複雑・ファジー小説

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転生者は邪神召喚士
日時: 2016/04/19 22:35
名前: 黒陽 (ID: wpgXKApi)

題名の通りです。
更新は不定期、チマチマ頑張ります。
掛け持ちをしているので、更新が物凄い空くことがあります。

それらの条件がOK!という方はどうぞ

Re: 転生者は邪神召喚士 ( No.6 )
日時: 2016/04/30 18:13
名前: 黒陽 (ID: wpgXKApi)

呼び出すのは、自身が宿す12体の獣神の一体。
万象を焼き尽くす地獄の猟犬ーー

「召喚、煉獄の三頭狼《ケルベロス》」

シリュウの背後から、漆黒の魔法陣が展開される。そこから出てきたのは黒い炎。それは大気を焦がし、そこから強烈な熱風が吹き荒れる。
黒い炎はやがて体長10メートルを超える三つの頭を持つ巨大な狼へと姿を変える。

『グルァアアァァァァ!!!!!』

煉獄の三頭狼は天に向かって吼える。それは大気を揺るがし、木々が揺れる。

「おお、これは中々強そうじゃないか」
「うむ。圧倒的な存在感と殺気。見事なものだな」
「そこの、人形は……ダイヤモンド並の強度まで、俺の錬金術で硬化……してある。奴を消せれば……大抵の奴を殺せる」

シリュウとエイリスが煉獄の三頭狼を見て感嘆の息を漏らしていると、ヴァーンが自身の産み出した土人形ーーダイヤモンド並の強度まで硬化してあるがーーを説明する。

「煉獄の三頭狼を含み、召喚した全ての神は、シリュウ様の命令に忠実です。さぁ命令を下してあげて下さい」
「じゃあ、眼前敵を灰にしろ、煉獄の三頭狼」

煉獄の三頭狼は、もう一度吼えると、三つの顎門に魔力を集中させ、漆黒の炎の球を作り出すと土人形に向かって発射する。漆黒の炎球は凄まじい熱風を放ち、シリュウのローブを大きく棚引かせる。
そして、着弾。漆黒の炎球が爆発し、闘技場の九割を包み込む。

シリュウは、自身とその後ろにいるフェリスを、土人形の後ろにいるエイリスとヴァーンを五芒星が描かれた黄金色の障壁ーー旧き印《エルダーサイン》の障壁を展開し、爆炎から体を守る。
残ったのは、焦土へ姿を変えた闘技場とそこに立つ四人のみ。土人形の姿は見受けられない。

「中々の威力だな。これが詠唱なしで召喚された獣神の力か……。しかもこれが俺の中に宿ってるんだもんなぁ……おお怖」
「攻撃面では素晴らしい力を持ってはいるが……防御面ではどうなんだ?」
「それは、私にお任せくださいませ」

美しい女の声がした。その声がしたからコツン、コツンと歩く音が、この円形闘技場の中から聞こえてくる。無意識に皆の意識がそちらに向き、煉獄の三頭狼はそちらの方に顎門を向け、いつでも攻撃が出来るように身構えている。

そこには、黒いドレスを着た、女性がいた。ドレスは胸元と、右の脚が大きく露出しておりその豊満な胸とスラッとした美脚をアピールしている。
髪は、フェリスと似た銀髪で、瞳は血のような紅色。その瞳は底知れぬ魅力があり、ずっと見ていては何かに虜にされそうだ。
近づいてきて分かったが、その肌は白く、初雪にようなというよりは、どこか死人に似た白さを感じさせる。
小悪魔めいたその笑っている口からは、異様に発達した犬歯が覗いていた。

「お前は……吸血鬼《ヴァンパイア》かな」
「ええ、シリュウ様。私の名は、ミラ・B(ブラッド)・バートリーと申しますの。よろしくお願いしますわね」
「おう、よろしくミラ。で、何で俺の名を知っている?」
「先に私の眷属に様子を見ていてもらいましたの。と言っても、貴方様の、その獣神によって殺されてしまいましたのだけれど。
それで、あの狼さんと私は戦ってよろしいのかしら?」
「ああ。じゃあお願いしようかな」
「了解いたしましたわ」

黒いドレスを着た女性ーーミラはとても嬉しそうに口角を歪ませる。

「じゃあ、眼前の敵を殺せ。煉獄の三頭狼」
「フフフ……。血を見せなさい?冥府の番犬さん」

双方は走りだし、闘技場の中央で交錯した。




Re: 転生者は邪神召喚士 ( No.7 )
日時: 2016/05/01 13:34
名前: 黒陽 (ID: wpgXKApi)

煉獄の三頭狼とミラが、交錯する。
煉獄の三頭狼の歩幅は約8メートル。それに対しミラの歩幅はそれこそ、一般的な人間の大きさとかわりはしない。それでありながら、闘技場のほぼ端から、中央までたどり着く速度がほぼ同じなのは、それだけミラの足の回転速度が常識から逸脱しているからなのだろう。
先程の火炎球と同じ、漆黒の業火を己の鉤爪に纏わせ、降り下ろす。
が、降り下ろした先には既にミラはおらず、煉獄の三頭狼の後ろに立っていた。
フフ……と彼女は笑い、その瞬間。
煉獄の三頭狼は横腹を斬られた。

『ガァ……!?』

困惑の、表情を煉獄の三頭狼は浮かべるが、それでも神の一柱。顎門に魔力を集中させ、この円形闘技場を焦土へ変えた、漆黒の炎球をミラに向かって放出する。それをミラは、避けることもせず諸に食らった。

「やったのか……?」
「いえ、やられてなどいませんよ。あの女はそう簡単にくたばるようなタマじゃありませんから」

シリュウの呟きに答えるフェリスの言葉とほぼ同時に、漆黒の炎は消え失せ、そこから出てきたのは。

7本の浮遊する夜空色の剣に守られたミラの姿だった。夜空色の剣にはまるで、血管のように、脈打つ赤色の線が入っている。

「あれが、ミラ・B・バートリーの主武装……殺神姫の罪剣です」

ミラの周囲を囲み、漆黒の炎球から守った殺神姫の罪剣は、2本がミラの両手に収まり、残りの5本はミラの背後を守るようにして展開される。
そして、煉獄の三頭狼に向かって、突撃を敢行する。

「シィィイイィアァァァアアッッ!!!!!」

先程の美声からは考えられない程、おぞましい金切り声をあげながら、煉獄の三頭狼の脇腹をざっくりと深く切り裂く。

『グォォオオオォォオォ!!!!!』

どす黒い血を撒き散らしながらも、煉獄の三頭狼はすぐにミラの姿を捉え振り向くと、ゼロ距離から雄叫びをあげた。

音とは空気の振動によって聞こえるものだ。それを煉獄の三頭狼の雄叫びは音を衝撃波へ変換し、ミラの身体を吹き飛ばしたのだ。

ミラの身体が、闘技場の壁に叩きつけられる。
しかし、吹き飛ばされている間に手に握っていた2本の殺神姫の罪剣を離し、4本の殺神姫の罪剣で衝撃から身を守る。

土煙が晴れ、そこからミラが這い出てきたとき煉獄の三頭狼は気付く。背中にある殺神姫の罪剣が7本ではなく4本しかないことに。
煉獄の三頭狼は、周囲を6つの瞳で見回す。
しかしそんなことをするまでもなかったのだ。
パチンとミラが、指を鳴らす。そのときだった。胸元ーー人間ならばそこには心臓があるであろう部分に殺神姫の罪剣の3本が刺さっていたのだ。
そして、それが紫色に発光すると切っ先から放たれた光線が、煉獄の三頭狼の身体の中を焼き尽くした。
しかし、それでも最後の足掻きと、漆黒の炎球を作り出し発射した。しかし、それをミラは右腕で弾いた。
それっきりだった。煉獄の三頭狼は地に倒れ、ミラは殺神姫の罪剣をしまい、シリュウの方へ歩き出す。
それとは反対にシリュウは、煉獄の三頭狼に歩み寄っていく。

「お疲れ、煉獄の三頭狼。最初に呼び出してこんな思いさせてゴメンな。ゆっくり休んでくれ」

クゥゥンと、煉獄の三頭狼は主の命令に忠実に従えなかった事を詫びるように悲しげに鳴くとその姿が揺らぎ、そして消えた。

Re: 転生者は邪神召喚士 ( No.8 )
日時: 2016/05/03 13:49
名前: 黒陽 (ID: 2Qew4i4z)

先程の戦闘で分かったことがある。
まずは、煉獄の三頭狼がここまでの戦闘ができた事を考えると、守護者たちとシリュウに宿っている獣神の力は守護者たちが数段上だということ。ミラが手を抜いていることは先程の戦闘を見ると楽しんでいるように見えた。しかし、それでも闘技場を焦土に変えたほどの力だ。この世界でもそこそこ通用するだろう。
ただし、シリュウの獣神は、支援系統の力を持っているものもいるためまぁそこはこれから検証していくとするとして。
そして獣神の力でここまでなのだから、詠唱ありで召喚されるクトゥルフ神話の邪神達は、一体どれ程の力を持っているのか。それが不明である以上、今のところは味方である守護者たちに使うわけにはいかない。使うならば敵対するであろう組織、及び国に対してだ。どうせ、死んでも構わない奴等に使った方が良いだろう。

「なんて、発想がポンポン出てくる辺り心も人間やめているなぁ……」

なんて自虐的に呟くと再び思考の海へ身を沈める。
次に、ミラの《殺神姫の罪剣》、フェリスの2振りの日本刀、ヴァーンの狙撃銃、エイリスの杖。そこからシリュウの《法の書》と同じような気配がした。
おそらく、というよりは、確実にシリュウと守護者の力は拮抗しており、武装も同等だ。シリュウの方が神を召喚して戦う分、多彩ではあるが。
何でもフェリスから聞いた話では、《法の書》や《殺神姫の罪剣》は神顕武装【アーティファクト】と呼ばれる一級品らしい。その力はまさに字の通り。
以上のことから、自分達はこの世界の民間人よりも弱いということはほとんどないだろうが、それでも今は情報が少ない。石橋を叩きすぎるぐらいでちょうど良いだろう。
あと、一番注意すべき点は、シリュウと同じような存在。転生者がこの世界に1人。いや複数いる可能性。
完全にないとは言えない。あのニャルラトホテプがやったことはおそらく、神が俺をうっかりで殺してしまったことよりも重大な罪とはず。ならばその罪を裁く神罰の執行者がやって来る可能性もあるわけだ。
こんな、異世界ファンタジーだ。どんなにあり得ないことでも、あり得てしまう。そのあり得ないと考えたことで命取りになることもあるのだから。

「とりあえずは、守護者が全員集合してからだな」

シリュウは、離れた場所にいるフェリスたちに近づいていく。

「シリュウ様、考え事は終わりましたか?」
「ああ。ちょっとやることが多すぎて頭が痛くなってきたんだけど……まぁしゃーなし。頑張るかぁ」
「心配ありませんわ、シリュウ様。有事の時には遠慮なく私を使ってください」
「私、達でしょう。クソアンデッド」

え、とシリュウが固まる。いや、待て落ち着け。
フェリスだぞ?あの女神のような微笑を浮かべていた、あのフェリスだ。あのフェリスがクソ?クソと言ったのか?

「あら、少し言い間違えただけでしょう?胸と同じで心も貧相なのねぇ。駄犬」
「フン。そんなでかいだけの温もりも感じさせなければただの重りでしょう?これだから殺神姫の罪剣は浮遊しているんでしょう?貴方遅いものねぇ。そんな馬鹿みたいに重りつけてるから」

いや、馬鹿みたいに速かっただろいい加減にしろ。
にしても、なんだこの変わり様は?明らかにおかしい。
もしかして……地雷を踏み抜いたか?

シリュウが想像している通り、フェリスは自身が一番気にしていること。自身の胸の小ささをディスられたのだから。それ以前にこの二人は仲が悪い。
ならば、こうなるのは当然のことだろう。
しかし、シリュウは、そんなことを知るよしもない。二人に挟まれたままあたふたしていると。

「お二人ともお止めなさい。主が困っていらっしゃいます」

凛とした、少年の声が聞こえた。その声の先にいたのは、今まで来た中では最年少であろう贔屓目に見ても中学三年生位の少年だった。
しかし、彼は人間ではなかった。
背中からは純白の一対の翼が生え、頭の上にはよくアニメ等で見る天使の輪が浮かんでいる。その姿形から彼が天使であることは容易に想像できるだろう。
服装は、古代ローマ人のような服装で、髪は薄いブロンド。目は翠色で、その目には慈悲深げな、まるで聖母のような光を讃えている。
背中にはその身体に相応しくないであろう大きな弓が背負われており、腰には矢を入れる筒が2つ取り付けてある。

「無益な争いはこの私、ラファール・セラフィードが許しはしません。さぁ殺気をおさめなさい。主が困っていらっしゃいます」

いつの間にか、シリュウから離れ互いの武装を抜いていたミラと、フェリスは目の前の天使ーーラファールの言葉に渋々従うと、《殺神姫の罪剣》とフェリスの2振りの日本刀ーー《神狼の双大牙【フェンリルファング】》を納める。

「すまん。助かった……」
「いえいえ、感謝をされるような事はしておりません。主よ。私も無利益な争い事は嫌いですので」

シリュウの静かな心の叫びに対して、ラファールが一礼する。その動作は精錬されており、敬う気持ちがいやと言うほど伝わってくる。

その様なこともあり、シリュウが疲弊していると。

「何じゃあ、この様は。中々派手にやりおったのぉ!!転生者さんや」
「相変わらず、声の大きい老いぼれだね。ちょっと黙ってなよ」

二人の、男女がやって来た。
男性の方の身長は小柄で、ラファールよりも身長は小さい。しかし、彼の肉体は限界まで鍛え上げられており、貧弱さはまるで感じさせない。
額にある無数のシワが、彼の年齢を感じさせる。
その、屈強な肉体は黒色の甲冑に包まれていた。
女性の方は、おそらくここにいる誰よりも身長が高い。おそらく180センチ中盤ほどはあるだろう。
その肢体は全体的に豊満で、肥満と言うよりはむっちりしていると言う意味で肉つきがいい。
その溢れんばかりの胸を隠すものはサラシのみであり、下半身は男物の水着を踵のあたりまで伸ばした独特のズボンをはいている。
それよりも、シリュウの目を引いたのは額と前髪の生え際あたりから伸びる一本の角だった。
その角は、黄色で、シリュウにはそれが鬼のように感じられた。

「ようやく来ましたか。遅いですよ。ベルク、椿」
「つれねぇ事言うなよ。フェリスの嬢ちゃん。老いぼれにゃあ多少辛いのさ。おっと名乗るのが遅れちまったな。ワシぁベルク・ロックグラード。ドワーフでここで鍛冶師をしておる。よろしくのぉ。転生者さんや」
「アタシは、椿・ヘルブラント。こんななりしてるけど、鬼神でねぇ。武器は使えないけど殴る、蹴るは専売特許さ」
「ご丁寧にどうも。俺はシリュウだ。まぁなんとでも好きに呼んでくれ。
となると、フェリス、ミラ、エイリス、ヴァーン、ラファール、ベルクと椿……あと1人か」
「もうすぐ来ますわよ」

そう、ミラが言ったときだった。闘技場の入り口から走ってくる、茶髪の少女がいた。その子はまっすぐこちらに走ってくる。

「むぎゅ!!」

途中で派手にスッ転んだ。

Re: 転生者は邪神召喚士 ( No.9 )
日時: 2016/05/04 23:03
名前: 黒陽 (ID: wpgXKApi)

「むぎゅ……?」

シリュウは、呆然とし、転けた少女の方を見る。
見た感じの年齢は、高校1、2年生。ラファールの次に、見た目の年齢は小さい。
茶髪に黒目ということで、シリュウは、久しぶりの前世で見た髪、目の色に懐かしさを感じる。
服装は、左半分が黒、右半分が白色の膝丈まであるエプロンドレスで黒のニーハイソックスを履いている。
しかし、彼女が背負っているのは、彼女の身長の二倍ほどはあるであろう古めかしい布が巻かれた棍のようなものを持っている。

「すっすみませぇん!!」

凄まじい勢いで立ち上がり、シリュウの方を見ると、謝罪会見に出てくる芸能人顔負けの美しい礼を見せる少女。
バッと頭をあげた少女の顔を見たシリュウは、

「こは……!?」

などと、ここにいる誰にもわからない呟きを漏らした。その言葉は誰にも理解はできなかったが、その言葉に込められた渇望は理解できた。

「シリュウ様……?どうかされましたか」
「いや、何でもない……忘れてくれ」

心配そうに尋ねてくれるフェリスにシリュウは何でもないと笑って、転けた少女の方へ歩み寄っていく。
どんどん、一歩ずつ歩み寄ってくるシリュウに対して、少女はどんどん怯えた表情になっていくが、それに対してシリュウは内心泣きそうになりながらも、

「君が、最後の階層守護者かな?」
「はっはい!そうでしゅ……!?」

シリュウが笑顔で声をかけるとその怯えた表情は変わらず、早口で喋っていると舌を噛んだのか痛そうな表情になると、そのまま激しい羞恥心で顔を赤く染める。

「だ、大丈夫だから。ゆっくり、落ち着いて」
「は、はい。ボクは、タナトス・ヴィルヘルムです。よろしくお願いします……」

まだ、舌を噛んでしまった羞恥心が残っているのか赤い顔で自分の名前を告げる少女ーータナトス。
そんな、彼女をよそにフェリスは立ち上がると、

「では、改めまして」

階層守護者が、一列に並ぶ。そして、

「第一、第二階層守護者。ミラ・B・バートリー。我等が王の前に」

膝をつき、頭を垂れた。それはさながら皇帝を前にした臣下のように、または神を前にした信徒のように。
果て無き畏れをもって、そして同時に果て無き歓喜をもって彼女は跪いた。

「第三階層守護者……タナトス・ヴィルヘルム。わ、我等が王の前に……っ」
「第四階層守護者。ラファール・セラフィード。我等が王の前に」
「第五階層守護者。エイリス・フォン・アルーヴ。我等が王の前に」
「同じく第五階層守護者。ヴァーン・フォン・アルーヴ。……我等が王の前に」
「第六階層守護者。ベルク・ロックグラード。我等が王の前に」
「第七階層守護者。椿・ヘルブラント。我等が王の前に」
「そして……第八、九階層守護者兼、守護者統括。フェリス・ヴィニトル。我等が王の前に。」

やはり、全員が跪く。その跪いた、姿は一直線に並んでおりその景色は壮観の一言につきる。
そんな、景色に息を呑んでいると。

「全階層守護者、我等が王の前に平伏し奉る。我等が絶望の象徴、至高なる我等が神よ。ご命令を。我等の忠誠を全て捧げます」

ハハッ、とシリュウは思わず乾いた笑い声を漏らした。
ーー奴ら……奴らが俺に忠誠を誓っている?
シリュウは己の双眸が疼くのを感じる。そして、今までに見えていなかったものが、視えた。
立ち上る黒い波動のようなもの。そこから感じる絶対的なチカラ。
まさにそれは、神と同等の。
否。それ以上のチカラ。奴らがいれば世界を完全にハカイする事すら容易いだろうと。

ーーしかし傲るな。常に謙虚たれ。

自身の人間としての、力に傲る存在ではなく完全にバケモノになってしまった心が人間の心に語りかけてくる。
その、瞬間。他人よりも多少優れているだけで、調子に乗る心が鎮まった。
自分達と同等のチカラを持つ存在が常世の何処におらぬと確認した?その確証は?
全くない。ならば、常に静かに。暗躍する。いずれ来るその日、歓喜に満ちた戦乱の日まで。
石橋を叩きすぎるぐらいで丁度良い。そう、さっきも結論付けたではないか。

「面を上げよ」

バッ、という効果音が相応しいほど統率された動きで顔をあげる。
ごほんとシリュウは一回咳払いをすると。

「まずは、集まってくれたことを感謝する。ありがとう。
さて、皆も知っている通り、俺達には今、情報が決定的に足りない。俺に至ってはこの己の城の構造まで知らない有り様だ。まずは、原初の城の外に出て地図を作ろう。この中で一番隠密行動に長けたものは?」
「た、多分ボクです」
「じゃあ、タナトス。お前は外に出て地図の作成。時間帯は夜だけ。昼はしなくてでいい。人間には見つかるな。原初の城からモンスターを連れていって時間が少ない分、少しでも効率よくこなすんだ。そして、原初の城から出た先の環境を真っ先に俺に報告しろ。良いな?」
「了解しました」

そういうと即座に命令を実行に移した。入ってきたときの動きが嘘のような軽やかな、まるで忍のような動きで。

「んじゃあまぁここからはタナトスの連絡が入ったら動くんだけど……エイリス、ヴァーン。ここで、生産される食料は完全に自給自足出来るんだよな?」
「ああ。問題はない。家畜を育てるための牧草から何から何まで育てている。原初の城にいるだけの数なら余裕で賄える」
「だが、これ以上生産スピードを上げるとなると、森のドライアドの協力が必要になる。今後……更に原初の城に住まわすとなると人数にもよりけりだが、かなりの火の車になるぞ」
「となると、何かしらの理由で森を追い出された森の精をなんとかスカウトして生産速度を上げるのが目標か……」

ふむ、と考え込むシリュウ。原初の城の中にも結構な人数が住んでおり、ほとんどが戦闘も行えるらしいが、何かしらの理由で巨大な組織ーー国などと戦争になった場合は人数が心許ない。
そのためにも何とかして人材を増やして戦争も行えるようにしたいのだが。
それよりも問題は金銭面だ。

「フェリス。この原初の城のなかに外界の通貨はあるか?」
「全くないです。宝石類、魔法具なら山ほどあるのですが」

全くないという答えもまぁ想定していた。
フェリスを含め全階層守護者が外の事について全く知らないのだ。むしろあった方が驚いただろう。
宝石類、魔法具などを売るのは出来れば最終手段にしたい。
宝石類はまぁ外界の物とほとんど変わらないだろうが、魔法具は外界と仕掛けが全く異なっている可能性も否定はできないためだ。
それを、利用されて自分達と同等の力を持たせることは絶対に避けたい。

「じゃあ何としてでも外界の通貨を手に入れる必要があるわけか」
「シリュウ殿。私の弟は錬金術師だ。通貨……硬貨を一枚でも手に入れることが出来れば、この城の中にある金を使っての大量生産ができるはずだが……」
「じゃあ、それで通貨を量産するとして、自分達には圧倒的に情報が足りない。なにか情報も得ながら、名を売れるような職業につけたらいいんだが……そんな職業あるか?まぁそれも後回しでいいだろう。当面は情報収集とこの城の隠蔽、施設内の物資の生産速度の増加を目標にしていく。
今日のところは解散。皆、お疲れ」

そういうとシリュウは円形闘技場を出ていった。

Re: 転生者は邪神召喚士 ( No.10 )
日時: 2016/05/07 17:43
名前: 黒陽 (ID: Fi5I.X3D)

異世界に来てから、約十日が過ぎた。
原初の城の中を、一週間かけて見回り、その役割を大体理解したシリュウは現在、原初の城第十階層。
玉座の間の、玉座の裏側にある執務室のような場所で、階層守護者ーーといってもタナトスだけだがーーが集めてきた情報と、この原初の城の構造を表した見取り図とにらめっこしていた。

「第一、第二階層が深夜の霧の都、ロンドンっぽい。第三階層は墓場。第四階層が庭園?かな。広すぎだけど。第五階層が樹海、ここが多分一番広い。第六階層は鉱山地帯。第七階層が溶岩地帯。最早地獄。第八階層が雪原。月が綺麗。第九階層が召し使いたちの居住区。第十階層は玉座の間。豪華すぎて全然なれねぇ……広いなぁここ。
あっ、ごめんコーヒー持ってきて。ブラックで」

頭を抱えながらシリュウは自分の横にいたメイドにコーヒーを頼む。最初は慣れなかったけど、慣れたら便利。
そして、シリュウはタナトスとそのシモベ達が作ってくれた地図に目線を移す。

「半径十キロ圏内に一切人工物はなし。一面草原。この城はほとんど隠れているがわずかに城壁が露出しているため、エイリスに頼んで隠蔽作業中……あーここに来てもデスクワークは嫌いだ。性にあわねぇよ……ニートだったけど」

ここに来てからそこまで考えていなかった前世のことについて多少考えてみる。
死体はどうなったのかとか、秘蔵の無数のギャルゲーの数々が全て、全国のお茶の間に届けられるのかと思うと、ずーんとテンションが低くなったけど、すぐに平常心に戻る。
何故かはいまいち分からないが、この体になってから感情の起伏が小さくなった気がする。正確に言えば、一定の値を越えたらすーっと感情が平坦になるというか。自身の昔の黒歴史を思い出すように「ああ。こんなこともあったなぁ」というような感じになるのだ。
あとは、睡眠欲、食欲などがほとんどなくなった事だ。目の前にご馳走が並べられたら、旨そうとは思うがそこまで積極的に食べようとは思わないし、さっきメイドに頼んだコーヒーも、喉が乾いたからと言うよりは、気分転換に近い。
そんな、自分の身体の変化について、いろいろ考えていると、コンコンと執務室の扉がノックされる。
シリュウは入室を許可すると、そこには和服銀髪美人ーー己の八人の忠臣であるフェリスが入ってきた。手には盆があり、そこにはティーカップに注がれたブラックコーヒーが湯気をたてている。

「どうぞ、シリュウ様」
「ああ、ありがとうフェリス」

コーヒーを受け取り、少しずつ飲むシリュウを脇目に、フェリスは机に置かれている、この施設内の見取り図と、タナトスが作った地図を見つける。
それは、乱雑に置かれており、今までシリュウがこれらの資料とにらめっこしていたことが手に取るように分かった。

「頑張っていらっしゃるのですね」
「ん、ああ。まぁな。何故かは分からんが、俺がここの最高責任者らしいからな。十日もいてなにも動かなかったら、さすがに駄目だろうさ。それに、周囲の地理の把握と、自分の拠点の隠蔽作業は当然だろ?
まぁ、こんなこと初めてだから、いろいろ抜けているだろうけど」
「それを、フォローするために我々がいるのです。そこまで気負うことはないでしょう。
そんな、頑張ってくださっているシリュウ様へ私からの贈り物です」

そう言って、フェリスが最初、シリュウが《法の書》を探したように、両腕を空中で動かすと途中で腕が消え暫くして現れたのは、縦約二メートル、横約一メートルの巨大な鏡だった。
ただし、その鏡が映しているのは、この執務室などではなく、空から撮っているような映像となっている草原だった。
その草は風で靡き、それが制止画像でないことを証明している。

「これは?」
「千里眼の鏡という下位魔法具の一つです。下位というだけあって、第四位以上の魔法で看破されるような、役に立たない魔法具ですが、草原のひとつひとつに魔法をかけることは、国としてはありえないでしょうから。どうぞ使ってみては?」

なるほど、とシリュウは頷くと鏡の方へ視線を移す。
まずは、スマートフォンをスクロールするように、右の方へ腕全体を動かすと、千里眼の鏡の映像、風景も視点が左側にずれた。

「あれ、割と簡単に動いた」
「動かし方事態は、そこまで珍しい物ではございませんからね」

シリュウは、やっとのことからデスクワークから解放されて、まるで新しい玩具を買って貰った子供のような、純粋な笑みを浮かべ千里眼の鏡に向かい合い、どんどん左側へスクロールしていくと。

「なんだこれ?村……かな」

千里眼の鏡に、ポツンと、広大な草原の中にある小さめの農村を見つけた。
その村の住人であろう、人々の動きは走り回ったり、家に入ったり出たりと慌ただしい。

「祭りでもやってんのかな?」
「いえ、これは祭りではないかと。これを」

千里眼の鏡を、スマートフォンに表示された画像を拡大するような動作で指を動かすと、映像が拡大され、そこに映っていたのは。
オーソドックスな、鎧を着ているいかにも騎士というような格好をした人間たちだった。
その手には片手サイズの西洋剣が握られており、それにはどす黒く変色してしまった血液が、ベッタリとこべりついていた。
その周辺の畑には、騎士たちが乗ってきたのであろう馬達が育てられた小麦を食べている。
誰が見てもわかるだろう。これは虐殺だ。騎士が剣を振るう度に村人は倒れ、村人は対抗手段がないのか必死に逃げ惑うだけ。
その光景にシリュウは苛立ちを覚え、それが表情に出ていたのだろう。フェリスに声をかけられる。

「どうされますか?」

その言葉にシリュウは思考に浸る。
シリュウ個人としては助けたいと思う。シリュウは正義の味方ではないが、それでも見捨てたくないという気持ちが、人間、篠崎竜太としての人格が言っている。
しかし、現在はこの原初の城の最高責任者。己の感情だけで行動し、組織に不利益をもたらすなどあってはならない。
それに騎士たちが一方的に村人を殺しているがそこには理由があるかもしれない。犯罪、見せしめ、病気。十日前まで一般市民だったシリュウでさえこれほどの理由が思い付くのだ。その他にも多くの理由があるのだろう。
これで横からこの騎士たちを撃退した場合、騎士たちの背後にある国を敵に回す恐れがある。
まだ、情報が少なすぎるのだ。現段階でもっと多くの情報を得ていれば助ける価値あっただろう。
だが、今の状態では助けても得れる利益が少なすぎる。

「見捨てよう。得れる利益が少なすぎる」

そう、シリュウが言ったとき。シリュウの心の中である声がしたのだ。

ーー偽善だって思われてもいい。それでも私は助けられる人は全員助けるーー

それは、かつての自分を救ってくれた恩人の言葉。どんなに苦しくても、自分を助けてくれた恩人の言葉だ。

「そうだな……こは」

そう小さく呟くと、フェリスに向かって。

「前言撤回だ。あの村人たちを助けにいく。フェリス、椿に村の座標を教えろ。俺は先に向かう」

シリュウはフェリスの返事を待たずに、あの守護者を召集した翌日にフェリスがくれた転移用のネックレスに魔力を込め、地上に出ると、己に宿る獣神を呼んだ。十番目の獣神。海さえも凍てつかせる怪鳥をーー

「召喚、八寒獄の白鷲《フレースヴェルグ》」

そこに、絶対零度と同等の温度を持つ風が集い、それは次第に体長五メートルほどの大鷲の姿へ変える。
その羽毛は純白で、冷気を放っており、そこにいるだけで空間の温度を大幅に低下させる。
これが、シリュウが宿す十番目の獣神、八寒獄の白鷲の姿である。

「疾く翔べ。八寒獄の白鷲」

返事をするように、八寒獄の白鷲は一鳴きすると、シリュウを乗せ、西の方角へ飛翔した。


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