複雑・ファジー小説
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- 変革戦記【フォルテ】
- 日時: 2020/09/28 22:07
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)
※全年齢版
参照:イメージソング『Beat Your Heart』(ブブキ・ブランキ第1期OP)
国を守るための防衛兵器───巨大な機体、『フォルテッシモ』が普通になりつつあった時代。
突如としてフォルテと呼ばれる能力に目覚める者たち。フォルテを持つ彼らを、人々はフォルトゥナと呼ぶ。
しかし、彼らを狙い、彼らを連れ去って自己利益のためだけに利用しようと目論む悪の組織があった。その名も『グローリア』。あらゆるものを掌握し、いずれは国家転覆をも狙うフォルトゥナだけで構成された組織である。当然フォルテッシモも、グローリア専用機を大量に生産しており、かなりの数を所有している。
だがそれに大人しく屈服しているわけが無い。そのグローリアに対抗すべく、『マグノリア』という組織が作られた。未成年のフォルトゥナの少年少女たちで構成されている。
グローリアに支配されているこの状況に風穴を開けるため、グローリアを倒すため、何よりも家族や仲間を守るため、彼らは戦う!
※注意※
こちらの作品は、18禁板にて連載開始予定の小説、『f-フォルテ-』の全年齢熱血ロボアクション版になります。
こちらを見てから18禁板版を見ようとチャレンジするのは、大変おすすめ致しません。
こちらから先に見た方は、18禁フォルテの存在はそっと胸にしまっておきましょう。
そして18禁版からこちらを見た方は全力でお楽しみください。
もちろん、こちらから先に見た方も。
キングゲイナーやGガンダムのノリとほぼ同じです。雰囲気で楽しんでください。
この作品はフィクションです。実在する個人、団体、その他とは一切関係ありません。
(9/7 コメライ→複ファへ移動)
18禁と同じ点
・基本の組織や用語
・キャラクター(例外あり)
・世界観(例外あり)
異なる点
・話の内容
・話の明るさ
・結末
・連載する板
用語集>>1
登場人物一覧>>2
第1話【Magnolia】
>>3 >>4 >>5 >>6 >>7 >>8 >>9
(まとめ読み用)>>3-9
第2話【Oshama Scramble!】
>>10 >>11 >>12 >>13 >>14 >>15 >>16
>>17
(まとめ読み用)>>10-17
第3話【fake town baby】
>>18 >>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24
(まとめ読み用)>>18-24
第4話【Distorted†Happiness】
>>25 >>26 >>27 >>28 >>29 >>30 >>31
第5話【Marionette】
第6話【Welcome to the Black Parade】
第7話【絵空事】
第8話【Red doors.】
第9話【Red Like Roses.】
第10話【サンクチュアリを謳って】
(応募スレはリク板をご覧ください)
※応募されたキャラクターについて
できる限り応募された内容に沿って使わせていただきます。どうしても全年齢に出るならばこうして欲しいというご要望がありましたら、随時受付を致します。可能な限りでお応えさせていただきます。
もちろん全年齢版のみ、または18禁版のみに出してほしいというご要望も受付します。
ご遠慮なくお申し出ください。
- Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.2 )
- 日時: 2018/08/24 06:43
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=1018
今現在の登場人物一覧(更新:3/29)
主人公:春夏冬 時雨(あきなし しぐれ)♂
フォルテッシモ【セイメイ】
フォルテ【言霊】
本作の主人公。
ヒロイン:黛 歌子(まゆずみ うたこ)♀
フォルテッシモ【ディーヴァ】
フォルテ【歌姫】
本作のヒロイン。実は……
主人公の親友:月紫 泥(つくし なずみ)♂
フォルテッシモ【ナイチンゲール】
フォルテ【狂化(バーサーカー)】
主人公の親友。
主人公の双子の姉:桐乃 超子(きりの ちょうこ)♀
フォルテッシモ【マザー】
フォルテ【PSI】
複雑な過去持ち。
電堂 芳賀(でんどう はか)♂
フォルテッシモ【Daisy-Bell】
フォルテ【ハッカー】
引きこもりゲー廃
髪川 因幡(かみかわ いなば)♀
フォルテッシモ【レイジ】
フォルテ【髪】
肉まんが好きな寡黙な少女
銃筒 真巳(じゅうとう まなみ)♀
フォルテッシモ【メイディ=ガン】
フォルテ【ガンナー】
糸目で甲冑を身にまとったメイド
薬莢 生真(やくさや いくま)♂
フォルテッシモ【ノーブリアント=ガン】
フォルテ【バレッター】
真巳を従える誇り高きおっちょこちょい
双六 玖音(すごろく くおん) ♀
フォルテッシモ【シモヘイヘ】
フォルテ【ロックオン】
クールで遠距離射撃を担当する姉御
ヰ吊戯 遊喜(いつるぎ ゆうき)♂
フォルテッシモ【ウィザード】
フォルテ【デュエリスト】
お調子者の決闘者。ちっこい
葛狭 狂示(かさま きょうじ)♂
フォルテッシモ【クリシュナ】
フォルテ【捕食】
マグノリア創設者にしてリーダー。ヘビースモーカーで見た目がマッドサイエンティスト。
パラレル:村山 正紀(むらやま まさき)♂
フォルテッシモ【???】
フォルテ【妖刀・ムラマサ】
『狂騒剣戯』の主人公であり、彼はパラレルの存在。熱血系。
パラレル:ナナシ ♀
フォルテッシモ【アンノウン】
フォルテ【UN・オーエン】
『名無しの君、よき善人あれ。』の主人公であり、彼女はパラレルの存在。何もかもわからないオレっ子。
パラレル:善澄 善佳(よしずみ よしか)♀
フォルテッシモ【よっしー】
フォルテ【ねがいごと】
『名無しの君、よき善人あれ。』のもう1人の主人公。ナナシの自称友だち。(キャラクター作成:通俺氏)
- Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.3 )
- 日時: 2018/03/14 11:19
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)
「…あれ?」
遠い遠い昔の話。大地がそこまで緑で覆われていなかった頃の話。
1人の子供が見つけたのは、とてつもなく巨大な『鉄のかたまり』。それはきれいとは言えず、いくらか煤や傷跡が残っていた。
それは地面に深々と突き刺さっていて、とても子供ひとり、いや大の大人が何人いたって、掘り起こせるようなシロモノではなかった。それでも、どうしてもそれが『ほしい』と思ったのか、子供はそれに恐る恐る手を伸ばす。柔く、小さすぎるその手で。
その時、その鉄のかたまりは触れた瞬間に、触れた場所から青い光を走らせた。
機械的な音を立てて、ゆっくりと地面からその姿を現す。
そして地面からすべてを出したその鉄のかたまりは、確かに子供に『語り始めた』。
自らの『本来の名』と、『これから起こるであろう先の話』を。
変革戦機【フォルテ】
第1話─Magnolia─
今ここは人々がせわしなく動き回る、現代よりは先の日本。
ビル街の中でもひときわ大きいビルに、大きなビジョンが映し出され、コメンテーターと司会者と思われる人物が、各々好きなように、収拾がつかないくらいに持論を繰り広げていた。その内容は、わざわざ立ち止まって耳を貸すような内容ではなく、聞くに堪えないものであるというのが現実である。通行人もそんなものを聞く暇があるのなら、何か別のことをしたほうがもっと有意義だと踏んだのか、目もくれずに先を行く。
しかし、その上──否、正確には『同じ場所の別の空間』といったほうがいいだろうか──では、巨大ロボットによる2つの陣営の戦闘が行われていることを、待ち行く人々は何も知らない。
『何も影響のないよう』、『単なるエゴか世の為か』、激しい戦闘が行われていることを。
「いい加減帰れ、グローリア!お前たちのせいでどれだけ一般人に被害が行くと思ってるんだ!」
『帰るのは貴様らだろうがクソガキ共!それにこれはちゃんとした公共事業!フォルトゥナの子供を引き取って、国の事業に役立ててやってるだけだ!それがわからんのか!』
「これだから大人って…自分のしてることを素直に悪だと認めないのよねー。どれだけそのフォルトゥナの子供たちに悪影響を与えてんのか知らないの?というかあんたらの引き取るは単なる『誘拐』とか『拉致』でしょうが!」
『このクソガキ共…連れ帰れば使えると思ったんだが、やはりここで殺しておくべきだな!』
「へー、へー、有用そうなフォルトゥナの子供を今ここで殺すんだー、へー、これでも食らえ!」
上空。否、『周囲の風景をスキャンしデジタルデータ化し、そこだけ切り離された別空間』では、軽3機の巨大ロボットが、互いに互いを傷つけあいつぶしあっていた。ある者は手数で攻め、ある者は手にしている刀で切り込む。残りの1機はライフルで懸命に2機の猛攻を必死に凌ごうとするが、おそらく支給品であろうライフルだけでは、猛攻を防ぐことなどまず不可能に等しいだろう。しかも相手は『特殊能力』を使って襲い掛かってきている。
「超子ちゃん必殺!『スーパーパイロキネシス』!」
その時、手数で攻めていた1機が、補助具の役割をしているのであろう杖から、巨大な『火のかたまり』をライフルを持った1機にぶつける。ぶつけられた相手は瞬く間に火によって包まれる。
『あ、熱い熱い熱い熱い熱いぃぃぃぃ!なんだっこれ、い、息が…ッ!かひゅッ…』
「うおやっべえキャンプファイヤーじゃん踊らな」
「そんなことしてる暇ないと思うんだけどなあ…」
『お前らッ…なに…しや…』
「うわまだしゃべってるよただでさえ酸欠なのに、元気アルネ—」
「なんで最後カタコトなんだよ?とりあえず機能停止するだろうから、さっさとパイロットだけ放り投げて、機体だけ持ち帰るぞ」
「はーいはい!とりあえず機体回収要請だすねー」
燃え盛る機体を前に、この戦闘において勝利したと思われる2つの機体は、徐々に機能を停止していくそれに対して同情も慈悲もなく、ただ淡々と残りの作業に入るのだった。
この世界には、『フォルテッシモ』と呼ばれる巨大なロボがあった。どこから来たのか、誰が作り上げたのか。それは今となってはわからない。ただ、原初の機体をあるひとりの子供が見つけ、その機体に触れた瞬間に動き出し、触れた子供に対し、自らのこととこれから起こるであろうことを語った、とは史実には書かれている。真実か偽か、確かめる者はだれ1人としていない。
そのフォルテッシモは前までは、軍用兵器として使われていたが、現在は互いの存亡の為にある2つの組織が使用し、闘い、そして散っていく。とはいっても一時的にベッドの上の住人になってフォルテッシモには二度と乗れないだけなのだが。
それが、大人だけで構成された今現在の国家最高権力組織『グローリア』と、その組織に対抗しまとめ上げられた、未成年で構成された組織『マグノリア』。本来、グローリアは『フォルテ』と呼ばれる『異能力』に目覚めた人々、『フォルトゥナ』を、一般人からの迫害から守るため、およびフォルトゥナの社会的地位を向上させるために作られた組織なのだが、いざ政治に介入したとなると、その目的は一変した。
国家権力を握り、自由に政治に口出しをできるようになっただけでは飽き足らず、自己利益の為だけに、国中からまだフォルテに目覚めて間もないフォルトゥナの子供たちを連れ去り、実験の実験台にしたり、奴隷として扱ったりと、悪いように使うようになった。中には使い捨ての兵士として他国の戦場に送り込まれ、フォルテを乱用された挙句命を落として国に帰ってくる子供もいた。そして一般人への洗脳教育。グローリアに、たとえフォルトゥナがなくとも絶対の崇拝心をもたせるように仕立て上げた。
そんなグローリアに対抗すべく、未成年のフォルトゥナだけで構成されたのが
「『マグノリア』ってわけ。ここまでオッケー?」
「FUUU!イカしてんZEマグノリア!」
「で、なぜもとよりマグノリアにいる俺もこの講義に出されてるんだ?部屋に帰りたいんだけど」
「初心に戻ってもらおうとね!あと引きこもりもいい加減にしなさい」
「そうだYO芳賀!ファーストハートも肝心だZE!」
「おまえうるせえ…」
そして今。マグノリアでは、『初心に戻ろう講義』と題した、いままでの歴史の授業がたった3人で執り行われていた。
続く
- Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.4 )
- 日時: 2018/03/16 11:58
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)
「じゃ、次の話に移るわよ。そもそもフォルトゥナは──なんでひどい目に合ってるか、わかるかしら」
「一般人からすれば、『普通ならばあり得ない力のようなもの』を使える人間なんてものは、恐怖の対象にしかすぎない。自分とは違う『異常者』なんて、近づきたくないだろうし、そもそも存在を認めたくないだろう。だからあの手この手を使って、自分らの視界、もしくはこの世から消し去ろうとやっかみになる。僕たちフォルテを持つフォルトゥナが、今現在においても社会的地位や社会的存在が危ういのは当たり前の話だ」
「───あら、突然の来訪者さん大正解」
講義を受ける2人に対し自ら教鞭をとる少女の問いかけに、その2人とは違う第三者が割り込んで答えた。少女は声がしたそちらの方向に目線だけを向けて呟いた。
閉じ切っていたはずの扉は開かれており、そこには顔を何かしらの布のようなもので覆い隠した、いかにも神社の息子というような少年がいた。少年は部屋の中で執り行われていた講義と、そのメンバーを見るなりため息をついた。あきれたのかそれともただのため息か。意味合いは変わらないだろうが。
「時雨じゃんYO!どうしたんだYOため息ついちまってさベイベェ」
「…松永、そのしゃべり方はどうにかならんのか」
「いや無理だろコイツがこれ以外のしゃべり方したらそれこそ一大事だ」
「で、松永くんのことはおいといてだけど。時雨くん何かあった?」
時雨───春夏冬 時雨───と呼ばれた少年は、最初に自らの名前を呼んだ銀色のアフロとサングラスが特徴的で、いかにもラッパーを思わせるようなしゃべり口調の少年には一切顔を向けず半ば無視するような形で、話を続ける。
「さっきまで出撃していた姉上と正紀が回収してきた機体のデータがとれたぞ。報告会だ。急げ」
「はっや!」
「オォウなんつースピードだYOパネェ!」
「そこにいる芳賀がいればもっとはやかったんだがな」
「うるせえ」
「とにかくだ。もう全員集まってる、さっさと来い。それと…歌子さん」
「なあに?」
時雨は用件を伝えると、先ほどまで教鞭をとっていた少女───黛 歌子───の名を呼ぶ。歌子は時雨に柔らか笑みを浮かべて返答を待つ。心なしか周りに花が飛んでいる雰囲気を醸し出している。
「疲れているのならば、疲れたといっても構わないんですからね」
「あらどうしたの?」
「目の下。クマがついています。また寝ていないのでしょう。それと若干顔色が悪いです」
「あっ」
時雨がちょうど目の下あたりをトントンと示してやると、歌子はハッとして目元を隠す。その様子に時雨は深いため息をつく。先ほどのため息よりはもっと深く。今度こその意味合いはあきれか。
「何が原因かは知らず処ですが…活動に影響が出ないようにしてください。ひとつの油断が『死』を招きます」
「…ごめん」
「それでは」
今度こそ要件を済ませると、時雨は去っていった。急いでいたのか、多少小走りで。歌子はそれを追いかけるように、無言で部屋を出ていく。そして取り残された、2人の会話を聞いていた松永と、時雨から芳賀と呼ばれた少年───電堂 芳賀───は、各々に言い合う。主に時雨のきつすぎる物言いに対して。歌子に追い打ちをかけるような物言いに、松永は若干トーンを落として苦言を呈する。
「あの言い方はねぇだルォ?トドメさしに来てんじゃんYO」
「いやむしろ、時雨はあれが精いっぱいなんだよ」
「どういう意味だYO」
「あいつさ。クソほど口下手でな。あれでも必死に言葉は選んでんだろうが、頭の中はパニックになってんの。仲間を心配するあまりつい厳しい言葉になってさらにへこませちまう」
「時雨は自覚してんのかYO?」
「してるっちゃしてんだろうな。今までにもそういうことあって何度か直そうと頑張ってるみてーだが。あ、そうそう。報告会終わった後のあいつ見てみろよ。まるで覇気がねえしクソウケるぐれーにしなっしなだぜ」
芳賀はケタケタ笑いながら椅子から立ち上がり背伸びをして、めんどくせえが行くか、とぽつりとつぶやいて部屋を後にした。もちろん松永のことは待つわけでもなく、伸ばしたはずの背は思いっきり丸めて猫背にして、報告会の会場へと足を進める。ただひとり残された松永は、オイオイ待ってくれよ置いてくなんてひでえだルォ!?と叫ぶなり、また部屋を後にするのだった。
◇
「お、全員揃ったな。んじゃ報告会はじめんぞ」
少し大きめの会議室。そこに芳賀と松永が入ると、プロジェクタの前で構えていた帯刀している少年───村山 正紀───が、部屋の明かりを消して報告会を始める。会議室にはそれなりの人数が入っており、先ほど芳賀たちとともにいた歌子もしっかりといた。倒れることを考慮してか、周りが立っているなか椅子に座らされていたが。その椅子を用意したのは誰なのかは知らなくていいことだ。
「デジタルデータ内の見回り中、突如グローリアの乱入あり。戦闘開始時刻は13時27分。戦闘時間はおよそ16分間。相手は1機のみで、フォルテッシモの形状は量産型。どうやら乱入理由は『気に入らなかった』、らしい。何に対してかはもう知らん。んなことはどうでもいい。で、桐乃さんのパイロキネシスで機体を焼いて戦闘終了。パイロットを放り投げたあと、機体回収ののちに解析にかけたら、こんなデータが出てきた」
正紀がプロジェクタにデータを映すと、出てきたそれに会議室にいた面々はとたんにざわつき始める。
『捕獲したフォルトゥナの子供のフォルテの組み込みプログラム』と表示されたそれには、明らかに遺伝子情報と思われるデータが、何行にも及ぶ文章がずらりと並んでいた。隣にはわかりやすいようにか図式まであった。そして組み込まれたと思われるフォルテの持ち主のフォルトゥナの子供の、詳細な情報まで。血液量、罹患歴、これからかかるであろう病の情報までつらつらと。そして張本人である子供の顔写真まで、ご丁寧に張り付けされてあった。
「これは…」
「ま、あながち、というかほぼ確定だろうが、ヤツらは連れ去ったフォルトゥナを、『何らかの形にして』フォルテッシモに組み込んでる。『いざ』という時のため…なんだろうな。組み込んだ子供のフォルテを使って逃げるなりとらえるなりもしくは殺すなりな。さっきの戦闘では偶然か運がよかったのか、そういうことをしてこなかったらわからなかったが。しかしこういった機体がきたのは初めてだ。これからもこういったフォルテッシモが来ることは間違いないだろう」
「それに考えられる範囲でいくと、あたしらの誰かが向こうにつかまって、『いいように』されたあとこうなることも、否定はできないからね」
正紀の言葉に続くように発言するは桐乃 超子。先ほどまで正紀とともに出撃し、相手に『火のかたまり』をぶつけてとどめを刺した少女である。超子はたまたまか隣にいた自らの『双子の弟』である時雨をとっつかまえ、後ろから抱きかかえる。時雨はそれを振りほどこうとせず、口を開く。
「『何らかの形』…というのは具体的にはどういうものだ?」
「今現状考えられるのは『デジタルデータ』。これが最有力だな」
「というかそれしかなくないか?それこそ本人をフォルテで急速成長させて、パイロットとして搭乗させることなど考えられんぞ」
「つかデータとして出てきてるんだからそれしかないよ」
「すまん。なら言い方を変えるか。やっこさんは連れ去ったフォルトゥナの子供をデジタルデータに変換して、フォルテッシモに組み込んでいる。いいか?」
「で、組み込んだ子供はどうしてるのかね?」
「やっこさんの今までの状況から見るに、わざわざ『生かして残す』と思うか?」
正紀の間髪入れずにはなったその言葉に、それまでざわついていた部屋はシンと静まり返った。
「そういうことだ。これから相手さんの状況はますます指一つさえ見逃せなくなるな」
正紀はそういうとプロジェクタの電源を切り、部屋の明かりをつける。
「報告は以上。各自解散。いいか、指一つの動きも見逃すな」
続く
- Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.5 )
- 日時: 2018/03/21 18:51
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)
正紀の一言とともに、報告会は解散となる。
ぞろぞろと皆々が何かを言い合いながら、会議室を後にする。
そんななか超子は、しっかと捕まえている弟が、なにやらどんよりとしていて覇気がないのに気づく。
「時雨」
超子が名前を呼ぶと、時雨はため息をついた。何に対してなのかは聞かないことにしておく。きっと聞いても弟の地雷に踏み込むだけである。そして『どうぢてこうなったのか』、それを聞けばますます時雨は消沈し、下手をすれば自室に引きこもり、1日中出てこないのだろう。それをわかっていながら『わざわざ』聞くのは間違っている。超子はそれを誰よりも知っている。なんといっても彼女は『お姉ちゃん』なのだから。
「お姉ちゃんがあんたの大好きな雑煮、作ったげよっか」
その言葉を良しとしたのか、時雨はぽんぽんと自らを捕まえている姉の腕をたたいた。これでは移動しようにも動けない。超子はにっこりと笑って、時雨を開放する。そしてスキップで会議室を後にした。早く来なさいよ、と言葉を残して。
その様子を見ていた1人の少女が、時雨の横に立ち声をかける。
「時雨」
「…髪川さん?」
髪川───髪川 因幡───と呼ばれたその少女は、ショートカットの髪の毛を『伸ばし』て、会議室の隅のほうに置かれていたビニール袋を取りそれを持ってこさせ、その中から大きめの肉まんを取り出して、大口を開けて頬張る。伸ばした髪はシュルシュルと短くなっていき、元のショートカットへ戻った。声を時雨にかけても、目線や顔はそちらへとは向けず、口に入れた肉まんを飲み込んでから口を開く。
「歌子に謝った?」
「……」
「慌てるせいで言葉を直球で伝える癖、よくない。いつものことだとしても。ほんとに治すの?」
「……」
「黙り込むの、よくない。口下手どうにかしなよ。そのせいで誰かいなくなったら時雨が責任取るべき」
ただ淡々と思ったことを伝える因幡に、時雨は返す言葉もなく立ち尽くす。どういうわけだか、足元がひどく冷える。冷えはおさまるどころかどんどんと悪化していく。動悸はどんどん早くなり、ぎりりと拳を固く固く握りしめるばかり。それを知ってか知らずか、はたまたわざとか、因幡は追い打ちをかける。
「───『ひとつの油断が死を招く』。歌子に言ってたこと、時雨にも言える。この先どうなっても知らないけど」
「…それ、聞いてたのか」
「で、どう?時雨の『思ったことを直接言う』行為を実際に身に受けて。気持ち悪いでしょ」
「…まねごとをしたつもりか」
「何か悪い?少しでも痛かったんなら歌子に謝ってその癖直して」
それだけ言うと満足したのか、因幡は肉まんにかじりつき、会議室から出て行った。ただ1人、時雨を残して。
時雨はぽつんと残された会議室で、まるで絞られたように言葉を吐く。
「わかってる。わかってるけど───でも、そうじゃなきゃ『俺』は…あの時助けられたかもしれないのに。嘘なんてもので包まずに…!」
時雨は足早に会議室を後にし、部屋には誰もいなくなった。
◇
調理室。その部屋いっぱいに、良いにおいが充満する。そのにおいだけで、腹の虫は鳴いてしまうほどに。
「時雨遅いなー。もうすぐできるのに…というかもうできたのに」
その部屋でただ1人調理して、それを完成させた超子は、身に着けていたエプロンを外して独りごちる。
先ほど時雨に作ると約束した彼の好物、雑煮ができたというのに、肝心の張本人が来ないことに少々機嫌を悪くする。というより超子は会議室を出る前にたしかに言った。『早く来なさいよ』と。それを時雨はちゃんと聞いていたはずである。聞き取れないような声では言っていない。いったいどうしたというのか。時雨の性格上、言いつけを破るようなことはしないはずだ。
「あ、あの」
「んお?あ、歌子ちゃん!?どしたの?」
そんな時、入り口付近か時雨とは似ても似つかない、女性特有の高いソプラノボイスが聞こえてくる。時雨以外の人間が来るのは予想外だったようで、超子は声の主を見て驚く。まさかここにくるなんて思いもしなかったようだ。その張本人の女性、歌子はおそるおそる超子に声をかける。中に入るのをためらっているようで、入口の扉の後ろに体を半分以上隠しながら。
「ねえ…あのね。相談事があるんだけど…」
「えっ?」
「入って、いいかな?」
超子は豆鉄砲を食らった鳩のような顔をしつつも、その直後に満面の笑みを咲かせる。
「まっかせなさい!このお姉ちゃんに!」
そういうと彼女は、歌子を引っ張って中へと招いた。
「…へ?時雨に謝りたい?」
歌子を部屋に招き入れ、余分に作った雑煮をふるまって歌子がいくらか落ち着いた後に話を聞いた超子は、その内容にこれまた間抜けた顔をして結論を口に出す。当の歌子は明らかに落ち込んでいるようで、いつの間にやら食べ終えた雑煮の器をがっしりと両手でつかみ、超子におかわりを請う。超子は自然な流れで器を受け取り、餅をいれ汁をいれ菜っ葉をいれて歌子に渡す。歌子はうんとうなずいて、餅を食べ始める。
「あのね…その…ちょっと時雨君の言葉に傷ついたのもあるんだけど…」
「うん」
「明らかに私の態度、『傷ついてます』って感じがあからさまだったかなって。しかもその後の報告会で、私だけ座ってたでしょ?それもあって時雨君を傷つけさせちゃったというか…なんというか」
「え、時雨傷ついてるように見えた?どっちかっていうともんのすごい落ち込んでるように見えたけど」
「それ同じじゃない?」
「同じかなあ…というか、歌子ちゃん時雨のあの様子に気づいてたのね」
「気づかないものなの?」
「いや態度パッと見ふつうじゃん…歌子ちゃん観察眼鋭くない…?」
「そうかなあ」
そうしている間にも、歌子は雑煮を食べきっていたようで、さらにお代わりを超子に要求する。しかしこれ以上食べられると肝心の時雨の分までなくなってしまう可能性がおおいにあるので、超子はストップをかける。そのかわりに超子は取っておいた飴を歌子に渡す。歌子はそれを受け取ると同時に包まれていた飴をとりだして、迷わず口の中へと放り込んだ。コロコロと音がする。
「まあ時雨に謝りたい理由は分かったけど…でも謝るべきは時雨のほうだと超子ちゃん思うわあ」
「え」
「そこまで歌子ちゃんに罪悪感みたいなもの?まあそういうものを背負わせるのはよくないよ。発端は時雨の物言いのきつさから来てるんだしね」
「…そうなのかな」
「いやそうでしょ。それに時雨だってかなり気にしてるだろうし、というかきっとたぶん、因幡ちゃんあたりからいろいろ言われて謝りに来るんじゃない?」
「…なんでそこまでわかるの?」
歌子の何気ない質問に対し超子は答える。
「だってあたしは───お姉ちゃんだもの。弟のことならなんでもわかるわ」
自信たっぷりに言うと、すぐに別の足音が近づいてくる。まっすぐにこちらへと。
「きたかな?」
「あ、じゃあ私帰った方が」
「ダメダメ!歌子ちゃんいなきゃ、きっと時雨が謝るチャンスなんて無くなるから!お互いに苦しいだけでしょ?」
帰ろうとする歌子を超子は引き止め、先程まで座っていた椅子にまた座らせる。歌子はきょとんとして超子を見上げる。本当にいいの?と言いたげに。その顔に超子は、にんまりとわらっていいのいいのと言う。それと同時に、扉がノックされる。丁寧に3回。超子はいらっしゃいと声をかけて、扉の向こうの彼に入ってくるように促した。そして扉が開かれ、中に入ってきたのは勿論
「……歌子、さん?」
「し、時雨くん、さ、さっきぶり……」
なんだかそわそわと落ち着かない様子の時雨だった。時雨は中に入り、そこにいた歌子を認識するなりさらに落ち着かなくなる。歌子も先ほどとは打って変わって、言葉がどもり始める。その様子を超子は、「いやー甘酸っぱいわー」とまるで他人事のように呟いた。そして「あたしお邪魔みたいになっちゃうから隣の部屋行くわ!じゃ!」と言い残して、さっさと別室へ移ってしまった。
残された2人はもちろんのこと、とてもぎこちない空気の中、お互いに黙り込んでしまう。
「(なんでここでいなくなるの超子ちゃん!助けて……)」
「(姉上、その気遣いは余計です……!)」
微妙な空気があたりいっぱいに充満する。先程の雑煮の良い匂いが嘘のようだ。なんというか、息苦しくも感じる。
そうして時間たっぷりに溜め込んだあと、どちらからか息を吸う音が聞こえたと同時に
「あ、あの!」
「す、すみませんでした!」
と、言葉は違うが双方から声があがる。
「へ?」
「え」
お互いにぽかんとした顔になり(否、時雨は顔を隠しているので雰囲気だけだが)、顔を上げる。
「し、時雨くん?」
「あの……歌子さん。すみません僕からいいですか?」
「え、あ、どうぞ……」
時雨の少し真剣な言葉に、歌子はつい敬語になってしまう。そして時雨の次の言葉を待つ。
「その。すみませんでした」
「えっ」
「今朝……というかつい1時間程前の、あの物言い。本当にすみませんでした」
「……あっ、あれ?」
「はい。情けないことに、報告会が終わったあと咎められまして。あの言葉で歌子さんを傷つけてしまいました」
「時雨くん、その」
「だから謝らせてください。たとえ遅くても貴方が僕の言葉を非常に嫌がっていたとしても、言わせてください。本当に」
「ま、待って!」
すみませんでした、と言いかけたところで、時雨の口の部分であろう場所に、歌子の手が重ねられる。恐る恐る歌子は口を開く。
「わ、私もごめんね。その、心配かけちゃった……というか、あからさまな態度とっちゃって。時雨くんに悪いことしたよなって、報告会の時も思ってて、変な後悔もあって、その、上手く言えないんだけど……!時雨くん、ほんとごめん。とっても心配かけちゃったりとか。ああもう上手く言葉が出てこないったら!」
矢継ぎ早に出される歌子の声に、時雨は半ば呆然とする。と、同時にそこまで彼女を傷つけてしまったのかとさえ思う。そしてお互いに傷付き合っていたのだとさえ。時雨は口元を押さえている歌子の手を、とんとんと叩いて離すように促す。なんだかこの行為、今日で2回目だなと余計なことが頭に浮かぶ。
「え、あ、ごめんっ!苦しかった?」
「いえ……その。なんと言いますか。お互いに……傷つけて傷つきあって、みたいになっていたんですね」
「あ……」
「これ以上謝罪しても、また謝罪し合うだけでしょうし、ね」
「……じゃあ、時雨くん。一緒にごめんなさいって言って、終わりにしよう?」
「そうですね」
「それじゃ、せーの」
「ごめんなさい」
「すみませんでした」
時雨と歌子は同時に頭を下げ、謝罪の言葉を言い合う。が、
「ちょっと時雨くん!一緒に『ごめんなさい』って言おうって言ったじゃん!」
「え、あ、す、すみません!?」
「もー!そこはごめんなさいでしょ!」
「ご、ごめんなさい!」
そんなことで喧嘩とも呼べないような喧嘩が始まったのは、別の話である。
続く
- Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.6 )
- 日時: 2018/03/22 17:01
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)
調理室で時雨と歌子がなんやかんや和解した少し後のこと。
調理室とは違う場所では、あるカードを用いてカードバトルが行われていた。対戦するのは2人の少年、そしてそれを観戦する1人の少女。
「ここで!俺のサイキョーカード、機械仕掛ケノ神(デウスエクスマキナ)を召喚する!」
「え、ずるい!」
「ちゃんとした公式カードだっつの!」
『俺のサイキョーカード』なるものを召喚した少年は、勝利を確信した笑みを浮かべる。対する別の、アオザイを着た少年はただおろおろするばかり。何の手も与えられないでいた。
「そんでー…くらえ!これがトドメだ!『 終焉を告げし歯車(ワールドブレイカー) 』!」
「ってちょっと待った!」
「あ?なんだよ折角いい感じでトドメさせると思ったのによー」
アオザイを着た少年が、今まさに勝ちをもらおうとした少年に待ったをかける。それに対し止められた少年は不服そうに、待ったをかけた少年のほうへ向きなおす。
「あのさ。そのターンに召喚されたキャスト(クリーチャー)は…そのターン時攻撃できないよ?」
「……しまったああああ!!」
その部屋いっぱいに、少年の魂の叫びがこだました。
「ね、熱中しちゃうとどうしても基本のこと、忘れちゃうよね…」
「うるせえ…」
いったんゲームを中断して少し後。いくらか落ち着くだろうと思っていたが、そうでもないようだ。体育座りで隅のほうで、まるでしばらく前の時雨のようにへこんでいる少年───ヰ吊戯 遊喜───を、アオザイを着た少年───月紫 泥───は必死に励ましていた。だがその努力はむなしく、まるで右から左へと流されていく。何を言っても元に戻る気がしない。それでも泥は元気を出してもらおうと、考えて考えて言葉を贈る。
「ほら、ま、またやろう?『デルタ・リザレクション』。僕『失墜のゼノ・フラゥア』デッキでいくから」
「俺が立ち直るまでヤダっつーかそれ現環境での最強デッキじゃねーか」
「ええ〜…」
泥はどうあっても立ち直ってくれない遊喜に、肩を落とした。ますます機嫌を損ねる理由が、先ほどのデッキだとはいざ知らず。
───デルタ・リザレクション。今全国で最も流行しているトレーディングカードゲームである。キャストと呼ばれるクリーチャーを召喚し戦わさせ、時にはスペルカードと呼ばれる、いわゆる罠カードを発動させてゲームに様々な影響を出させたりする。どこにでもあるようなカードゲームの一種だ。だがこのカードゲームには、ほかのカードゲームと違って進化というルールがない。代わりにあるのが『アクセサリールール』である。呼びだしたキャストに、装飾品と呼ばれるような『アクセサリー』カードを付け、スキルを付与したり、元から持っているスキルを強化したり、自らにバフを持ったり、様々なことができる。ものによっては呪いがついていたりするが、その呪いをいかに利用できるかも、プレイヤー、否『ウィザード』の実力がものをいうところである。
そのデルタ・リザレクション。マグノリアでも流行の波は来ているようで、時々大会が開かれることがある。そしてその大会において、必ずと言っていいほど優勝をかっさらっていくのが、彼、ヰ吊戯 遊喜である。その彼が野戦とはいえ、初歩的なミスをするということは、彼にとってどれだけ屈辱的なものだろうか。
「あ、そうだ。双六さんもやらない?」
いつまでも立ち直らない彼にしびれをきかせたのか、泥は他人事のように観戦してた少女───双六 玖音───に声をかける。
「私の基本デッキ、『悠久に続くチルナノグ』なんだけど」
「じゃあ僕は『冥府イザナミ・幾千の呪言』デッキでいくね」
「あんたほんとに闇の深いデッキ使うね」
「それじゃ先攻後攻を決めよっか。ダイスの準備はオッケー?」
もちろん、と玖音がうなずくと、互いにダイスを上へ向けて放る。それが場に落ちてくると、コロコロと転がった後にダイスがそこで止まり、目が出る。『出た目の数が若いほう』が先攻となる。泥のダイスは2、玖音のダイスは4を示した。
「僕が先だね。それじゃはじめ」
「その前にお仕事ですよ、皆様方」
ようか、と泥が言いかけたところで、玖音や遊喜とは違う、別の誰かの声がかかる。
声がした先にいたのは、所々を不似合いな甲冑で覆った、メイド服姿の少女。常に糸目なのか、笑顔がやけに目立つ。
「あれ、銃筒さん?仕事って」
「フォルテッシモに乗らないほうの、見回りですよ。今日は偶然にもお三方のようでしたので。お声をかけさせていただきました」
少女───銃筒 真巳───はうやうやしく頭を下げると、「さて、あの坊ちゃんは宿題を置いてどこに逃げたのでしょうね」と、軽く拳をポキポキと鳴らしながら去っていった。彼女が坊ちゃんと呼び、付き従う同年代の彼に、形だけでもエイメンとフリで十字を切ると、泥は玖音に声をかけ、そして部屋の隅でまだ丸まってる彼、遊喜の腕を引っ張って、部屋を後にし、『単身出撃室』へと向かうことにした。
◇
単身出撃室。ここだけは異様に部屋が広い。そして中に入れば、まるでホルマリン漬けの容器がずらりと並んでいて、この光景を始めてみた者は必ずと言っていいほど、『不気味だ』という感想を抱くであろう。3人はその単身出撃室の中へと入り、入口付近にある、ディスプレイがついたロッカーから、インカムのようなものを取り出し、それを自らの耳へセットする。一見それはブルートゥースイヤフォンのように見えた。
そこから音声が耳の中から、頭の中へと響き渡る。
『指令室より、連絡。返答望みます』
「はい、月紫 泥」
「同じく双六 玖音」
「同じくヰ吊戯 遊喜…」
『指令室。ヰ吊戯の様子が落ちているが、何かありましたか』
「お気になさらず。そのうち戻ります」
『了解。それでは出撃ポッドへ入ってください。今回の転送場所は浅草、仲見世通り。そこでグローリアを発見次第、戦闘、そして拘束または抹殺をしてください』
「毎度思うんだけどなんで関東圏限定なのか」
『各地に支部が点在していますので』
「あとなんでわざわざこっから出撃…」
『はい面倒なことはあとで言ってください。それでは御武運をー』
「ものっすごい適当だ…!」
次の文句を言う暇もなく、彼らは強制的に転送された。
「……『ルール』に反しちゃだめでしょ?マグノリアも、グローリアもね」
最後に謎の声が響いたと思ったが、その声は誰の頭にも残らずに霧散した。
◇
転送先の、浅草仲見世通り。そこで、彼らは立ち尽くしていた。ただ何をするわけでもなく、ぼうっと。
「…ついたね」
「ああ」
「…どうしよっか」
「グローリア探すにも見回るにも、この人だかりじゃね」
ここは浅草。仲見世通り。平日でも観光客がわんさと集まる場所だ。ひどいときには身動きすらできない時だってある。そんな場所に彼らは、今日の仕事としてここで見回りをし、グローリアを捜索し、発見次第戦闘、拘束または抹殺するために転送された。しかもわざわざ転送機を使って。
「直接行きゃいいじゃんか」
「迷うからかな…って、そういえば遊喜くんは?」
「え?一緒にいるんじゃ?」
そういえば先ほどから遊喜の反応がない。というか気配そのものがない。気になって周りを見回してみるも、彼らしき人物がいない。いったいどこに行ってしまったというのか。慌ててインカムで本部の指令室に連絡を入れる。
「もし!月紫です。聞きたいことが」
『緊急事態です、月紫、双六』
「やっぱりー」
指令室の焦るような声からして、もしかしてと思う双六はついそんなことを漏らしてしまう。
『ヰ吊戯の転送にエラーが発生し、本来なら転送するはずのない場所へと転送してしまいました』
「だろうと思いました…場所は?」
そして入って来た場所の名前に、2人は顔をさっと青ざめた。
『───グローリア茨城支部、茨城県庁倉庫内です』
続く