複雑・ファジー小説

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Solve&Tea party
日時: 2016/05/03 21:38
名前: かたるしす (ID: f/YDIc1r)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=520

複雑・ファジーに投稿するのは初めての、かたるしすと申します。

まったり系の話ですが、時たまシリアスなので注意です。暴力表現は、流血は無いですがあります。性的表現はない、と思われます。
つまりは基本ほのぼのってことです((

いい小説が書けるように、頑張っていきたいと思います!


◇目次◇

第一話 〜噂はきっと正しい〜 >>1-4
第二話 〜小さくて大切なモノ〜 >>5-11
参照300御礼&記念イラスト >>10


◆プロローグ◆

古びた横引きの扉を開ける。
柔らかい光が差す、午後の教室。

「いらっしゃいませ」

教室の真ん中に、ぽつんと置かれた、白いテーブルと椅子2脚。
片方の椅子に、華奢な少女が座っている。
淡いブロンドの髪をかき上げ、空のように青い目を細めた。

「お待ちしてましたわ。橋村様……で間違いありませんこと?」

俺は軽くうなずくと、もう片方の椅子に座る。案外座り心地が良かった。
向かい合わせの彼女は、優雅に笑い言った。

「本当に災難でしたわね。今や学園一の噂話ですわよ? 橋村様の起こした一連の事件は」

……違う。
そう返したかった。学園一の噂の的は俺ではない。
本当の、学園一の標的は……

「まぁ、その問題を解決するのが、私達……『茶会部』の務め。話を聞きますわ」

てぃーぱーてぃ部、と完璧に発音する。流石、純ヨーロッパ人。

感心していると、ふいに彼女は不敵に微笑み、白く細い指をすっ、と持ち上げた。

「Let's tea party……ですわ」

指が鳴る音。
突如、視界が真っ白に染まる。


……そう。
学園一の噂話の種……

それは、この『茶会部』だ。




◇登場人物◇(随時更新)
瀬名 つばめ (せな つばめ)……主人公。1年C組。5月9日生まれ。少し面倒臭がりで、少しのんびり屋で、猫っぽい。なのに若干忠犬属性。足が遅い。茶会部でのポジションはメイド。

相原 昴 (あいはら すばる)……茶会部部長。2年B組。8月12日生まれ。明るく爽やかだが、人をからかうのが大好き。器が大きい。喧嘩がとてつもなく強い。茶会部でのポジションはギャルソン。

水城 慶 (みずしろ けい)……茶会部副部長。2年A組。9月1日生まれ。無表情、無口が基本。内面は穏やかで、天然。運がとても良く、「福部長」と呼ばれる。茶会部でのポジションは和風担当。

カトレア・アントワーヌ……茶会部会計係。2年A組。12月25日生まれ。純ヨーロッパ人。嬢様言葉で話す。一見高飛車だが、アクティブで優しい。運動神経が良い。茶会部でのポジションは洋風担当。

三枝 樹希 (さえぐさ いつき)……茶会部1年。1年B組。2月27日生まれ。イケメンなのだが、常にキレているような雰囲気をまとっている。ドSで腹黒い。でも先輩には勝てない。茶会部でのポジションは製菓担当。


◆Special Thanks◆ [ ]内いただいたキャラ
小太郎様 [暁月 司]
ヒュー様 [徳重 真鈴&花鈴]
囚人D様 [仲篠 一穂]
大関様 [郷 猛]
モリヤステップ様 [本多 光希 藤堂 玲二]

◇お知らせ&呟き◇

更新めちゃくちゃ遅れましたああああ!

最近、「かたるしすって物を美味しそうに食べるよね!」と言われました。
複雑です。

Re:第一話 〜噂はきっと正しい〜 ( No.3 )
日時: 2016/03/17 09:02
名前: かたるしす (ID: f/YDIc1r)





「……本当に申し訳ありませんわ」
「いや……あの……」

凍り付いた静寂を破ったのは、ブロンドの彼女だった。意外と常識があるようで、直ぐに謝ってくれた。
ただ……

「……土下座することもないと思いますよ……?」

私が言うと、彼女は渋々顔を上げた。きっちり巻かれた縦ロールの髪が、細い背中を滑る。
彼女は正座したまま、青空のような青い瞳で私を見上げた。なんだか私の方が、立場が上になってしまうような格好だ。思わず、私も慌てて正座をしてしまう。
後ろで昴先輩が吹き出す音が聞こえ、顔が熱くなった。

「2年A組、カトレア・アントワーヌと申しますわ。日本生まれの日本育ち、だけれど純ヨーロッパ人ですの」

再び完璧な角度で頭を下げ、名前を言う。やっぱり先輩だった。入学式にこんな外国の名前が呼ばれたら、絶対覚えているだろうから。でも、綺麗な名前の響きだと思う。

「1年C組、瀬名 つばめです。よろしくお願いします」

私もつられて、頭を下げた。
……あ、よろしくって言っちゃった。
顔を上げると、カトレア先輩の顔が、たちまち明るくなっていくのが見てとれた。これはまずい。

「スバル! セナは新入部員なんですの?」

お願いします昴先輩、頷かないで……!
願いながら後ろを振り向くと、私の願いに反し、昴先輩はにこやかに「そうだって!」と首を縦に振った。
カトレア先輩が、歓喜の声をあげる。輝く笑顔で、私の手を握ってきた。白く、細い手に力がこもっている。

「可愛い後輩ができて、とても嬉しいですわ! よろしく頼みますわよ!」

凄く、凄く嬉しそうな顔。可愛い後輩、かぁ。こんな顔されたら、もう引けない。というか、私の中の良心がそうさせてくれない。
ああ、こんな明るい顔をする人が先輩だったら、毎日楽しいだろうなぁ……と、思ってしまう。


……少し楽しそうじゃない?

私の心の奥底に、ぽつん、と浮かんできた思い。
そんなことない、疲れるだけ、と、心の大部分は反発している。でも、私は懸けたくなった。その、一粒の思いに。

……きっと楽しいよ。

心が、少し疼いた。心臓の鼓動も速くなっていく。
……うん、私もそう思う。


「よろしくお願いします」

私は、カトレア先輩の手を、強く握り返した。
先輩の顔が、一層喜びを増したように見えた。

「ええ、よろしくですわ!」



立ち上がり、後ろを向くと、昴先輩も嬉しそうに笑っていた。慶先輩は、やはり無表情を崩さないが、なんとなく微笑んでいるような気がする。

「良かったじゃん。また一人後輩が増えたな」
「え? 『また』って?」

不思議に思って訊くと、昴先輩は悪戯っぽい笑みを浮かべて答えた。何か面白がっているような雰囲気があるのは、気のせいだろうか。

「いや〜、先週、新入部員が来てさ。今は買い出し行ってて居ないけど。面白い奴だよ。セナちゃんと、ある意味いいコンビになるかもよ?」

ある意味、とは……
くすくす笑う昴先輩に、苦笑いしか返せない。
おもむろに、私の事をじっと見ていたカトレア先輩が、声をかけてきた。

「……セナ、その髪型」
「え?」
「その髪型、私と被ってますわ」

慌てて確かめてみると、言う通り似てなくもない。私もカトレア先輩もロング。でも、私はところどころ少しだけ内側にカールしていて、先輩はきっちりとした縦ロールだ。色も、黒とブロンドだし、パッと見結構違う。

「それはそうなのですけれど。集団で集まる場所では、中身だけではなくて、はっきりとした見た目のアイデンティティーも必要ですわ。ちょっとお待ちになっていて」

カトレア先輩は私の後ろに回り込み、どこから出したのか、ヘアブラシで私の髪をすき始めた。

「え!? ちょ、ちょっと」
「暴れると髪が抜けますわ。しかし、いい髪質ですわね。色も真っ黒でつやつやしていますし」

助けを求めてもう二人の先輩を見る。昴先輩は必死に笑いを堪えているし、慶先輩は興味無さそうに椅子に座り、テーブルの上の茶碗をいじっていた。駄目だこりゃ。

髪が抜けるのも嫌なので、おとなしくしている。するとカトレア先輩は、すき終わったのか、私の髪をゴムでまとめだした。

「……出来ましたわ!」

しばらくすると、髪から手を放し、手鏡を私に差し出してくる。それを受け取り、恐る恐る覗き込んでみた。

「……!」

鏡の中の私が、黒い目をぱっと見開く。
量の多い髪は左サイドの高い位置にまとめられ、さらさら揺れていた。サイドテール、というやつだろうか。不覚にも、いい、と思ってしまう。こんな私は、見たことがない。
驚きの目で、カトレア先輩を見ると、どうだと言わんばかりに笑っていた。

「思ったよりも似合ってましたわね。セナの顔立ちにもぴったりですわ。可愛いですわよ?」

褒められ、照れて頬を掻く。あぁ、モモカに笑われそうだ。ほどくのも許されなさそうだし、どうしようか。というか、私もほどきたくない。

嬉しいような、困ったような気持ちで毛先をいじっていると、昴先輩が含んだような笑いを浮かべて褒めてきた。

「似合ってるよ、セナちゃん! ……でも、ちょっと意外だったな〜。髪の毛触られてるとき、すっごい気持ち良さそうな顔してたね?」

ぼっ、と顔が赤くなるのが分かった。そうだったのか、としどろもどろになる。すごく恥ずかしい。言い訳しようと言葉を探していると、慶先輩が、茶碗に目を向けたまま呟いた。

「……猫みたい」

昴先輩が、耐えきれず爆笑し始めた。カトレア先輩も、ぷっ、と吹き出して口を押さえている。慶先輩だけ、そんなに面白いこと言ったっけ、という顔で首をかしげていた。

「笑わないでください! 恥ずかしいです!」

叫んだ私も、少し笑ってしまった。
ああ、ここは、とっても暖かい。包まれるように。

本格的に笑い出した私達を見て、慶先輩はやはり不思議そうにしていた。

Re:第一話 〜噂はきっと正しい〜 ( No.4 )
日時: 2016/03/18 05:52
名前: かたるしす (ID: f/YDIc1r)



ようやく笑いも収まった頃。
教室の窓の外の太陽は、少しずつ傾き始めていた。時計を見ると、4時ちょっと前。意外と時間が経っていて驚く。昴先輩も、気付いたように頷いた。

「……ああ、もうすぐ部活動終了の時間だね。しっかし、樹希ってば帰り遅いなぁ〜」
「いつき……?」

もう1人の1年のことだよ、と、朗らかに笑いながら返される。そっか、買い出しに行ってたんだっけ。男なのだろうか、女なのだろうか。ちょっと気になる。

だが、その答えは割と直ぐに分かった。

「……呼んだっすか、先輩」

ガラガラッと教室の戸が開き、不機嫌そうな声が届く。入ってきた人影は、両手にスーパーの袋をぶら下げていた。そのまま歩いてくると、テーブルの上に、袋をドサッと乗せる。慶先輩が茶碗をどけながら呟いた。

「……おかえり」
「樹希、遅かったね〜。女子に声かけられてたの?」

からかうように笑いながら、話しかける昴先輩。その生徒は、うざったそうに顔を上げた。
……あ、この人見たことある。モモカが、やたらイケメンイケメン騒いでた人。栗色の髪と瞳。アホ毛が跳ねているのが特徴的だ。ここまでだと優しそうなイメージだけど、その瞳はつり目なので、怒っているような印象がある。というか、怒っている。

「……一番安い卵買ってこいって言ったの誰っすか。どこも高すぎてスーパー4軒まわってきたんですけど」
「あーごめんね。ごくろ〜さん!」

まったく悪びれた風もなく、軽く言う昴先輩。生徒はへらへら笑う姿を睨み、その目を私に向けてきた。背筋がびくっと伸びる。冷たい視線が痛い。

「……誰だよお前」
「……っ」

唇と唇がはりついて、口を開けない。怯えて、なんて言えば良いのか分からなくなってしまう。完全にタイミングを逃した。
何も言えずにどもっていると、後ろから、肩にふわっと手がのせられ、落ち着いた声がかけられた。

「新入部員の子……あんまり……虐めないで、樹希」

どこか怒っているような、心配しているような気持ちが、声からにじみ出ている。私が振り向き、頭を下げると、慶先輩はほんのすこしだけ唇の端を上げた。
すると、また両肩に手が置かれ、体重が乗せられる。

「同じ1年なのですから、仲良くしてくれないと困りますわ。樹希、もっと目付きを和らげることですわね」
「……余計なお世話です」

乱暴に言い、私と目線を合わせてくる。視線を逸らしたら負ける、というよくわからない勝負のようなものを感じた私は、我慢して、身長の高い樹希の顔を見上げていた。
ずっと睨み合っていると、やがて、樹希の方が口を開いた。

「……1年B組、三枝 樹希」
「……あ、えっと、1年C組、瀬名 つばめ……です……」

突然自己紹介した樹希につられて、私も喋ってしまった。しかも、声が若干裏返ったし、語尾に「です」をつけてしまうという失敗。たちまち顔が赤くなるのが分かる。うつむき、だんまりを決め込んだ私を、樹希はしばらくじっと見ていた。すごく居心地が悪い。

「二人とも、そんな険悪にならない! ほらほら、皆で樹希が買ってきたやつ冷蔵庫に入れるよ!」
「……分かった」
「了解ですわ。樹希、レシートは持ってますわね?」

カトレア先輩が、手を出す。樹希は、私を鼻で笑ったあと、先輩にレシートを差し出した。そのまま、2人の先輩について教室を出ていく。これは、あまり仲良くなれなさそうな気がする。ため息をつくと、カトレア先輩が私の頭をぽんぽん、と叩いた。

「感じ悪くて本当に嫌なやつですわね。でも、ああ見えて意外と根はいい人なのですわ。セナに当たりがきついのも、人見知り。それだけですわ」
「人見知り……」

そういうレベルではちょっとない気がする。むしろ反抗期か。でも、カトレア先輩が言うのなら、きっとそうなのだろう。ぶっきらぼうな態度も、柔らかくなるだろうか。そうなってくれると嬉しい。

「そういう風に思えるなら、セナはきっと、樹希のことをそんなに悪く思っていないのかもですわね」
「そうですか?」
「ええ、きっと。さ、私たちも追いかけますわよ!」

カトレア先輩に、腕を引っ張られる。

……今すぐじゃなくても別に良い。
「いつか」仲良くなれたら、その時は私はきっと、喜んでいるだろうな。

Re:第二話 〜小さくて大切なモノ〜 ( No.5 )
日時: 2016/03/21 00:46
名前: かたるしす (ID: f/YDIc1r)

第二話 〜小さくて大切なモノ〜


私たちが集まった教室の、その隣の教室は結構凄かった。
調理実習室みたいな感じで、設備が完璧だし、キッチンとして充分に機能する。冷蔵庫も割とでかい。壁には、カトレア先輩のものなのか、茶葉の入っているらしい、銀色の缶が並んでいた。旧校舎とはいえ、綺麗に掃除してある様子は、廊下とは別の建物のようだ。
入ってすぐ、歓声をあげてしまった私を、カトレア先輩は嬉しそうに見ていた。冷蔵庫に近づきながら、穏やかな声音で語る。

「学校側はとても優しいのですわ。私たちの活動のために、こんな場所まで貸してくれますの。先生方も、たまに来たりするんですのよ」

冷蔵庫を前に、作業をしている慶先輩も頷いた。手に持っているのは抹茶の粉の缶だろうか。一つ一つ、丁寧に扱っているのが分かる。小さく呟くような声だったけど、顔は少し微笑んでいた。

「……この学園に茶道部は無いけど、茶会部で満足なくらい充実してる……それも、周りの人のおかげ……」
「ええ、ケイはよく分かってますわね」


スーパーの袋4つ分、一杯に詰まっていたものも、5人で片付ければとても早く空になる。なんやかんやあって、15分くらいで作業は終了。のんびり元の教室に移動しながら、色々先輩に教えてもらった。

「いい、セナちゃん? こっちのテーブルと椅子しかない教室は、『接待室』で、調理室っぽいこっちは、そのまんま『調理室』ね。そのまんま」
「接待室……? 何か、接待したりするんですか?」

質問すると、昴先輩は、ものすごく何かを含んだ笑いを浮かべた。まるで賄賂を貰った直後の悪代官のような顔だ。思わず鳥肌がざあっと立つ。樹希が呆れたようにため息をついた。

「なんすか、そのある意味怖い笑い方」
「ドライだなー、樹希は。ま、深い意味は無いんだけどね〜…………あのねセナちゃん、茶会部って、ただ仲間内でお茶会するだけの部じゃないの。やって来るお客さんの悩みやそこからくる不安を、お茶とお菓子でほぐす。さらに、その悩みを解決する。これ、基本スタイルね」

さっきとうって変わって、真顔で説明する先輩。そういえば、モモカも言っていた。「悩み解決を受け付ける部」だと。

「そして、各生徒ごとに役割がある。俺はギャルソン。メイドの男版だね。カトレアは洋風担当で、慶は和風総本家。樹希は製菓担当だよ。この感じだと、セナちゃんは多分メイドポジになるんじゃない?」

……メイド?
カトレア先輩に目線で確認をとると、笑って頷きを返された。え? 本気ですか?
もともと表立って行動するのは好きではない。もっと、裏方的な仕事が良かったな、と思う。今からでも、変えてくれないかな、と、昴先輩の顔を見ると、何故かその横にいた樹希と目が合った。

……逃げるんだ?

樹希の薄い唇が、そう、動いたような気がした。
確信はない。勘違いかもしれない。それでも、私の顔が固まる。そして次の瞬間、私が奮い立つのは簡単だった。

……勝手に決めつけないで

唇を、そう動かす。意思が伝わったのか、樹希は眉を僅かに上げただけで、何も返さなかった。ふいっと前を向いてしまう。私たちに挟まれた昴先輩は、微かに笑っていた。なんだか少し嬉しそうな感じがにじんでいる。どうせ、私と樹希がマトモに会話(?)したのを見て面白がっているんだろう。

「まぁ、お盆に色々乗せて運ぶだけだし、意外と簡単だよ。初めのうちは、俺たちのを見て覚えて……」

階段を駆け上がる音が聞こえ、昴先輩は口をつぐんだ。廊下を、人影が走ってくる。やがてその影は近づき、私たちの前で止まる。その、やって来た赤髪の男子生徒は、荒い息をしながら何かを話そうとしていた。よく見ると、耳にピアスの穴もあり、不良のようなイメージがある。顔立ちは割と可愛いのだが。
その生徒に向け、昴先輩が意外そうな顔で話し掛けた。

「司? どーしたんだよ、急いで」

生徒は息づかいの間に、苦しそうに、うめくように言った。

「頼む……助けてくれ」

Re:第二話 〜小さくて大切なモノ〜 ( No.6 )
日時: 2016/03/24 01:00
名前: かたるしす (ID: f/YDIc1r)

赤髪の人物は、肩で息をしながら、昴先輩のことを見ている。知り合いなのだろうか。ところが、昴先輩は慌てる様子もなく、飄々とした様子で肩をすくめた。わかったわかった、と、ため息混じりに返答する。

「話は聞くから、落ち着けよ。まあ、何があろうととりあえず、『Tea time』……だろ? カトレア、慶、樹希」
「あったりまえですわ!」
「……うん」
「うっす」

昴先輩の呼び掛けに反応し、三人が一斉に動き出す。何をすればいいか分からずにつったっていると、樹希から「ボケっとすんな」と頭をはたかれた。カトレア先輩が、樹希に怒りながら私の腕をとり、調理室まで引っ張っていった。慶先輩、樹希が後に続く。調理室の戸が閉まる音がした。きれいに整備された部屋に、カトレア先輩の声が響く。

「ケイ、お茶の準備! イツキは……そうですわね、干菓子を頼みますわ。セナ! まず皿を出すのですわ! ジャパニーズスタイルのやつですわよ!」
「は、はい!」

カトレア先輩に言われ、ガラス戸の棚へ急行する。そこから数枚とりだして、机の上に置いた。漆塗りの美しい平皿。その上に、白い箱を抱えた樹希がやって来て、お菓子を素早く綺麗に乗せていく。美しく見えるよう配置された、一口サイズの桜や梅の花が型どられている、これは何?

「『和三盆』っていう干菓子。簡単に言うと砂糖菓子だよ。型に入れて固めんの」
「へぇ……可愛い」

しかも美味しそう、と、じっとお菓子を見つめる。漆の色と、花の桃色の組み合わせも綺麗だ。無意識にぽかんと口を開け、眺めていると、口に何かを押し込まれた。驚く間もなく、口の中に甘い味が広がり、花の形がとろりと、少しずつ溶けていく。

「おいしっ……って、何やってんの!?」
「アホ面晒すなボケ」

同学年のくせに、この上から目線は何なんだろう。イラついて樹希の方を睨むと、さっさと背中を向けてしまった。その近くで、慶先輩がお茶を入れている。急須を傾け、静かに湯呑みにお茶を注ぐ。湯呑みをゆっくりお菓子の乗っているお盆に乗せて、満足そうに僅かに微笑んでいた。

全ての準備が終わり、口の中の和三盆もすっかり溶けたころ。報告しようと、カトレア先輩を探す。カトレア先輩は、左の壁のど真ん中についた大きい鏡を覗き込んでいた。何をやっているのだろうと、私もその鏡を覗く。次の瞬間、私は大きな声をあげて口を押さえていた。鏡の向こうには、隣の教室の風景があったのだ。白いテーブル、椅子が置かれている。そこに、昴先輩と、ツカサと呼ばれた生徒が座っていた。

「せ、先輩っ!? これって……」
「言うなれば、マジックミラーですわね。向こうからは鏡にしか見えないけれど、ここから見れば普通のガラスにしかなりませんわ」

確かに、隣の教室に初めて入ったとき、不思議に思った。右の壁に、大きな鏡があることを。凄い……と呟きながら向こう側を覗く。少し小さめながら、声も聞こえてきた。2人が、何か言い争っているような声が聞こえる。司さんは不機嫌な顔で、昴先輩はどことなく余裕の表情で語っている。

『……こんなことしてる場合じゃねぇんだよ。大変なんだ……』
『だから落ち着けって。お茶飲んでくれないと何も始まらないし。あ、これ茶会部のルールね。ってことで……』

薄く笑って、昴先輩は指を鳴らした。

『Let's tea party』



一瞬の間を置き、司さんは座ったまま少し後ずさった。そのあと、その首がかくんと下を向く。よく見ると、目を閉じていた。一体、何が起こったのだろうか。見当もつかない。
向こう側で、昴先輩が、慶よろしく、と呼ぶ。相変わらず、司さんは気を失ったままだ。慶先輩は無言で立ち上がった。お菓子と、緑茶が乗った盆を持って、調理室を出ていく。私は、さっきの事が気になって、カトレア先輩に訊いてみた。

「先輩……あの指パッチン、何で司さんが気を失ったんですか?」
「ん? そうですわねぇ……秘密ですわ」

答えがもらえるかと思ったので、がっくりきた。樹希に訊いても、ぶっきらぼうに、知らない、と返される。なんなんだろう、2年生になったら解るのかな。
向こう側では、ちょうど慶先輩が教室に入ってきた。すっすっと音をたてずに静かに歩き、テーブルにお茶とお菓子を置く。セッティングが完了したことを確認し、もう一度、昴先輩は指を鳴らした。
音が鳴り響き、司さんの目が開く。目の前に置かれたお茶に驚き、なかば呆れたようにため息をついた。

『……飲まなきゃいけねえんだよな』
『まぁ飲んでみ、慶のは美味しいぞ』

司さんは、湯呑みに入っている緑茶を、しかめっ面でしばらく見つめていた。それを見守る昴先輩と慶先輩。緊張感が伝わってくる。やがて、司さんは湯呑みを持ち上げ、一口お茶をすすった。そして、桜の和三盆を口に入れる。固くこわばっていた表情が、少しずつやわらかくなっていくのが分かった。

『どぉ? うまくない?』
『……うまい』

昴先輩の顔も、ほわっとした笑顔になった。後ろに控えている慶先輩も、無表情ながらどこか嬉しそうだ。こっち側でも、カトレア先輩が胸を撫で下ろしている。良かった。司さんがお茶をもう一口飲み、息を吐き出す。どこか安心した顔をした昴先輩が、司先輩に本題をふっかけた。

『ほっとしたところ悪いんだけどさ。何か、問題があって来たんだろ? 話してみ』
『あ……そうだった』

司先輩が、真剣な顔になった。テーブルに肘をつき、ややゆっくり語る。その内容は、私の予想の斜め上をいっていた。

『……実は、つい最近、多分……ハーフのチビが道で倒れてたのを見つけてな……面倒見ることになったんだ』
『え、マジで?』
『マジで。ここからが本題なんだが……そいつが……族にさらわれたんだよ』

向こう側も、こっち側も、言葉を無くした。ハーフの子が暴走族にさらわれた? 一体、何のために?
向こう側の昴先輩も、目を泳がせている。掛ける言葉が見つからないのか、考え込んでいた。

『それで、昴。奴らが、そいつを返して欲しかったら、今日の午後6時までに、暮谷の第1倉庫に来いって』
『!』
『……無理な頼みなんだが……俺に手を貸してくれねぇか? 弟みたいに可愛がってたやつなんだ……』

頼む、とテーブルにつくくらいに頭を下げる司さん。やはり、私たちは絶句したままだった。司さんは、下を向いて今にも爆発しそうな、張り詰めた表情を浮かべている。重苦しい沈黙。それを破ったのは、昴先輩だった。

『……慶、お前んち、暮谷の近くだよな。ここから大体何分かかる?』
『……歩いて、40分。走って、30分……くらい』

司さんが、はっとして顔を上げる。壁の時計は、午後5時19分を示していた。窓の外も、すっかり赤く染まっている。昴先輩が、満面の笑みを浮かべる。まるで、無邪気な子供のよう。それはもう、楽しみでしょうがないというように。

『行くぞ、第1倉庫』
『……! ああ!』



「準備するのですわ、イツキ、セナ」
「え?」

カトレア先輩も立ち上がる。調理室の中を物色し、大振りなフライパンを手に取った。あ、もしかして、と予感が頭をよぎり、樹希の方を見ると、何故か湯を沸かしながら、すりこぎ棒を手にしている。さらに、戸棚から、丈夫そうなワインボトルを取り出していた。
私はしばらく迷った末、メイドが使っていそうな大きな銀の盆を用意した。盾にもなりそうだし、殴られたら痛そうだ。盆を、しっかり手に握った。
間もなく、男子3人も調理室に入ってきた。3人はほとんど迷わず、昴先輩はワインボトル、司さんは持参してきたという金属バットを手にする。準備が良い。慶先輩は……と視線を移したところで、思わずあっけにとられてしまった。小麦粉、塩、コショウ、タバスコ、七味……さらに、熱湯のつまったポット。それらをリュックの中に詰め込んでいる。料理でもするのだろうか。

「もったいねぇな……先輩、消費した分弁償して下さいよ」
「分かってる」

すべての準備が整い、後は出発するだけとなった。さすがに鈍器を剥き出しで持ち歩いていては不審なので、各々何かに包んだり、入れたりしている。全員、すごくやる気……もとい、殺る気に満ち満ちている。もうなんか怖い。私はやっぱりこの空気についていけない……と思った矢先、カトレア先輩が声を掛けてきた。

「……私たちは日常茶飯事なので慣れっこですわ。でもセナ。折角の新入部員をここで怪我させる訳にもいきませんし……帰った方が良いのでは……」

うつむき、遠慮がちに言う先輩。出会って1日も経ってない私が言うのも何だが、らしくない。それに、私は、さっき「逃げない」と決めたばかりなのだ。退いたら、絶対後悔するはず。怪我しても、逃げたくはない。

「大丈夫です、行きます」
「でも……」
「逃げません」

しっかりカトレア先輩の、真っ青な目を見つめる。やがて、その目が緩み、穏やかな顔になった。こうして見ると、あぁ、美人だなと再認識できる。

「分かりましたわ。無理だけ、しないようにするのですわよ」
「はい!」

「……よし、準備OKかな。じゃあ、出発しようか。場所は暮谷、第1倉庫! 総員、出動!」
「「「「「了解!」」」」」

Re:第二話 〜小さくて大切なモノ〜 ( No.7 )
日時: 2016/03/28 09:56
名前: かたるしす (ID: f/YDIc1r)


すっかり夕日色に染まった校舎に、足音がこだまする。出口をただひたすら目指す皆の顔は、それぞれとても真剣だった。校舎を出、グラウンドを突っ切ると、休憩中のサッカー部が、奇怪なものを見る目でこちらを凝視していた。確かにこれじゃ変人集団だな、と軽く心の中で落ち込む。でも、それよりも、私が一番気にしていることがあった。ちょっと勇気が要ったが、見ていられないので訊いてみる。

「カトレア先輩……もう少ししとやかに走らないと、せっかくの気品が……あと……見えちゃい、ますよ……」

この学園の制服の唯一の欠点。そう、それはスカートが短いこと。せめて太ももを完全に隠そうぜってぐらい短い。ヒザの上が10cmもあいているのだ。さらに赤いので、かなり目立つ。どこぞの少女マンガだ、と初めて見た時ツッコミそうになったものだ。

「この非常事態、人の目を気にしてなんかいられませんわ! あと、見ての通り黒ストッキングを装備してますので、問題ナッシングですわ!」
「そう言えばそうですが、透けるやつは透けますよ……!」
「……なんて不毛な会話だよ……」

振り返り、呆れ顔で言う司さん。ハーフ少年のため、急いでいるところごめんなさい。でも、私たち(?)にとっては死活問題なんです……!
ため息をつき、再び前を向く司さんの足どりは力強い。昂先輩は軽やかに、慶先輩はどことなくふわふわしていて、カトレア先輩は元気いっぱい。樹希は面倒そうに走っているが、顔つきは真面目そのものだ。そんな樹希が、私を見て言う。

「お前さ、腕振りまくってるくせにちっとも進まねえのな。あと、結構前屈みだし、目つきも」
「……うるさい、黙れ……っ」
「はは、でも、的を射てるよね」

爽やかに笑う昂先輩。息切れというものを知らないのか、この人たちは。
もともと、体育の成績は非常によろしくない。持久走なんかでは、必ずビリから2〜3番目ぐらいにいる。足も遅く、体力もない。よく猫っぽいと言われるが、あんな運動神経は私にない。肥満度が標準値なのも奇跡と感じるぐらいだ。

「筋肉がない、からじゃない。細身だし」

うん、貴方には言われたくなかった、慶先輩。



話す気力もなくなり、走りながら、他の人たちが語る言葉に耳を傾ける。すると、皆……というか、主に司さんの意外な事が分かった。
なんでも、司さんは、暁月組というここら辺では知られたヤクザ組の跡継ぎだという……知ってよかったのだろうか。でも、親に頼る気はあまりないらしい。良いことだと思う。

「喧嘩が強いのも、頼らず頑張ってきたからじゃね?」
「……お前もな、昂」

昂先輩は、中学の時からずっと一人暮らし同然の生活を送ってきたそうだ。精神的にかなり強くなったよー、とからっと笑いとばすところは、らしいっちゃらしい。でも、そんな人格も厳しい環境の中で出来上がったんだろうな、と想像してみる。
皆、凄いなあ。





「そろそろだよ」

息が荒くなり、雑音が入った声が告げる。
密集した建物の間、傾く夕日がいよいよ熟れた赤になり、地平線へ沈もうとしていた。並ぶ灰色の建造物が作る角を右に曲がると、大きな倉庫のようなものが6つ、道の両端に建っている。そこから先は、建物の森がぷっつり切れ、太い川が横切っていた。その向こうには、緑の林が広がる。
着いたのだ、暮谷地区の指定場所に。

「うあー……疲れたー!」

歩調をゆるめ、止まる。昂先輩やカトレア先輩はそんなことを叫んでいたけど、私はその気にはなれなかった。

「はぁ……はぁ……はっ…げほっ、げほっ!」

息をするたび喉が冷たく痛み、激しく咳込む。銀の盆をとりおとしてしまった。捨う気も出ず、膝に手を当て下を向くと、コンクリートの地面に、ポタポタと汗が垂れた。その様子すらも霞んで見える。脇腹もきりきり締めつけられた。一回休憩を挟んだというのに、これではマズい。見かねたのか、カトレア先輩が背中をさすってくれた。

「大丈夫ですの!? タオル、ありますわよ」
「……尋常じゃねえな、体力のなさ」

涼しい顔で汗をぬぐう樹希が、呆れたように言う。睨みつけながら、カトレア先輩からタオルを受け取った。ふわふわの白いタオルに顔を押し当てると、仄かに柔軟剤の匂いがする。落ち着き、深呼吸をすると、いくらか荒れていた息も整った。

「すみません、ご迷惑をかけてしまいました……」
「いーよいーよ、全然……第1倉庫は奥だってさ。行けるか?」
「はい!」

良かった。じゃ、行こうか、と言って笑う先輩の後に、皆でついていく。川の少し手前、一番奥の倉庫の、赤いサビついた扉の前まで来た。樹希が、ポケットからスマホを取り出して、時刻を確認していた。ひょいっと持ちかえ、先輩に見せている。

「5時57分っす」
「……行くか」

司さんが、皆を見渡す。黒く丸い瞳がぎらつき、口が固く引き結ばれていた。

「……積極的に攻撃するのは俺と昂だけでいい。残りの男子は状況を見て決めろ。女子2人は自分の身と、セスの防衛」
「ん? セスって誰ですの?」
「……ハーフのチビの名前だよ。とにかく、怪我はなるべくしないように。いいな?」


赤い髪をかいて、そう締めくくる。各自返事をしたのを確認すると、なぜか昂先輩を連れて倉庫の裏へまわろうとした。不思議に思って訊くと、裏には侵入できるガラス窓があるらしい。ここに着いた時、先輩がやたら倉庫の周りを確認していたのはそのためだったのか。え、でもそれって……

「大丈夫! 流石に窓割ったりはしないって。まず4人で正面から入ってもらって、敵の注目を引きつけて。その間に、俺ら窓から奇襲するよ!」
「さらっと言いますね」

ニコニコ笑う昂先輩を、司さんが引っ張っていく。2人が裏に回ったところで、私たち4人は、いよいよ突入準備に入った。鈍器を包んでいた布を取り払い、手に持つ。カトレア先輩が、腰に手を当てて、皆を見わたした。

「準備OKですわね? まず、入ったら私と慶が相手の注目を引きつけますわ。2人は後ろで待機。Are you ok?」
「分かった」
「了解です」
「……うっす」

全員が頷く。カトレア先輩が、亦いとびらに手をかけた。

「Let's party timeですわ!」


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