複雑・ファジー小説

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まだ見ぬ明日へ
日時: 2018/03/15 01:36
名前: シガラミ (ID: XhcgQ6Qp)


0.プロローグ

目を開ければ一面真っ白な世界。ここは何処だと思う前に声が聞こえた。
“おはようございます、貴方は勇者。名前をどうぞ”
なまえ?名前・・・なんだっけ?そもそも俺は勇者なのか?
“名前をどうぞ”
ああ、名前を言わなきゃ。

朦朧とする意識の中、パッと思い浮かんだ名を名乗った。
「シミズ。清水だ」

“それでは清水さま、良い旅を”

Re: まだ見ぬ明日へ ( No.2 )
日時: 2018/03/21 08:46
名前: シガラミ (ID: My8p4XqK)

1.2

追手に追いつかれないよう暫く走っていれば、後ろから手を軽く引かれて足を止めるが勢い余って振り返るとその子が俺の手を両手で掴んで引き止めたようだった。俯いている女の子の顔色を伺うために腰を曲げて覗き込めば彼女は勢い良く顔を上げた。それにも驚いたが顔を上げた彼女の顔が眉間に皺を寄せ口をギュッと結び、怒っている様で俺は目を丸くした。追手が後ろから来る気配はない。追手から逃がしたというのになぜ怒られる。問題はすぐに解決した。
「・・・痛い」
俺はハッとして彼女の手を放した。
逃げる時に掴んだ彼女の手を強く握り過ぎたんだと気づいて「ごめん」と謝れば掴まれていた手を擦りながら彼女は、そっぽを向いて許しの言葉は返ってこない。
「どうして、私を逃がしてくれたの?」
それは追手から、という事なんだろう。俺は言いづらいが「うーん」と頬をかきながら迷った挙句、正直に言うことにした。
「君みたいな小さな女の子が追われて、助けを求められて見て見ぬふりなんて俺にはできないからね」
少し屈んで彼女と視線を合わせ苦笑しながら言うと彼女はボソッと呟く、それに俺は慌てて否定した。
「・・・偽善者」
「違うよっ、そういうわけじゃなくて」
「なによ」
「うーん、なんていうか、うーん・・・」
「・・・ぷっ、あははっ」
俺は彼女に説明しつつも心の中で、意外とこの子口調が鋭いなと思っていた。すると、突然彼女は笑った。どこに笑えるところがあったのか不思議で目を丸くして彼女を見つめると眉毛を八の字にして口角を上げ企みのある顔で問われた。
「あなた、私を何歳だと思っているの?」
「え?・・・12歳」
「失礼ね!私はこれでも18よ!」
「え!?」
「うふふっ、あなた面白いわね」
幼い女の子かと思っていたら年齢を聞いて驚いた。童顔過ぎる彼女は両手を腰に沿え傲慢気にものを言う。
俺は自分の勘違いに申し訳なく謝罪をした。彼女はそれを簡単に承諾してくれたが、条件付きだった。
「いいわ、許してあげる。でもそのかわり、私をあなたの仲間にしなさい」
「・・・え?」

Re: まだ見ぬ明日へ ( No.3 )
日時: 2018/03/27 21:14
名前: シガラミ (ID: My8p4XqK)

1.3

「仲間?」
「そうよ、あなた格好からして勇者なんでしょ?」
「ああ、そうだけど」
「勇者は旅をするものでしょ?その旅仲間に私がなってあげるって言ってるの」
この子は何を言っているんだろうか、さっぱり理解出来ない。
「女の子を危険な目に合わせたくないよ」
「・・・そういうの、いらないから」
「え?なにが?」
「いいわ、何でもない。それより、私を仲間に入れたら大きな戦力となるんじゃないかしら?」
「いや、そもそも旅をする理由が無いし」
女の子は手を顎に乗せ何かを考えている素振りを見せた。シミズは彼女の次の言葉を待つ。
「それなら、つくればいいのよ。困ってる人がいるなら助ける!それが勇者の生きる術でしょう?私には清く正しく人のために自分が犠牲になるなんて、とてもじゃないけど出来ないもの」
「・・・え、それって褒めてる?」
「あっ!そういえば名前、まだだったわね!私はリンよ!林檎のように真っ赤な髪をしているからリン!あなたは?」
人の話を聞かずに自分の言いたい事や聞きたい事は遠慮しない彼女・リンに呆れつつ名乗る。
「シミズだ」
「そう!よろしくね!」
名を聞けたリンは笑顔で種を返し、何処に向かっているのか分からないが歩を進める。その後を歩きながら先程民から譲ってもらった林檎を見つめて食欲が失せた為、リンに譲った。
リンの態度は、その可愛らしい幼女のような見た目とは裏腹に驕り高ぶった傲慢そのもの。
「はぁ・・・この林檎食べるか?」
「え!?いいの?持ってるならさっさと譲りなさいよね!」
林檎を両手で持って小さな口を開けて皮ごと林檎を美味しそうに食べるリンを見てシミズは厄介な仲間が出来たもんだと肩を落とすのだった。

Re: まだ見ぬ明日へ ( No.4 )
日時: 2018/04/05 20:23
名前: シガラミ (ID: pNKCfY7m)

2.自称魔術師リン

「ところで何処に向かってるんだ?」
「あっちよ」
シミズが聞けばリンは歩き進める方向を指さす。シミズはリンの足の進む方に何かあるのかと問う。
「なにかあるのか?」
「知らないわ」
リンの答えに理由もなく堂々と自分を先導していたことに疑問を抱き驚く。すぐにそれは呆れへと変わる。自分より身長が半分程しかないだろうと思える低身長に童顔なリンは自分よりも年長には見えず、幼い言動をしてても周囲からは自然に見える為に無自覚なんだろうと思うと怒る気力は湧かなかった。

シミズはリンとの会話が無くなれば考え事に浸る。
勇者が旅をする、助けた相手が仲間になる。
勇者は「勇者」と呼ばれる理由がある、そう呼ばれる為の実績を積まなければならない。つまり、なんかボスを倒せばいいんだな、よし、わかった。まずは武器だな。
「リン、武器の調達に行こう」
「・・・かないの?」
「あっ、え?なに?何か言った?」
「だから!聞かないの?!」
急に足を止めたリンは俯いて大声を出す。リンの情緒の不安定さに戸惑いつつ、何を聞くべきなのか頭の中で自分が考え事をしている時にリンが話しかけていたか記憶を辿る。
何も覚えていない。何も話していなかったと思うが話しかけていたとするなら自分は聞いていなかったとシミズは反省しつつ、何を聞くべきか分からなかった為にリンに聞いた。
「・・・ごめん、なにを?」
暫くしてリンは顔を上げて口を開いた。
「・・・ただの凡人が勇者の仲間にしゃしゃり出るわけないでしょ!?」
「おいおい凡人は言うな。でもそれってつまり、どういう意味だ?」
「・・・だから」
リンは上げた顔をまた下げて着ていた黒いマントを拡げると同時に片手に木製でリンの肘の高さぐらいの長さの杖を出した。
どこにそんなものを隠せるところがあったのかと驚くが、問題はそこではないのだろう。
「私は魔術師なの!」
杖を片手に胸を張ってリンは鼻を高くした。

Re: まだ見ぬ明日へ ( No.5 )
日時: 2018/04/09 07:20
名前: シガラミ (ID: pNKCfY7m)

2.2

「魔術師?」
「そうよ!早速頼もしい仲間が出来たんだから、もっと喜んでもいいのよっ?」
フフンっと鼻で笑うリンに対してシミズは浮かない顔をした。
年齢は上だとしてもココはゲームのような世界だ。きっと年齢はずっと変わっていないんだろう。小さい目の前のリンを見ていると、自慢げに魔術師と名乗るが期待が出来ない。本当に魔法が使えるのか?
「じゃあ試しに何か魔法、やってみてくれよ」
「え?ええ?!そんな、きゅ、急には無理でしょ?」
明らかな動揺に不信が募る。
暫くリンの反応を見ていると、一息ついたリンは杖を前に突き出す。
「いいわ!見てなさい!これが、私の、チカラ!」
その場で左足を軸に回転したリンは言いながら杖を高く上げた。バーンと効果音が付きそうな雰囲気で、何かが起きそうで唾を飲み込んだ。
次にリンを見た時にはリンの足元に蠢く何かが!
「っ・・・なんだこれ」
「動く小人の人形よ!どう?凄いでしょ!」
5体の20cm程度の小人の人形がカタカタとぎこち無く動いていた。誇らしげに両手を腰に当てるリン。小人を見つめていると思ったことが口から漏れる。
「・・・使えねぇー」
「っな!?」
気づいた時には遅かった。しまった、とリンを見ればバカにされた悔しさからか頬を赤らめ歯を食いしばっていた。
言うつもりはなかったが出てしまったものは仕方ない。否定するつもりは無い。事実だ。リンの反応を素知らぬふりしてシミズは屈めんで動く小人の人形1体を指で小突く。すると、それまで怒りを我慢していたリンが声を荒らげた。
「なによっ!」
「・・・っ、うあっつ!!?」
リンが杖の矛先で地面をカンッと力強く突くと同時に動いていた小人の人形に全体同時に火がつき燃え上がった。小人の人形を小突いていたシミズはいきなりの発火に驚き火の熱さに咄嗟に手を遠ざけリンを見上げた。
リンは目に涙を溜めていた。理解が出来ず、もう1度小人の人形を見れば、ソレはもう燃えてなくなっていた。
リンはか細い声で強がりなセリフを吐き、目に溜めていた滴が溢れた。
「他にもっ、できるんだからっ」
リンの泣きっ面にシミズは硬直してしまった。

Re: まだ見ぬ明日へ ( No.6 )
日時: 2018/04/11 19:59
名前: シガラミ (ID: pNKCfY7m)

3.火の能力者リン

「なんだ、いまの・・・」
シミズは目の前で起きた一瞬のような出来事に目を見開いたまま頭だけは冷静に理解しようとする。
リンは目の前で腕で目を擦りながら零れる涙を拭き取り泣き続けている。
「うっ・・・ひっく・・・あなた、知らないの?」
「・・・え?」
少し落ち着いてきたリンが口を開くが何を知らないのかがシミズには分からない。
この世界には来たばかりで知らないことだらけだ。

「私は火の能力者なの」
「火の能力者?」
「人知を超えた超上的な力を持ってる人間。私だけじゃない、まだ他の能力者に会った事はないけど、数千、いや数万人に1人居るとされてるの。あなたが勇者なら、あなたもきっと」
「いや、そんなことはない」
「え?」
「俺は何も・・・」
リンが説明してくれたことはシミズにとって重要なことだった。
能力者?なんだそれ、面白い!冒険と能力者との戦いを描くものなのか、と思えば自分に能力が無いと思うと気分は沈んだ。
「そうなの?ならいいわ!私があなた、シミズを守ってあげる!」
先程まで泣いていたとは思えないリンは笑顔で杖を掲げた。そんなリンには悪いが俺は納得出来ない、とシミズは向かっていた方へまた歩みを進める。
「そういうわけにはいかない!男が女の子に護ってもらうなんて屈辱でしかない!リンは俺が、このシミズ様が護ってやるよ!」
胸を拳で叩いて言えば、リンは頬をほんのり赤らめ「バカね」と上がる口角をシミズに見せないようにして呟いた。


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