複雑・ファジー小説

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【第二部】続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎-【完結】
日時: 2016/02/26 17:33
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: aQG7fWp7)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=15213

┝━━━━━━━━━━━━━┥
│生贄を捧げしは      │
│ 悪夢の予兆なり     │
│  魅入られし者は    │
│   天高く召される   │
┝━━━━━━━━━━━━━┥
  〜『レーゼ=ファミリアの手記』より抜粋...


▼━━━━−−更新情報 】 2016.02.26 更新】
・エピローグ >>184-186【完結】
・あとがきと言う名の雑記。>>187
next→→《第三部:鏡の世界の王子様》coming soon…

▼━━━−−あ ら す じ】
 あの事件から半年後‥
主人公・キリは、ラプール島で"とある人物"の迎えを待っていた。
しかし己の運命が災いし、キリたちは古びた村へ赴くことに。
その村で行われていたのは【生贄】の儀式であった。
更にその先で《神隠し騒動》に巻き込まれてしまったキリたちは……

▼━━━−−注意】
 この作品は『前作のネタバレ』を非常に多く含んでおります。
 前作『ウェルリア王国-紅い遺志と眠れる華-』を一読いただけたら
 嬉しいです(*^^*) <上記URLから是非!
 この話からでも大丈夫ですが、前作を読むと倍楽しめる、かも。

※基本コメディー・ほのぼのですが、時々鬱展開入ります(汗)
※ファジー板失礼します‥
<目次はこのスレの下の方にあります↓>

▼━━━━−−お知らせ 】
・【小説カキコ2015 夏小説大会・複雑ファジー板】にて【銀賞】頂きました。
→投票してくださった皆様、ありがとうございました(*^^*) 嬉
・二次創作(紙ほか ※マンガ、書籍など)で絶賛執筆中の書き述べる様「AsStory」ファンタジーパートにて、我らがウェルリア王国兵Sトリオたちが大活躍(仮)しますー!
 →→→
 私のところと違って、ガンガン任務を遂行しているカッコ良いアロマさんたちを拝めちゃいます。笑 ぜひご覧ください( ^ ^ )/□


:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
::::::::ウェルリア王国物語-摩天楼の謎-【 目次 】::::::::
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

主な登場人物 >>001
資料:ルルーヴ村の歴史 >>015

プロローグ >>002

第一章 再会編
 第一話:邂逅の朝 >>003 >>006 >>009-010
 第二話:村の秘密 >>013-16 >>019
 第三話:新たな犠牲者 >>020 >>023-024 >>027
 第四話:狙われた王子 >>028-32 >>036 >>039

幕間:夢の中 >>040

第二章 捜索編
 第一話:奪われたもの >>043-044
 第二話:聖なる遣い >>047-049 >>052-055
 第三話:喪失者 >>060-063 >>066-067

第三章 帰国編
 第一話:気がかり >>73-75 >>78
 第二話:助言者 >>81 >>84-85 >>88
 第三話:最善の判断 >>89-92
 第四話:見慣れた影 >>93-94

第四章 真実への序章編
 第一話:推測 >>97 >>100 >>103
 第二話:不審 >>104-105 >>108-110
 第三話:遺された者 >>111-112 >>115-116

第五章 秘めごと編
 第一話:昔々のお話 >>117-120 >>123
 第二話:神父の過去 >>124-125(※) >>126-128
 第三話:侵入 >>129-130

幕間:闇の中 >>131

第六章 漆黒編
 第一話:心壊 >>132 >>135-138
 第二話:幻影 >>139-142
 第三話:悪夢 >>145 >>148

最終章 黎明編
 第一話:咆哮 >>149-157
 第二話:亡者 >>158-164
 第三話:報復 >>165-169
 第四話:王様 >>170-174 >>177 >>182-183 >>186

エピローグ >>184-186

あとがきと言う名の雑記。 >>187

:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

▼━━━━お客様 ♪
・tatatatata様『複雑ファジー板:ノスタディア国の反逆者』
・書き述べる様『2次創作(紙ほか)板:AsStory』
・八朔様
・狐様『複雑ファジー板:〜闇の系譜〜シリーズ』
・and you...

○前作『ウェルリア王国物語-紅い遺志と眠れる華-』が【2013冬カキコ内の小説大会・複雑ファジー板】で【銀賞】を頂きました(#^.^#)
○本作【2014夏カキコ内の小説大会・複雑ファジー板】にて【金賞】、【2015夏小説大会・複雑ファジー板】にて【銀賞】受賞
○前作(URLからどうぞ!)の参照数が6000突破!!
 ありがとうございます(;_;)
○【二次創作(紙ほか)板】書き述べる様「As Story」ファンタジーパートに
 ウェルリア王国キャラクター(Sトリオ等) 出演
○続編も1年ほどで完結出来たら良いなあと思いつつ、ゆるゆるり。
◎いつも応援ありがとうございます。
◎これからも精進して頑張ります!!

★━━━━−−—————————————————
『複雑・ファジー板』書き始め日*2014.06.30〜2016.01.01
参照50突破*2014.07.01 参照100突破*2014.07.03
参照200突破*2014.07.10 参照300突破*2014.07.17
参照400突破*2014.07.24 参照500突破*2014.08.05
参照600突破*2014.08.14 参照700突破*2014.09.01
参照800突破*2014.09.12 参照900突破*2014.10.01
参照1000突破*2014.10.07 参照2000突破*2014.11.13
参照3000突破*2015.03.07 参照4000突破*2015.06.15
参照5000突破*2015.10.10 参照6000突破*2015.12.07

Re: 【新章:漆黒編】続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.135 )
日時: 2015/07/31 07:51
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: XpbUQDzA)

「リィ……さん?」

何故、彼女がここに居るのかわからない。
けれど実際、彼女は柔和な笑みを浮かべて確かにそこに佇んでいた。

「キリ、久しぶりね」
「リィさん……なんで……」
「早くラプール島に帰りましょうよ。そうだわ、今日は久々にキリの大好きなステーキにでもしましょうか」
「……ねえ、なんでここにいるの……?」
「それはこっちのセリフよ、キリ。今日はラプール島の広場で、乗馬の自主練習、するんじゃなかったの?」
「…………」

ふらり。
よろめいて一歩下がる。

「イヤだ……」
「何? キリ、どうしたの?」
「来ないで……」
「キリ」
「イヤっ……!」

数ミリの段差に躓いてしまい、キリは勢いよく尻餅をついた。
腰に下げていた短剣が床に当たって金属音が響き渡った。
キリは這いつくばった姿勢でなおも後退しながら、強く短剣を握りしめた。

「パパ……ママ……」

刹那ーー
一陣の風が吹いた。
びゅおおと物凄い勢いで吹き遊び、再度目を開けると、そこには誰もいなかった。
代わりに、キリのすぐ隣で蒼ざめた顔色のまま唇を噛み締めるリークの姿があった。

「ね、ねえっ……しっかりして!!」

キリが怒鳴りながらリークの頭を殴ると、リークは正気に返ったように頭を振った。

「俺、今何を……」
「幻覚が見えた、……よね」
「俺の目の前に今、フィアルが……」
「……え、フィアル君が?」

キリがそう呟くや否や、目の前にいたフードの人物が声を上げた。

『面白いや面白い。キミたち、面白イ』

そう言いながらも、相変わらず水晶玉は抱えたままである。

『キミたち、殺さない。殺すのには惜シイ。勿体無いよ勿体無い、もっと遊ぼう。ねえ。もっと、もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともット』
「……あのね。私たち人を捜しにきたの」

意を決して、キリは口を開いた。

「男の子なんだけどね」

するとフードは途端に早口でまくしたてた。

『そんなの知らないよ。人なんかいない。ここは誰もいない。ツマラナイ。遊ぼうよ遊ボウ』
「アスカっていうの。ねえ、知らない?」
『知らない? 知らない? 知らナイ』

壊れたレコードのように、それは何度も何度も繰り返された。

『知らない知らない、知らない知らない知らない知らない知らない知ラナイ知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知ラナイ』

遂には、キリの横でリークが唸り始めた。

「おいおいマジかよ……。大分ヤバイぞ、コイツ」
「……だね」
「なあ、もう早くここから脱出しようぜ姫様っ」
『ヒメサマ』

フードの人物が、はたと動きを止めた。
しばらく沈黙があり、フードの人物はニヤリと口端を引き上げた。

Re: 【新章:漆黒編】続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.136 )
日時: 2015/07/31 07:48
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: Pk3oxKzN)

『ヒメ様。そうかあ。キミが姫様。君ガ姫様なんダア』
「…………?」
『フフフフ、そうかあ。やっぱり面白いや。面白い面白イ。キミたち、面白い』

ケタケタと異様な笑い声を上げ、それからフードの人物は、キリたちにクルリと背中を向けた。

『今日はもうおしまい。バイバイ。ファーン家のお姫様に、ウェルリア王国万年Aクラスの兵士サン』
「へ……」
「だっ……誰が万年Aクラスだあっ! あのなあっ、Aクラスも充分凄いんだからなあっ、お前! こらあっ!」
「ねえ。貴方は、貴方は一体何者なの?」
『……ナニモノ? ナニモノなんだロウ。人間? 悪魔かな? キャハハハハハ』

キリとリークが訝し気に見つめる前で、フードの人物は踵を返してそのまま暗闇に溶け込んでいったのだった。
フッと緊張の糸が解け思わずその場にへたり込んだ2人に、大きな声が被さった。

「大丈夫ですかっ、2人ともっ……!」
「来るの遅ぇぞ、イズミぃ」

リークは僅かに涙ぐんだ声を上げてその場に現れたイズミを糾弾した。
イズミは頭をかいて、素直に謝罪を口にした。

「スミマセン……帰りが遅いんでこれは何かあったなと思って駆けつけたんですが、塔全体に結界のようなものがはってあって、ここに来るまでに時間がかかってしまいました」
「って、なんでエマさんもここに……?!」
「……ひとまず、ここは引き上げたほうが良さそうです。嫌な感じがします。一旦、宿屋に戻りましょう」

それから特に何事もなく宿屋に無事たどり着いたキリたちは、食堂で一息つくと、先ほど自分の身に起こった出来事を事細かにイズミに告げた。

「……何故、知っていたんでしょうか」

イズミは首を傾げた。
隣りで、マルカが神妙そうな顔をして立ち尽くしている。

「何をだよ」
「おバカですか、リーク君。2人はそのフードの人物に初めて会ったんですよね。なのに何故2人のことを知っていたんでしょう」
「さあ……」
「それと」

イズミはそう言って、不思議そうにキリとリークの顔を見つめた。

「2人とも、それぞれに違う幻覚を見た、と言っていましたね」
「私はリィさんで……」
「俺はフィアルだ」
「多分……それは呪術師の仕業である可能性が大です」
「呪術師……?」

そうです、と口にして頷く。

「多分……なんですけれど、お二人にとって《帰ってきて欲しい》と願っている人物が幻覚として現れたんだと思います。つまり、そういう幻術をかけられたのだと。そのフードの人物は、手に水晶玉を持っていたんですよね? そいつのせいでしょう」
「なんで……」
「それは分かりません。それこそ、『ただの遊び相手』だったのかもしれないし、何か目的があって貴方がたを追い詰めようとしたのか……」
「…………結局、アスカは見つからなかった……」

キリがぽつりと呟く。
その瞳は潤んでいた。

「仕方ありません。それには、やはり神隠し騒動について詳しく紐解いていく必要があると思うんです」

そう言ってテーブル上の冷水を飲み干したイズミは、少し離れた座席に座り込んでいるエマを振り返った。

「エマさん。語って頂けますか、エマさんが知っている神隠し騒動に関連する物事を、全て」
「…………」
「僕たちに知らせていないことが、まだあるはずですよ」

僅かにエマの口元が引きつった。

「上手くいけば、マルカ君の記憶も元に戻るんです」
「…………」
「エマさん」

しばし沈黙があってから、エマは静かにこうべを垂れた。

「分かりました」

頷いて、射抜くような視線でキリを見つめる。

「まず、キリさんたちにはちゃんと申し上げておかないといけないですよね」

姿勢を正して、弱々しい声で言う。
キリは嫌な予感を感じながらも、ぐっと唇を噛み締めて次の言葉を待った。

「その……マルカのことなんですけど」
「はい」
「実は……マルカは男の子なんです」

Re: 【新章:漆黒編】続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.137 )
日時: 2015/08/03 22:42
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: LHB2R4qF)

「はい…………ハイッ?」
「男の子って、息子……か?」
「そうです。娘ではなく、私の息子なんです」
「はっ……息子……男の子…………?」

キリとリークは、しばらく呆気にとられた表情でマルカを見つめていた。
マルカはどうすることも出来ず、気まずそうに2人から視線を逸らした。
エマは弱々しく微笑むと、それから表情をつくって、テーブルを囲むキリたちの顔をそれぞれ順繰りに見た。

「そうなった経緯を、今からお話します。あれは……遡ること、12年前。ちょうど、呪術師禁止令が出る直前のお話です」

ゆっくりと口を開く。

「12年前のあの日ーー呪術師禁止令が出る数ヶ月ほど前のことでした。その年の生贄として白羽の矢がたったのは、産まれたばかりの男児でした。小さな村で人口も少ないルルーヴ村でその年生まれたのは、私、エマ=ヴィクトリアのところだけでした。その子どもがマルカです。けれど私も夫も、我が子を生贄に差し出すのを嫌がりました。そうは言っても、村の住人の目もあって、どうにか生贄を差し出さなければならなかったのです。そこで、私たちは考えました。どうにかして我が子を差し出さなくて良い方法を」

キリの隣りで、マルカがごくっと唾を飲み込む音が聞こえた。

「幸い、自宅出産だったこともあって、私と夫はマルカを女の子として住人みんなに紹介しました。これで、マルカを生け贄として差し出さずに済みました」
「そんなことで……」
「それ以降、マルカには女の子として人前では振る舞うように、キツく言いつけたのです」

キリは隣りのマルカの顔をちらりと盗み見た。
うつむきがちなその顔は、表情が読めなかった。

「ただ、生け贄は絶対です。今までお告げが外れたことは1度もありませんでしたから。私は、自分が出産したのは双子だと偽りました。夫がどこからか捨て子を拾ってきたので、その赤ん坊を生贄としてお天道様に差し出したんです」

風が強くなってきたのか、窓枠がガタガタと音を立てている。


「……これで、全部です」

エマはそう言うと、イズミを真っ直ぐ見つめた。

「これで良いでしょうか」

多少皮肉のこもった言い方だが、イズミはエマに向かって「ありがとうございます」と呟くように言った。
だが、目を瞑ると、続けて言葉を放った。

「それで?」
「……はい?」

キリたちもエマと同じように目を丸くした。
この男は、一体何を言い出すのだろう、と。
「ですから」と言って、イズミが続けた。

「それで丸く収まったわけじゃないでしょう」

エマの顔が一瞬引き攣る。

「どういうこと?」

たまらずキリは聞いた。
イズミは、ふう、と息を吐いた。

「相手は呪術師です。その場は騙せても、後々暴かれてしまいます。そのツケが後々回ってきたのではないですか? 例えば……マルカ君が呪術師によって連れ去られてしまったり、とか」
「……」
「あ……」

キリは直ぐに思い当たった。
マルカが神隠し事件の被害者の1人であることを。

「まさか、それって神隠し事件のこと?」
「マルカ君が連れ去られたのは……なるほどね、大体分かってきました」
「いや。全く分かんねぇよ、イズミ」

リークが声を上げた。
次いで、キリも「ウンウン」と頷く。
イズミは一瞬黙り込んで、

「マルカ君が連れ去られたのは、過去に手に入れることが出来なかったお天道様の仕業ーーと考えた方が、この場合当然の成り行きじゃないでしょうか」
「ああ……ナルホド」
「まあ、あくまでも僕の見解でしか無いですけど」
「でもさ、でもさ」
「なんです? キリさん」
「よりによって、なんで何年も経ってからなの? すぐにマルカを連れて行こうとしなかったのは、なんで?」
「……これも、あくまで僕の予想ですけど」

前髪をかきあげて、続ける。

「呪術師禁止令が発布されて国の弾圧も物凄かったので、しばらく大人しくしていたんでしょう。そして、頃合いを見計らってマルカ君を連れ出した。……こういった所でしょうか」
「そーか。ウェルリア国内じゃあ、最近、反勢力の奴らが調子のってるもんな」
「こら、リーク君。口が悪いですよ」

イズミの言葉に、何か言いたそうに口をモゴモゴ動かしたリークであったが、それ以上何を言うことも無かった。
というのも、キリが大きな疑問を投げたからであった。

「そういえば……この宿屋の主人って、どこにいるの?」

もちろん、エマに向かってである。

「カイエさん、って言うんですよね。最初に声を聞いたっきり……私たち、カイエさんの姿を1度も見てないの。カイエさんは、本当に存在するの?」

エマが肩を揺さぶった。
それから口を開いて……声を上げたのは、マルカであった。

Re: 【新章:漆黒編】続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.138 )
日時: 2015/08/13 00:57
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: V8tSiYIJ)

「何言ってんだよ。皆、みんな……訳が分からないことを言うなよ。あたしは……ううん。ボクは……確かに【男】だよ。若女将に言われた通りに女のフリをしてただけ。……けど、何? ボクがアンタの実の子どもだって? 何言ってるんだよ。ボクはアンタの記憶なんかこれっぽっちも無いんだ。ボクはアンタの実の子どもなんかじゃないっ!」
「マルカ……貴方に記憶が無いのは、神隠しにあった時に記憶を奪われたからなのよ」
「っ! 何言ってーー!」
「【大切な人の記憶】が奪われる。……確かマルカ君が、そう、教えてくれましたよね」
「イズミっ……関係無いアンタは黙ってろっ!」
「マルカっ!」

パンッ。
刹那、乾いた音が響いた。
キリたちがびくりと肩を震わせたのと同時に、マルカが右頬を押さえて呆然とした様子で立ち尽くしていた。
しばらくエマを睨むように凝視して、マルカは食堂を飛び出していった。

「マルカっ……!」

キリが引き止めようとして、その肩をイズミが掴む。
首を横に振って、イズミは言った。

「少し、そっとしておきましょう」
「あの……」
「キリさんの言いたいことは分かります。と、いうよりも、キリさんも混乱しているんじゃありません? マルカ君が男の子だったって事実に」
「……まあ……」
「お天道様に連れ去られない様にマルカ君は【女の子】のフリをさせていた。けれど、預言者達に一連の事がバレてしまって結局連れ去られてしまって……そこで【大切な記憶】を奪われた、ということでよろしいですかね。エマさん」

マルカが飛び出していった扉をジッと見つめていたエマが、コクリと頷いて肯定した。

「父親が生きていると見せかけたのも、マルカ君のため……ですか?」
「そうです……」

そう言って、長い長いため息を吐いて、エマは近くの椅子に腰かけた。

「全てはマルカのため」

まるで独り言をつぶやくかのように、言葉を紡いでいく。

「あの日、塔の近くで放浪していたマルカが見つかったわ。村民の1人が見つけてくれたの。……家に送り届けてもらったんだけど、マルカは私のことなんか、覚えていなかった……」

エマは、記憶喪失になって帰ってきた最愛の息子に、どうしても自分のことを思い出して欲しかった。
夫のカイエは、マルカが神隠しにあって数週間後、マルカを助けに摩天楼内に入って行ったのだが、以後皆の前から姿を消していた。
村民は口々に、お天道様に呪い殺されたのだと噂した。
エマは信じたくは無かったが、心の底では「もしや……」と思っていた。
過去にマルカの代わりに違う赤ん坊を生贄として差し出した愚か者が、消えた。
ーーこれはきっと【罰】なのだ、と。
だからこそ、夫も亡くして独り身になってしまった妻は、たった1人の我が子に、自分が本当の母親である事を思い出してもらおうと懸命に努力していたのだが、ある時、相談にのってもらっていた神父の言葉にハッと目が覚めた。
自分のことを思い出した際、同時に、誘拐された時の嫌な記憶まで思い出してしまうのではないか。
それで苦しむのはエマではない。
マルカである。
実の子供に、そんな酷い仕打ち……出来るわけがない。
そう考えたエマは、マルカの記憶を取り戻すことを止めたのだった。

しかし、どういった契機で記憶が戻るやもしれない。
例えば、環境の変化。
もし今まで共に過ごしていた父親が突然いなくなったことに気がついたら、あの子はきっと心に傷を負うに違いない。
それが、自分のせいであることに気づいてしまったら……。
そうしてエマは、父の死をマルカから隠すために、生きているように見せかけていたのだった。

「それから私はーー安全にマルカの記憶を取り戻すこと、そして主人を蘇らせるために、調べ始めたんです」
「蘇らせる、って……死者が蘇るとでも言うのかよ」

思わず口を挟んでしまい、リークは慌てて己の口を塞ぎにかかった。
イズミの冷たい視線を感じて、心の底で「やっちまった……」と深く反省する。
エマはそんなリークを一瞥して、軽く微笑んでみせた。

「私にとって、カイエはとても大切な人ですから」

そう言って、明後日の方向を向いて、またぽつりぽつりと話し始める。

「手がかりになるだろうと思って……神隠しで行方不明になった人たちの行く末を、事細かに調べました。すると、ある人物に行き着いたんです」

イズミの顔が一瞬で輝く。

「それは……それは、誰です?」

キリとリークも、同じようにエマの顔を真剣な眼差しで見つめる。
エマが口を開く。

「それは、言うなれば【悪魔】です」
「悪魔……」
「信じられなかった……まさか、村のために最善を尽くしてくれていたはずの彼女が、私利私欲のために村民の命をもてあそんでいたなんて……。あいつ、『夫を返して欲しければマルカを差し出せ』なんて言うから、私、マルカをヤツの手の届かない教会に避難させたのよ」
「その人物とは……」
「っ…………」

刹那、エマが大きく仰け反った。
突然の出来事に、目を見張るキリたちの目前で、エマは胸を押さえて唐突に机に突っ伏した。

「エマさんっ?! エマさん!」

弾かれたようにエマに駆け寄って、キリはエマを揺さぶった。
すぐにイズミがキリを制止して、エマに触れないように告げる。

「これは……」

苦しそうに呻き声を上げるエマを食い入るように見つめ、イズミが苦々しげにつぶやく。

「呪いですか……」

なおも苦しそうに呻くエマ。
目を見開き、右手は何かを掴もうと必死にもがいている。

「………っは……」
「何……?」

キリは思わずエマの口元に顔を寄せた。

「エマさん? 何っ?」
「ハノ…………イーー」
「え、エマさんっ……?!」
「………」
「しっかりしてっ、エマさん! エマさんっ!」
「大丈夫ですよ、キリさん」

叫ぶキリに、イズミはそっと寄り添うようにして声をかけた。

「気を失っているだけですから」
「ホント……?」

キリに抱きかかえられたエマは、悪夢を見ていたかのようにびっしょりと冷や汗をかいていた。
その表情は、先程と打って変わって穏やかなものであった。

「これは我々に対するおどしでしょう。『これ以上、この事に踏み込むな』ってね」
「しっかし、悪趣味な脅迫の仕方だなぁ」

頭の後ろで腕を組んで、リークが呻く。

「けど、これでハッキリしましたよね」

イズミの言葉に、キリが大きく頷いた。

「うん。見えたよ、イズミさん。私たちが立ち向かうべき相手が」
「……にしてもさ、一体、何百年生きてんだよソイツ」
「さあ。まあ何百歳生きているのか知りませんけど、ジュリアーティ師匠曰いわく、彼女、悪魔に魂を売ったみたいですからね」
「もはや人間じゃねえってわけか……面白おもしれぇ」
「んじゃ、行きましょうか」
「うん」

3人は立ち上がって視線を交わし合った。

「ここまで知っちまったんじゃあ、引くに引けねぇもんな」

珍しくリークもやる気である。
キリは大きく息を吸って、心の中で思った事をもう一度口にした。

「アスカ、必ず見つけ出すからね……。……行こう! 摩天楼に!」

腰に差した短剣を、強く握り締める。

「みんなをめちゃくちゃにした悪魔を、倒す!」


その目は、しっかりと前を見据えていた。


Re: 【新章:漆黒編】続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.139 )
日時: 2015/08/14 20:37
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: U0hMzT3c)


【第六章 漆黒編】
〜〜第二話:幻影〜〜


「イズミさん、付いてきてくれるよね」

キリは強い口調でイズミを振り返った。
イズミがゆっくり頷いた。

「もう一度摩天楼へ向かうってんなら、俺も付いて行くぜ」

見ると、リークが腰に手を当てて不敵な笑みを浮かべていた。

「と、いうか、イズミだけに良いカッコさせらんねぇっ!」
「素直に加勢しますって言ったら良いのに」
「だーれが素直じゃないってえ?!」

イズミとリークのやりとりに、キリは思わずくすくすと笑った。
そうだ。私には、心強い仲間がいる。
アスカを助け出す。
マルカたちを貶めた張本人をやっつけてやる。

「行こう」

キリの言葉に、イズミとリークは神妙な顔で頷いた。
気を失っているエマを2階の寝室に運んだ3人は、身支度を整えて摩天楼に近い勝手口から飛び出した。
時刻は深夜を過ぎている。
町中はしんと静まり返っていた。
近くの草むらから虫が奏でる鈴の音が響いているだけ。
時折吹く風が隙間から抜けて、ひゅうひゅうと乾いた声を立てた。

「2人とも、大丈夫ですか?」
「うん」
「眠たくないですか?」
「へっ。徹夜は任せろ!」
「ハハハ……」

一歩踏み出したキリたちに、軒下の陰から聞きなれた声が問いかけてきた。

「……行くのか」

地面に足を抱えてうずくまるマルカの姿があった。
3人は立ち止まった。

「うん。……アスカを助け出さなくっちゃ」
「…………」

マルカの瞳は、遠くを見つめていた。
しばらく沈黙があって、マルカがつぶやくように言った。

「連れてってくれないか」
「え?」
「自分で、全てを終わらせに行きたいんだ」

その目はしっかりとキリを見据えていた。

「…………」

キリもその目を見つめ返し、頷く。

「分かった」

その時キリたちの背中を、鋭い悪寒が駆け抜けた。
振り返った先には摩天楼が高く高くそびえ立っていた。
いつの間にか昇っていた月は、黒い雨雲に覆われて、ぼんやりとした光を発していた。


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