複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

円舞の国のアリス——Who are you?【キャラ募集中】
日時: 2014/03/01 20:26
名前: ブラウ ◆Tegn1XdAno (ID: XpbUQDzA)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode=view&no=7833

————始まりを探すゲーム。

 そんなこと、誰も興味はないだろうなと、彼は思った。ほら、みんな見向きもせず楽しそうに殺しあっている。三月兎は特にだ。
 彼の右手にも鈍色を宿す銃が。あぁ、そうか。結局こんなもんか。こんなもんだよね。

 誰にも認められることなく、彼は空の左手で虚空を握りしめる————






・このスレにはグロテスクな表現や暴力的な表現が含まれます。予め御了承ください。
・私は不思議の国のアリスが好きです。こうしてそれをモチーフにした作品を書くまでに至りました。
 ですが、それによって他のアリスファンの方々のイメージを壊してしまう可能性がございますので、見る方は自己責任でお願いします。
・オリキャラを募集しております。参照のURLよりリク依頼・合作依頼掲示板のスレへ行けますので是非御投稿下さい。




目次

序幕 >>1

一話 汝夢見し >>3-16

Re: 円舞の国のアリス——Who are you?【キャラ募集中】 ( No.7 )
日時: 2014/01/10 22:46
名前: ブラウ ◆Tegn1XdAno (ID: 3nksBUD/)

「……撃つかよ、普通」
 口の中で転がした言葉は相手に届いたのかどうか。
 拳銃はぶれずに額へと狙いを定め、胸の圧迫がより一層強まる。
「答えろ。どこの差し金だ、あぁ?」
 高圧的な問いの意味は、当然のごとく分からない。むしろこっちが教えてほしいのだから、答えられるわけがない。彼は不満げに顔を歪めて相手を見上げ、拳銃越しに顔を捉えた。
「……ぁ」
 目。黒い瞳。荒々しく歪められた夜の色。無造作に短く刈られた髪も漆黒。そこで思い出す。記憶の欠陥を。欠けているものの一つを。
「……あぁ。なぁ、おい」
 人と対話するのも、ずいぶんと久しぶりのようだ。油の足りない機械のように声がざらつく。痛い。あぁ、また。何もない胸腔が痛む。
「ちょっと聞きてぇんだけど」
 深い考えがあるわけではなかったが、彼ははっきりその問いを口にした。
 先はどの短い攻防の中で、度々視界の端に写っていた、自分の髪も黒。どうやら少し長いらしい。では、それなら。
「俺の目は何色だ? 自分じゃ確かめようがねぇから」
「……は? 何? 質問の意図が分かんねぇんだけど、よっ」
 ブーツにかかる重圧が増した。肺が痛い。骨が軋む。彼は浅い呼吸で言葉を紡ぐ。
「素直に話せ。末路なんて分かって——」
「あと、此処は何処だ。お前は誰だ。で、あと、」
 若干躊躇い、間が空く。いい加減苦しくなってきた。黙っていても事態が動かないことは理解している。それでも認めるのには、ある種の覚悟は必要だった。
 一段小さな声が、彼の口からこぼれる。
「……俺は、誰だ?」
「——……は?」
 相手は——酷く微妙そうな顔をした。
 なんとも形容しがたい表情だった。剥き出しの敵意に正体不明の感情が浮かび、次いで消える。困惑でもあり怒りでもあり憎しみでもあるような、何か。あるいは、記憶の欠損故にそう感じたのかもしれない。やがて相手は黒い瞳を細め、そこに僅かに——本当に僅かに——憐憫の色が滲む。敵意も変わらない。銃口もぶれない。けれど確かな変化。
 ようするにそれは、可愛そうな人を見る目だった。
「心神喪失とはなぁ——」
 黒髪の青年は細く、長く、息を吐き出す。残念だとも、面倒だとも取れる、けれど確実にネガティブな感情を込めたため息。
「……役に立たねぇなら、仕方ないな」
 カチリ、と鉄の鳴る音。何だ、何の音だ。彼は直感した。今の自分に対し最も不都合な結論が出ている。
 ぐ、と。指に力が込められたのが見てとれ。
「待っ——」
 目を瞑るのと銃声は、ほぼ同時だった。

Re: 円舞の国のアリス——Who are you?【キャラ募集中】 ( No.8 )
日時: 2014/01/12 21:04
名前: ブラウ ◆Tegn1XdAno (ID: 3nksBUD/)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode=view&no=7833


◆◆◆

「いっ、づぅ、ぅ……」
 本音を言えば、恥も体裁もかなぐり捨てて叫びたいほどの痛みだった。だが、少年は歯を食いしばり、悲鳴を噛み殺す。単なるプライドだ。代償に、血の味が口内を転がる。
 確かに自分のミスであった。彼等とは旧知の仲である、制裁があることも予測はしていた。だが事の全容を語る最中に撃たれるとは。性急さを甘く見ていた。いや、失敗した時点で末路は同じか。自分も、彼らも。
 銃弾は右肩を、恐らく貫通している。存外軽い銃声と共に弾けた激痛は、体の内部に鮮烈に残っていた。そこからビリビリと広がる熱さ。体に穴が開いたのだ。それだけで空恐ろしいものがある。普段は決して晒されることの無い肉の断面。外気に触れるだけで、乾き、犯され、腐っていくような錯覚。
 しかし、それでも少年は、痛みによる無様な悲鳴など挙げなかった。代わりに口を突いて出るのは、怨嗟の言葉だ。
「ふ……っ、ざっけんなよこの野郎! いってぇだろーが! あぁ!? いきなり撃ってんじゃねーよ、馬鹿ッ!」
「……いい加減、自覚なさい」
 ——ぴしゃり。
 と、平手打ちに似た音が聞こえそうな。或いは、よく研がれた刃物のような。ともすれば、音のみで痛みすら感じそうな——絶対零度の声音が、少年を射抜く。驚きか恐怖か、少年は僅かに目を見開いた。
「馬鹿は貴方よ、無知の王《Knowing King》。お使いも出来ないなんて、見た目以下ね」
 口角も眉もピクリとも動かない。唇はただ言葉を紡ぐのみ。肌は一貫して羽のように白く、瞬きすらも必要最低限の回数のみだ。表情から得られる情報を一切合財破棄し、ただひたすら「冷気」のみを発して、少女は言った。
 右手には少女の細腕には似合わない大口径の拳銃を持つ。銀色の銃身で鈍く光るのは、無数の傷達。十代前後と思われる少女の様子には、やはり不釣り合いな年季の入り方である。銃を持つ手をだらりと垂らし、手持ち無沙汰な風に撃鉄を起こしては倒しを繰り返す動作は、銃を扱い慣れた者のそれ。
「み……っ」
 少年の舌が縺れる。
「見た目はどうでもいいだろうがッ! 俺はてめぇより上なんだよ!」
 患部を押さえつつもそう言う少年は、どう見ても十代に入っていない。幼子の体躯だ。ボロを纏っているせいか、華奢な肉体はさらに小さく、頼りなく見える。それに反しての不遜な口調は、酷く滑稽だった。
 少女の顔に浅い笑みが広がる。
「答えなさい、無知の王《Knowing King》」
 それは薄氷の如く、今にも割れてしまいそうな脆い仮面だ。裏が見透かせない。だが、得体の知れない何かが黒々と蠢いているのだけは分かる。半透明な氷の向こう、見てはいけないナニカ。そしてそれは割れたら最後。底の無い水の深淵よりも暗いものが溢れてしまう——
「ぃっ……」
 その時を想像し、少年は背筋が凍った。少女の小さな口は淡々と言葉を紡ぐ。
「貴方は、一体何処で落とし物をしたの?」
「っ、……お、俺はっ、ぁ」
 思わず、声が先細る。気迫負け等より質が悪い。もっと本能的なモノ。脊髄が痺れるような恐怖だ。あらゆる器官が全力で警鐘を鳴らしている。ここで答えを間違えれば……死より耐えがたい苦痛がその体を引き裂くだろうと。
 知らず浅くなる呼吸を繰り返し、少年は乾いた唇を舌でそっと撫でた。
「こ、こじゃ、ない。ここに来る……前……」
「そんなこと」
 少女は少年の胸ぐらを掴み上げる。少年の喉が鳴った。爪先が地面を擦る。
「そんなことは分かっているの。いくら貴方でも行っていない場所に落とし物をするなんてこと、出来ないでしょう」
 少年は意味の無い呻きを漏らした。絞まる首。中途半端な浮遊感が胃を掻き回し、唾液が口の中でじわりと染み出しす。
「うぅっ、う……」
 喘ぐ。肺が空気を欲するが、少年は解放の術を持たない。
 無理矢理小さく息を吸って、彼は叫んだ。
「うっ、兎だ!」
「……兎がどうしたと言うの?」
 少女の力が僅かに緩む。言葉の効果を確かめるように、少年の言葉に間が空いた。もう一度、今度は深く息をし、唇を嘗める。
「兎がいた……。俺が落としたとき、近くに兎がいた。兎を探せばアイツを見つけられ……」
 落ちた。少女の手から、少年が。抵抗する間もなく落下し、彼は背面を石畳にぶつけた。
 一瞬体が硬直し、直後に肺の中身を全て吐き出す。噎せかえる少年。目尻に生理的な涙が浮かんでいた。だが、少女は心配するどころか路傍の石ころを見るのと大して変わらぬ視線を飛ばす。
「及第点ね。……次は無い」
 その言葉は刃物だ。労りなど存在しない。少年は彼女を睨み上げたが、それだけだ。先程のように思いのまま罵倒することなどなかった。それは怒りか、萎縮故か。彼は何も言わない。
「……本当に、下らないわ」
 少女は小さく呟く。それは誰にも届けるつもりの無い言葉だ。勿論足下の少年には聞こえていたが、それは少女の意思ではない。気に止めなかった。それだけのこと。
「あの人の考えていることはいつもわからない——」
 言葉と共に、ゆるりと周囲へ視線を巡らす。
 道の端々に見える、俯いて歩く大人達。外界を拒み、建物沿いに踞る子供達。微動出せず、物言わぬヒトビト。
 発砲したところで、それが自身に当たらなければ騒ぎ立てることもない。いや、当たったところで騒げるのかどうかは疑問だが。もし仮に誰かが倒れたとしても、やはりここは——この街は、回り続けるのだろう。昨日のように今日も、今日のように明日も。誰が望んでいるのかも分からない姿で。
 解を求めるでもない、無益な問いだ。分かっていながらも口にしてしまう。いや、分からないからこそ、敢えて口にするのだ。
「——こんな所の、何が良いんでしょう」
 少女の独り言は、 音も無く地へと落下していった。

Re: 円舞の国のアリス——Who are you?【キャラ募集中】 ( No.9 )
日時: 2014/01/20 19:14
名前: ブラウ ◆Tegn1XdAno (ID: WSDTsxV5)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode=view&no=7833

◆◆◆

「……あ、あれ」
 痛みは無い。
 いくら待っても、何の変化も訪れない。
 彼はゆっくり目を開け、次いで瞬き。強く目を瞑ったせいで若干動きが鈍いが、それだけだ。目の前には数瞬前網膜に焼き付いた銃口と、男の姿が変わらず在る。いや違った。銃口は向きが僅かに逸れているし、その銃を支える男の腕には、誰かの手が添えられている。その向こうには、驚愕で目を見開く男の顔。どうやらこれは不本意な結果らしい。
 いつの間にか現れていた手を視線で辿ると、そこに立っていたのは一人の少女。
「……失礼。遅れ馳せながら参りま——」
 銃声が、鈴のような声を遮る。少女は後ろに向かって吹っ飛んだ。そのまま、背後の棚にぶち当たり、やたらと金属音を奏で落ちてきた様々な備品——銃弾が詰まっていた箱、ナイフ各種、その他ワイヤーなど用途不明なもの——に埋もれてしまう。他人事ながら痛そうである。
 ついさっきまで空だった男の左手が握っているのは、もう一丁の銃。くすんだ銀色のフォルム。すでに取り出していた一丁と比べれば、幾分ほっそりしている。
 男は右に立つ少女に対し、こちらへ向けている右腕と腕を交差させ、少女へと左の銃で狙いを定めていた。一瞬の早業である。目の前にいても止める間すらなかった。いや、その必要性すら分からないのだから、あったとしても止めたかは定かでないが。ただ目の前で人に銃が向けられていると言うのには強い抵抗があっただけだ。勿論、それには自分も含む。
「……どっから沸いてきやがった?」
 すぐにそれとわかる、強張った声。先程とはうって変わって感情を遠くに置いた、ひたすらに冷酷な音色。男は少女を警戒している。同時に、混乱しそうな現状を整理しているのだろう。少女の様子をじっと窺っていた。銃を向けられている当人は一度去った危険に肩の力を抜いていたものの、お零れのような殺気に再び身をすくませる。いかに自分が手加減されていたか……いや、嘗められていたのか実感していた。

Re: 円舞の国のアリス——Who are you?【キャラ募集中】 ( No.10 )
日時: 2014/01/28 18:06
名前: ブラウ ◆Tegn1XdAno (ID: z.RkMVmt)

 あれ、とふいに強烈な違和感。おかしい。何かが違う、絶対的に何かが違うのだが、原因が思い当たらない。奇妙な感覚ばかりが先行し、首をかしげたその直後。ようやく違和感の正体に気付いた彼は、背筋が凍った。——男の左側に、人が立っている。
「——ハッ。あー面白いなぁ。さっき空けた奴が空けられてやがる! ざまーねーや、は、は、は。自業自得だバーカ!」
 ぐわん、と、耳障りな哄笑が頭を刺激する。聞いている方の喉が痛くなるような語気だ。音の主の声は幼く、体躯は小さい。男とも女とも取れる高い声のせいで、性別は判然としない。ただ、それらの不確定要素が気にもならなくなるように、ひたすら。子供は自分の存在を主張するよう、朗々と笑っていた。
 が、別段楽しそうではない。声に抑揚がなく、むしろ何かに怒っているように見える。恐らくそちらが本心なのだと彼は何となく察した。なにせ、目が全く笑っていないのだ。
 男は、やはり驚いた顔でそちらを向くと——もう2、3発ぶっ放した。
「ちょっ、ばっ!」
 それは子供の声だったのか、床に寝転がる彼の声だったのか。双方慌てて後退する。
 といっても、片方は反射で体を動かしただけであり、今だ男のブーツが彼を床に縫い付けていたのだが。
「あぶねぇ!」
 子供は既に穴の空いている——見覚えのある——キャビネットの影に隠れ威勢良く叫んだ。姿は見えないが、変わらず威勢はいい。何処か滑稽なほどに。
「ったく、何なんだよ! どいつもこいつも人の顔見りゃあよぉ! 殺すぞ!」
「……それはこっちの台詞だぞ」
 男は眉根に皺を寄せ、不機嫌そうに呟く。
「なぁ。ここって所謂密室だろ。何でこうも侵入者が湧いてくるんだよ」
 恐らく、その侵入者のなかには彼のことも含まれているのだろう。いやそんなこと知らんわと思うものの、あとの二人に関しては同感だ。近づく足音どころか気配も衣擦れの音もなかった。正に降って湧いたようだ。

Re: 円舞の国のアリス——Who are you?【キャラ募集中】 ( No.11 )
日時: 2014/02/03 19:16
名前: ブラウ ◆Tegn1XdAno (ID: CQQxIRdY)

 厳密に言えばドアは開いているのだが、その唯一の入り口の前に男が立っているのだ、出入りに気付かない筈が無い。
「ハッ。密室? そんなの俺らにゃ関係ないね。アンタらが作った都合だろ」
「…………」
 舌打ち。男は苦々しげに顔を歪め、左腕を動かそうとし——
 直後、真横に体が飛んだ。
 先ほど一度聞いた、金属がぶつかり合う耳障りな音が生じる。心なし一回目より派手だ。
 彼は瞠目する。男は自分から吹っ飛んだのか?そんなわけがない。正面には、男の代わりに一人の少女が立っていた。
「ご挨拶ですね、ほんと」
 冷たい黒水晶の瞳で彼を見下ろし——少女は言う。
 陶器を思わせる、傷一つ無い白い肌。光の燐光のような、朧気な輪郭を作り出す白いワンピース。不作法に広がってはいるものの、それでもなお黒髪はベルベットのような艶で波打つ。見事なまでのコントラストを彼女の体は作り上げていた。その上でなお、その存在は線が滲むように儚げだ。手を伸ばしても実体の掴めない、まるで幽鬼のような。
 距離感が、狂う。
「——それでは、ようやく。色々と邪魔は入りましたが。これから勝利条件、得点勘定その他の説明をします、お聞き逃しの無いよう」
 唐突に告げられ、言葉に詰まった。そこに相手を慮る心情の無いことは明白。これでは置いていかれる。そして彼女は一向に構わないだろう。そう直感する。
 彼が聞き返そうとした言葉は、しかし、口に出されることはなかった。


Page:1 2 3



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。