複雑・ファジー小説
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- ワシらの３日間戦争
- 日時： 2016/02/16 16:38
- 名前： 梶原明生 （ID: D486Goe5）
私は老人ホーム桜園に勤める介護士の菊池ひとみと申します。これからお話することをよく聞いて下さい。私達介護士もお年寄りの皆さんも、そしてご家族の皆さんも、時代に取り残された被害者であり、誰が悪で誰が正義かを問うために発言するわけではありません。ただ、ここにいるお年寄りの皆さん…いえ、デイサービスに通う皆さんの現状を知っていただき、介護とはなにか、生きるとは何か、お年寄りを敬うとは何か、皆さんに考えていただきたい。ただそれだけなんです。正直に言います。日々、虐待や暴力、暴言はありました。私が見てきたんです。でも、言えませんでした。…
バリケード上に立てられた壇上に上がり、ピンク色のエプロン姿で菊池ひとみはマイク片手に警察、老人ホーム関係者、家族や野次馬に訴えかけていた。彼女を始めとする総勢１０人の「お年寄り軍」メンバーと桜園で３日間の立てこもりを敢行していたのだ。話は１ヵ月前の「老女突き落とし殺人事件」に遡る。菊池ひとみは元々教師をしていたが父が脳梗塞を患い、厳しい介護の末亡くなったことから、彼女は介護士を目指すことになった。しかし、そのためか夫との価値観のズレが生じ、離婚を選択した。高校生の子供が二人いる。そんなさなか、介護士の資格を取って紹介されたのが「桜園」だった。しかしここの現実は彼女が志した世界とはまるで違っていたのだ。…続く
- Re: ワシらの３日間戦争 ( No.20 )
- 日時： 2017/02/23 23:42
- 名前： 梶原明生 （ID: 87ywO7pe）
…「富名越、外の様子はどうだ。」「おいでなさいましたよＳＩＴと機動隊が。間もなく突入でしょう。」竹野内が迷彩服姿のもうひとりの部下に無線で尋ねたところだった。有無を言わせず黒ずくめの隊員が桜園に近づいて来てる。ＭＰー５Ｊサブマシンガンにニューナンブ拳銃を所持している。「あれ、どこもかしこも窓が開いてる。ドアまで…」まるでお入りなさいと言わんばかりだ。「とにかくお年寄りや職員の命最優先だ。慎重に行け。」無線で隊長が各隊員に通達する。彼らは第一バリケードに到達したが、その向こうに車椅子に座る西崎をはじめとする老女達が茶を啜りながら談笑していた。「皆さん、大丈夫ですか、怪我はありませんか。」バリケードをどけて入った隊員は先ほどの罠にかかり、足を鎖に巻かれて倒れた。「何だこれっ」「俺もだ畜生。」次々罠にかかる。その後ろから唐辛子霧吹きを健常なお年寄り達によりかけられて苦しんだ。その隙にガスマスクや装備を拝借する。他から突入した隊員も同様に罠にかかり、次々拘束されていった。まさかのまさかでこんな年寄りに現役の若いＳＩＴ隊員や機動隊員がやられるとは本部長も考えられなかった。「馬鹿者、余計に人質増やしてどうする。たかが３、４人の犯人だろ。」「そ、それが、…一人だけ帰ってきた隊員の話ではお年寄り達が主に襲いかかったらしいです。罠も巧妙で太刀打ちできなかったと報告が。」「馬鹿なっ、あのジジィババァどもが。」本部長は地団駄を踏みながら無線機を握りしめた。…続く。
- Re: ワシらの３日間戦争 ( No.21 )
- 日時： 2017/02/28 16:42
- 名前： 梶原明生 （ID: UvBorD81）
…先のＳＩＴの突入失敗は瞬く間にマスコミを賑わした。「年寄り軍団に負けた恥ずかしい警察」というタイトルで２チャンネルを中心にネット社会を駆け巡る。「何だあいつら、勝手に入るな。」「いいじゃんいいじゃん」警備してた警察官が自撮棒片手に押し寄せたYouTubeｒを止めに入る。勝手に入ろうとしたからだ。本部長はこの報告を受けてさらにヒートアップ。「マスコミよりたち悪い馬鹿素人め。一刻の猶予もない。すぐに作戦会議だ。」…続く。
- Re: ワシらの３日間戦争 ( No.22 )
- 日時： 2017/03/03 17:42
- 名前： 梶原明生 （ID: Xc48IOdp）
…その頃、桜園と桃木園のお年寄り達は雄叫びをあげて歓喜していた。「若いやつらザマア見ろ。ワシら年寄りにまんまとやられやがって。ハハハハッ」竹野内は坂井と肩を組んで叫んだ。矢代が皮肉混じりに言う。「ふん、ただのまぐれだよ。今に泣きを見る。」西崎がたしなめるように向かってくる。「何言ってるんですか矢代先生。あなただってガッツポーズしてたじゃないですか。」「あ、あれはあくまでその、…」二人の様子を見て竹野内は声をかける。「なーに、なんだっていいさ。こうして皆一つになれた。それだけでいいもんだ。それに…桃木園には介護をしっかりできるお年寄りも沢山いる。平山なんかよりよほど役に立つ。ハハハハッ。」またもや声高らかに笑う竹野内。しかしこれこそが竹野内が理想としていた介護と終活のあるべき構想だった。介護の手を止めることのないひとみに歩み寄ってくる。「あんたはやっぱり介護の鑑だな。こんな時でも介護の手を止めないとは。」「そんな、そんなつもりは。…でもなんであれ、竹野内さんは正しい。私もかつては７日間戦争をしていた端くれです。だからわかるつもりです。こうなったら最後まで竹野内さん達の姿を見届けたい。そう思ってます。大丈夫ですよ竹野内さん。あなた方の骨は私が拾いますから。」…続く。
- Re: ワシらの３日間戦争 ( No.23 )
- 日時： 2017/03/23 18:43
- 名前： 梶原明生 （ID: Xc48IOdp）
…「これは心強いことを言ってくれる。頼もしいから我々は介護される人達を気にせず作戦行動に走れるというもんだ。さて、皆聞いてくれ。盛り上がるのもいいが、もうすぐ明け方だ。面子を潰された対策本部長は今度は死に物狂いで襲ってくるに違いない。だから桃木園の皆はここで待機してくれ。」血相変えたお年寄りは口々に叫ぶ。「何言ってる竹野内。まだこれからって時にもうお開きかよ。」「そうだ、そうだ。まだまだ戦える。ワシらを見くびるな。」それでも竹野内は引かない。「いやいや、気持ちは嬉しい。だが、やつら警察も年寄りが共犯と分かれば容赦なく抵抗してくる。あんたらから怪我人やまして死人を出したくない。だから次は我々だけで戦うことになる。」「おい、竹野内。ワシらが命が惜しいと思うか。どうせ先は短いんだ。最後ぐらいパッと花火咲かせて死のうじゃないか。ワシらはそう覚悟しとる。ましてお前のためだけじゃない。磯村さんはあの震災の時、馬鹿左翼から必死にワシら自衛隊を守ってくれた恩人だ。なのに守りきれなかった。言わばこれは弔い合戦であると同時に償いでもあるんだ。」「うむ。わかった。では有志に任せる。」「おうっ。」意気揚々と老人軍団は立ち上がった。…次回「スピーチ」に続く。
- Re: ワシらの３日間戦争 ( No.24 )
- 日時： 2017/04/13 17:47
- 名前： 梶原明生 （ID: NOqVHr1C）
「スピーチ」
…いきなりサーチライトが点いたとおもったら、二階の演説台にひとみが映し出された。太一、由美兄弟もその姿を見て愕然とした。「是非とも皆さんにお伝えしたいことがあります。」そうマイクでスピーカーから訴えかけ、冒頭のあの言葉を淡々と、しかし熱を込めて叫んだ。「…ですから皆さんお願いします。８時間、８時間時間をください。その間に例の件を報道し、平山さんを立件してくださるなら、竹野内さんは人質を全員返す積もりです。その証拠に人質を一部お返しすると言ってます。」そう言った矢先、ＳＩＴの隊員が一部解放されていた。突入の出端を挫かれた警察官達。やむなく対応に追われた