複雑・ファジー小説

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純血の神臓
日時: 2017/11/17 15:27
名前: 雛蝋 (ID: 9uo1fVuE)  

〜零日譚〜


全ては月の下。

耀かしき生命の息吹。
それは許されざる罪。
愛しき純血の忌子。

貴女に贈る血の煌めきに
最大の誠意を籠めてーーーー



ーーーーー今宵も餌物を喰らう。

Re: 純血の神臓 ( No.2 )
日時: 2018/02/15 16:08
名前: 雛蝋 (ID: UruhQZnK)

2 別れの言葉


かあさまが部屋を出た瞬間は、何も案ずることなどなかった。
しかし、陽が落ちていく様を見ていると、なんとも言い難い不安が襲い掛かってきて・・・

目が覚めると、知らない空気が場を支配していた。
眺め厭きた木の壁はなく、無機質な漆黒の壁があたしを出迎えた。

「 ・・・起きた? 」

やっと覚えのある声が聞こえて、安心感を抱く。
ゆっくりと身を起こすと、声の主が視界に映った。

「 かあさ・・・ま・・・? 」

美しい顔立ち。
深いブルーの瞳。
足元まで伸びる艶やかな金髪。
まさに女神。
それは、母ファスタレイスであった。

「 ごめんね、スターティア。約束、守れなくて。 」

本当にその通りだ。
だって今日は・・・

ふと、涙がこぼれた。
ぬぐおうとするが、それよりも速く溢れてくる涙に、自分でも動揺を隠せないでいると、いつの間にか目の前に迫っていた母の顔が目に入った。

「 もう、泣かないで。最後に一緒に遊ぶ約束は守れなかったけど、またいつか、遊びに来るから。 」

「 いつかっていつ?かあさまのうそつき。 」


その言葉にファスタレイスは口をつぐむ。
反論を口に出そうとしても、うまく言葉になってくれない。
実際そうではないか。
私は嘘つきだ。
即位と同時に娘の存在を隠すため、そしてあるものを守るため、地界へと流すことが決まっていた。
これはスターティアが生まれたときから決まっていたことであり、どうしようもないことだった。
だがファスタレイスは何も言わなかった。
戴冠式の前日まで、何も。
---ずっと一緒だよ---
そんな言葉で油断させて。
昨日そのことを話したときは、泣きながらポカポカと叩かれたが、それはきっと、怒りからだけではないだろう。
ふと時計を見れば、そろそろ神界へ戻る頃合だ。

「 ごめんね、もう、時間だから。 」

そう言うと、ファスタレイスは逃げるようにして席を立った。
私がどう思われようと構わない。
ただ、健やかであってくれれば。

二度と会えない覚悟を押し付けて、ファスタレイスは消えた。

Re: 純血の神臓 ( No.4 )
日時: 2018/01/08 10:51
名前: 雛蝋 (ID: 9uo1fVuE)  

3 使い魔


今までずっと隠された場所で生きてきた。
ましてや、あの部屋の外へ出る日が来るなんて考えもしなかった。

今。
あたしはまた別の場所で隠し、隠されながら生きる。
ファスタレイスの姿がかききえた辺りにしばらく視線を落とした後、諦めたかのように目を閉じ、自分の家となるこの神殿の中を、なんとなくさまよってみることにした。
壁は深い無機質な黒。
ただその壁には、横に駆け、枝分かれするような直線的な溝が彫られていた。
その溝を脈打つような淡い光が流れている。
だが、その赤い光は薄く、弱々しく、今にも消え入りそうだった。

天井と床は壁ほど特記することはない。
ただの黒い天井、黒い床だ。
ただ廊下の床は左右の端から照明が出ていて、スターティアには何故灯りが床から出ているのかよくわからなかった。

そんな謎な廊下を通り抜けると早くもエントランスに行き当たった。
なぜだか、その入口に扉はなかった。いや、この神殿自体、扉が据え付けられていないのか。
それは、エントランスをはさんで反対側のエリアを探索して、確信に至った。
ここには扉がない。
トイレや風呂場にすらついていない。
あたし一人だから別に問題はないけど・・・・・・問題はないけど・・・!

複雑な心境でエントランスまで戻ると、エントランスの正面にあたる場所に、大きな扉があるのが目に入った。

ーーーーーあれ?
ここにはさっき何も・・・

銀色で大きくて分厚そうで、何より重たそう。
突然現れて不気味だった。
でもそこには美しく繊細さを感じさせる不思議な彫刻が施されていて、エントランスから入り込んだ微かな光を受けて、神々しく煌めいていた。

ーーーーーこの先に、行かなきゃ。
なぜかそう思った。

取っ手のないその扉を押し開けようとするよりも早く、先に扉が開いた。
まるで違う世界に来たかのように、暗い廊下だった。
ただその奥の部屋に日の光を見出だすと、自然と、足が動いた。

照明のない廊下を歩いていくと、少しずつ空気が変わっていくのがわかった。
その部屋は、とても清浄な空気に満ちていた。
半球状の天窓から射し込む光は一片の塵も捉えることなく、円形のこの部屋の中央、小さな、美しく神々しい夕焼け色の台座を静かに照らし出していた。
円柱状で、側面には植物の蔦と花が、まるで本当に巻き付いているかのように彫刻されている。
上部には大きな謎の深紅の宝玉が納められていた。
それを中心に魔法陣のような模様が細く、深く彫られ、そのいたるところにルーンにも似た文字が荒々しく刻み込まれていた。

ーーーーー祈るのだ。

誰かに、そう言われた気がした。
不思議と、その祈りの対象も内容も、わかっていた。

スターティアは、祈りを捧げた。
この台座に。
神殿に。
自らの魂に。

どこからか地響きがする。
この神殿が、揺れている。
宝玉が・・・輝いている?

そう感じたのも束の間、その輝きは魔法陣へと染みだし、台座が眩い光に包まれた!



・・・地響きが止み、先程まであんなに眩しかったこの部屋に静寂が戻って来た。
さっきとの差に目が追い付かず、部屋が暗く見える。

ふと台座をみると、明らかな変化があった。
宝玉が空中に浮かび上がり、台座の魔法陣に、光が流れていた。
よくわからないが、多分、何かが成功したのだろう。

ボコリ。
音がした。
ボコボコボコボコッ!
宝玉から、何かがジェルのようなものが溢れてくる・・・!

やがて、宝玉はその黄緑のジェルに多い尽くされてしまった。
宝玉がコアになってジェルを纏っているようにも見える。
突然、宝玉の左右から三日月型のジェルが飛び出して来て、上下に忙しなくはためかせ始めた。

「 はね・・・? 」

そうスターティアが呟くと、あるはずのない返答が帰って来た。

『 そうだよ。よくわかったね。 』

スターティアは驚き辺りを見回す。
しかし、見当たるのはぷかぷか浮いた宝玉だけ。
・・・そう、宝玉だけしか、いない。

『 気付いてくれたかな?ボクはグラドフィルド!キミの使い魔!これからよろしくね、スターティア。 』

Re: 純血の神臓 ( No.5 )
日時: 2018/02/07 17:03
名前: 雛蝋 (ID: UruhQZnK)

4 日々

毎日の祈祷を終え、もはや見慣れたその存在に、スターティアは微笑みかける。

『 だいぶ板についてきたね。 』

「 もちろん。あたしだってかみのはしくれだもの。 」

グラドフィルドが現れて、彼女の中にあった憂いは軽くなった。
それどころか、暫く共に生活した彼を、母以上に慕った。
彼は彼女の使い魔であり、親友であり、兄弟であり、先生なのだ。
彼は絶対に裏切らない-----母と違って。

『 ご飯の支度はできてるよ。それが終わったら地界の監視をして、あとはお勉強だね。 』

お勉強という言葉に少し難色を示すと、扉を押し開け、彼-----グラドフィルドと出会った聖域を後にする。
彼は色んなことを教えてくれた。
彼の種族のこと、使い魔のすること、地界のこと、神界のこと、そしてあたしのすべきことも。
今は小難しいことが中心だから前より楽しくない時間だ。
そんなことを考えていると、今日の予定の中に聞きなれない言葉があることに気が付く。

「 ちかいの・・・かんし? 」

『 そう。地界の監視。 』

「 なにそれおいしいの? 」

まだ5歳程度のスターティアには、地界という単語は解っても、監視というのは解らなかったようだ。
未だたどたどしいその口調と、純粋な輝く瞳は、刺身に寄ってきた小さい子猫を思わせる。
その結果として、非常に可愛い仕上がりとなる。

『 ふふふっ。可愛いねぇ。あんまりおいしくないよ。ふふふふ。 』

彼は顔を緩ませ-----纏っているジェルが少し溶けた-----幸せそうにしている。
何が彼の琴線に触れたのか、スターティアには解らなかったが、解らないことは聞けばいいのだ。
だがスターティアが疑問を口にするよりも早く、グラドフィルドが説明を始めてしまった。

『 いいかい?スターティア。地界の監視ってのは、君がここに来た理由でもあるんだ。 』

そう言うと彼は宙をすべるように移動を始めた。
場所を変えようということだろう。
勉強部屋-----つまり自室まで行くということは、これから彼による長い長い講義が始まるということだ。
気乗りはしないが、この幸せに比べれば些細なことだ。

この幸せを、誰にも奪わせはしない。絶対に、誰にも。

Re: 純血の神臓 ( No.6 )
日時: 2018/03/31 21:15
名前: 雛蝋 (ID: 9uo1fVuE)

5 憂暮れ

『 良いかい?スターティア。 』

くたびれたようにグラドフィルドが問いかけると、

「 よくなーい。ぜんぜんわかんなーい。 」

うん、知ってた。
もう、かれこれ10回は説明したのに。
スターティアが真面目に聞いていなかったとか、グラドフィルドの説明が悪かったとか、そういう次元ではない。
ただ純粋に、スターティアが幼すぎたのだ。
地界の監視を任せるには、知識も経験も力も足りない。

『 うーん。じゃあまた今度、もう少し大きくなったらまた教えるよ。 』

「 はーい! 」

ベットの横にある机の上の時計を見ると、短針が上を向き、昼時であることを知らせていた。

『 あぁ、もう昼過ぎか。待っててね。すぐご飯作るから。 』

「 あ、あたしも!あたしもつくる! 」

ひどく焦った様子で手伝いたいと言う彼女に、グラドフィルドは静かに問いかける。

『 どうしたの?いつもそんなこと言わないのに。何か欲しいものでもあるのかい? 』

言ってごらん、と問いかける彼に、スターティアは何も言わなかった。
ただ少し俯いて、彼と目を合わせないようにしていた。

「 なんでもないの! 」

むぅっと唸るとそう答え、スターティアはキッチンスペースへと駆けて行った。
ただ、変質化した家に慣れていないためか、速度を落とすとキョロキョロとあたりを見回し、首を傾げながら進んでいった。
この家ーーーーー地ノ神殿は、管理者たるスターティアの成長に合わせ、内部の造りや広さなどが、順次変わっていく、不思議な建物だ。
例えば神殿の西側は始め、スターティアの部屋しかなかったが、今は部屋とエントランスとの間に、簡素な応接間が出現している。
神殿の大きさと、実際の内部構造を見れば、まだまだ開放されていない部分も多いことがわかる。
突然増える部屋と、変わっていく部屋の配置に、スターティアは順応しきれていないのだ。

『 ほら、スターティア。そっちは風呂場だよ。キッチンはこっち。 』

一方グラドフィルドは完璧に理解しているので、問題は無い。
毎日家の中で迷うスターティアを助けるのも、彼の役目だ。

「 んむー! 」

どこか不機嫌そうに駆け寄るスターティアに、グラドフィルドは何も言わない。
そのまま無言で作業し始める彼を、スターティアはじっと見つめた。
結局手伝うと言っても、何もすることは無い。
グラドフィルドは宝玉に纏ったジェルーーーーー最近は硬度がまして固めのスライムみたいになっているーーーーーを器用に伸ばし、幾多もの触手を使って料理を作っていた。
ふと、1本の触手がスターティアに向かって伸びてきた。
何をするでもなく、スターティアの目の前で佇む触手は、彼女を待っているように思える。
すると、何を思ったかスターティアはかがみ、触手の下に潜り込むと、頭を触手に当てた。
セルフで、頭を撫でられているのだ。
触手は引き戻されることも、スターティアに反発することもせず、ただ黙ってそれを受け入れた。

グラドフィルドには彼女の気持ちは理解できなかった。
それがどこか悔しくて、彼はこの身を恨んだ。
理解できていないのが他人のことだけでないことを知ったのは、
ほんの数時間後のことである。

Re: 純血の神臓 ( No.7 )
日時: 2018/05/09 21:46
名前: 雛蝋 (ID: 9uo1fVuE)

紅イ地面
割レタ視界
壊レタ思考
夕暮レヲ喰ラウ一枚ノ花弁
朝焼ケヲ蝕厶崩レ行ク落葉

暗闇ノ中ニ希望ヲ
光ノ中ニ絶望ヲ見出ス

サァ、愚カナル民達
絶叫ノハーモニー、
楽シミニシテイルヨーーーーー


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