複雑・ファジー小説

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badly
日時: 2019/04/28 08:27
名前: もすこ (ID: RO./bkAh)

自由自在すぎん?

Re: badly ( No.4 )
日時: 2019/04/28 09:58
名前: もすこ (ID: RO./bkAh)

「歩いて帰らくて良くなったわ」
「え?」
「親父のとこ寄ってくわ、近いし」

光と龍也はビル群の大きな通りを歩いている。都会のタワマンに住むボンボン龍也とはここらでお別れである。

「じゃあな、医者の息子」
「だまれボンボン」

10分歩いた先に大きな公園と、大学病院がある。光の父親はそこで内科の医師をしている。バスはお金がかかるし、地下鉄も最寄り駅から歩くのがだるいので、「帰る術がない」と車の運転免許を持たない母に連絡したところ「じゃあパパの病室寄って一緒に帰ってきなさいよ。休憩時間でも帰宅時間でも乗せてもらって帰ってこい」と言われた。病院に着くと、待ち合い室の隅っこに腰掛けた。吹き抜けの上階を見上げると父親が歩いているのが見えた。

「あら、光くんじゃなーい」

小さい頃から世話になっている看護婦のおばちゃんに見つかった。

「八洲先生あと15分くらいで上がるから、光くん来てるってつたえとくわね」
「ありがとうございます」
「あ、飴あげる」
「…ありがとうございます」

また忙しく去っていってしまった。自販機で何か買って時間を潰そうか、外に出てすぐ脇の自販機に行くと松葉杖を抱えた女子高生らしき女子が一生懸命にお金を入れ、コーラに手を伸ばしていた。

「もー、なんで下に落ちんのよー」

自販機だから当たり前だろ、と取りにくそうにコーラを引っ張り出した。後ろを向くと、光と目が合った。

「北高…」

柚衣子は思わず呟いてしまった。線路に飛び込み自殺をした女子生徒の高校の、男子制服がそこにいたからである。さっきTwitterで見た。北高の女子生徒だって。

「あ、すみません」

松葉杖を脇に抱え足早に、その場を立ち去ってしまった。光は特に気にする様子もなく、120円を入れてコーヒーのボタンを押した。待ち合い室に戻り携帯とコーヒーを持ち合わせて、携帯をいじっていると父親がやって来た。

「待たせたな」
「いや?」

父親と光は車に向かう。車に乗り込んだ。助手席で、携帯を開くとニュースのトレンドとして「女子高生が線路に飛び込み自殺か」というワードが目に入った。特に気にする事はなかった。別に、日常茶飯事だと思うし、他人事で騒ぐと逆にただの便乗になってしまい不謹慎になりかねなからだ。
父親は無言のまま車を走らせていた。

Re: badly ( No.5 )
日時: 2019/04/28 10:32
名前: もすこ (ID: RO./bkAh)

父親が来て母と柚衣子は病院から出た。

「いやあ、顔なんかに傷がついたらもう父さんもっと耐えられないな」
「不幸中の幸いよね」

車の中では父と母がわいわい話している。

「お姉ちゃんは?」
「帰ってるんじゃない?」
「そっかー」

北高といえば何の変哲もない公立高校である。進学校といえば柚衣子が通う某私立の女子校が名高いが、特にいじめや学級崩壊はない。北高でも荒れているという話は聞かない。何があって、自分からそんなことしたんだろう。気になる、気になる。でも、ダメだ。ただの興味本位だし。でも、あのときのけが人が私だけなら、最後に私に何か悲痛な叫びを伝えたかったのかもしれない。そうしないと、その子が報われない気がする。

Re: badly ( No.6 )
日時: 2019/04/28 10:43
名前: もすこ (ID: RO./bkAh)

翌朝6時、柚衣子が目を覚ましてベッドから起きようと床に足を下ろしたところで、包帯が巻かれた左足が目に入った。あ、私けが人だった。ゆっくり階段を降りて、リビングへ行くと、柚衣子の姉がいた。1人で朝食を取っている。

「お姉ちゃん、おはよう」

髪をきつく縛ってスーツに身を包んでいる。就活生である。

「邪魔」

まだ朝食が残っている状態で、柚衣子をわざとらしく退けてリビングから出て行ってしまった。母はまだ寝ている。昨日の残りをレンジに入れて食べることにした。今日は練習試合である。柚衣子は陸上部に所属していて中距離が専門である。しかし、この足では短距離すらままならないのでしばらく見学とアシストに回ることにした。

「あら!今日部活だったわね」

母が物音に起こされてリビングに来ると、いきなり慌てだした。子川家にはよくある後継である。

Re: badly ( No.7 )
日時: 2019/04/28 11:03
名前: もすこ (ID: RO./bkAh)

女子校で練習試合って酷だよな。と言う気にもなれなかった龍也は電車の中で、ずっと項垂れている。

「梨央、ほんとごめん」

さっきからその事ばかり隣で呟いている。光はなんと声掛けたらいいのかわからないまま、S女子校に電車が近づいていくのに乗っていた。

「理由、分かったの?」
「わかんねーよ。だって、梨央の母ちゃんも父ちゃんみたいな人も訳わかんないっていってた」
「みたいな人?」
「多分あれ、梨央の親父じゃない」
「そーなんだ。ってかお前と濱田付き合ってたんだ」
「付き合ってねーよ。俺が好きだっただけ」
「お前ストーカーしてたんじゃないっけ?」
「変なこと言うなよ…話したことないって、俺、生粋のシャイボーイなんだぞ?」

シャイボーイって言いながら泣くのやめてくれないか、と突っ込む気にもなれなかった。なぜなら龍也は昨日、好きだった女の子を亡くしたから。自殺で。まさか光と龍也の通う高校からトラブル、ましてや生徒の死亡事故なんて。地元の人達は予想すらしていなかった。原因不明、当然即死で、病院に送られることすらない無残な姿で処理されてしまう。葬式には練習試合が終わり次第、龍也が顔を出すらしい。

「梨央じゃないかって噂が立ってさ、女子から梨央の家聞いて行ったんだよ。梨央の顔、眼球と耳が無くてさ、あんなかわいい顔してたのに」

光の父親が昨日手術をした中に、飛び込み自殺の遺体の歯を食らって怪我した女がいたらしい。今朝、朝飯食ってる時に言ってた。そいつらからすればただの迷惑に過ぎないんじゃないか。

「龍也今日帰ったら?」
「普通に走れるわ」

泣きながら言われても。り部活で汗を拭くはずの龍也タオルはもう涙でぐっしょりと濡れていた。

Re: badly ( No.8 )
日時: 2019/04/28 21:24
名前: もすこ (ID: RO./bkAh)

「柚衣子、大丈夫?」

部室に行くと後輩やら同級生が駆け寄ってきた。

「大したことないよ、すぐ治るし」
「えー怖かったでしょ」
「足痛すぎて何も見えてなかったよ、マジで」
「今日の相手って北高でしょ?」
「あ、そうだったね」
「なんか接待に困るよね」

わかるー。とみんな頷いている。実際、柚衣子もそうである。この後、顧問と話をして1日体を休めながら、マネージャー業に徹することに決めた。しばらくして北高の生徒たちがグラウンドにやって来た。男子もいて、柚衣子の部員たちは迫真の眼差しを送っている。

「今日はよろしくお願いします」

本当にマネージャーだと思われたのか、柚衣子は北高の部長らしき男子から軽く会釈をされた。

「こちらこそ、お手柔らかにお願いします」

当たり障りのない返事をして、柚衣子は左脇に松葉杖を抱えベンチに座った。

「…」

どこかで見たことがある。ベンチに座り、首からストップウォッチとホイッスルをぶら下げている。光は思い出した、昨日の自販機にいた女子であったことを。それに加え、昨日父親が左足を縫った患者ということにも当てはまりそうだ。

「どうした?」
「いや、別に」

龍也の怪訝そうな顔を他所に、光はアップを始めた。


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