複雑・ファジー小説

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名前のない怪物 【機械仕掛けの大海原篇】
日時: 2017/08/19 21:22
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: sVNEYKm0)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=262.jpg

——人間だけの世界だったのは10年前の話。突如、異星人“いせいじん”が現れた。その圧倒的な力の前に人々は異星人に屈服する他無く。その窓口となった東京・めぐろ区。
 こんな国になってしまったのにも関わらず、自由奔放、我の道をただ突き進む“組織”があった——……。




—————————
はじめましてルビーです。
駄文極まりないですがよろしくお願いします。最近猫のラグドールに心奪われた大学生です。
基本的に更新は遅く、土・日ぐらいを目安にしていこうと思います。


 人物紹介・用語>>5
第壱話   要人結社>>1-4
下着泥棒篇・闘獄篇>>75
番外編2話・血の楔篇>>129
第伍拾捌話 ギャップがあればモテるんじゃない? 人生そんな甘くないんだよ!!>>132
第伍拾玖話 くじは運だよ仕方ない>>133
第陸拾話  人の話は聞かないと後程恐ろしいことなろう>>134
第陸拾壱話 可愛いものに惑わされるな>>135
第陸拾弐話 女は生物だ>>136
第陸拾参話 失くしたものはもう帰ってこないと思え>>143
第六拾肆話 ペットの名前は可愛くね>>147
第陸拾伍話 日光を浴びないと死んじゃうぞっ!>>148
第陸拾陸話 喧嘩するほど仲がいい時もある>>149
第陸拾質話 時間がたつほど恨みは増していくもの>>150
台陸拾捌話

・戦闘員
 藻琴>>7  あずきんぐさん作
 結廻>>11  合歓さん作  

・メイド
 呉羽>>8  豆さん作

・医者
 時雨>>10  かたるしすさん作

・エンジニア
 華南>>12  海衣さん作
 蛇腹>>13  ケチャップさん作


なま怪ラジオ
1) 社長と戦闘凶と苦労人そしてグダグダ話>>31
2) 社長と藻琴とみんなの好み>>35
3) 社長とメイドのいろんなやつ>>78
4) 社長と医者と豆知識>>90
5) 社長とエンジニアの魔法少女>>144
6)
番外編 クリスマス>>107

作者作 「夜明」>>36
銀竹さん作 「月雲」>>91>>94

構想日 1月1日
スレッド創設日 3月1日

Re: 名前のない怪物【血の楔篇】  ( No.121 )
日時: 2017/03/23 11:04
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: Ed6RPZhj)

「げえっ」

 鈍く何かが砕け散る音。傍から見れば只の踵落としだ——。戦闘民族である虎功刀や月雲は「ただの」で済めば何も驚かなかった。だが、その音と、当の被害者である藻琴の倒れた姿を見て虎功刀はゴキブリを見た時の反応に近い苦虫を噛み潰したような声を上げた。
 そんな彼のことなど露知らず、夜明は倒れこんだ藻琴の首筋にサーベルを突き当てる。落ち椿だろうが、藻琴だろうが反抗すれば首どころか一瞬と呼ばれる時間で頸動脈を掻き切ってしてうだろう。

「おい」
『流石ね』
「テメェは呼んでない。というかやめてくんない? 藻琴がオカマみたいになるんだけど」
『藻琴はもういないわ。精神は死んでしまったの』
「許可なく死んでも困るんだけど」

 今度は踵落としの時とはまた違う鈍い音が響く。今度は藻琴の胸倉を掴んで頬を思い切り殴りつけたのだ。
 瞬く間に腫れて赤くなる。

『……何を』
「嘘つくなよ、死ぬわけないだろうが。落ち椿(おまえ)は藻琴の体を使ってる以上精神だろうが肉体だろうがどちらかが死ねばその体は使い物にはならなくなる。嘘吐きは泥棒の始まりですよっと」
「其処はちゃんと妖刀……ってわけだネ」
(……隊長がちゃんと話聞いてた!?)

 嘲笑するような落ち椿の鼻にもう一度夜明は拳を入れる。中身は妖刀。体は藻琴。今は完全なる藻琴ではない……、とわかっていたはずだったのだが。
 笄は耐え切れなかった。自分の息子が赤の他人にひたすら殴られる姿など。

「止め……、止めろっ!!」
「! おい、アンタ、あれは……っ」
「わかってる、わかってる! あれは呪い(ようとう)で藻琴じゃない! でも、でも……っ」

 今にも夜明に殴りかかろうとする笄を慌てて虎功刀が羽交い絞めにする。
 止められてもなお暴れる笄。だが、暫くして動きを止める。その眼には涙があふれていた。

「別に笄を殺すのは自由にしなよ。でも、今の御前を見てるとただの操り人形にしか見えない。【殺す】って意思も落ち椿に唆された様にしか見えない!」
『変なこと言わないでっ! これは私と藻琴の一致した意思よ!』
「だから出てくんなって」

 必死に抵抗する落ち椿。だが、今度は鳩尾に夜明の蹴りが入る。
 その勢いで口から多量の血があふれ出る。

(……危ない、このままでは藻琴はおろか本当に私まで死んでしまう! 何とかしないと……っ。でも、勝てるはずない! それを見越してジワジワ嬲り殺そうとしてるなんてなんて子供なの!)

 只々じっと見ていた月雲が口を開ける。

「……このままじゃ肉体的にあまり強くない藻琴が死んじゃうネ」
「おいおい社長、如何する気だ……?」

 心配の目を向けられている夜明は何も言わず次の拳を繰り出そうとしていた。
 だが、次の瞬間、甲高い乾いた音が響き渡った。

「……もう……止めてくださいっ! 藻琴は……もう動けません! これ以上、私の弟を苛めるのであればシャチョウであっても……許しません……っ!」

 いつの間にか夜明の目の前に呉羽がいて。その呉羽に夜明は平手打ちされていた。

「呉羽……っ」

 焦ったように笄は冷や汗を流す。呉羽は涙目でじっと夜明を睨み付ける。夜明はいつもと変わらない表情で呉羽を見るだけだ。

「——……ラッキーチャァーンス」
「……え!?」
「…………っ」

 今まで片膝をついていた落ち椿が弧を描くように口元を歪ませる。そして勢いよく呉羽に日本刀を突き刺そうとした。
 呉羽を肩を押して夜明が身代わりになるように突き刺されてしまった。

「……夜明……?」
「おい、社長!!」
「あら、本当は呉羽(そっち)に入れ替わりたかったのだけれども。まぁ、いいわ。強靭で強い肉体が手に入るならこっちのものよ。……でもその前に……夜明(あなた)がどんな人生歩いてきたか気になるわ、見せて頂戴!!」

 血が溢れる。突き刺した刀身を抉らせて落ち椿は笑みを浮かべる。

Re: 名前のない怪物【血の楔篇】  ( No.122 )
日時: 2017/03/23 11:21
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: Ed6RPZhj)

——……嫌だ嫌だ嫌だ!! どうして死ななければならない!? どうしてアリアが死ななければならない!! もし、どうしても死ねというのであればわたしが生贄を捧げる。お願い、お願いします。どうかわたしの大切な者だけは奪わないでください。


『いかないでアリア!!』

『御免ね、夜明。でも私はいかなくちゃ』

『いかなくてもいい、お前がいない明日何て生きたくない……っ。皆、みんなもういないんだよ、アリアしかいなくなっちゃたんだよ、地位も名誉も金も仲間も命も……っもうないんだよ』

『聞いて夜明、私は世界を救いに行くんじゃないの。私の家族を守りに行くの』

『だったらわたしも……っ』

『私の最後のお願い聞いてくれる?』

『最後だなんて言うな! そんなん聞いたらもう二度とお前は帰ってこないだろうが!!』

『言葉遣いが悪くなっちゃってるわよ、ねぇ、夜明。ずっと笑って、幸せに生きて頂戴。それが私の最後の願い。そして、できることなら……苦しくて苦しくて死にそうになってしまっている人をどうか。助けてあげて』

『嫌だよ、そんなことしたくない、やりたくない!! アリアッ!!」

『ありがとう、夜明。本当にあなたは優しい子』

























 嫌だ、助けて、誰か、誰か———……!!
 誰が死んでもいい、どうか、仲間は、あの人だけは……っ。















『異星人も人間も全部忘れてへらへらと笑っていやがる』

『それが一番悔しい』

『誰が死んだのかも忘れて生きている』

『結局わたしは救われず、誰からも救われず自分の力でどうにかした』

『挙句の果てには余計なオプションまでついてきた』

『なんでみんながこんな目に合ったんだろう』

『異星人と人間(おまえら)も同じ目に合えばいいのに』

『ただ働き、ただ死に』




















『なんでだろ、何時の間にか社長になってたよ』

『そういう器じゃないのにね』

『面倒な奴らしかいないし、事故物件だし』

『嗚呼、—————……』

『どうしてこんなにも————なんだろうか』

『それでもやっぱり————』





























 許すことなんて、忘れることなんて一生無。

Re: 名前のない怪物【血の楔篇】  ( No.123 )
日時: 2017/03/27 14:30
名前: カシスオレンジ (ID: n1ZeCGPc)

どうも、お初にお目にかかります。二次創作(紙ほか)で小説を執筆させて頂いているカシスオレンジと申します。
少し前から興味があり勝手ながらコメントさせて頂きました。
是非、私の小説を気楽に覗いて頂ければ幸いです。
これからも活躍、更新を楽しみにしております。

Re: 名前のない怪物【血の楔篇】  ( No.124 )
日時: 2017/03/27 22:11
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: VEQd3CZh)

カシスオレンジさん


こんばんわ、如何も初めまして。
このようなものを覗いてくださって幸いです。
時間があったらぜひのぞかせていただきますね。
ありがとうございます。のんびりと更新頑張っていきたいですw

Re: 名前のない怪物【血の楔篇】  ( No.126 )
日時: 2017/04/01 14:12
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: VEQd3CZh)

「……な」

 二の腕を突き刺された夜明は俯いたまま動かない。刺した当の本人——落ち椿はこの状況を悦ぶのかと思いきや、顔を傍から見ても解るように真っ青になりながらガタガタと震えだす。

「何よ……これ……!! 何百年と人間に憑りついてきたけれど、こんな……こんなの!! たかが1人でたった1人の人間が受け入れられる憎悪(かんじょう)じゃない!!」

 汚いものでも見るかのように。化け物を見るかのように。自分のことなど落ち椿は思い切り棚に上げて吐き捨てるように叫んだ。
 乱暴に刺さった日本刀を引き抜くと今度は止めを刺そうと刀を構える。

「シャ、チョウ……?」
「勝手に覗き込んでおいてそりゃないよ」

 先程夜明に肩を押されて倒れこんだ呉羽が心配そうな声を上げる。夜明は彼女の声に気が付いていない、というよりは聞いていないと言った方が早いだろうか。
 ただただ、目の前の除外すべき敵だけを見据えていた。

「こな、こな、来ないで」
「お前は出ていけ」
「来ないで」
「消えろ」
「来るな!!」

 耐え切れなくなった落ち椿は思い切り日本刀を夜明に振り下ろす。その瞬間、世界の瞬間が止まって見えた。
 呉羽は目を見開いて大きく叫ぶ。

「止めて!! 藻琴ォ!!」

 刀が迫っているというのに、夜明は避けようとしない。虎功刀と月雲は黙ってその様子を見ていた。まるで、どうなるかがわかっていたかのように。
 もうだめだ、と呉羽と笄は思った。だが、いつまでも血しぶきが弾ける音はしない。

「……夜明さんが消えろって言ってんだろ。……さっさと消えろよ錆び刀」
「…………っ!」

 夜明の頭スレスレで日本刀は動きを止めていた。ヒューヒューと息をしながら、今にも倒れそうにもなりながらもその声は藻琴のものだった。
 体の持ち主である藻琴だった。
 呉羽の目尻から一筋の涙がこぼれる。夜明はドッと倒れこむ藻琴をキャッチしながら微笑する。それと同時に手に掴んでいた日本刀が音を立てて地に転がっていく。

「よお、随分はしゃいだんじゃない? 藻琴よ」
「ハハ……。そうですね、調子に乗って……乗せさせてしまいました」
「感動シーンっぽいところ悪いけど、あの妖刀まだ動いてるヨ」

 月雲がいつもの笑みを浮かべて落ち椿を指さす。落ち椿、いや、今となっては只の日本刀は地を這うように確かに動いていた。
 その様子を見て虎功刀はゲェッと声を上げた。

「気持ちワルッ!! 此処まで妖刀感出さなくてもいいっつの!!」

 その瞬間、誰よりも先に動いた者がいた。その者は手慣れた手つきで右手に刃の部分、左手には鞘を持つと、そのまま圧し折った。すると、今まで何百年分の闇が放出されたかのように真っ黒い霧が天に向かって放出される。

『イ、イヤダァァァァァァァ!! シニタクナイ!! ワタシハ、マダア……!!』

 最後の落ち椿の叫び。今まで女性的だった落ち椿の叫びはまるで人間のすべての欲望を吐き出したかのような品のないものだった。

「いや、終わりだ。終わりだ妖刀。藻琴も私もきっとお前からすればきっと醜いものだろう。だからお前は付け込んだんだ。……だが本当は最初からいらなかったんだ、ちゃんと最初から私たちは向き合っていればこんなことにはならなかった。だから消えてくれ。お前などいなくとも私たちはやっていける、生きていける」

 笄は凛とした物言いで霧となった落ち椿を捨て、両手で呉羽と藻琴の肩を掴む。藻琴も上を見上げる。

「……ありがとう落ち椿、でももういいんだ。僕は……大丈夫」
(……何よ、もう何もないような綺麗な目をしちゃってさ。もう、行き場所がないじゃない)

 破裂するように黒い霧は姿を消した。辺りを見渡しても先程までこの場にいる全員を苦しめたあの妖刀は、日本刀はどこにもなかった。

「あ〜、つっかれた」

 ドッとその場で腰掛ける虎功刀にみんなの視線が注がれる。月雲も同様だったのか、虎功刀と同様その場に座り込み大きな腹の音を奏でる。

「お腹すいたなー。……呉羽、何か作ってよ。呉羽のチャーハンが食べたいね」
「……! はい、喜んで!!」

 月雲の何気ない言葉に呉羽はとても嬉しそうに頬を綻ばせた。その様子に察している者、知っている者は微笑ましいやら複雑な様子で眺めていた。

「…………」

 だが、只1人、夜明は癪に触られたような怒っているような無表情を浮かべていた。その様子は誰も窺えない。


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