複雑・ファジー小説
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- 撲滅のアサシン
- 日時: 2018/09/30 15:31
- 名前: 最終定理 (ID: 4uYyw8Dk)
運が良かった、と語る者もいれば運が悪かった、と語る者もいる。当事者である私自身はもちろん後者に該当する。といっても、自身で当時のことを語る機会なんてほとんどないのだが。
「アラ、いらっしゃい」
でも、この日は違った。
心を捨てたつもりだった。人として生きる道を捨て、残りの人生の全てを復讐にささげるつもりだった。いや、「つもりだった」なんて言い方は語弊を生むだろう。
今でもその目的に変わりはない。
「アナタ、悲しそうね」
でも、それまでの道のりに少しだけ、光が差し込んだ。
「いいのよ。ここでは」
彼、いや、彼女は続けた。
「全部さらけ出しなさい」
その日、私は初めて自分の口で、あの日の事を語りだした。
- Re: 撲滅のアサシン ( No.2 )
- 日時: 2018/09/30 22:33
- 名前: 最終定理 (ID: 4uYyw8Dk)
「はぁ、はぁ・・・。なんだ、その技は・・・」
傷口を抑えながら、膝をつきながら、彼は私に問いかける。
「技、ではない。しいていえば、殺し屋殺し」
「・・・復讐か・・・」
あきらめたように微笑を浮かべ、そして・・・。
ザク。
自害。
とめどなくあふれ出る血を雨があらいながす。
ザーーー、という音が世界の全てを支配していた。
途端、訪れるのは静寂。
「ずるいよ、そんなの・・・」
それでも私は仕事を終えた証に、縦線を一本引くのだ。
メモ帳には十五の名前が記載されている。その内の三つには一本の縦線が引かれている。
私が殺したという証だ。
最後の行には 新染 紅 と書かれている。
濡れてしまわぬよう、メモ帳をカバンにしまう。
雨は一層強く降りしきり、私はただ、そこに立ち尽くす事しかできないでいた。
- Re: 撲滅のアサシン ( No.3 )
- 日時: 2018/09/30 22:25
- 名前: 最終定理 (ID: 4uYyw8Dk)
「あら、いらっしゃい」
一日の終わりに、このBARに立ち寄るのが私の日課になりつつあった。
「今日は・・・ジンにしておくわね」
彼女は、私の表情や仕草を巧みに読み取る。
私が仕事を終えた日には、かならず度数の強いお酒を出してくれた。
「いつも、ありがとう」
私の声に、彼女は悲しそうに笑う。
「はい、どうぞ」
あたたかい。身に染みる。
正直言って、ジンの味は好きではない。それでも簡単に飲み干せてしまうのは
「お代、気が向いたらでいいわよ」
「・・・ありがとう」
彼女の優しさが、私の心をあたたかく包み込んでくれるからなのだ。
- Re: 撲滅のアサシン ( No.4 )
- 日時: 2018/09/30 22:33
- 名前: 最終定理 (ID: 4uYyw8Dk)
仕事をするのは雨の日と決めている。
理由は色々あるけれど、やっぱり罪の意識が拭いきれないからなのだろう。どんな理由や境遇であれ、人間一人の命を奪う。その罪に私の心は耐えきれないのだ。
雨は、罪を洗い流してくれるような、そんな気がする。
「今日は、見つからなかったな・・・」
いつものBARに立ち寄ると、いつものママがいつもの挨拶をしてくれる。
「今日は、どうする?」
私が仕事をしていないと悟ると彼女は嬉しそうに笑ってくれる。
わかってる。
本当は彼女だって、私に人を殺してほしくなどないのだ。
私だって、こんな人生を歩みたかった訳じゃない。でも、こうする以外にどうすれば・・・。
「来週まで、雨、降らないわよ」
「・・・・・・うん」
「来たかったら、朝でも電話ちょうだい」
「店、あけとくから」
- Re: 撲滅のアサシン ( No.5 )
- 日時: 2018/09/30 22:49
- 名前: 最終定理 (ID: 4uYyw8Dk)
「最近・・・」
「アサシンが殺されている」
静寂と闇が支配する夜の世界。アサシンはそこに生を見出した。幼き頃から虐待されて育ったもの、戦争の絶えない地域で育ったもの、貧困の中で育ったもの。境遇は様々だ。
だが、彼らはそこに、自身の生を見出していた。
「アサシン殺しか・・・」
彼らには会合場所などはない。ただ一人が一人に、そしてまた一人へと情報が伝令していく。
「まさか、本気で我々全てを相手にするつもりでいるのか?」
彼らの中で様々な情報が錯綜していく。
「アンタ、大丈夫かい?」
私に問いかけた彼女は、BARで出会った情報屋で、その名を一ノ瀬という。
「奴らの間でも噂になり始めたみたいよ」
「大丈夫」
私は無機質な声で、無機質な表情で返した。
「大丈夫って・・・」
「まぁまぁ」
ママの静止もあり、一ノ瀬はそれ以上私に言及することはなかった。
店を去り際、彼女は「気を付けなよ」とだけ言った。
- Re: 撲滅のアサシン ( No.6 )
- 日時: 2018/10/01 20:20
- 名前: 最終定理 (ID: 4uYyw8Dk)
ただ、怖かった。
死ぬという事が当時の私には理解できなかった。
怖くて、怖くて、怖くて、怖くてたまらなくて、だから、殺した。
「はぁ、はぁ、はぁ」
私にかけられた呪いは悪夢そのものだった。呪いは死人から親族へと受け継がれ、再び悲劇は繰り返される。
二週間以内に十三人以上の人間を殺さなければ自身の命が失われる。命を失った者に親族がいなかった場合、呪いをかけられたものが被害を加えた者の遺族へと呪いは継承される。
もし、誰も殺さなければ、そこで悲劇は終わりを告げる。
心の弱い私は生きることを選んだ。呪いが続いたとしても、自分が生きられればそれでいいと、そう思ってしまった。その報いを受けているのだろう。
「お代、気が向いたらでいいわよ」
苦し紛れに優しさをみせても、結局は自分のためなのだ。
彼女に対する罪滅ぼしなど、できるはずもない。いつか必ず、告げねばならない時がくる。その時私はきっと、彼女に殺されるのだろう。
いや、「される」のではない。「してもらう」のだ。
そしてようやく、この呪いから、罪から、私は解き放たれることができる。
そのあと、彼女はきっと・・・。
そして、全ては終わるのだ。終わって、しまうのだ・・・・・・。