複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

超熱血少年が異世界に転生したら
日時: 2015/07/01 11:56
名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)

王道の本格的なファンタジー小説を執筆開始します。
バトルあり笑いあり涙ありのお話です!

Re: 超熱血少年が異世界に転生したら ( No.1 )
日時: 2015/07/01 12:03
名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)

「つまらない毎日だ」

帰り道。
夕日を眺めながら、ハードボイルド風に呟いてみる。
夕焼けに照らされ、オレンジ色に染まっていく空と街。
そんな風景を見つめ、佇んでみる。
今日の夕飯はなんだろうか……

「おい!あぶねぇぞコラァ!!」

何やら後ろで声がする。
だが、自由気ままに生きる俺にはどうでもいいことだ。
俺は井吹太郎。
名字はともかく、下の名前は日本人のつける定番中の定番の名だ。
時折、自分はなぜこんな名を付けられたのかと思うことがある。
だが、父親も母親も教えてくれはしない。
それはなぜか。
理由は簡単だ。
俺には、両親がいないからだ。
物心ついちまった時から、傍にいたのは八十を過ぎたばあちゃんだけだった。
ばあちゃんは現在九十五歳になる。
本人曰く、天国からのお迎えはまだ先らしい。
ある時、ばあちゃんに一度だけ聞いたことがある。

「なぁ、ばあちゃん。俺の名前、誰がつけたんだ?」
「さぁ、誰だったかしら。おじいちゃんだったかもしれないし、私だったかも。もしかすると太郎のお父さんかお母さんだったかもしれないよ」
「それじゃあわからないよ、ばあちゃん!!」

それ以来、俺は自分の名付け親について聞くことはしなくなった。
謎は謎として残しておいた方が、幸せなのかもしれないという神様からのおぼしめしなのかもしれねぇな。
背後からクラクションの音が鳴り響く。
だが、俺を止めるものは何もない。

「ボーズ、さっきから道路のど真ん中で立ち止まっているんじゃねぇぞ!」

無視を決め込もうと思ったが、どうやらそれはいかないようだな。
振り返り、豚のような顔をしたトラック運転手に口を開いた。

「おっさん、俺は自由きままな男だ。誰の指図も受けたりはしねぇ」

すると、おっさんの目が血走りその形相が怒りに燃える。

「てめぇ……舐めた口聞いてんじゃねぇぞ。はねられてもいいのか?」
「来るならこいよ。返り討ちにしてやるぜ……」
「上等だ。後悔するんじゃねぇぞーっ!」

エンジンを全開にして猛スピードで向かってくるトラック。
トラックの豚顔のおっさんは、俺が何者かを分かっていないらしい。
一歩足を引いて踏み込み、猪のように猪突猛進するトラックの前面目がけて渾身の拳を炸裂させる。

ボキィッ

流石の大型車も俺の拳の前では無意味——

ブシュゥ!

バカな。
その光景に俺は目を疑った。
拳から大量の血が噴き出し、指が変な方向に曲がっているのだ。
ありえん。これは何かの錯覚に違いない。
激痛が走り、それが嘘ではないことを思い知らされるが、ここで引いたら男の恥!

「右の拳が砕けても、俺にはまだ左がある!」

刹那、サイの如き凄まじいパワーに圧倒され、トラックにはねられた。
空高く舞い上がり、錐もみ回転して落下していく俺。
脳内には、ばあちゃんが作ってくれたおはぎが浮かんでくる。
へへ、最後に手作りのおはぎ、食べたかったなぁ。
そして、そのまま意識を失った。

Re: 超熱血少年が異世界に転生したら ( No.2 )
日時: 2015/07/01 12:07
名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)

悔しい。
純粋にそう思った。
あの時、左の拳をあと少し早く出していれば、あのトラックを粉砕できたはずなのに。
なぜ、俺はできなかった!
今頃あのトラックの豚顔のおっさんは、したり顔で帰宅し家族に自慢げに話しているに違いない。このように——

「今日、男子高校生に喧嘩売られたけど、トラックで倒してやったぜ。
あんな若造が大人である俺様とまともに闘おうなんざ、百年早いんだよ。へへへへへへへへハハハハハ、ガァーッハッハッハッハッハ!」

勝利者の証である高笑いを浮かべる奴の姿を想像し、俺は哀しみに打ち震える。
負けた。負けてしまった。
決して負けてはいけなかった、男の闘い。
敗北した原因は考えられる限り、ふたつしかない。
ひとつは、己の能力を過信し過ぎた事。
そしてもうひとつは、敵があまりにも強大だった事だ。
だが、どんなに自分の戦い方を分析しても負けは負け。
いい訳などせずに潔く負けを認め、好敵手だったトラック運転手を讃えよう。
俺も男なら見苦しいことはするべきではない。
運転手さん、あんた強いな。この俺様が負けちまったぜ……
と、ここで体の違和感に気づいた。
あれほどの力ではねられたのだ、最悪死んでもおかしくはない。
だが、身体は全くの無傷だった。
驚くべきことに、確かに血塗れになっていた両手も綺麗に回復している。これは、一体どういう事だ?
そして——ここはどこなんだ。

左右も下も上も、真っ白で何もない空間。
少なくとも、来たことのない場所というのだけはわかる。
だが、ここがどういった場所なのか、よくわからない。
周りを見渡してみるが、人間らしい人影は見つからない。
つまり、俺はひとりぼっち。
待てども待てども誰もこない。
このまま、元いた場所に帰ることはできないのか。
そんな悲しみが、まるで鉛のように俺に降りかかってくる。

「くそぉ!」

怒りと悔しさ、そして悲しみをどこへぶつけていいのかわからなくなった俺は、白い壁を拳で殴った。だが、ひび割れひとつ起きない。

「無駄ですよ。ここの壁はあなたの拳ぐらいでは壊れませんよ」

空間全体に響くように、どこからともなく声が聞こえた。
ハスキーな少年の声だ。

「何者だ。どこにいる? 姿を見せろっ」
「ここですよ、ここ」
「どこだ!?」
「あなたの、真上です」
「何ッ?」

言われてみて上を向くと、ひとりの少年が浮遊していた。
ベースボールキャップを被り、白いシャツに灰色のズボンを履いている。垂れ目で色白、漫画を読んでいるその姿は、見るからに草食系男子そのものだ。

「お前は誰だ」
「僕は天使ですよ」
「天使だと」
「そうです。その証拠に浮いているでしょう」
「フン、そんなものただのマジックだろ?
見えない糸で体を縛って浮いているように見せかけているだけだ」
「嘘だと思うのでしたら、ご自分で空中浮遊してみたらいかがですか。
僕の発言が嘘でない事がわかりますから」
「いいだろう!」

地面を軽く蹴ると、ほんの一瞬だけ体が軽くなったがすぐに地面に落下してしまった。どうやら奴は本物の天使らしい。

「これで認めてくれましたか?」

小さく微笑みを浮かべる天使。
俺は無言で頷く。

「ところで、お前はなぜ俺の元へ現れた?」

彼は静かに降下し俺の目の前で着地すると、口を開いた。

「まだ己の現状を理解していないあなたに、現実を伝えにきました」
「お前がもし本当に天使だとするならば、俺は死んだというのか」
「そうです」
「……やはりか」
「一応気づいていたんですね。まともにトラックとぶつかって人間が勝てないってこと」
「いや、次闘えば必ず勝てるはずだ」
「あなたはまだ懲りてないんですか?」
「俺の辞書に、諦めるという文字はない」
「諦めて現実を受け入れてくださいっ」
「断る!!」

Re: 超熱血少年が異世界に転生したら ( No.3 )
日時: 2015/07/02 11:31
名前: Orfevre ◆ONTLfA/kg2 (ID: dUayo3W.)

神さんの評価を受けて少しは成長しているなぁという印象を受けたOrfevreです。

特に前回はほぼ無意味に語っていた主人公の名前の由来ですが、今回は親がいないことを間接的に描写されてる点で成長したと思います。

ただ、熱血というよりは中二病な感じですね(笑)とりあえず、応援しています

Re: 超熱血少年が異世界に転生したら ( No.4 )
日時: 2015/07/02 14:54
名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)

俺と天使は、暫くの間互いに無言で睨みあう。
物音ひとつたたない空間の中で繰り広げられる、睨めっこという名の男の勝負。
相手を食い入るように、自分に出せる全力で睨みつける。
だが、天使は特に威圧する様子もなく、黒い瞳で見つめている。

「そろそろ、降参する気になったか?」
「何がですか」
「睨めっこに決まっている」

とそのとき、彼が俺から視線を逸らした。
よし、初勝利だ。天使に睨めっこで勝ったとなれば、これは大きな自信になる。
この空間から脱出してばあちゃんの家に帰った暁には、この土産話をしてやろう。
きっと涙を流して喜ぶに違いない。

「睨めっこに付き合ったのですから、そろそろ僕の話に耳を傾けてくださいませんか」

勝利の余韻に浸っていた俺は気分がよかったため、彼の話を聞くのも悪くないと考えを改めた。

「いいだろう」
「単刀直入に告げます。井吹太郎さん、あなたは車にはねられて死にました」
「それはさっき聞いた。だが、お前は天使だろう。天使にできない事など無い。俺を生き返らせる事など容易いはず。それとも——できないのか?」
「で、できますよ。そのくらいっ」

先ほどまでの冷静沈着な態度はどこへ行ったのだろうか、彼は顔を赤くしてムキになった。この天使は、なかなか面白い奴だ。

「できるのなら、今すぐ俺を生き返らせてくれ」
「それはできません」
「おかしいな。矛盾しているぞ。つい十五秒ほど前は生き返らせる事は可能だと言った。しかし今はできないと言う。誰が聞いても矛盾しているのは明らかだ」
「すみません、僕の説明が足りませんでした。確かに生き返らせる事は可能です。ですが、あなたを元の世界に戻す事はできません。なぜならば、元の世界のあなたの肉体は既に失われているからです」

奴の言葉に首を傾げる。
失われている?
どういう事だ。

「あなたの肉体は火葬されました」

なるほど、その説明で合点がいった。
火葬されてしまっては、確かに生き返らせる事はできない。
だが、奴は元の世界に戻す事は不可能だと言った。
と言うことはつまり、別の世界——俗にいう異世界ならば可能なはずだ。

「それなら仕方がない。別の世界に生き返らせてくれ」
「つまり、異世界転生を望むという訳ですね?」
「そうだ」
「わかりました。それでは希望通り、異世界に転生できる方法をお教えしましょう」
「む? 俺を直接転生させる事はできないのか」
「残念ですが、数年前に異世界転生のシステムが変わってしまって……今では僕達天使も、そして僕達を束ねる神様も、転生の方法とその案内しかできません。すみません」
「分かった。それで、具体的にどうすれば転生できるんだ?」

すると彼は眉を八の字にして少し怯えたような顔で、

「念のために確認を取りますが、本当に転生したいのですか」
「ああ。元の世界に戻れないのなら、それ以外に選択肢はないはずだ。
このままここで何もせずに過ごすぐらいなら、俺は転生を選ぶよ」
「……わかりました。それでは、ついてきてください」

彼は地面から数センチ浮くと、スーッと幽霊のように移動し始めた。
俺は慌てて後を追いかける。

半時間ぐらい走り続けただろうか。
時計がないので正確な時間はわからないが、ともかく天使は突然足を止めた。

「ここです」

彼が立ち止った先にあったもの——それは、三つの扉だった。
どれも同じ木造で、おとぎ話にでも出てきそうな雰囲気だ。

「この三つの扉は【試練の門】と言って、ひとつの部屋にそれぞれ一個ずつの試練があります。その試練を全てこなせば、あなたは無事に転生できるでしょう」
「それで、できなかった場合は?」
「二度目の死——魂の死が待っています。つまりあなたという存在は完全に消滅します」
「そうか。尚更やる気が湧いてきたぜ」

拳を鳴らし、準備運動を始める。
しっかりと体を解した後、左端にある扉の前に立つ。

「じゃあ、行くとするか!」
「気をつけてください。死なないで……!」
「漫画のヒロインみたいな事を言う奴だな。俺は死なねーよ。
……ここまで、案内してくれてありがとな」
「えっ?」

彼がきょんとしている隙に俺は扉を開け、中に入って行った。
他人に礼を言うのは、なかなかできるもんじゃねぇな。


Page:1 2 3