複雑・ファジー小説
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- 夜明けは君と
- 日時: 2018/05/12 19:21
- 名前: もるぴん (ID: e22GBZXR)
初めまして皆様、もるぴんと申します!
今回は異世界風のファンタジーに挑戦していきたいと思います。遅筆ですが、完結目指して頑張ります*\(^o^)/*
【世界観】
6つの大国とその他無数の小国から成る中世ヨーロッパ風の世界。今回の舞台はグルートハイス大国。魔法の技術は主に北方の国で発達しており、南西に位置するグルートハイス大国では代々騎士団が国を護り続けている。科学技術、医学技術共に国同士の差はほとんどない。
【登場人物】
◎ティナ・アネーリオ(18)
各国を旅する少女。基本は天真爛漫で自由人
◎クラウス・ヴィンケルマン(27)
グルートハイス大国の騎士団長。無愛想
◎ルディ・ウォン・グルートハイス(24)
グルートハイス大国の王子
◎ヴァイ(20)
騎士。人懐っこい
◎レーク(20)
騎士。冷静
- Re: 夜明けは君と ( No.4 )
- 日時: 2018/05/15 21:39
- 名前: もるぴん (ID: e22GBZXR)
だが、ティナは決して旅芸人ではなかった。
「あはは。剣は本物ですよ。私、これでも傭兵なんです」
剣を軽く持ち上げると、カチャリ、と重々しい音が立った。
傭兵。給料を払われて剣を振るう、いわば雇い兵だ。魔法の特化している北方では分からないが、少なくともティナの故郷であるラメニールド王国ではそういった人々が多く存在した。危険な仕事ではあるものの、給料はそこらの商人が必死に稼いだ金よりもよほど良い。
そしてティナも、それを生業としている者の一人だった──のだが。
「あっはっはっ!そっかそっか!随分頼りなさそうな傭兵さんだね!」
豪快に笑い飛ばす女店主。まるで信じようともしない彼女に、ティナは内心で苦笑する。
「もー、本当ですよ!これでも剣の腕には結構自信があるんですから!」
必死の抗議も空しく、店主はただ分かった分かったと目に浮かぶ涙を拭うだけだった。
「うーん……そんなに強そうに見えないですかね、私」
「ま、あたしの知った限りじゃあアンタみたいな可愛い傭兵サンはなかなかいないね。──あ、焼きあがった。ちょっと待っててね」
店主はそう言うと、店の奥にある竈から鉄板を取り出した。その上にはこんがりと焼けたパンが並んでいる。辺りにはなんとも言えないおいしい匂いが充満し、思わず生唾を飲んだ。
- Re: 夜明けは君と ( No.5 )
- 日時: 2018/05/22 21:58
- 名前: もるぴん (ID: e22GBZXR)
「はい、2マルツだよ。毎度あり」
言われた金額を差し出すと、袋に包まれた焼きたてのクロワッサンを渡される。香ばしい香りと袋から伝わる温かさにティナは顔を綻ばせた。
「わあ、ありがとうございます!」
礼を言い、では失礼しますと店を離れようとした時。
チリンチリンと可愛らしい鈴の音が店の奥の方から鳴った。何の音かと音が聞こえた方を見やると、扉から少し頬がやつれた初老の男が入ってきた。男は不自然に頭を押さえ、顔はぐったりと疲れているように見える。
この女性の夫だろうか。そう思いティナは挨拶しようとしたが、それは女店主の怒鳴り声によって叶わなかった。
「遅いじゃないかアンタ!もう配達の時間だよ!!」
耳をつんざくようなその大声に男は勿論、ティナもしおしおと背中を丸くした。
「す、すまん……二日酔いが酷くてな……」
「はあ!? 配達はどうするのさ! あたしは今日ここから離れられないんだよ!?」
さっきまで優しそうに微笑んでいたパン屋はどこへやら、女店主は額に青筋を走らせ凄まじい怒りを瞳に走らせていた。
よく分からないが、やはりこの男は女の主人なのだろう。そして首が折れてしまうのではないかと思うくらいに頭を垂れる姿から、女房に頭が上がらないこともわかった。
とりあえずこれ以上は見ていてはいけない気がして、そうっと踵を返した。
「ただえさえ人手が足りないのに──ああ、誰かこのパンを配達してくれないかねえ!」
ティナは足をピタリと止める。
今のは明らかに第三者に向けて発せられた声だった。
振り返ると、女店主は男の方を向いたままだが、明らかにチラチラとこちらに視線を寄越している。
……言わんとしていることは、分かった。
ティナは手に持っているクロワッサンに目を落とすと、小さくため息を吐いてパン屋の屋台へと戻る。
「あのー……私でよければ、お手伝いを」
「本当かい!?」
言い終わる前にあからさまに喜ぶ女店主を見てティナは苦笑いした。やはり、この国の人は単純で分かりやすいというのは本当のようだ。
- Re: 夜明けは君と ( No.6 )
- 日時: 2018/06/04 21:51
- 名前: もるぴん (ID: e22GBZXR)
女店主はティナの言葉を聞くや否や、すぐさま焼いたばかりのパンを少し大きめの包みに入れた。
その後羽ペンを持ち、紙に何か書き始めたかと思うと、その紙を渡された。どうやら地図のようだ。店主がバツ印が書いてあるところを指す。
「じゃ、察してるとは思うが、この地図に書いてある所まで配達をお願いするよ。南門から出て暫く街道を歩くと山があるんだけど、その北側の麓にボロい小屋があるからそこまで届けておくれ。一応山道は整備されてるから簡単にたどり着けるはずだよ」
節だった指が辿う地図に記された道を目で追いながら、ティナは首を傾げた。
「南門から出て?そんな頻繁に出入りできるんですか?」
それを聞くと、店主はカカカ、と小気味よい音を立てて笑った。
「馬鹿だね、何のための立ち入り許可証だと思っているんだい?」
ティナは自分の襟元に指をさされて納得した。てっきりこのブローチは門の審査を通った事を証明するためのものだと思っていが、これさえあればあとは自由に立ち入りできるらしい。
(警備が堅いのか緩いのか……)
内心で密かに呆れていると、目の前にドンとパンが入った包みを放り投げられた。
「じゃあこれお届けものね。半日もあれば帰ってこられるから、頑張ってよ!」
ティナはそれを聞くと、目を丸くした。
「は、半日、ですか?」
「体力のある傭兵さんなら楽勝だろう?」
その言葉にうっ、と返答に詰まる。確かに体力はあるが……だからといって山登りが得意な訳では無い。しかしここで傭兵という言葉を使われると言い訳がましいことなど言えなくなる。
そんなティナのことなど気にする素振りも見せず、女店主は再び羽ペンを持ち地図に地図に何かを書き込見始める。
「ちなみに、道から外れる事はないだろうけど、とりあえずこの滝つぼ付近には近づかないでくれ。山賊の縄張りなんだ」
一体どんな意味があるのかは分からないが、ヒソヒソと声を低くして話す女店主。指差すとおりに地図に目を落とすと、確かに大変可愛らしいドクロマークが滝つぼという文字の横に描かれている。ここに山賊とやらがいるのだろう。
王都の付近の山に山賊がいるのは、やはりグルートハイス大国の警備は割とゆるいのかもしれない。
そしてティナが一通り地図を見終えると、店主は地図を丸めて紐で括り、最大級の笑顔でティナに渡した。
「それじゃ、頼んだよ!お礼はたーんと弾むからね!」
「ふふ。じゃあ、行ってきますね」
なんだか腑に落ちないところもあるが、報酬が貰えるとのことで、ここはノイスハレンに来て初めての仕事なのだと思う事にしよう。
ティナは女店主と、未だに店の奥で頭を抱え真っ青な顔をしている主人に愛想よく手を振った。
去り際、買ったクロワッサンを一口齧る。見た目通り、さくさくふわふわでとても美味しかった。
- Re: 夜明けは君と ( No.7 )
- 日時: 2018/06/07 00:05
- 名前: もるぴん (ID: e22GBZXR)
ティナは南門に行くために、まず中央広場まで足を運ぶことにした。
ノイスハレンは栄えてはいるが、城が占める面積が大きく、北東の殆どがその敷地である。そのため庶民が活動している地域はそう広くはない。
そんな彼らの居住区は、西南の中層地区、北西の富裕層地区、南東の貧困層地区にある。
その中でも最も人口が多い階級である中層労働者の主な仕事場こそが、先程の西広場、そして中央広場だった。ここに来る途中で人々からそんな情報を仕入れた。赴く土地の事情を知るのは傭兵として当然であるのだ──が。
(まさか、ノイスハレンに来て早々お使いを頼まれちゃうなんてなぁ……)
足元の石ころを蹴りながらそんなことを思っていると、いつの間にか中央広場に着いていた。
「凄い……」
思わずティナがそう零したのも無理はない。
そこは、まさに大国の首都と呼ぶにふさわしい繁栄ぶりだった。人々の騒ぐ声は嵐のように聞こえ、様々な店が立ち並び、数々の見世物小屋の中から歓声が聞こえる。
更に、今日は何かの催しでもあるのだろうか、店の軒に吊るされた赤い花のような飾り物が広場を彩っている。その傍らでは、騎士が厳粛な顔をして広場の中心の道を人払いをしていた。
先程の西広場も十分に賑わっていたが、中央広場の方が遥かに栄えていると見える。ノイスハレンの外の地域に至っては比べ物にならないほどだった。
(でも……)
ティナは行き交う人々の顔を見る。
一見旺盛のある大都市に見える。しかし、その活気には何か虚偽のようかものを感じるのだ。
そんな、微かな違和感の正体を探っている時だった。
「おぉ!可愛い嬢ちゃんがいるじゃねえか!」
「わ!」
突然、肩に褐色の肌をした腕が回ってきたかと思うと、強い酒の匂いがつんと鼻をついた。
振り返ると、50代前半だろうか、大分出来上がっている男性に肩を組まれていることが理解出来た。その右手はウイスキーの瓶をしっかりと握っている。
ティナが驚いたような声を上げると、男性は豪快に笑い飛ばした。
「驚かせてすまんな!見ねぇ顔だが、よそ者かい?」
「え、ええ。今朝来たばかりです」
「おう、そいつはラッキーだ。今日は午後からは全ての門が出入り禁止になるからな」
「へぇ、そうなんですか?これから何かお祭りでも?」
「その通りだ。今日はこれから第二王子、ルディ殿下の凱旋パレードがあるんだぜ。隣国との交流会から帰ってくるんだとよ」
それを聞いてティナは少し残念に思った。これからあると言うことは、つまり配達のある彼女は見ることができないだろう。
未だに肩を組まれつつ、ティナは広場を見回した。辺りでは騎士達が身を転がすように動き回っている。王子の凱旋の警備ということで、騎士達の顔には緊張が走っているように見えた。
- Re: 夜明けは君と ( No.8 )
- 日時: 2018/06/10 16:59
- 名前: もるぴん (ID: a0p/ia.h)
「ノイスハレンは騎士が沢山いるんですねぇ」
「当たり前だろぉ? 騎士団はグルートハイス大国を護るのが務めだからな。首都のノイスハレンでは警備が厳しいんだよ」
そう言われても、これまで聞いた話を考えると説得力のない言葉のように思える。
だが確かに、この広場での騎士達の緊張感を見る限りでは、厳重に警戒されていると察することができる。
「騎士団はこの国の要と言っていい。騎士団長なんかは、政治に関しても影響力が大きいらしいな」
「騎士団長? 武官のトップが政治に?」
「ああ。だが今の団長様は優秀だぜ! まだ27歳だというのに、この国で一番剣の腕が立つと言われる。切れ者で軍師としても名高いと聞くな。あ、しかもかなりの色男だぞ。ああ全く、神様は不平等だねぇ!」
わざとらしく天を仰ぐ男。ティナはそれに困ったように笑う一方、頭では顔も知らない厳格な騎士の姿を思い浮かべていた。
この国で一番剣の腕が立つ。
それだけで、剣士であるティナの関心を引くには十分だった。
「ほれ、丁度嬢ちゃんも襟につけてるそれ。立ち入り許可証も、騎士長様をモデルに鋳造されてんだぞぉ」
「へー、そうなんですか!」
確かに立ち入り許可証には騎士が描かれていたのを覚えている。顔は厳つい鎧に隠れて分からなかったが。
でも、と男が自身の無精髭の生えた顎を撫でて続けた。
「騎士団長は今日のパレードには参列しないかもなあ」
「と、言いますと?」
「団長は今回は王子の護衛に回らなかったみたいだ。王宮は大変なことになってるって噂だし、大方そっちに回ったんだろ」
「大変なこと……ああ、確か、国王陛下が病床に臥せていらっしゃるんでしたっけ」
グルートハイス大国第12代国王、ウォン・ハンネス・グルートハイス。厳しい規則により民をまとめあげる暴君として名を馳せている一方、広漠な土地を持つグルートハイスを中央集権的に治めあげる有能ぶりも有名である。
男はひょいと片眉を上げた。
「なんだい、よく知ってんな。……だが実は最近はそれだけじゃねえ。──ヴィクトール第一王子が、3ヶ月前から行方不明なんだよ」
「行方不明?」
思わず素っ頓狂な声を上げるティナ。男はいい反応だ、と言わんばかりににやりと笑い、人差し指を突き立てた。
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