複雑・ファジー小説
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- ある森の狩人の話
- 日時: 2014/03/26 23:39
- 名前: NiSi ◆y2eau8XC5Y (ID: /GuZTiav)
本当は「お久しぶり」なのですが…。
あえて言いましょう。初めまして!
徒然に、衝動に身を任せて小説を綴るNiSi(ニシ)と申す者です。
今回、こちらの「小説カキコ」以外の小説掲示板に投稿し、そして完結した小説を、少々のアレンジを加えてこちらにも投稿したいと思います。
この作品は今からかなり以前に完結し、実質「初めてインターネットの世界に投下した小説」といえる物で、個人的には大変思い入れのある話です。
皆さんにもぜひ、目を通すだけでもして頂ければ幸いです。
《登場人物》
『僕』
主人公。「都会」育ちの青年。
猟師として山中で暮らしている。
『彼女』
「僕」と出会った少女。
記憶喪失をしているらしいが…?
『先輩』
「僕」の先輩にあたる。ベテランの猟師。
それでは。物語の始まりです。
- Re: ある森の狩人の話 ( No.1 )
- 日時: 2014/03/24 01:02
- 名前: NiSi ◆y2eau8XC5Y (ID: /GuZTiav)
−プロローグ−
「都会」から遠く離れた所に「集落」があった。
その「集落」は「都会」同様、通貨があり、商業も盛んであった。周りが大自然で囲まれており、「都会」から観光に来る人も多くいる。
ただ、そこに暮らす人々は「都会」の人々とは違い、とても質素な暮らしをしていた。
「集落」からさらに離れた所、つまり山の森の奥地。
ここに、「狩人」たちがあちこちに点在して住んでいた。
彼らは狩猟を生業とし、自然から得た「恵みの獲物」を生活に活かしてきた。また、彼らは「集落」に住む人々の生活を支える役割も担っていた。獲物の皮は衣服に、肉は食料に、と、「集落」の人々にとって、「狩人」は欠かせない存在であった。
森の奥地の、比較的「集落」寄りの、小さな平地に一軒の小屋があった。
その小屋から一人の青年が出てくる。歳は20ほど。まだ「狩猟」に不慣れなのか、「狩人」独特の風格は無い。新人である。
青年は少しずつ秋に染まる山や木々を見渡して、小さく呟いた。
「さ、今日で狩り収めだ。たくわえを少しでも増やさないと...。」
青年は山や森の神に祈りを捧げ、そして猟銃を抱え、静かに森の奥へと進んでゆく。
これは、この青年が語る、大自然の中で起きた、まるで夢のような物語である。
- Re: ある森の狩人の話 ( No.2 )
- 日時: 2014/03/24 21:45
- 名前: NiSi ◆y2eau8XC5Y (ID: /GuZTiav)
−第1話 始まりの日−
パーン...。
銃声が森の中を駆け巡った。
間も無く茂みの向こうで何かが動いた。足音が遠のいていく。
「...外したのか。」
僕はそう言って、銃に弾を装填しながら森の中を歩いた。
大きな音を立てると動物が逃げるため、細心の注意を払って歩かなくちゃいけない。新人の僕には難しい事だった。
「弾は大切にしろって先輩に言われたのに...。怒られちゃうなあ...。」
そう言いながら、獲物を再び探す。先ほどのは遠くへ行ってしまったらしい。このようなことを、さっきから3回ほど繰り返している。
「大きな音を出し続けると、動物たちは危険を感じ、遠くへ逃げてしまう。だから獲物は始めの1発目で仕留めなくちゃいけない。」
これは「先輩」が、僕に教えてくれたことである。「先輩」はベテランの猟師で、何をやってもダメだった新人の僕を救ってくれた「恩師」でもある。いつも会うというわけではなかったが、狩の最中に出会っては、色々な事を教えてくれる。
ただ、まだ「猟師1年生」の僕は、まともに獲物を仕留めたことが無い。最近にも、まだまだ射的の腕が甘いなと「先輩」に言われた。
そんな僕がなぜ猟師になったのか。
僕は「都会」育ちの子だった。ごく普通に学校に通い、「当たり前のような」生活をしていた。
ある日、僕は「都会」という世界に嫌気がさした。
新しい居場所を求め、彷徨った結果、「猟師」という答えにたどり着いた。
これが正解かは判らない。だが、これが自分で出した答えだった。
両親に止められても、押し切って得たものだ。
簡単に正か誤か決められるものでは無かった。
ただ今は、「猟師」として生きていく。それが定めだと思っている。
辞めようとは思わない。
今のところは...。
「失敗だな。なーんにも無いや。」
開き直ってそう言った。今日は帰ろう。
ここらの森の掟で明日から三ヶ月ほど、狩猟は禁止されてしまう。たくわえを増やすためにも粘りたかったが、獲物がいないのだからしょうがない。明日から超倹約生活をしようと決意した。
帰ろうとしたその時、視界の端が何かを捕らえた。
何かが倒れている。
獲物かと思って近寄ってみる。
草を掻き分けて見つけたのは、動物ではなかった。
1人の少女が倒れていた。
少し癖のある髪は優しいブラウンで、背中ほどまで伸びていた。
服は「集落」の人々が着ているものとほぼ同じであった。ボロボロで裾や袖口が擦り切れていた。
「い、行き倒れ...!?」
思わず声を張ってしまった。
それで彼女はハッと目を開け、起き上がった。
背丈は僕の胸元あたり、やせ気味の体がゆっくりと動き出す。
ふと、目が合った。
目は、何処までも深い黒い瞳を持っていた。まるでこちらの感情を見透かすかのように。
慌てて僕は彼女に言った。
「あ...だ、大丈夫...?」
これが、この物語のすべての始まりだった。
- Re: ある森の狩人の話 ( No.3 )
- 日時: 2014/03/24 22:07
- 名前: NiSi ◆y2eau8XC5Y (ID: /GuZTiav)
−第2話 始まりの日(2)ー
広い森の中で、僕は戸惑い、困っていた。
別に360°クマに囲まれたわけでも、道に迷って家(小屋と言うべきか)に帰れなくなった訳でもない。
僕の目の前には、1人の少女がいた。
その少女と僕は目を合わせたまま、無言の時を過ごしていた。
歳は16、7くらい。癖のある髪はやさしいブラウン。目は、一度合うと逸らせそうも無いほど見惚れるような深い黒色の瞳が特徴的だった。
そんな黒い瞳からは、「恐怖」と「警戒」が見て取れた。少し口が震えている。完全に僕を恐れていた。
「さ、寒いのか?確かにこれから冬に入るもんな。」
警戒を解いてもらおうと気軽に話しかけてみた。
「……ぁあ…う……」
とても澄んだ、けどどこかまだ幼さを残した声だった。
しかし声は震えていた。まだ僕を恐れているようだ。
僕の太ももにポンと猟銃が当たった。
「…あ! 殺そうとしてるんじゃ無いよ!?」
僕は慌てて銃を背中に隠す。つい声を張ってしまった。
彼女はそれに驚いて少し跳ねた。
「……ひぁあ…!!」
文字では表せられないような悲鳴に近い声を上げて彼女は立ち上がり、僕から逃げようとした。
「いや!誤解だよ!!」
僕が追いかけようとしたとき、いきなり彼女はその場にまた倒れこんでしまった。力が出ないようだ。
「疲れてるの?僕の家で少し休もう?」
来ている服はボロボロだったのだから、相当走ったのだろう。疲れて当たり前のような気がした。
そこから僕はガタガタと怯え続ける彼女を背負って家(小屋と言おう)に帰った。
彼女は家に入ると、震えている体をさらに震えさせていた。部屋は確かに寒かったが、彼女が着ている服は「集落」の人々が着ている物とほぼ同じ。寒さに耐えうる動物の皮からできているはず。
というより、彼女は寒さで震えている様ではないらしいのだ。
木でできたイスや、動物の皮で作ったベッドなどを見ては小さく悲鳴を上げる。理由はわからなかったが。
遂には彼女は涙を流し始めた。しかし、声に出して泣き喚くのではなく、目から自然に涙が流れているようだった。また、止める気も無いようだ。
「え!…ちょ…どしたの!?」
彼女が落ち着いてから。ずいぶん時間は経ち、窓からの景色は暗い影を増していた。僕はさらに彼女に対して困っていた。
彼女は記憶喪失をしていると思われる。
それも自分の名前どころか、「言葉」さえも。
もはや自分が「ニンゲン」であることも自覚していないらしい。
言葉が通じないとなると。彼女の身元が特定できなかった。
それに、身寄りに会えたとしても、言葉を忘れた彼女では、両親は嘆き悲しむだろう。下手をすると僕が犯罪者扱いされるかもしれない。
「……よし。これしかないんだよな。きっと。」
僕は彼女を見て決意した。
僕は彼女が「ニンゲン」を取り戻してくれるまで、
彼女をココに住まわせることにした。
- Re: ある森の狩人の話 ( No.4 )
- 日時: 2014/03/24 22:24
- 名前: NiSi ◆y2eau8XC5Y (ID: /GuZTiav)
−第3話 「共に。」 −
森は少しずつ冬を迎えていた。
草木の葉は若々しい緑ではなく、黄色に色づいている。もうじき赤く染まり、遂には枯れて地に落ちるのだろう。そして葉を失った木は次の春に備えてこの冬をじっと耐えるのだろう。
この森は僕らと同じ「生き物」だ。
—学者でも何でも無い僕なので、自然の摂理云々などサッパリだったけれど、森と共に暮らしていて、そのようなことは自然と感じ取れた。それを真面目な言葉に換えるのはとても難しいけど。(僕の語彙力的にも)
「ふう…やっぱりこんな時期に簡単には見つかんないか。」
僕は家(小屋)の周りで、野生の果物が無いか探し回っている。
たくわえの肉はまだ十分に残っている。この冬を越すだけの余裕はある(と思う。)けれど、果物系は早くも底をつき始めていた。
「あった!!」
澄んだ声は森中に響き渡るようだった。
僕はその果実系食料不足(と称しておく。)の原因である彼女のほうを見た。
彼女は16才ほどなのに、動作は16とは思えないほど幼い。「都会」に行けば、まず変な目で見られるだろう。
けど彼女は僕がそう思っているとはつゆ知らず、木の実がなった木の下で嬉しそうに飛び跳ねている。今この光景を見ているのは、僕以外いないから、周りの目など気にしなくてもいいのだけれど。
「あった!!あったあ!!」
彼女は嬉しそうに何度も言う。僕は笑顔で返した。
彼女と生活を共にして1ヶ月ほど。僕は彼女にまず「言葉」を教えることに精を出した。ただ驚いたことに、彼女の理解力は凄かった。次々と「言葉」を吸収し、(と言うより、『思い出していった』と言うべきか。)今では普通に会話もできるようになった。もちろん、完璧とまではいかないけれど。
彼女が果実系食料不足の原因なのは、彼女が果物好きだからだ。
一度、肉を食べさせようとしたとき、彼女はテーブルをひっくり返し、半狂乱になって暴れ回ったので、それ以来、彼女には野菜系のものを食べさせるようにした。
中でも果物は好物のようでよく食べる。しまいには、食料倉庫を漁ってまで食べる始末だ。
おかげ様で果物だけがぐんぐん減り、今日に至るのだ。正直、笑うしか出来なかった。
「まあ、こんなもんだな。」
彼女と僕は、両腕に木の実をたくさん抱えて家に帰った。
夕食の後、後片付けをして、落ち着いた頃に僕は改めて彼女に聞いた。
「君は誰なのか」を。
「わたし…。……だれ…?」
また聞き返された。昨日もこんな調子だった。言葉は思い出しても、記憶はそう簡単に取り戻せないのか。肩を落とした。
「…そうだな、明日、『集落』に行ってみるか。」
あそこなら、彼女の「何か」が掴めるかもしれない。
第一、彼女の服は一着しかなく、その一着もボロボロだ。新しく買ってあげないと、この冬を寒々しい服装で過ごさせることになる。
「……?」
「明日、少し『旅』をしようと思う。そのつもりでいてくれな。」
僕はそう言った。彼女はその言葉を噛みしめるように呟いた。
「たび……。」
そう言った後。彼女はニッコリと笑って、自分の(元、僕の)部屋へと走っていった。
- Re: ある森の狩人の話 ( No.5 )
- 日時: 2014/03/24 23:32
- 名前: NiSi ◆y2eau8XC5Y (ID: /GuZTiav)
−第4話 「何か」を求めて。 〔前編〕−
大きな山を二つ越えた先に「集落」はある。
今は狩が禁止されているため、狩人も通貨を持ち歩かないと買い物ができない。狩人は獲物でモノを取引するのが一般なので、今の「集落」に狩人の姿は少なかった。
「さて、どこから行こうか?」
僕は背中に大きなリュックを背負い、肩には護身用に猟銃を提げていた。
僕たちの家(小屋)から「集落」まで、片道で一日はかかる。途中で野宿するため、いつも「集落」にいく時は大荷物だ。
特に今回は。
「どこからいこうか?」
僕の言葉をオウム返しに聞いてくる。
彼女は僕の2歩手前で僕を見ている。背中に提げた護身用の短剣が小さく揺れる。
「君が決めていいよ。別に。」
「きみがきめていいよ!」
さっきからオウム返しの連発だ。まさかまた言葉を忘れたのかと少し心配してしまう。彼女はそんな僕の前でじっと答えを待っている。その目に邪念は表れていない。もっとも。彼女は至って純粋だ。
「じゃあ...。まずは服から見るか。君寒そうだし。」
「ふくからみるかぁ!」
「都会」に住んでいたころ。「遊園地」ではしゃいでいた僕が、重なって見えた。
僕は服屋で腕を組んで、目の前の服たちとにらめっこをしていた。
さっきからこのポーズで仁王立ちしている。しかしなかなか決まらない。
そもそも自分にセンスがあるとは思えず、更に女物の服選びともなると、男の僕には難しいものだった。
「そう言えば、君ってどんな色が…。」
彼女の意見を聞こうと振り返ると、彼女がいない。
あわて辺りを見回す。その姿は向かい側の…。
……嫌な予感。
彼女は、服屋の向かいの、果物屋の前で、並べられた品物を目を輝かせながら見ていた。
その手が目の前の明らかに高級そうな果物を掴んだのは、そのすぐ後だった。
(ああああああああ!!!!)
僕は心の中で恐ろしい地獄の叫び声を上げた。正直、他人のフリをしていたかったが、そうはいかない。
「ち、ちょっとお!!?」
店のオバちゃんが怒鳴る。思わず目を瞑ってしまった。これから怒濤の罵声が降りかかる、と思って。
「…………。」
なぜか、オバちゃんは黙ってしまった。
顔を上げて、彼女を見た。
彼女はとても幸せそうな顔をしていた。
目を細くし、少し頬を赤く染めて。
夢中で食べる姿は、可愛らしさを覚えるほどだった。
オバちゃんはそんな彼女を見て、怒るに怒れない様子だった。
「……そ、そんなに美味しいの?」
僕の隣にいた女性が呟く。
「…わ、私にも1つ!」
「あ!あたしにも!」
「僕も買ってみようかな。」
「家族に食べさせてみたいなぁ、…1つおくれ!」
いきなり客が次々と店の前になだれ込む。オバちゃんは突然のことにバタバタと忙しそうだ。
取り残された僕は、同じく取り残された彼女に聞いてみた。
「美味しい?」
すると、彼女は満面の笑みで答えてくれた。
「うん!」
彼女がそう答えた直後、
何か熱い……だけど具象化しがたい曖昧な物が
僕の中を駆け回った。
それが何なのか、この時の僕には分からなかった。
−(第5話 〔後編〕) に続く−