複雑・ファジー小説
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- 虚空のシェリア【キャラ募集開始】
- 日時: 2014/11/28 23:31
- 名前: 煙草 (ID: nWEjYf1F)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode=view&no=8432
——目次——
※上記URLより、キャラ募集をしているスレへ飛ぶことが出来ます。
キャラ紹介(未読者ネタバレあり?)>>8
用語解説(準備中)
序章〜迷いの森と自然神〜
>>1 >>2 >>3 >>4 >>5 >>6 >>7 >>9 >>10
1章〜大きな想いを小さな胸に〜
- Re: 虚空のシェリア ( No.6 )
- 日時: 2014/09/14 00:57
- 名前: 煙草 (ID: lY3yMPJo)
- 参照: ※下ネタ注意
それからというもの、シェリアは疾風の如く樹海を突き進んだ。
獣道は彼女の手により、人が通れるような普通の道に無理矢理開拓されていて、襲い来る獣は全て彼女の魔法で焼け焦げている。正に、彼女が通った後に道が出来ているようなものだ。
「やれやれ。そなたは自然に対して、もう少し優しく接せれんのか?」
しかし邪魔者という存在は、何時になっても出てこないとは限らないのが世の常なのである。
「誰」
シェリアはその一言と共に、口調にしては幼い声色である少女の声の発生源——もとい、その声の持ち主を探し始めた。
念のためにと彼女の右手には、件の魔法によって出来上がったフォークが握り締められている。というのも今完成させたばかりの代物であって、威力などに変わりはないが、先ほどまで使っていたものとは違う。
「こっちじゃこっちじゃ、ライモンディの小娘よ」
ガサッと草木を踏みしめる足音がシェリアの背後から響いて、彼女の鼓膜をしっかりと揺らす。
背後を振り返るシェリア。彼女の瞳に映ったのは、肩甲骨辺りまで伸びた若草色の髪と同色の瞳を持ち、右手に身の丈余りの木製の杖を携え、大きな麦藁帽子を被った少女の姿であった。先ほどの声の持ち主はこの少女なのだろう。
そしてその小柄さ加減と言えばシェリアと同じくらいで、顔立ちも彼女とほぼ同年代である。だがシェリアは、それ以前に気になる事があった。何かというと、彼女が着ている服である。
「誰。まず、何その恰好」
「うん? これか? これはだな、自然の恵みを象徴しておるのじゃ!」
似合っとるじゃろ。そう言いつつ、少女はその場でくるりとターンしてみせる。
一応首肯したシェリアだが、そもそもその少女の恰好はと言えば、似合う似合わない以前の問題があった。
まずその服の素材だが、明らかに布ではない。草木の葉や蔓を上手い具合に編みこんで作られた、とても服とは呼べない代物なのである。それに加えて肌着もなしに直接着ている所為か、時折見えてはならない筈である身体の部位が、一部見え隠れしている。
そして、最大の問題は形状。早い話が、ブラジャーとパンツ。この2つの下着だけなのである。
申し訳程度に、同じく草木の葉や蔓で作られた腕輪とアンクレットが装備されているが、言ってしまえばそれだけだ。精々、靴に似た履物だけ。それ以外に肌を隠す要因となりえるものが一切ない。
「でもその前に、肌をもっと隠すべき」
露出を気にするシェリアにとって、その少女の恰好はありえないものであった。
女同士とはいえ、シェリアは少しだけ頬を赤らめている。もし自分が同じ恰好だったら、と想像してしまったのも原因かもしれない。だがそれよりも、ほぼ裸にも等しい恰好をしているその少女が目の前にいることが一番の問題だろう。
そうやって反論するシェリアを見て、少女は1つ溜息をつくと、若干眼を細めて彼女を見据える。
「別に、そなたが気にすることではなかろう? わしはもう処女でないが故、誰に犯されても文句は言わん。むしろ犯してほしいところじゃの。性欲はたとえ女でも、抑え切れんものは抑え切れん」
「……そういう問題じゃ、ないと思う」
そしてその見た目で処女じゃないのか。シェリアは個人的に一番そこが気になった。
幸いなのは、今この場にいるのが女性だけということだろう。男性がいたら、それこそ目の毒というものである。
「まあ、本当の理由は別にあるのじゃがな」
「……」
だったら答えろと言わんばかりに、シェリアは沈黙と視線を以って少女に無言で訴える。
少女は1つ苦笑紛れに笑うと、だったら名を名乗った方が早いかもしれん、といってその場に直った。
そうして次の瞬間、シェリアは数秒の間、思考を止める羽目に至った。何故なら————
「わしの名はナチュレ……とまで言えば、ライモンディ一族なら大方分かるじゃろ?」
少女の口から、このカルマ高原に住むとされる自然界の神"ナチュレ"の名が零れたのだから。
- Re: 虚空のシェリア ( No.7 )
- 日時: 2014/09/15 17:27
- 名前: 煙草 (ID: lY3yMPJo)
一方その頃。森の入り口では、複数人による1つの騒ぎが起きている。
「あンの馬鹿っ!」
———などと叫びつつ、頭を抱える村の青年戦士複数と。
「もー、何で先に行っちゃうかなぁ……シェリア……」
———と呟きながら、心底不安そうな眼差しで森の入り口を見つめる歩夢。
「シェリアもそうじゃが、他の子供達も心配じゃの」
最後に、肩で巨大な金槌を担ぎながら独り言を放つ長老"ローガン"の姿があった。
年齢は優に70を超えている彼だが、まだまだ体つきは勇ましく、正に筋骨隆々。現役バリバリの戦士である。
同時に長老なだけあって、単純な戦闘能力と体力であれば村一番を誇っている。だが、流石に寄る年波には勝てないのか、魔法による戦法が減衰している一方である。故に現状村で最強と言えば、魔法の扱いに最も長けたシェリアなのかもしれない。
しかし、そんなシェリアもまだ少女に変わりはない。ましてや彼女が踏み込んだのは、その名に違わぬ迷いの森。
「シェリア姉ちゃん、大丈夫かな……」
「大丈夫よ、きっと」
シェリアの家族も来ていて、弟の"エリオット"が心配そうにしている。
だが、そんなエリオットを宥める母"クラン"も、やはりというか不安は拭い去れないらしい。
「ああ見えて、あいつは無鉄砲なところがあるからな。心配だ」
父の"トム"も、腕を組みながら渋面で森の入り口を睨んでいる。
一応その背には身の丈余りの大斧が背負われている。彼も一応、村の戦士なのだから。
「……では、仕方あるまい」
それからしばらくして、事態を動かしたのは、いざ突入せんといわんばかりに武器を構えるローガンであった。
「皆の者! これより訓練に出かけた村の子供達を捜索するべく、迷いの森への突入を許可する!」
次いでそんな威厳ある声が響き、続け様に戦士たちからは掛け声が上がる。
そして我よ先にと、戦士たちは森の中へと雪崩れ込んでいった。
- Re: 虚空のシェリア ( No.8 )
- 日時: 2014/09/15 19:22
- 名前: 煙草 (ID: lY3yMPJo)
- 参照: 人物紹介ページ※未読者ネタバレあり?
メインキャラ紹介
"Shellia Shuvallz(シェリア・シュバルツ)" 16歳 女 武器:パルチザン
無口無表情なことで知られる、ライモンディ一族きっての寡黙キャラ。基本的に従順で大人しいが、若干面倒臭がり。動作も基本的にゆっくりしていて、いつも眠そうに目を細めている。
仲間が危機に曝されていたりすると、途端に自分を見失って無鉄砲な一面を垣間見せることも。
その際も変わらずクールなのはお約束であって、しかも無鉄砲に見える行動をとっても意外と事が上手く成り行くので、彼女の周囲にいる人物達は大体外野で静観していることが多い。
同時にその性格からは考えられないが、今のところでは事実上、彼女が村で最強の戦士である。
髪は黒くさらさらで、邪魔にならない程度のショートヘアに仕上がっている。
瞳が血液の様に赤いが、相手を怯えさせるような眼光は持ち合わせていない。むしろ相手に、穏やかな印象さえ与える。
体型はスレンダーで小柄。悪く言えば貧相であり、彼女はひそかにこれを気にしている。そしてライモンディ一族にしては珍しく、肌が色白で日焼けとは無縁といえる。
趣味:なし 特技:魔法
"Rect Oraion(レクト・オライオン)" 14歳 男 武器:拳
責任感が強く、善悪の概念をはっきりさせている少年。
シェリアとは対照的に行動がキビキビとしており、いつも大人顔負けの仕事をするために周囲からの評価はかなり高い。
いつもシェリアの傍らにいることが多いが、これはあくまでも、のんびりしすぎているシェリアの性格を矯正させるため——と本人は主張している。実際によくシェリアを窘めているが、本当は彼女に淡い想いを寄せているのであり、素直でないだけ。
茶髪に焦げ茶色ほ瞳を持ち、顔立ちはそこそこ。ただし身長が比較的低く、シェリアと目線がほぼ同じで、本人はそれを気にしている。シェリアの方が年上なのにも関わらず。
趣味:コマ回し 特技:格闘
"Logan Laymomdy(ローガン・ライモンディ)" 73歳 男 武器:巨大金槌
ライモンディ一族を統括する村の長老。
魔法を操るのが下手になってきたことから所詮は老い耄れと思われがちだが、体型は未だに勇ましく、獲物である大きな金槌を軽々と担ぎ、毎日1回村から出ては獣を相手に無双している。
発する威厳も全く衰えていないが、性格は至って穏やかで笑い上戸。同時に自然に関して博識で、村人から尊敬されている。
ハゲかけた白髪と白髭をきっちりと整え、日々、まだまだ若いモンには負けんぞと言いながら息巻いている。
趣味:なし 特技:力仕事(本人曰く)
"柊歩夢(ひいらぎあゆむ)" 13歳 男 武器:拳銃
極東の島国"出雲神州"よりやってきた、元旅人の少年。
天真爛漫で人懐っこく、思ってることが直ぐ顔に出るので色々と分かりやすい。
持ち前の行動力と明るさで周囲を引っ張るが、あまり後先考えていないことも。
元旅人なだけに体力があり、銃の腕前もかなり鍛え上げられていて、正に百発百中の命中精度を誇る。
異国人なので髪と目は混じり気のない黒に染まっており、肌もシェリアのように白の傾向にある。そして魔法も使えない。
身体の小ささと幼さについてはレクト以下だが、こちらは彼とは違って特に気にしていない様子。
"Nature(ナチュレ)" 女 年齢不詳 武器:杖
カルマ高原に住む自然の神。
顔立ちと体型の幼さや無邪気と言ってもよい性格からパッと見13歳くらいの少女に見えるが、これでも立派な神であり、神としての力や知識などもしっかりと兼ね備えている。
その証拠に右手に握っている神木の杖で、自然の力を利用した様々な現象を自由自在に引き起こすことが出来る。
恰好はほぼ裸。身体に纏っているものは、草木の蔓や葉を丁寧に織り込んで出来たブラジャーとパンツだけであり、自然の恵みを象徴しているという正当な理由こそあれど、公然猥褻よろしく羞恥的な格好をしている。
実際中身もかなり変態で、思わず周囲が「恥らえ」と突っ込みを入れたくなるような赤面ものの単語を連発する。
髪と瞳は、自然の色をそのまま映したかのような若草色をしている。麦藁帽子がチャームポイント。
"Aracune(アラクネ)" 性別年齢不詳
カルマ高原に居座っている黒い悪魔。身体はタールのような物質で出来ており、一定の形を保たない。
ライモンディ一族の前に強力な獣を従えて現れては謎の言葉を残し、撃退されるという行動を繰り返してきた。
真意は一切不明。人の言葉を話せるが、意思精通はまるで出来ない謎の存在である。
サブキャラ紹介(名前と軽い紹介文のみ)
"Assh Crimson(アッシュ・クリムソン)" 男 14歳 武器:ロングソード
ライモンディ一族の子供。レクトの親友でもある。
"Elliot Shuvallz(エリオット・シュバルツ)" 男 12歳 武器:チャクラム(投擲リング)
シェリアの弟。異国人の歩夢と最も早く打ち解けられた人物。
"Cran Shuvallz(クラン・シュバルツ)" 女 40歳 武器:なし
シェリアの母。包容力があり、面倒見がいい。
"Tom Shuvallz(トム・シュバルツ)" 男 42歳 武器:大斧
シェリアの父。かなりの大酒飲みで、酒癖もかなり悪い。
- Re: 虚空のシェリア ( No.9 )
- 日時: 2014/09/20 09:54
- 名前: 煙草 (ID: nWEjYf1F)
戦士達が森へと雪崩れ込んできたその一方で、シェリアはナチュレと名乗った少女により1人で静かに衝撃を受けていた。
数秒の間思考が止まり、ナチュレが発した名前の意味を理解するのにさらに数秒かかる。総じて10秒ほどの間を以って、シェリアはようやく我に返る。今目の前にいる人物がどういった存在なのか、それを理解できるに至ってから。
「自然神ナチュレ」
「それじゃ。全く、そなたも馬鹿よのう。わしが何者かを理解するのに、それほど長い時を必要とするのかの?」
「別に」
自分で言うのもなんだが、私は馬鹿ではない。シェリアは密かに心の中で、ナチュレに対してそう言っておいた。
そもそも、どれほど賢く頭脳明晰で冷静な人でも、事実上今まで人前に姿を見せなかった神が、何の突拍子も無く目の前に現れたら誰だって思考を止めてしまうことだろう。
ましてや今シェリアが相対しているのは、今まで語り語られてきた伝承にある自然神とは程遠い容姿の少女。突然ナチュレだと名乗られても、いきなりは信用できない。出来るはずがない。もし出来たならそれは、よほどのお人好しであり、決して人を信じて疑わない人だと言える。
そして、シェリアは生憎、そこまで人を信用する方ではない。どちらかというと人間不信だ。
「まあ何にせよ、そなたがこの先へ進むというのなら、わしも同行するとしよう」
「何故」
何故と訊いたシェリアを見て、ナチュレは思わず「はぁ?」と零してしまった。
それを聞いて、シェリアは僅かに眉根を顰めた。
たとえ相手が自然の神であっても、彼女にとって同行人という存在は邪魔者以外の何者でもない。ましてや、神といってもこの信憑性の低い少女。下手したら足手まといになりかねない。
「あのなぁ、ここが何処だか、そなたは知ってて足を踏み入れているのか?」
「知ってる。迷いの森」
「知ってて何故、そなたは1人でここまで来たのじゃ。この森の危険性、ライモンディ一族なら誰でも知っていようぞ」
ナチュレは呆れた表情でシェリアを見ている。
「誰かいたら足手纏い。それに、アラクネからみんなを守らなきゃいけないから」
「アラクネ……じゃと?」
しかしその表情も、アラクネという単語を聞くまでであった。
「あ、アラクネの居場所を知っておるのか!? 素直に答えろ!」
突然血相変えて、自分より身長の大きなシェリアの胸倉を掴むナチュレ。
その変わり様にシェリアは一瞬だけ驚いたが、直ぐにいつもの調子を取り戻し、ナチュレの手を離す。
「ん。アラクネが私の友達を襲った。だから、ここにいるって睨んで来た」
「だったら尚更同行を求める! アラクネなど、放って置けばいずれ世界が終わるぞ!」
「そんな現実味の無い」
「と、とにかくアラクネが生きているのであれば、放っておくわけにはいかんのじゃ!」
ナチュレはどうしてもついて来るつもりらしく、シェリアは渋々同行を許可した。
だが、何故だろうか。アラクネという単語を聞いた途端、こんなにも慌て始めたのは。
やはり、今目の前で先を急ごうとしているこの少女が正真正銘のナチュレなのだろうか。
何れにせよ、自分もこの森の奥へと足を運ぶ必要がある。
シェリアもナチュレに続いた。
- Re: 虚空のシェリア ( No.10 )
- 日時: 2014/11/28 19:36
- 名前: 煙草 (ID: nWEjYf1F)
やがて走ること数分。シェリアとナチュレは樹海の最深部に到達した。
その際に行く手を阻んでいた道無き道の植物達は、全てナチュレによる自然を操るという不思議な魔法によって拓かれ、シェリアはここに至って、ようやく目の前にいる少女がナチュレであるということに確信を持てたのだった。
しかし、そんな驚くべき現実は、樹海の最深部に到達するまでであった。
————アラクネが、いたのである。
「ようやく会えたのう、アラクネ。性懲りもなく、また森羅万象を破壊しに来たとでも言うかの?」
一定の形を保たず、常に不規則に形を変える黒い液状の体。その中でも、場所も大きさも形も変わらない赤く光る眼。
そんなアラクネを目撃するや否や、ナチュレの目つきが明らかに変わった。
神としての神気、神ならではの覇気、神を名乗るに相応しい力——見た目の小ささとは裏腹に質量さえ感じられそうなそれらは、確実にシェリアの精神力を蝕み、同時に恐れ慄いている。
更に同時に、彼女は理解した。これが正真正銘の神なのか、と。
目の前でナチュレの様子を窺っているアラクネからも相当なオーラを感じるが、ナチュレはそれ以上だ。
今ここでシェリアがその重圧感に耐え、震えもせずに自分の足でしっかりと大地を踏みしめているこの状況。これも本来であれば、常人ではとても敵ったものではない。それを見たところ、彼女が持っている戦闘能力の高さが窺えることだろう。
「我——来たれり——古より、神々——」
途切れ途切れで話すアラクネの独特な口調からは、誰でさえも、言葉の意味が理解できなければ真意も読み取れない。
「相変わらず訳の分からんこと抜かしおる……」
それは例え神であっても、全く以って分からないのである。
それでもナチュレは、どんな意味不明な言葉を投げかけられても、今自分がやるべきことだけは見失っていないらしい。
彼女は杖を構え、アラクネへの戦闘意思を示した。
「まあ何れにせよ、そなたがここにいるのは罪じゃ。滅す!」
「っ!」
滅す。その台詞と同時に、ナチュレの目つきが更に変化した。
その若草色の瞳には慈悲の欠片もなく、ただ無情に天罰を下す——そんな神が持つ厳しき心の表れだ。
それからというもの、シェリアは戦闘に巻き込まれないように自分の身を保護するだけでも精一杯であった。ナチュレが放つ様々な自然現象が、過酷すぎる環境を作り上げるのである。
まず、唐突に数多の落雷が発生して樹海の木々を尽く燃やし、大地を貫き、地割れが起きたその隙間からはマントルに溜まった溶岩が大量にあふれ出してきた。
それも1度だけに留まらなかったので、この時点で既に周囲は、宛ら誕生したばかりの星と同じ環境下と化していた。
落雷を起こした雲が多大なる量の雨を降らせるため地盤は一気に緩み、さらには立て続けにやってくる落雷の衝撃もあって地面は次々に割れていき、それに合わせて溶岩が幾度となく噴出しているのである。
しかしその中でも蠢いているのが、ナチュレの力によって保護された食虫植物たち。
通常の何倍にも巨大化したそれらは、ただアラクネを捉え喰らわんと、次から次へとアラクネへ襲い掛かっている。
だが、アラクネも負けてはいない。
アラクネが持つ独特の体が植物達の攻撃を受け流し、崩れ行く安全地帯を確保するため、その液状の全身を生かして次から次へと回避もあわせて移動を繰り返している。
それは正に、神と悪魔の壮絶なる戦い。
最早人間が入り込めるような次元ではなかった。
だがシェリアは、そんな中でも1つ気がかりなことがあった。
レクトたちの行方である。
「な、ナチュレ!」
「安心するがよい!」
「!?」
轟音の中で柄にも合わず叫び声を上げたシェリアに対し、ナチュレの答えははっきりと聞こえてくる。
「そなたの攫われた仲間とやらは、全て集落へと返しておいた! ここは我に任せ、そなたは逃げるがよい!」
——その言葉が本当かどうかは確かめようがない。だから、シェリアはナチュレを信じることにした。