複雑・ファジー小説

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炎船ナグルファル【第2章 執筆中】
日時: 2017/09/09 19:42
名前: ももた (ID: jFPmKbnp)

古代文明『アーセナル』

遥か昔、大規模な戦乱によりその強大な文明は滅んだ。その時代の生きた証『遺産』だけが世界には残され、それらを納める遺跡は5人の聖女によって守られている。人々は古代文明のことなど忘れ、平和に過ごしていた……



***



よせばいいのに、また新しい小説始めてます……
初めましての方は初めまして!ももたです。
今回は異世界モノ(?)です。人間以外の種族が出てきます。

注意!!
この作品は、多少のグロ表現、下ネタ等を含みます。苦手な方はブラウザバック!



***



第1章:草原の遺産『ガルム』
>>1>>4-11

第2章:森の遺産『ヨルムンガンド』
>>13-

間章壱:グラン族の生態
>>12



***



〈用語解説〉

『アーセナル』……かつて栄えた文明。高度な技術を持っていたらしい。大きな戦争で滅んだ。

原初の民・オリジン……普通の人間。亡国アトランティスに暮らしていた。謎の天変地異がアトランティスを襲い、現在は絶滅したとされる種族。

草原の民・グラン……足が獣のように発達した種族。草原の国プレリオンに多くが暮らしている。丈の長い上着を帯で結んだ民族衣装が特徴的で、男女とも下半身に衣服はまとわないことが多い。寿命は短め。

森の民・バルド……ウサギのように、長く垂れ下がった耳が特徴。五感が鋭く、森の国シャロン=ウッドに大半が生活している。風通しの良い服装をしている。グラン族と同じく、寿命は短め。

砂漠の民・クォーツ……熱さをしのぐため、顔や身体に鱗を持つ種族。砂漠の国サヘリアに多くが暮らしている。ターバンやマントで直射日光を避けた服装をしている。厳格な身分制度があり、装飾の多さで身分が表されている。非常に寿命が長い。卵生。

高山の民・コンダー……両腕から羽が生えていて、足はカギ爪になっており、飛行することができる。高山の国アンデールに多くが暮らしている。袖のないポンチョを被り、気温の激しい変化に対応している。卵生。

雪原の民・フロスタ……顔や体が毛皮に覆われており、他種族に比べると小柄。雪原の国ブリジアにほとんどが暮らしていて、国外には稀にしか存在しない。襟のついた洋服を着ていて、厚着をする傾向にある。クォーツ族に次いで寿命が長い。



***



〈登場人物〉

リーフェン
見た目はバルド族、服装はフロスタ族という、一風変わった女性。外観年齢は、人間の年齢で20歳前後。目深にキャスケットを被っている。小さな飛空挺で旅をしている。男勝りな性格。

バル(12歳)
グラン族の少年。虎の足を持っている。人間に換算すると16歳だが、言動はやや子供っぽい。好奇心が強く、面倒ごとを持ち込んでは周りを困らせる。

ポーラン(9歳)
バルド族の少年。人間に換算すると12歳。バルド族特有の喋り方をする。皮肉屋な民族柄なので、言動がいちいち腹立つ。

ライラ(62歳)
クォーツ族の女性。人間に換算すると20歳。サヘリアの富豪だが、シャロン=ウッドの別荘(砂の館)に住んでいる。物知りで、とても落ち着いている。既婚者らしい。



***



〈お客様〉

銀竹様

Re: 炎船ナグルファル ( No.4 )
日時: 2017/09/14 19:22
名前: ももた (ID: q9W3Aa/j)

「おかえり、リーフェン」

「おかえりって……これはお前の家じゃなくて、私の船だろ?」

リーフェンは足でドアを開けながら中に入る。両手に抱えた荷物を、机の上にどかっと置いた。保存食の干し肉に、何本もの瓶が机に並ぶ。

「この国は食材のレパートリーが少なくて困るな……」

食材を保存庫に移しながらリーフェンが愚痴る。

「そんなことないぞ!牛肉に、鶏肉に、羊肉に、馬肉も揃ってる!」

全部肉じゃないか……と、リーフェンは呆れた。あらかたしまい終わると、買って来た馬乳酒を一本開けて、直接口をつけて飲む。口の中に酸味が広がった。

「いーなー。俺にも一本くれよ!」

「おまえ、まだ12歳だろ?」

「もう12歳だ!」

確かに、グラン族は成長が早いので、12歳と言えば身体は十分に成熟している。馬乳酒もアルコールの強い酒ではないし、飲めないことはないが……

「まだミルクにしておけ」

リーフェンは、別で買っておいた馬乳を差し出した。バルはぶつくさ文句を言いながらも、出されたものは遠慮なく手をつけた。

バルは無意識のうちにリーフェンの顔をじっと見る。

「なんだ?」

「ううん、なんでもない……」

一瞬、本棚を見てしまったことがバレたような気がして、心臓が縮こまった。しかし、特に何も気がついていないリーフェンの様子を見て、安堵する。

「……なぁ、リーフェン。この国には、いつまで居られるんだ?」

「さあな。『遺産』の調査が終わるまで、当分は居るんじゃないか?」

「適当なんだな」

リーフェンはふんと鼻を鳴らし、馬乳酒を飲みきった。空き瓶入れに、空になった酒瓶を放り込む。

「『遺産』って、何なんだろうな」

ふと、バルが呟いた。リーフェンは少し驚いたような表情でこちらを見る。バルは、失言だったかと、内心ドキッとした。しかし、リーフェンは穏やかな声で

「だから、それを調べるんだろう?」

と答えただけだった。その言葉にわずかな揺らぎを感じたのは、彼女にも隠し事があるからなのかもしれない。居心地の悪さを感じたバルは、馬乳を飲みきると、また明日出直すことにした。


***


歩いて家に帰ったため、ついた頃には夕飯時になっていた。近隣の家々からも、美味しそうな匂いがする……どれも肉の焼ける匂いではあるが。

家のドアを開けると、大柄な男がキッチンに立っている。筋骨隆々の壮年で、足はバルと同じく虎である。

「遅いぞ、バル!俺が1人で食べちまおうかと思ったぞ!」

「ごめん、伯父さん」

伯父は丸焼きにした動物の肉を食卓にのせる。やや原型を留めているそれは、兎肉であるらしい。一瞬ではあるが、あのバルド族の耳が脳裏をよぎった。

「またあの女のところに行ってたのか?悪さでもされてねえだろうな?」

「大丈夫だよ。ていうか、俺が何かされる側なんだ……」

苦笑を浮かべながら、バルは席に着いた。食欲旺盛な男二人の皿は、見る見る間に骨だらけになっていく。食事の手は止めずに、バルは伯父に話しかける。

「なぁ伯父さん。『遺産』のことについて何か知ってる?」

「『遺産』か。まあ、伝承みたいなもんだが……昔、世界を支配していた『アーセナル』って文明が滅んで、残された『遺産』を5人の聖女が各地に封印したって話だ。遺跡には、『遺産』を守る聖女たちが共に眠っているらしい」

「聖女?」

「よく知らねぇが、美人なんじゃないか?」

今聞いているのは、そんなことではないのだが……と思いつつ、バルはもも肉にかぶりついた。1番食べ応えがあって、味も美味しいところだ。

「じゃ……アトランティスって知ってる?」

「知ってるぞ。今は絶滅したオリジン族の住んでいた、海の国だ。100年ほど前、とんでもない自然災害で、一夜にして滅んだらしいが……」

伯父は小骨を爪楊枝がわりにしながら、天井を仰ぎ見る。すると、何かを思い出したようだ。

「そういや俺の祖父さんが、アトランティスが滅んだ前の晩、遺跡から地響きがしたとか言っていたな。つっても、祖父さんもそのまた祖父さんから聞いたとかで、嘘か本当かは知らねぇが」

バルは食事の手を止めて、少し考えた。確かノートには、聖女がアトランティスを滅ぼしたという記述があった。遺跡から地響きがしたというのは、嘘ではないのかもしれない。

その夜、考え事をしすぎたせいか、バルはなかなか寝付けずにいた。

Re: 炎船ナグルファル ( No.5 )
日時: 2017/08/22 19:42
名前: ももた (ID: jFPmKbnp)

暗闇の中、少女は目を覚ました。背伸びをしたり、あくびをしたりといった人間らしい反応はない。すくっと上体を起こし、ピタリと静止した。

「起動」

どこか人間離れした声で唱える。すると、少女の両目に赤い光が宿った。

「危険因子反応を確認。コード『アーセナル』に基づき、迎撃を開始します」

***

飛空挺内設のシャワーを浴びたリーフェンは、タオルを頭にかぶせたまま寝室に戻った。部屋の壁には、6枚の図絵が貼られている。それらを睨みつけながら、リーフェンはベッドに腰を下ろす。彼女の短い髪は、タオルでバサバサと拭くとすぐに水気を失った。タオルを洗濯カゴに放り込むと、昼間と同じキャスケットを被る。

「聖女……か」

皮肉っぽくリーフェンは呟いた。世界の大半は、彼女らを大戦争を終結させた女神か何かと思っているらしい。

「だとしたら私は、神への冒涜者だな……」

リーフェンがそろそろ横になろうかと思った時、部屋の中でカタカタという物音が聞こえた。

***

ズシン……ズシン……

不審な物音でバルは目を開けた。もともと眠りについていなかったので、目が冴えている。その音は、遺跡の方角から聞こえていた。バルは窓に近寄り、音の聞こえた方へ顔を向けた。すると……

アオォォォォォォォォォォォォオン

バルは目を疑った。月明かりに照らされたソレは、自然界に存在するとは思えない代物だった。

バルの家の何倍もの大きさがある、狼の影だ。

「伯父さん!起きて!遺跡の方から何か来る!」

バルは急いで伯父の寝室に向かった。無理やり揺すり起こすと、悪態をつきながら体を起こしてくれた。

「ウルセーな……便所くらい一人で行けるだろ……」

「ふざけてる場合じゃねぇんだって!早く外に出てくれ!」

バルが騒ぎ立てているうちに、他の住人も目を覚ましたらしい。家の外から悲鳴が聞こえ始める。ようやくただ事ではないと理解してくれた伯父は、外套とランプを手に外に出る。そしてバルと同じようにその姿を目の当たりにし、言葉を失った。

「逃げろ!遺跡と反対の方角へ走るんだ!」

誰かが叫んだ。それを皮切りに、街はたちまちパニックになる。バルと伯父は、周りのまだ目を覚ましていない家々を周り、皆に危機を知らせた。足の悪い老人や、まだ歩けない赤ん坊には、家畜の馬を放ってそれに乗せる。

「バル!ここは俺に任せて、お前もそろそろ逃げろ!」

「嫌だ!まだ全部回っていない!」

伯父と問答をしていると、不意に黒く大きな影が街の上を通過した。リーフェンの飛空挺だ。

「リーフェン……?遺跡に向かっているのか!?」

『遺産』、地響き、〈アトランティス滅亡〉……バルの脳裏を、様々な言葉がよぎる。

(まさか……次はプレリオンの番なのか……?)

最悪の事態を考えついてしまった時には、バルの足は動いていた。伯父の呼び止める声も虚しく、風のように人の波を走り抜ける。バルは逃げる人々とは反対の方向に、遺跡の方角へと飛んでいく飛空挺を追いかけた。

Re: 炎船ナグルファル ( No.6 )
日時: 2017/08/25 15:40
名前: ももた (ID: jFPmKbnp)

街は静まり返っていた。住人たちは皆、町を離れたようだ。男は、遺跡の方角を見て立ち尽くしていた。

不意に、蹄の音が聞こえた。街の奥から、黒馬に乗った2人の人影が見える。向こうも男に気がつくと、馬を男の側に止めた。

「スール!何をしている。もう他に住人はいないぞ。お前も逃げろ!」

男の狩り仲間である、獅子足のアルスランだった。彼の懐には、彼の妻が抱えられている。

「甥っ子が遺跡に向かった。あいつに何かあったら俺は……弟に顔向けできねぇ……」

遺跡へ足を踏み出そうとするスールの肩に、アルスランは手を置いた。少し痛いぐらい、その手に力が込められる。

「それでお前が死んでみろ。バルは帰る場所を失うぞ?」

スールは悔しそうに歯噛みした。確かに、アルスランの言う通りかもしれない。

「きっとバルだって、無鉄砲に突っ込んでいる訳じゃないさ。丁度、あの飛空挺が飛んで行くのが見えた……今は生き延びて、あの子が帰ってくるのを待とう」

ようやくスールも折れたようだ。大人しく、遺跡に背を向けて走り出した。アルスランはしばらく、スールの背中を見つめる。アルスランの妻は、傍でずっと不安そうな顔をしていた。彼女の表情に気がつくと、そっとその髪をなでる。

「そんな顔するな。お腹の子に障る」

アルスランは馬の腹を蹴飛ばした。馬はいななきを上げ、走り出す。アルスランたちも、バルの無事を祈りながら、街を離れていった。



***



リーフェンは、全速力で飛空挺を飛ばした。まっすぐ遺跡へと舵をとる。途中、遺跡に巣を作っていたであろう鳥たちが逃げてきた。まるで黒雲のように群れをなすそれらに、視界を遮られる。

「くそっ!」

リーフェンは悪態をつき、眼下を確認する。幸いにも、プレリオンの家屋は低い。これなら高度を下げても大丈夫そうだ。

高度を下げても尚、視界にかかる鳥たちを鬱陶しく思っていると、ようやく市街地を抜けた。更に高度を下げ、機体は完全に鳥の群れから自由になる。

そうして低空飛行を続けていると、今度は眼下に困ったものが見える。この異常事態に、あろうもことかその姿は、飛空挺にも劣らぬ速度で遺跡へと向かっていた。

「何をやっているんだ、バル!?」

リーフェンはコックピットの窓を開け、腹の底から叫ぶ。エンジン音にもかき消されず、その声は届いたらしい。

「リーフェン!ごめん、俺、約束を破って本棚のあのノートを見たんだ!」

並走しながらバルが叫ぶ。リーフェンはその言葉が耳に届くと、目を見開いた。怒りやら、後悔やら、よく分からない感情でしばし混乱していると、バルが続けて口を開く。

「あれから自分で少し考えたんだ。聖女が『遺産』を守ってて、その聖女のせいでアトランティスが滅んだ。アトランティス崩壊前夜、遺跡で動きがあった。それをつなげて考えると、あの化け物は……」

バルが答えを言おうとするより早く、リーフェンが答える。

「そうだ。あの巨大な狼の名は『ガルム』……かつてアトランティスを滅ぼした『アーセナル』の『遺産』の1つだ」

やっぱり……バルは内心呟いた。リーフェンの目的は『遺産』を調べることではない。彼女はすでに『遺産』の正体を知っていたのだ。

「……それで、なんでお前がここにいる?」

リーフェンが問いかける。

「聖女は……『遺産』は、プレリオンを滅ぼすつもりなのか?」

リーフェンは少し間を置いて答える。

「……可能性があるだけだ」

リーフェンは慎重に言葉を選んだ。まるで、事態がそこまで深刻では無いように装って。バルがここで引き返してくれることに、わずかな望みをかけて……

「俺も行く!乗せてくれ!!」

リーフェンは、ため息をついた。数日共に過ごしただけでもわかる。バルはこういう奴だ。諦めて、自動操縦に一旦切り替える。そして、昇降口を開けて、バルに手を伸ばした。

「死んでも、後悔するなよ?」

バルは、力強くその手を取った。

Re: 炎船ナグルファル ( No.7 )
日時: 2017/08/27 00:36
名前: ももた (ID: jFPmKbnp)

飛空挺の中は、案外エンジン音は響かなかった。リーフェンの声が普通に聞こえる。

「……で、どこまで知った?」

リーフェンが問いかける。もう隠し事をすることはない。バルは正直に答えた。

「言葉が古かったから、理解できたのは、聖女がアトランティスを滅ぼしたってこと。あとは……」

バルは思い出そうと頭をひねった。その間も、リーフェンは『ガルム』に向かって飛び続けている。

「そうだ!〈最後の遺産『ナグルファル』の完成〉!……でも『ナグルファル』って何だ?」

リーフェンは小さく息をついた。

「そこまで知っているなら、始めから話してもいいだろう……」

舵を取りながらリーフェンは語り始める。

「『アーセナル』の時代に大戦争が起こり、ある時、聖女が『遺産』を率いて現れ、その大戦を終わらせた」

「どうやって?」

バルが問いかけた。

「『遺産』は、『アーセナル』に生み出された古代兵器のことだ。聖女たちはその力を使って、戦争を行えないように、人類の大半を死に至らしめた」

バルは言葉をなくす。聖女と名がつくくらいだ。そんな破壊的なことをするとは、考えたことも無かった。リーフェンは話を続ける。

「戦争の原因となる危険因子を排除し、もう戦争の起こる心配はないと判断すると、奴らは『遺産』とともに眠りについた。しかし、そんな危険な物が世界に存在していいはずがない。オリジン族はそう考え、『遺産』を破壊する『遺産』を生み出した」

リーフェンはかかとを鳴らした。



「それがこの船……『炎船ナグルファル』だ」



バルは目を見張る。一国を滅ぼそうとしているあの狼と、拮抗する力を持った『遺産』に、まさか自分が乗っているとは想像もしなかった。

リーフェンはそこで口をつぐむ。その顔には緊張が走っている。バルが前方に顔を向けると、『ガルム』はもう近くまで迫っていた。

「さあ、行くぞ。これは、オリジン族の悲願の戦いだ!」

リーフェンは舵を切り、『ガルム』の目の前に踊り出た。

Re: 炎船ナグルファル ( No.8 )
日時: 2017/08/28 15:32
名前: ももた (ID: jFPmKbnp)

『ガルム』は飛空挺の姿を見つけると、今一度大きな遠吠えを上げた。

アオォォォォォォオン!

それはまるで、おもちゃを見つけた子犬のように。バルはその様子を見て……

「本物の狼みたいだと、思ったか?」

心中をリーフェンに探り当てられていた。バルは頷いて問いかける。

「兵器って言ってたけど、見た感じは生き物じゃないか?」

「そりゃそうだ。あれは元々、普通の狼だった」

『ガルム』は飛空挺にめがけて、前足を大きく振り上げた。リーフェンは舵を取り、飛空挺を後進させてそれを避ける。機体が大きく揺れた。

「うわぁ!!」

「しっかり掴まっていろ!」

飛空挺は、その一撃でできた『ガルム』の隙をつき、一気にその間合いに踏み込む。飛空挺が充分に『ガルム』に接近すると……

「喰らえ……」

操縦レバーについていたボタンを押した。途端、コックピットの面前が真っ赤に染まる。バルは、その激しい業火に言葉を失った。

コックピットの上方から、その炎は放出されている。炎は上からなでおろすように、『ガルム』に襲いかかっていた。

「向こうは、狼を改良した生物兵器だ。だったらこっちは、火炎放射器を使わせてもらうのさ」

リーフェンは操縦を続けながら言う。一方に偏った攻撃にならぬよう、『ガルム』の周りを旋回しながら炎を照射する。

炎に悶える狼を見つめながら、バルは震撼していた。これが『遺産』同士の戦いかと実感する。横からリーフェンの顔を見た。その横顔は、戦いを楽しんでいるように見えた。

(どうして……そんな顔が出来んだよ……)

バルは戸惑いながらも、『ガルム』と『ナグルファル』の戦いを見ていた。優勢なのは、こちら側だ。このままいけば……

「ダメだ……リーフェン、攻撃をやめて、すぐに後ろへ下がって!」

「あ?」

「早く!」

攻撃をやめたがらないリーフェンに、バルは説得を試みた。しかし、敵の動きの方が早かったようだ。

「なに!?」

リーフェンが驚きの声を上げたのと、機体に今までで一番大きな揺れが来たのは、同時だった。降り注ぐ炎で視界が悪くなり、自分の優勢に酔っていたリーフェンは、その初期動作を見逃してしまった。

『ガルム』が反撃に出たのである。

飛空挺は火炎放射のため、充分に下降していた。攻撃が届く距離なのは、『ガルム』の方も同じだったのだ。『ガルム』は力を振り絞り、前足を飛空挺に叩きつけた。

リーフェンは、飛空挺を全力で上昇させる。やがて落下の勢いは消え、地面に衝突する直前に機体の体勢を立て直すことができた。

「オリジンの技術力さまさまだな」

「ぺ……ぺしゃんこになるかと思った……」

まだ果敢に立ち向かうリーフェンに対し、バルは機材にしがみついて情けない声を上げた。現在の飛空挺は、サヘリア製がほとんどだが、もしこれがそうだったら、この衝撃には耐えられなかっただろう。改めて、アトランティスの技術力には脱帽する。

「さあ、もう一度たたみかけるぞ!」

リーフェンは力強く叫び、舵をとった。今ので余裕ができた『ガルム』は、またその前足を振り上げる。リーフェンはそれを華麗に避けて見せると、火炎放射のスイッチを握りしめた。

「今のは広範囲放射だったが、次は一点照射だ。そのデカイ図体に、風穴あけてやる!」

ヒロインとは思えないようなセリフを吐いて、リーフェンはスイッチを押した。しかし、何も起こらない。

「は?え?くそっ!」

何度かカチッカチッと押すが反応はせず、リーフェンは機体を後退させながら広範囲放射に切り替えた。すると、一応は炎が噴き出すが、火力が弱いことが確認できる。

「壊れたのか?」

「いや、違う。砲筒に、何か詰まってやがる!」


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