複雑・ファジー小説

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虚空のシェリア【キャラ募集開始】
日時: 2014/11/28 23:31
名前: 煙草 (ID: nWEjYf1F)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode=view&no=8432

——目次——

※上記URLより、キャラ募集をしているスレへ飛ぶことが出来ます。

キャラ紹介(未読者ネタバレあり?)>>8
用語解説(準備中)

序章〜迷いの森と自然神〜
>>1 >>2 >>3 >>4 >>5 >>6 >>7 >>9 >>10

1章〜大きな想いを小さな胸に〜

Re: 虚空のシェリア ( No.1 )
日時: 2014/06/07 21:03
名前: 煙草 (ID: gOBbXtG8)

 青と緑を基調とした民族衣装に身を包み、一人カルマ高原に立つ少女〈シェリア〉がいた。
 焦点は特に定まっておらず、その視線はあえて言うなら、青空を流れる複数の雲に向いている。
 一切の表情を窺わせない彼女。何を考えているのか、それは本人と仏のみぞ知る。
 実際は特に何も考えていないのだが。

(……気持ちいい)

 何も考えずに、カルマ高原を吹く風に吹かれるのが好きだった。
 それは幼い頃からずっと同じであり、毎日僅かに違ってくる風を感じるのが一種の趣味でもあった。
 元々カルマ高原には退屈凌ぎというものがあまり存在しないので、このような趣味が出来上がっても別段おかしく無いのだが。

「おーいシェリアー!」

 どこからか、彼女の名を呼ぶ声がする。
 周囲を模索すると、よく知っている少年が走ってくるのが見えた。
 肌の色がまるで正反対だが、服装が彼女のそれと殆ど同じなところを見ると、どうやら同一の民族のようだ。

 暫くもしないうちにシェリアの元へと走ってきた少年〈レクト〉
 体力があるのか、豆粒のように見える集落から走ってきても息を切らせていない。

「何処行ってたんだよ。長老が呼んでるぞ」
「……何で?」
「何でって……今日は狩りの特訓日だぞ」
「……ふうん」

 ライモンディ一族の子供は、将来立派な大人になるために狩りの練習を積み重ねる。
 今日はその特訓日だったのだが、どうやらシェリアは忘れていたらしい。

「早く行こう。また怒られるぞ」
「……別に、怒られても何てこと無い」
「そ、そういう問題じゃないっての……」

 苦笑するレクト。
 手を引かれて走るも無表情なシェリアを傍目に、彼は集落へと急いだ。

Re: 虚空のシェリア ( No.2 )
日時: 2014/09/20 10:04
名前: 煙草 (ID: nWEjYf1F)

 ライモンディ一族とは、このカルマ高原で暮らす遊牧民族の事。
 一族の者は皆褐色の肌をしていて、今シェリアの手を引いて走っているレクトも例外ではない。ただし、シェリア。彼女だけはライモンディ一族にしては珍しく、日焼けとは無縁の色白の肌をしている。
 そんなライモンディ一族の家は、折りたたみ可能なテントのような家をしている。見た目は全て殆ど同じだが、長老の家だけは、特別な装飾が施されているために分かりやすい。
 レクトはまさに疾風の如く、その長老の家へと駆け込んだ。

「ローガン長老! 失礼します」

 無論、シェリアをつれて。
 広々としたその家の中では、レクトにローガンと呼ばれた、白い顎鬚と禿げかけた白髪をきっちり整えた年の頃70代の男性——もとい、長老である"ローガン・ライモンディ"だけがいた。
 他の子供達は既に訓練に出かけたらしい。

「ご苦労じゃったなレクト。それと、遅かったなシェリア。どこで何をしていたのじゃ?」

 優しくも厳しく、威厳あるしわがれた声がする。

「……別に、何も」

 対してシェリアはつまらなさそうに、その赤い瞳を明後日の方へ向けて、耳にかかった黒い短髪を払いのけるだけである。レクトはそれをみて、眼光を鋭くさせた——つもりでもまだ穏やかな——瞳を彼女に向ける。

「おい、長老だぞ。礼儀くらい弁えろよ」
「……」
「よいのじゃレクト。それもシェリアの人柄じゃからの」
「そ、そう……でしょうか?」

 ふぉっふぉっふぉ、と愉快そうに笑うローガンだが、レクトは今ひとつ腑に落ちないのか、首を傾げて唸っている。
 こほん、とローガンが咳払いを1つすると、彼は本題を切り出す。

「今日の訓練は実地訓練じゃ。混迷の森付近へと赴き、その近くに出没する狼型の獣を討伐してもらう。よいな?」
「分かりました。行くぞ、シェリア」

 本題を素早く飲み込み、理解したレクトはさっさと長老の家を後にした。
 シェリアも彼に続いて、ゆっくりとした動作且つ欠伸のオマケつきで、のんびりとその場を去った。

Re: 虚空のシェリア ( No.3 )
日時: 2014/08/31 17:39
名前: 煙草 (ID: lY3yMPJo)

 その後はレクトについていこうとしたシェリアだったが、如何にせん行動速度が彼と彼女とでは明らかに違うので、彼女はさっさと先を行く彼に距離を離され、終いには姿を見失ってしまった。
 それでも実地訓練の場所はシェリア自身が分かっているので、彼女はのんびりと目的地へ向かうこととする。しかし。

『武器、忘れた……』

 レクトに慌しく連れ回された故、シェリアは自分の獲物を家に置いたまま集落を後にしていたのだ。
 獲物の銘柄はパルチザン。槍と斧が一体化したことにより殺傷能力が増しており、それでいて金属にしては恐ろしく軽いという、ライモンディ一族に伝わる由緒正しき武具の名である。
 しかし、そんなパルチザンを使用している当の彼女が、そのような伝統ある武具だと知っているはずも無く。ただそこにあるから、という理由で今まで使ってきた。それ以外に理由などない。
 因みにレクトは武器を持たない。彼の武器は格闘技であり、獣を目の前にしても勇猛果敢に殴りこみに行く。

「武器、ないの?」
「……」

 気付けば、年齢の割に小柄なシェリア以上に小柄な少年が隣を歩いていた。
 その少年は自分の獲物である拳銃を持て余しながら、小首を傾げながらシェリアを見上げている。

「……何時からいたの、歩夢」
「いつからって、酷いなぁシェリア。集落出てから、ずっと一緒だったよ?」

 歩夢(あゆむ)と呼ばれた幼い少年は、膨れっ面でシェリアを睨む。
 そんな姿が、まだまだ可愛い。睨まれたシェリアは、内心そう思っていた。

 歩夢は極東の島国"出雲神州"の生まれであり、ライモンディ一族ではない。では何故ここにいるのかというと、単に家出ついでの旅をしていた際に、この地に足を踏み入れて居着いただけである。
 なので彼の肌はシェリアと同じで白く、髪も目も黒一色であり、村の中でも一際浮いている存在といえる。しかし、居着いてかれこれ3ヶ月。最近ようやく皆と馴染み、正式にライモンディの集落の住人になったのだという。

「……ふーん」

 そんな歩夢を一瞥しただけで、シェリアは再び目線を正面へと戻す。
 話をはぐらかされた気がして、歩夢は少し眉根を顰めた。

「それで、武器どうするのさ? まだ時間あるけど、取りに行く?」
「……別にいい。魔法で十分」
「そ、そうなんだ」

 魔法。それは、扱い方次第では何よりも強力な武器となりえる代物である。
 ただし、魔法は世界中の人口でも1割以下の人間しか使うことが出来ない上、その大半は"エルフ"と呼ばれる種族が、一部はライモンディ一族が占めている。よって、魔法という存在は正式に確立されてはいるのだが、実際に使用できる人物は前途の通り少ないために世間からはかなり珍しがられる。
 そして理論上では、魔法に不可能なことはない。鍛錬を積むことによって、魔法は何処までも進化する。

「そっか。シェリアはライモンディ一族だから、魔法なんてお茶の子さいさいって訳なんだね」
「……」

 お茶の子さいさい。その言葉は出雲神州のものであって、他国の人間には通じないことが多い。ただ、シェリアはその言葉の意味を知っていた。それでも彼女は黙っている。理由は単純にして明快。返事が面倒なだけである。

「あ、もしかして今の言葉の意味分からなかった?」
「……分かってる」
「じゃあ何か返事してよ。つまんないじゃん」

 会話を要求する歩夢だが、シェリアは依然、黙ったままだ。
 結局その後2人は、終始無言で目的地まで到着したそうだ。

Re: 虚空のシェリア ( No.4 )
日時: 2014/09/06 15:11
名前: 煙草 (ID: lY3yMPJo)

 一体、何事だ。何が起きたというのだ。
 その後シェリアと歩夢が、訓練の目的地である"混迷の森"付近の石切り場まで来たときである。2人の言葉無き会話と考えが、一字一句のずれなく一致したのは。
 確かにその場では、訓練が行われていた。しかし、残っているのは狼の死体と各種武具という痕跡のみで、今現在この場には人っ子1人さえ居やしない。
 歩夢は震える腕を必死になって抑えつつ、拳銃のセーフティを外して臨戦態勢をとった。シェリアもそれを見て倣い、あらゆる属性の魔法から成る、数多の投擲ナイフの準備をする。

「これ、アッシュの剣じゃない?」
「……多分」

 そんな歩夢が見つけたのは、彼と一番仲が良いと言っても過言ではないライモンディ一族の子"アッシュ"が使用している武器。その適度な刀身を持つロングソードは初心者でも扱いやすく、手に馴染みやすい青銅製の剣である。返り血に混じって、それには何か黒い液体が付着している。

「……」

 その剣に付いている黒い液体を見てシェリアは、僅かに眉根を顰めた。
 珍しく感情を露にした彼女に、歩夢がどうかしたかと尋ねる。

「これ、アラクネ」
「アラクネ?」
「うん」

 アラクネ。それは黒いタールのようなモノから成る身体を持つ、軟体生物とも言い難い謎の生命体。
 ライモンディ一族対して敵性を示しているのか、稀に数多の強力な獣を従えて集落を襲うことで知られるアラクネ。毎度毎度シェリアを初めとするライモンディの戦士達に返り討ちに遭うが、それでも懲りることなく、一定期間の後にアラクネは集落を襲うのである。
 その最大の特徴は、人の言葉を話すこと。

「毎回、自然がどうのって意味不明な発言してく」
「意思精通はできない、みたいな?」

 歩夢の問いに対し、シェリアは黙って頷いた。
 アラクネは集落を襲うたび、人の形をとっては謎の言葉を並べる。しかし意思精通が出来ていない所為か、アラクネはライモンディ一族の問いに答えたりなどはしてこなかった。ただ黙っているだけで。

「多分、アラクネがこの近くで出た」
「それで、みんなやられちゃったと。……何だかすごく大変な事態に直面してる気がする」

 不安げな歩夢を傍目に、シェリアは警戒心を露にしつつ、森の奥へと目を向ける。
 地面には、アラクネが這っていった痕跡もある。アッシュの剣についた黒い液体と同じ、黒く細い筋が。

「この奥かも」
「えぇ!? も、もしかして行くの!?」
「当然」
「ま、まってよシェリア! ここって迷いの森でしょ!?」

 歩夢が焦るのも無理はない。
 シェリアの瞳の先。そこに広がる森こそが迷いの森であり、その名の通り、一度入ったら脱出はほぼ不可能とされている。原因は入り組んだ道無き道に、鬱蒼としていて日の光さえ差し込まない雑木林。そして何より、磁気を含む地面の土だ。地面の土に磁気が含まれているともなれば、当然方位磁針が機能するはずもなく。それ故に、迷いの森と名付けられたのである。
 だがシェリアは、どうしてもその森に足を踏み込むつもりらしい。

「もしかしたら、レクトたちがいるかもしれない」
「だ、だけどさぁ……」
「じゃあ歩夢、集落に戻って誰か呼んできて。私はここで待ってる」
「わ、わかった!」

 走り出す歩夢。その速さは宛ら、火事場の馬鹿力が発動したかのようである。
 そうして集落からの助けを待つことにしたシェリア。しかし、どうもじっとしていられない。
 特に、この先にアラクネに捕まった集落の子供達がいる。そう考えるほどに。

『……』

 彼女の足が、森の入り口へと向く。

Re: 虚空のシェリア ( No.5 )
日時: 2014/09/07 14:45
名前: 煙草 (ID: lY3yMPJo)

 迷いの森の実態は、噂に違わぬそれであった。
 足を踏み入れ、獣道を進むこと数十メートル。この時点で既に、さっきまで見えていたはずの入り口は姿を消した。出入り口が姿を消したら最後、視界に映るものは鬱蒼とした森のみとなる。
 あと精々映るのは、風雨に晒された数多の骸。骸の数はそれの数だけ、無謀にもこの森に挑んで果てた冒険者がいる。その証拠でもあろう。シェリアはそれをみて、何ともいえない気分になった。まるで呪われた道を歩んでいるかのようで。

 そしてこの森には当然、強力な獣達が徘徊している。特にアラクネが従えるものが多く、一流の戦士でも手古摺る獣が、この森に住む生物の大半の割合を占めている。つい先日も、偶然ここから出てきた獣にライモンディの戦士が力尽きたところだ。
 挙句、その数も尋常ではない。ここは本来であれば一族の掟として、大した獲物を持ち合わせていない、しかも仮にも未成年の少女であるシェリアが近付いていい場所ではないのだ。
 しかし、そんな掟さえも彼女は破り、自分の意思で中に入ると決めた。大切な人が、この先にいるかもしれないのだ。そんな現実を目の当たりにして動かないほど、彼女も冷徹ではない。



 数分後。案の定、シェリアの前に獣が現れた。
 猪に似た——というよりも完全に猪であるそれは、鼻息を荒くして彼女に突進せんと身構えている。

『……めんどくさいなぁ』

 シェリアはそう思いつつも右手を掌を握り、左半身を猪のほうへと向け、身体を影にして手に炎を宿らせる。
 刹那、猪は突進を仕掛けた。
 しかしシェリアは落ち着いたまま、右手をサッと振り上げた。
 同時に彼女は肉を斬る感覚と、顔にかかる寸前だった炎の熱、何かが焦げるような異臭を感じる。
 ぎゃふん、とでもいうような女々しい声と共に、猪は口元に生えた牙ごと口と鼻を斬られて退いた。
 シェリアの右手には、依然炎が宿っている。その小さく白い手中には、黒くすすけたようなフォークが。

 年端もいかないか弱き少女でも、本来ならば出来ずとも、こうして猛獣の1匹や2匹ならば軽く退けさせることが出来る——これこそが魔法の力であり、魔法の成せる技である。
 シェリアが使ったのは、武具を具現化させることが出来る魔法。彼女なりの独創的な工夫が凝らされており、伸縮自在のフォークを具現化することで、持ち運びに手間もかからなければ遠くの相手に様々な攻撃を仕掛けることが出来る。

 猪が力尽きてから周囲の安全を確認できたシェリアは、役目を終えた右手の黒いフォークを手放す。手から離れた瞬間、フォークはただの炎の塊となって虚空へと消える。
 時間を取られた気がして、彼女は探索の足を速めた。


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