複雑・ファジー小説
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- 可能性の魔法使い
- 日時: 2015/04/20 02:34
- 名前: 瑠璃玉 ◆ECj0tBy1Xg (ID: 3JtB6P.q)
可能性を操り、奇跡を起こす者がいる。
そして、災厄を呼び起こす者もいる。
これは、奇跡の使い手が、災厄を振り払う物語。
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初めまして、瑠璃玉(るりだま)と申します。ある方の絵からインスピレーションを得て、突発的に始めました。
ややシリアスなファンタジーではありますが、基本的にはやきもきする引っ掛かりのない話です。重い話が苦手な人は、他を回覧するついでにも御覧下されば幸いです。
こういうまわりくどい文章に見覚えがある?
思い浮かべた名前はそっと心に秘めておいてください。
↓目次
人物紹介 >>1 (H27 4/2 加筆)
用語紹介 >>2
第零講 >>3 >>4 >>5
第一講 >>6 >>7 >>10 >>11 >>12
- Re: 可能性の魔法使い ( No.3 )
- 日時: 2015/03/28 04:08
- 名前: 瑠璃玉 ◆ECj0tBy1Xg (ID: 3JtB6P.q)
第零講 : 魔法使いの弟子
「うっわー、なーんじゃこりゃ……えらい豊胸されたなァおい」
近衛隊初代隊長、ロータス・ブラウ。
多分、その辺の中学生でも知っている有名な女だ。中学生どもは大体、彼女のことを勇敢な英雄か、或いは有能な宰相の才を持った武人だと教えられている。その捉え方は別に間違いじゃない。俺から見ても、ロータスという女は文武に長けた素晴らしい兵だった。
だが、彼女を語るに、文と武だけでは足りないものがある。
「おう、何ブツブツ言ってんだ」
「ぁあ、ロイ……」
「湿気た顔すんなよ、ロータスのあの馬鹿みたいな明るさを見習えよ」
「辛気臭い俺にゃ無理だよそんなもん。魔法は見習えてもアレだけは無理。脳みそが疲れる」
「ジジィかあんたは」
「年齢的にはとっくにジジィだよ。俺もう六五〇回目の誕生日過ぎたんだぞ」
一つ、ロータスは武の他に魔法も使っていたこと。
「聞きたいんだけど、何で師匠の銅像なわけ? 豊胸までして、センス疑うぞ俺」
「ついこないだ町長がおったてた奴。この銅像が建ってから街の様子変だなぁ」
「何が?」
「何がって、分かってんだろお前なら。力脈のさ、流れが変わった気がするんだよ、最近」
「……なぁる、確かに。町長様、最近政敵多いって聞くしな」
「町長様? まあそりゃ、町長様ならこんな像すぐ建てられそうだけどサ」
二つ、俺という弟子がいたこと。
「何にしろ、このままじゃまた俺みたいなのが出来ちまうな」
「ははっ、そうなったらあんたが人柱だな! いや鳥柱か」
「貝柱か何かかよ俺は。つか、縁起でもねーこと言うなよ! そういうのフラグっつーんだよ!」
「ロータスも「大丈夫大丈夫!」っつって死亡フラグ立てまくった挙句自分が人柱だもんな!」
「おい師匠を茶化すんじゃねぇよ! 力脈に突っ込んでぶっ殺すぞ!?」
三つ、ロータスの命と魂が、今もこの街を護っていること。
「何で物騒な所だけ師匠に似てるんだ」
「俺はこの世の中のどんな拷問より力脈に突っ込まれる方が苦しいと思う」
「だから何であんたそういう怖いこと言っちゃうのマジで!」
四つ、そんなロータスが取った弟子は、俺だけってこと。
俺はジャック・ドゥ。隣で五月蝿いのはロイ・フロウ。
“可能性の暴走”に巻き込まれ、多次元を認識し構築する力を持ってしまった、元平凡な二羽の鳥にして——人が極められる力の頂点を見た人間、ロータス・ブラウの直弟子と、その孫弟子。
俺達は『世界の底』を視通し、源泉の力を汲み操る魔法使い。
「ロイ、お前のトコの若手ちょっと融通してくれよ。俺一人じゃ時間が足りん」
「あのなァ……カラスだろあんた? カラスがハヤブサに命令するとか」
「ええい変な所で師匠に噛み付くんじゃない弟子の分際でっ! いいから貸せっつーのーっ!」
可能性の魔法使いとは、俺達のことだ。
To be continued...
※別にシリアスじゃない
- Re: 可能性の魔法使い ( No.4 )
- 日時: 2015/03/28 14:42
- 名前: 瑠璃玉 ◆ECj0tBy1Xg (ID: 3JtB6P.q)
「くっそー……言われた通り若手ありったけ連れてきたぞこら。百で十分だろ」
「上々。ほんじゃ、これを力湖にぶっ刺してこい」
「ぉう——って、多っ!? つか、趣味悪ぅっ! 何だこのシャリコウベ!?」
「趣味悪い言うな、ロータスの使ってた封じ杭だよ!」
「ロータスのセンスどうなってんだよこれ……それに、いつもの封じ杭はどうしたよ」
「俺のじゃ効果不足だから引っ張り出してきたんだよ」
なるほど、此処にしばらく留まってみると、確かに力脈の流れがおかしいことが良く分かる。いつもなら、この付近の力脈は南に向かって直線に走っているはずなのに、このロータス像からは時計回りに緩やかな弧を描いていた。
時計回りの弧というのは“凝集”を示す兆候だ。早く何とかしなければ、爆発する。
「ちくしょう、オレと若手にやらせてあんたはやらんのか! 鳥使いの荒いカラス様だ」
「俺ぁ今力脈を探してるとこなんだ、さっさとお前等でやってこい。制限時間五分な」
傍でハヤブサがギャーギャーと五月蝿いのが鬱陶しいが、ロイはそういう奴だから最早気にしない。適当に嘘じゃない言葉を投げ捨てて追い払おうとしたものの、此処でロイは食い下がってくる。
「探してるって、一番太いのじゃねーのか?」
「有り得ねぇなそんなの。一番太いのに封したら離散の兆候が出るはずだ」
「お、おう。ンなこと初耳だぜオレ……」
「そりゃ、初めて言ったもん」
何なんだそれは、とか、弟子に何も言わないでいきなりそれかよ、とか、ぶつぶつ言いながら、それでもロイは俺の片翼くらいはある長さの鉄杭を一本ずつ分け、自分も一本杭を足に掴んで、次々に飛び立っていく。風を掴み、あっという間に飛び去っていく猛禽の背を見送りつつ、俺は目を閉じた。
「さァて、見えるかねぇ」
力脈——この世界の“裏”を成す世界の一部——は、瞼を開いて見る視界に映るもんじゃない。眼を閉じ、いつも見る景色を遮って初めて見える、秘められた可能性の川だ。そいつは自覚できないほど小さく体調を崩しただけで見えなくなる。だが幸いにして、今日ははっきり見えるらしい。
鳥目の俺でも、多分人間や猫でも、何も見えないほどの真っ暗闇。そこに、原初のままの可能性が、黄色い光を帯びて浮かんでいた。その色は言葉に出来ないほど毒々しく、あんまりずーっと見ていると気が狂いそうになる。ロイは平気そうだが、あれはちょっと色の識別が甘いだけだ。
——太く細く、遠く近く、縦横無尽に走る無数の力脈。ある程度目星をつけながら、歪みの根源を探っていると、それは案外すぐに、そして近くに見つかった。
ロータス像の肩に止まる俺の真下、一番太い力脈のすぐ隣に走っている、歓楽街方面に伸びるものだ。そこの力脈が、ロータス像から南側だけぷっつり切れて無くなっている。
なるほど、歓楽街方面の力脈を封じると、全部の力脈が町長のお宅の方——つまり、西に向かって凝集するらしい。薄気味悪いほど具合が良いが、多分町長はこれを知った上で凝集する場所に家を構えたのだろう。力脈という可能性の川、そこに秘められた力を独占するために。
だが、こんな乱暴なやり方で力を持ったとて、誰もが不幸になるだけだ。それをあいつは分かっていない。
To be continued...
- Re: 可能性の魔法使い ( No.5 )
- 日時: 2015/03/31 11:29
- 名前: 瑠璃玉 ◆ECj0tBy1Xg (ID: 3JtB6P.q)
「ジャックー、杭刺してきたぞー」
「……五分二秒。遅刻だぜロイ」
「二秒は誤差の範囲だろ流石に! そういうあんたはどうなんだ、見つかったのかよ!」
「あのなァ、ロータスの直弟子ナメんなよ? とうの昔に見つけてんよ」
そんなこんなで、ロイも戻ってきた。此処からは俺の番だ。
ロータスが俺と同じ事をしようとすれば、命と魂を投じるしかない。だが俺はこれを一人で出来る。これは実力云々じゃなくて、元々の魔法使いとしての素質がそうだと言うだけだ。
ロータスは凝集、俺は離散。ついでに言えば、ロイはどっちも出来るが中途半端だ。
「ほんじゃ、ロイ。これ」
「おわっ! とっ、と……! あ、いつもの封じ杭」
「合図でこいつの脳天にぶっ刺せ。割と場所は適当でいい」
「あんた適当だな」
お陰で、ロイはいつも俺の補助ばかりやっている。ロイ自身はその立場にそれほど不満を持っていないらしいが、鳥的には攻撃を仕掛ける側たる猛禽の彼が、魔法使い的には立場が逆になるってのは因果な話だ。多分、ロイが俺の手から離れるためには、ロータスを越える技量を身に付けるしかないのだろう。
……ま、こんな時に長々と考えていてもしようがない。さっさと終わらせることにしよう。
俺も封じ杭を出し、像から降りて地面に構える。
俺が持っているのはロータスの奴じゃなくて、自分で作った方だ。ロータス作の杭みたいにガイコツとか蔦とかは付いてないし、むしろパッと見ただの棒に見えるだろう。だが、俺ならそれで十分。分散させた力を見失う真似を、俺はしない。俺はそういう魔法使いなのだから。
「ロイ、せーので刺せよ!」
「OK、いつでも来い!」
「せーの!」
振り上げて、振り下ろす。
コォーン、と、高く乾いた金属の音が、夕闇の広がる空に浸透し、びしっ、という鈍い音に変わった。
「ロイ、その像から離れろ!」
「えっ、おわっ、わ! じゃ、ジャック、おいっ……!」
ぴしり、ばきばき、ぱきん。
鈍い音は、俺の背後でどんどん数を増していく。ロイは離れさせたが、俺はまだ此処から離れられない。
可能性の集まる場たる力脈の中でも、特にそれが集まっている箇所、力湖。この国には全部で百一箇所あるその全てに、俺はロータスの封じ杭を打って流れを塞き止めた。そして、塞き止めた力脈の流れを像に向かって逆行させてるのが今の状態だ。
俺の魔法は、力脈が歪められたとき、しかるべき形に戻ろうとするときの爆発力を使う。だから、此処で今俺が離れたら、支配を失った歪はどうしようもない。その先に待っているものが何かなんて、考えたくもない。
眼を閉じる。途端、毒々しい黄色が脳みその中にまで飛び散って、頭がくらくらした。数秒も見ていると、全身の感覚が覚束ないほどの鮮烈さだ。少しでも気を緩めると、魂ごと持ってかれそうになる。
だが。流れるな。流されるな。
「そ……らァっ!」
煉瓦の地面に爪を噛ませ、封じ杭で、もう一度力脈を叩く。その瞬間。
ばぎんっ、と、一際鈍い音が背後から聞こえて、ロータス像はあっくなく崩れ落ちた。
俺はジャック。離散をつかさどる、可能性の魔法使い。
弟子のロイ共々、師匠の後を継ぐにはまだまだ未熟者だ。
To be continued...
第一話完。
もうちょっと登場人物は増える予定。
- Re: 可能性の魔法使い ( No.6 )
- 日時: 2015/04/02 15:51
- 名前: 瑠璃玉 ◆ECj0tBy1Xg (ID: 3JtB6P.q)
第一講 : 奇跡を創る女
“ロータス像壊される 警察により犯人を捜査中”
“ジュデ・ユーベル氏 体調崩し記者会見現れず”
“町長選票二分 政権交代か?”
新聞にそんなタイトルの記事が並ぶようになったのは、俺たちがロータス像を壊した翌日のことだ。
しかしながらあのロータス像、俺達にとっては厄ものでも、町民にとってはれっきとした公共施設の一部なわけで。警察は器物損壊だと言って俺達を捜しているらしい。
だがまあ、見つかったところで俺達は捕まえられないだろう。法律が適用されるのはあくまでも人間、鳥を拘束して処罰する法なんぞ、未だかつて成立したためしがない。
全く、悠々としたもんだ。俺が寝込んでなければ。
「ちくしょう、薄らハゲだと思って油断してたわ……っうぇえ」
「飛んでる途中いきなり墜落すんだもんホントに。ビビったよオレ」
「っいてぇ……魔法使いを舐めくさりやがってぇえ……」
「噛み合ってない、全然噛み合ってない話が」
何を隠そう、あの後俺は、まんまと町長の罠にかかってしまったのだ。
若干要約の難しい話になるが——俺みたいな魔法使い、つまりイレギュラーなエネルギーを借りて魔法を使うタイプは、どんな奴よりも爆発力を持った魔法を使うことが出来る。だが、その分魔法として使われないエネルギーが著しく多い、と言うより、無駄に発散して消えていくエネルギーがほとんどだ。
無駄なエネルギー、即ち魔法として使われなかった可能性の爆発力は、また力脈の中に溶け、平穏な可能性の一部に変わる。そうなるまでの時間はほんの一瞬、俺だってそんなものの末路をいちいち考えることは滅多とない。そこに町長が眼ぇ光らせてやがった。
要するに俺は、俺がぶっぱした魔法の余波で、いきなり背中から殴り飛ばされたのだ。生きてたから良かったようなものの、これじゃあしばらく魔法を使うどころか、鳥として飛ぶのも覚束ない。
……まあ、だからこんな寂れた施薬院にいるわけだけど。
To be continued...
うんちくカラスのうんちく講座、はーじまーるよー
- Re: 可能性の魔法使い ( No.7 )
- 日時: 2015/04/05 14:32
- 名前: 瑠璃玉 ◆ECj0tBy1Xg (ID: 3JtB6P.q)
ぼんやりしながら眼を閉じる。辺り一面真っ暗闇、何も見えない。この不調なら当たり前だ。
全身が痛くて、睡魔も襲わない。眼を開ける。ゆるゆると回るシーリングファンと、煤けた木の天井、それから、ロイの顔が見えた。碧いハヤブサの目が俺を覗き込んでいる。幾分心配そうだ。
「ジロジロ見んな、こっぱずかしい」
「仮にも師匠の身を心配しないっつーのは、弟子としてちょっと……」
「変な所で義理立てすんのなお前」
ふふん、と少し笑うのも辛い有様だ。全く恥ずかしい、あんなハゲに一杯食わされるとか。
目一杯肺に空気を溜め込んで、溜息一つ。今までだらしなく広げっぱなしにしていた翼を畳んで、軋む身体をごろりと反転させ、古ぼけた机の上にうつぶせた。鳥の身としては、人間どものように仰臥するよりこっちの方が少し楽な気がする。痛みも軽くなり、ここぞとばかりに睡魔が襲った。
どてちっ、とばかり頭を落とすと、木の机のささくれがちくちくする。絶妙にイラつく刺激だが、それにもまして眠気が酷い。多分我慢のしすぎで疲れが溜まってるんだろうが、此処で寝たら死んじまいそうだ。
眼をこすりこすり、断続的に襲う睡魔に耐えていると、ロイがふいと顔を上げた。そっちに眼をやっても、ロイの視線の先は俺の視界の外。ただ虚しく、瀟洒なステンドグラスのランプだけが眼に映る。
「ぁ、ユーリ」
見ているものの正体はロイが自ずから明かした。それに応える声も一つ。
「流石ロータスの弟子、頑丈に出来てんのねぇあんた達。はい帽子」
「ロータスとは特に関係ねぇんだけど……つか、今それ渡されても」
「違うわよ、彼方此方破れてたから繕っといたの。こんな調子でどう?」
「ん——すげぇや、相変わらず完璧」
「ユーリ様の手にかかればこんな綻びなんのそのよ。でも、わたしの用事はそれじゃない」
薬師、ユーリ・ラビエリ。
四六時中鼻に引っ掛けた、何やら複雑そうな眼鏡が特徴の人間。
彼女はロータスの元友人で、今は俺が怪我をした時の主治医みたいなもんだ。そして、彼女もまた、俺達と同じ——世界の裏側、可能性の川を視ることができる眼を持っている。
だからと言って、彼女は魔法使いじゃあない。力脈に流れている可能性で奇跡を起こす点は俺達と同じだが、俺達のように、可能性をそのまま奇跡に変えたり、ましてや破壊に変えたりするのは彼女の領分と言わない。
ならば、彼女の起こすものは。
To be continued...
眼鏡女子は正義。