複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

キャラソース【完結】
日時: 2018/09/17 21:07
名前: 流聖 (ID: 8vMNebk7)

キャラソース

急にどうした私。衝動的に書いたものです。短いです。

Re: キャラソース ( No.2 )
日時: 2018/09/17 17:24
名前: 流聖 (ID: 8vMNebk7)

 「身体的命と精神的命の重さは言うまでもなく、身体的命の方が重いのです。これは天秤にかけるようなものではなく何にも変えられないものであり、例え精神的命が殺されても」

 キーンコーンカーンコーン。先生が話す途中で鐘は堂々と鳴り響き、授業終了の号令がかけられる。
 とたんに生徒はグループ同士で集まり他愛もない話題について話す。大方愚痴か悪口か自慢だ。

 ──ねえ、知ってる?ソースって──
 ──そうだったの?うわぁ、ソース君って──
 ──ねえ聞いて聞いて、今日さぁ──

 ソースをチラチラ見ながら悪口を話す光景も、ソースは随分と慣れたものだ。
 言うなら言うで面と向かって言うか聞こえないように話してほしい。もしかしてわざと聞こえるボリュームで話しているのだろうか。
 ソースが話している奴らの方を見ると、運悪く目があってしまい、不器用に目を逸らされて離れたところに移動してしまった。

 ──ソースって目付き悪いよねぇ──

 それくらい、知ってるし。なりたくてなってる訳じゃないし。離れていても聞こえる己への軽蔑的な言動は、時に針のように胸につきささる。自分の瞳も奴らの悪口と等しく、針のようなのだ。自分も針を奴らに無意識に投げ掛けていたのだ。やっていることは自分も同じじゃないか。

 「そー、おー、すー!」
 「うわっ」

 いきなり背後から肩をがしっと掴まれて驚く。声からして、というかソースにこんなことをしてくるのはキャラだけだ。ソースは振り向かずに肩に乗った手を退かしながら言った。

 「まったく、ビックリしたじゃねえかキャラ」
 「ふっふふーん!やったね、成功だ」

 ──ほら、見て、キャラがソースと──
 ──なんでソースがキャラと──

 キャラは成績優秀、品行方正、文武両道、しかもイケメンというアイドル的存在で、皆の憧れの的だ。そんなやつがソースと仲良く戯れていれば、結果は火を見るより明らか。いずれキャラもソースと同じような扱いを受けるだろう。

 「なあ、やっぱり」
 「言わないで、悲しくなるから」
 「お、おう」

 仲良くするのはやめた方がいいんじゃねえのか。その言葉はキャラに押しきられ心の奥底に沈んでは消えた。
 いいやつだ、キャラは。ソースはぽつりとそう思った。でもそれが逆に痛々しい。眩しすぎて近くにいたら焦げてしまいそうな、そんな危うさをソースは感じる。
 
 「キャラ」
 「ん?なに、ソース」
 「……なんで、俺と仲良くするんだ?」

 キャラの気持ちを疑っているわけではない。こうして仲良くしてきて1ヶ月。キャラが本当に自分を友達として想っているということをソース充分にわかっていた。だからこれは純粋な好奇心だ、とソースは自分に言い聞かせる。
 キャラはいつものように爽やかな笑顔で言った。

 「なんでって、そりゃあ、好きだからだよ。」
 「そっ、か……」
 「どうしたの、いきなり」
 「いや、なんでもねえ」

 ソースは何かが心に引っ掛かっている気がした。

Re: キャラソース ( No.3 )
日時: 2018/09/17 20:38
名前: 流聖 (ID: 8vMNebk7)

 キーンコーンカーンコーン。
 鐘が鳴り、先生の堅苦しい声が消える。その代わり室内は生徒の鳴き声で埋め尽くされる。それはいつものことなのだが、ソースはひとつの不信感を覚えた。
 妙にいつもより煩いのだ。耳を傾けて聞いてみると、どうやら皆ある話題に集中していた。

 ──キース君が──

 「やあ、ソース、どうしたのぼーっとして」
 
 ぼーっとしていたのだろうか。自覚はないがはたから見るとそうなのだろう。というより、関係ないがとにかく気になるのでソースは聞いてみた。

 「なあ、キースがどうかしたのか」

 キースは確か背の高い大柄な男子で、特に目立つような奴ではなかったはずだ。だというのにこの場がこの話題で持ちきりなのは何故なのか。ソースはあまり他人と話さないからそういう噂の類いには疎い。キャラなら男女問わずよく皆に囲まれて話しているから何か分かるかもしれない。

 「知らないの?キースが柵を越えたんだよ。ちなみに噂じゃなくて実話。その証拠に今日はキースがいないだろう?降級したんだよ。」
 「ふうん、まあ自業自得だな」

 確かに改めて周りを見るとキースがいなかった

 「ねえキャラー!ちょっと来てー?」
 
 派手な女子達のグループがキャラを呼ぶ。隣にいるソースを迷惑そうな目で見ていた。
 キャラはわかったと女子達に向かって答え、申し訳なさそうな顔でソースを見つめる。

 「……じゃあ、呼ばれてるから。バイバイ」
 「じゃあな」

 やっぱり自分とキャラは住む世界が違う。女子達に囲まれているキャラを見てソースはそう思った。
 次の授業の準備をしながら、思わずキャラ達の会話に聞き耳をたててしまう。キャラだって、裏では自分の悪口を言っているんじゃ。そんな汚い感情が胸のなかで渦巻く。

 「ねえ、キャラはなんでこんな私なんかと一緒にいてくれるのぉ?」
 「なんでって、そりゃあ」

 かつての自分がした質問と同じような会話が聞こえた。キャラはなんと答えるのだろう。ソースはどこかで何かを期待している自分がいるのだと思った。

 ──好きだからだよ──

 あの時と同じ、いつもと変わらない笑顔を振り撒いて、キャラはそう言った。
 

Re: キャラソース ( No.4 )
日時: 2018/09/17 19:24
名前: 流聖 (ID: 8vMNebk7)

 自分だけの、自分のためだけに紡がれた、言葉だと思っていた。信じていた。期待していた。そんなわけないけど。

 「ソース、もうすぐ職場体験があるらしいよ。外に出るのは一年ぶりだねぇ」
 「職場体験、か……お前はここを出たら高校行くのか?」
 「やだよ高校なんて。ソースは?」
 「俺も、働こうかな」
 
 外の世界はなにか変わっているだろうか。たかが一年、されど一年。きっと全く変わらないものも、がらりと変わったものもあるだろう。ソースは少し外の景色が楽しみだった。

 「じゃあさ、一緒に住もうよ。家賃半分半分で払えば安いじゃん」
 
 どうして、一緒に住むだなんて俺に言えるんだろう。ソースは困惑していた。自分よりもっと相応しい人がいるのではないのか。一緒に遊ぼうよ、みたいな軽いノリでそんな大事なことを言われても戸惑ってしまう。どうせ自分以外の奴も好きなら、自分じゃなくてもいいだろう。

 「ああ、そうだな、できたらそうしよう」

 こうやって有耶無耶にして、約束とすら呼べないそれは、時がたてば霧のように薄れて消える。
 キャラは冗談で同居の話をしたのかもしれない。もしかしたらこの友達という関係すらも冗談で済むものなのかもしれない。ソースはどうしようもない不安に襲われた。

 ──好きだからだよ──

 皆が好き。博愛主義者。いいことじゃあないか。何がいけないんだ。でもその言葉も笑顔もどこか心に引っ掛かる。 
 
 ◇

 テストの結果が貼り出された。キャラはいつも通り上位で、ソースは平均より少し下だった。これでも最近キャラに勉強を見てもらったので上がった方である。
 ソースは隣のキャラに振り向きながら言う。

 「毎回毎回すごいな……っていねえじゃねえか。」

 隣にキャラはいなかった。ほんの少し前まで一緒にいたのだが、いつの間にか他のグループの所にいっていたようだ。
 成績優秀、品行方正、文武両道、イケメンのキャラ。目付きが悪くて取り柄のない、ソース。
 テストの順位が上位のキャラ、皆に囲まれて笑うキャラ、たくさんの人に呼ばれるキャラ、そういう姿を見ていると嫌でも差を感じる。キャラは俺とは違うのだと。

 「好き……か。そんなんじゃ、わかんねえよ」

 その言葉は誰に届くでもなく、虚へと消えていった。

Re: キャラソース ( No.5 )
日時: 2018/09/17 20:04
名前: 流聖 (ID: 8vMNebk7)

 「誰よやったの!今すぐ出てきなさい!」

 キャラの眼鏡が壊された。キャラの机の上にレンズもフレームもバキバキに折れ曲がった眼鏡が置いてあったのだ。キャラは部屋から出てこなくなってしまった。女子の一人が怒って叫び、皆の視線がソースに向けられる。

 ──ソースがやったのよ──
 ──やっぱりソース君が──
 ──最近一緒にいたから──

 ソースはこの場から逃げるように、急いでキャラの部屋に駆け出した。部屋のドアノブを回してみるがは鍵がかけられていて開かない。ソースは大きくノックをする。

 「キャラ、俺だ。どうして出てこないんだ?眼鏡は俺じゃない。絶対に違うよ。」

 返事は返ってこなかった。眼鏡をかけていると見えなくなる。じゃあかけていなかったら、何が見えてしまうんだ?見えるとどうなるんだ?

 「なあ、キャラ、返事してくれ。でないとどうしようもないだろ……」

 どれだけ待っても、いくら時間がたとうとも、返事は来なかった。

 次の日も明後日も明明後日も、誰がどんな言葉をかけようと、キャラは出てこなかった。一言も発っさなかった。

 「キャラ、何も言わなくていい。だからせめて顔を見せてくれ。心配なんだ。」
 
 食事は朝昼晩全て食堂で取ることになっている。つまり一度も出てきこないキャラは三日間ご飯を食べていないのだ。もしかしたら栄養失調で意識を失っているかもしれない。

 それに欠席について先生には体調不良で誤魔化しているが、いつまでもそういうわけにはいかないだろう。いずれは部屋から出てこなければいけない日がくる。

 予想通り、四日目の朝、先生は動いた。あまりにも欠席が続くので一度医師に見てもらうのだ。それと同時に新しい眼鏡を届けるらしい。
 そして医師に診てもらった日、あれから四日目にしてやっと、キャラは新しい眼鏡をかけ、いつもの笑顔で出席した。欠席については風が長引いたということとして扱われた。

 「キャラ、おはよう」
 「おはよう」

 いつもと何ら変わりないキャラで驚いた。てっきりソースはもっと気まずくなって今までの関係が終わってしまうのだと思っていたからだ。

 「眼鏡、似合ってるよ」

 以前はフレームが青だったのだが、今回は赤だった。形も横長の楕円形から、正方形に近い丸になっていた。

 「そうかい?でもかけない方がいいってよく言われるけどね」
 「そうなのか」
 「うん、見てみる?」
 「え」

 かけないといけないんじゃなかったのか。眼鏡がなくなって三日も閉じ籠るくらい取り乱してたじゃないか。そんなあっさり外していいのか。

 「い、いいのか……?」
 「いいよ、ソースなら」

 そう言ってキャラは眼鏡を外した。ソースはキャラの瞳を覗き込む。焦げ茶色の、白目が澄んだ綺麗な瞳。いたって普通の瞳。

 「……何が見えるんだ、キャラ」
 「君の、ソースの、オーラが見えるよ」

Re: キャラソース ( No.6 )
日時: 2018/09/17 20:38
名前: 流聖 (ID: 8vMNebk7)

 「何かを通して見れば、直に見なければ、オーラは見えないんだ。」

 キャラが言うには、負の感情なら暗い色のオーラが、善い感情なら明るい色のオーラが見えるらしい。

 「オーラだけでもよくわかるよ。僕が声をかけたとたんにオーラがピンク色になれば相手が自分のことを好きだとわかってしまうし、青かったり黒いと苦手とか嫌いとかそういう風に思われてるってこと」
 「部屋から、出てこなかったのはなんで?」
 「眼鏡がなくなったのがショックでね。誰とも会いたくなかったし喋りたくなかった」

 どれだけ、苦労してきたのだろう。その瞳で今まで何を見てきたのだろう。何をわかってしまったのだろうか。

 「……俺は今、何色だ?」
 「……僕と、おんなじ色」

 それって、つまり、同じことを思っているということになるんじゃないだろうか。

 「じゃあ、お前」
 「言わないで、恥ずかしいから」



 ◇

 あとがきというかネタバラシ的なもの
 ソース達が住んでいるのは少年院のような場所です。2級下→2級上→1級下→1級上の順番で昇級していき、約4年で少年院を卒業できます。悪さ(少年院の外に無断で出るなど)をすると降級します。


Page:1 2



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。