複雑・ファジー小説

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アシンメトリー
日時: 2016/12/08 19:45
名前: 亜咲 りん ◆1zvsspphqY (ID: wJnEuCOp)

 


 これは彼女が、魔女になる前のおはなし。






【沈み込んでシンメトリー】 >>01-03


*アシンメトリー…左右非対称。
 

Re: アシンメトリー ( No.2 )
日時: 2016/12/07 18:17
名前: 亜咲 りん ◆1zvsspphqY (ID: NlHa02Hm)

 近くの公園のベンチに座り、鞄から水筒を取り出す。家を出るときは温かかったはずのお茶は、今は愛のない私のこころのように冷たくなっている。温かかい緑茶は美味しいけど、そのまま冷めてしまうと苦くて美味しくないな、と思った。
 公園にはもう誰もいなくって、砂場だけがぽこっ、と盛り上がったままだった。子どもがきゃはは、と笑いあって遊ぶ幻影が見える。末期だな。このまま死んでしまうんだろうか、私。
 月が綺麗ですね、と言われたらあなたとなら死んでもいい、と返さなければいけないらしいけど、一緒に死にたい相手もいないし、私は結局は1人で死ぬしかない。それに、今私の目の前にあるのは月じゃなくって夕陽だ。夕陽が綺麗ですね、と言われたら、一体何と返せばいいのだろう。

「『なら愛をください』」

 それが1番正しい答えな気がした。
 馬鹿みたいに、私、消えてく。自分がどこにいるのかわからない。教室にも固定された場所はなくって、いつもふらり、ふらり。
 嫌われるのが怖いからてきとうにへらへら笑って過ごしていたら、親友というものができなくなった。いつめん、と呼べる人たちもいない。私は1人だ。
 まだ幻影が見えていて、砂場ではしゃぐ子どもたちは幸せそうに走り回っている。悩みなんて無いんだろうな、と思ってしばらく見つめていると、それは小さい頃の私だった。思わずその場にあった石を拾って砂場に投げ飛ばすと、幻影は消える。もうダムにだって沈んでしまえば楽になれるのになァなァ。
 
 ばしゃり、と水の音がした。なんだろう、とぼんやり辺りを見渡すと、噴水の傍に人が腰掛けている。随分と肌寒く感じられる季節なのに、その人影は噴水に溜まった水の中に素足をつっこんでいた。その白い足が動く度、透き通った水が辺りに飛び散る。
 人影は黒いセーラー服を着ていた。同じく黒い髪は長く、少し乱れていて、白いうなじが見える。一見して女の子だとわかった。
 夕陽に照らされて、絵画に切り取られた一瞬のように、儚く映る。少女が振り返った。
 なんといったら良いのだろうか。正しい美貌。それが1番彼女をよく表しているような気がした。
 大きな目と通った鼻筋、真っ赤な唇、細い首筋と人形のように細い手足。身体付きも華奢で、まだ「少女」という感じだ。幾分か大人びているように見えるのはきっとその落ち着いた表情のせい。
 とにかくまっすぐだった。どちらかといえば女受けがいいような。俗っぽい感じがしなくて、品が良い。私と違って、澄んだ空気を身にまとっていた。

「なにしてるの?」

 話しかけてみる。人形のように表情の変わらない彼女は、淡々と呟いた。

「足を洗っているの」

 近くにあったタオルを手に取って、少女は水に濡れた素足を拭き始める。

「どうして足を洗っていたの?」
「裸足で歩いていたから」
「……靴は?」
「隠された」

 真白い足をぎゅ、と抱きしめて、少女は押し黙った。孤独そうな、陰鬱そうな様子だった。
 ゆっくりと隣に腰掛けてみると、少女の顔立ちがよく見える。私もまあまあ整っている方かと思っていたけど、彼女は群を抜いていて、きりり、と引き締まった顔つきは少年、という言葉も似合うような気がした。
 こんな見た目なら同級生が嫉妬しても仕方ないだろう。恋愛だろうか、ただの嫉妬だろうか。というか何歳なんだろ、この子。

「いくつ?」
「中2」

 中2、か。私が愛を失った年齢。自分の身体が自分のもので無くなってしまった年齢。このときの私はこんなに幼かったのか。あの日の自分が、今更ながらとても可哀想に思えてきた。

「お姉さん、名前は」
「……奈津未」
「そう、なつみさん。私は……ブランシュ」

 それは明らかに本名ではなかった。ふざけているのか、と思ったけど彼女は真面目な顔をして夕陽を見つめている。白い脚が夕陽に照らされて、オレンジ色に光っていた。

「どうして本当の名前を教えてくれないの?」
「知らない人に、軽々しく自分の名前を与えてはならない。それが魔女の掟」

 ふーん、としか言えない。魔女、という言葉を現実に言う奴を初めて見た。中2だけに厨二だとでもいうのか。
 というか、私のことを知らない奴だとちゃんと認識していたんだな、と思う。私が隣に座っても警戒している様子を見せないから、殺されたいのかと思った。隣に座ったのが私で良かったね。

「なつみさん、あなた、性行為でもしてきたの」

 突然そんなことを聞かれて、私は狼狽える。どうしてわかったんだ。

「その首」

 細く、長い指で、彼女は自分の首を指さす。

「私の首が、どうかした?」
「キスマーク、ついてる」

 なんだ、そんなことか。いつの間にかあの男につけられていたんだな、と気づく。結局あの男がくれたのは空虚な痛みだけで、愛はこれっぽっちも残していってはくれなかった。キスマークだけで愛を示すことができたら、どれだけ幸せか。

「いいな。なつみさん、彼氏いるんだ」
「まあね」

 飛びっきりの嘘を吐いた。

「私には人を好きになるってどういうことか、私にはわからないや」

 ぽつり、と彼女は真実を吐く。
 そんなの私にだってわからない。まだ探し求めている途中なのだから。

「どうして靴を隠されたの?」

 先ほどからずっと気になっていたことを、やっと聞いてみた。

「わからない。1ヶ月くらい前から急に物が色々無くなるようになって。それが今日は靴だっただけ」
「先生には言ったの?」
「言った。だから明日くらいには多分、親が呼び出される」

 勇気ある子だな、と思う。私だったらそれ以上嫌われるのが怖くって、誰にも言わない。人の目が気になって、いつも隠れたところで闇を吐き出す。私のことを知っている人がいるから、愛を探すための行為は、学校ではしていないのだ。

「私、相手をいつも怒らせてしまって。多分、私が人の気持ちがよくわからないからだと思うの。相手の期待している答えを返すことができない。だからこうやっていじめられる。でもいいの。私、1人の方が好きだから」

 まっすぐに、彼女はそう言い切った。
 まるで私と正反対のように思える。この少女は。1人が好きだなんて、わからない。人の気持ちがわからないなんてこともありえない。その人の表情で、大体のことはわかる。そして相手の望む解答を導き出せる。わたしは機械のように生きていた。
 夕陽が相反する私たちを包み込み、この世界に同居させる。奇跡みたいだ。そしてクソみたいだ。
 

Re: アシンメトリー ( No.3 )
日時: 2016/12/08 19:34
名前: 亜咲 りん ◆1zvsspphqY (ID: wJnEuCOp)
参照: 無理やり終わらせた!

 
 その少女と別れてから、私はなんだか気だるげだった。どうしてあんな風に生きられないんだろう、私。1人でいい、1人でいいって言えないんだろう。セックスなんて本当はしたくない、って言えないんだろう。殺して。
 少女は言った。

『みんな淋しがっている。みんな孤独だ。だけど、それがいいんじゃないかな。淋しいときは1人で寝た方が良い。そうしたら淋しくなくなる』

 だから、実践してみた。少し興味を持っただけ。それでも、効果は抜群だった。
 ゆっくり眠って、ゆっくり目覚める。まるで夢の中みたいだった。深く息を吸って時計を見ると、まだ22時だった。隣に誰もいないのがすっきりとしていて、心地よい。眠るのに男なんて必要なかったのだ。

 幼馴染みも、やってきた。わざわざ大阪からやってきたらしい。お風呂にも入らずそのまま寝てしまってボロボロだった私のことを見て、ぽろぽろと涙を流していた。

「また遊んできたんか」
「うん、遊んできた」
「どうしてもっと身体を大事にせんのや」
「大事じゃないから」
「私にとっては大事なんよ。あんたが傷ついたら私が嫌やねん。ふざけんといて。これ以上傷つけんといてよ、私を」
「うん、わかった」

 小さく頷くと、幼馴染みは私を抱き締めた。強く、強く。良い匂いがする。
 なんてことはない。深呼吸をすれば、愛はすぐそばにあった。どうして気づかなかったんだろう。


 気づけばホテルの前にいた。隣には男がいて、薄気味悪い笑顔を浮かべている。肩に手を載せて、私を見ている。女といういれものを見ている。

「報酬は『愛』だったよな」
 
 そういえばそうだった。

「愛してやるよ、たっぷりと」

 キザな男だな、と思った。しかも、あのときと何ら変わらないセリフ。夢かな。それとも時間が戻った? それでもまた同じ過ちを繰り返そうとしていることだけははっきりとわかる。
 きっとこの男にとって愛とは肌を重ね合わせることなのだろう。そこのどこに愛があるのか。あたたかさなんて微塵もないじゃない。
 男は笑っている。ケモノのように私を見ている。嫌いだ。冷たいものは、嫌いだ。

「ごめんなさい。あなた、やっぱりいらないや」

 そう言って、駆け出す。男が驚いた顔で私の腕を掴もうとしたけど、蝶になった私はひらりひらり、とかわした。身体がほわほわとする。やっぱりこれ、夢なんじゃあないだろうか。確かめにゆこう。

 一体いつだったのだろう、彼女と出会ったのは。あの公園にはもう誰もいなかった。ただただ、風が吹いている。どっどどどうど。何も、残っていない。
 噴水に近づいてみても夕陽はなくて、ただただ愉快そうに、水が飛び出している。楽しそうだ。噴水の向こうに、虹が見えた。
 帰る間際、噴水の裏側で私は赤いスカーフを見つけた。はっ、とする。夢ではなかった。あの少女は、確かにここにいたのだ。

 ブランシュ。白、という意味があるのだと、あとから知った。ブランシュネージュ。白雪、という意味だそうだ。彼女にぴったりだな、と思った。
 また会えたらな、と思いつつ、私は会いたくないとも思う。正反対なんて、もうごめんだ。
 ふふ、と微笑む。散々沈みこんだ後は、私を大切にしてくれる彼氏でも探そう。
 

Re: アシンメトリー ( No.4 )
日時: 2016/12/27 15:47
名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: MuN5clNF)


 こんにちは、初めまして? ではないのですが、コメントしたりするのは初めてですのでやっぱり挨拶は初めましてで。
 コメントさせてください〜と言ってから大分時間が経ってしまって申し訳ない限りです。師走は忙しいものだと一年ぶりに再確認させられました笑
 亜咲さんの作品は、シリダクの時から少しずつですが読ませていただいていました。作品の雰囲気というのでしょうか、少しダークな、人間の特徴を捉えた描写が美しいなとそう思ってました。陰で()
 感想を伝えるのがあまり得意な人間ではないので、途中から「すごい」とか「やばい」とかそんな小学生に笑われるような発言をし出すかもです。どうぞ鼻で笑ってやってください。


 タイトルのアシンメトリー。
 左右対称の意味でもあるシンメトリーという言葉は中学の美術で習ったような気がします。アシンメトリーは左右非対称という意味なのですね。
 まずタイトルが単体で「アシンメトリー」。他に何もアクセサリー的なものがついていなくて、その言葉だけがパッと目について「面白そうだな、読みたいな」と思いました。
 
 奈津未ちゃん。淋しがり屋で、本当の愛を探している彼女はたとえ汚れていたとしても芯をきちっと持っていて綺麗だなと私は思いました。人を責めるような口調、きつい言葉遣い、それも何だか自分を守るための武器なんじゃないかなと思ってます。
 愛を欲しがる彼女。ブランシュちゃんとの出会いで心が少しだけ変わったのかなと、そう感じられる最後の描写はいいなーと思います。きっぱり断って我が道をしっかり進む、強い心を持った奈津未ちゃん。
 奈津未ちゃんを幸せにしてくれる、大切にしてくれる、そんな恋人が彼女の前に現れることを心から願っております。

 はい、私の好きなブランシュちゃん。別作品でも出てくるみたいなので、追っかけましょうね、はい。
 奈津未ちゃんと同じ、だけど違う意味で強い心を持った彼女。シンメトリーはこの点かなと勝手に想像しております。全く違うタイプの人間なんですが、何というか似ているようで似ていない。上手く表現できる言葉が見つかりませんね(汗
 個人的には手を差し伸べたいと感じる女の子でございます。一人でもいい、一人がいい、という子ほど脆い子はいないと思っているので。だから、誰か身近に私と同じ思いの子がいたらなぁと読みながら思いました。

 無理矢理終わらせた、という風にありますが、とても綺麗な終わり方だと思います。短編は起承転結が凝縮されて長編に比べて難しいと思っているので、これだけ丁寧に書かれていて凄いなぁと思います。
 素敵な作品を、読ませていただいてありがとうございました。拙い感想で本当に申し訳ないです。わざわざロックも解除していただいて、何とお礼を言っていいか……。
 これからも亜咲さんの活躍を楽しみにしております。
 失オレの方もちょこちょこ読ませていただいているので、時間が出来ましたら感想を聞いていただきたいです。これからも別作品での更新を楽しみにしております。

Re: アシンメトリー ( No.5 )
日時: 2016/12/27 16:46
名前: 川島はるか (ID: qeFyKwYg)

めっちゃこのお話いい!最初はこんなお話、ここに載せていいのかな?と思いましたが...
小説を読むにつれて面白くなって、読んでて楽しかった!また別なお話楽しみにしてます。

Re: アシンメトリー ( No.6 )
日時: 2016/12/30 21:10
名前: 亜咲 りん ◆1zvsspphqY (ID: f2y8EREE)

 
>>はるた様。

 はい、初めまして。笑 そういえばそうでした。Twitterで出会ってTwitterで(はるた様が)仲良くしてくださった感じなので、なんだか不思議ですね。もしかして……うんm((
 全然大丈夫です。むしろコメントしたい、というお気持ちだけでもう十分です(昇天)。しわす( 。∀ ゜)は忙しいですもんね。お互い頑張りましょう。
 照れてまいますはるた様。今あたくしの顔は真っ赤ですわ。笑 よく私の作品は現実味が無いと言われるのでそこが特徴かな、と思うのですが、同時にコンプレックスでもあります。初期の作品は……今読み返すと散々な出来なので、そう言っていただけて嬉しいです。
 はるたんが感想を置いているところをあまり見たところがないから正直わかりませんが、良い作品を書く人は細かく感想を書いてくださるイメージがあるので、心配いらないと思います。笑

 前髪とかで「アシメ」なんて言ったりしますよね。シンメトリーはボカロの曲なんかでありそう。そうです左右非対称です。
 あー昔は【参照〇〇突破!】みたいなアクセサリーをつけていたのですが、やめたんですよね。意外とカタカナの題名がカキコには少ないように思えたので、シンプルにこれにしました。普段あまり掲示板のほうに行かないので、一目でこれ読みたい!なんて思ってくださる方に感謝です……(雨あられ)

 「愛がほしい」「愛なんていらない」そういうところからアシンメトリー、ですかね。世の中にはいろんな人がいるし、まあそれもいいよね、みたいな。どちらかといえば、私はブランシュちゃん派かもしれません。まあ、そんな綺麗な容姿は持ち合わせていませんが。笑
 そんな深くまで考察をされるとボロがボロボロ出そうで怖いです。笑 左右非対称な彼女たちは左右対称でもある。だからア「シンメトリー」。まさか、こういうところに気づかれる方がいるとは思いませんでした。ありがとうございます。

 なんだか順番がごっちゃになっていますが、ブランシュちゃんについて。
 はい、別作品で出てまいります。私が書く、または思い描く物語は全て彼女に辿り着くので、そういう意味では全作品に登場するかもしれません。本人が本名でがっつりと登場するのは全然執筆の進まぬ「幻想図書館」。1番書きづらい作品ですが、そのうち素晴らしく書きやすくなる……予定です。笑
 彼女は1人で生きてきた人間です。これ以上言うとネタバレになってしまうので……うーん。生まれながらに罪を背負ってきた、というか。だから1人がいい、1人で生きようとしてきて、結局人に頼っている。そんな感じです。そんな彼女を助けようとするお人好しもいますから。

 そう言っていただけて嬉しいです。もう少し長く書けたらなぁ、なんて思っとりますけど。笑 短編は私の得意分野ですので(あれ?その割に話が(()。
 いえいえ、読んでくださるだけで十分です。本当にありがとうございます。
 牛オレ……おおっと失オレは力をまあまあ入れておりますので嬉しい限りです。コメントがなくてもその思いで生きてゆけますから!笑

 はるた……様の作品の中で初めて拝見したのは「君の涙に小さな愛を」ですね。1年と少し前に。ずっとコメントをしようと思っていたのですが、中途半端なものを書くのも申し訳ないと思い保留していたら完結してしまって……またお邪魔させていただきます。
 賞をかっさらってゆくはるたんが眩しいです。神々しい!
 コメント、ありがとうございました。


>>川島はるか様。

 私も書いていいのかな?と自分で思っていたのですが、まあいいや!となり、投稿しました。笑
 コメント、ありがとうございました。
 


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