複雑・ファジー小説

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Bloom Of Youth's Season
日時: 2024/12/05 00:36
名前: あわきお ◆e0cUq7WYf6 (ID: 4.2P0hz.)

 初めまして。あわきおといいます。ゆったりと執筆します。

 恋愛小説です!
 タイトルの「Bloom Of Youth's Season」は直訳では青春の季節という意味です。最初は分かりやすく日本語のタイトルにしようかなと考えていたのですが、大文字をとっていただくと「BOYS」、少年たち、となるのでなんだか素敵だなと思って分かりにくいですが命名しました(笑)。呼びにくい方に、BOYS、と呼んでいただくのが夢です(笑)。
 皆さんに楽しんでいただけるような小説を書けるように頑張ります!



X:【@mum1chan】
(※2017年当時使用していたアカウントが使用できなかったため、別名義のアカウントになります)


※閲覧に関して

・荒らし等はお控えください。
・感想やアドバイス随時お待ちしております!
・みんなで雰囲気のいい掲示板にしましょう〜!


※内容に関して

・犯罪・死に間接的に関わる表現が出ます。苦手な方は閲覧しないようにしてください。



【お知らせ】

2015/0502 スレッド設置
2015/1218 参照300突破
2016/0202 参照400突破
2016/0303 参照500突破
2016/0514 参照600突破
2016/0515 雑談 >>26
2016/1022 参照700突破
2016/1113 参照800突破
2016/1226 参照900突破
2016/1231 雑談 >>35
2017/0306 参照1000突破
2017/0430 参照1100突破
2017/0802 参照1200突破

【目次】

◆プロローグ / 別れの曲
  >>01
◆壱 / はじまり
  >>02-06 >>09-10
◆弐 / 浮遊症
  >>11-16 >>20-23
◆参 / 熱帯夜
  >>24-25 >>27-32
◆肆 / 交差点
  >>33-34 >>36-38
◆伍 / 溺惑
  >>39-41

Re: Bloom Of Youth's Season ( No.23 )
日時: 2024/12/07 05:35
名前: あわきお ◆e0cUq7WYf6 (ID: 4.2P0hz.)

 こんなに自分の意に反した行動は久しぶりだった。でも、この人のことをもう少し知ってみたかった。この人なら、俺と美音の関係に名前をつけてくれるかも、と素直に思った。
 市原は、きっと俺が、自分と誰のことを言っているのか分かったみたいで、一瞬で顔が強張る。目を伏せて、それから、


「……友達より、家族みたいな存在のことなんじゃないかな」

 と静かに答えた。カチン、カチン、と時計の秒針が教室に響く。

「……だよね。俺もそう思ってた。でも、みんなから見て俺と美音はそうじゃないみたい」

 目の前の彼女に核心を突かれるのが怖くて、わざと余裕な振りをした。椅子の背もたれに寄りかかって伸びをする。


「そうだよ、だって、立花くんは美音ちゃんと幼馴染じゃないもん。ちゃんと、好きだもん。……幼馴染とは、違うよ」


 心臓が音を立てる。動けなくなる俺をよそに、市原は自分の机の中から白いクリアファイルと取り出すと、静かに立ち上がった。切なく笑った彼女の顔は、窓の外から注がれる夕日に当たって一層秀麗に見えた。

「日誌書くのお邪魔しちゃったし、私、もう部活戻らなきゃ」
「……うん」

 また明日、と彼女が手を振ったから、俺もつられて手を振った。思わず、彼女の背中を見えなくなるまで見つめてしまった。







「お」
「おー?」

 書き終えた日誌を職員室に提出し、玄関に向かったところ靴を履き替える美音の姿があった。だから、何でお前はそんなに変なタイミングなんだよ……とため息をつきたくなる。

「美音、もう帰るの?」
「うん。今日は文化祭の曲決めだけだったし。私のとこのバンドはベースの人が候補を挙げてくれてさ、それで結構早く決まっちゃったの」
「ふうん。軽音、楽しいの?」

 思わず市原みたいな質問が口から漏れ出てしまって、片手で口を塞ぐ。一方美音も、俺らしくない質問を聞いて、キョトンとして不思議そうに首をかしげた。

「ああ、うん。弾けるようになったときは楽しかったよ。それに私ずっと運動部だったし、文化部も結構楽しいなって」

 俺から質問したのに、そう、と気のない返事をすると、彼女は「何なの!」とふくれっ面して俺の腰をグーパンチした。──そんなことが聞きたいんじゃなかった。ただ美音のあっけらかんとした声が聞きたいだけだった。関係が壊れるんじゃないかと怖がって、今まで一つの勇気も出せなかったのに、どこかで何か期待してしまっていた。幼馴染という関係に落胆したり、安堵したり。俺はこうなるまでずっと逃げてばっかりだったな、と息を落とす。

「じゃ、帰りますか!」

 美音が俺の先を行った。背中を見つめながら、つい、「ねえ」と声を上げる。なんとなく、今なら勇気を出せる気がした。ねえ、美音。俺、ずっと伝えたかったことがあるんだ。
 俺の声に気付いた美音は、片足を軸にしたくるっと器用に回転して俺を見た。彼女のセミロングの髪の毛がそれに伴って揺れた。


「俺、美音のこと好きだよ。お前は?」



 そう言ったら、多分美音は、



「えー? 好きに決まってんじゃん! 何年幼馴染でつるんでると思ってんのさ! ほら、帰るよ」

 ちゃかした笑みを浮かべて、美音はまた俺に背を向ける。美音にとって、俺はずっと友達で、幼馴染だった。良かった。想いが伝わらなくて、良かった。


「ねえ」

 俺、美音と幼馴染になりたいんだ。こんな終わらせ方ずるいと思うけど、美音が知らないまま終われるかな。
 美音はさっきみたいに器用に振り返って、「今度は何?」と嬉しそうに笑った。


「プリン一個なら、いいって言ったよね」


 絶叫のような叫び声を聞きながら、俺は先を歩く彼女の元へ走った。

Re: Bloom Of Youth's Season ( No.24 )
日時: 2016/04/09 22:28
名前: あわきお ◆e0cUq7WYf6 (ID: opLc/10u)



「熱を帯びた体が心地よくて、今日も眠れそうにない」







     参◆



「プール描くんだ? センスいいね」

 まるで自分が褒められたかのように目を細めて微笑む彼と目が合って、思わず言葉をなくしてしまった。繋がってしまった視線をそらせなくて、頬に熱を持ったのが自分でも分かった。名前も知らない男の子のことを知りたいと思ったのは、これが初めてだった。





 一目惚れは結構長く続くものだ。



「あーいっ! おはよう!」

 改札を出たところで、後ろにいた誰かに肩を組まれた。驚いて反射的に声の方に顔を向けると、視界には元気いっぱいに微笑む美音ちゃんの顔があった。新しい学年になって初日、友達なんてほぼ無縁の私に話しかけてくれたのが、出席番号が近かった美音ちゃん。内向的な私に対して、美音ちゃんはいつも素直で明るい。性格は違うけれど、私は彼女と一緒にいられるのが楽しい。

「おはよう美音ちゃん」
「ねえ、昨日さ、すっごい美味しいクレープ屋見つけたんだけど、今度の休み一緒に行こうよ!」

 笑顔の美音ちゃんに頷きながら、チラ、と彼女の後ろを見る。二年生になって美音ちゃんと友達になってから、これをするのが癖になってしまった。案の定美音ちゃんの斜め後ろを、焦点が合わないような目でぼうっと白けた表情のまま歩く立花優くんの姿があった。彼らが一緒に登校してこない日は珍しい。美音ちゃんから、小さい頃からの幼馴染で、家が隣同士なんだと聞いた。立花くんは私と目が合うと、「おはよう」と自分の口元を笑わせる。

「おはよう、立花くん」


 結局私が恥ずかしいお説教をしたあの日から、彼と二人きりで話はしていない。だけど立花くんは以前のように深く思い悩んだりはしていないみたいだから、きっと私の恥晒しも役に立ったのだと思う。いや、そう信じたい。
 耳に障るざわめきを聞きながら、学校までの道のりを歩く。美音ちゃんはクレープ屋の話を一生懸命私にしてくれて、立花くんはその後ろを何にも言わずについてくる。私がいないときも二人はこんな感じなんだろうか。

「——でねっ。藍はクレープだったら何が一番好き?」
 名前を急に呼ばれて我に返る。中学の頃から徐々に、私は対人関係が上手でないことが分かってきた。藍、なんて呼び捨てにされるのも、結構久しぶりだ。未だに慣れない。
「えーっと……、チョコバナナかな?」
「やっぱり? 私も! やっぱりクレープって言ったらチョコバナナだよね。優なんかツナサラダって言うんだよ?」
「ツナサラダ?」
「知ってる? 最近はツナサラダを生地の上に乗っけんの。私は怖くて食べたことないけど、優いわく美味しいらしい……」

 美音ちゃんは後ろの立花くんを振り返って「ね!?」と怪訝そうな顔をする。

「……だって美音、俺が甘いの嫌いなこと知ってるのにクレープ屋連れてくんだもん。ツナサラダ結構美味いよ?」

 困ったように眉を寄せてから、彼の黒目が私を捉えた。びっくりして、思わず立花くんから目をそらす。変に思われたかも、と思うけれど、赤くなった顔を見られたくなくて俯いてしまう。

「そ、……そうなん、だ……」
「あ、そういえば! 私、沖縄の観光地調べてきたよ!」

 楽しげな美音ちゃんの声を聞いて、ホッと安堵の息を漏らす。

「高槻くんも交えてホームルームで見ようよ。私紙にコピーしてきたから大丈夫!」
「お前、気合入りすぎかよ」

 ブレザーに手を突っ込みながら、立花くんは呆れたように笑って美音ちゃんを見た。彼に向かって顔をしかめて、美音ちゃんはため息をつく。

「そりゃあ気合入るっしょ! 高校の修学旅行は最初で最後だよ? 知ってる? 今はJKっていうのはブランドになってるんだから」
「あー、聞いたことある。可愛い制服着てワチャワチャできるのは今だけってことだろ?」
「そうそう!」

 美音ちゃんが笑う。それを見て立花くんも笑った。彼のそれを見て心臓がくすぐられたように疼く。楽しくて、嬉しくて、私も笑った。



Re: Bloom Of Youth's Season ( No.25 )
日時: 2016/12/04 01:07
名前: あわきお ◆e0cUq7WYf6 (ID: Uxa2Epx7)

 教室に入ると、既に高槻くんは私の前の席について、私たちに気付くとこちらに向かって軽く会釈をする。なんて答えていいか分からないままあたふたしていると、立花くんが「おう」と右手を小さく上げて笑った。それから、隣を歩く美音ちゃんに目配せして、小さく、ホラ、と背中をつつく。……立花くんって、一度に色んなこと考えてるんだ、なんて一方の私はのんきなことを思う。私には絶対真似できないなぁ……。
 つつかれた美音ちゃんは耳を赤くして「へ!?」と困ったように唇を突き出して、私たちより先に高槻くんの方へ走っていった。慌てた様子で高槻くんに挨拶して、リュックの中からコピーしてきた修学旅行の資料らしきものを彼に見せる。いつもと違う美音ちゃんの様子が少しおかしくて、口元を覆う。

「……あのさ」

 突然、横から声をかけられる。久しぶりに私向けられる立花くんの声に驚いて、つい彼の方を向いてしまう。

「ありがとね。なんか、この前市原に話聞いてもらって、勝手だけど納得したよ」
「え……。そ、そんなそんな! 私なんかとの話で何か感じるものがあったなら嬉しいけど……! ただ、立花くんが辛いってとき、愚痴言うとか吐き出すとかでもいいから、これからも話し相手になれたら、って、思って」

 立花くんは私のそれを聞くと一瞬キョトンとして、「ああ、」と顔を柔らかくする。

「“ずっと見てた”って……そういうことか。俺、変な勘違いしちゃってた。ありがと、やっぱり市原、そういうの気付くの早いんだね」
「……え?」
「傘のときさ、言ってくれたじゃん。愚痴相手してくれようとしてくれたんだよね?」

 ……。
 …………。

 ……?

 ……アーッ! 思いだした! まずい、私あのとき、変なこと口走って……!

「そ、そうなの! ごめ、ごめんね、本当、変なこと言って」
「あはは、全然! まじ嬉しいよそれ、じゃあ市原もなんか悩みあったら良かったら俺に相談してきてよ。学校いるときは結構いつでも暇だし、また話そう!」

 爽やかな彼の笑顔に、きゅう、と胸が縮こまる。一目惚れと言えども、一年生のときから特別だった男の子に、こんな風に言われる日がくるとは思ってもいなかった。「うん」という声が少し裏返って恥ずかしかった。

 爽やかな笑顔を保ったまま、ふとした様子で立花くんは美音ちゃんと高槻くんの方向を見やる。倣ってそれと同じようにすると、美音ちゃんは先ほどと同じ体勢で高槻くんに資料の説明をしていた。ここから聞こえる彼女の声はいつものように半音上がっている。ヘラ、と無理矢理持ち上げたらしい口端は、私や立花くんと一緒にいるときより不自然に見えた。……トクン、と不規則に心臓が音を立てる。その理由が、何となく私には分かっていた。——美音ちゃんが、彼の全てを知ったらどうなるだろう。



「あいつらンとこ行こっか! 美音のあの声、絶対困ってるよね」
「……そうだね。でも、私も楽しみになってきた、修学旅行」
 私の言葉を聞いて、立花くんはすぐに嬉しそうに微笑む。
「ふ、俺も!」



 脳裏にこびりつくように残っているいつかの嗚咽の声が耳の中で大きくなる。
 全てを知ったら、きっと——。

Re: Bloom Of Youth's Season ( No.26 )
日時: 2016/05/15 21:28
名前: あわきお ◆e0cUq7WYf6 (ID: opLc/10u)


     雑談◆


 そういえば、スレッド設置から一年経つんですね。早いな〜。試行錯誤しているうちに参照600を超えました。ちょこちょこと稚拙な文章を書き連ねてお見苦しいかと思いますが、一回でもこのスレを覗いてくださった皆様に感謝です! ありがとうございます!!
 小説を書き始めて、というか、小説というものに触れて(当初のものを見ると台本小説みたいな感じでとても下手くそだった)、六年くらい経ちました。義務教育を終えて二年目に突入している私ですが、まだまだ文章は幼いですね(;_;)……! もっとうまく表現したい! うん!

 久しぶりにBloom Of Youth's Seasonで小説カキコに戻ってきました。数年前まで別の名前で小説を書いていたんですが、過去のものを見返したら恥ずかしくて今のハンドルネームでやってます。きっと数年後にはまた恥ずかしくて別の名前でやるのかな。いや、そもそもそのときは小説とはこんな風に付き合っていないかも。

 いや、特に話すこともなく、前の名前のときも時々こんな風に自分のことを喋ったりってことをして楽しんでいたので、久々にやってみようかな、と思いまして。小説カキコのこういうところが好きなんです。

 BOYSの話をします(もうBOYSは自分で使うことにしました)。でもちょっと今の内容が難しいところにきているのであまり迂闊に書けませんが……。立花優くんは私の理想の男の子です。近くにいねーかなーって思いながら書いてます。いないけど。奏くんはお分かりの通りちょっと難しいキャラです。まだあんまり登場もお話もしてないですね。これからメインになると思いますが。しかし、女の子では藍が可愛くて可愛くて! こんな女の子になりたい。勝手にいらん情報とか考えてモンモンしてます。……もう彼らと一年以上一緒にいるとは思えません。びっくりだ! これからもよろしくな!

 よく分からんレスですが、どうぞ目障りなら飛ばしてくださいね。こんな感じでちょっとキチガイなあわきおですが、これからもどうかよろしくお願いします! 少しでも私の小説が気に入ってもらえるように精進したいと思います。感想やアドバイスも随時お待ちしております〜。




 あわきお

Re: Bloom Of Youth's Season ( No.27 )
日時: 2016/07/18 00:49
名前: あわきお ◆e0cUq7WYf6 (ID: cdgP4IbX)


 自分の名前を呼ばれたときにハッとした。伏せていた顔を上げると、結っていた三つ編みのおさげが反動で両肩に刺激を与える。変に不規則に顔を上げてしまったのと、自分の名前を呼ばれたことで、胸あたりから熱がこみ上げてきた。顔が熱くなるのを感じる。室内を見回すと、大きな作業机を囲むように座った部員が、私をじっと見つめていた。
 状況が理解できずに黙ったままでいると、戸惑いがちに部員は目を合わせて拍手を私に向けた。隣に座る同級生の亜美ちゃんも、八重歯を出しながらニッコリと笑って拍手していた。

「さすがだね、藍ちゃんは」

 拍手の中で聞こえた亜美ちゃんの声は本当に私を祝福してくれていて、そんなことないよ、と小さく笑う。私はさっきの話など聞いていなかった。

「絵の才能あるもん、綺麗だよ、本当。次のコンクールも頑張ってね」

 拍手が鳴りやむ。そこで私は、自分がどうして拍手されているのか何となく検討がついて、ああ、と口に出してしまう。

 昔から絵を描くのが好きだった。昔から、という言葉がうまく表現できているのか分からないけれど、確かに私自身では思い出すことができないくらい前だ。絵で表現することは私の言葉であったし、言葉で表現することは昔からうまくない。美術部には毎年何回かコンクールがあるけれど、私より絵を上手に言葉にしている人はたくさんいる。才能なんかではないのだ。才能というより、蓄積、だと思っている。そう言われた方が嬉しい。きっと立花くんもそうだ。

「才能なんかないよ」

 どうやら報告会が終わったようでそれぞれ席を立ちあがり、リュックを背負って美術室から出ていく部員もおり、イーゼルを持って定位置につくのもいる。亜美ちゃんが立ち上がるのを確認して、私もそれに倣って立ち上がる。

「またまたあ。受賞常連が何言ってるのさ」
「本当だよ。私は亜美ちゃんの絵の方が綺麗に思うけどなぁ?」

 先ほど絵を描くのが好きだと言った私だが、実は、これまで誰からも描き方を教えてもらっていない。高校に入って美術部に入部し、初めて絵を描くのを先輩や同級生に見せたときは随分驚かれた。私はほとんど筆を使わない。

「そうかなぁ、自信ないけど」
「自信持っていいよ、絶対!」
「ふふ、ありがとう」

 イーゼルを二人で並べて立てる。コンクール以外の活動のときは、時々亜美ちゃんとこうやって話しながら絵を描く。
 少しして亜美ちゃんが私に問いかける。

「そうだ、修学旅行でどこに行くか決まった?」
「あ、うん。少しだけ。班の子がね、行きたいところピックアップしてくれてたの」

 やる気なのは美音ちゃんだ。JKはブランドだと言っていたし。確かに一理ある。幸い我が空良宮高校の制服は地元でも一、二を争うほど可愛いと言われる制服だ。ストライプのワイシャツに赤いリボン、ブレザー、チェックのスカート。これを着て歩けるのはもうあと半分なのだと考えると少しだけ寂しい。
 なんだか考えたらしんみりしてきて、帰ったら自分もどこか行きたいところを調べておこうかな、と考えた。



 帰りの電車は比較的混んでいる。仕事から帰る大人たちとの時間がちょうどかぶっているからだ。席が見つからないまま、ため息をひとつ零して手すりにつかまった。
 家の最寄り駅まで四駅。美音ちゃんたちはあと二駅先だって言ってたなあ。そんなことを考えながら定期券を改札口に挿入する。ふと隣の改札を見ると、同じタイミングで高槻くんが改札を通過していた。驚いて目を見開くと、彼は気づいていたようで、私と目が合うときまりが悪そうに顔を伏せた。
 高槻くんとは何も言葉を交わさないまま、駅内を出る。もう家はすぐそこだ。彼は私の斜め前を歩いた。私の帰路でもある道は、彼の帰路でもあった。……高槻くんは、後ろに私の気配を感じているのか、なんだか動きがぎこちない。
 結局彼は何も言わないまま右に曲がって家に入っていく。その家の表札には“高槻”とある。向かいの家には、当たり前のように“市原”とあった。



「高槻くん」



 彼の名を呼んだ。ドアノブに手を掛けていた高槻くんは振り返る。私と目を合わせて、やはり自信がなさそうに顔を伏せる。

「また、明日ねっ」

 私の言葉を聞いて、驚いたように顔を上げる。少し黙って、高槻くんは、


「うん、…………市原さん、その、……ありがとう」


 何の“ありがとう”なのか、私には何となくわかっていたけれど、「どうしたの、急に」と笑った。そんな私に小さく会釈して、彼は家の中に入った。

——ただいまって、言ったんだろうか。……言えたのだろうか。


 彼の絶望した瞳は、あのときの嗚咽の記憶と重なって私を不安にさせた。


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