複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

錆びた首輪と黒い猫
日時: 2017/09/28 01:47
名前: 雪月桜 (ID: ???)  

とある女性が、自身の理想と現実の差に悩み、その先に見たモノをベースにした物語です。

難しい物語ではありません。
作者の思考を数滴加えた、優しくて切ない物語になる予定です。

Re: 錆びた首輪と黒い ( No.5 )
日時: 2017/10/12 01:58
名前: 雪月桜 (ID: dOS0Dbtf)

直の場合は探求心と物を違う角度から見るという好奇心、それらから成長したものだと言えるだろう。
『好奇心は猫をも殺す』と言う言葉があるが、直が殺されたのは自身の心だと言える。
直は幼少期から記憶力と演技をする上での計算力が高かった。
ただし万能ではなく、直が少しでも興味を持たなくては記憶力は発揮しないし、演技力は直の本来の人格を少しずつ削りゆく。
つまり少しでも興味を持てば記憶出来ない物はなく、自身の人格の消費を気にしなければ、演技に隙はなかった。
幼少期はどちらの短所も気にせず、親が与えた物をひたすら記憶し、周りが望む姿を演じていた。
周りの人々が喜ぶ姿が嬉しくて、もっと幸せになってほしいと懸命に努力していたものだ。
そうする事が互いを幸せにし、お互いを思いあう事につながると思っていたから。
だが、その幸せは長くは続かなかった。
直の心に違和感が生まれたのだ。
違和感の正体は自我。
本来の自らの意志と呼べる物。
自我は誰にでも生まれるもので、自我がないのはただの人形と同じと言えるだろう。
直はその違和感の正体が何か、初めは全くわからなかった。

Re: 錆びた首輪と黒い ( No.6 )
日時: 2017/09/30 02:39
名前: 雪月桜 (ID: dOS0Dbtf)

わからないが何故か、どうしようもなく興味を引かれた。
まるで街灯に照らされた明かりに群がる蛾のように、香しい花畑に集まる蝶のように、興味を持たずにはいられない。
当然だろう。白原直は人形ではないのだから。
そして直は、自身の自我に出会ってしまった。
『こんにちは、はじめまして』
自我がそんなふうに話しかけてきた気がした。
「こんにちは、君は誰?君は…何?」
辿々しくも強い意志で直も訊ねる。
不思議と怖くはなかったが、得体のしれない存在に戸惑いは隠せない。
『おびえなくて良いよ、僕は君の意志、本当の君なんだから。名前は、そうだな……自我とでも呼んでくれればいい。本当はもっと早く会いに来たかったんだけどね、君と君の世界が、僕が現れるのを邪魔するからなかなか来れなかった』
自我は何故か優しく思える存在だった。
暖かくて暗い、深海に佇むような穏やかな存在。
こんなに優しい存在をなぜ直と直の世界は、今まで邪魔していたのだろう。
疑問を直はすぐに言葉にした。
実際は直の心に語りかけているのだから、言葉にすると言うのは少し違うかもしれないが、とにかく聞かずにはいられなかった。

Re: 錆びた首輪と黒い ( No.7 )
日時: 2017/10/12 02:02
名前: 雪月桜 (ID: dOS0Dbtf)

「邪魔をしたって、それ、どういう意味なの?」
『……うん、簡単に説明すると、邪魔をしたのは演じている偽物の君だよ。僕は自我で、本来の君の中に生まれ育つ意志。君がこの世に生を受けた日から僕は存在していたけど、生まれ初めの僕は力が弱い。そしてその弱い僕の力と、君の周りの人々の強い意志によって『偽物の君』は生まれたんだ。だけど文字通りそれは本来の君ではない、周りが望む君を演じて生まれたものでしかない。いずれ自我、つまり僕は力を蓄え本来の君の一部となる。そうすると君はより強く、本来の君を表せられるようになるってわけ。ここまではわかったかな?』
困惑を浮かべながら聞く直の言葉に、自我は意気揚々と語り始めた。
より簡略化すると『自我が現れなかったのは、私が演じていた偽物の私のせい』である。
『自我は弱くとも生まれたその時からあるもので、成長とともに強くなる』という事だろう。
自身の内で考えを整理し、直は自我の話を理解していく。
「とりあえず理解は出来たと思うよ」
小さく頷く直に、自我は満足そうに微笑む。

Re: 錆びた首輪と黒い ( No.8 )
日時: 2017/10/08 02:13
名前: 雪月桜 (ID: dOS0Dbtf)

『理解してくれて良かった。それじゃあここからが、本番だ。君にしてほしい事がある』
自我がしてほしい事、それはいったい何なのだろう。
疑問を浮かべる直に、自我は祈るように語りかける。
『僕を受け入れて。本来の意志である僕を受け入れて、君として生きるんだ。偽物の意志より、僕を受け入れてほしい』
普通は簡単なことなのだろう。
自分を受け入れ生きていく。直だって、自分らしく生きていきたい。
でもそんな事、可能なのだろうか。
直は何ものにも縛られず、自由に生きる事ができると思う。
けれど、周りの人達はどうだろうか。
今までの直と違う、自我を持った直を受け入れてもらえるとは思えない。
誰だって、自分に都合の良い人は好きだろう。
それはおそらく、直も同じだ。
しかしこれからの直は、以前の直と違い自らの意志が混ざる。
他者の理想を演じる事を一番には出来ない。

Re: 錆びた首輪と黒い ( No.9 )
日時: 2017/10/12 01:54
名前: 雪月桜 (ID: dOS0Dbtf)

変化は急なものではないだろうけど、不安は残る。
だが、こう考えている時点で、直自身変化しているのかもしれない。
「わかった、君を受け入れるよ。と、言葉にする事しかできないんだけど」
『今はそれで良いよ。あとは自然と変わっていくから』
不安げな直の言葉に、自我は小さく頷き微笑み、直の中へと溶けていった。
そんな風に自我を受け入れたのは、小学生三年の初夏の頃だったと思う。
あの日から直は徐々に変わったのだ。
良くも悪くも変わっていったのだ。


Page:1 2



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。