複雑・ファジー小説

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【3/3更新】Destiny Game 運命遊戯
日時: 2018/03/03 09:03
名前: 流沢藍蓮 (ID: Yv1mgiz3)

 昔々、あるゲームがあったよ
 異能学園、学園長リェイルが
 弄んだのは少年少女
 悲鳴上げながら死んでいったよ

 昔々、地獄のゲームがあったよ
 生きたいと願っても死に、裏切りに心は傷ついて
 始まったのはDestiny Game
 殺し殺される悪夢のゲーム
 そのまたの名を、運命遊戯、と——。

「さあ、ゲームを始めましょう」


◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ †

 複雑ファジーでは初めまして、流沢藍蓮と申します。
 今作は、皆様からキャラ募集をかけて書き始めます、異能バトルものデスゲームとなります。
 無論、死ネタは出ますし、多少の残酷表現が出てもおかしくはありません。
 それでも構わない方はどうぞ、少年少女の繰り広げる運命遊戯を、ご覧あれ——。

◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ †

〜ゲームの記録〜


 プロローグ ゲームの始まり >>2(※7000文字あります)


《第一ラウンド 小手調べの殺戮ゲーム》 >>3-16

 1 手を取り合えば? >>3-5
 2 生き残るのに理由は要らない >>7-11
 3 残る二人は誰が逝く >>12-16


 小休止 英気を養って >>17


《第二ラウンド 裏切り者にご用心》 >>18-23

 1 マザーグースの詩は歌う >>18-23


《第三ラウンド Destiny Game 運命遊戯》 >>24-

 1 姿の無い策略 >>24-


 エピローグ 血塗られた「資格」 >>


◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ †

 Thanks!
 オリキャラを下さった方々

・アンクルデス様より「シロ」
・硯箱様より「トーン」
・ブナハブラ様より「ゼロ」
・モンブラン博士様より「バロン」
・彩都様より「ハーフ・アンド・セカンド」

  ◆

 執筆中のコメントはお控えくださると嬉しいです。目次を作る関係上支障が出てしまいますので。
 感想等は流沢藍蓮の所有する雑談スレでお願いいたします。


 2017/10/16 執筆開始

DG 運命遊戯 1-2-1 攻撃には報復を ( No.7 )
日時: 2017/10/25 22:15
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

>>6
 シロちゃんはこれから活躍しますよー。
 ジェルダのチームの行く末、ご覧あれ!

  ◆

 一話は3000文字くらいの方が読みやすいんですね。
 次から長さに気を使ってみますですハイ。

◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ †


〈二章 生き残るのに理由は要らない〉


 1 攻撃には報復を


 ゲームが始まった。ついに本格的に始まった。始まってしまった。
 ここから先は何をしても黙認される。目の前で誰か死んでも、どんなに悲惨な死に方をしても、学園長は眉ひとつ動かさないのだろう。
 それで、形ばかりの『授業』をするのか。生き残って『資格』を手に入れる人のために。
 ピースは、思う。せっかく出会えた仲間たちなのだから、誰にも死んでほしくはないと。
 そんなのは夢物語だ。殺し合いをしなければみんな死んでいく、そうわかっているけれど。
 彼女は怖くなって、思わず目から涙を流した。

「泣くな。お前はオレが守るから」

 恐怖に震える彼女を、そっと無骨な手が撫でた。変わらぬ騎士姿、どこまでも毅然として、凛と前を向く藍色の瞳。

「オレはお前の騎士になったんだぞ? 守る相手に泣かれちゃ立つ瀬がない」
「ソーマくん……」
「オレの異能は攻撃にも防御にも向いてる。そう簡単にやられやしないさ。二人で生き残ろうぜ。知らない奴なんて放っておけばいい。……心を鬼にするんだ」

 そんなありふれた言葉でも、ソーマに言われると嬉しくなる自分をピースは感じた。支給されたナイフにそっと手を触れて決意を新たにする。
 彼女は辺りを見回した。特に席順などは決められていないので、皆思い思いの席に座っている。最初の一時間で決めたチームごとにかたまって、チームに入れなかった六人は教室の後ろの方でぽつんとなっていた。こうなるのは仕方がないことだ。こんなデスゲームである以上、チームの仲間以外に気を回す余裕などない。
 しかしその六人は同時に、不確定要素であるとも言えた。
 チームに所属しているものならばチーム全体で生き残るために他者を蹴落とす。しかしその対象は決して、自分のチームの仲間ではありえない。だから「あのチームの人は同じチーム内の○○だけは殺さない」ということがわかるから、それを取っ掛かりにすれば少しは行動を読めそうなものである。
 反面、チームに所属していない一匹狼は行動がまるで読めない。彼らは自分以外を生き残らせる理由がないため、誰を殺すのかつかむことができない。故に厄介、故に警戒しなくてはならない相手なのだ。

 そうして、名ばかりの『授業』が始まる。
 学園長リェイルは教壇に立ち、不気味に微笑みながらも皆に言った。

「それでは授業を始めます。一限目、歴史」

 流れるような金色の髪が、教室の窓から差し込む光に輝いた。

「まず皆さま方。最近異能について色々と問題視されることが多くなりましたが、ずっと昔にも異能があったということをご存知でしょうか。異能は最近に始まったものではないということをご存知でしょうか」

 昔にも異能があった? ピースにはまるでわからない。彼女は首をかしげるばかりだ。誰も手を挙げる者なんて……


「知ってンぜ? 魔術だろ?」


 ……いないわけがなかった。

 ビリビリと全身から鋭い印象を放つ金色と黒の少年、確かジェルダ・ウォンと名乗っていた彼が、遠慮なく手を挙げて発言していた。
 リェイルはおやと眉を上げる。

「正解です、ジェルダ・ウォン。一体なぜわかったのですか?」
「つーかわかんねェのが馬鹿なんじゃねぇの? 昔の人たちは訳のわからない力を魔術と称して遠ざけ迫害した! よってかつて異能は魔術と呼ばれた! これ以外にどんな答えがあるってンだよ?」
「ならばあなた以外は馬鹿ということになりますが」
「それでも別にいいだろ? ああつまんねーの。さっさと先行けよ。これだから授業ってやつは本当に退屈なんだ、もっと頭使わせる問題をオレに寄越せよ、なァ? 簡単すぎて話になんねェよ」

 ジェルダ・ウォンもとい雷門寺秋羅は、当時彼が所属していた高校の中ではトップレベルの問題児であった。ただしそれは彼が馬鹿だから問題を起こしているというわけではない。あまりにも鋭すぎる頭脳で先生をぶった切っていくので辞職する先生を多数輩出した、ということでも問題児扱いされていたのだ。彼がいれば先生の意味がない。挙句の果てには「何で先生やってんの。人の上に立つのがそこまで承認欲求満たしてくれんのかァ?」だ。リェイルは自分が冷静な方だと自覚してはいるが、彼の扱いに関しては気をつけねばと肝に銘じた。

 誰もがそんなやりとりを見て、呆然としている。生まれてこの方、ここまで先生に暴言を吐く生徒を見るのも初めてであろう。
 リェイルはこほんと咳払いを一つして、そのまま皆に背を向けて黒板にチョークで何かを書いていく。

 だが、稲妻はそれだけでは終わらなかった。


「オレに背を向けるたァいい度胸だなぁオイ!」


 瞬間、迸(ほとばし)った稲妻が、リェイルを焼き焦がさんと迫った。
 確かにそれは効果的であると言えた。生徒同士で殺し合いをするよりはそもそもの原因である学園長を殺した方が、犠牲が少なくて済むのだから。
 しかし人生、そんなに甘くはない。


「私に攻撃を加えようとするとはいい度胸ですね」


 バチバチと火花を散らしながら迫った稲妻はしかし、彼女の身に到達する前に彼女自身が放った漆黒の茨に吸収され、そのまま教室の床に流れた。

「うわぁ!」
「きゃぁ!」

 茨に多少は吸収されたとはいえかなりの強さの電流が、床を通じて生徒たちの身体を這いのぼる。
 ジェルダはその様を見て、不敵ににやりと微笑んだ。彼自身にも先程の電流は通ったはずだが、稲妻使いの彼にはどんな電気も効きはしない。

「後ろ向いててかわすかねぇ」
「私の能力で対処できる能力者しか、ここには呼んでいませんから。無論、貴方のことも把握済みです。あなたに攻撃されるであろうことは、簡単に予測がついていた」

 そうかい、と笑って、ジェルダは大人しく席に着いた。
 が、学園長はそれだけで終わらせるつもりはなかった。

「攻撃には報復を。そうでもしなければ示しがつきませんよね? よって私はジェルダ・ウォン、貴方を報復の名において処罰します」

 その言葉に、ジェルダの表情が固まった。
 彼の攻撃は効かないが、向こうの攻撃は彼に届く。
 彼の額から汗が流れた。彼の不敵な笑みが硬直する。彼は油断ない瞳でリェイルを睨んだ。
 彼女は叫ぶ。


「攻撃には報復を!」


 飛んできた茨は間にいた他の生徒も見境なく吹っ飛ばす。ソーマがピースの身体を引っ張り、彼女を黒の射線から遠ざけた。
 漆黒の茨は最初に見た赤色の少女みたいに彼の身体を貫くことはしなかったが、確実に彼にダメージを与えていた。

「くそっ……ハァ……ハァ……ざけんじゃねぇぞ……この狂った学園長がァッ……!」

 苦しそうな息が、その喉の奥から洩(も)れる。


 彼は漆黒の茨に、首を絞められていた。


 生き物のように茨が動き、彼の息の根を止めていく。彼は弱々しく稲妻を放つが、茨に吸収されて四散する。
 リェイルは笑う、悪魔のように。

「命乞いをすれば許してもいいですよぉ? あなたはどんな声で私に命を乞いますかぁ?」

 ゲームが始まったときのように、狂気に満ちた瞳が笑う。
 しかしジェルダの金の瞳は、決して揺らぐことはなかった。

「命乞いなぞ……してたまるかよ」

 首を絞められ、苦しそうな声で。しかし決して揺らがぬ心で。

「そんな無様……そんな間抜け……死んでも——晒してたまるかァッ!!」

 ビリビリバチバチと紫電が爆ぜる。リェイルはその顔に喜悦を浮かべた。

「いいですねぇ、いいですねぇ、決して折れぬ不羈(ふき)の顔! 私に抗いますか! ならばさらなる罰を!」

 締め付けが強くなり、彼の顔からは血の気が失われていく。

 しかしそれでも、揺らがない。稲妻は曲がらない。
 どこまでもどこまでも真っ直ぐに、落ちていくのだ。墜ちて、いくのだ。

「命乞いなど……しない……ッ!」
「ならば死になさい!」

 彼を殺さんと、リェイルが本気になった、とき。





「おかしいのです! こんな理不尽、シロは断じて許せないのです! ふーっ!」





 ブレザーとスカートを着た白衣の少女が、その左腕を振り上げて茨に叩きつけた。
 瞬間、そこに見えたのは白熱するレーザーブレード。
 それはまさにジェルダの命を奪わんとした茨を、あっさりと断ち切った。
 彼の首を絞めていた茨はするりとほどけ、漆黒の粉となって空気に散った。

 稲妻の申し子の身体が、くずおれる。

「ゲホッ、ゲホッ……流石に……堪(こた)えるぜぇ……」
「ジェルダ! ジェルダ!」
 
 彼の周囲に、彼のチームの仲間たちが駆け寄った。ジェルダは何度も何度も激しく咳き込んでいたが、かろうじて生きていたようだった。
 リェイルは冷めた瞳で彼を見た。

「どうやら命拾いしたようですね」

 ジェルダは激しく咳き込みながらも、それでも不敵に笑って、かすれた声で言い放った。

「おうよ……。最高の仲間が……いたからなァ?」

 言って、彼はシロを見た。彼女は安堵のあまり、泣きそうになっていた。
 彼は、思う。やはり自分の直感は正しかったのだと。
 彼女たちと組むことになって本当に良かったと心から感じ、珍しく真摯な思いを口にする。

「何だ……まぁ、その、ありがとな。……お陰で死なずに済んだわ」

 彼の感謝の言葉を、シロは笑顔で受け止めた。

「仲間として、当然のことなのです!」

 攻撃には報復を。学園長に挑むは愚か。
 この法則が、生徒たちの間に染みわたった。
 稲妻の申し子が、身をもって実証してくれたから。
 授業は粛々と進んでいった。

◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ †

Re: 【始動】Destiny Game 運命遊戯 ( No.8 )
日時: 2017/10/26 08:09
名前: モンブラン博士 (ID: or.3gtoN)

ジェルダは学園長に締め付けられても決して自分の意見を曲げようとしないとは天晴ですね。
最初に学園長の犠牲になった赤い女の子と通じるものがありますね。このまま彼はフェードアウトしてしまうのかとハラハラしていましたが、シロに助けられてよかったです!
これからどうなるのか楽しみです!

DG 運命遊戯 1-2-2 喧嘩の相手は選ぶべき ( No.9 )
日時: 2017/10/27 21:48
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 >>8
 応援ありがとうございます1
 ですが、えーと、次からコメントは雑談掲示板にお願いします。

◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ †


 2 喧嘩の相手は選ぶべき 


 一限目は何とか終わり休み時間がやってきた。一限目にあったことで生徒たちの話題は持ちきりだ。ある生徒についての話題でもちきりだ。
 自ら反抗し、学園長に殺されかけたジェルダ・ウォンは一部の間では英雄扱いさえされていた。見上げた精神だと誉めたたえられた、けれど。

「……出る杭っていうのは打たれるんじゃないのかなぁ?」

 アロウは不思議でたまらなかった。
 どうして彼が殺されないのか、どうして彼ばかり崇められるのか。
 アロウは無意識に背中にある矢筒に触れる。
 彼の持つ能力もまた、かなり攻撃的なものであったが。

 ——それでも、あの稲妻にはまだ足りない。

 しかしあのチームは極めて危険だと彼は判断した。このまま放っておくことを許せないくらいに。
 彼に直接挑むのは自殺行為だ。ならばどうする? 答えは簡単だ。
 アロウは生まれて初めて悪意でもって人を傷つけることになる自分を恐れ、小さく震えた。
 彼自身、とても優しい少年なのに。

 ——赦して欲しい。

 彼はあえて矢ではなくて、学園長から支給されたナイフを手に取った。
 アロウ。彼の能力は「投げたものを必ず相手に当てる能力」。ただし防がれれば意味はないので、実際タイミングが合わないとそこまでうまくは使えない。
 だからこその弓、だからこその矢。しかし矢をつがえる動作はあまりにも目立ちすぎるから。
 そっとナイフに触れた手が汗で滑る。
 彼が狙った一人の少女は、さっきまで首を絞められていたジェルダを過保護なまでに心配していた子。白衣を着て眼鏡をつけた、ほんわかした雰囲気の子。
 彼女の目にアロウは映らない。彼女はジェルダ達しか見ていない。そしてジェルダから見てもアロウがいる位置は死角だ、彼の能力を使えば絶対に、防がれることなく当てられる!


 ——赦して欲しい、生き残る為だ!


 意を決して、ナイフを放つ。それは白衣の少女の首に、


 ——突き刺さらなかった。


 ぽよん、と空気が弾んだ。彼の放った支給品のナイフは彼女に当たる前に何かの力で弾かれ、あらぬ方向へ飛んでいった。
 何が起きたのかはわからない。しかし失敗したと彼は理解し、弓を手に取り矢をつがえた。
 狙われた少女は何が起きたのかわからないというように首をかしげている。
 アロウはつがえた矢を放った。立て続けに一発、二発、三発。「投げたものを必ず相手に当てる」アロウの矢は無論、彼女に向かって飛んでいったが。
 悲鳴が上がる。突如始まった殺し合いの風景に。
 しかし彼の放った矢はなぜかすべて、彼女に当たる前に弾き返された。先ほど放ったナイフと同じだ。
 シロと名乗っていた少女はここに至って、ようやく状況を理解した。

「ほー? 理解できない行動です。シロに物理攻撃は効かないですにゃー」

 不思議そうに首をかしげ、攻撃してきたアロウをじっと見つめた。
 彼女自身は気にしていない。実際何のダメージも受けてはいなかったから。
 しかし、忘れてはいまい? そう、このチームには。


「——てめぇ、今、何をした?」


 どこまでも鋭く光る、黄金の稲妻がいるということを。

 そう、だからこそ彼は、一撃でシロを仕留めなければならなかったのに。
 彼の攻撃は不思議な力で跳ね返されて、彼は怒れる獅子を起こしてしまった。
 ジェルダ・ウォンの瞳が怒りに燃える。彼の周囲で紫電が弾けた。


「てめぇ、今、オレの仲間に何をしたッ!」


 直後。怒りを込めた稲妻がアロウを焼かんと迫り来たが。

「教室で争うのはやめてくださる?」

 確かリィアナとか名乗っていた漆黒の少女がその射線に進み出て、天に差し上げた右手で稲妻を受け止めた。
 そうだ、あのジェルダの怒りの稲妻を受け止めた。
 彼女はどこまでも冷静に言う。

「ここで争ったら関係ない人が巻き込まれるわ。それは断じて私は避けたいの。稲妻さん? 一応言っておきますけれど、貴方の稲妻は私には効かないわ。すべて無効化して差し上げますけれど」

 彼女の頭の飾りは青薔薇。その花言葉は不可能。
 彼女の前ではすべての異能が無効化されるから。ゆえに不可能の青薔薇を身につける。
 通常は傍観者を気取っていたいリィアナだったが、こうなってしまえば事態は別だ。
 リィアナが氷のように鋭い瞳で二人を睨むと、わかったとアロウが頷いた。

「……喧嘩を売ったのはぼくだ。決着は木工室でつけようか」

 いいけど、とジェルダが油断なくアロウを見る。

「何故に木工室なんだァ? もしかして、てめぇの戦いやすいフィールドだったりすンのかよ?」
「お察しの通りだ。……ぼくは、弱いから」
「じゃあ何故喧嘩を売ったんだ? オレが出てくるってわかっていただろう、なァ?」
「貴方は危険だからだよ」

 アロウは素っ気なく言い放った。
 彼に絡まれた時点で自分の負けは確定したようなものだと彼は思っていた。もともと彼はこのゲームを生き残れるなんて欠片も思ってはいなかったが、一人くらいは犠牲にできると踏んでいた。
 しかし。

(誤算だったよ……)

 無害そうだったシロ。彼女に物理攻撃が効かないなんて、まったくもって彼の誤算だった。
 彼は半ば諦めたような瞳でジェルダを見た。
 どこまでも真っ直ぐに突き進む稲妻の瞳には、ただただ勝利のみが輝いていた。


  ◆


 砂見 駆(すなみ かける)は中学二年生だ。彼には梨恵(りえ)という名の三歳年下の妹がいた。しっかり者で生真面目で優しい駆と明るく無邪気な梨恵。彼らは仲の良い兄妹で、そろって異能の力を持っていた。
 彼らは異能を持ってこそいたが、これまでは比較的平凡な毎日を送っていた。駆は持ち前の異能を活かして弓道部のキャプテンになり、梨恵は持ち前の異能を活かして走ることでは一番になった。
 駆の能力は「投げたものを必ず対象に当てる」能力、梨恵の能力は「自分を中心とした半径二メートル以内の時間の速さを自由に操る」能力。彼女はそれを利用して自分の周囲に流れる時間を遅くして対立候補の足を鈍らせ、それで駆けっこのトップになっていた。もちろん、彼女自身足が速いのもあったけれど。

 そんな二人の毎日は当たり前のように流れるはずだったが、しかしある時。
 梨恵が、重い病に倒れた。
 これまでずっと二人で仲良くやってきたのに。梨恵が、重い重い病に倒れた。
 以来、彼女は一度も目を覚ましていない。その命の灯が消えるのも時間の問題だった。
 彼女を治すにはたくさんのお金が必要だったが、一般家庭である砂見家にそんなお金があるはずもなく。
 悩み苦しんでいた駆を救ったのは、たった一枚のチラシだった。

『七虹異能学園 入学希望者大募集中!』

 卒業できた者には『資格』を与えると書いてあって。『資格』が得られれば大量の収入も見込めると書いてあって。
 駆は異能者であり、今まさにお金を必要としていたから。

「梨恵のために、ぼくは行くよ」

 現状を変えられるのは自分しかいないと知って、彼は入学希望書を提出した。
 やがてそれが受理されて、彼が名乗った名はアロウ。
 どこまでもその矢は真っ直ぐに飛んで。
 一体どこに行き着くのだろうか。


  ◆


 まだ慣れぬ校舎の中を、案内図を頼りに歩いていく。
 駆——アロウの心の中は、不安でいっぱいだった。
 彼の脳裏に浮かぶのは、人工呼吸器をつけた梨恵の姿。あの元気だったころなどまるで想像できないくらいに、やせ細った妹の姿。
 彼が死んだら彼女も死ぬ。お金が得られないなら彼女は死ぬ!
 だからこそ、生き残らなければならなかったのに、どうして。
 アロウは先を行くジェルダに、まるで勝てる気がしなかった。

◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ †

DG 運命遊戯 1-2-3 赦しの弓矢と稲妻と ( No.10 )
日時: 2017/10/28 22:27
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ †


 3 赦しの弓矢と稲妻と


 訪れた木工室。
 アロウは木工室に着くなり片っ端から引き出しを開け、釘やら何やらを取り出して机に並べる。
 それを見て、ジェルダは理解したように頷いた。

「なるほどな……。アンタの能力は、『投げたものを必ず相手に当てる』ってェ能力かァ? すぐにわかったぜ。つまんねぇなァ、オイ!」

 稲妻の如き鋭き瞳を、アロウ程度がごまかせるはずもない。
 そうだよとアロウは頷いて、その瞳に炎を宿した。

(ぼくの名はアロウ。ただしそれは、矢を意味するarrowだけじゃない。赦しを意味するallowもまた、その名前の中にはあるけれど)

 どうせジェルダは許してはくれないだろう、そう彼はわかっているから。
 弓を手に取り、矢をつがえ、燃える意思を体中から噴き出させてジェルダを狙った。
 彼は弱い少年だ。しかしここで彼が死んだら、妹もまた、死ぬから。

「赦してくれなくたっていい——。生き残って、ぼくは梨恵を治すんだ!」

 血を吐くような叫び。
 その言葉を聞いて、ジェルダは微妙な表情を浮かべた。

「アンタにはそんな目的があるのか……。遊び半分で入ったオレとは大違いだなァ? だがよ、オレだって!」

 遊び半分でも、ふざけ半分でも。
 生きたいから。死にたくはないから。
 突如放り込まれた理不尽なゲーム。だが稲妻にだって!
 彼の周囲で紫電が爆ぜる。

「生きることまで、放棄しちゃあいねぇよッ!」

 彼が叫んだ瞬間。
 「絶対に当たる」アロウの矢が飛んだ。
 避けても当たる。防がなければ当たる。そんな能力を使って放たれた矢が。
 当たってくれ、そう切にアロウは願って立て続けに矢を放つが。

「効かねぇなァ、そんなの!」

 弾ける稲妻に木で作られた矢柄を折られ、鏃(やじり)はあらぬ方向へすっ飛んで行った。ジェルダに当たりそうなものも中にはあったが、一度矢柄を折られた矢には、アロウの能力は働かない。いとも容易くジェルダは避けた。
 アロウの額に汗が伝う。彼の心を絶望が覆っていく。
 くじけそうになる弱い心。しかしアロウは脳裏に妹の姿を思い描くことで、何とかその恐怖を克服しようとした。
 矢が駄目ならば、金属は? 金属ならば、焼かれない!
 そう考えたアロウは矢と弓を片づけ、並べてあった釘を手に取った。
 「投げたものを必ず当てる」能力だから、実際投げるものはなんだっていい。なんだって当たるのだから。
 余裕ぶって不敵に笑うジェルダの周囲に、ビリビリバチバチと紫電が弾けた。

「許してよ——僕が生き残ることを、どうか許してッ!」
「そんなに安い命じゃねェよッ!」

 必死の思いで彼が投げた釘に稲妻がまとわりついた。そして。

「どうして……」

 釘はジェルダに届かずに、あらぬ方向へそれていく。
 嘘だ、とアロウが叫んだ。

「ぼくの能力は絶対だ! 必ず相手に当てるんだ! なのにどうして当たらなかった!」
「科学のお時間といこうかァ?」

 ジェルダは落ちた釘を拾って、片手で弄んだ。

「簡単だぜ? 電気で強力な磁場を作って、磁力を使って弾いたんだ。木工室にある釘は鉄製だしなァ? ああ、簡単だったぜ」

 アロウは、わからない。そもそも中学生レベルで分かるようなことでも無い。
 ただ彼がわかったのは、己の攻撃がまるで通用しないことと、

「……ぼくは、死ぬのか」

 ジェルダの稲妻に対する防御手段を、まるで持ち合わせていないこと。
 自分の攻撃はまるで通らず、相手の攻撃だけが通る、この状況下で。

「生き残れないのか、ぼくは」

 そして、梨恵も死ぬ。
 お金が得られなければ、満足な医療を受けられないのだから。
 アロウは圧倒的な敗北感に、乾いた笑みを漏らした。

「そうだよ、そうだよ、アハハハハハ……。早まって攻撃しなければ、ぼくはこうも悲惨な状況にはならなかったのに。生き残れたのかもしれないのに。ああ、ぼくは早まった。だってあの子にはもう、あまり時間がないのだから……」

 うなだれる彼に、ジェルダはそっとささやいた。

「でもな、大切な人のために動こうってェ心は、嫌いじゃないんだよ。
 名前を教えてくれ、赦しの弓矢。オレが生き残れたら供養してやる」

 彼ははっきりそう言った。
 人一倍頭が切れる彼には、アロウのダブルミーニングにも気づいていたのだ。
 アロウの頭の中にあったのは、決して切れない絆で結ばれた妹のこと。
 彼女のことを考えながら、先に逝くことになることを内心で謝りながら。
 「アロウ」としての精一杯の誇りを持って、彼は名乗った。

「ぼくの名前は砂見駆。砂見……駆だ。覚えていてくれるかな……?」
「当然だろ? 殺した相手は、忘れねぇよ」

 誇り高くジェルダを見つめたアロウの瞳。ジェどこまでも澄み渡り、大切な存在のみをただただ思う純粋な彼にジェルダは内心で天晴れとつぶやいた。
 彼はジェルダに喧嘩を売ったが、その秘めた心は高く買うべきだ。
 ジェルダは片手に稲妻をためて、一気に解き放った。

「アロウ、いやさ、砂見駆———。あんたは、立派だったぜ」

 瞬間、解き放たれた電撃がアロウの心臓に達して。
 身体中を走った電撃にその身を一度けいれんさせて。
 赦しの弓矢、アロウは逝った。


〈アロウ、脱落〉

◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ †

DG 運命遊戯 1-2-4 束の間の休息 ( No.11 )
日時: 2017/10/30 22:12
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 休息編。
 これまでまともに出ていなかった人物のうち何人かが、少しまともに登場します。

◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ †


 4 束の間の休息


 休み時間が終わったとき、帰ってきたのは一人だけだった。
 黄金の稲妻、地を這う紫電、ジェルダ・ウォン。
 背に弓を負った少年、アロウは戻ってこなかった。
 リェイルは無機質な声で告げた。

「アロウ、脱落です。残る脱落人数はあと二人」

 その言葉を聞いて、ハーフはとても怖くなった。
 始まった殺し合い。最初の少女は先生によって殺されたけれど、次に死んだのは同じ生徒によってのこと。
 これまで無かった実感が、明確な存在感を伴ってハーフに纏わりついてくる。

 —— 一人は、危険だ!

 誰かと組んだ方が、危険も折半できるだろうか。
 彼女の能力は『折る』能力だ。木の枝や棒だけではなく、時間を端折って他の生徒の能力発動時間を短縮したり、床を折って壁を作ったりするなど応用範囲が広い。
 しかし今、彼女の心はまさに『折れ』そうになっていた。
 誰かとチームを組まなければ。強迫的観念に駆られて辺りを見回すが、今更出来上がったチームには入れそうにも無いし、新しくチームを作るような勇気も無い。
 アロウ、脱落。ジェルダ・ウォンに殺されて。同じ生徒同士で殺し合って。生徒が生徒の命を奪って。
 怖かった。何とかしたいと思うけれど、恐怖に動く力が出なくて。
 自分の席でただ青ざめるだけだった彼女。
 それでも救いはやってきた。

「ねぇねぇ、良かったらあたしのチームに入らない?」

 紫色が目に入る。紫のツインテールに、髪よりも濃い紫色の瞳。茶色の半袖ジャケットに紫色のホットパンツ。あちこちにつけられた同色の手甲。
 最初に赤の少女が殺された時、誰よりも早く立ち直ってみんなを励ました少女だった。
 彼女の全身からは、リーダーの風格が放たれていた。彼女ならば絶対に大丈夫だと、安心させるような何かがあった。
 ほっとして、ハーフは頷いた。

「ありがとう! 私、頑張るから!」
「よろしくね。何回も名乗ったけれど、あたしはエーテナ。そう——このゲームを生き残る者よ」

 ジェルダのように、どこまでも曲がらない真っ直ぐな瞳。
 エーテナチーム。ジェルダチームと肩を張れるくらいの人数のチームが、今ここに完成した。


  ◆


 その日はもう殺し合いは行われなかった。粛々と授業は進み、授業後は皆それぞれ寮に戻った。ピースはもちろんソーマと同室だ。男子寮と女子寮の区別なんて存在しない。命のやりとりをする場、今更男女がどうのこうのなんて言っていられるわけがないのだ。ソーマは立派な騎士だから、万が一のことなんてあり得ないだろうとピースは思う。この狂ったゲームの中、一人でいるのは危険なようにも思えたから。

 ちなみにここでの夕飯は学校の食堂で食べるらしい。集まる時間は個人の自由だが、食堂が開いているのは夕方の六時半から八時半までの二時間なので、その間に来ないと夕飯抜きとなる。ただしこのご時世だ、誰が敵になるかわかったものではないからどの時間に来るにせよ、警戒だけはしっかりしておかなければならない。
 寮は全室完全防音らしいから真に落ち着ける空間は寮しかない。
 ピースは案内図にあった寮の一部屋を選び、ソーマと一緒に泊まることにした。
 寮には最大六人部屋まであって寮のある棟は四階建て、一つの階に六部屋あった。何かあった時にすぐ逃げられるようにピースたちは一回の部屋を望んだが、生憎と一階はすでに完全に埋まっていた。だからピースたちは二階の203号室に泊まることにした。
 
 扉を開けてみれば、二人部屋の203にはまず大きな二段ベッドがあるのが目に入った。なかなかの大きさで寝心地もよさそうだ。
 次に目に入ったのは一つしかない机とクローゼット。机はずいぶんと大きめで、そこには椅子が二脚置いてあった。
 部屋全体の広さは16畳くらいと広い。七虹異能学園はずいぶん広い敷地を持つので、寮の一部屋も格段に大きかった。
 二段ベッドの下の段に腰かけてようやく人心地ついたピースは大きく息をつき、そうだ、と気になっていたことをソーマに訊く。

「ふうー、なんとか落ち着いたねー。ところで信互く……じゃなくてソーマくん、私の力は『触れた相手から戦おうという気持ちをなくす』能力なんだけど、ソーマくんはどんな能力を持っているの? ここに来たばかりの頃は明かしたくないと言っていたけれど、チームを組む以上知っていた方が有利だと思うの」

 返答に一瞬だけ間があった。そうだな、とソーマは答える。

「ピース、支給品のナイフを貸してくれないか?」
「え、これ?」

 恐る恐るピースは鞘に入ったままのナイフを差し出す。それを受け取ったソーマはナイフを机の上に置き、自分のナイフと剣も机の上に置いた。一体何をする気なのか。
 彼はそっと目を閉じて、そして開いた。

「……動け」

 彼が命じると。机に置かれた剣とナイフが、何もしていないのに動き出す。
 ピースは驚いた声を上げた。

「わぁっ、すごい……! ソーマくんの能力って、刃物を自由に動かせる能力なの?」
「五メートル以内のもの限定、という制限つきだがな。防御にも使えるから割と便利なんだ」

 彼はそう、穏やかに微笑んだ。
 殻が手を振れば、生き物のように動いていた刃物が一気に止まる。それはすぐに、単なる金属と成り果てた。
 彼は数年前に学校の図工の授業でこの力を誤って発動させて友人を傷つけてしまったことがあり、以来その力は彼にとってのトラウマだったが、今のこの殺し合いの悪夢の中ではなかなかに頼れる力でもあった。
 ソーマは、言う。

「早速一人脱落したが、オレはお前をそうはさせない」

 だから安心して頼ってくれと、はにかむように笑った。


  ◆


 誰もいないはずの部屋に、激しい咳の音がする。
 その部屋には誰もいなかった。なのに苦しそうな喘鳴(ぜんめい)だけが聞こえている。
 このゲームの中で、そんな人間がいただろうか。
 やがてその姿が、滲むように誰もいない部屋に現れた。
 白い髪に白い瞳の少年。白のジャケットに白のズボン、白のマントを羽織っていて全体的に白い彼の名は、ヴィシブルといった。
 彼は生まれつきひどく病弱で、あまり外出のできない少年だった。
 彼がヴィシブルではなくて遠峰 白夜(とおみね びゃくや)と名乗っていた時だって、彼は学校を休んでいてばかりだった。
 そんな彼がこの学校に来た理由は、いたって単純。
『自立したいから』ただそれだけだ。
 彼には封じている忌まわしい過去があった。その過去によって彼は両親を亡くして厳しい祖母のもとで育てられたが、支配欲の強い彼女は彼の自由を許してはくれなかった。だから彼は、自立して祖母の支配から脱却しようと考えていた。
 チラシが来たとき彼は、何も言わないで家を出た。そうでもしなければ逃げられないと思ったから。
 なのに居場所を求めて訪れた学園では、デスゲームが開催されて。

「難儀な運命だよ……」

 一人部屋のベッドに横たわったまま、そうぽつんと呟いた。
 早速殺し合いで一人が死んだ。次に死ぬのは誰なのか。
 ヴィシブルはそっと全身に力を込めた。するとたちまち透明化し、見えなくなったその身体。
 ヴィシブルの能力はそれだ。透明化——invisible——ヴィシブル。
 彼の名前は能力そのままだ。安易だとは思ったが、わかりやすくていいだろう。
 
「デスゲームが終わる前に……病死しなければいいんだけど……」

 込み上げた苦しさにまた、彼は激しく咳き込んだ。この学校はそれなりに辺鄙なところにあったから、到達するのに消耗しすぎたのかもしれない。
 彼は、考えた。

「誰かと組むことができれば……」

 そうすれば、助けてもらえるのだろうか、と。
 しかし組むならば二人だ、と彼は思っていた。人数が多いと行動しにくい。二人だけの方が信じる人間が少なくて済むから。
 ヴィシブルは部屋に置いてあった時計を見た。いつの間にか、時刻は七時。もう夕飯の時刻が始まっているらしい。

「行かなきゃ……」

 思うのに、起き上がった瞬間倒れてしまう。
 食べなければ弱るのに、食堂まで歩けない。

(夕飯、抜きかな)

 諦めて、彼はそのまま眠りについた。


〈二章 了〉

◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ †


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