複雑・ファジー小説
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- 慟哭 【失墜】
- 日時: 2017/01/30 17:15
- 名前: マツリカ ◆1zvsspphqY (ID: GFkqvq5s)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=18913
君の笑顔が見たかったんだ
■
三森電池様原作【失墜】の二次創作です。不束者ですが、よろしくお願いします。
- Re: 慟哭 【失墜】 ( No.3 )
- 日時: 2017/03/05 12:00
- 名前: マツリカ ◆1zvsspphqY (ID: hd6VT0IS)
じゃあね、とみっちゃんと別れて、私は逆方向に歩き出す。もう外は暗い。こんな時間まで出歩いていたらお母さんに怒られるかな。まあ、それもいいや、と思った。
昔。私はいじめられていた。ときには暴力をふるわれたこともあったな。とても痛くて痛くて、どうして私がこんなことをされなくちゃいけないんだろう、この人たちはどうしてこんなことができるんだろう、と思っていた。
目を閉じて、あの頃のことを思い出す。私をいじめていた男の子が、青山くんと重なった。私はその男の子のことが好きだった。私は彼に好きだ、と伝えた。だからいじめられたのだ。
『ブスが調子に乗るんじゃねぇよ』
勇気を出して告白した私に、彼はそう言った。確かに私はブスで、彼は格好よくって。もちろんよくよく考えてみると青山くんの方がイケメンだったけど、私を嘲笑うその歪んだ唇でさえも綺麗で、もしかしたら私はMなのかもしれないな、と引き裂かれたこころと、机にでかでかと描かれた「死ね」の文字を見ながら思った。
ほとんどの悪戯を仕掛けたのは、当時彼のことが好きだった女の子たちだろう。もちろん彼も彼女たちと一緒になって私を笑っていたりしたから、同罪だ。それでも、いくら酷いことをされても、何故だか私は彼のことが好きだった。
醜いものは美しいものに憧れる。美しい人は、いくら醜いことをしたって、その美しさが失われることはない。美しい人がすることは、なんだって神聖だ。私は当時のことを、そう解釈している。精神状態が異常だった。
「……なんで諦めたんだったっけ」
ぽつり、と呟く。
この辺は記憶がごちゃまぜになっていて、よくわからないのだ。頭が何かの宗教に入っていたかのように、ぼんやりしている。馬鹿みたいないじめだな、と思っていたけど、私は先生にそれを言わなかった。
いじめが止んだきっかけは、私の顔のアザが親にとうとう見つかってしまったからだ。訥々と事情を話し出すと、親は私を静かに私を抱きしめ、ごめんね、ごめんね、と繰り返した。別に良かったのに。気づいてくれなくっても。
翌朝、休みの日だったのに私をいじめていたクラスの子たちや彼、保護者が学校に集まって、1人1人担任と話をし、お昼くらいには全員が1つの教室に集まった。
『ごめんなさい』
不貞腐れ、少し涙を浮かべて私に頭を下げた彼の姿を見て、私はあれ、と思った。どうして謝るんだろう。あの私を見下していたあの瞳はどこへ行ったのだろう。あれれ、よく見ると彼、全然美しくない。鼻だって低いし、背だって低い。あれれれ。
気づけば私は彼のことが好きではなくなっていた。長い夢から醒めたみたいに、私の視界がクリアだった。私、どうしてこんな人からいじめられていたんだろう。どうして耐えていたんだろう。彼はどういう気持ちで私をいじめていたんだろう。彼はどうして今更謝っているんだろう。
『許さない』
私の声とは思えないほど、低い声だった。彼はとても驚いた顔をして、ぐっ、と押し黙った。その顔も別に格好よくはなくて、嗚呼、と思う。違った。
私のこれは、メンクイとよく似ていて、微妙に違う。自虐的で、よくわからないものだ。私はこの嗜好をみっちゃんにも、誰にも話していない。というか、話せない。ただ、昔いじめられていたことがある、とだけ。みっちゃんは辛かったね、と私を優しく抱きしめてくれた。
私は辛かったのだろうか。いや、確かに痛かったけど、あのときは耐えられたし、親や先生がそこまで心配するようなことはなかったような気もする。そんなことを1度親に言ったことがあるけど、「いじめられていたら、しだいに精神がおかしくなっていくんだって。きっとあなたもそう」なんて言われたので、多分私は辛かったのだろう。よくわからないけど。
「……青山くんは、どういう気持ちでYくんをいじめていたんだろう」
彼によく似た青山くんに、そう尋ねてみたかった。その答えをきけば、真実がわかる気がしていたから。
- Re: 慟哭 【失墜】 ( No.4 )
- 日時: 2017/03/15 20:41
- 名前: マツリカ ◆1zvsspphqY (ID: 5XOfwI4L)
ぽつり、ぽつりと透明な水が、空からたくさん、落ちてくる。雨の日は憂鬱だ。別に、トラウマが蘇るから、とかじゃない。けど、なんとなく嫌だった。
そういえば1年くらい前、ゲリラ豪雨でどこかの地域が冠水したとかそんなニュースの中に、女子高校生殺人事件みたいなものがあったなぁ。殺害された女の子が美人だったから、一部のネットの住民たちが騒いでいたのを思い出した。他人の不幸をネタにして、人間は醜く笑う。青山くんもその被害者で、Yくんだって。人間はみんな、綺麗な存在じゃない。
ぱさ、と赤色の傘を開いて雨の中に飛び込む、そんな学校帰り。みっちゃんは今日は部活で忙しくて、私は1人。うちの美術部はけっこう厳しいけど、バスケ部はそれ以上のようだった。今度、試合を観に行きたいな。
1人で帰るのは嫌じゃない。むしろ相手に気をつかわなくて楽だ。もちろん、みっちゃんと話しながら帰るときは深く考えなくても話題がぽんぽん出てくるから楽しいけれど、他の人だったらそうはいかない。会話の隙間、音が消えるその僅かな時間が、怖くて怖くてたまらないのだ。
1人だとずっと無音だし、自由な思考が停止することもない。だから私はいつも、1人ぽっちかみっちゃんと帰っていた。
クラスに仲の良い子は他にも何人かいるけれど、本当にこころを許せるのはみっちゃんだけだ。みっちゃんは明るくってクラスの人気者で、私とは正反対の人間。正反対の人間はお互いの欠けた部分を埋めるように引き合う。私とみっちゃんもそんな感じかな、と考えた。
ばしゃばしゃばしゃ、と水溜りに時々足を沈めつつも、とぼとぼ歩く。長靴で来て正解だった。この長靴は中学の頃、トイレ掃除をした思い出の代物だ。1人で。
嗚呼。やっぱり雨の日は憂鬱だ。どうしても、嫌なことを、思い出してしまう。いじめられていたときは全く辛い、なんて思わなかったのに、いまは「辛かったなぁ」と思っている自分がいる。1人で水浸しのトイレを掃除させられていた、という思い出は「辛いもの」なのだと認識している。それはきっと、無理やりそうねじ曲げられたからだと思う。先生が、親が、みっちゃんが、世間が、そう言っていたから。
『可哀想に』
「……私は、可哀想、だったのかな」
またこの思考に陥ってしまう。私は辛かったのか。私は可哀想なのか。
1人で帰る雨の日は楽だけど、同時に淋しく、孤独でもあった。
その淋しさにつられてか。もしくは「それ」の淋しさが私の「淋しさ」と同調したのか。奇跡みたいな「それ」を、私は見つけ出してしまった。
- Re: 慟哭 【失墜】 ( No.5 )
- 日時: 2017/03/28 21:31
- 名前: マツリカ ◆1zvsspphqY (ID: Nco3mzUY)
少し雨宿りでもしようと思って、近くの広場に寄る。こんな雨の中だからもちろん、子どももいなくって、ただただ雨の音だけが響いている。ここはこの街で1番大きな広場で、花時計や花壇などがあって、地域の人々の憩いの場だ。みんな家でゆっくりしているのだろうな、と思った。こんな雨の日にわざわざ外に出ているのは、私みたいな学生か、雨が好きな物好きくらいじゃないだろうか。
奥の方にあるちょっとした屋根の下にベンチがあったはずなので、雨が小ぶりになるまでそこにいよう、と道を急ぐ。コンクリートでできた地面は、土だけの地面と違って靴を汚すことはない。けれども私の足はもう、泥だらけだった。
この植え込みを超えればベンチがある。はやく座りたい。足が疲れたな。でも、その望みは叶わなかった。
誰かが、そこに座っていた。形の良い頭を項垂れ、目線は下にある。どうやら男の子みたいだった。
横顔が少し見えて、目鼻立ちが整っていて、前を向いたらとても格好いいだろうな、という男の子。短い髪は、ミルクティーみたいな綺麗な茶色で。まさか。そんなはずない。
「青山、くん……?」
そう呟いてから、私は何故か笑ってしまった。何言ってるの私は。あの青山くんがこんなところにいるはずないじゃない。青山くんはもっと都会のど真ん中で、キラキラしてて、たくさんの友だちに囲まれてて、それで、
いじめっ子だった。
いじめっ子の青山くんがこんな風に陰気そうに雨の中、こんなベンチに座っているわけない。いじめっ子ならいじめっ子らしく、加害者なら加害者らしく、もっとへらへらとして、ぶてぶてしくしてないと、駄目じゃない。
なんだか、どうかしている。
仮に、植え込みを隔ててそこにいるのは、青山くんなのだと仮定してみる。やっぱりありえないけど、もし本当にそうだとしたら。今が、質問のこたえを聞く、チャンスなんじゃないだろうか。私の叫びを、静かな慟哭を、終わりにするための。
そろり、そろりと私は青山くん(仮)に近づいてゆく。なぜYくんをいじめたのですか。彼女はいますか。って違う。それは全然関係ない。
ミルクティーの彼は私が近寄ってくるのに気づかず、ぼーっ、とコンクリートの地面ばかり見つめている。このままどんどん近づいていって、お互いの吐く息が当たる距離まで来てしまったら、どうしよう。私はその後のことなんて、何も考えちゃいなかった。
「こんなところで何してるの」
凛とした声が響いて、私は歩みを止める。私に投げかけられた声かと思ったけれど、位置的に違う。声は、私より前から聞こえてきた。
いつの間にか青山くん(仮)の前に、雨の中、赤い傘をさした長い髪の女の人が立っていた。私のところからは、横顔しか見えない。まるでお人形さんみたいな、作り物のような美人さん。彼に、雰囲気が少し似ているような気がした。
「何って……柚寿を待ってたんだ」
「待ち合わせ場所はここじゃないでしょ」
「そうだったっけ。……髪、伸びたね」
柚寿、と呼ばれたお人形さんは、ははは、と笑う彼を見て、ため息をついた。そして、急に真面目な顔つきになって、
「迎えに、来てくれるんでしょ?」
ミルクティーの彼はふわりと微笑んで、
「じゃあ、行こうか」
そうして彼はお人形さんの傘の中にするり、と入り込み、2人で歩き始めた。
私はその光景をぼけーっと、眺めているだけで、何もできなかった。したところで何だって感じだ。
2人の姿は、どんどんと雨の中に吸い込まれてゆく。2人だけの世界。私は観客、という立場な感じだったけど、多分、いちゃいけなかった。
2人は傷だらけのように見えた。どちらも憂いげがあって、多分どちらも何かによって傷ついていた。
でも、幸せそうだった。
「青山くんは、加害者だったんだよ……なのにどうして」
ふわり、と私の手から傘が離れて、雨が降りかかる。
本当は、わかってた。誰かを傷つけたことのある人間は、同時に誰かに傷つけられている。青山くんがYくんを傷つけYくんに傷つけられたように、人は誰しも誰かに傷つけられて、誰かを傷つけている。
だから、初恋の彼に傷つけられた私も、他の誰かを傷つけている。人間はみんな、加害者だ。
誰が青山くんに、彼に、いや彼らに、また傷を負わせることができるだろう。
『どういう気持ちでいじめたのか』
聞けるわけがなかった。傷だらけの彼らに。
「わあ、ずぶ濡れじゃない」
帰ってくるなり、母があたふたと私にタオルを被せ、わしゃわしゃと濡れた私の髪を拭いてくれる。乱暴な感触が、いまは心地よかった。
傘持っていかなかったの?と顔を顰めている母の顔は随分と皺だらけで、今までの苦労が窺える。何だか今日は少し、それが気になった。
「ねえ、お母さん」
「ん、何?」
あなたは、今までにどれだけの人を傷つけてきたことがある?
「……ううん、なんでもない」
「もう、何? 体調でも崩しちゃった? 風邪をひかないように今日は早く寝なさいね」
「はぁい」
結局何も言えずに、私は階段を上り、自分の部屋に向かう。
きっとこうやって、弱虫でポエムったりしたくなるから、数年前の自分の苦しみに気づけなかったんだろうな、と、今更ながら思った。
- あ と が き ? ( No.6 )
- 日時: 2017/03/28 21:39
- 名前: マツリカ ◆1zvsspphqY (ID: Nco3mzUY)
はい、まずは謝罪を。
終わり方。書きたいものが書けたら、後はどうすんだ、と。はい。
今回書きたかったのは、青山くんと柚寿ちゃんが再会する、という。私的に、青山はヘタレだから、柚寿に迎えに来てもらいたいな、と思って。多分、というか、絶対、原作者の三森電池屋さんの思い描いていた再会と違うと思われますが(汗)。
夢子ちゃんは青山くんのファンがいたらどんな子かな、と錯誤した結果です。表向きの性格は、瀬戸キョンに似てるかな。意識してみました。
散々焦らしておいて何だって感じですが、これにて一応完結です。お目汚し、失礼致しましたっ
原作の方は、これの何百倍も素敵で、もうご存知かもしれませんが、是非是非、読んでみてください。きっと私のように、抜け出せなくなると思います。うぬぬぬ。
ありがとうございました。
マツリカ
- Re: 慟哭 【失墜】 ( No.7 )
- 日時: 2017/04/01 00:27
- 名前: 三森電池 ◆IvIoGk3xD6 (ID: Uj9lR0Ik)
原作者の三森電池です。
このお話のもとになった、「失墜」という小説を書いていました。とても素敵な話にしていただいて、原作者としても嬉しい限りにつきます。失墜の本編は完結しましたが、この掲示板内にまだスレッドは残っているので、もしよろしければ、読んでいただければこのお話もいっそう楽しめると思います。
*
完結、お疲れ様です。ありがとうございました。なんだかそれしか言葉が浮かばない感じです。
普段りんちゃんに対しては敬語で話してなかったけど、私はタメ口になると途端に文章が下手になるので、せめて自分の最大限の綺麗な言葉で感謝を伝えたいので、この変な感じの敬語で、今回はいかせてもらおうと思います。親しき中にも礼儀あり、的なあれです。
市販の小説を読むのと、私の作った物語を小説にしていただくのとでは、とても大きな差はあるけれど、「読者」という立場でこれほどまでに小説に引きこまれたのは久々な感じがします。私が自分で初めて自分で完結してきた彼らが、違う誰かの手によって物語として動いている事に毎回感動してしまうんですよね。お礼をいくら言っても足りないです。本当にありがとうございます。
時系列的には、これは本編が終わった後の話ですね。
ストックホルム症候群という病気があって、被害者が加害者側に同情したり恋愛感情をもったりすることを言うらしいです。夢子も矢桐も、ひょっとしたら青山もこれに近い精神状態なのではないでしょうか。失墜に出てくる人たちって基本的にどこか欠けてて、ずれている、と言ったのはりんちゃんですが、夢子も立派に失墜キャラっぽい感じがします。というかもう、本編に出てきてもおかしくないくらい。リメイクするとしたらお借りするかもしれません。それくらい私は彼女の事が気に入りました。
というのはさておき!
少しまじめに考えて、私はなんであの話を書いたんだろうと考えます。もちろん、どんよりとした恋愛小説なんて世の中には溢れかえっているけど、それはいわゆる「悲恋」だったり、青山や矢桐級の駄目人間は主役としてじゃなく、物語を引き立たせるための脇役として登場することが多い感じがします。不倫を題材にした物語も存在はするものの、失墜は根っからダメな奴らが四人も集まって、恋が成就するわけでもなく、自らの行いを反省して償うこともなく、地味な感じに本編は終わります。こんなの書いて(もしくは読んで)何が楽しいんだと思ったこともありますが、運が良かったのか、面白いと言っていただけることもあり、こんな風に二次創作をやっていただく機会にも恵まれました。
おそらくきっと、失墜を面白いと感じていただいたすべての人は、私も含め、夢子に似た部分をもっているのかな、と考えます。そうなると夢子はいわば読者代表として、今回の、物語の一ページを、「傍観者」として見届けたわけです。
青山と小南の再開は、まさに理想のままでした。迎えに行くよとか言っといて柚寿のほうから現れる。このふたりはきっとこれから、付き合った時以上にたくさんの年月をかけてすれ違い、いちいち過去に囚われたりして普通の男女とはかけ離れた関係を、一からまた構築していくんでしょうけど、着地点はまだはっきりとはしていませんし、簡単に幸せにはなれないと思います。
傍観者だからこそ、「幸せに生きて」という言葉を、私から夢子に贈りたいと思います。
私なんかがこんなことを言って良いのかはわかりませんが、とてもクオリティの高い作品だな、と感じました。りんちゃんはこういう話を書くのが本当に上手で、これが失墜の二次創作じゃなかったとしても私は全部読んでいたと思います。
今回は本当にありがとうございました。お互い、これからも良い関係で掲示板を利用できるよう願っています。
最後になりますが、全て読んだうえで青山瑛太が好きな人は絶対ダメな異性に引っかかるタイプだと思うので気を付けてください!!
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