複雑・ファジー小説
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- まなつのいきもの
- 日時: 2017/08/29 23:31
- 名前: 星野 ◆a7opkU66I6 (ID: aruie.9C)
はじめまして、星野です(´ ` )
夏って、どうしてノスタルジックな気持ちになるんでしょう、不思議。
ファンタジーではないです、普通の中学たちのお話になります。
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>>10 >>11 >>12 >>13
- Re: まなつのいきもの ( No.4 )
- 日時: 2017/07/04 13:32
- 名前: 星野 ◆a7opkU66I6 (ID: aruie.9C)
【サンシャインガール】
遠くでトランペットのメロディが聞こえた。何度か躓いていたが、3回目で明瞭に滑り出す。窓に目線をやれば、サッカー部の鮮やかな青いユニフォームが、校庭を駆け回っていた。
「五十嵐、余所見しないで。日誌、早く終わらせよ」
飯塚はため息をついて、オレの肩を軽く叩いた。拍子に、制汗剤の匂いが鼻をくすぐる。セーラー服の襟から、小麦色の肌が見えて思わず顔をそらす。耳の裏が妙に熱い。
飯塚は、沢城と鏡合わせだ。いつも自信に満ちていて、物事をはっきりと言える女子。沢城が百合なら、飯塚はきっと向日葵だ。
「悪かった、後はオレがやっておくよ。剣道部あるだろ」
「いいよ、私も日直だもん」
そう言って、オレの前の席に腰を下ろした。書きかけの日誌に視線を落とす。無味乾燥とした文章が綴られているばかりだ。
「これじゃ、面白味がないでしょ」
飯塚は軽やかな動作で、オレからシャープペンを奪い取る。飯塚は楽しそうに口元を緩めて、備考欄を落書きで埋めていく。バランスの崩れた犬や、やけに尻尾の太い猫は、ある種の親しみやすさを感じさせた。
「五十嵐は」
手を動かすのを止めないまま、飯塚は語りかける。
「天文学研究会だっけ、楽しい?」
「楽しい、っていうよりは、それらしいこと全くしてないからな」
「星とか見に行かないの」
「2年の春休み、部長と顧問でプラネタリウムに行った」
それが、オレが覚えている唯一の活動だった。ここから電車に乗って3駅先の、小さなプラネタリウムで、オレたち以外に観客はいなかった。星を、特別好きだと思うことはない。けれどもあの時見上げた人工的な光彩に、僅かに感動したことを覚えていた。
あれは一等星のアークトゥルス、先を見るとスピカがあるの。春の大曲線って言ってね。
ガイド音声よりもはやく、熱に駆り立てられた囁き。真剣な沢城の横顔は、触れたら涼しい音を立てて砕けてしまいそうだった。
「部長って、沢城さんだっけ」
「知っているのか」
少し、驚いた。2人は何の共通点もなさそうだったからだ。
「1年の時同じクラスだったんだ。あの子、すごくしっかりしてるよね」
そうだろうか。反論しようとして、無意識に口を開けた。
「沢城は、危なっかしいやつだ。放っておいたら、きっと消えてしまう」
「へえ」
飯塚は、愉快そうに目を細める。気づけば、日誌に書けるスペースなんてなくなっていた。
「沢城さんのこと、好きなんでしょ」
「どうしてそうなる」
「違うの」
そう問われて、オレは苦笑いして首を横に振った。沢城のことは、オレのお節介だ。そういった感情ではない。飯塚はつまらなそうに口を尖らせる。きっと、目の前の彼女は気づかないのだ。オレの、好意の行き先を。けれども、それでいいと思った。
「じゃあ、先生に日誌渡してくる。部活、頑張ってな」
「やば、のんびりしすぎた。ありがとう、五十嵐!」
勢いよく立ち上がり、飯塚は教室を飛び出そうとする。高い位置で括った、彼女の長い髪が左右に揺れた。一度だけ、彼女は振り向く。
「ねえ、五十嵐。もう一度、剣道部に戻ってきなよ」
俺が返事をするより先に、飯塚は走り去ってしまった。憧憬と熱量がない交ぜになる。オレは、向日葵に焦がれていた。
- Re: まなつのいきもの ( No.5 )
- 日時: 2017/07/05 08:19
- 名前: 星野 ◆a7opkU66I6 (ID: aruie.9C)
【無色透明】
いつもより、部室に向かう足取りは重かった。久住くんが入部してから、私は何かにつけては、部活を休んだ。だから、だいたい1週間ぶりに、部室棟に踏み入れたことになる。私と五十嵐くん以外は幽霊部員だったとはいえ、ずっと部長が顔を出さないわけにはいかない。部室の前に着くと、一度呼吸整えてから、扉を開ける。
「沢城、久しぶりだな」
部室の中には、五十嵐くんの姿しかなかった。彼は机上にノートや参考書を広げ、難しい顔をしている。
「ごめんね、ずっと部室任せっぱなしにして」
「構わない」
「……久住くん、来てた?」
「来たり、来なかったりだな」
よかった。胸のつかえが、少しだけとれる。私もいつもの場所に座り、鞄の中から本を取り出した。大抵、五十嵐くんは受験勉強、私は読書に取り組む。私の志望校はさして頭のいいところではない。このままいけば、合格圏内だった。
夜の帳の色をした表紙をめくる。図書がで借りた本だからか、乾いた匂いがした。小説を読むとき、あまり感情移入することはない。前にクラスで流行っていた恋愛小説を貸してもらったことがある。女子たちは口々に泣いた、だとか感動したといった類のことを言っていた。確かに泣ける内容なのだとは思ったけれども、ただ、それだけだった。
「あ、沢城さん。今日は来てるんだ」
「……久住くん」
心臓が、波立つ。上手く、名前を言えただろうかと不安になった。久住くんは、どうやら今来たばかりのようだ。飄々とした表情で、私の隣の席に座った。ポケットからミュージックプレーヤーを取り出し、緩やかな動作でイヤホンを耳につけ、目を閉じてしまった。部室は、奇妙な静けさに包まれる。
最近の久住くんはおかしい。時々、例の笑顔を浮かべながら、私に見えないナイフを突き立てるのだ。
「教室に忘れ物した、ちょっと行ってくる」
沈黙を破ったのは、五十嵐くんだった。気遣わしげな視線を感じたので、私は笑顔で「大丈夫」と頷いた。
「五十嵐くん、ついでにコーラ買って来てよ」
「自分で買ってこい」
「あはは、ケチだな」
屈託のなく笑う久住くんを、五十嵐くんは軽くあしらい、出て行ってしまった。“みんなの久住くん”は、誰とでもすぐに打ち解けてしまう。長年の親友みたいな気安さで、話しかけるのだ。2人だけの部室は、澱ばかりが残る。
「何読んでるの」
不意に話しかけられて、思わず本を落としそうになった。
「星の、本」
「星の一生、恒星進化論について……。駄目だ、頭パンクしそうだわ」
開いていたページを覗き込まれる。久住くんは楽しそうだ。
「星の一生っていうと、まるで、生きているみたいだ」
久住くんが呟く。しかし狭い部室では、確かな音になってあたりに響いた。
「そっか。沢城さんは、星が好きなんだな」
「……そうだね」
今日の久住くんは、とても穏やかだ。私は、何故だか次の言葉を探さなきゃいけない気分になった。
「久住くんは、音楽とか好きなの」
机に置かれていたミュージックプレーヤーを示す。所々に傷があり、年季の入ったもののように思えた。久住くんの両目が、僅かに見開かれる。
「聴いてみる?」
イヤフォンを手渡される。躊躇いがちに、私はそれを耳に着けた。スローテンポの曲だった。掠れた、しかしよく透き通ったボーカルの声は、世の中の不条理を叫んでいる。
「この曲、ありきたりでつまらないよな」
「好きじゃないの?」
珍しく、久住くんは逡巡した素振りをみせた。
「俺、好きとか嫌いとか、よくわかんないんだよね」
- Re: まなつのいきもの ( No.6 )
- 日時: 2017/07/05 20:24
- 名前: 星野 ◆a7opkU66I6 (ID: aruie.9C)
【誰も知らない 1】
6月ともなれば、中間試験も終わり、体育祭に浮き足立つ時分だ。その日は朝から体育祭の予行練習で、曇り空が広がっていた。正午を回れば生徒の大半は飽きてきたのか、出番がない時は応援席で雑談に興じるようになる。オレは恨めしげに、そのようなやつらを睨みつけた。今年は運悪く、体育祭実行委員になってしまったのだ。いくら予行とはいえ、仕事は大量にあった。
「五十嵐。申し訳ないけどこの段ボール、教室に運んで置いてくれる」
「はい、わかりました」
担任に呼び止められる。段ボールを持ち上げれば、想像よりは重くなくて拍子抜けした。校舎に入ると、若干の違和感を覚える。いつもは嫌でも誰かに会うというのに、この時ばかりは静謐としていた。大半の生徒は校庭に集まっているのだから、当たり前だろう。
「本当にうざったい」
3年の教室が並ぶ階に差し掛かる。話し声が聞こえた。
「あたし、佐倉のそういうところ、気に食わない」
「……ごめんなさい」
不穏な気配がして、オレはこっそりと声のした方に近づく。沢城達のクラスだった。教室の中を見れば、数人の女子生の姿があった。思わず、顔をしかめる。どう見たって、これは明らかないじめだった。佐倉と呼ばれた女子の表情は、うつむいていてわからない。
「ねえ、郁子がどれだけあんたに迷惑したと思ってんの」
とりわけ綺麗な容貌を持った女子が、佐倉の肩を掴んだ。郁子。オレはその名前を知っていた。沢城だ。もしここで、沢城の名前が出なければ、オレは助けに入っていただろう。
「清水こわーい」
「佐倉さんかわいそ、清水に目つけられちゃって」
どうやら、清水が中心人物らしい。周囲のからかいに、清水は形の整った唇を釣り上げる。
「……おい」
耐えきれなくなって、オレは飛び出した。段ボールなんて適当に投げ捨てる。清水はこちらを一瞥しただけで、くすくすと笑い声を立てる。周りの取り巻きは、流石に焦っていたようだった。
「生徒は校舎立ち入り禁止だぞ、さっさと出ていけよ」
「あんただって、そうじゃん」
「オレは、実行委員の用事で来た」
清水と正面から対峙する。よく見れば、清水の顔立ちは確かに人目をひくものだった。黒目がちの目は、溢れそうなほど大きい。思わず飲み込まれそうだ。
「まあいいけど。ほら、佐倉行くよ」
強引に佐倉の腕を引っ張る。佐倉の指先は微かに震えていた。
「待てよ。その子、顔が真っ青だ。オレが保健室に連れてく」
「清水、もう行こうよ、やばいって」
「あっそ、勝手に連れてけば」
清水は冷静だった。佐倉から手を離すと、仲間と連れ立って去って行く。ようやく、佐倉は顔を上げた。
「……ありがとうございます」
「いつも、あんな感じなのか」
「いつもは郁ちゃん、あ、私の幼馴染が助けてくれます」
消え入りそうな弱々しい声だった。佐倉は力なく微笑む。
「沢城か」
「知ってるんですか」
一瞬、佐倉の瞳に光が灯る。もっと自分自身に手をかけてやれば、彼女は輝けるのだろうと思う。
「私が困ってると、郁ちゃんが手を引っ張ってくれるんです。でも、そろそろ自立しなきゃ」
自分に言い聞かせるような呟きだった。事実、そうだったのかもしれない。励まそうとして、口を閉ざす。オレは、他人だった。佐倉と俺の間には、硝子の仕切りがあった。無理に、壊す必要はない。
- Re: まなつのいきもの ( No.7 )
- 日時: 2017/07/06 23:17
- 名前: 星野 ◆a7opkU66I6 (ID: aruie.9C)
【誰も知らない 2】
しばらく、教室で時間をつぶしていた。お互いに話すほうではなかったので、多少の気まずさはあった。気がかりだったので、応援席まで送ることを申し出たが、やんわりと断られた。見かけによらず、強いのかもしれない。そうして小走り気味に1日が過ぎて行く。放課後になれば、倦怠感は増すばかりだった。ちょうど部活もないし、今日は早めに帰ろう。ホームルームが終わると、すぐに昇降口へ向かう。
「あれ、五十嵐くんじゃん」
外履きに履き替えたところで、久住と出会った。真白のシャツからのびる、筋張った腕は汗ひとつかいていない。
「予行練習って、絶対意味ないよな」
屈託のない笑みを俺に向ける。そうだな、と軽く相槌を打った。
「宗治、早く行こう」
昇降口を出たところに、男子のかたまりが立っていた。そのうちの1人が、こちらに呼びかけている。小柄で、気怠げな三白眼が妙に印象的だった。久住は両手を合わせて、軽く頭を下げる。
「ごめん。やっぱ俺、行けないわ」
「次は絶対来いよな」
「今度な」
渋々、といった体で彼は引き下がる。怪訝そうにオレを見たが、すぐに行ってしまった。
「五十嵐くん、一緒に帰ろうぜ」
「え、さっきのあいつらはいいのか」
「これからゲーセン行くんだって。でも俺の親、厳しいからそういうの禁止されてるんだよね」
「久住も大変なんだな」
2人で肩を並べて歩き出す。こそばゆい感じがした。案外、交わす会話はたわいもないものだった。次の期末試験の調子はどうかと尋ねれば、久住は返事の代わりに苦笑する。側から見たら、ごく普通の友達だった。
「そういえば、沢城と同じクラスだよな」
絡みつくような暑さに、半ば辟易する。なんとなく気だるいのは、この天気のせいもあるだろう。坂道に着くと、歩くペースは下がっていく。
「うん、それがどうかした」
「お前、沢城に何かしたか」
久住がゆっくりと立ち止まる。
「どういう意味」
表情はいつもの久住だった。オレは、久住のことは嫌いではない。こうして話せば、面白いやつだと思う。けれども、どうしたって久住宗治という人柄が、見えてこないのだ。掴もうとすれば、そこには何もなかったみたいに、ただ夜の闇が広がっている。
「部活を避けてるふうだったから。いや、何もないならいいんだ」
自然と早口になる。久住は、淡く口角を上げた。
「少し、話をしただけだよ」
心外だ、とも言いたげに肩を落とした。久住は坂の上を仰ぎ、向こうの方に見える濃紺色の屋根の家を指差した。外装は立派なのに、荒涼としていた。生活感が希薄で、人が住んでいないように思える。
「あれ、俺の家なんだ。今度、時間があったら遊びに来いよ。兄貴の部屋とか、面白いものいっぱいあるから」
胸の中一直線に、何かがすとんと落ちてくる。ああ、そうか。久住も、あの家と同じだ。生ぬるい風が頬を撫でる。俺はまだ、動き出せそうにはなかった。
- Re: まなつのいきもの ( No.8 )
- 日時: 2017/07/07 10:29
- 名前: 星野 ◆a7opkU66I6 (ID: aruie.9C)
【サイレントナイト】
体育祭は、例年より早い梅雨によって、中止になった。しばらくは学校行事もないから、宙ぶらりんの雰囲気のまま、日々を過ごす。塾から出ると、日中降り続いていた雨はすっかり上がっていた。少量の青と紫をグレーで塗りつぶした、夜の空を見上げる。燻んだ星が控えめに瞬いていた。
塾に通うことになったのは、結菜に誘われたからだ。それから毎週、土曜日は駅近くの塾に足を運んでいる。終わった後の、うっすら浮き足立った心地が好きだった。隣接されたコンビニに入り、紙パックの紅茶とノートを買う。何人かの同級生とすれ違い、会釈、あるいは気づかなかったふりをした。
「郁ちゃん、遅れてごめんね」
コンビニを出ると、息を切らして結菜が走り寄ってきた。
「ううん、待ってないよ。それじゃあ、行こうか」
「うん」
半歩遅れて、結菜が着いてくる。特に約束はしたわけではない。けれども、先に終わった方が相手を待つことは、密やかなルールになっていた。6月も半ばに入ったとはいえ、夜の空気はうっすらと肌寒い。半袖で来たことを、少し後悔した。
「郁ちゃん、少し、話したいことがあるの」
絞り出すような声だった。私は結菜を盗み見る。恐れと、それから微弱な興奮が入り混じった顔だった。私は、結菜の柔らかい手をとる。
「それなら、あそこの公園に行こう」
帰路には、小さな公園があった。ブランコと、鉄棒、それからベンチしか設置されていない。街灯の明かりが、弱々しく私たちを照らす。無言のまま、ブランコに並んで座った。
「それで、話ってなに」
「あのね、この前、たぶんなんだけど」
ゆっくりと、慎重に言葉を紡いだ。
「郁ちゃんの部活の人に、助けてもらったの。短髪で、眼鏡をかけてる人」
私は、話を上手く飲み込むことができなかった。結菜が言っているのは、明らかに五十嵐くんだった。けれども、どうして結菜と関わる機会があったのだろう。私が次の句を継げずにいるのを察したのか、結菜はまた静かに語り出す。
「清水さんたちのグループに、体育祭の予行の時に絡まれてたところを、連れ出してくれたの。でね、その時思ったんだ」
「……何を」
「わたし、いつも誰かに助けられてもらってばかりだなって。だから、わたし、強くなろうと思うの。今まで、迷惑かけてごめんね」
そう話を切り結ぶ結菜の話を、わたしは呆然と聞くことしかできなかった。ごめんね、という一言が頭の中で反芻される。
「そんなこと、気にしなくていいよ。だって、私たち、幼馴染なんだから」
「高校生になったら離れ離れになっちゃうよ」
「一緒のとこに行くから、気にしないで。私、結菜のこと大好きだよ。ねえ、だから今まで通り」
舌が縺れる。結菜は、柔らかく微笑んだ。その余裕のある表情に、苛立ちが募る。どうして、結菜は平気なのだろう。私は、こんなにも苦しいのに。
「郁ちゃん、本当は頭良いのに、志望校下げてくれてるの知ってたよ」
そんな言葉が聞きたいんじゃない。私は強く被りをふった。結菜は小さい子供を諭すみたいにして、私の手を握ろうとする。私は、それを振り払った。結菜の瞳が、困惑に揺れる。いい気味だ、と私は口角を引きつらせた。
ずっと私の後ろにいてくれれば良かったのだ。私のそばで、日陰になってくれれば、そうしたら、私は、清水さんたちから、悪意から守ってあげられたのに。私の、かわいそうな結菜。迫り上がる感情を喉元で飲み込む。
「わかった。結菜が言うなら、そうしよっか」
自分でも、びっくりするくらい抑揚のない声だ。こんな時に脳裏に浮かんだのは、久住くんだった。私を頼る人が、結菜がいなければ、空っぽなのだ。