複雑・ファジー小説
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- 【第二部】続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎-【完結】
- 日時: 2016/02/26 17:33
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: aQG7fWp7)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=15213
┝━━━━━━━━━━━━━┥
│生贄を捧げしは │
│ 悪夢の予兆なり │
│ 魅入られし者は │
│ 天高く召される │
┝━━━━━━━━━━━━━┥
〜『レーゼ=ファミリアの手記』より抜粋...
▼━━━━−−更新情報 】 2016.02.26 更新】
・エピローグ >>184-186【完結】
・あとがきと言う名の雑記。>>187
next→→《第三部:鏡の世界の王子様》coming soon…
▼━━━−−あ ら す じ】
あの事件から半年後‥
主人公・キリは、ラプール島で"とある人物"の迎えを待っていた。
しかし己の運命が災いし、キリたちは古びた村へ赴くことに。
その村で行われていたのは【生贄】の儀式であった。
更にその先で《神隠し騒動》に巻き込まれてしまったキリたちは……
▼━━━−−注意】
この作品は『前作のネタバレ』を非常に多く含んでおります。
前作『ウェルリア王国-紅い遺志と眠れる華-』を一読いただけたら
嬉しいです(*^^*) <上記URLから是非!
この話からでも大丈夫ですが、前作を読むと倍楽しめる、かも。
※基本コメディー・ほのぼのですが、時々鬱展開入ります(汗)
※ファジー板失礼します‥
<目次はこのスレの下の方にあります↓>
▼━━━━−−お知らせ 】
・【小説カキコ2015 夏小説大会・複雑ファジー板】にて【銀賞】頂きました。
→投票してくださった皆様、ありがとうございました(*^^*) 嬉
・二次創作(紙ほか ※マンガ、書籍など)で絶賛執筆中の書き述べる様「AsStory」ファンタジーパートにて、我らがウェルリア王国兵Sトリオたちが大活躍(仮)しますー!
→→→
私のところと違って、ガンガン任務を遂行しているカッコ良いアロマさんたちを拝めちゃいます。笑 ぜひご覧ください( ^ ^ )/□
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::::::::ウェルリア王国物語-摩天楼の謎-【 目次 】::::::::
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主な登場人物 >>001
資料:ルルーヴ村の歴史 >>015
プロローグ >>002
第一章 再会編
第一話:邂逅の朝 >>003 >>006 >>009-010
第二話:村の秘密 >>013-16 >>019
第三話:新たな犠牲者 >>020 >>023-024 >>027
第四話:狙われた王子 >>028-32 >>036 >>039
幕間:夢の中 >>040
第二章 捜索編
第一話:奪われたもの >>043-044
第二話:聖なる遣い >>047-049 >>052-055
第三話:喪失者 >>060-063 >>066-067
第三章 帰国編
第一話:気がかり >>73-75 >>78
第二話:助言者 >>81 >>84-85 >>88
第三話:最善の判断 >>89-92
第四話:見慣れた影 >>93-94
第四章 真実への序章編
第一話:推測 >>97 >>100 >>103
第二話:不審 >>104-105 >>108-110
第三話:遺された者 >>111-112 >>115-116
第五章 秘めごと編
第一話:昔々のお話 >>117-120 >>123
第二話:神父の過去 >>124-125(※) >>126-128
第三話:侵入 >>129-130
幕間:闇の中 >>131
第六章 漆黒編
第一話:心壊 >>132 >>135-138
第二話:幻影 >>139-142
第三話:悪夢 >>145 >>148
最終章 黎明編
第一話:咆哮 >>149-157
第二話:亡者 >>158-164
第三話:報復 >>165-169
第四話:王様 >>170-174 >>177 >>182-183 >>186
エピローグ >>184-186
あとがきと言う名の雑記。 >>187
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:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
▼━━━━お客様 ♪
・tatatatata様『複雑ファジー板:ノスタディア国の反逆者』
・書き述べる様『2次創作(紙ほか)板:AsStory』
・八朔様
・狐様『複雑ファジー板:〜闇の系譜〜シリーズ』
・and you...
○前作『ウェルリア王国物語-紅い遺志と眠れる華-』が【2013冬カキコ内の小説大会・複雑ファジー板】で【銀賞】を頂きました(#^.^#)
○本作【2014夏カキコ内の小説大会・複雑ファジー板】にて【金賞】、【2015夏小説大会・複雑ファジー板】にて【銀賞】受賞
○前作(URLからどうぞ!)の参照数が6000突破!!
ありがとうございます(;_;)
○【二次創作(紙ほか)板】書き述べる様「As Story」ファンタジーパートに
ウェルリア王国キャラクター(Sトリオ等) 出演
○続編も1年ほどで完結出来たら良いなあと思いつつ、ゆるゆるり。
◎いつも応援ありがとうございます。
◎これからも精進して頑張ります!!
★━━━━−−—————————————————
『複雑・ファジー板』書き始め日*2014.06.30〜2016.01.01
参照50突破*2014.07.01 参照100突破*2014.07.03
参照200突破*2014.07.10 参照300突破*2014.07.17
参照400突破*2014.07.24 参照500突破*2014.08.05
参照600突破*2014.08.14 参照700突破*2014.09.01
参照800突破*2014.09.12 参照900突破*2014.10.01
参照1000突破*2014.10.07 参照2000突破*2014.11.13
参照3000突破*2015.03.07 参照4000突破*2015.06.15
参照5000突破*2015.10.10 参照6000突破*2015.12.07
- Re: 続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎-【3/17更新】 ( No.90 )
- 日時: 2015/04/11 10:48
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: 7pjyJRwL)
「あの、今日私たちがここに来たのは、ある子の居場所を教えて欲しくってなんだけど」
「この老婆に占って欲しい、とな」
「ああ。相変わらず、ご理解が早くて助かります」
いつの間にやら、イズミはカウンターの丸椅子に腰掛けてジュリアーティを眼前に、にっこりと微笑みをたたえていた。
ジュリアーティはそんなイズミの顔を見て、フンッと鼻を鳴らす。
「ワシに頼まずとも、お前さんが占えば良い話じゃないのかえ。"あの"レーゼのご子息なんじゃから」
「ジュリアーティさん。その言葉、皮肉篭ってますよね」
イズミが笑い声をたてる。
そうしたなんとも言えない空気の中で、キリはふと背中に視線を感じた。
気になって後ろを振り返ると、入り口付近でアスカが腕を組んでじっとこちらを睨んでいた。
ーー気がつかなかった振りをして、ゆっくりと前を向く。
「キリさんキリさん。お婆ちゃんが占ってくれるそうですよ」
視線を元に戻すや、イズミが声色高らかにそう話しかけてきた。
どうやら、キリがビクビクしている間に話の折り合いがついたらしい。
イズミの肩越しにジュリアーティがじっとりとした視線を送る。
「誰がお婆ちゃんじゃい」
「親しみを込めて呼んでみたのですが、……駄目でした?」
「お前さんがそう言うと、皮肉めいて聞こえるのじゃが」
「イヤだなあ。そんなつもり、ありませんよ」
「それじゃ。その言い方じゃい」
イズミとジュリアーティは言い合いをしながら、奥の占いの間へと姿を消す。
キリは苦笑しながら2人の背中を見送り、振り返ってアスカに声をかけた。
「アスカ、行こ?」
「…………」
アスカは無言のままでキリの真横を通り過ぎると、カウンター横の戸をくぐって奥の間へ向かうのであった。
++++++++++
薄暗い室内には様々な魔除けや金の額縁で縁取られた絵画が飾られていた。
一言で表すと、非常に賑やかな空間。
しかし、その空気は緊張感で張り詰めたものであった。
ジュリアーティは室内の中心に位置する絢爛豪華な椅子に深く腰掛けると、水晶玉に手をかざした。
ジュリアーティの真向かいに座るキリたちには、水晶玉の中で何かが渦巻いているように見えた。
「さて、【マルカ】を捜して欲しいとのことじゃったな」
キリは深く頷く。
「そうじゃな……話を聞いておると手がかりが少ない故、期待する占い結果が出んかもしれん。それでも怒らんでくれよ」
誰かがゴクリと唾を飲み込む音が室内に響く。
「ふん……ぼんやりとしか見えてこないが……暗く狭い場所だな。ここは……地上ではない。そして、冷たい場所だ」
「地上ではない……?」
キリとイズミは顔を見合わせた。
アスカもうな垂れていた首を起こして、じっとジュリアーティを見つめる。
「…………駄目じゃ。これくらいしか見えぬ」
「ううん。ありがとうございます、お婆ちゃん。助かりました」
キリが椅子からぴょんと立ち上がって、深々とお辞儀をする。
イズミがその隣で神妙な面持ちで口を開いた。
「あと一つお聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」
「なんじゃ、レーゼのご子息」
「ルルーヴという村についての話なのですが……」
「ルルーヴ村か」
ジュリアーティのあっさりとした返答に、イズミが目を見開く。
「ルルーヴ村をご存知ですか」
「知っておるぞ。懐かしい響きじゃ」
「懐かしい、ですか」
- Re: 続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.91 )
- 日時: 2015/04/11 10:38
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: 7pjyJRwL)
「ワシの母親がルルーヴ村出身だと申しておった」
「へええ。そうだったんだ」
キリの口がぽかんと開く。
イズミとアスカの脳内に、何故だかルルーヴ村で最初に出会ったミストの老婆が浮かんで消えた。
「けれど、そうだとすると、話は早いです」
「なんじゃ」
ジュリアーティが顔をしかめ、イズミは息つく間もなく言葉を続ける。
「ジュリアーティさんもきっとルルーヴ村についての噂はご存知だと思います。ルルーヴ村は生贄を決めるために呪術師が占っていたというんですが、その呪術師を、貴女は知っていますか?」
「…………」
「……知っていますね」
ジュリアーティは、じっと質問者の顔を睨めつけて、
「タダで情報を教えるわけにはいかん」
ぷいっと一蹴した。
「もちろん、タダでとは言いません」
イズミが当然とでも言うように頷く。
「それじゃあ、ワシの言うことに一つ、答えてくれるか?」
「なんです?」
「ワシの質問に答えるのか、答えないのか。それ以外の言葉は全てノーとみなす」
「…………僕が答えたら、それで良いんですよね」
「そうじゃな」
「答えます」
「そうか」
ニタリと笑みを浮かべた老婆は、満足そうに顔を綻ばせた。
キリは室内の温度が一気にぐんと下がった気がして、思わず身震いをした。
「呪術師ハノイだ」
「ハノイ……?」
老婆はその名を口にし、ゆっくり頷く。
「女性である。ハノイは占い師であった。非常に欲の強いことでも有名である。風の噂で悪魔と契約を結んだと聞いていたが、現在彼女がどうなっておるかは、知らん」
「悪魔……」
「悪魔だとか幽霊だとか、そんなもの信じぬやつもおるだろう。世の中はそんなものだ。ただの噂かもしれぬし、本当なのかもしれぬ」
「…………」
「さ、答えたぞ。それでは、お主もワシの質問に答えい」
「はい」
「お主……呪術師になるつもりはないか?」
「………………はい?」
不意打ちのように浴びせられた質問に、イズミは拍子抜けしたように腑抜けた声を発するのであった。
- Re: 続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.92 )
- 日時: 2015/04/15 11:16
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: J3GkpWEk)
「あの呪術師レーゼのご子息なんじゃ。イズミ、ワシのもとで呪術のなんたるかを学ばぬか?」
「…………しかし」
「さっきお主が言っておったなあ。そこン坊主のことじゃがーー」
そこまで言って、ジュリアーティは押し黙った。
イズミがじっとジュリアーティの目を食い入るように見つめていた。
「お婆さん、そのことですが……二人だけで話がしたい」
イズミの言葉にキリは弾かれるようにして立ち上がった。
神妙な面持ちで頷くと、「おい、どういう意味だよ。さっき言ってたこと教えろよイズミ!」と店から出ることを渋るアスカを連れて先に店を後にしたのだった。
イズミを残して喫茶店を転がり出たキリとアスカは、それぞれに石畳の路上で呼吸を整えた。
アスカは喫茶店を背にした形で唇を噛み締めると、一度躊躇って、そうしてからキリを振り返った。
「なあ、お前」
「なに?」
アスカに声をかけられ、キリが笑顔で振り返る。
その表情に、なぜかアスカの後頭部が疼く。
「さっきの婆さんが言ってたことだ。一体、なんなんだよ」
「…………」
「お前らの反応もだ。お前ら……なにか知ってんのかよ。なあ。オレに何が、あったんだ?」
アスカの顔が青ざめていく。
憤慨するよりも、奇っ怪な、なんとも言えない感情がアスカの胸の内をじわじわ蝕んでいく。
「………………」
「なんなんだよ、答えてくれよ。なあっ……!」
「アスカ…………きゃっ!」
思わずキリに掴みかかる形になってしまったアスカは、キリの驚愕した顔を間近で目にすることになり、刹那動揺した表情を見せた。即座に顔を背ける。
「あ……の、アスカ?」
「…………。その」
踵を返したアスカが背中越しにぽつりと呟く。
「なんか、ゴメン」
「ちっ……違うの。その、私、アスカを拒否したんじゃなくて、その……!」
「……分かったよ」
ポツリと呟く。
「しばらく一人にしてくれね? ちょっと……どころかさ。何か、ダメだ。オレ」
「え……」
「なんか、お前といると調子が狂うんだ。オレ…………呪われてるから」
「待って……。アスカっ……!」
はっきり言って、吐き気がした。
呪われているとか、奪われているとか、なんなんだよ一体ーー
ふつふつと湧いてくる、怒りとも迷いとも言い変えられる感情。
何かを忘れている気がするのは自分の気のせいなのか。
頭の隅の方に言い知れない違和感を感じる。空白。
そして、それより何より気になるのが、【キリ】という少女の存在。
「……気持ち、悪りぃ……」
衝動的にキリを突き飛ばし、とにかく無我夢中で走った。
全てを投げ捨てるかのように、身を振り切ってとにかく走った。走った。走った。
細い路地裏に差し掛かった頃、アスカは胸を押さえてしゃがみ込んだ。
呼吸器官が張り裂けんばかりに悲鳴を上げている。
上手く空気が吸えない。
このまま死んでしまうんじゃないか、オレ……
不謹慎だが己の頭に浮かんだ言葉を鼻で笑いとばした。
ああ、気持ちが悪い……
強く目を瞑って、細く息を吸い込む。
震えるアスカに、黒い影が一つ覆いかぶさった。
- Re: 続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.93 )
- 日時: 2015/04/15 16:35
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: J3GkpWEk)
【第三章 帰国編】
〜〜第四話:見慣れた影〜〜
薄暗い室内に蝋燭の火が頼りなく揺れている。
イズミは、老婆と机を挟んで対峙していた。
バタンと扉の閉まる音が聞こえて、同時に老婆が掠れた声を発する。
「……坊主には知られたくないんか」
「彼はまだ、自分の身に何が起こったのか知りません。キチンと本当のことを話しても良いんです。それで記憶も戻るかもしれません。けれど、それより何よりショックの方が大きいでしょう。……自分の好きな人の記憶を無くした、なんて。そうなったら彼、耐え切れませんよ」
「ほお」
「彼はつい半年前にも多大な精神的ダメージを受けているんです。だから……潰れてしまいます」
「ふむ」
納得したようなニュアンスの声を発し、思案するような素振りをしばらく見せたジュリアーティは、次にポツリとつぶやいた。
「《この先、お前さんにとって辛い選択肢が現れるとは思うが……最後に信じられるのは自分の本当の心。判断を間違えるでないぞ》」
「…………え?」
イズミが顔を上げる。
「お前さんの目の前にある選択肢は2つ。……お前さんは"そちら"を選んで、後悔はせぬか」
「…………」
張り詰めていた空気を溶かすように、イズミは息を吐く。
「……後悔…………」
アスカに対して、イズミは子どもの頃から何かと面倒を見てきた。
自分の養父と王様が仲が良かったために、よく遊び相手になっていた。
それも、イズミがウェルリア兵から脱するまでの期間ではあって、幼かったアスカが覚えているのかは定かではないが。
自分にとってアスカの存在はーー
「…………こんな僕でも……アスカ王子の記憶を取り戻すことは出来るのでしょうか」
ジュリアーティの表情は微動だにしない。
「ジュリアーティさん……。僕に、呪術を教えてください。彼を……アスカ王子を助けたいんです」
イズミの言葉に、ジュリアーティはこれでもかというほどに唇を歪めた。
「厳しいぞい?」
- Re: 続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.94 )
- 日時: 2015/04/16 08:06
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: CPfMtcyT)
*******
アスカは自分の頭上に気配を感じ、素早く顔を上げた。
「……お前……は」
天を仰いだアスカの目にまず飛び込んできたのは、ツンツンツンと逆立った髪。所謂トゲトゲ頭というやつだ。
そしてどこか見覚えのある顔。
「あっ……!」
突如、相手が大きな声を上げた。
その顔にみるみる驚きの表情が広がっていく。
「あ、あんた……は、アスカ、王子っ!」
「しっ…………!」
アスカは慌てて目の前の人物の口を塞ぎにかかった。
もがもがと呻くのを無視して、アスカは必死の形相で注意喚起する。
「城の外で王子を連呼するなっ……!」
「わ、分かった分かったっ……」
ゲホゲホとむせ込んで、よろめく。
口元を袖で拭って、相手は暫しアスカをてっぺんからつま先まで、まじまじと見つめた。
そうして、
「な、なんで女の格好なんかして……」
独り言のようにそうつぶやいて、ハッと目を丸くさせた。
「ま、まさか、いつもそうして女装して門番の目を欺き、脱走していたんだなっ!」
「……まあ……そんなところだ」
説明するのも面倒なので、アスカは一呼吸おいて肯定してみせた。
「そういうお前は……確かウェルリア兵Aクラスの1人だろ」
アスカの言葉に、目の前の人物は「いかにも」とでも言うように、腰に手を当てて胸を逸らした。
「俺は、ウェルリア兵Aクラスのリークだっ!」
「またどうしてこんな所をうろついてるんだ?」
「俺はっ……」
突然眉根を寄せて唇を噛み締めると、リークは悔しそうにぐっと拳を握りしめた。
「フィアルを探すために、ウェルリア兵の先生から有給休暇をもらってな。それで今、ここにいるんだっ」
「フィアルっていうと……。お前と同じウェルリア兵Aクラスの奴で、現在行方不明のままになっているっていう……アイツか」
アスカの後頭部が僅かに疼いた。
「そうだ。俺の唯一無二の親友だ。勝手にいなくなっちまいやがって……俺が見つけ出してな、あいつ自身の口から直接、ワケを聞くんだ」
「それで制服も着ずに、私服でこんなところをうろついていたのか」
「王子。フィアルを見なかったか」
「いや、見てないなーー」
《本当に?》
「?!」
「どうした? 王子……顔色が悪いぞ」
「今の……誰だ」
「は?」
《お前はーー見ているはずだ》
女とも男ともつかない声。
否、複数の声が木霊する。
それは、アスカの頭の中で絶えず反響している。
《見ただろう、″奴″を》
《見た。見た見た見た》
《出会っただろう、″例の場所″で》
《見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た》
《見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た》
《見タダロウ》
「見てないっーー!」
アスカの声に、リークは驚いた様子で目を瞬かせた。
「おい王子……何もそんな大声で否定しなくってもーーあっ、オイ……!」
アスカは、軋む頭を抱えながら唐突に走り出した。
自分ではない何かに支配されるような違和感。
入り込んでいる、すでに、何かが……
けれど、いつの間に?
先ほどの呪術師の話が蘇る。
『お前さん、呪われているね』
呪われている……やはりオレが、ウェルリア王国第一王子だからか、あの国王の子どもだからか。
あの、残虐で非道な男の子どもだからか。
恨まれるとか、そんなもの、小さい頃から慣れている。だって、これは王子として産まれてしまったオレの宿命だ。
今までもそうだ。
国王の子だから、と、犠牲にしてきたものは幾つもある。
オレの周りはいつも偽善者ぶった大人ばかりだった。
その実、私利私欲を求めた者たちがオレの周りを取り囲んでは、オレを褒め称えて持ち上げる。オレ自身には何も無いのに……
散々だ。
もう、散々だ。こんな世界なんてーー
だから、オレはあの日城を飛び出した。
そうだ。
あの日も、いつも通りクラーウ爺さんの時計店を目指して城を飛び出したんだーー
そこでーー
【そこで、誰に出会った?】
アスカの胸が、突如キュッと締め付けられる。
【暖かい】ーー三文字が脳内をリフレインする。
思いだせない。出会った人物のことを。
この空白の記憶は、なんだ。何なんだよ。
一体……
「チッーークショ……!」
ザワザワと頭の中がノイズで埋め尽くされる。
そうしてアスカは、己の意識を手放した。
【第三章 完】
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