複雑・ファジー小説

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たおやかな毒、あるいは【完結】
日時: 2017/10/26 21:09
名前: 凛太 ◆wSaCDPDEl2 (ID: aruie.9C)

親愛なるジェンキンス氏
拝啓

 すっかりご無沙汰いたしまして、申し訳ありません。私は今、母の生家があるロイストンに滞在しております。朴訥とした片田舎ですが、中々趣があるでしょう?
 この度こうして筆を執ることになったのは、貴方が民族伝承の類を収集していると聞き及んだからです。ロイストンの滞在中、興趣ひかれる手記を書見する機会を得まして、その写しを同封致しました。僅かばかりでも、貴方の創作の糧になることを願っております。

***

【1話】>>1-2
【2話】>>3
【3話】>>4
【4話】>>5
【5話】>>6-8
【6話】>>9-10
【7話】>>11-12
【最終話】>>13

完結しました、ありがとうございました。

Re: たおやかな毒、あるいは ( No.1 )
日時: 2017/10/11 19:31
名前: 凛太 ◆wSaCDPDEl2 (ID: y68rktPl)

 私は、15の時に恐ろしいものを見ました。それ以来、生きている心地がしないのです。ずうっと夢を見ているような気にさえなってしまいます。私ももう長くはありませんから、思い出せる限りのことを書き留めておきたいのです。あれは、本当に現のことだったのでしょうか。



 私はロイストンという辺鄙な田舎町に生まれました。父は腕利きの医者で、母は爵位を持つ名家の出でした。ですから裕福とはいわずとも、暮らし行きはけして不自由ではなかったのです。私は敬愛する両親に育てられ、一つの不満もなく、まさしく幸福そのものでした。
 ロイストンは有り触れた田舎町でした。唯一の特色は、妖精やドワーフなど、その手の奇譚が多かったことでしょう。悪戯をした幼子がいると、決まって大人は取り替え子の話をしたものです。目には見えなくても、確かに口伝えの伝承は、暮らしに溶け込んでいたのです。時折そういった風習を聞きつけ、奇特な資産家がやって来ます。キングストン一家も、そうでした。
 あれは私が9つの頃でしょうか。町の外れにある、大きなお屋敷に買い手が現れたと大騒ぎになりました。そうして1ヶ月後、キングストン一家が越して来たのです。どうやら大層な資産であるらしく、たちまち町中の噂になりました。私の家はロイストンの中でも権力を持っていましたから、すぐにキングストン一家から晩餐に招待されたました。その夜のことは、鮮明に覚えております。とびきりのお洒落をしました。愛らしい梔子色のイブニングドレスを着て、金の髪には銀細工の髪留めをあてがいました。同じく正装をした両親に手をひかれ、私たちは古めかしくも美しいお屋敷に向かったわけです。

「イヴ、くれぐれも失礼のないように」
「わかりました、お父様」

 馬車に揺られていると、父が私を諌めました。けれども当の私は、突如舞い込んで来た非日常に心を躍らせていました。キングストン一家には、家長のロナルド・キングストンと、2人の子供がいるようです。奥様は数年前に病で亡くなったと聞きました。
 お屋敷に着くと、私たちを迎えたのは人の良さそうな家政婦でした。労いの言葉をかけ、すぐに中へと案内されました。私はお屋敷を通して、きっと御伽噺のお城を夢想していたのでしょう。お屋敷は清潔で何もかもが完璧に思えたのです。私はすぐにこのお屋敷を気に入りました。もちろん、キングストン一家もそうでした。ロナルド・キングストンは非常に愛嬌のある方で、私たちに会うなり、快活な握手を求めました。大柄でしたが、紳士然とした服装や気遣いは誰よりも劣らなかったでしょう。
 しかし、一等私を魅了したのは、2人の子供たちでした。1人は私と同じ年頃の、美しい少女です。名はレイチェルと言いました。暗いブラウンの巻き毛にグレーかかった双眸、なによりもすうっと透き通った肌の色。人形のようでした。幼いながら、私は彼女に取り入りたくて、必死に言葉を探しました。けれども、純粋な美を前にして、言葉など不要だったのでしょう。私はただ立ちすくみ、曖昧な笑みを浮かべることしかできませんでした。

「私、レイチェル・キングストン。あなたのお名前はなあに?」

 レイチェルはドレスを摘んで、見事なお辞儀をしました。私も慌てて、後に続きます。

「は、はじめまして。イヴリン・メイブリックよ」
「イヴ、よろしくね。こちらは弟のニコラス」

 レイチェルに手招きされ、背後から少年がおず、と出てきました。ニコラスは、退廃的という言葉を体現したような少年でした。髪や瞳の色、顔の作りはレイチェルとそっくりでした。しかし纏う雰囲気は対称的なものだったのです。

「ニコラスは私の3つ下なの。この子、恥ずかしがり屋だから困っちゃうわ」

 レイチェルは鈴が鳴るような笑い声を立てました。ニコラスは顔をほのかに赤らめ、姉の背に隠れてしまいます。その振る舞いに庇護欲を掻き立てられ、私は身を屈めてニコラスに笑いかけました。

「はじめまして、ニコラス。私も人見知りな方だから、貴方の気持ちがわかるわ。よければ、貴方の良き理解者になりたいのだけれども」

 思えばこれが、私が犯した最初の過ちでした。しかしどうして、この儚くも綺麗な少年に冷淡でいられましょう。彼に優しく手を差し伸べること、これが当然の義務のように感じられたのです。

Re: たおやかな毒、あるいは ( No.2 )
日時: 2017/10/12 22:23
名前: 凛太 ◆wSaCDPDEl2 (ID: aruie.9C)

 晩餐会はこの上なく和やかな調子で始まりました。ロナルドは如才ない持て成し手でありましたから、すぐに父や母は彼に親しみを覚えました。品の良い卓子の上に並べ立てられた、華美な料理の数々にも、両親は感嘆いたしました。
 一方レイチェルと私は、すぐに打ち解けました。会話の中で、私たちは趣味が似通っていることを発見しました。食べ物の好みや、お気に入りの詩、暇な時間の潰し方まで、どれも一緒だったのです。私はこのこと知った時、大層心震わせ、この少女は掛け替えのない友となるであろうことを予見しました。事実、齢15の頃まではそうだったのです。恐らくは、あのひどく陰鬱な出来事が起こらなければ、私たちの友情は続いていたでしょう。さておき、レイチェルも私を気に入ってくれたことは、最上の喜びでした。
 豪華な夕食をとり終えると、レイチェルは彼女の子供部屋に案内してくれました。ニコラスは3歩後ろから、所在なく着いてゆきます。

「私たちのお母様はとても美人だったのよ」

 部屋に着くなり、壁に掛けられた写真を指差しました。そこには赤ん坊を抱えた、顔立ちの整った女性が微笑みを携えています。

「本当、とても綺麗ね」

 私は賛辞を惜しみませんでした。けして、世辞で言っているわけではありません。本心なのです。レイチェルは私の相槌に、大変満足そうに頷くと、葡萄色のソファに腰掛けました。そうして空いている隣の席を軽やかに叩き、私をそこへ座るように誘うのです。私はけして抗わず、控えめに座りました。ニコラスはというと、姉の顔色を恐々と伺った後、部屋の隅にある安楽椅子に、小さな体躯を収めました。

「ねえイヴ、私たちってどうやら仲良くなれそうじゃない?」
「私もよ。とっても嬉しいわ」

 レイチェルの瞳は、眩いばかりの期待で輝いていました。きっと、恐らくは私もそうだったのでしょう。互いにいろいろなことを話しました。その中でわかったことは、やはり彼女は聡明であるということでした。私には到底考え付かないことを、さも当然の顔をして話すのです。けれども彼女はけして驕ることをしませんでした。たった9つの少女が、かくも完璧であり得るのでしょうか。

「ああ、それでね。ちょうど叔母さまから頂いた珍しい絵本が書架にあるわ。ちょっと待っててね」

 確か、好きな作家の話題に飛び乗った頃だったように思います。唐突にレイチェルは立ち上がり、部屋を後にしました。残されたのは、私とニコラスの2人。私はここぞとばかりに、ニコラスに話しかけました。

「ロイストンは気に入ったかしら」

 いきなり話しかけたわけですから、ニコラスは驚きで数度瞳を瞬かせました。そうして力強く、目一杯に何度も頷くのです。その小動物のごとく愛らしい様に、私はつい頬を綻ばせました。

「ねえ、イヴリン」

 まさしく消え入りそうな声でした。ニコラスは束の間の逡巡を経て、次の句を継ぎます。

「妖精って、本当にいるよね?」

 思いがけない問いかけに、私は僅かに当惑しました。けれども当時はまだ幼い少女でありましたから、妖精やドワーフなどの幻想めいた話を信じておりました。加えてニコラスと近しくありたいという願いから、私はそれを肯定したのです。

「私は信じているわ」
「でも、姉様はそんなものいない、って言うんだ」

 ニコラスは悲しげに俯きました。伏せられた、けぶる睫毛から覗かせる神秘的な灰色の両眼は、かすかに潤んでいました。

「きっといるわよ。この前も私が3番目に好きだった髪飾りがなくなったの。あれは妖精の仕業ね」

 それから、ニコラスは徐々に心を開くようになりました。私には兄弟というものが居ませんでしたから、ニコラスという存在は本当に新鮮だったのです。
 レイチェルが戻ってからは、3人で絵本を眺め、言葉遊びなどをして楽しみました。時が経つのは早いもので、時計の鐘が2度ほど鳴った後、帰路につきました。帰りがけ、レイチェルとは手を取り合い、再会の約束を交わしました。こうして、あの夜は締めくくられたのです。

Re: たおやかな毒、あるいは ( No.3 )
日時: 2017/10/14 11:48
名前: 凛太 ◆wSaCDPDEl2 (ID: aruie.9C)

 約束の通り、私たちはそう時を置かずして、再会しました。キングストンの姉弟と会う時は、大抵私の方がお屋敷に赴きました。お屋敷は並外れて魅力的な遊び場でありましたから、馬車に少々揺られることなど、苦ではなかったのです。季節の花が綻ぶ庭園や、趣味の良い調度品に彩られた廊下、子供心をくすぐる謎めいた書斎。私が望むもの、全てがお屋敷には備わっていました。お屋敷であの麗しい姉弟と戯れる時間は、私の人生においては輝かしい時間だったのでしょう。
 キングストン一家が越して来て、2回目の秋が訪れました。その日は囚われのお姫様とその従者を見事に演じきり、庭園で一休みをとっていた時のことです。夕方になる刻でしたから、影は長く伸び、辺りは生温い風に包まれました。どうしてか不穏な気配を感じ、私は無意識にレイチェルのワンピースの裾を握っていたのです。

「ああ、面白かった。イヴ、貴女は役者の才能があるわね」

 木製のベンチに並んで腰掛け、レイチェルは興奮したように語りかけます。話半分に、私は辺りを見回しました。何か、気配がするのです。お屋敷は少々時代錯誤な造りでしたから、独特の雰囲気を放ち、一層恐怖を煽ります。木々のざわめきや土の匂い、蝶の羽ばたきまで、全てが明確に感じ取れました。私の五感は、この上なく研ぎ澄まされていたのです。

「待って、レイチェル。何か聞こえない?」
「まあ、ニコラスみたいなことを言うのね。残念ながら、私には何も聞こえないわ」
「そんなはずはないわ、よく聞いてみて……」

 この時、私は妖精やドワーフ、あるいは魔女のようなものを期待していたのかもしれません。けれども、現実は違いました。遠くから響いて来たのは、ニコラスが私たちの名を呼びかける声だったのです。姉様、イヴリン、どこいったの。足音と共に、小鳥の囀りを連想させる、麗らかな声が近づきます。

「なんだ、ニコラスじゃない」
「イヴ、少しだけ意地悪しましょうよ」

 私がほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、レイチェルは整った唇を吊り上げました。そうして、近くの茂みを指差すのです。

「あそこに隠れましょう、ニコラスを驚かすの」

 時折思いついたようにして、レイチェルは弟に悪戯を仕掛けることがありました。最初こそは躊躇することもありましたが、レイチェルは私にとっての善き親友でしたから、断ることは一度たりともなかったのです。
 2人で茂みに身を潜めます。服が汚れることなど、厭いはしませんでした。やがてニコラスの姿が現れて、辺りをきょろきょろと探すのです。

「姉様、イヴリン。僕も入れてよ、ねえ、返事をして」

 私たちがすぐ側にいることなど、気づいていない様子でした。ふと、ニコラスが立ち止まり、ぼんやりと空を見上げます。そうして何事かを、その小さな唇で囁くのです。茂みは視界が悪く、ニコラスの視線の先のものを捉えることは叶いませんでした。しかし、あの瞬間、確かに彼は未知なるものに話しかけていたのです。ふと、レイチェルの横顔を盗み見ると、そこには怒りやら恐れやらが溶け合い、複雑な様相を呈していました。
遂に堪え切れなくなり、茂みから飛び出そうとした時でした。ニコラスは無邪気に歓声を上げたのです。

「わあ、姉様達、そこに隠れていたんだね!」

 ニコラスは無垢な微笑みを携えていました。私達は互いに顔を見合わせ、ニコラスの前に立ちました。

「ニコラス、どうして私達が隠れていることがわかったの?」

 そう問いただすと、ニコラスはあっけからんとした顔で答えました。

「教えてもらったんだ」
「教えてもらったって、誰に」
「僕のお友達だよ」
「お友達って、どんな人なの」
「友達は友達だってば」

 埒のあかない問答に終止符を打ったのは、頬の打つ音でした。ニコラスは打たれた右頬を手で押さえ、レイチェルは無表情で佇んでいました。姉が、弟に暴力を振るったのです。その光景を目の当たりにして、どうして冷静でいられましょうか。

「レイチェル、どうしたのよ!」
「わけのわからないこと言わないで、どうせ貴方ってば、妖精がお友達だって言うんでしょう! そんなものありはしないのよ、お母様が亡くなった時だって、ニコラス、貴方は」

 レイチェルの目は血走っていました。当のニコラスは、訳も分からぬままに、呆けています。

「……もう、いいわ。行きましょう、イヴ」

 やがてレイチェルは私の手首を掴み、駆け出して行きました。残された可哀想なニコラス。しかし、今となっては、レイチェルの気持ちも分からなくはないのです。もし私がレイチェルの立場だったならば、どうしていたのでしょう。

Re: たおやかな毒、あるいは ( No.4 )
日時: 2017/10/15 09:51
名前: 凛太 ◆wSaCDPDEl2 (ID: y68rktPl)

 私が12歳を迎えた年、レイチェルは女子寄宿学校に通うことになりました。そのことを知った時、私はひどく悲嘆に暮れ、また父に自身も通いたい旨を打ち明けたものです。しかし私には既に住み込みの女家庭教師がいましたから、希求も敢え無く却下されてしまいました。
 レイチェルが彼の遠い地へ渡る日、私は見送りに行き、必ず文を送ることを誓いました。また、レイチェルも長期休暇の度に帰郷すると告げ、ロイストンを去っていったのです。幸いにして、私たちの誓いが破られることはありませんでした。頻繁に文を交わすことで、私の寂しさは幾分かは慰められることとなったのです。レイチェルの手紙には、華々しい学校生活の様子が仔細に書かれてありました。一方で末尾には、貴女ほどの親友には巡り会えそうもない、といった文面が添えられていました。私には、それだけで十分満ち足りたものだったのです。
レイチェルがお屋敷を離れたことで、ニコラスと会う機会は減りました。その頃には私にも、小さな淑女としての芽生えがありましたから、3つ下の少年と野を駆け遊ぶのはどうしても憚られたのです。
 初夏の陽気が膨らむ季節、ロナルド・キングストンが私の館に立ち寄りました。彼の背に隠れるようにして、ニコラスが佇んでいます。ロナルドは父に相談があるようで、私にニコラスを連れて遊ぶようにと頼みました。久しぶりに会ったニコラスは、身長こそ伸びたものの、顔立ちはあどけないものでした。きっと私の衣装箪笥にあるドレスを着せれば、しとやかなお嬢さんに見えることは間違いないでしょう。そんな思いつきから、私の部屋で遊ぶことになったのです。

「ニコラス、貴方の顔は本当に女の子のようね」

 姿見の前で、私はニコラスの髪にリボンを付けて遊んでいました。ニコラスは少し顔をしかめただけで、抵抗はしないのです。妹がいたらこんな感じなのかしら、と思いながら、私はニコラスの柔らかい髪に櫛を通しました。

「僕は男の子だよ」
「わかってるわ。ほら鏡を見て、この髪飾りがこんなに似合うなんて」
「イヴリンの方が似合うに決まってる」
「まあ、嬉しい褒め言葉ね」

 ニコラスは、本当に綺麗な顔立ちをしていました。もう少し肉がつき、髪を伸ばし、頬の色が明るくなれば、並大抵の女性より美しく映えるでしょう。ひょっとしたら、レイチェルを凌ぐかもしれない。そう思わせる程の魔性を具していました。
 ニコラスを飾り立てることにも飽き、私たちはお喋りに興じていた時のように思います。思い掛けず、壁掛け時計に視線をやりました。

「もう4時なのね。お父様たちってば、何をそんなに話し込んでいるのかしら」

 既に訪問から数時間は経っていました。前々から、ロナルドは父の元を訪れていました。しかし、これほど長く滞在するのは初めてだったのです。

「きっと、僕のことだよ」

 ニコラスはうっそりと呟きました。灰色の目に、翳りが帯びています。

「僕は悪い子だから、きっとメイブリック先生に言いつけてるんだ」
「ニコラスが悪い子ですって、そんなはずないじゃない」

 事実、ニコラスは物分かりの良い子でした。少々内向的な性質はありますが、素直で心優しい少年です。ニコラスを一目見たならば、誰もが彼を賞賛するでしょう。私もそうでした。

「本当だよ、だって、父様は僕をよく叱るんだ」
「あのロナルドさんが? 想像できないわ」
「訳のわからないことを言うな、って叫ぶんだよ」

 ニコラスは俯きがちに話を続けました。声の調子は暗いものでした。私はつい、ニコラスに同情心を抱いたのです。こんな子を叱るなんて、ロナルドが間違っている。そう確信しました。ですからそれを裏付けるため、私は次のことを尋ねたのです。

「例えば、どんなことを貴方は言うの?」

 ゆっくりと、緩慢な動作でニコラスは顔をあげました。不健康なまでに色素の薄い肌に、無意識に吸い込まれそうになります。

「妖精と友達なんだ、って言うと父様は大きい声を出すよ。可笑しいよね、僕は嘘を言っていないのに」

 私は息を呑みました。同時に、あの日、レイチェルが彼の頬を打った日のことを思い出したのです。ロイストンには、妖精に懸かる伝承がいくつもありました。しかし、あくまでもお伽話なのです。12歳にもなれば、薄々はただの空想なのだと気がつきます。妖精など、いやしないのだと。

「ねえ、イヴリン。イヴリンは僕の理解者になりたい、って言ったよね。僕のことを信じてくれるでしょう?」

 ニコラスが、笑いかけます。どうしてか、私の身体は縫い止められ、瞬きをすることしか出来ませんでした。

「良かったね、イヴリン。妖精達も、君を歓迎してくれているよ」

 一体、ニコラスには何が見えてるというのでしょう。この部屋は、依然と2人きりのままだというのに。それから、父が呼びに来るまで、私は動けずにいたのでした。


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