複雑・ファジー小説
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- 僕は夢の中の君に恋をした【短編】 『完結』 番外編更新
- 日時: 2015/08/14 12:42
- 名前: 電波 (ID: oYpakyoC)
初めまして、電波と申します。
普段はシリアス・ダークの方で小説を書かせてもらっていますが今回浮かんだストーリーがどうしても書いてみたくここで投稿しました。
ただし他の小説も掛け持ちしてることもあり、あまり長くならないよう短編にしてあります。
ざっと数話投稿して終わりにする予定です。
読んでくれる人がいたら嬉しいですw
それと気軽にコメントしてくれると作者的にテンションが上がりますので良かったらくれると嬉しいですw
- Re: 僕は夢の中の君に恋をした【短編】 ( No.2 )
- 日時: 2015/06/21 11:44
- 名前: 電波 (ID: oYpakyoC)
俺がユメと出会ったのは一週間前のことだった。
その日は特に何事もなく、学校から帰宅した俺はベッドに倒れていた。
その時にハマっていたことなんて特になく、ゲームや漫画、テレビなんて最近手をつけていない。
そのせいもあってかクラスメイトの話題にはまるで付いて行けず、隅っこの机で突っ伏してる。
周りから少し浮いてる気もするが特に気にしない方向で毎日を過ごしているのだが最近その考えを改めようか考え始めている。
そのきっかけになったのはつい先日学校の放課中の出来事である。
俺はいつも通り机に突っ伏して、自分の世界に入り浸っている時だった。
俺の席から少し離れた場所で女子グループがこのクラスでムリな人の話題で盛り上がっていた。
普通ならこういった会話は人前のするような話ではないのだが、この女子グループは何を考えているのか堂々と話し始める。
クラス自体なかなか騒がしく、女子達の音量は多少は紛れてはいるが席にいる俺からでも普通に聞こえるぐらいだった。
「ねぇ、茜はこのクラスにムリっていう人いるの?」
「いるよー」
「マジ?だれだれ!?」
すると女子グループはエサに群がる魚のように過敏に反応した。
正直俺もこういった会話は気になった。このクラスの女子は一体どういう奴が嫌なのか知る良い機会だと思ったからだ。
俺が聞き耳を立てていると、女子がはっきりとした口調でこう言った。
「ほら、あそこで寝てる奴」
「あー納得。いつもクラスから孤立してるよねーアイツ」
この『寝てる』、『孤立』の二つのワードで大体誰のことか察することができた。
言うまでもなく俺だ。
その根拠はこのクラスにいる奴らは俺を除いて大体がアウトドア系の連中である。いつも外に出かける連中が大人しく席にジッとできるわけもなく、どこかに行ったりとか、友達とワイワイ話したりとかしている。
結果、一人で席について寝ているなんて俺だけなのだ。
そして、女子グループは楽しそうに更に会話を続ける。
「アイツってさぁ、マジ陰キャラじゃない?クラスのイベントでもいっつも一人でいるし何も話さないよねー」
「それ分かるー。てか、アイツの声忘れちゃっんだけど」
「それウチも!」
そこで花火が弾けたように大きな笑いがその女子グループで巻き起こった。
陰キャラで悪かったな…。
これをきっかけに今までの生活を変えていこうと考えたのだが結果実行できず、今に至るわけだ。
実行しようとどんなに心に決めていても、体がそれを拒否し、行動を阻害する。
それに追撃をかけるかのように女子グループの話題も俺へと向かいつつあり、蔑むような言葉や見下した言葉がチラホラ聞こえてくる。
今の俺の気分は最悪だった。どんなに行動しようと考えてもそれを行う勇気が俺には足りない。
これでは、
「バカみてぇじゃねぇか」
そう呟くとゆったりとした眠気に襲われ、徐々に意識が飛んでいった。
気付いた時には、見知らぬ場所に立っていた。身の丈を超えた植物が辺り一面に生えており、どこかの農場を思わせた。
空を見上げれば雲一つない青空に、燦々と照りつける太陽。
あまりの景色の変わりように俺はすぐにここが夢の中だと分かった。
まず服装と景色がマッチしていない。ここが仮に農場とするなら俺は真っ黒の学生服だ。そして二つ目が殺人的な光を放つ太陽だが全然暑くない。しかも学ランを着ているのにだ。
驚くことに現実を見るだけで一気に夢の中がつまらなくなる。不思議なものだ。
だが、そう思う一方懐かしささえも感じた。
最後に夢を見たのは中学の終わりがけに
みた超能力で世界を操るといった非常にイタイ夢だった。
あの頃は色々な物に影響されていた時期だったからそういった夢を見やすい傾向にあったのかもしれない。
俺は辺りを見渡し、景色を拝んでおく。どうせ起きたら忘れると思うがこの光景を一時的にだが記念に頭に残しておきたかった。
その時、
「やっほぉぉ!!」
「ッ!?」
甲高い声と共に背中に強い衝撃が走った。それと同時に俺のバランスは崩れそのまま勢いに負け地面に倒れる。生憎夢の中でも痛覚はあるらしく、俺が倒れた時の痛みもリアルに再現されていた。また、重さとかそういう感覚もあるようで誰かが俺の背中に乗っかっているのが分かった。
「いって……」
俺はそう呟きながら自分を突き飛ばした奴を睨め付ける。
そこには顔立ちの整った可愛らしい女の子が無邪気な笑顔を見せ、俺を見下ろしていた。
思わず俺は彼女にこう言う。
「………誰?」
すると、彼女はんーと声を上げて考える素振りを見せると再び表情を笑顔にしてこう返した。
「分かんない!!」
これが俺と『ユメ』との最初の出会いだった。
- Re: 僕は夢の中の君に恋をした【短編】 ( No.3 )
- 日時: 2015/06/28 06:34
- 名前: 電波 (ID: oYpakyoC)
彼女がニコニコと笑って俺を見つめている中、俺は何が何やらな状態に陥った。お互いがお互い、特に会話をすることなく数分が経った。さすがにこの状態での会話は無理と感じた俺は女の子にそう提案した。
「なぁ、とりあえず降りてくれない?」
すると彼女は親指を立ててこう言った。
「OKだよ!」
そして女の子は俺から降りる、かに思われた。
「あっ」
間の抜けたような彼女の一言が俺に嫌な予感を与えた。例えるなら小動物が天敵に狙われている事を察知する第六感が働いたかのようなイメージだ。
しかし、その六感が働いたのはほんの一秒前。
「ッ!!?」
気付けば彼女の体は勢い良く俺の上にのしかかった。肺は圧迫され、中の空気は絞り取られハンバーガーのパティのような気分を味わった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「さっきはごめんね!立ち上がろうとしたら滑っちゃって!」
両手を合わせてから軽く頭を下げ、何度も謝る彼女。こっちとしては特に気にしていない。なんせ夢の中なのだから。多少は痛い目にあっても死ぬ事はない。
「……気にすんな。だから……そんなに謝らないでくれ。こっちまでなんか辛い…」
俺は彼女と視線を合わせないようそっぽを向いて話す。なぜ合わさないか?当然恥ずかしいに決まっている。
「ありがとう!」
視界の端でパァと表情を広げる彼女に思わず顔が熱くなった。
「よ……よし、これで終わりだ…」
俺は彼女に背を向けて腕を組む。この動作に何の意味があるのかについて聞かれると答えは『ない』だ。
俺の意味不明な行動にクスッと笑って女の子は興味ありげな表情で口を開いた。
「ところでさ、あなたの名前教えてよ!」
おお、女子に名前を聞かれるとは思わなかった。確かに名前を言ってなかったな。
「ああ、俺の名前は……」
その時、口から出かけていた自分の名前が急に出てこなくなった。
と言うより、あったのかさえ疑えるほどに俺の頭の中から消えていた。
「どうしたの?」
不思議そうな表情で首を傾げる女の子。
「ん……ああ、名前が出てこなくって」
名前が出てこない。こんな経験は初めてだ。どんなに嫌な数式を忘れても、どんなに嫌な古典を忘れても、名前だけは忘れなかったのに。
ちょっと気持ち的にヘコんだ俺だが、対照的に彼女は笑みを浮かべた。
「へぇ、私と一緒だね!」
女の子はちょっと考える素振りを見せると、何か閃いたのかハッと表情を変える。
「よし、じゃああなたはテンパ君だね!」
「テンパ……?」
俺がそう返すと、そうそうと女の子は何度も頷く。
「ほらっ、なんか何かあるとテンパッてそうなイメージだから!」
「そ、そうなのか……」
俺、第三者から見るとテンパッてるイメージなのか……。再び少しヘコむ俺だが、ふとこんな事を口に出した。
「お前も……自分の名前を忘れたのか?」
すると、うんと苦笑いをして頷く彼女。彼女がおれの名前を考えたなら俺も考えてやろう…そう思ったが実際人の名前を付けるなんて恥ずかしい。その人の個性がまんま出る名前なんてそう簡単には出ないだろう。
それをあっさりと決めるこの女の子は結構凄いと思う。
俺は顔に熱がこもるのを感じながら、彼女に伝える。
「じゃあ………お前の名前はユメで……どうだ?」
彼女の小さな口が少しだけ開く。ここでドン引きされたら俺のメンタルがやられる。夢の中でも女子にキモいと言われたら発狂する。
言うんじゃなかったと若干後悔しながら、俺は目をぎゅっと瞑る。
その時、
「良いね!とっても可愛い!」
え?
「男の子がこういう名前を付けるのは良い意味で少しビックリしたけどとっても良い名前!」
安堵感の為か膝に手を付け、ため息を吐く。
「良かった…本当に良かった……」
「えぇ!?どうしたのテンパ君!!」
そして、俺の夢はまだ続く。
- Re: 僕は夢の中の君に恋をした【短編】 ( No.4 )
- 日時: 2015/07/05 23:27
- 名前: 電波 (ID: oYpakyoC)
「へーテンパ君はそんな辛いことがあったんだ」
植物で囲まれた道を歩きながら、彼女は気楽な感じで答えた。
ユメの後ろを歩く俺は苦い表情をして頷く。俺がクラスで馴染めていないことや一部の女子から陰口を叩かれていることを相談したのだ。
なぜ会って間もない人物にこんなことを言うのかは分からないが、不思議と彼女と話していると悩みが一気に口から出てくるのだ。
まるで前から知り合ってたかのような親しみやすさだった。
ユメはうーんと腕を組んで考える姿をみせると、
「よし、決めた!」
ユメはそう言うと、急に振り返りビシッと指を俺に指した。
「イメチェンしよう!」
「は?いやイメチェンって…」
俺にそんなこと出来る訳ない。ただでさえ人と目を合わせて話すことができないのに…。
そんな俺の心境を察したのかユメは頬を膨らませた。
「それでもやる!聞いてる限りじゃあ、テンパ君が行動してないのも原因なんだよ!ここで動かなきゃずっとそのままだよ!」
言ってることが正論過ぎて辛いです…ハイ。しかし、ユメの言っていることが俺に出来るのかどうか本当に心配だった。
イメチェンと言っても基本的にどう変えるのかが本題何だし…。
「それは分かったけど俺にどこを変えろと?」
「全部」
今までの俺全否定かよ……。
おまけに彼女が俺の今の問いに対して全然時間をかけず無表情で言ったのに少しショックを受けた。
「とにかく、テンパ君は頑張って今までのイメージを払拭しないといけないわけ!良い?」
「お、おう」
ユメの勢いに負け、つい返事をしてしまったが大丈夫だったのか……そんな不安に襲われたが状況はどんどん進んで行く。
俺の返事を聞くとユメはニコッと微笑み俺の方へと駆け寄った。
「よし、じゃあ実戦あるのみー!頑張って友達作ってね!」
「が、頑張ってみる」
レッツゴー!と言いながらユメは俺の背中をパンッ!と叩いた。イタッ!と叫びそうになるのを我慢する傍らユメが口を開閉させて何か言っていた。何を言っているのか分からなかったが彼女の表情はどこか寂しげで辛そうだった。
気が付いた時には俺はベッドの上に転がっていた。しかも制服を着用したままの状態でだ。外はすっかりお日様が辺りを照らしており曇り空を好む俺の気持ちを萎えさせていた。
(仕方ない…支度するか…)
そう思いベッドから起き上がると、なぜだか今までと雰囲気を変えて髪型を変えたくなった。服装も少しラフな感じで行きたいし、気持ち的にもなんか爽やかな気分だった。
不思議だな、と思いつつ朝の仕度を整え学校に出かける。
——————————————————
「ただいま」
誰もいない部屋にそう声を掛けながら昨日と同じくベッドに倒れる。今日はいつもと違い学校で色々な人に話しかけられたし話しかけた。雰囲気変わったね、とか髪型のこととか、そこからどんどん話の話題は広がっていったりとか、クラスの皆も悪いやつではないことを知った。
しかし、なぜだか誰かにお礼が言いたかった。
誰かとは誰だ?
先生?
———違う
クラスメイト?
———違う
家族?
———違う
もっと特別な何か…。
手が届きそうで届かないもの。
俺は天井に手を伸ばし、それが何かを考える。
————————————————————
気づいた時には俺は見覚えのある場所にいた。自分の背丈程に伸びた植物の海にそれを遮るように一本の道が伸びていた。俺はその道に佇み、その光景を見ている。
知っている。
俺はこの光景を知っている。
俺がクラスメイトに話しかけるきっかけをくれた場所でもあるし、あの子がいた場所じゃないか。
その時、
「やっほー!」
甲高い声と共にドン!と大きな衝撃が背中から伝わってきた。
(ああ、これも知ってる!)
俺はそのまま地面に倒れこんだ。背中にのしかかる確かな感触を確かめ俺は彼女を見上げる。
そこには満面の笑みを浮かべるユメがそこにいた。
そんな彼女を見ている内にいてもたってもいられずユメにこう言った。
「ありがとうユメ!お前のお蔭でクラスのみんなと仲良くなれそうだよ!クラスの皆さぁ、実際とっても良いやつら何だよ!お前の言った通りだった!疑ってごめんな!」
俺が彼女に対して言いたかった言葉が一気に込み上げ、途中から感謝の言葉しか出なくなっていた。
俺が一方的に話していると、
「ねぇ、なんのこと?」
ユメは呆然として俺を見つめていた。
- Re: 僕は夢の中の君に恋をした【短編】 ( No.5 )
- 日時: 2015/07/12 21:25
- 名前: 電波 (ID: oYpakyoC)
「え、俺のこと覚えてない?ほら、昨日テンパ君って俺の事呼んでたよな?」
信じられなかった。彼女とはたった一晩の出会いとは言え、自分にとってはかけがえのない思い出となっていた。自分の悩みを真剣に考えてくれ、明かるげに答えを導いてくれたりしてくれた。
あの時の受け答えだけでどれだけ俺は救われたか…。
ユメは苦笑いしながら言いにくそうに答えた。
「ごめんね。全然知らないんだ」
心の中で何かが吹き抜けていく。
いや、仕方ない。これは所詮夢だ。繰り返される夢だ。何でもありなら記憶のリセットもある。
一生懸命に自分にそう言い聞かせた。
「いや、こっちこそごめん。びっくりさせたね」
すると、慌ててユメは両手を使ってそれを否定する。
「いやいや、私の方こそごめんね!覚えてなくて……!」
その光景を見てると、記憶が無くなってもユメはユメだなって思えた。記憶が消えてもその本質は変わらない。そのことが分かって少し安心した。
「とりあえず、降りよっか」
「あっ」
—————————————————
ユメは楽しそうに道を駆け抜けていく。その後ろには俺が追いかける形で走る訳だが、相手は女子なのになかなかどうして。足がとても速く付いていくのが精いっぱいだ。
「鬼さんこっちだ!」
あははっ、と無邪気に笑いながらユメはそう言う。
「くっそ〜なんて足してんだよぉ!」
俺とユメは今、鬼ごっこをしている。せっかく夢を見ているのだから何かしないと勿体ない。そこでユメが提案したのはこの『鬼ごっこ』である。
最初は、まぁ女子だからハンデやるか…と安易な気持ちで俺が鬼を引き受け、10メートル位離れた場所から追いかけるという感じだった。しかし、いざ始まってみるとユメの脚力は見た目と反してとんでもなかった。
俺が用意始め、と言った途端に気づいた時には既に数メートル離されていた。唖然とする俺を余所にユメは楽しそうに走って行く。華奢な体をしている割に陸上部顔負けの脚力をして戸惑うが、俺だって負けられない。
「うおおおおおおおおお!!!」
女子相手に全力疾走する俺。全く情けない。
それからどれだけの時間が過ぎたかは分からない。
結果から言うと俺の惨敗である。
どれだけ走ってもどれだけ疲れ知らずでも全然彼女に追いつく気配はない。これでは全然勝負が着かない、そう判断した俺はユメに降伏した。
「いやぁ楽しかった!久々に走った感じだったかな!」
ご満悦の表情のユメについ笑みを浮かべる。ただ走っただけなのにそんな表情されるとなんかホッとさせられた。
「また走りたくなったら付き合うよ」
「……うん、ありがとね!」
すると、彼女の表情に陰りが見えた。最初、なぜそのような表情をするのかと気になった。しかし、すぐにその理由は理解できた。
「あっ、記憶が……」
「うん、テンパ君が言うことが本当なら次の私はあなたを忘れてる……だけど、私であることに変わりはないから誘ってくれると嬉しいな!」
笑顔でそう言う彼女だったがどこか辛そうだった。そんな表情に俺は見てられず目をつい逸らしてしまう。
恐らくだが彼女の記憶は一晩経つ毎にリセットされる。前回俺がユメと別れる際、ユメが最後に残した言葉があった。あの時何を言っているか分からなかったが今ならその言葉の意味が分かる気がする。
たぶんあの時、俺に「さよなら」と言っていたのかもしれない。夢から覚める瞬間、ユメは何かを察してそう俺に別れの言葉を言っていたのかもしれない。
あの時のユメの顔を見ると、心に刺さる物があった。
このままではダメだ、拳に力を込める。
「分かった。次会ったとき必ずお前と今日みたいに遊びに誘ってやる。けど、お前も忘れることを前提に話を進めるな」
「テンパ君……?」
ポカンとするユメだったが俺は構わず話を進めた。
「絶対思い出すんだ!明日はまた会ったね!って言うんだ!明日もいつも通りに俺の背中に飛び込んで今日は何する?って話しかけるんだ!だから……」
「テンパ君…」
「忘れないで……」
搾り取るように出た声から本音が漏れる。たった二日の出会いだった。たった二日の出会いでなぜこんなにも一生懸命彼女にこだわるのか分からない。けど、彼女には笑っていて欲しかった。
彼女はクスッと笑うと、
「こんのぉ!」
俺の頭を両手でクシャクシャとした。身長が俺より低いのに無理して背伸びをして手を頭に伸ばす辺りが少し和ませられた。
「……」
言葉に困る俺にユメはこう言った。
「忘れないよ!」
「……!!」
俺から離れるユメは後ろで手を組みながら、続きを言う。
「だから言ったでしょ!テンパ君の言ってることが本当ならって!もしかしたら嘘があるかもしれないじゃん!」
確かに、俺の言っていることに嘘があるのかもしれない。そう思わずにいられなかった。彼女は一歩一歩大きく歩きながら振り向きざまにこう言った。
「大丈夫、また会えるよ」
彼女がそう言って見せた笑顔は今日一番の笑顔だった。しかし、俺は途中で気づいてしまった。その笑顔は作った偽物であり、俺を気遣ってのものだと…。
俺は笑顔で返さえずにはいられなかった。あんな笑顔を見せられては悲しい表情なんてできなかった。
「じゃあ、そろそろ時間だから…」
そう言って手を振るユメ。俺もそれに答えるよう手を振った。
「ああ、またな」
ここで敢えてさよならは言わない。次また会うことを俺はユメと約束した。だから、さよならは言わない。
そしてユメも、
「うん、またね」
無邪気に笑いながらそう言った。
- Re: 僕は夢の中の君に恋をした【短編】 ( No.6 )
- 日時: 2015/07/20 11:08
- 名前: 電波 (ID: oYpakyoC)
次の日、俺は再びユメが出てくる夢を見た。
いつもと変わらない風景にホッとするもやっぱりと俺の中の謎が一つ解けた。どうやら俺は起きている間はこの夢のことを忘れてしまうらしい。
昨日、俺は起きた瞬間にはユメのことを忘れてしまっていた。夢を見ていたということは分かっているのだがどんな内容だったのか全く思い出せない。そして今日も同じだった。なぜか、急に胸が苦しくなるような思いに駆られたがその訳が分からなかった。
しかし、この夢をみるとなぜだか思い出す。
その理由は全く分からないが、何らかのルールが設けられてるのだと思う。
俺は呆然と立ち尽くしながら、その時を待つ。
そして、
「やっほぉぉ!!」
やっぱり来た!
二度経験した衝撃にも慣れ、俺は何とか耐える準備はできていた。ドン、そんな音が鳴り響きながらも俺は一切の態勢を崩すことなく踏みとどまった。
「えー、何で倒れないのー?」
聞き覚えのある声。
聞き覚えのある喋り方。
ああ、間違いない。ユメだ!
俺は自分の背中に感じる確かな温もりを感じながら、微笑んだ。相変わらずの登場の仕方だった。まるで変わらないじゃないか。昨日の言葉が恥ずかしくなってくる。
「当たり前だろ。だって二回も突進されたらそりゃあ倒れないぞ」
すると、向うの方からはなぜだかすぐに答えが返ってこなかった。それに違和感を感じた俺はふと昨日のことが脳裏に過る。
『会った当初の記憶のリセット』
二日目に会った彼女は最初に俺と出会った時のことを忘れていた。そして彼女にこのことを伝えたら、もしこのことが本当ならまた忘れてしまうと言っていた。
だが、彼女はこうも言っていた。
『忘れないよ!』
保障も何もないこの言葉になぜこうも信用するのか分からない。ただ、自分がそう信じたかったからだと思う。そうでもしないと不安で仕方なかった。
しかし、この夢を前にして俺の中の不安が漏れ出しそうになっていた。心臓の鼓動一つ一つが大きな重低音を刻み、速度を早めて今にも吐き出しそうだった。
俺は懇願するように思った。
何で喋らないんだ…。
何で黙ったままなんだ…。
何か言ってくれ…。
しかし、そんな俺が願ったことはあまりに非常で残酷なことであると後で思い知らされた。
「え?今日初めてあなたにしたんだけど」
悪意もなく不純もなく純粋に放たれた言葉は俺の願いを打ち砕いた。目の前が真っ暗になりそうだった。自分のことを忘れないと言ってくれていたユメが自分の事を忘れてしまっていた。その事実に胸の辺りが苦しくて仕方なかった。
「ど、どうしたの!?」
ユメが俺の様子を変に感じたのか覗きこむようにして俺を見た。しかし、その行為こそが逆に昨日の辛そうなユメを思い出してなお辛かった。
「なんで、泣いてるの?」
気づけば頬には一粒の涙が伝っていた。
—————————————————
俺は今までの事を話した。初めて会った時の事や、相談に乗ってもらったこと。一緒に遊んだこと。そして、自分に『忘れないよ!』と約束してくれたこと。
最初の内はちょっと驚いたように聞いていたユメも最後の辺りでは申し訳なさそうにしていた。
「ごめんね。全部忘れちゃって…」
「……」
「私、何も思い出せないの……」
「……」
「自分が育った場所や家族。友達とかも全然思い出せないの。まるで何もないところから生まれてきたみたいで不気味だよね」
ユメは苦笑しながら話していた。俺はと言うとただ何も言わずユメの話を聞いていた。たぶんその表情はとても酷い物らしく、会話の途中に度々大丈夫?と心配されていた。
「でも、ふと気が付くと目の前に人がいるじゃん。今までまともに人と接してない私にとってとても嬉しかったんだ!」
ユメは後ろで手を組んで陽気に前を歩きながら振り返った。
「だから、あなたがまた私に会ってくれると嬉しいなーって思う!」
正直、彼女の言葉は冷酷で残忍だった。一から積み上げたものをすべて崩され、また積み上げても崩され……を繰り返すのになぜまた積み上げなければならないのか分からなかった。
そこで俺の足は止まった。それに気が付いたユメも足を止めて振り返る。
結局は俺が辛いだけであって彼女は全て忘れて何も感じない。所謂、他人事のような言い方である。
その言葉に心底、悲しくなったし、腹も立ったし、辛くもなった。しかし、そう思う一方でどうにかしてらなくてはと思考する自分もいた。俺自身、矛盾しまくってる自分の感情に訳が分からなくなった。
混濁する感情の中、俺は何か答えを言わなくては…と口を開いた。
「忘れるな、なんてもう言わない。けど、諦めるな!何に対して言っているか分からないけどそれしか言葉が見つからない!」
「でも、明日にはその言葉も忘れちゃうよ?」
自分の頭の中がぐちゃぐちゃしてるのもあるが彼女の言葉に腹が立ってきた。
「そしたら俺が毎日言ってやる!何度忘れても俺が毎回毎回言ってやる!覚えるまで言ってやる!」
面食らったかのような表情をするユメだったが少ししてあははっと笑い始めた。その様子に何がおかしい!と顔を真っ赤にして言い放つが確かに冷静になると少しおかしいのかもしれない。
笑いの為か、涙を浮かべながらユメはこう言い放った。
「じゃあ、楽しみにしてる!」
涙を拭った彼女はそう言うと俺に近づいて、
「また明日ね、ミンミン君」
笑顔でそう言うと俺の横を通り過ぎて行った。
「ミンミン君!?」
少し呆然とする俺だったが今のユメの言葉に疑問を持って振り返った。一体どういう意味なのか問い詰めようと思い、振り返ったのだがそこにユメの姿はなくただの植物の海が広がっていた。
その日以降からだった。
俺の呼び名がその日ごとに変わり始めたのは。