複雑・ファジー小説

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ダスティピンク#502
日時: 2016/05/27 09:09
名前: ▲ (ID: /dHAoPqW)

初めまして▲です
よろしくおねがいします


+注意事項+
・性表現、暴力表現アリ
・誤字、脱字アリ
・不定期更新


+登場人物+
・舟引 都色(ふなびき といろ)♀
・萬田 千寿(よろずだ せんじゅ)♂
・花尾 若鮎(はなお わかあゆ)♀


+もくじ+
#001>>1 #002>>2 #003>>3 #004>>4 #005>>5 #006>>6 #007>>7 #008>>8 #009>>9




+跋扈する愛の話+
イメージソング:春の雨/ハルカトミユキ


Re: ダスティピンク#502 ( No.2 )
日時: 2016/03/28 22:32
名前: ▲ (ID: MHTXF2/b)



#002


ヒールで階段を上るとなると、少し目立った音が響くので、遠慮がちに疲れた体を動かす。
時刻は夜の22時を越えた頃。アパートの住民たちは相変わらず静かである。
階段を上りきり、部屋がある階に到達すると、通路に人影。しゃがみこんで俯くその姿に見覚えがあるので、わざと足音をたてて近づいた。
顔をあげたその人物と、目が合う。みるみるうちに、その表情が明るくなった。

「都色ぉ! おっせぇよお前! 何、どこいってたわけ!?」
「言ったでしょ。高校の友達とご飯」
「あ、酒の匂い。良いな、呑んできただろ」

先程まで友人二人の酒のつまみの悪口となっていた彼は、けらけらと笑いながら赤くなった私の頬をするりと撫でる。たいして興味はないんだろうな。さて。

「こんなところでなにやってるの、千寿」

あらかた予想はつくものの、夜中に彼がアパートの一室の前で項垂れていた訳を問うと、千寿は忌々しそうにドアを見た。

「あー、そ、聞けよ! 三十分くらい経つぜ、もう」
「千」

そのタイミングで部屋のドアが開き、怒った顔がぬるりと出てきた。
げ、と千寿。

「都色に告げ口をするな。おかえり、都色」
「ただいま、アユ」

一変してにこりと笑い、私を見た彼女を怒らせるようなことを、きっと千寿はしたのであろう。こんなことはしょっちゅうであり、私ももう慣れたもんだ。

「悪かったって。マジで」
「ごめんねアユ」
「なんで都色まで謝るの。しょうがないな、次はないよ」

都色に免じて、と彼女は千寿と私を部屋にいれた。
さして怒ってはいなかったのだろう。千寿に本気で怒れないのがアユなのだ。

部屋に入り、バッグをおいてから、お風呂へと向かう。

キッチンから、楽しそうな二人の声が聞こえる。
友人二人のものよりもずっと、落ち着くものだ。

酒で温かくなった息を感じた。
下らない一日だった。

Re: ダスティピンク#502 ( No.3 )
日時: 2016/04/01 21:23
名前: ▲ (ID: /dHAoPqW)



#003


「これからどお?」

仕事が終わり、会社の出口をくぐったところで声をかけられる。
お酒のお誘い。同僚の男性だ。最近やけに親しく接してくる。
爽やかな笑顔を浮かべる彼はきっと、私に特別な感情を抱いているのだろうが、生憎私は興味がない。
優しいし、仕事ができる、素敵な男性ではあるから、邪険に扱うのも失礼か。

「どうしよう。昨日も呑んだから」
「そうなの? 二日連続はきつい?」

自然な流れで帰宅する私の横に並びついてくる彼。いい気はしないけど、悪い気もしない。
さりげなく体調を気遣ってくれるし。

「うーん。お金がね」
「心配しないで、奢るから」
「うーん」

揺らいでしまう。お金を出してくれるなら損はしないか。アユと、一応千寿にも連絡をしておけば、遅くなっても迷惑はかけない。
嫌なことがあり、お酒で忘れたいというわけでもないけど、理由がなくてもお酒は呑んでいいものか。
悩む私が、そんなに食い下がるなら、と口を開いたとき。

「都色?」
「あ、千寿」

後ろから声をかけられて振り替えると、黒い七分袖のシャツで身を包む千寿の姿。
私と同僚を交互に見たあと、なんとなく察したようである。

「何? 酒? 俺も行っていい? 呑みたい」
「駄目だよ。お酒のみたいなら買ってあげるから、帰ってアユと三人で呑もう」

へ、と同僚から変な声。そりゃあそうだ。お金を理由に呑みにいくのを渋ったのに、彼の登場にあっさり手のひらを返したのだから。

「ごめん。また今度」
「あ、うん。こっちこそ、ごめん」

手を振り、すっかり笑顔になって酒のことしか考えられなくなっている千寿の腕を引いてコンビニに足を向ける。

「都色に会ってよかった。マジで。何買ってもらおうかな」
「アユのもちゃんと選んでよ」
「分かってるってぇ」

Re: ダスティピンク#502 ( No.4 )
日時: 2016/04/06 20:18
名前: ▲ (ID: /dHAoPqW)



#004


ビニール袋片手に帰宅した私と千寿を見たアユの第一声は、

「千、また都色に集ったの」

という明らかに怒気を含んだものであった。
密かに第一声を予想していた私は、ぴったりそれと同じものが発せられたので、若干満足した。

「んな怖い顔するなよ、若様」
「アユの分も買ってあるよ」

そーそ、俺が選んだんだよ、と得意気になる千寿に諦めのため息を吐いて、昨日のようにドアを開く。

スーツから部屋着に着替える私を尻目に、テキパキと千寿は宴会の準備を始めた。

「お仕事お疲れさま、都色」
「アユも、部屋の掃除ありがとね」
「良いの、仕事が休みだとなにもすることがないから」

脱いだスーツをハンガーにかけてくれたり、そういう気遣いができるアユは本当に良くできた女性だ。

それとまるで対極に生きるのが萬田千寿という男である。
私の金で買った酒だというのに、自分のもののように広げ、悪びれる様子は一切ない。
それに文句を言っても無駄だということは長い付き合いでわかっているし、何よりもそんな千寿に本気で怒りの感情を抱かない。これはアユも同じであった。

「三人で呑むの久しぶりだよな」
「そうだっけ?」
「都色がぜーんぜん、構ってくれないんだもんな。会社の連中とばっか呑みやがって」

不機嫌そうに唇を尖らせる千寿。子供みたいだ。
アユと視線を合わせ、そうだっけ?と首を傾げる。
そうだったかもしれない。
最近はこの部屋に帰ってくる時間も遅くて、ゆっくり二人と顔を合わせるのさえ久しい気がしてきた。

「それは、ごめん」
「まぁいいさ。お詫びにこうやって酒、奢って貰ったし」

ニヤニヤと笑う千寿に、ああ、してやられた、と笑った。
理由をつけられちゃあ、しょうがないよね。

三人で小さなテーブルを囲み、缶を開ける。
穏やかな夜を堪能して、三人で眠りにつく頃にはもう、とっくに日付は変わっていた。

Re: ダスティピンク#502 ( No.5 )
日時: 2016/04/10 16:53
名前: ▲ (ID: /dHAoPqW)



#005


「一緒にご飯、どうかな?」

相変わらず親しみやすい笑みを浮かべ、私の前に表れたのは昨晩の帰りに私を呑みに誘った同僚だった。

お腹減っていないから、とさりげなく断る。
何度か昼休みに声をかけられ、そのうちの何度かを同じ理由で断ってきた。
断られることを予想して、今日は軽食を持ってきたようである。
ナチュラルに隣に腰を下ろしてきた。

「昨日は、ごめんね」
「何が?」
「んー、というか、今まで、ごめん」

だから、何が。
立て続けにとんでくる謝罪。鬱陶しいな。
この男は、別に嫌いではない、程度の認識なだけで好感度が高い方ではない。
少々、鼻につくところがある。
私が若干イラついていることを察知したのか、口を開いた。

「そのー、舟引さんのこと、えっと、好きだったんだけど」
「……あー、うん」
「やっぱ気づかれてた?」

頷くと、あちゃあ、と声を出して額を押さえた。
バレバレだったけどな。というか、バラすつもりなんじゃなかったのかな。そうやって意識させるもんじゃないのかな。

「呑みとか、付き合ってくれて、ご飯も……それでちょっと調子乗ってて。イケるんじゃないかな、とか思っちゃって」

缶コーヒーを啜りながら、話を続けているが、落ち着きがない。そりゃあそうか、これも、告白みたいなものだもんね。
それを黙って聞いていた。

「……舟引さんに彼氏がいるって知らなくて、しつこくして、ごめん」
「彼氏?」

思わず口にすると、ばつが悪そうに視線をさ迷わせていた彼が、私の方を向いた。
ばっちりと目が合う。

ぱちくり、と瞬きをすると、間抜けな声を彼は発した。

「? 昨日の、黒いシャツの、」
「え? 千寿?」
「あ、え、うん」

お互いに首を傾げる。
なんだこの状況。

「彼氏じゃないよ」

ぽーんと無造作に投げ出された言葉。
彼は数秒間固まり、困ったように笑った。

「え、じゃあ、何、諦める必要ないの?」
「そうなるかも」

ってかその返答は、ちょっと、期待するよ。彼は呟いて、今度は嬉しそうに、晴れやかに笑う。

その隣で、やっぱりお腹減ったかもな、なんて思いながらぼんやりしていれば、昼休みなんてすぐ終わるのである。

Re: ダスティピンク#502 ( No.6 )
日時: 2016/04/16 22:07
名前: ▲ (ID: /dHAoPqW)



#006


前にもこんなことがあったかな、と遡ればあるような気がする。
高校のときの話か。
自由気ままに生きる千寿を許して、千寿もしょっちゅう私にちょっかいを出してきて、よく一緒にいるものだから、恋人と勘違いされた。
この前会った二人の友人にも、高校時代、付き合っていると思われていた。弁解に時間がかかったことを覚えている。
だらしがない千寿のことを気遣う私を、恋人でないなら母親のようだ、と言い出し、千寿の男友達にはお母さん、と呼ばれていた。
いやはや、懐かしい話である。

昼休みの出来事をぼんやりと考えながら午後の仕事をこなして、帰路につく。
今夜は同僚が残業だったので、何かに誘われることはなかった。

他人から見れば、恋人。
不思議な感覚だ。
私は千寿をそんな風に見たことも、感じたこともない。異性として思っていないのだ。
酷い話のように思えるかもしれないけれど、千寿の扱いはその程度でいい。それを彼は望んでいるだろうし。
大切にされ過ぎると、きっと彼は煩わしいと感じるだろうし。

それに。

軽い運動のために、今夜もエレベーターを使わず五階まで上る。
三人で同居する一室、502号室のドアノブに手をかけると、あっさりと開いた。
廊下の奥の曇りガラスが明るい。
揃えられたパンプス、履き潰されたスニーカー。
二人とも、いるようである。

ただいま、と控えめに告げ、廊下を歩き、ドアを開く。

「あ、都色、おかえりぃ」

いつも三人で横になるベッドの上で、千寿が振り返る。
その下のアユは、声を出す余裕もないようだ。
二人とも、全裸。
久々に目にする光景に、眉をしかめる。

「……部屋でセックスしない約束」
「へ? そんなのしたっけ?」
「したよ」
「いつ?」
「結構前だけど」

千寿は忘れていても、アユは覚えていると思ったのに。
なんだか疲れがドッと溢れて、二人に背を向ける。

「え、都色ぉ、どこいくんだよ」
「……ちょっと散歩。帰って来る前に終わらせて」

扉を閉めようとすると、あ、ちょっと待って、と千寿の間抜けた声。
なに、と動きを止める。

「肉、食いたい。買ってきてくんね?」
「……はいはい」

それに、千寿には私ではない恋人がいるし。


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