複雑・ファジー小説

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神々の闘争録
日時: 2016/04/03 21:26
名前: 黒陽 (ID: b/D5tvZu)

作者の欲望だけをぶちこんだ作品です。
ずばり異能バトル×スポーツ×巫女
作者の趣味だらけです。基本的に好き放題やります。
中3のため更新期間もまちまちです。

それでもいいよって方はご覧くださいませ

Re: 神々の闘争録 ( No.2 )
日時: 2016/04/10 02:48
名前: 黒陽 (ID: wpgXKApi)

《半神【ハーフ】》

己の身に神を宿し、《神装》とよばれる神の力を武装とし顕現させ、神気と呼ばれる半神の体内に流れるエネルギーを用いて異能の力を自在に行使する人でありながら人ならざる者。
平安時代には陰陽師と呼ばれた存在であり、その相棒と言うべきが《巫女》と呼ばれる存在である。
半神は神装を用いて戦う者が多いが、巫女は式神や巫力と呼ばれる体内に流れるエネルギーを使い、世の理に干渉し、何も無いところから炎や水を出現させたり、樹木を急成長させたり、大地の形を変化させるなどの半神に劣らない能力を持っている。
彼らには地球上の殆ど兵器が通用せず、最高レベルの半神、巫女に至っては核兵器すらも通用せず、最低レベルでも銃弾を食らっても打撲程度ですむ。
最早、現代社会は半神と巫女無しでは、警察も軍隊も——戦争すらも彼らなくしてはまわらない。
勿論、それだけ大きな力を持つ者には、それ相応の責任が付きまとう。その1つが《神民守護制度》である。
神民守護制度とは、政府の認可を受けた半神、巫女の専門学校を卒業した者にのみ『免許』と『ヘルメスの腕輪』と『半神と巫女』という社会的立場が与え、神の力の使用を認めるというものだ。

そして此処、東京都にある半神、巫女の専門学校、陽海学園は日本に存在する8つの学園の1つであり、その面積は東京ドームの約10個。
そこでは日々学生たちが切磋琢磨しているのだが、今は4月に入ったばかりでまだ春休みの真っ只中だ。そのため校内をうろついている生徒はかなり少ないなか、1人理事長室に向かって歩いていく1人の青年がいた。



Re: 神々の闘争録 ( No.3 )
日時: 2016/04/10 20:08
名前: 黒陽 (ID: wpgXKApi)

その1人の青年——蒼海志龍は理事長室に入ると、部屋の中央におかれている執務用の机にいる1人の女性に声をかけようとしたとき、女性の方から話しかけられた。

「やぁ蒼海、そろそろ来る頃だと思っていたよ」
「そりゃあ、家に見知らぬ和服美少女がいましたからねぇ……あれは貴女の差し金でしょう?神城理事長」
「見知らぬ……ではないだろう?お前もテレビで何度か見ているはずだぞ。——御神木有栖。巫女の身でありながら身体に神を宿す特異存在。おまけに巫力の量は平均の凡そ15倍。神気にいたってもその量は平均の5倍。バカと冗談の大盤振る舞いさ。それで、お前はその件に関して文句を言いに来たのか、独り身野郎」

女性——神城心咲は今時では珍しい葉巻に火をつけ、馬鹿にするような目で志龍の方を見る。
志龍はと言えば苦虫を噛み潰したような目で神城を見ている。

「文句と言えば事前に連絡しろよって位ですよ。——容姿の好みがドストライクで料理もできる奴が俺の巫女になってくれるとかこれは夢かと思ったよ。ラノベじゃねぇんだからさ。だけどこれは現実だったよ。最高だ……ありがとう……っ!」
「そこまで喜ぶのなら彼女も嬉しがるだろうな……ちなみに本人の希望だからそこは問題ないのだが……な」
「?……どうしたんですか?」
「それが——」

神城が口を開けるとほぼ同時に、扉から入ってきた彼女が喋りながら入室してくる。

「事前に契りを交わす約束を家のおじいさんたちが勝手に決めちゃっててね……でも私自身が志龍と契りを結ぶって言っちゃてるから……そのう……面倒事が志龍に降りかかってくるかも。……ゴメンね?」

扉から入ってきた彼女——有栖が申し訳なさそうな表情を浮かべながら、志龍に言う。

「まぁその辺は覚悟してたさ。で、その事前に契りを交わす約束をした奴って誰だよ?」
「ああ、それならもうすぐここに直談判をしに来るんじゃないかな?——あ、来た」

有栖が呟くのと同時。理事長室の扉が大きく開かれ。

志龍は、「お前かよ」の意で大きくため息をつき、有栖は気まずそうに志龍の後ろに隠れ、神城は「今日は来客が多いな……」と思いながら灰皿に葉巻を押し付け、火を消すと来客を見る。
棚引く、黄金色のロングヘアー。青空のようなスカイブルーの瞳は怒りを全く隠しておらず、眉は吊り上がっている。
服装はシックな色合いのブレザーに、同じような色のミニスカート。陽海学園の半神用の女子制服だ。
主張しない色合いが髪の色を大きく際出させている。
特に目を引くのは胸元だ。制服の上からでも容易く理解できる大きな膨らみが水色のネクタイを押し上げ、異様な存在感を放っている。
ちなみに志龍は巨乳派ではなく、ほどほどの大きさで形を特に気にするので、「相変わらず重そうだな〜」ぐらいしか思っていない。

「ノックもせずに無礼だな、お前は。何を怒っているんだ?鈴鳴」

ノックもせずに入ってきた無礼者——鈴鳴玲奈はその言葉に対して更に怒りを募らせる。

「怒りたくもなりますわ……。なぜあのEランクの屑が有栖さんとの契りを結ぶ様になっていますの!?」

もしもここが漫画の世界であったのならコマにビシッというような擬音が付きそうな程、勢い良く、Eランクの屑に向けられる。
当の本人たちは「私達もノックなんてしてないよね」「そういやそうだな」などという会話を繰り広げているわけだが。
神城は彼等を一瞥すると、ため息をついて。

「それは本人の希望によるものだと、私は連絡したし、御神木の家のお偉いさん方にも御神木は連絡をし、許可もちゃんと貰っているぞ」
「だから、それは何故だと聞いているのです!!何故Eランクの屑とAランクの二年生トップの私が比較され、屑の方が上であると判断されるのですか!?この私が納得できる理由をお教えください!!」
「そりゃ——」

怒りを絶やすことなく、神城への抗議が途切れたとき、今まで有栖と喋り続けていた志龍が、視線を玲奈に向け、告げた。彼女の僅かに残っていた理性の糸を叩き斬る言葉を。

「俺の方がテメェよりも強いからに決まってんだろうが」
「もう一度……私の目をちゃんと見て言ってくださいますか?」
「だから、レズハーレム作って調子に乗ってる箱入り娘よりも、俺の方が強いって言ったんだよ」
「この……私よりも、Eランクである貴方の方が強い……とそう言ったのですね?
ふざけているのですか?貴方は。Eランクの屑である貴方がAランクの私に勝てる訳がないでしょう?」

明確な敵意と殺意を以て、志龍を睨み付ける。
あまりの怒りに神気が身体から漏れ、バチバチと彼女の周囲に電流が走る。
そのような姿に彼は恐れを抱き怯むどころか、まるで親から欲しかった玩具をプレゼントされたように——否、そのような純粋な笑みではない。獲物を見つけた猛獣のように口角を歪ませる。

「そりゃあやってみなきゃ分からねぇだろう?理事長。模擬戦の申請をしたい。お互いハンデ無しの契りを既に結んである巫女全員参加の真剣勝負で」
「了解した。日時は?」
「二日後でお願いします。その時には私の巫女達が全員帰ってくるので。——本当によろしいのですね?」
「それは俺の台詞だ。無様に負ける心の準備をしておけよ。お嬢さん」

ほざきなさい、と彼女は理事長室から退室していく。

「本当に良かったの?自分から面倒事に首突っ込んで」
「アイツ、巫女四人もいるくせに俺の巫女(予定)に手を出しやがって。あとEランクの屑、Eランクの屑って五月蝿いから、そろそろ潰したいって思ってたし。勝てない相手に勝てるなんて言わない。それと理事長、【アレ】の解放許可を」
「もちろんだ。当日の為に英気を養っておけ」

そう言うと、神城は退室を二人に促す。
二人は素直に出ていき、そして二日後——《堕ちた竜》vs《轟雷の戦乙女》の対戦に春休みながら全校生徒の凡そ八割が集まった。













Re: 神々の闘争録 ( No.4 )
日時: 2016/04/15 14:41
名前: 黒陽 (ID: UJKTSKz4)

第4模擬戦場。陽海学園校舎の西側に位置するここには、現在、多くの観客で賑わっていた。
その殆どが陽海学園の学生であり、《轟雷の戦乙女》の久し振りの模擬戦を見に来たのだろう。
相手はどうでも良く、才色兼備、文武両道であり、2年でのトップの成績を持つ、鈴鳴玲奈は男女、学年問わず人気があったためである。
そんな彼女にこの模擬戦を吹っ掛けたのが志龍であると、発表されたときには、皆酷く驚いた。
何故なら、彼は1年のときの出席数は3分の1程度であり、半神の格付けのなかでも一番低い、Eランクの半神であったためだ。
その為、生徒も最初は驚きはしたものの、落ち着くと誰もが嘲り笑った。「Eランクの不良が玲奈に勝てるはずがない」と。「一方的な勝負になる」と。

「まぁ……そう思われても、しょうがねぇわな」

模擬戦場の中の控え室で志龍が呟く。現在の姿は胸元が開かれた和服である。胸元には黒い包帯が巻かれており、防御力は服装自体には皆無であり、その分スピードを意識した格好だ。
両腕には蒼黒色の籠手が装備されており、目立つ防具はそれだけだ。

「一応聞いておくけど、勝てるの?」
「俺は負け戦は、絶対にやらなきゃならない時以外はやらねぇんだよ」

聞いてくる割には不安気な表情を全く浮かべていない有栖に対して、志龍は愚問だと笑って見せる。

「絶対勝ってきてよ。私はハーレムには加わりたくないのです」
「しかも女だしな」
「アハハ、そうだね。私は私一人だけを見てくれる半神がいいな〜?」
「お前以外に俺の巫女が出来るとは思わねぇんだけど」
「わっかんないよ〜?ここで彼女たちを圧倒して「キャー志龍先輩カッコいい〜!!」ってなるかも」
「……それは面倒くさそうだ。……じゃな。勝ってくる」
「ん。行ってらっしゃいな」

控え室から出て、バトルリングに向かう扉を潜りながら、後ろにいる有栖に向かって志龍は手を振りながら歩いて行く。
そしてリングに出ると、歓声が志龍の耳に殺到する。
それを、彼は煩わしそうな表情を浮かべ、眼前の敵を真っ直ぐ見据える。
黄金の鎧を上半身に纏っており、背中には穢れなき純白のマント。
一方、下半身には膝丈よりも僅かに上の長さしかない鎧と同色のスカートに長靴を穿いている。
どのような装備でバトルの舞台に立った鈴鳴玲奈は後ろから、巫女装束を着た四人の少女たちを引き連れて、志龍の10m程、手前に立つと挑発——というよりは嘲りを多く含んだ口調で言う。

「逃げなかったのですね?これほどの戦力差がありながら」
「俺から吹っ掛けた殺し合い(ケンカ)だ。戦力差がいくらあろうと逃げはしない。それにお前はともかく、お前の巫女は震えながらではなく、藁のように地に倒れるだろうさ」
「戯れ言は止しなさいな」
「戯れ事かどうかは、勝敗が証明してくれるさ。さぁ殺ろうぜ……!?」

「これより《堕ちた竜》蒼海志龍と《轟雷の戦乙女》鈴鳴玲奈の模擬戦を始める。両者ともに、神装を《虚形態》で顕現させろ」

顕現あらわれよ。常闇の世に燦然と輝く禍の月よ。蛇竜の牙となりて、常世に蔓延る愚者を鏖殺せよ——【夜刀御月】」

志龍の手元から闇が溢れる。一切の淀みのない純黒だ。そして人の心の底に根付く原初的な恐怖を駆り立てる純黒。
その中に一筋の光が流れたかと思えば、闇は消え、そこにあったのは、一振りの太刀だった。
柄は、青黒く、刀身は漆黒に染まっているが、そこに一筋の光と言うべきであろう線が走っている。

これが蒼海志龍の宿す神【夜刀神】の神装、【夜刀御月ヤトノミツキ】である。

そして彼が神装を顕現させている間に、彼女も神装を顕現させる。

顕現きなさい。百雷纏いし、黄金の戦斧。一木一草の悉くを焼き払わんがため——【八雷神斧】!!」

天空から雷と共に落ちてきたのは、約2m程にも及ぶ戦斧だ。刃には1つの大粒のサファイアが埋め込まれており、芸術的な価値も大きいだろう。大気中にはバチッバチバチッと空気には電流を走らせている。

これが鈴鳴玲奈の神装、【八雷神斧ヤクサイカヅチノシンプ】である。
互いに神装を《虚形態》——人間に対してのみ、物理的なダメージを与えず、体力と精神力を直接削る形でさせる形態で顕現させた時、玲奈が志龍に突撃した。

Re: 神々の闘争録 ( No.5 )
日時: 2016/04/16 22:59
名前: 黒陽 (ID: wpgXKApi)

「フッッ!!」

己の足に雷を纏わせると、玲奈は、志龍に突撃し黄金の雷撃を纏わせた斧振り下ろす。
一見、粗暴に見える一撃は精練されており驚くほどに鋭い。だが所詮は大振りの振り下ろしだ。志龍は、夜刀御月で受け止める。

「ッ!?」

行動と突然中止し、斧の間合いからバックステップで逃げる。志龍が逃げた瞬間に、斧が今までの速度の倍以上に加速した。
その一撃は当然、誰にも当たることもなく模擬戦場の床に叩きつけられると、ずんっ、とこの模擬戦場そのものが激震した。

『ぬおっ何だ!?』
『地震!?』

その揺れに観客達は喚くが、彼は全く反応していない。この程度の威力は想定していた。気になるのは、大斧という超重量武器を装備していながらの、あの陸上世界最高記録保持者顔負けの突撃速度や、先程の一撃で突然加速した斧と、志龍を四方から囲むように居て、膨大な巫力を練っている玲奈の四人の巫女だ。
巫女の事については、何かしらの術を発動する気だろうが、その内容までは分からない。が、速度や突然の加速については大体分かった。

「電磁力を推進力に変えて加速したのか」
「ええ。その通りですわ。そしてあなたが気になさってることも、もう分かります。私の巫女が何をなさるかでしょう?」
「「「「四神結界!!」」」」

巫女達から巫力が解き放たれた。それは志龍を四方から囲むように出現した五メートル×五メートルの立方体だ。それは絶えず、赤、青、緑、黒……と変色し、一瞬たりとも同じ色をしていない。
そして、その中で志龍は赤、青、黒、白色をした鎖に手足を拘束された。

「あなたと私では天と地ほどに差がある。正直観客達ギャラリー達もさっさと終わってほしいでしょう、見苦しい戦いは。あなたが私の初撃を避けられるとは思いませんでした。Eランクの屑ながらよくぞここまで頑張りました。だからもう……楽になりなさい」

慈悲深い女神のように玲奈は笑い、八雷神斧に神気を込める。それは視認出来るほどに膨れ上がり、巨大化していき、斧から槌へと形を変える。それはさながら巨人の槌のようで——

「神々の雷に沈め……《森羅万象打ち砕く雷神の鉄槌【ミョルニル】》!!」

膨大な神気で作られた巨人の槌は、直径三十メートルにも及ぶ広範囲攻撃。おまけに四神結界で手足を拘束された。避けられる要素などどこにもない。それは当然、志龍に直撃した。
模擬戦場が白に染まった。雷神の槌はリングの約六割を木っ端微塵に粉砕した。

『これは相手死んだんじゃないか?』
『いや、虚形態なんだから死ぬことはないでしょ……もう決まりね』
『まぁEランクの割にはよく頑張ったよ……』

観客のが勝者を讃えるべく、もしくは善戦した志龍に拍手を送ろうとしたとき、玲奈が、敗者に背を向け、リングを去ろうとしたとき、彼らは信じられない物を聞く。

「フヒヒ……ハハッ……カハハッ……アハハハハ……!!!」

それは、嗤い声だ。しかも地獄の底から響いてくるような、悪魔の笑い声。それは《森羅万象打ち砕く雷神の鉄槌》により地に伏した志龍の笑い声だった。
狂ったように彼は嗤う。土煙の奥から見える海のような蒼い瞳は普段の彼からは想像もできないほど、闘争心と狂気に染まり、眼前の敵を真っ直ぐに見据えていた。

「なるほど、これが貴様の最高威力の攻撃か。中々に痺れたが……まだ俺は此処に立っているぞ、さぁ続きを殺ろうぜ!?戦乙女ヴァルキリー!!」
「嘘……玲奈さんの《森羅万象打ち砕く雷神の鉄槌》を耐えるなんて……!?」
「残念ながら、嘘ではない。決めた。戦乙女はメインディッシュだ。まずは前菜オードブルから喰い散らかすとしよう」
「でもあなたは四神結界に覆われている!そんな状態で私達を倒せるはずが……」
「ああ、その事か。この程度の結界ならば壊すのも容易い」

四神結界の中の志龍の神気が膨れ上がる。それは結界の中で純黒の奔流となって暴れまわり、そしてパリンと無数の欠片となった。
彼の背後からは夜の黒よりも深い純粋な闇が、リングを空間を侵食する。

「さぁ鏖殺を開始しよう……《黒龍纏身》」


Re: 神々の闘争録 ( No.6 )
日時: 2016/04/17 22:55
名前: 黒陽 (ID: wpgXKApi)

「奴の枷が外れた」

この模擬戦の審判も兼ねている神城心咲が隣に聞こえる程度の大きさの声で呟いた。彼女の隣には、この勝負を引き起こした元凶——本人にとってはいい迷惑にしかなっていない戦いだが——御神木有栖が座っている。

「確かに、あの黒髪の子。今までとは比べ物にならないくらい膨大な神気を放っている。しかもおぞましい邪悪な神気を。あの子はEランクだって言われているけど。そんなわけないだろう、みーちゃん?」

心咲の隣、有栖が立っている左側ではなく右側にその声の主はいた。身長は140センチそこそこ。成人女性の平均と比べてもかなりの小柄だ。小学生といっても疑われないほどに。
派手な赤の着物を着ており、扇子を扇ぐ姿はとても様になっている。

「寧々。来ていたのか。臨時講師のお前は入学式の日に来ればよかったのに」
「まぁそんなことはどうでもいいんだよ。で、あの子は何であそこまで神気が膨れ上がってる?さっきまでの彼は神気を毛ほどにしか感じなかった。枷が外れたと言ったが、どういうことだ?」

扇子を扇ぐ着物の女性——東雲寧々が心咲を見て尋ねる。しかし彼女の疑問に答えたのは心咲ではなく。彼の巫女(予定)の有栖だった。

「簡単なことですよ。え〜と」
「寧々でいいよ」
「寧々先生。本当に簡単なことなんです。彼は、8年前のある事件で彼の実家、蒼海家を追放された時から、自分の闘争心と己の神気の90%を封印した。だから彼のEランクは90%の力を封印された状態での力であり、実際の力はAランクの半神を易々と越える。今から始まるのは不利な勝負ではなく……圧倒的強者が行う、蹂躙です」
「それは楽しみだね〜じゃあ思う存分目に焼き付けよう」

寧々がそう言い、有栖に向けていた目線をリングに立つ志龍バケモノに向けると、笑みを浮かべた。



「《黒龍纏身》」

彼が、この試合で初めての神技を発動させた。彼は昨年の高校一年生の時に、神技は発動しなかった。故に玲奈達は、彼の神技を全く知らない。ただおそろしく嫌な予感がする。彼女達は身構え、いつか来る攻撃に備えていると。
ドサリ、と己の仲間の一人が地面に倒れる音がした。東側に立っていた、彼女の巫女である。虚形態での致命傷を負ったときに起こる、意識のブラックアウトが起き、気絶する。

「同じ空に二頭の龍は翔べない。なら……てめぇが堕ちろ、青龍!!」

何が起こった?何故、彼女が倒れている?それは志龍が《夜刀御月》で致命傷を負わせたからだ。しかし、全く見えなかった。
故に彼女らは、己に攻撃をさせないように、己の使い魔——式神を召喚し、その間にもう一度攻撃用の術を発動させる。
三人の巫女達は、アイコンタクトだけで作戦を確認しあうと、数枚の札を取りだし、巫力を込めると、式神である、狛犬を召喚する。その数20体。これだけの数が一斉に襲いかかれば、幾らなんでも避けられるはずがない。巫女達は、狛犬に命令を送り、八方から襲いかかる。が、それを志龍は。

「失せろ、駄犬共」

そう言い、自分を中心として全方位に紫色の神気の波動を放つ。それは狛犬たちを通過すると、彼等をビリビリに破れた紙片へと姿を変えさせた。
これは、対式神広範囲攻撃神技《蛇竜の威嚇ドラクルシャウト》である。
人であるならば、多少多かろうと志龍にとってはものの数ではないが、式神には心臓部分であるコアを破壊されない限り痛みを感じることなく、ほぼ無限に攻撃を続けられ、剣術では捌ききれない時が少なからず出てくる。そのため、確実に核を破壊するこの《蛇竜の威嚇》は大変使い勝手が良い。
巫力を練っていた巫女達は、発動させる術を変更。巫力を、武装へと変え北側にいた巫女がマグナムを作り出し、志龍の眉間に向かって発砲する。
それを見た志龍は躊躇することなく突撃すると、銃弾が眉間に撃ち抜かれる凡そ、0.5秒前に自身の目の前に闇の穴を生成。その中に突っ込むと、マグナムを発砲していた巫女の後ろへ回り込み、背後から袈裟懸けをし、巫女の意識を刈り取った。

「2匹目」

すると、志龍は《夜刀御月》に神気を集中させ、刀の刃渡りを15メートル大きくすると、目にも止まらぬ速さで、南側の巫女を一刀の元に切り捨てると、その刀身は暗黒色の蛇となって、Uターンするとそのまま、西側の巫女を飲み込み、意識を喰らい尽くす。

「《黒刀・大蛇》3、4匹目」

この間僅か、20秒。20秒で学園最強クラスの半神の巫女を、彼は沈めて見せた。


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