複雑・ファジー小説
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- 何回目かのサヨウナラ。
- 日時: 2019/07/31 17:11
- 名前: 白刃 さとり (ID: r3UXBQ7u)
きっと、神様のちょっとした出来心だったのかもしれない。
私たちの呪いも。私たちの出会いも。私たちの愛も。
だから、私たちの神様は意地悪で残酷なんだ。
それを理由にしても、私の想いは届きませんか?。
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こんにちは。白刃さとりです。
この話は轆轤さんと叶の恋愛事情もかきたいという作者の勝手な一存により作られたものです。
[何度目かの初めまして。]も見てください。
- Re: 何回目かのサヨウナラ。 ( No.4 )
- 日時: 2019/06/19 18:56
- 名前: 白刃 さとり (ID: bb2N.JWt)
[轆轤目線]
叶に剣が振りおろされている。私は、私の過ちに気が付いた。
そう。もうとっくのとうに気が付いていたはずだ。
私には呪いが掛けられていた。そう"永遠の呪い"が。それは、永遠に生きる呪い。だから。私は、ヒトとは分かり合えない。
今までにヒトには石を投げつけられ、蹴られ、散々痛め付けた癖に「神だ」と謳われ、挙げ句の果てに「自由だ」何て言われた。馬鹿馬鹿しい。どれだけ従えば許してもらえる。どれだけ我慢すれば死ねる。
そして、とうとう私はヒトを見捨てた。何時になったら過ちに気付くのか、
そう考えていた。
でも違った。人間は間違ってなどいなかった。
暖かい心の人間もいれば、ある人を拒絶し、酷く憎んでいる人間もいた。いじめをしている人間も、人を殺した人間も、欲に溺れた人間も、偽善を掲げる人間も、努力を憎む人間も、人の痛みを嬉しむ人間も。
全ては、一つの愛と、一つの優しさが原因だった。
そう。人間はただの優しく暖かい生き物だったのだ。俺をいじめた奴だって妻子を守ろうとして私に殺された。
間違っていたのは私だった。
分かっていたのに人間を否定し続けた私が一番馬鹿だった。
叶の事も一種の罪滅ぼしのようなものだった。最初は。
でも、いつの間にか彼女にどんどんと惹かれていき、仕舞いには這い上がれないほど深くまで堕ちていた。だからこそ、彼女のために姿を消して人間に二度と合わない所で死ぬまで過ごそうとしていた。
「叶!!。」
彼女が刀を見て目を見開いた。此方を見てはおらず、一直線に叶へと飛び込もうとする刃先を諦めの表情で見つめていた。
叶が助けをこう様子もなく、私は立ち尽くしていた。しかし、体が、心が、彼女の元へと動いていた。
- Re: 何回目かのサヨウナラ。 ( No.5 )
- 日時: 2019/06/26 14:37
- 名前: 白刃 さとり (ID: DLaQsb6.)
暗い闇が、私を飲み込む。
いとも簡単に、私は闇に飲まれた。
なんとも言えない恐怖や不安の波が押し寄せる。
「ごめん……なさい。」
叶の声が心の中で響いた。そこで"俺"は現実に引き戻された。目の前には、自分の刀が刺さった男。腕の中には血塗れの叶がいた。叶は俺の腰に手を回した。彼女の暖かい温もりが、俺の全身を包んでいる。それだけで、今さっきまで此処にあった恐怖や不安さがじわりと溶けた気がした。
「怪我は……?。」
俺は恐る恐る叶に問う。叶は顔をあげた。鼻を赤くして、涙目の彼女は、いつもよりずっと幼い少女のように見える。自分が怖い思いをさせて、傷つけて仕舞ったのではないか、その考えが頭をよぎる。
胸が、痛んだ。
幼い頃の拷問で四肢が離れようとも、戦争でこの身が切り裂かれても、感じなかった心の痛みだ。とうとう、泣くのを堪えていた叶の瞳から一滴の涙が流れ出た。高い琴の音のような"それ"は、鈍く俺の心に突き刺さり、傷口をえぐる。
俺は、刀を男から抜くと、叶に気をつけてゆっくりと鞘にしまう。キン、と音がした。
「痛むのか?。」
やっと涙が収まり掛けた叶に問いかけた。彼女は首を振った。違う、と伝えている。それじゃ何か、そのように問おうとしていた俺の耳に叶の声が飛び込んできた。
「大丈夫。これ、返り血。」
いつものように必要最低限しか言わない叶を見ると、多分大丈夫なのだろう。
ふっ、と緊張の糸が切れた"私"は彼女を抱き締めたいという心を抑え、安心の気持ちを彼女に伝えた。
「よかった。怪我でもしてたらと思うと気が気じゃないですから。」
叶の瞳にも安堵の色が見えた。そしてまた、私を包み込むように抱き締めた。
- Re: 何回目かのサヨウナラ。 ( No.6 )
- 日時: 2019/06/27 21:29
- 名前: 白刃 さとり (ID: DLaQsb6.)
暖かい秋の昼下がり。二人の男女が歩いていた。二人は笠を目深に被っていて、刀を布に隠していた。
冷たい風が二人の間を通りすぎた。木の葉がざわめいた。まるで何かを訴えているようだ。しかし、この二人は気付かない。当たり前だ。気付くわけがない。なぜなら、未来の予知なんてことも出来ない少し変わった(?)人間だからだ。
二人から見れば3回目の秋だ。いつもの甘味処の前。女の方が顔をあげた。甘味処の中年の女が声を掛ける。
「あらまぁ。いつもの嬢ちゃんに兄ちゃんじゃないかい。」
女が頭を軽く下げた。男は笑顔の仮面を直ぐ様用意すると、柔らかい声で女将に話掛けた。
「はい。お久しぶりです。お元気でしたか?。」
女将は頷く。女が男をみた。まるで、猫被んな、と言っているようだ。其に気付かない女将は満面の笑みで
「あぁあぁ。お陰さまでね。元気だよ。」
と言った。女の顔に、知らず知らず笑みが浮かんできた。
「叔母さん。だあれ?。」
体の大きいふくよかな女将に隠れていた少女が出てきた。茶トラの子猫もいる。少女はまだ3歳位で、明るめの茶色の髪色だ。こてん、と首を傾げている。
「あぁ。お店の常連さんだよ。」
女将はそう答えた。少女はまたもや首を傾げた。
「この子は?。」
男……轆轤が少女をみた。女……叶が少女と目線を会わせようとしゃがんだ。少女が、少し後退りをする。
「私、叶。……宜しく。」
叶がそう言って、本の少しだけだが微笑んだ。
「ほぉら、ありちゃん。ご挨拶は?。」
ありちゃん、女将にそう呼ばれた少女は、恥ずかしそうにうつむくと、
「亜…里彩……。宜…しく…ね。この子は、威琉鹿って言うの。海の、威琉鹿。」
途切れ途切れだが、少女…亜里彩はそう言った。にゃぁん、と子猫が鳴いた。
「妹の子でね。妹が亡くなってから引き取ったんだよ。」
女将はそう言った。
「そうですか。」
轆轤は静かにそう言った。
- Re: 何回目かのサヨウナラ。 ( No.7 )
- 日時: 2019/07/03 22:02
- 名前: 白刃 さとり (ID: DLaQsb6.)
少女は、駆けていた。肺が、胸が、擦りむいた膝小僧が、どれだけ熱く苦しくても。ただひたすらに駆けていた。少女は、今の家である甘味処に駆け込んだ。少女が次に目にしたのは、惨殺されている叔父と叔母。そして、自分の親友達であった。
少女が悲しみにうちひしがれていると、少女の前に、大きな黒い影が出来た。それは、すなわち叔父と叔母そして親友たちを"これ"に変えた張本人ということになる。
少女は悟った。自分の死と、そんな自分に残った激しい憎しみを。
そこで、少女の記憶は途切れた。
少女は目を覚ました。
体が重い。そう思った矢先、自分の体に痛みと疲労がのし掛かってきた。"それ"に小さな叫び声をあげると、少女は周りを見渡した。知らない天井だ。あまり広くもない。そして隣にはこの前、叔母に紹介された『叶』という女性が少女………亜里彩を見下ろしている。口をポカンと開けて、直ぐによそよそと動き始めた。
「叶お姉、」
亜里彩は唯一の安心材料に話しかけた。が、案の定血の混じった咳が出て話しかけられなかった。亜里彩が咳き込んでいると、叶が亜里彩の口を湿らせた布で押さえる。そしてゆっくりと拭いてくれた。
「頑張ったね。よく頑張った。」
叶が最初に発した言葉はそれだった。
「威琉鹿が。亜里彩のこと伝えに来てくれたの。」
にゃあご、と威琉鹿が亜里彩の頬にすり寄ってきた。亜里彩は微笑んで威琉鹿に頬擦りをする。
「亜里彩。でもね………。」
叶が言いづらそうにそっぽを向いてそう言った。
「わかってる。」
そのまま二人は、少しの間だけ黙り混んでいた。
- Re: 何回目かのサヨウナラ。 ( No.8 )
- 日時: 2019/07/30 20:27
- 名前: 白刃 さとり (ID: jx1peQyr)
「亜里彩。売られるの?。」
ふと、亜里彩は憂鬱にそう言った。叶は手を止めた。
「そんなことはしないっ。」
持っていた布を置いて叶は言った。亜里彩はぼうっとした瞳で叶を見つめた。叶は感情を表に出したことが恥ずかしかったのか、顎を引いて斜め下を向いた。
「ここに居て良いの?。」
叶は微笑んで頷いた。そして、亜里彩のおでこを撫でる。亜里彩は戸惑ったような顔をした。
「私、呪われてる。周りの人間、傷つける。」
亜里彩の目に涙が浮かんだ。
「うん。そっか、辛かったね。怖かったね。」
叶は亜里彩のことを抱きしめた。
亜里彩は叶の腕の中で思いっきり何叫んだ。
初めて少女は両親以外の人間に甘えた。
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