複雑・ファジー小説
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- ノンアダルト ナイトメア【休止】
- 日時: 2014/04/19 22:28
- 名前: womille (K) (ID: 98Nvi69E)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=13304
クリック頂きありがとうございます!
名前はヲーミルと読みます。
『ステノグラフ ロケーション』の続編です!
○筆の遅さはピカイチ。ご容赦くださいw
○出来れば前作(参照)、もしくは下記のあらすじを読んでくだされば幸いです。すんません!
○感想アドバイス駄目出しなどなどコメント頂けたらすごい嬉しいです!!どしどしお願いしますっ
〜〜登場人物〜〜 ※前作のネタバレを含みます。ご注意ください。
方波見 駿 (スグル)
私立光陰高校一年B組。サキに片思い中。実は美術部。週1ぐらいのペースで絵を描いている(らしい)
能力:シャー芯射出。リロード不要。
黒松 利生 (トシ)
同。英語ぺらぺら。高身長で一部の女子からもてている(らしい)。なぜか本名は「としお」
能力:幽体離脱。声も聞こえません。
宇津木 哲 (テツ)
同。占い大好き。学校内で運び屋をやっている。椎名林檎の大ファン。
能力:脚力強化。ボルトより速い。
荒木[アララギ] 柚葉 (ユズハ)
同。男たちには毎度げんこつを食らわせている。モテるわけではない。
能力:能力予知。作者もよくわかってない(おい)
三葉[ミツバ] 早紀 (サキ)
同。モテる。スグルの好意に気づいているのかいないのか。
能力:???
ゴーク・エルデリオ (エル)
強力な超能力を持つ少年。白い髪が印象的。ザグレフの息子らしい。
能力:解放。あらゆる力を使うことができる。
ザグレフ
SPF司令。SPFの軍に光陰高校を襲撃させた張本人。
ジャック・ダーツ
キャットフィッシュ(軍用潜水艦)乗組員。
フメライから預かった空間をザグレフたちに提供し、自らも同行した。
フメライ
『神』の指示により、異次元空間の集合体である『楽園』を創った人物。
ジャックに預けた空間もその一部。ジャックによると、今は極秘監獄にいるらしい。
神
???
〜〜目次〜〜
>>1 プロローグ
>>2 序章 月光作戦
>>3 第一章 白い箱
※前作「ステノグラフ ロケーション」は参照から行けます。
〜〜あらすじ〜〜
※ここからは前作ステグラのネタバレ(というか要約)になります。
前作読むの面倒な方や、更新おせーから内容忘れちまったよっていうか訳わかんなかったよという方へどぞ!
*
全寮制私立光陰高校に在籍する方波見駿(以下スグル)とその仲間達は、ある日突然学校を襲撃される。
その犯人は、超能力を使った新兵器開発を進める『SPF』という軍組織であった。
目的は、強力な超能力を持つ人間を新兵器として活用すること。
SPFが光陰高校周辺に設置した、人間が超能力に目覚める波長を発する『爆弾』により、
スグル達はさまざまな超能力を手にするが、強い力を持ったサキがSPFにさらわれてしまった。
トシとテツはその後を追い、サキを爆弾に改造する『儀式』が行われる異次元空間へと辿り着く。
ユズハとスグルも、『エル』という名の超能力少年の力を借りて後を追うように異次元空間へと飛んだ。
儀式場が隠された施設の中でSPFの軍隊と戦いを繰り広げながら、スグルは懸命にサキを探す。
しかし、SPFにこの空間を提供した『神』と名乗る人物の手により、空間は崩壊を始めてしまう。
そんな混乱の中、ついにスグルはサキを見つけ出し、エルの力によりなんとか取り返すことに成功した。
SPFはサキを諦め、崩壊寸前の空間から離脱。
スグル達もエルの超能力を使って光陰高校へと帰り、SPFとの戦いにひとまず終止符を打ったのであった。
- Re: ノンアダルト ナイトメア ( No.3 )
- 日時: 2014/01/03 20:49
- 名前: womille (K) (ID: npB6/xR8)
第一章 白い箱
1
「お前はバカか?バカなのか?」
「やっぢまっだぁ〜〜」
男子寮304号室に帰投した三人の反省会が始まった。
トシは苛立ちを露わにして自分の机の上に座り、テツは床をバンバンと叩きながら泣き声を上げている。
スグルはトシのベッドの上で、その様子をため息とともに見つめていた。
「大体、お前みたいなヘタレが先輩に告白するなんて無理な話だったんだ」
トシがイヤホンをしまいながら言った。
「なんだって!」
テツはばっと起き上がって反駁する。
そしてイナバウアーのポーズをとりながら語りだした。
「君たちには一生わかるまい、2年A組出席番号23番汐崎南さんの魅力が!」
スグルは肩をすくめた。
「美人ってことは知ってるけど」
「甘いッ!」
テツはずんずんずん、とスグルに至近距離まで寄ってきた。
ひっ、と思わずスグルは上半身を引いた。というかドン引きした。
「ほんのり甘い香りの艶やかな美しき長い髪、光るような白い素肌、見る者をとろけさせる透き通った瞳!
そして何といってもそのおしとやかな心!!
彼女以上の女性がこの世にはたして存在するだろうか!?」
バッ、とテツは自分の胸の前で腕を交差させて引き寄せる。
「だめだこりゃ」
スグルは肩をすくめた。
「椎名林檎はどうした」
トシがスマホをいじりながら問う。
「あれは別よ」とあっさりテツは否定した。「手の届かない理想を語っても仕方がない。が、しかし!!」
テツはスグルから離れると再びイナバウアーのポーズをとった。
「汐崎南はすぐそこに!!目と目を合わせられるほどの距離にいるではないか!これぞまさに運命っ」
出た、運命。
スグルは大きくため息をついた。
テツは運命とか占いとか、そういう話が大好きなのである。
「で、俺たちを散々ひっぱりまわすというわけか」
トシは携帯を机の上に置いた。
「二人が協力するって言ったんじゃないか」
テツはトシをにらみながら言った。
「あぁ言ったさ、だがお前のヘタレさにはもう呆れたぜ!」
トシはキッとテツを睨み返した。
スグルは胸ポケットから、少しボディが太くなったシャープペンを取り出し、
その芯先を、壁にかかっているカレンダーに向けた。
頭をノックすると、パシュンッと小さな音を立てて芯が発射され、カレンダーに突き刺さった。
刺さったのは連続してつけられた×の一番最初の日である。
「初日から一週間は会うことすらできず、」
スグルは芯が刺さった日のちょうど下のマスに狙いを定め、『押し』金を親指でたたいた。
パシュンっと狙い通りに芯はカレンダーに突き刺さる。その日からはまた一週間、△が連続してつけられていた。
「次の一週間は目撃はするものの、恐れをなして逃走」
テツが下を向きだした。トシは窓の外を見つめる。
スグルは右隣のマスにまたシャー芯を撃ち込む。
「そして次の日にようやく声をかけたと思ったら、極度の緊張からか、出てきた最初の一言は『ごめんください』」
トシが吹き出した。「笑うな!」とテツがまた睨む。
「そして今日は『月みたい』だ。もう手がつけられないね」
スグルはぽーいとシャー芯を後ろに投げた。
「どうだ分かったか」
トシは顔を怖がらせてテツに向きなおる。
「お前はどうしようもなくヘタレなんだよ!」
「むむー……」
テツは唸ると、てくてくと自分のベッドへ向かい、そのままぼふっと倒れてしまった。
「……とりあえず、飯を食おう」
トシの意見に賛成し、二人は死人のようになったテツを304号室から引きずり出した。
- Re: ノンアダルト ナイトメア ( No.4 )
- 日時: 2014/01/26 23:46
- 名前: womille (K) (ID: 98Nvi69E)
2
三人が向かったのは、L字型をしている男子寮のちょうど角の部分に位置する、311号室である。
「どーもー」
テツを担いだトシはノックもせずにドアを開けた。スグルも続けて部屋に入る。
「ちわっす」
中にいた住人に、スグルは片手をあげて挨拶した。
ちゃぶ台を挟んでカップ麺を食っていた311号室の住人は二人。サッカー部の金成と、数学部の佐竹だ。
背が高く、茶色に染めた髪を立たせながらも不思議とチャラさを感じない、どこか大人の雰囲気を醸し出すのが金成、
反対に背も低く、誰が見ても引きこもりだと分かる眼鏡が佐竹だ。
ついでにちょっとここで我らステノグラフメンバーの紹介もはさんでおこう。
ご存じかもしれないがテツは陸上部。専門は短距離だが、超能力は使わないらしい。(そりゃそうだ)
トシは無所属だがある程度のことなら何でもでき、その広い人脈も使っていろいろな部活を転々としている。
ユズハは広報部と編集部の兼部(本人曰く超多忙)、サキは図書委員をやっている。
ちなみにスグルは美術部に入っている。笑わないでほしい。
金成と佐竹は三人の訪問を快く受け入れた。
「宇津木のその様子だと、作戦は失敗したらしいな」
箸を置いた金成はトシの肩でぐったりするテツを見て笑った。
「あぁ、邪魔だろうがちょっと置かせてもらう」
そう言ってトシは乱暴にテツを床に落とした。ごろんと転がったテツが、うげっと呻き声をあげる。
「あれ、桐山は?」
スグルは部屋を見渡して首をかしげた。
「桐山なら、まだ理科塔に籠って晦日祭の準備だよ」
佐竹が背を丸まらせて言う。
「あいつはもう時間外外出許可証の年間パスでも取ったらどうなんだ?」
そう言いながら、トシは大きくため息をついた。
桐山は311号室のもう一人の住人であり、総合科学研究部、略して『総研』に属している。
総研とは、かつて光陰高校に通っていた桐山の両親が桁外れの頭脳を持っていた為に作られた部活だ。
化学部、物理部、生物部、天文地質部。あらゆる理系の部活を総括し、
トップレベルの才能を持つごく少数の生徒が所属する、もはや「研究所」と形容するに相応しい代物だ。
授業でも理科実験などを行う理科塔を拠点として活動し、その内容は多岐にわたる。
今はもうすぐ開かれる晦日祭の準備を進めているらしい。
晦日祭(つごもりさい)というのは、毎年10月31日に行われる、いわば学園祭で、
もともと「月隠れ」を意味する「つごもり」と、「光の陰」である「光陰」とをかけているらしい。
「佐竹は手伝わなくていいのか?」
ズカズカと部屋を横切って、机の上に大量に並べられているカップ麺に手を伸ばしてトシが聞く。
「手伝えるだけの事はやったからね。もう試験運用段階だって言ってたよ?あぁそれだめ、シーチキンから食べて」
「はーん。爆破とかしなけりゃいいけどな」
チリトマトを手にとりかけたトシは、渋々残り数の多いシーチキンをとった。
「人工太陽って言ってたか?ありゃどういう仕組みなんだ?」
スープを飲み干した金成が立ち上がって、机の方に歩きながら言う。
「確か前の騒動で、金色に輝く人がでて、その能力を摘出したとか言ってたような……あ、俺は普通のでいいよ」
スグルは横たわるテツの隣に腰を下ろして答えた。
「んだー訳の分からない事しやがって。いっそ学会か何かで発表すりゃいいのに。お湯使うぞー」
とぽぽぽ、とトシは給湯器のお湯をカップ麺に注ぐ。
「誰も聞いてくれないでしょ、超能力だなんて」
佐竹は言いながらずずっとスープをすすった。
うんぐわぁ〜、と声を上げながら、ようやくテツが目を覚ました。
「お、起きたか失恋野郎」
トシはテツの顔めがけてシーチキンを投げた。コツンと頭に当たって「いてっ」と声をあげる。
「あれ、かなりっちじゃん。佐竹も」
金成はひらひらと手を振り、佐竹はちょっとだけ頭を下げる動作をした。
「そのシーチキン食べていいぞ。汐崎さんの事は忘れろって」
金成のその言葉に、事態を思い出したテツが「はぅっ!」という声を上げてまた突っ伏した。
「数学部は晦日祭、何か発表するの?」
スグルは佐竹に聞いた。う〜ん、と佐竹は唸る。
「プログラミングの発表やるんだけど……いまいちぱっとしないんだよね」
それを聞いて、スグルはへらっと笑った。
「それはこっちも同じ。トシ、これもお湯お願い」「あートシ坊、わしのも頼む」
「……なぁ、俺たちも何かやらないか?」
二人の分のお湯を入れながら、トシが口を開いた。
「晦日祭で、ってことか?」
片づけを終えた金成がまたちゃぶ台の前に座る。
「そうだ。できなくはないだろ?」
トシはニヤリと笑った。
晦日祭は、クラス別に行う出し物のほかに、生徒が自由にグループを組んで企画を催すことができる。
ある程度やれることに限度はあるが、比較的自由なのが晦日祭の強みの一つでもある。
「何をやるの?」
佐竹が聞いた。そうだ、問題はそこである。
トシは二つのカップ麺をちゃぶ台の上に置き、腕を組んだ。
「地球を見下ろすんだ」
——しばらくの沈黙の後、金成がほう、と口を開いた。
「どういうこと?高校生5人で宇宙に行くって?」
スグルは聞いた。「ちげーよ」とトシは否定する。
「カメラを宇宙まで打ち上げんだ。そんで、リアルタイムでスクリーンに映し出す」
「それは、桐山にも手伝ってもらわないと……」
佐竹が言うと、トシはもちろんだと答えた。
「具体的な方法は決まってない。が、俺は夜の光陰高校の大スクリーンに、地球を映したい」
「ははーん、面白そうじゃない?」
テツがラーメンをすすりながら言う。スグルも頷いた。
「出来たら、すごい」
「まぁ、桐山がいりゃなんとかなるか」
と、金成も乗り気である。
「決まりだな」
トシはそういって腕時計に目を落とした。
「そろそろ部屋戻るか……わりぃ、邪魔したな」
「ちょ、ちょっと待て今食い始めたばっかり」
「おら早くしろ行くぞー」
急にごたごたしだして、廊下に出ながらトシは311号室に向かって手を振った。
金成と佐竹も手を振り返す。
「じゃね」
スグルとテツも二人に別れを告げ、三人は311号室を後にした。
- Re: ノンアダルト ナイトメア ( No.5 )
- 日時: 2014/02/08 20:27
- 名前: womille (K) (ID: 98Nvi69E)
3
翌朝、かなり早い時間にスグルはむくりと起き上がった。
寝起きは悪い方だが、起きなければならない。晦日祭に出展する絵を仕上げるためだ。
もぞもぞと起き上がって二段ベッドから降りる。
ほとんどの運動部の朝練はまだ始まっていない。
外から聞こえるのは何かの宗教かと思うほどの野球部の熱い掛け声だけである。
スグルは身支度を済ませた後、まだ寝ているトシとテツを置いてそそくさと部屋を出ていった。
光陰高校の敷地は、上から見ると碇のような外観をしている。
噴水広場で一度分岐した道の先にある男女の各寮からは、一本の廊下が半円を描くように伸びており、
ちょうど本棟と向かい合う位置で食堂とつながっている。
注目すべきは、この二つの寮どうしを半円で結ぶ廊下が、全面ガラス張りであるということだ。
そこまで長い距離ではないのだが、ここから見れる敷地内の自然の風景はとても美しい。
スグルはそんな廊下を、秋の早朝の少し冷えた空気を味わいながら食堂へと向かった。
朝は7時から開放される食堂の、いわゆる「食べるスペース」にはまだ入れない。
が、その手前の少し開けた空間(ガラス廊下のちょうど交わる地点)に、運動部御用達の弁当屋がある。
この弁当屋はなかなか便利なもので、開店時間が早いだけではなく、
昼食時、校舎からやや遠い食堂に行くのが面倒な生徒のために、本棟まで出張してくるのである。
昼の食堂と出張弁当屋の利用比率は4:6と言ったところだ。
弁当屋の解説はこの辺にするとして、スグルはとりあえず手頃なおにぎりだけ買って外へ出た。
数人ほどしかいない並木通りを歩いて校舎へと向かう。
校舎に入っても人は少なかった。静かな舎内を歩いて美術室へと足を運ぶ。
朝でも美術室に鍵はかかっていない。ガラガラと戸を引いて中に入る。
先客はいないようだった。スグルは一人で奥の方へと歩いて行った。
『美術部以外立ち入り禁止!』の札が下がっているプラスチックのチェーンをくぐり、自分の作品を持ち出す。
スグルは窓際にキャンバスを立てて、その前に適当な椅子を置いて座った。
油絵のタイトルは「つごもりの夜」だ。
まだ見ぬ晦日祭の夜をイメージして、満月を背景に学校の風景が描かれている。
晦日祭に出すにはちょうどいいなと思った。自分でも出来は結構いいと思う。
スグルはパレットを取り出して絵を描き始めた。
しばらく描いてから、スグルは少し顔を遠ざけて見てみた。
だいぶ完成には近づいているが、もう少し、何か、それも小さな何かが足りない気がする。
「むぅ」とこの日初めての声をあげて、スグルは背をのけぞらせた。
絵の中の漆黒の夜空には満月が浮かんでいる。
スグルは得れないインスピレーションを得ようとした後ろを振り返り、朝の空を見上げた——とその時。
きらっ、と音を立てるように流れ星が飛んだ。
「なるほど、流れ星か」
スグルは上機嫌でキャンパスに再び向き合い、細筆で白の絵具とり、夜空の上までもっていく。
「…………え?」
ばっ、とスグルは空を振り返った。そこにはただ、徐々に青みを増す空が広がっている。
「なんだ?今の……」
スグルは首をかしげながら朝の分を描き終えると、絵を戻してから部屋を後にし、
ガヤガヤしだした廊下を歩いて教室へと向かった。
- Re: 【ステグラ】ノンアダルト ナイトメア【続編】 ( No.6 )
- 日時: 2014/02/15 23:01
- 名前: womille (K) (ID: 98Nvi69E)
4
教室に戻る道中。
喧騒の中、スグルは絶対、教室に着いたらいつものメンバーに流れ星の事を言ってやると思っていた。
思っていたがしかし、そんな脆い意志は簡単に砕けることになる。
「あっ、スグルくん」
「んぁ?」
変な声を上げてから、しまったと思った。だが時すでにお寿司。スグルは苦笑いしながら目の前の少女に挨拶を返す。
「おはよ」
そういうと、少女はニッコリ笑った。鼻血が吹き飛ぶかと思った。
彼女の名は三葉サキ。少しクセのついた長い黒髪がとてもよく似合う。
ご存知の方も多いかもしれないが、スグルはサキに絶賛片想い中なのである。
「絵、描いてたの?」
「あー、うん。そう。晦日祭に出すのに」
どうも調子が上がらない。たじったじで、スグルは目をそらしてしまう。
しかし、サキはそんなこと気にしていないようだった。
「頑張ってね」
「あ、あんがと」
スグルは言いながら卒倒しかけた。君の瞳に乾杯したい。いや、本当に。
サキはひょこひょこ歩きながらすれ違っていった。
スグルはしばらくボーッとその場に立っていた。
通りすがりの人が、ちょっと距離を置いて半ば口を開けているスグルをちらちら見る。
スグルはぽけーっとしたまま教室にノロノロと向かっていた。
*
「あースグルじゃん、おは——」
よう、と言いかけた荒木ユズハは、教室に入ってきたスグルの顔を見て慌てて「きもっ」と言い直した。
「お前、どうしたんだその顔」
一緒にいたトシが呆れた顔で言う。
「さてはサキ殿に会ったな」
トシの机の上に座っているテツがニヤニヤしながら言った。
「へへへ……」
スグルは自分でも信じられないぐらい低い声で笑った。
「スグル、あんた、本当に気持ち悪いよ」
ユズハは真面目に心配してくれているらしいが、もはやスグルの耳には届いていない。
スグルが自分の机につくと、テツは自分の携帯の画面を見つめた。
「今日の運勢は偏差値65。なかなかいいんでね?直近2時間の運勢も上昇気味だし」
「いつから日本は運勢を偏差値で表すようになったんだ」
トシが冷静なツッコミをするが、テツは全く気にしない。
「ねぇ、サキって何しに行ったの?」
ユズハも携帯をいじりながら誰にとなく呟いた。
「さぁ?図書委員の仕事じゃねーの?」
トシがどこから持ってきたのか分からない新聞を読みながら適当に答える。
「スグルは何か聞いてないわけ?」
その問いで、スグルは我に返った。
「え、いや、なんも」
そういえば、朝の美術室方面に、一体何をしに行っていたのだろうか。
少し気になりはしたが、トシが読んでいる新聞に目を奪われた。
「トシ、それ、いつの奴?」
「ん?あぁ、この新聞か」
トシは顔を上げて、新聞を投げてよこした。
スグルは受け取ってその一面に目を落とす。見出しは、「石油規制、全分野に」だ。
「昭和48年のだ。拾ったんでちょっと読んでた」
「いや、拾ったとかいうレベルじゃないだろこれは……」
どれどれ、とテツも覗き込んできた。ユズハは興味がなさそうに携帯をいじり続けている。
「人間は歴史に学ぶっていうしな」
よくわからないトシの言葉と共に予鈴のチャイムが鳴り、ちょうどサキが教室に入ってきた。
出歩いていた生徒も徐々に席に着き始め、今日もいつもの一日が始まる。
スグルは、この時点ではそう思っていた。
- Re: 【ステグラ】ノンアダルト ナイトメア【続編】 ( No.7 )
- 日時: 2014/03/07 23:12
- 名前: womille (K) (ID: 98Nvi69E)
5
「あ、あのさ」
スグルは次の休み時間、サキに切り出した。
「へ?あ、な、なに?」
サキがしどろもどろになる。やはり何か怪しい。
スグルは思い切って聞いてみた。
「さっきさ、どこ、行ってたの?」
「え?あぁ…朝のこと」
サキは持っていた傷だらけのシャープペンを置いた。
「その、会議室の隣の、物置部屋に、ね……」
会議室の隣。物置部屋。
スグルは思い出した。あの事件があった日。あの時も、サキはあの部屋にいたのだ。
「何、してたの?」
スグルは何だか探りを入れているように感じて気分が重くなった。実際探ってるのだけれど。
「た、大したことじゃない、よ?ほら、晦日祭もあるし……」
「あぁ、なるほど……」
確かにあの部屋には、晦日祭に使うような道具やらが山積みになっていた気がする。
「そうなんだ、ありがと」
スグルはそう言ってサキの席を離れた。これ以上詮索するのは悪い気がした。
「ちょっとちょっと——ッ!!」
突然、どこかに行っていたユズハが教室に飛び込んできた。
クラスの目線が彼女に集中した。
新聞から顔をあげたトシがユズハをにらみつける。
「なんだうっせぇな」
「うっせぇなじゃないわよ、ニュースよニュース、大ニュース!」
ユズハはトシの机をバンッと叩いた。
「なに、なに、面白そう」
別のグループに混じっていたテツがひょっこりと顔を出す。スグルもなんとなく参加してみた。
三人でトシの机を囲むように顔を合わせる。
「で、なんだ、そのニュースってのは」
トシが聞いた。いつの間にかクラスの視線は外れている。
「それがさ」
ユズハはもったいぶるように口を開いた。
「裏山に隕石が落ちたっていうのよ」
「「「隕石?」」」
男三人は聞き返した。「んな訳あるかボケ」とすかさずトシ。
「本当よ!広報部の精鋭が調べ上げた最新情報なんだから」
ユズハが反論して、そしてスグルは思い出す。
「あっ!」
大声をあげて、スグルは上を見上げた。
「なんだ、お前、なんか知ってんのか?」
テツが聞いた。
スグルはテツの顔を見る。
「俺、それ見たぞ」
「ほらあ言ったじゃない!本当なんだって!」
「スグル、お前それいつだ?」
ユズハには目もくれず、トシはスグルに聞いた。「無視か!」とユズハの罵声が飛ぶ。
「えと、朝絵描いてた時だから……7時ぐらい?」
スグルは思い出しながら答えた。
「サキも朝そっちの棟にいたんだったな……見たか?」
トシがサキの方を向いて聞く。
四人の視線がそちらに集中すると、サキはぶるんぶるんと頭を横に振った。
「み、見てないよっ」
「そうか……スグル、もう少し詳しく教えてくれないか?どの辺に落ちたとか……」
スグルは考えた。
「んー……全然覚えてないけど、流れ星的な感じでしゅっ、と……」
トシはチッと舌打ちした。
「使えねーな」
「使えないわね」
「やべ、英語の課題終わってなかった!」
テツは自分の席に戻ると時計を確認して英語の課題に取り組み始めた。
スグルは彼らにむっときた。見ただけなのに使えないとは何だ。こっちは目撃者なんだぞ。
仕方ねぇ、と、言いながらトシは頭を掻いた。
「調べてみてーとこだが、とりあえず今は動かない方がいいだろう」
サキをふくめた四人が頷き、とりあえずその場は解散となった。
課題おわんねーよ、とテツは悲痛な叫びを上げた。