複雑・ファジー小説

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暗黒の時代があった
日時: 2017/01/28 11:28
名前: 裕之 (ID: xkLYJqiv)

初投稿です。
「暗黒の時代」と呼ばれる過酷な時代に生きる少年少女達の物語を書いていきたいと思います。
興味の湧いた方は是非読んでみてください!
ジャンルとしては、ハイ・ファンタジーになるかと思います。

Re: 暗黒の時代があった 第1章 出会い ( No.4 )
日時: 2017/01/31 21:20
名前: 裕之 (ID: xkLYJqiv)

「魔与が全ての世界……。最悪の時代……だよね」
「……そうだね。あ〜、俺もいつまで生きられるかな〜。なるべく長生きしたいもんだよ」
 少し湿っぽくなった空気を変えるためか、クアイサは冗談っぽく話しながら、笑ってみせた。
「貴方も魔与には?」
「あー、うん。俺も両親と同じ。遺伝とかはないって言うけど、ここまで恵まれてないとそういうの疑っちゃうよね。あっ! そうそうそう! 貴方って言われるとなんか変な感じするからさ、クアイサって呼んでよ」
「……クアイサ」
「そっ。テレマウ・クアイサ。よろしくね」
 クアイサの自己紹介に対し、茶髪の少女は微笑んだ。そして少女もまた、「よろしく」と返すのであった。
「そういえばさ、君の名前まだ聞いてなかったんだけど……」
 照れくさそうに、名前の事を切り出すクアイサ。
 茶髪の少女は、こころよく名前を明かした。
「レイフォール・ロカリス」
「レイフォール・ロカリス……か。いい名前だね! 改めてよろしく!」
「うん」
「それにしても……、夕方から随分ヘリが飛んでるな。気づいてた?」
 ロカリスは頷く。
「何かあったのかな……」
 ガバンの銀髪少女、橋の下に倒れていたロカリス、繋がらない電話、頻繁に飛んでいるヘリ。普段なら起きないような事の数々に、クアイサは不安になる。
「とりあえず、そろそろ治安本部に向かおう……って、どうしたの?」
 ロカリスは鬱陶しそうに、長い前髪を両手で何度も掻き分けていた。
「私このままじゃ前見えづらくて事故起こすかも。ハサミある?」
「ええ!? まさか、切るつもり……?」
「だって邪魔だもん」
「冗談じゃ……ないよね……?」
「失礼な。真面目な話だよ」
 出会った時から変わらないロカリス独特の少し気の抜けたような喋り。そのせいもあり、一瞬冗談とも思えたクアイサだったが、ロカリスは本気だったと知る。
「自分で切るのはやめた方がいいと思うけどなぁ。見栄え悪くなるかもしれないし」
 クアイサはハサミを手渡す。
「大丈夫! 上手くやるから!」
 やけに自信満々なロカリス。
 しかし、いざ切ろうとなった時、ハサミを持ったロカリスの手は止まってしまう。
「…………あの、ロカリスさん?」
 鏡に向けていた顔をゆっくりクアイサの方へと向けるロカリス。ロカリスの顔は、ガチガチに引き攣っていた。
「切れない……」
「いやさっきの自信はどこに!?」
「なんかね、鏡に、前髪が変になった自分のビジョンが映った気がして……」
「要するに、自信を無くしたってことか(1分もしない内に)」
「うん……」
「はぁ……」
 あまりにも早すぎる自信喪失に呆れ、クアイサは溜め息をつく。
「ええっと、前髪が邪魔にならず、尚且つ、前髪が変にならなければいいんだよね?」
「うん」
「母親の使ってたやつでいいなら髪留めがあるけど、使う?」
「いいの?」
「いいよ。またコケられても困るしね」
 細長いU字型をした黄色の髪留め。ロカリスはそれを使って、目の邪魔にならないよう前髪を留めた。
「ありがとう。スッキリした」
 束ねられた前髪は右目の横付近で留められ、左眉毛上から綺麗な曲線を描いていた。邪魔にならないように留めただけにしては、結構似合っている、とクアイサは思った。
「うん。じゃあ行こうか」
 クアイサとロカリスは家を出た。そして、ロカリスを自転車の荷台に乗せ、治安本部へと向かう。
 途中、クアイサは違和感を覚えた。
 治安本部へと続く道が大渋滞を起こしていたのである。
 夕方の車の込む時間帯とはいえ、いつもなら、例え事故を起こしていたとしても、ここまでの渋滞は起きない。クアイサは、「おかしい……」と思った。
 ようやく治安本部の建物が見えてきた頃、クアイサの目に驚きの光景が飛び込んでくる。
 なんと、治安本部の建物から火と煙が上がっていたのだ。
「なんだあれ……!? 火事?」
「あれが治安本部?」
「うん。何が起きたんだろ……」
 治安本部の側へと到着した2人。
 辺りには、治安部隊の物ではない戦車やトラックなどが何台も停まっていた。
「ここ、離れた方がいいかも……」
 危険を感じたのか、ロカリスは険しい表情でそう言った。
「…………」
 クアイサは迷う。火事が治まるのをここで待つか、一旦家に帰るか。
「おいそこの2人! 何をしてる?」
 突然、クアイサとロカリスの背後から、男の人の声が。
 2人が振り向くとそこには、白い作業着のようなものを着た男の姿があった。男は20代半ば程で、左腕には、ガバンの証である赤いバンダナを付けていた。
「どうしてここに!?」
 クアイサは驚く。ガバンといえば、犯罪行為を平気で起こすような凶悪組織。当然、犯罪を取り締まる立場の治安部隊は警戒しており、発見されればすぐさまマークされる。ガバンの人間からすれば、ここは好き好んで来たい場所ではないはずなのだ。にも関わらず、今こうして2人の目の前にガバンがいる。クアイサが驚くのも無理はなかった。
「……っ!? まさか!?」
 クアイサに続きガバンの男も驚く。どうやら、ロカリスの顔を見て驚いたようだ。
 ガバンの男は、急ぐようにトランシーバー(無線機)を手に取る。
「こちら赤い鎖1、3(あかいくさりいちさん)! たった今、目標を——がっ!」
 ガバンの男がどこかに報告をしている最中、突如現れた何者かによってガバンの男は蹴り飛ばされた。
「丁度よかった。お前の所に行こうと思ってたんだ」
「叔父さん!」
 突如現れた人物、それはクアイサの叔父だった。
「クアイサ、今すぐ通帳と印鑑を持ってこの町を出るんだ」
「どうして?」
「ラフテルはもう危険だ。恐らく、近い内に大勢のガバンがラフテルにやってくる。そうなればこの町の治安を維持するのは難しくなる。だからだ」
「…………」
 突然の話に、クアイサの胸は不安でいっぱいになる。
「いいかクアイサ? 通帳と印鑑を持ったらすぐに駅に向かえ。そしたら電車に乗ってモーフィルに向かうんだ。そこで一週間俺からの連絡を待っててほしい。万が一、俺から連絡が来なかった場合……」
「ああ……でも叔父さん……」
「なんだ?」
「携帯使えないみたいなんだ……」
「なに? 壊れたのか?」
「全然呼び出さなくて……」
「ならモーフィルで修理するか交換してもらえ。それだけの金は入ってる」
「……わかった」
「とにかく、モーフィルに着いたら、一週間俺からの連絡を待つんだ。万が一、連絡が来なかったり連絡がつかなかったりしたら、その時は、遠すぎるかもしれないが、イルカロスにいる俺の友人を訪ねろ。事情を話せばきっと助けてくれるはずだ」
 そう言って叔父は、ポケットからメモ帳を取り出した。そしてメモ帳から一ページを破り取ると、その一ページをクアイサに差し出した。
「メモだ。さっき言った事が全て書いてある」
 クアイサはメモを受け取った。
「叔父さんは……? どうするの?」
「俺はこの町とこの町の人達を守らなきゃいけない。だから先に避難しててくれ」
「…………」
 クアイサは不安そうな顔をする。
 そんなクアイサに対し叔父は、「心配するな。死んだりしないから。一週間後には連絡する」と言ってクアイサを励ました。
 しかしそれでもクアイサの不安は晴れないようで、クアイサは俯くだけだった。
「できるな?」
 叔父に言われた事をできるかどうか、クアイサはその確認を迫られる。

Re: 暗黒の時代があった 第1章 出会い ( No.5 )
日時: 2017/02/09 16:17
名前: 裕之 (ID: xkLYJqiv)

「…………うん……」
 自信のないクアイサではあったが、危険が迫っている以上仕方ない、と思い、とりあえず返事をした。
「よし。ならすぐ行動だ。……ところで、そっちの子は?」
 ロカリスについて尋ねる叔父。
「レイフォール・ロカリスって名前の子。ラフテル小橋の下で倒れてたんだ。で、家族や知り合いに連絡取ろうとしたんだけど、電話番号も住所も知らないみたいで……。それでここに来たんだけど、なんとかならない?」
「んー……。悪いが、今は調べてる余裕がないな。その子については後で調べておくから、お前達は早くこの町から出るんだ」
「……わかった」
「ごめんね」
 力になれなかった事をロカリスに謝るクアイサ。それに対しロカリスは、「大丈夫だよ」と返すのであった。
「気をつけて行くんだぞ。目立つような行動はするな。それと、ガバンを見かけてもけっして目を合わせちゃいけない。奴らは野蛮だ。ちょっとした事でもすぐ因縁を付けてくるからな」
「わかった」
「よし行け!」
 叔父と別れたクアイサは、ロカリスを荷台に乗せ、再び自転車を走らせる。
 しかし、家へ向かっていた道中、クアイサの前方からある人物達が。
「そんな……。なんでこんな時に……」
 クアイサはあからさまに嫌な顔をする。
 無理もなかった。前方から現れたのは、パンダ・ジョンとその仲間2人だ。
 無視して通り過ぎようとも考えるクアイサであったが、3人は並列して自転車に乗っているため、この歩道での通り抜けは難しかった。
 クアイサは仕方なく自転車を止める。
「おいジョン。あそこにクアイサいる」
「気づいてるよ」
 3人はクアイサに近づくと、そこで自転車を止めた。
「まさかお前が女を連れてるとはな。彼女か?」
 からかうようにジョンが尋ねる。
「…………違うよ」
「この人達、誰?」
 ジョン達とは初対面のロカリス。気になったロカリスはクアイサに尋ねた。
「…………。クラスメイト」
「へえ。じゃあ一応私も自己紹介しとくね」
 そう言ってロカリスは自己紹介を始めた。
「レイフォール・ロカリスです。残念ですが、今から逃げるところなので長話はできません」
「……………………は?」
 自己紹介と共に、今から逃げるところ、と伝えられた3人はキョトンとしていた。
 なんとも言い難い微妙な空気が流れる。
 クアイサは頭を抱えていた。
「なんでもいいけど、こいつ結構可愛くね?」
 仲間の1人が言い出す。
「ロカリスだっけ? 俺達と遊ばない?」
 ジョンの仲間2人から目を付けられるロカリス。
 クアイサは焦った。何故なら、今までジョンとその仲間2人は、力の弱い女性に対し、酷い行為をしてきているからだ。ロカリスが危なかった。
「遠慮しておきます」
 一礼しながら、丁寧に断るロカリス。
「残念だけど拒否権はないんだよね〜。なっ? ジョン」
 ジョンを頼るように、仲間の1人が話を振る。
「くだらね」
「ええ!?」
 てっきり、話に乗ってくれるものだと思っていたジョンの仲間は、ジョンの予想外な返答に驚く。
「おいおいおい、どうしちまったんだよジョン? やりたくねえのか?」
「そんなことより、早く治安本部見に行くぞ」
「なんだよつまんねえなぁ……」
「文句あんのか?」
 脅すようにジョンが睨みつける。
「いや……別にねえけど……」
「なら早く行くぞ」
 ジョンは話を切り上げると、クアイサに「じゃあな」とだけ言って、その場を後にしようとした。
 しかし、ジョン達が出発しようとしたその時、クアイサが口を開く。
「治安本部の方は……!」
 勇気を出して絞り出したような大きな声。その声に、ジョン達の動きが止まる。
「あ?」
「治安本部の方は……、ガバンがいて危ない……」
 放っておけば良かったものの、人のいいクアイサは、治安本部の方は危険だと教えてしまう。
「ええ?」
「マジか?」
「うん……」
 ジョンは微動だにしなかったが、仲間2人は明らかに動揺していた。
「どうするジョン?」
「どうするもこうするも、俺はそのガバンに用があんだよ」
「はあ!?」
「ビビッたなら帰ってもいいんだぜ?」
「う……うぅ……」
 ジョンの言葉を受け、仲間は迷った。付いていくべきか、帰るべきか。
「忠告のつもりだったんだろうけど、要らない心配だったな」
 迷っている仲間を横に、ジョンがクアイサに言った。
「…………」
「忠告のお礼に、俺も一つお前に忠告しといてやるよ。あまり人が良すぎると生き残れないぞ。特にこの暗黒の『時代』じゃな」
 最後にそう忠告したジョンは、自転車を走らせ行ってしまう。
「あ……! ちょ待てよ! やっぱ俺も行く!」
 ジョンの仲間もその後に続いた。
 なんとか事なきを得たクアイサは、一先ず安心する。
「……はぁー……」
 安心からか、クアイサは深い溜め息をつく。
「大丈夫?」
 心配するロカリス。
「あぁ……うん……なんとかね……。吐きそうな気分だけど、大丈夫だよ」
「私、あの人達嫌いかも」
「ハハ……、俺も……」
 極度の緊張から解放されつつあるクアイサであったが、この時、新たな脅威が2人のそばまで来ている事に、彼はまだ気づかない。

Re: 暗黒の時代があった 第1章 出会い ( No.6 )
日時: 2017/02/09 16:27
名前: 裕之 (ID: xkLYJqiv)

「ようやく見つけた!」
 聞き覚えのある気高い少女の声。
「君は……!?」
「どうも〜」
 長く黒いコートをなびかせ、右手に大きな鎌を持ち、クアイサ達に微笑みかけている人物。それは、あの銀髪の少女だった。
「…………」
 クアイサは、最悪だと思った。ジョン達が去って安心していたところに、今度は銀髪の少女である。
「こんな所でまた会えるなんて奇遇よね。もしかして私達、運命の赤い糸で繋がってたりして?」
「…………」
 二度と関わりたくないと思っていたクアイサにとっては、笑えない冗談だった。
「……ちょっと〜。話しかけてんですけど?」
「…………俺になんの用ですか……?」
「え? 違う違う。私が用があるのは後ろの子よ」
 そう言って銀髪の少女は、ロカリスを指差す。
「ロカリス!?」
 クアイサが振り向く。
 ロカリスは、敵意を向けるような眼差しで、銀髪の少女を見ていた。
「まったく迷惑な話よね。こんな超とーい所にまで逃げたりしてさ。まぁでも、これでようやく帰れそう。思ってたよりは、時間かからなかったわね。というわけで、一緒に来てもらうわよ? レイフォール・ロカリス」
 銀髪の少女の呼びかけに対し、ロカリスは何も答えない。ただ静かに目を瞑り、俯くだけだった。その姿は、何か深く考え込んでいるようにも見える。
 そして、ロカリスは何を思ったのか、閉じていた目を開けると、突然、自転車の荷台から降りだすのであった。
「ロカリス?」
 何故降りるのかわからなかったクアイサは、思わず声をかける。
「チキンありがとね。美味しかった。あと、服と髪留めもありがとう。絶対大切にするから」
「……いきなりどうしたんだよ?」
 別れ際が来たかのように語るロカリスに、クアイサは戸惑う。
「もしかしたら、逃げ切れるかなって思ったんだけど、やっぱり無理だった。クアイサは早く逃げて」
 それだけを言い残し、ロカリスは歩き出す。銀髪の少女の方へと。
「ロカリス!」
 クアイサが強く呼びかけるも、ロカリスは止まらなかった。
 クアイサは迷う。このままロカリスを行かせてしまうか、引き止めるか。本心では、引き止めたい、と思っているクアイサ。しかし、ロカリスを引き止めるという事は、ロカリスを探していた銀髪の少女の邪魔をするという事になる。そして、銀髪の少女はガバン。邪魔をすればただでは済まされない。クアイサの頭の中で、思考がグルグルと回り出す。そしてクアイサは、一つの答えに辿り着いた。
 乗っていた自転車をなぎ倒し、ロカリスの下へと走り出すクアイサ。
「ロカリス!」
 クアイサが右手を伸ばすと、その右手は、振り向いたロカリスの右腕を掴むのであった。
「どうして……!?」
 危険だとわかっていて尚、自分に関わろうとするクアイサを見て、ロカリスは驚いていた。
「一緒に逃げよう!」
「……!?」
 クアイサの言葉に、ロカリスの心が揺さぶられる。しかし、クアイサと一緒に逃げる訳にはいかなかった。クアイサに危険が及ばないためにも。
「無理だよ。この状況でどうやって逃げるの?」
「方法は……一応ある……!」
 魔与も使えないのにどんな方法があるというのか、ロカリスには、強がってるようにしか見えなかった。
「…………仮に逃げられたとしても、ガバンはどこまでも追ってくる。私と一緒にいたら、殺されちゃうかもしれないよ?」
「そうならないように逃げるんだよ!」
「無理だよ……」
「無理じゃない!」
「…………」
 こんな状況下で見せる、クアイサの根拠のない自信。しかし、少しだけ、少しだけだが、ロカリスの心の中で、消えていた希望がその姿を見せ始める。
「怖くないの?」
 小さな希望。その希望にすがっていいものか、その確認をしたくてロカリスは尋ねる。
「そりゃ……怖いよ……。今だって物凄く手が震えてる。でも、そういう問題じゃない。放っておけないだろ!」
「…………」
 クアイサの本心を聞いたロカリス。ロカリスは思った。クアイサと一緒なら、諦めずに逃げ切れるかもしれない、と。ロカリスの答えは決まった。
「あのさぁ! あんたなんのつもり?」
 ロカリスを引き止められた銀髪の少女が、不機嫌そうにクアイサを睨みつける。
 しかし、クアイサはそれに動じず、ロカリスを庇うかのように、前に出た。
「話があります!」
「……?」
 すると突然、クアイサは土下座を始めた。膝と両手を地面に付け、腰を丸め、深々と頭を下げている。
「お願いです! 俺達を見逃してください! お願いします!」
 土下座をしながら必死にそう訴えるクアイサ。これはクアイサの秘策だった。とはいえ、100パーセント成功する保証もない秘策。だが、銀髪の少女にこそ、この方法が有効だとクアイサは考えた。
「……はあ? そんな事できるわけないでしょ。バカなの?」
「お願いします!」
「……暗黒死亡率って恐ろしいわね。力が無くても、バカじゃなければもう少し長生きできたでしょうに」
 呆れた銀髪の少女は、クアイサをガバンの障害と見なし、排除するため歩き出す。
「君は本当は優しい人だ!」
 しかし、クアイサが発したこの言葉が、銀髪の少女の足を止めた。
「勘違いしてるようだけど、あの時、別にあんたを助けたくて助けたわけじゃないから。私は、あのつまらない魔与の使い方してた男をビビらせたかっただけ。だから、優しさとかそういうの関係無いの。ただの偶然。わかる?」
「で……でも……! 俺は助かったんだ……! 感謝してるんだ……!」
 自信がなくなってきたのか、声が震えだすクアイサ。
「……あっそ。でも残念ね。ここで死ぬんだから」
 顔を上げたクアイサが見たもの、それは、両手で鎌を持った彼女が、その鎌をクアイサに振るおうとする死神のような姿だった。

Re: 暗黒の時代があった 第1章その2 ジョンの憧れ ( No.7 )
日時: 2017/02/09 16:42
名前: 裕之 (ID: xkLYJqiv)

第1章その2 ジョンの憧れ

 黒くて大きなヘリが飛んでいる。そのヘリは、徐々に高度を下げると、治安本部近くにある、大きな建物の屋上へと着陸した。
 ヘリの扉が開く。
 降りてきたのは、4人の男たち。
 彼らはガバンだ。今回、ロカリス捜索の任のために、このラフテルの地へやってきた。
「制圧に時間がかかりそうだな」
 治安本部を見てそう語るのは、ガバンの幹部である、ドレッド・ダスティン。無精髭を生やし、先端が尖った六角柱型の小さな赤い飾りを付けたマントを羽織る、壮年の男だ。
「伊達にこの町を守ってきたわけじゃないという事でしょう」
「治安部隊って名も、ただの飾りじゃないってことか」
「ドレッドさん!」
 突然、部下の1人から呼びかけられたドレッド。
「ん?」
 ドレッドが振り向くと、部下はある方向を指差していた。その方向は黒いヘリの近くで、そこには、3人の人物が。
「ここは子供の遊び場じゃないぞ! 帰れ!」
 ドレッドが3人に言い放つ。
 3人の人物は、ジョンとジョンの仲間2人だった。
「ガバンの偉い人って、オジさん達?」
 ジョンが尋ねる。
 ドレッドは、呆れたように溜め息をつくと、ジョン達の方へ歩き出し、こう言った。
「聞こえなかったのか?」と。
 その瞬間、ジョンの横を何かが高速で飛んでいった。
 倒れるジョンの仲間の1人。
「……っ!? おいダン!? どうしたダン!?」
 異変に気づいたもう1人の仲間が、ダンに呼びかける。
 そんな中、ジョンだけは微動だにしなかった。ただ静かに、ドレッドを睨みつけている。
「そいつみたいに死にたくなかったらとっとと帰れ! こっちは忙しんだ!」
 ジョンの仲間であるダンは絶命していた。口や胸から血を流しながら。
 しかし、ジョンの口から出た言葉は、とんでもないものだった。
「…………俺をガバンに入れてくれ!」
「……何?」
 なんとジョンは、自分をガバンに入れるよう要求したのだ。
 その言葉に、ジョンの仲間が黙っていなかった。
「おいジョン……! お前何言ってんだよ……!? ダンが殺されてんだぞ!?」
 殺されたダンを気にもかけず、そればかりか、ガバンに入れてくれとまで言い出すジョンに、仲間が切れた。
 しかしジョンは、何も答えず、振り向きもしない。
「おい!」
「…………」
「……くっ……! なんなんだよ……。何がしたいんだよ……? なんなんだよこれ……!」
 怒りと恐怖と不安でいっぱいになったジョンの仲間の瞳には、涙が滲み出ていた。
「…………」
 そんな仲間の悲痛な声を聞いていながら、何も答えないジョン。それもそのはず。何故なら、もはやジョンにとって仲間の事などどうでもよかったからだ。今のジョンが気にしているのは、ガバンに入れるかどうか、ただそれだけ。仲間が死んでいようが泣いていようがどうでもよかった。
「………………お前名前は?」
 仲間を殺されてもなお動じないジョンに興味が湧いたのか、ドレッドが尋ねる。
「パンダ・ジョン」
「何故ガバンに入りたい?」
「この退屈な日常から抜け出し、自由になるため」
「…………はっ、はは。そうか。自由になりたいか?」
 ドレッドが笑う。
「ずっと退屈だった。治安部隊とかいう糞みてえな奴らがいるせいで、自由に魔与を行使できなかったからな」
 ジョンにとって、この町での生活は不自由で退屈なものだった。せっかく魔与が扱えるのに、治安部隊がその魔与の行使を禁止していたからだ。もし、魔与を行使しているところを見つかれば、最低でも一ヶ月、犯罪行為に使用していた場合、最低でも5年以上は拘束される。自由に魔与を行使したいジョンにとっては、最悪の環境だった。
 だからこそ、ジョンはガバンに憧れた。
 何者にも邪魔されず、日々、世界各地で魔与を行使し続けるガバン。彼らの起こす事件はどれもスケールが大きく、この不自由で退屈な町で育ったジョンにとっては、とても刺激的だったのだ。
「…………なるほどな」
「で? 俺を入れてくれるのか? くれないのか?」
「うーん……、そうだなぁ……。………………まっ、いっか。いいぞ。入れてやる」
 ドレッドの出した答え、それは、ジョンのガバン入れを認めるものだった。
「ドレッドさん……!」
 ドレッドの判断に不満があるのか、横で聞いていた部下が焦るように呼びかける。
「いいじゃねえか。若い人材ってのは大切だぞ。それに、魔与が使えるなら、来る者拒まずだ。それが例え子供でもな」
「しかし……、こんな得たいの知れない子供を……」
「パンダ・ジョンだ」
 名前で呼べと言わんばかりに、ジョンは自分の名を告げる。
「…………」
 得たいが知れない、と同時に、気に食わないガキ、と部下は思った。
「ふっはっはっはっはっ。よろしくな、パンダ・ジョン」
 ドレッドが笑う。
「ところで……、お前の後ろでうずくまってる友人だが……、そいつはどうするんだ?」
 ドレッドの言葉に、ジョンの仲間がビクつく。
「あー……。そういや忘れてたな」
 振り返るジョン。
「お前、もう帰っていいぞ。じゃあな」
 もう用はないとばかりに別れを告げるジョン。仲間に対する別れの言葉にしては、あまりにも素っ気なかった。
「…………」
 何も言わず、ジョンの仲間は立ち上がる。
「ちょっと待て」
 突然、ドレッドが呼び止めた。
「ジョン、お前の魔与でそいつを殺してみせろ」
「は?」
「まだお前の力を見ていない。ガバンに入れたはいいが、使い物にならないんじゃ意味がないからな。それに、人を殺せないようじゃガバンではやっていけないぞ」
「……そういうことか」
 ジョンの目付きが鋭いものに変わる。
「おい……、冗談だよな……!?」
 怯えるジョンの仲間。
「悪いな」
 ジョンは魔与を使い、仲間を浮かす。
「ああっ……。あ……。やめろ。やめろ。やめろ。やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ——!」
 こうなっては最後。逃げる事はできない。
 ジョンは仲間の腹部を中心に、上半身を右、下半身を左に捻っていく。
「うぅうっ……! あっ……! がっ……!」
 体の捻じれていく痛みに耐え切れず、呻く仲間。
 なんとおぞましい光景だろう。腹部の皮膚は千切れていき、そこから血が流れ出す。そして口からは、胃の内容物が吐き出されていた。
 やがて意識を失うジョンの仲間。大きく口を開けながら、首をダランと下げる。
 最後にジョンは、脊髄を捻折ると、仲間の体を放り投げた。
「これでいいか?」
 全てを見ていたドレッドはニヤリと笑う。
「合格だ。改めてよろしくな、パンダ・ジョン」
「どーも」
「早速だが、しっかり働いてもらうぞ」
「何をすればいい?」
「我々はこの少女を探している」
 そう言って見せてきたのは、ロカリスの全身写真だった。
 とはいえ、今とは服装も髪型も違う。今のロカリスが髪留めで前髪を留めているのに対し、写真のロカリスは留めていない。服に関しても、今のロカリスが緑のパーカーと黒の長ズボンを着ているのに対し、写真ではヒラヒラのスカートやフリルの付いた上着を着ている。この写真は、大分前に撮られたものだ。
「……ん? ……っ!」
 最初こそ、クアイサと一緒にいた少女だとは気づけなかったが、顔付きと体格が同じであるため、ジョンはすぐに気づく事ができた。
「名はレイフォール・ロカリス。15歳だ。お前にはこの少女を探してもらう。どうやらお前の魔与は、拘束に向いているようだからな」
 写真を受け取るジョン。
「どうしてこの女を?」
 いったいどんな理由があってロカリスを探しているのか、ジョンは気になった。
「我らガバンの安定と世界を支配するために必要だからだ」
「はあ?」
 ドレッドの回答は要領を得ないものだった。
 ジョンは興味を失せる。
「細かい事は気にするな。与えられた仕事をしろ。ガバンで長くやっていくには必要なスキルだ」
「ふーん。まっ、そうさせてもらうわ。で? こいつを見つけたらどうすればいい?」
「第一に報告。携帯は持ってるな?」
「ああ」
 ドレッドは携帯を取り出すと、画面に自らの電話番号を表示させ、それをジョンに見せた。
「これが俺の番号だ。登録しておけ」
 ジョンは言われた通り、ドレッドの番号を携帯に登録する。そして、登録し終えた事をドレッドに合図した。
「よし。第二に、目標の拘束だ。逃げられないようしっかり押さえておけ。それとな……、激しく抵抗される事もあるだろうが、間違っても殺すなよ? 万が一殺してしまった場合、死よりも恐ろしい事が待ってると思え。いいな?」
 脅すように語るドレッドであったが、ジョンは意にも介さず「はいよ」と答えるのみであった。
「では、お前に赤い鎖の番号を与えよう」
「番号?」
「作戦遂行にあたって我らの間で身分の証となるものだ。報告の際に必要となるからしっかり覚えておけ」
「なるほど。で? 俺の番号は?」
「赤い鎖、2、9、2、1、だ」
「2、9、2、1……」
「ガバンの赤い鎖の名に恥じない働きを期待してるぞ。頑張れよ少年」
 そう言い残し、ドレッドは部下を連れ歩き出す。
 1人残ったジョンは、静かに笑った。そして、日の落ちた空を見てこう呟くのである。
「最高の日になりそうだ……」と。

第1章その3 旅立ちの夜に輝く星々  ( No.8 )
日時: 2017/02/18 10:13
名前: 裕之 (ID: xkLYJqiv)

第1章その3 旅立ちの夜に輝く星々

 外はすっかり暗くなり、夜空の星々が淡くその姿を見せ始めた頃、クアイサ、ロカリス、
スノールの3人は、ラフテル駅・東口構内にいた。
 3人の内、クアイサとスノールは揉めているようで、駅を行き交う人々は、迷惑そうに
彼らを避けている。
「逃げる前に早く私の体を元に戻しなさいよっ……!」
 うつ伏せになって倒れているクアイサの上に乗り、彼の首を後ろから腕で締め上げてい
るのは、ギリシア・スノールという名の15歳の少女。彼女は、あの銀髪の少女である。
 今は訳あって、クアイサに対しこんな事をしている。
 というのも、時は約30分前に遡る。
「——君は本当は優しい人だ!」
 しかし、クアイサが発したこの言葉が、スノールの足を止めた。
「勘違いしてるようだけど、あの時、別にあんたを助けたくて助けたわけじゃないから。
私は、あのつまらない魔与の使い方してた男をビビらせたかっただけ。だから、優しいと
かそういうの関係無いの。ただの偶然。わかる?」
「で……でも……! 俺は助かったんだ……! 感謝してるんだ……!」
 もしかしたら、銀髪の少女を勘違いしていたかもしれない。そんな不安がクアイサの脳
裏をよぎる。
「……あっそ。でも残念ね。ここで死ぬんだから」
 顔を上げたクアイサが見たもの、それは、両手で鎌を持った彼女が、その鎌をクアイサ
に振るおうとする死神のような姿だった。
 クアイサは死を覚悟する。
 しかしその時、クアイサの後ろからロカリスの両腕が。ロカリスは、後ろから抱きつく
ようにクアイサの体に両腕を回すと、クアイサに対し、こう言った。
「大丈夫だよ」と。
 その瞬間、2人に当たる寸前だった凶器の鎌は、白い光の粉となって瞬時に消え去った。
「へえっ!?」と驚くスノール。
 当然である。鎌が消えるなんて事態は、スノールにとって完全に予期せぬ事態。そもそ
も、スノールの持っていた鎌は、スノールが魔与の力によって具現化していた武器。出現
させるも消失させるも、全てはスノールの意思で行える。それが彼女の意思とは関係なく
強制的に消失させられたのだから、スノールが驚くのは当然だった。
 鎌が消失してまもなく、スノールは体の自由を奪われる。別に、誰かに体を押さえられ
ているわけではない。抗う事のできない見えぬ力によって、身動きが取れないのだ。
 少しだけ地を離れるスノールの体。
「ぐうっ……! ……っく……。なに……これっ……?」
 スノールの体は、白く眩しく光っていた。
 いったい何が起きているのか、目の前で見ているクアイサにもわからない。
 すると次の瞬間、スノールの体から、一瞬だけ強い光が放たれた。
 あまりの眩しさに、クアイサは顔を背ける。
 そして、次々とスノールの体から出て行く大きな光の玉。その光の玉は、まるで吸収さ
れるかのように、クアイサとロカリスの下へ集まっては消えていく。
 眩しさと恐怖から、クアイサは目を開けられない。
 しばらくすると、この現象は治まり、スノールの体から光は出なくなった。そして、抗
えない力から解放されたスノールは、地へと戻される。
「はぁ……はぁ……はぁ…………」
 必死に体を動かそうとして疲れたのか、膝を崩したスノールの息は上がっていた。
「…………いったい……、何を……したの……?」
 尋ねるスノール。
「……俺は……、俺は何も……」
 クアイサは何もしていない。そもそも、あの現象はクアイサが引き起こしたものではな
いのだ。
「まぁいいわ。こんな事して、ただで済むと思わないことね……」
 立ち上がったスノールがクアイサを睨みつける。
「…………」
 しかしクアイサは、腰が抜け何もできない。
 スノールは、右腕を伸ばし手の平を上に向けると、再び鎌を具現化させるため、念じ始
めた。
 しかし、ここで異変が起きる。
「……!? どういうこと……!?」
 その異変とは、鎌が具現化できない、という異変である。
 本来なら、念じてすぐに具現化させる事ができるのだが、今のスノールには、それがで
きなくなっていた。
 焦ったスノールは、もう一度念じ始める。
 一方ロカリスは、スノールが焦っている間に、クアイサに対しこう耳打ちをした。
「彼女はもう力を使えない。早く逃げよう」
「ええ……!? それ本当……?」
「うん。今なら大丈夫。だから早く」
「…………わかった、行こう」
 立ち上がったクアイサとロカリスは、手を繋ぎながら、倒れた自転車の方へと走り出す。
「あっ! ちょっとあんた達、待ちなさい!」
 2人の逃走に気づいたスノール。彼女もまた、2人を逃がすまいと走り出す。
 急いで自転車を立てるクアイサ。しかし、そんな彼の脇腹に、まっすぐ伸ばされたス
ノールの両足が直撃する。クアイサは、短い声を上げると共に、スノールの飛び蹴りによ
って、1メートルほど左へと飛ばされた。
「ううっ……、う……」
 呻きながら脇腹を押さえるクアイサ。
 スノールは、そんな彼に近づくと、胸倉を掴みこう言った。
「あんた、私の体に何した?」
 どうやらスノールは、さっきから自身の身に起きている異変が気になるようだ。
「……何って……、何もしてないよ……」
「嘘つくな! 今日あんたと対峙するまで、ずっとこんな事なかったんだから! 早く私
の体を元に戻しなさいよ!」
 そう言いながらスノールは、クアイサの体を激しく揺さぶる。
「だから何もしてないって!」
 必死にそう訴えるクアイサだが、スノールは聞く耳を持たない。
 そんな中、ロカリスが助けに入った。
「ダメ! クアイサが死んじゃう!」
 スノールの後ろから腕を回し、なんとかクアイサから引き離そうと試みるロカリス。し
かし、そんな彼女の額に、スノールの後頭部による頭突きがヒットしてしまう。
「ふぎゅっ!」と短い声を上げ倒れるロカリス。
 救出は呆気なく失敗に終わった。
「あ!? ロカリス! んんっ……! このっ!」
 クアイサは咄嗟に、横へ転がるようにして、上にまたがっていたスノールを振り倒す。
「嘘ッ!?」
 火事場の馬鹿力とでも言うのか、さっきまで弱々しく脇腹を押さえていたとは思えない
クアイサの力にスノールが驚く。
 2人の体勢は逆転した。さっきまでスノールが上にまたがっていたのに対し、今度はク
アイサが上にまたがり、スノールを押さえ込んでいる。不味いと思ったスノールは、魔与
を使い抜け出そうとするが、鎌の具現化だけでなく魔与自体も使えなくなっていたため、
うまくはいかなかった。こうなると、純粋な体の力では、クアイサには勝てない。スノー
ルに、この体勢から抜け出す手段はなかった。
「お願いだからもう追わないでくれ!」
 そうお願いするクアイサに対し、スノールは、「それよりも私の体、元に戻しなさい
よ!」としか言わない。クアイサは呆れる。
「だから何もしてないって!」
「嘘つくな!」
「…………はぁ…………。もういいよ……」
 クアイサの望む返答は、得られそうになかった。
 これ以上は話しても無駄だと思ったクアイサは、スノールを解放すると、額を押さえ座
り込んでいるロカリスの下へと向かった。
「大丈夫?」
 心配するクアイサ。
「……あの女、石頭」
「……そ、そうか……」
 余裕そうなロカリスを見て、クアイサは、「とりあえず、大丈夫そうだな……」と思っ
た。
「立てる?」
「うん」
 2人は立ち上がると、改めて、後ろにいるスノールに対し、警戒心を強めた。
 一方のスノールはというと、既に立ち上がり、2人を睨みつけている。
 睨み合う両者。
 最初に口を開いたのは、スノールだった。
「気絶させるなり殺すなりすれば良かったのに。見逃してくれと言う割には、行動と言葉
が矛盾してるわね。馬鹿なの?」
「酷い事はしたくない。だから見逃してほしいんだよ」
「だ〜か〜ら〜、そんな事できないって言ったでしょ? 何回言わせるつもり? ほんと
の本当にほんとの本当にミラクル馬鹿なの? ここまでくるとさすがに頭の方を疑うわね。
というか! 早く私の体、元に戻しなさいよ!」
 もはや、話は平行線を辿る一方だった。
 クアイサは、見逃してもらう事を諦める。
「もし、また俺らを捕まえようとするなら、俺は君に、酷い事をしなくちゃならない」
 見逃してもらうのが無理なら、と、クアイサは脅しとも取れる発言を口にする。
「はあ? 私とやろうって言うの? ろくに力も使えないあんたが?」
「今の君になら……、俺でも勝てる……!」
 クアイサには自信があった。今のスノールは魔与が使えない上、先程の取っ組み合いで
は、クアイサがスノールを押さえつける事に成功している。魔与を使わない純粋な戦いで
なら、スノールを退ける自信があった。
「…………」
 スノールは焦る。クアイサは、スノールが魔与を使えなくなっている事を知っているか
らだ。
 このままでは不味いと思ったスノールは、他の仲間を呼ぶため、携帯を取り出す。
「……!? まさか!?」
 携帯を操作し始めたスノールを見て、クアイサが感づく。
 しかし次の瞬間、ロカリスが叫んだ。
「そうはさせない!」


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