複雑・ファジー小説
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- 暗黒のリベリオー
- 日時: 2016/12/20 22:54
- 名前: 零二 (ID: G/182c4y)
一つひとつの章がとてつもなく短いですが、どうかご了承を。
・登場人物(随時追加)
丹慈エイリン(あかしえいりん)
街で一番大きな屋敷の当主の娘。幸貞とは幼馴染。
嗣智之幸貞(つぐのりのゆきさだ)
エイリンの側付き兼幼馴染。
湊(みなと)
エイリンを黒霊から助けた除霊師(サルバドル)。
白零(はくれい)兄
黒零(こくれい)妹
除霊師の双子。湊と同じサルバドル。
秋冥(しゅうめい)
黒霊を生み出している本人。インバシオン。
西園寺シエラ(さいおんじしえら)
秋冥のご近所さん。
晩御飯の調達が日課。
- Re: 暗黒のリベリオー ( No.6 )
- 日時: 2016/11/29 18:10
- 名前: 零二 (ID: G/182c4y)
【残像】
どうしてあそこまで激怒したのかわからない。
自室のベッドに横になりながらあの一瞬の出来事を振り返ってみるが、いまいちわからない。
確かにいつも助けてもらわないといけないわけじゃないし最近あまりにもひっついてくることにイラっとすることはあったけど、ここまで怒るようなことは一度もなかった。けれども、湊のことを酷くいうような予感がした瞬間にはすでに勝手に口走っていたのだ。
彼とはなんの関係もないしあの瞬間に偶然に会っただけのに。
またふとあの記憶が蘇る。
夜空をかける二つの光。
そして、湊が操っていた龍はあの時と同じ光の色だった。
記憶がだんだんと鮮やかに彩られていく。
次の瞬間、不思議な現象が起きた。
キーンと鋭い痛みが頭を襲う。
「くっ…なにこれ…?!」
そして、今までに見た事のない景色が頭の中をぐるぐると駆け巡る。
雄叫びをあげながら剣を振り下ろす戦士、血まみれになって地面に倒れている騎士、相手に氷の雨を浴びせる魔導師、などとおとぎ話に出てきそうな一面ばかりだ。
どれも生まれた中で実際に見た事などないのに、なぜか鮮明に蘇る。
頭痛が酷くなり、グロテスクな戦場の景色が次々と頭の中を流れていく。
「やめ、て…これ以上は!いや……嫌あああああ!!」
私が悲鳴を上げた瞬間、胸元の水晶から光が放たれた。そして、少し暖かい光の粒子が体全体を覆った。
そして、どこからか声が聞こえた。
「大丈夫、もう何も君を襲ったりしない」
これは…
気付けば、あの残酷な景色は頭の中から消え、頬に一粒の涙が伝っていた。
「湊…」
どうしたらいいのか心の整理がつかない今は、彼の事を思い出す事しかできなかった。
- Re: 暗黒のリベリオー ( No.7 )
- 日時: 2016/12/02 07:48
- 名前: 零二 (ID: MYmyvGlS)
【支配】
「そうか。やはり見せられてしまったか」
俺は手元の水晶に映るエイリンの姿を見ていた。
彼女に渡した首飾りなるものは、監視道具とも言えるものだ。俺の水晶と彼女の水晶はもともと一つのもので、彼女に渡すためにわざわざ慣れもしない魔力をなんとか駆使して作った。
俺は水晶を胸元にしまい、隠れていた木の陰から顔を出した。エイリンの一件で朝っぱらからフル活動だ。おまけに、昨日だって散々仲間に振り回された。いくら一般人よりも体が丈夫であるにしても、さすがに疲れが…
そこまで高くない山の上にそびえ立つ一本の大木は、多くの鳥や動物囲んでいつもにぎやかい。自然と一緒に居られるこの空間が好きでたまらない俺は、暇さえあればどんな天気であろうとここに来る。
今日も仲間に遊ぶと強制的に約束させられた俺は、そろそろ集合場所に向かわなければならない。
木から軽く飛び降りると、右手に精霊を宿し、広い場所へと移動する。そして、助走をつけて10歩程度のところで、地面を蹴って空に体を投げ出した。ふわりと宙に浮いた体は、そのまま加速しながら少しだけ高度を上げる。
しばらくそのまま空を飛んで、待ち合わせ場所の小さな寺までやってきた。
「もう少し遅くてもいいんじゃないか…?こんな朝っぱらからじゃなくても…ブツブツ」
そう文句をつぶやくと、背後から声がした。
「俺もそう思うわ」
「二人ともー、なんか言ったー?」
げっ、聞こえてたのかよ…というか、いつの間に来てたのだ。
「よお、なんも言ってない。ごめん」
「本当にー?ま、いいや。おはよ、湊」
「おはよう、黒零、白零」
こいつらが昨日俺を振り回した張本人だ。
俺と同じサルバドルでもある。
「顔が死んでるな。疲れてるだろう?」
「ああ。散々だ」
「二人とも!朝からテンション低すぎー!」
「黒零、少し察してやれ。とても昨日の疲れだけとは思えんのだが」
「バレていたか。まあ、これは伝えなければいけない。実は今朝こんなことがあってな…」
俺は、今朝あったエイリンのことをざっくりと説明した。
「そんなことが…」
「思っていたよりも早かったな」
「ああ。少し予定が狂った」
二人して少し表情を曇らせると、黒零がすかさずつっこんできた。
「あーもう!その件はひとまず治ってるんでしょ?今日は遊ぶのー!」
「「はいはい」」
「んじゃ、レッツゴー!」
そう言うと一足先に空へと上がって行ってしまった。
俺たちは顔を見合わせて苦笑いとともにため息をつくと、黒零の後を追って
空へ上がった。
- Re: 暗黒のリベリオー ( No.8 )
- 日時: 2016/12/06 20:11
- 名前: 零二 (ID: G/182c4y)
「今日はただ遊ぶため呼んだんじゃないんだからね」
黒零が運ばれてきた紅茶をふーふーと冷ましながら話し始めた。俺たちは今、朝食をとるために喫茶へと立ち寄っている。
「大事な報告があるの」
「報告?」
「ええ」
「ここ3ヶ月の間に、これまでにないほどの量の黒霊が現れてるの。その中に…化身が混ざっていたの」
「はあ?!」「本気か?!」
「うん、本当のこと。あの時はなんとか抑えることができたけど。あのままだと、これから急激な繁殖が始まってもおかしくない。そんなことが起これば一大事よ!」
「どうしたものか。今朝の事といい化身の事といい…最近少しおかしく無いか?」
「これは少し予定が早まるかもしれんな。というより、早まっている」
「これ以上彼の計画を進めてさせてはいけないわ…湊、あなたの頑張りは知ってるわ。いつも惜しいところまで持って行くのにね。あと一踏ん張り、頑張ってほしいな」
「すまない。いつもペース配分を忘れるんだ」
「わかってる。だが、あそこまで追い詰められるだけの力を有するのはお前だけだ。頼りにしているぞ、湊」
「なるべく期待に応えられるだけの努力は続けて行く」
「頼んだわよ」「頼んだぞ」
「ああ」
俺は少しだけ今まで以上のプレッシャーを感じながら、サンドイッチを口に運んだ。
- Re: 暗黒のリベリオー ( No.9 )
- 日時: 2017/03/05 05:40
- 名前: 零二 (ID: HbV5gn68)
「ははは!おもしれえじゃねえかよおー!?」
エイリンと湊、ついに接触したか。ちょいと面倒くさそうだが、これも予定通り進んでいる証拠。
これからは、あのしつこいサルバドルの野郎に対抗するための黒霊を作り出さないといけないみてえだな…やっぱ面倒くせえ。
しかし、困ったもんだ…
ピンポーン。家のインターホンが鳴る。
はぁ、またきやがった…
ガチャッ
扉を開けると、そこには見慣れた女の姿があった。
「……シエラ…また来たのか」
「もちろん!秋くん大正解!」
そういうと、手元の鍋を俺にグッと押し付けてきた。
「今日はおでん!」
「もういいつってんだろ…」
「だーめ!私が何か持ってこないと、ろくに食べないんだから」
「人の食生活ぐらいほかっといてくんねえかな」
「いちいちうるさーい。ひとまず家ん中とつにゅー」
そのままシエラは、ずかずかと家の中に入っていった。
「美味しいでしょー?!これ自信作なの!」
この言葉、今までに何回聞いただろうか。
「ああ」
「えへへーよかった!」
あの後シエラは、勝手に皿を出し、勝手にコンロの火をつけ、勝手に道具を使ってさっさと支度を終わらせると、俺を強制的に席につかせた。
勘弁してくれ…シエラ、俺はお前に家の中に入る許可を出したことなど、一度もないはずだぞ。
いつもこうして心の中で苦情をつけながら、こいつの作ったものを口に運ぶ。ただ、一つ認めなければいけないことがある。
美味い。
こいつの料理は確かに美味い。俺が自分で作るよりもはるかに美味しい。
別に本気を出せばいつだってこいつを追い払うことはできるのだが、料理が美味い、この現実が俺の邪魔をして追い出すことができない。
「食べ終わったらさっさと出てってくれよ」
「また仕事なの?」
「ああ。これからもっと忙しくなるからな」
「えー、私の相手できなくなっちゃうのー?」
「いつも、お前の相手をしてるつもりはねえ!」
「ぶー。てか、仕事って何やってるの?」
「それは教えないと言ったはずだ」
「えー、もしかしてブラック企業の社長さんとかー?それともー、あんなk…モゴモゴ」
俺はいつものパターンだと察して、とっさにシエラの口を手で覆った。
「あのなあ、なんでそうなるんだ。もう少しまともな方で考えてくれやしないのか」
「だって、どこか悪そうな感じだけど、優しくそうな感じもするし…うーん、悪巧みとか上手そうだし!」
うっわ、こいつよく観察してんなー。悪巧みが上手いのは、一応正解とでも言っておこう。
「そんなことよりほら、いつも通り片付けを頼んだ。俺は部屋に戻るから、片付け全部済ませたら勝手に帰れ」
そういうと俺はシンクに皿を運び、部屋に戻った。
「はあ……」
俺は一つため息をつくと心の中で叫んだ。
あああ!!めんどくせえええええええ!!!!!
「これじゃまともに計画すら練れやしねえ」
多分まだ帰っていないので、大きい声は出せない。
黒霊の開発をするのに使う機械に手をかけた瞬間、扉の外から罵声とも呼べる声が響いてきた。
「帰るからねー!お仕事頑張ってー!また明日ー!!」
俺は扉を開けて、一言叫び返した。
「来んな」
すると、咄嗟に返事が帰ってくる。
「冗談のくせにー」
その声とともに、扉が閉まる音がした。
晩御飯だけ食って帰る女って……どんなんだよ…
俺は気を取り直して、作業に取り掛かることにした。
- Re: 暗黒のリベリオー ( No.10 )
- 日時: 2017/05/22 21:36
- 名前: 零二 (ID: G/182c4y)
【黒歴史】
カタカタ…カタカタ…
隣の水晶玉の中で黒い影が揺れている。
「ん、今日はやけに騒がしいな。なんだあ?」
声をかけてやると、影は声に応えるかのように再び揺れた。
「ふぅん、そうか。心配すんな、ちゃんと思い通りにしてやっからよ…」
俺がこうして扱っている影は、すべて過去の聖奪戦の死体からさらってきた魂だ。
恨み、妬み、欲望。
黒に満ちた心を晴らすことなく命を落とした彼らの魂は、俺にとって最高の餌でしかなかった。
しかし、この聖奪戦が行われたのは約数世紀前のこと。その時、俺は生きていた。零戦を実際に見た、経験した。そして俺は今も生きている。あれから幾度もサルバドルと戦ってきたが、一度も死ぬことなく、生き続けている。そう、つまり俺は不死身の悪魔なのだ。
魂から生み出された影、それに俺が力を与えてもう一度この世界に解き放つ。新たな力を得た霊、それが黒霊なのだ。
これが俺の今の仕事。もちろんマネージャーやエージェントは存在するが、今や上下関係なくほとんど俺の独断行動。
なんせ俺が一番霊の扱いに長けているからな。
黒霊に復讐の機会を与え、自分達の目的の達成にも近く。これほど都合のいいものはあるだろうか。
「でもまあ、少し厄介になったもんだなぁ」
予定通りとはいえ、エイリン自身が零戦の景色を目にしてしまったことが、相当問題なのだ。
これで、湊とエイリンは一段と関係が深くなる。となると、彼らの間に契約が結ばれてしまうかもしれない。これを何としてでも阻止しなければいけないのだ。
二人の間に契約が成立すれば、エイリンがあの時のように目覚めてしまう可能性がある。
エイリンはまだ気づいていない。彼女自身に力が宿っていること、その力の恐ろしさを。
しかし、湊と契約されてしまうことで、彼女は真の力に目覚める。正直なところ、この力にだけは対抗できる見込みがない。一応、策があるにはあるのだが、それを実行するには多すぎる犠牲を払うこととなる。流石に、それは今後のことを含め危険すぎる行為だ。
「先にエイリンを潰すか、サルバドルの野郎を足止めするか……難しいな」
普通なら、エイリンを先に潰した方が簡単で早いという結論に至るだろが、それがそうもいかないのだ。
エイリンを先に殺しサルバドルの怒りに触れてしまえば、今度は俺たちが滅ぼされかねない。なぜなら、サルバドルは聖奪戦に参加した戦士の中で数少ない生き残りの子孫なのだ。過去の彼らの力と戦い方はすざましかった。その血を今も引き継いでいるのなら、これもやはり俺たちにとって不利になる。
「よく考えると、俺たち大丈夫なのか…?勝てないんじゃないかこれ」
俺は苦笑いとともにため息をついた。
「やっぱりノープランはきつかったかぁ」
そう、俺は正直今までノープランだったのだ。ああじゃないこうじゃないと黒霊の研究を続けるうちに、いつのまにかこんな危険なところまで来てしまった。
だが、一つだけ嬉しいことがある。
今まで放ってきた黒霊が集まって、化身を生み出すようになったのだ。
「こいつらが暴れてくれるようになれば…」
化身は、我々では到底扱いきれるような化け物じゃない。だが、こいつらが俺たちの元についてくれれば、それほど好都合なことはない。
エイリンにだって、十分対抗できる戦力だ。
そのために今は、少しでも多くの黒霊を解放しなければならない。
「ほら…お前だって、暴れたいだろ?」
俺は水晶の中で漂う黒い影に問う。
水晶玉の中の黒い影は、問いに答えるようにカタカタと揺れた。
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