち上がって威勢よく男たちに指をさし、堂々と胸を張ってるが……こいつ、よく見ると小刻みに震えてやがる。はは、ざまぁねぇよ。お前が俺にぶつかるからだ。怖いだろうけど俺の為に勘弁しろ。
俺も立ち上がってまた話を続けることにする。
「……で、こいつを引き渡すから」
「はっ、この状況で何を言ってやがる」
「……だから、その代わり俺を助けてくれるってことで」
「私は今"あれ"を持ってない! 残念だったわね。あれは私の友人に託してある!」
……ん? あれ? 話通じてる?
「そういうことで、いいよね?」
「なんだと……!? ……おい、予定変更だ。こいつを人質にしてそいつを誘き寄せよう」
あれれ? これ俺の話聞いてもらってないんじゃね?
「え、いいよね? ちょ、話を——」
「さっきからうるせぇな! てめぇは後でゆっくりぶち殺してやるから大人しくしとけ!」
「そ、そんな! は、話が違うだろッ! ふざけんなよぉっ!」
男たちは下衆な笑みを浮かべる。最初から俺を逃がすつもりなんてなかったんだ。引き渡したと同時に俺も始末するつもりで……。
「とりあえず、手足を切り刻むか。動けないようになぁ」
斧男が斧を頭上で構えた。狙いはフードのやつじゃなくて、勿論その前方にいる俺。
全く身動きがとれない。逃げたい、逃げたいのに、どうして動けないんだよ、マジでふざけんな。痛い思いするの嫌なんだけど、夢だって分かってても斧で惨殺とか嫌だわ。誰が望んでやるかよ。
だから動いて! マジで動いて俺のあ——
「あ、あんた責任とって守りなさいよ!」
「ぁ、あ!?」
どんっ。
俺の体が前のめりになる。背中が押された。そう、フードの野郎に。そして、目の前には勿論斧が見えてる。
おいやめろバカ何してんだ俺死んじゃうだろうがやめろ今すぐやめろって、願っても既に走馬灯も見えてくる頃か。斧が、もうすぐ、俺の体に。自分から死ににいった、俺の、体が、
「あ、ぁ、ぁああああああ!!」
「なぁっ!」
だが、予想外のことが起きていた。
俺が前のめりになった瞬間、見えなかった男の顔は驚きに歪み、斧男の後方にいたナイフ男も身動きがとれない。
その中でも動いたのはただ一人、俺であって、斧男の中腰辺りに俺の両手の平で勢いのまま押した。
どんっ、と俺が先ほど味わったように斧男も同じように、斧男は後ろに倒れていったのだ。別に言い方をすれば、ドミノみたいなにして俺たちは倒れていったわけだ。
そして、斧はそのまま後ろにいたナイフ男の左肩に激突し、軽々とその身の肉を斬り裂いた。
「ぎ、ぎぃやああああああ!!」
ナイフ男が叫び始めたのと、血が吹き出るのと、斧男が尻餅をついたのはほとんど同時のことだった。
ナイフ男の肩から血が噴水のように噴出した。斧は肩に刺さったまま、ずぶりと嫌な音を立てては更に中を抉ろうとする。肉が裂けて血がとめどなく流れ落ちていく。
なんだ、これ。これって映画の撮影の1シーンか? 俺って映画撮影の現場に巻き込まれたの? これがあれか、噂の血糊。初めて生で見たけどやっぱ凄いリアルだな。この血生臭い、鉄の臭いとか、もう本物と同じじゃねぇか。
「ぁ、あ……」
心の中で色々思ってはいるものの、実際結構心拍数がやばいことになっていた。ちゃんと肩に刺さって、血……じゃなくて血糊が吹き出たし、仕組み的なのも気になったけど、とにかくこの助かったという状況がリアルすぎて興奮していた。
「い、急がないと……!」
後ろにいたフードの奴は何か呟くと街の中に逃げて行く。お前どこに行くんだよ、とか声をかける余裕も無かった。
「ち、ちくしょう! てめぇ、よくも!」
恨みのこめられた目で俺を睨んでくる斧男。相変わらずナイフ男の肩からは血が吹き出て、口からは泡を噴き、目は白目を剥いて失神しているようだった。
「ち、違うだろ!? それは俺がやったんじゃなくて! お前じゃねぇか!」
「黙れ! 絶対お前だけは許さない……!」
何でそこまで憎悪の対象にされなくちゃならねぇんだ。俺は巻き込まれただけだぞ?
っていうか、これ全部演技なんだろ? 女優が逃げたぞおい。追いかけなくていいのかよ。撮影中止だろ? さっさとドッキリならドッキリでした看板でも出せよ。
「強いて言うなら責任は俺じゃなくてさっき逃げたあいつだバカ野郎! さっさとあいつを追えよ!」
ゆらりと立ち上がった斧男の表情は——明らかに正気じゃない。これは俺でもわかる。演技じゃない。何で、演技じゃないそんな本気の表情してんだよ。
俺は悪くないだろ、悪くない。何だよ、何で俺ばっかり——
「うぉぉおお!」
「うわああああ!!」
斧男が飛び掛ってくるのを間一髪で避けると俺は走り出した。おぼつかない足取りで走って、走って。運動そのものはあまり得意じゃないから結構しんどい。
奥に行くたびに賑やかな様子が増えていく頃になり、そこでようやく後ろを振り向くと、既に斧男の姿は無かった。
「ッざけんなよ……! 俺が何したっていうんだ……俺は悪くない、俺は悪くないだろ……」
映画の撮影だか何だか知らないが、本当に勘弁してくれ。俺にはあそこまでハードな芝居は無理だ。突然のアドリブとか俳優業でもやってないとキツいわ。
……ところで、ここは一体どこなんだろうか。やたらと人も増えて、町並みも豪華になってるんだけど。
はぁ、マジで早く家に帰りたい。本当にどこなんだよ、ここ。
- Re: ※救世主ではありません! ( No.4 )
- 日時: 2013/08/15 00:05
- 名前: 朝陽昇 ◆5HeKoRuQSc (ID: Drat6elV)
行き交う人々と雑踏、連なる商店の数々、そして裸足で寝巻き姿の俺。
やたらと綺麗な町並みに、バザーみたいな感じで商品を見せびらかし、接客する為の掛け声が入り混じる。その熱気はまさに都会といえるぐらいのものだ。
「どこの外国だ、ここ」
いつまで経っても解けない夢にため息を吐いて周りを見渡す。どこもかしこも人、人、人、人って感じだ。
暑苦しいな。この姿でも結構汗が垂れてきた。目覚めた時の俺は一体どれほど暑苦しくて足が痒いことだろうと目覚めた後が心配になってきた。
「らっしゃいらっしゃい! リンキーの実が沢山入ってるよぉ! 格安だよぉ!」
丁度俺から見て一番近い売店のおっちゃんが声を出した。頭にはインド人みたいなターバン的なの巻いて、中は何も来てなくて布で作られた素朴な服を一枚羽織る程度で下はぶかぶかの薄茶色のものだ。
やっぱ外人? ここインドか? それにリンキーの実って何だ。聞いたことないぞそんな果物。
「すみません」
「おうっ、いらっ——うん?」
リンキーの実に対する興味とこの場所に関して情報を聞く為に声をかけると、おっさんは怪訝そうな表情で俺をまじまじと見つめてきた。
「……何か?」
「いや、見慣れない格好をしたにいちゃんよ。あんた、頬に"血"がついてるが、喧嘩でもしたのかい?」
「え?」
おっさんに言われるがまま、俺は頬を拭った。
「な、何だこれ……」
手には赤い液体が付着していた。きっとナイフ男の血が俺の頬まで飛んできたのだろう。血糊だと分かっているけど、何だか不気味だな。
それにしても、この臭いといい、このベットリ感といい、何もかもが血にそっくりだな。血糊って最近はここまでリアルなのか?
でも何か汚いな。血に似すぎて、嫌悪感が拭えない。どこかで洗い流したいところだ。
「あ、あぁ……これは血糊だよ。さっき撮影現場に巻き込まれてさ。ここらへんで何か映画でも撮ってんの?」
「……? 何を言ってるんだ、にいちゃん」
あれ、通じてないのかな、言葉が。やっぱ外人か? でも会話できるよな……こいつ相当な田舎から出てきたに違いないな。撮影現場に巻き込まれる自体がそもそも信じられないんだろう。
「まあいいよ。ところで、ここはどこか分かる? 自分の家にいたはずなんだけどさぁ」
「あぁ? お前、ここがどこか分からないって……どこから来た?」
急に態度を変えたように言ってきたおっさん。
「いや、だから。俺は自分の家にいたんだって。ここ日本のどこだよ!」
「さっきから何を言っておるのかさっぱり分からんが……ここはエクリシア大陸の中枢部分に位置する大王国の一つ、ティファリア王国だぞ? まさかエクリシア大陸五帝王国の一つを知らんとは……世間知らず以上に、どうやってここまできたんだ、そんなド田舎者が」
「はは、またまた。そういう設定か? もしかしてあんたも映画関係者?」
「……もういい。店の前に立つな。他の客の邪魔だ!」
「そ、そんな怒鳴らなくてもいいじゃねぇか……! 分かったよ、どいてやるよ!」
おっさんの店から遠のく。何だよ、一体。そこまで怒らなくてもいいじゃねぇかよ。設定に凝り過ぎても演技に支障が出るだけだぞ。
「他の奴に聞いてみるべきか……」
もっとまともな奴がいないのかと辺りを見回すが、皆この空気に溶け込んでる感がある。ダメだ、もしかしてこいつらエキストラ? 映画関係者どこにいるんだよ。
「おーい! 映画撮ってるならちょっと待ってくれー! 俺は無関係の人間だから!」
中心らへんぐらいで大声を出して言ってみることにした。
周囲の雑踏や騒音で全く俺の声は響かなかったが周りにいた人間は足を止め、俺の方を向いた。
「何だ? あいつ」
「見慣れない格好だな。どこの国出身だ?」
「もしかしてラザリア帝国の奴じゃないだろうな」
「不法侵入者か? よく見れば頬に血がついてるぞ!」
予想以上に人目についた。何だよ、お前らその目は。映画のエキストラじゃないのか?
「ちょ、す、すみませんでした!」
とりあえずその場から去ることにする。
その道中、
「うぉっ」
何者かとぶつかって、俺は再び尻餅をついた。ぶつかった相手はよく見えなかったが、人ごみの中に紛れて尻餅をついた自分が恥ずかしい。
「ん……? 何だ?」
手元に転がってきていた碧色に輝く石を見つけることは容易かった。
誰かが落としたのか、もしくは元々落ちていたのか分からないがこんな人混みに溢れた中でこの宝石が地面に置かれていたとしても気付く人間は少ないんじゃないだろうか。
「おいっ、何座ってんだ! 邪魔だ!」
「い、いってぇ!」
がたいのいい男が俺の背中を蹴ってきやがった。てめぇ、覚えてろよ。後で……どうにも出来ないけど。返り討ちにされるのがオチだけど。
「チッ、まあいいや。お前はどうせ乱暴なことしか出来ない奴だ……」
自分でもわけがわからない負け惜しみを言ったところで握り締めた碧色の宝石を無意識に懐に仕舞いこんだ。
っていうか、本気で困った。どうすりゃいいんだ。これ夢なのに全然解ける気配しねぇし、ここが何だ? 大陸やら王国やら、夢見すぎ乙な設定だしさ。ていうか、世界中にここまでゲームみたいな世界が存在しちゃってるってのが信じられないわ。こんな場所あるんだな。
「お、あれは……」
少し歩き続けた俺の目の前には今まで気付かなかったのが嘘のように立派な白い城が奥の方に見えた。
あそこに辿り着くまでまだまだ歩かないといけないけど、本当に広すぎだろここ。民家が立ち並んでたりして、あの城自体でかいし、まだここ以外にも地区が存在しそうだ。
「あぁ、分かった。ここはテーマパークか。新アトラクションか何かだろ」
戯言のように呟きながら、推測してみる。
きっと俺は何らかのクジにあたって招待でも受けたんだ。それで、こっそり俺を部屋から連れ出し、テーマパークに連れて来た。それから放置プレイと決め込んだわけだ。何だよ、言ってくれればもっと気持ちよく招待受けてたのに。
あれ、でも何か俺忘れてないか?
「……ま、いっか」
それより今はテーマパークを楽しもうじゃないか。人混みは相変わらずだけど、それでも着実と白い城に近づく。もうすぐだ、これが夢だとしたら最後にはちゃんと楽しまないと意味ないじゃないか。もう何年もテーマパークなんてとこには行ってないんだから。
「はぁ、はぁ、見えてきたぞ」
息切れが酷い。あの人混みの中をよく耐えたと自分を褒め、今すぐにでもこの場に座り込みたい、水を飲みたいと思うが、その努力も後もう少し。城は目と鼻の先まで来ていた。
城に続く長い白で彩られた道が城門へと一直線に続いている。……ように見えたが、よく見たら何かがおかしい。
「あ……? 道が続いてないぞ? てか……なんで城"浮いてんの"?」
何の科学技術を使用したか分からんが、確かに城は浮いていた。丘の上にあるもんだとてっきり思っていたが、そうではなく、白色の道と城との上下の格差は大きく、長さも半ばで途切れていた。
「どうやって城の中に入るんだよ……凄いアトラクションだな、こんな城見たことねぇよ」
どうすれば入れるんだと思考を凝らしてみるが、特に思いつくものは何一つ無い。どころか、ここから先どうしたものかと考えている内に"万が一もしここが夢じゃなかったら"とバカなことを考えてしまう。
そんなわけないだろ。バカバカしい。もしそうだとしたら、何だ? 転生したの? 俺。異世界に来ちゃった感じ? んなアホな。出来すぎたラノベでもあるまいし……。
「君、そこの君」
大体、もしそうだったとして、何で俺なんだよ。もっと適任の奴いたろ。例えばー……あ、ほら。児島とか。あいつみたいなタイプはこういうことに憧れてるんだろうな。はいはい、主人公主人公。もぶきゃらの俺は引っ込んでいますよ。そういう世界だ、そうして世界は廻っているんだから——
「おい! 聞いているのか!」
「ッ、え? はっ?」
気付くと、兵士らしき人に腕を掴まれていた。痛い痛い痛い、なんて握力してやがるんだこいつ。離せよ、いてぇじゃねぇかバカ野郎。
「な、なな、何だよ!」
「街の者から通報を受けた。見慣れない格好をし、頬には血をつけた不審な人物がいると」
「だ、だとしても俺じゃねぇよ! どこが見慣れない格好だ! 由緒正しいジャパニーズ衣類だ! それと、頬のこれは撮影に巻き込まれて出来た血糊だっつうの! お前は血糊と本物の血の違いも分からねぇのかよ!」
「ふむ……やはり、聞いた通り意味の分からないことを口にするようだ。さっきも商店通りで大声を出してわけの分からないことを口にしたらしいな。詳しく話を聞こうじゃないか」
ぐいっ、と俺の腕を固く握り締め、凄い力で引っ張ろうとしてくる。抵抗をしてもこいつには敵わない。頭の中で分かっていても、こんな理不尽なことあるかよ。こんな理不尽なテーマパークはクソ喰らえだ。
「離せよっ!」
手を振り払おうと俺は自分の手を振り上げ、もがいた。その瞬間、
「ッ!?」
赤色の光が急に俺の手に灯り、そのまま衛兵の手を軽々と弾いた。
「え……?」
弾かれた衛兵はその衝撃か否か、地面に倒れこんで俺を焦った顔で見上げている。お、俺は何もしてないぞ!? だから何なんだよ、その目は!
「————ああー!!」
その時、不意に後ろから叫び声が聞こえた。俺の後ろ側には、浮かぶ城が突っ立っている。そして、その城の間には、何故か"先ほど存在しなかった立派な階段"が備えられていた。
城門の手前、階段を下りようとしてくる一人の"子供"とその傍に仕える屈強な兵士が二人。衛兵とは格が違う独特な雰囲気を漂わせていた。
子供が俺に近づいてくるたびに、そいつが少年だということが分かる。着ている服は何だか学者っぽい服装で、眼鏡をかけていた。髪はボサボサで薄緑色だ。珍しいな、外人でもここまでアニメに出てきそうな髪色はしてないのに。
「やっと会えましたね!」
少年は俺に近づきながら笑顔でそう言ってくるが……何言ってんだこいつ?
こんな奴は見たことも、聞いたこともない。第一なんだその服。コスプレか? にしてはサイズ合ってないぞ。よく見るとぶかぶかじゃねぇか。
俺の目の前まで辿り着くと、屈強な兵士が二人俺を左右に囲んできた。
「な、何だよ……!」
「こ、こいつ、妙な力を使います!」
衛兵が立ち上がりながら俺を指して言って来た。と、そこで兵士達が二人がかりで俺の両腕をガッチリ掴みあげた。
「み、妙な力なんて使わねぇよ! いってぇから離せ!」
暴れようとするが、屈強な兵士のゴツい腕には敵いそうにない。どれだけ腕を振ろうとしてもピクリとも動かない。
「やはり、貴方が……」
「な、何か用かよ……! お、俺は何もしてねぇぞ!?」
焦りが募る。少年が詰め寄ってくるたびに冷や汗が止まらない。どうする、どうするんだ。何だこの展開。俺は何もしちゃいねぇ! こいつはどういうわけで俺を——
「やはり貴方が、"救世主さま"なのですね!?」
……は? 今なんつったこいつ。
何で目をそんなに輝かせてんだおい。こっち見んな。
- Re: ※救世主ではありません! ( No.5 )
- 日時: 2013/08/15 13:51
- 名前: 朝陽昇 ◆5HeKoRuQSc (ID: Drat6elV)
床に敷かれたレッドカーペット。天井で光り輝くシャンデリアの数々。そんな広すぎて一人だと迷子になりそうな城内。
現実離れした数々を見た後、俺はどうしているのかっていうと。
「乱暴な扱いをしてしまって申し訳ありません……。しかし、まさか救世主さまの方から来ていただけるとは思ってもみませんでした!」
「だからお前さっきから何言ってんだよ」
豪華な一室にて眼鏡の少年と向かい合わせで椅子に座っていた。
笑顔で俺をずっと見つめてくるこいつは一体何なんだ。俺より年下っぽいが……着ている服といい、この豪華な個室や屈強な兵士を命じて俺を捕らえることが出来たり、何か偉い奴っぽい。
この部屋の中にも見るからに良質な木によって作られた本棚の数々や少年の後ろに見える豪華なベッドが目に入る。どうやら客間ってわけでもなさそうだ。
「大丈夫です、ここは僕の部屋なので、気にせずお話をしていただければ!」
「って、ここお前の部屋かよっ」
マジか。やっぱこいつ結構偉い奴なのか? やたらと豪華な部屋だぞここ。
「きっとまだ混乱していらっしゃるんですよね? 分かります。何故なら、貴方を"異世界から召還した"のはこの僕なのですから!」
「おいおい、何言ってんの? そんなわけ……」
ないだろう。ないよな? ない、はず……だよな?
口では言ってても、実際のところ焦っていた。今までの体験から撮影だとか夢の中だとか、現実逃避を繰り返してきたが、それも無理がある。もしかすると、これは全て"現実"なんじゃないかって思い始めてきていた。
かといって、夢や撮影の可能性を捨てたくなかった。撮影でなければ、俺の頬についていた血糊は本物の血ってことになるし、肩に斧がぶっ刺さって血が噴出したナイフ男のあの血は本物だということになる。
これが全て夢で、後もう少ししたら帰れると願わなければ俺はどうすればいいか分からなくなる。帰る見込みも無くなるのだ。
だけど、それにしてもだ。これ全部、現実味が無さ過ぎるだろう。
「突然のことで申し訳ないのですが、"救世主さま"に是非とも力を——」
「うるっせぇ! 俺は救世主なんかじゃねぇし、お前のご都合で勝手に召還したことにするんじゃねぇ!」
椅子から立ち上がり、少年に指をさして言ってやる。
どれもこれも受け入れていたら、もうどうしようもなくなるじゃねぇか。俺はそんなものになってやる気はないし、ここが異世界とかまだ完全に信じられるわけもない。
「僕が書物の中から見つけた異世界から召還する魔法を用いたのが先日のこと。そして今日、貴方さまが来てくださった! その見慣れない服装、只者ではない風格。どれをとっても救世主さまとしか言い様がありません!」
「だからお前、救世主って言葉をやめろ! 第一、俺がここに来たのは某マウスのぬいぐるみを着た人を待ち望んでいたわけで……。……いいからさっさと俺を帰せよ!」
「か、帰せと言われても……」
眼鏡のズレを戻しつつ少年は困ったような表情を浮かべた。何だその表情は。そうしたら何でも許してくれると思ったら大間違いだぞ。
「召還出来たんだから、戻すことも出来るだろ! ほら、今すぐやれ!」
「そ、そんな……! 困ります! 僕は、もうこれ以上失敗できないんです! お願いします、救世主さま! "救世主"になってください!」
「はぁ? お前何言って——」
バンッ、とドアが開く音で俺の言葉は遮られた。
それとほぼ同じくして兵士が部屋の中に駆け込んできた。
「で、伝令です! 街の近くに魔物が発見された模様です!」
焦った表情をして兵士が意味の分からないことを告げだす。今度はお前かよ、頭がイカれちまったのは。
「そんな! 魔石結界はどうなっているのです!」
「何故か分かりませんが、効果が著しく低下しているようです!」
「もしかしたら、召還魔法の影響で魔石の魔力も吸い取られた……?」
深刻な表情をして眼鏡少年が呟いている。内容はわけわかめ。何言ってんだよ、それってやばいのかよ。
「はは、おいおい。お前ら一体何のアニメごっこだよ。俺も混ぜろよ」
「……騎士団は各地の王族に伝令を伝えに行っているし、王も不在。こんな時に限って近隣に魔物が出るなんて……!」
「……だから、何のアニメごっこだって、言って…………。おい、それって、まずいのかよ……?」
「はい……。街は魔力をこめた魔石によって結界が張られ、それにより魔物は街の中に侵入できないようになっているのですが、今はそれが低下している状態。下手をすれば魔物が街の中に入ってくる恐れがあります」
何だよそれ。大分やばいんじゃねぇのか。
……これは夢だよな? 魔物? バカか。そんなものいるわけないだろう。もしいたとしても、俺には関係ないけど。関係ない、はずだけど。
「や、やばいんだったらさっさと何とかしろよ!」
「何とかできる場合と出来ない場合が……」
「そんなこと言ってる場合か! (俺に)危害があったらどうするつもりだ!」
「……! 確かにその通りです。(民に)危害があれば、僕は王や姫様、そして……お父様に顔向けが出来ません。きっと上手くいくはずです!」
「そうだよ! だからさっさと魔物とやらを退治し——」
「魔物を退治してきてくれるんですね! さすがは救世主さまです!」
「……あ? いや、だから。え? 何言ってんの? 俺はここから応援しとくからさ。だから……」
「こっちには救世主さまがいる! 絶対に大丈夫だ!」
「お前バカなの!? マジで頭おかしいんじゃねぇの!?」
話がおかしい。何がどうなってる。
「頑張ってください! 救世主さま!」
「だから、俺は救世主じゃねぇぇええ!」
兵士にガッチリと両腕を掴まれ、部屋の外へと連行された。
ドアが完全に閉まり、少年ただ一人が部屋に残った。
「……僕は、間違っていないはずだ。召還は、成功したはず。あの人は、きっと……救世主だ、そうに違いない……」
頭を抱えて、少年は小さく、誰にも聞こえないように呟いた。
- MCM リュック コピー ( No.6 )
- 日時: 2013/08/17 16:06
- 名前: MCM リュック コピー (ID: YrsbvNhI)
- 参照: http://mcm.bufsiz.jp/
クール記事を、それがあった役立つ。