複雑・ファジー小説
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- ブルーハーツが見えてくる
- 日時: 2019/06/01 11:22
- 名前: 梶原明生 (ID: NOqVHr1C)
「こんなのブルーハーツじゃないっ。」青年は映像を見ながらそう思った。知らない間に自分の部屋を他人に荒らされたような心境だった。出ている俳優陣は嫌いではなかったが、映像は見るに耐えない。これを我が物顔で「巨匠が作ったんだから飲み込め」と言われても、それこそ「少年の詩」が聞こえてきそうだ。だから青年は窓のカーテンを開けた。澄み渡る太陽と「青空」が広がっている。こんなはずじゃなかっただろ。と言われてる気がした。…これは我が愛しのブルーハーツに捧げる全6話の短編物語だ。……
- Re: ブルーハーツが見えてくる ( No.3 )
- 日時: 2019/06/21 18:52
- 名前: 梶原明生 (ID: 87ywO7pe)
「少年の詩」…………敦雄は神社を眺めてた。ベッドの上の天井に貼られた神社の写真。「何で皆神社を嫌がるんだ。」呟きながら二段ベッドで寝そべりながら眺めていた。「敦雄、敦雄。学校遅れちゃうわよ。」「わかってる。」母親の叫び声に1234で起き上がり、1234で食卓へ。「隼雄、起きてたのかよ。」「どこぞの兄貴みたいに神社眺めたりしないんだよ。」「こいつ。」小学生の生意気な弟に敦雄は小突いた。「んじゃ行ってきます。」弟に先を越される敦雄。「いけねー遅刻遅刻。」1234、5つ数えたらコンバースのバスケシューズが履けた。「敦雄、中学から帰ったら…わかってるでしょ、反日集会。」「ああ。」素っ気なく学生鞄片手に家を出る。岡本、梶原、鉄矢、が合流。「よ、敦雄。今日わかってるよな。ゲリラライブ。」「鉄矢、俺が忘れるわけないだろ。反日集会ぶっ潰そうぜ。」「おう。」四人は互いの手を合わせた。授業が終わり、河川敷のグラウンドを借りての中学と、敦雄の両親が入っている「反日会」の集会が盛大に催された。教師の大半が反日会のメンバーという異様さ。「んもう、敦雄はどうしたのかしら…」気が気じゃない母親。司会が熱弁する。「今、我々は…」ギャーンというパンクロック特有の伴奏がいきなり耳をつんざく。「な、何かね君達は…」壇上に上がったのは、ヒーロースーツに身を包んだギターベーススティックにマイクを持った謎のグループだった。「俺達は日本で生まれた。日本で育った。なのにおかしいじゃないかっ。日本のための正義のロックンロールっ。」叫び声をあげて歌い出す。当然教師達が迫るのだが、これまたヒーロースーツに身を包んだ集団に取り押さえられ、彼らのステージは守られた。歌っているのは勿論、敦雄達だった。「か、カッケーッ。」教師や保護者をよそに中学生達は歓喜に満ちた。「先生、皆さん聞いてくれ。別にグレてるわけじゃないんだ。ただこのままじゃいけないって気付いた。ただ、それだけなんだ。」「敦雄君。」「え…」クラスのマドンナ理緒ちゃんだけは見抜いてた。「ありがとう。ずっとずっと言えなかった事を、ここまで…私、敦雄君のこと…」俺もだと何故言えない何故言えない。少年はただ自問するだけだった。「クソッタレ」と自分に叫ぶ以外なかったのだ。「ウォーッ」敦雄達は持っていたヒーローナイフを空高く突き上げた。「そして、日本の良さが思い通りに伝わったら、いいのにな…」歌いきると同時に理緒を…
- Re: ブルーハーツが見えてくる ( No.4 )
- 日時: 2019/06/21 19:08
- 名前: 梶原明生 (ID: UvBorD81)
…思いっきり抱きしめた。パンクとヒーローの祭りはここまで。敦雄達は一斉に取り押さえられた。その後手痛い処分を受けるはずだったのだが、YouTubeに拡散されてこの中学の非難が殺到。中学側の対応に大炎上したため、彼等の処分は保留となった。「俺達の声は風に消されるだろうね。」敦雄が理緒と夕日を背に手を繋いで歩きながら弱音を吐く。「でも…敦雄君達間違ってない。」「理緒ちゃん…」勇気が湧いた敦雄は夕日を眺めながら彼女と手を繋いで寮に戻るのだった。…終
- Re: ブルーハーツが見えてくる ( No.5 )
- 日時: 2019/06/25 20:10
- 名前: 梶原明生 (ID: W4UXi0G0)
「君のため」…………雫とは幼なじみだった。近所だったし、佑であるこの俺にとっては妹みたいな存在だったが、いつしか意識するようになった。雫のお母さんが遊びに家に来た時、まだ中学生だったけど、告白した。「俺、雫のこと…好きです。誰よりも、何よりも、ごめんなさいって…」「私も…」「え…」「佑ちゃんのこと、好き。」相思相愛とはこのことだろうか。俺は彼女を抱きしめ、ファーストキスを交わした。しかし幸せだったのはここまでだった。「ありがとう。告白されて嬉しかった。でも、私からももう一つ告白したいの。」「な、何。…」「私、中学卒業したらアイドルになるの。」「…」何も言えなかった。確かにアイドル好きなのは知ってた。でもまさか本当にアイドルになるなんて…それから愛おしむように会いながら、雫は東京へ行ってしまった。何かポツリと穴が空いたような気分だった。何故あの時「行くな。」と言えなかったんだろう。夢を後押しする物わかりのいい彼氏を演じておきながら、結局彼女を縛りたい自分もいて、葛藤に苛まれているうちに彼女は行ってしまった。それからと言うもの、彼女の公演、出演番組、ブログなどは全てチェックを入れるようになり、さながらアイドルの追っかけになってしまった。そんなある日、大学の弁論会でたまたま東京に行く予定ができた俺は、雫のお母さんに頼み込んで会う予定をねじ込んでくれるよう頼んだ。彼女はアイドル。スキャンダルは禁物だから、会う方法も工夫を凝らした。なのに…雫が僕のいるホテルに直接来るなんて。雨が降りしきる夜だった。傘も差さずにずぶ濡れで僕の前に立っていた。「どうしたんだ雫。明日会うはずなのに。」「もう何だかいやになっちゃった。」「夢の…アイドル、だったんだろ。挫けたら…」「違うの。」「と、とにかく。ほらタオル。仕方ないから部屋に入って。」文春でもいないか見回してホテルに入った。「佑ちゃんは変わらないね。何だかホッとした。私ね、最初は良かったの。でも段々傾いてきて、アイドルの醜態も目の当たりにした上、採算がとれないから枕しろって…」「ええっ…」驚きだった。まさかそんなことが。「直接は言わないの。でもそれらしい圧力は毎日かけられる。私もう限界。…佑ちゃん、肩貸してくれる。」「うん、いいよ。」うなだれてくる彼女を肩に腕を回して抱きしめる。濡れそぼった彼女の温もりが懐かしさと愛おしさを湧き出させる。…続く。
- Re: ブルーハーツが見えてくる ( No.6 )
- 日時: 2019/06/25 20:33
- 名前: 梶原明生 (ID: NOqVHr1C)
…でも僕がしてあげられることはそれぐらいしかない。いっそこのまま彼女を攫ってどこか遠くへ。…そう思ってた矢先、ドアを開ける音がした。「え、ここはホテルなのに…」言ってる間もなくドカドカとスーツ姿の男2名と女一人が入ってきた。フロントマンもいる。「何てことしてくれたんだ君、まだ過ちが起こる前で良かった。新品でないとな。」「新品…だと。」僕は拳を握り締めた。初老の芸能事務所幹部であることはわかった。後はマネージャーらしい。「枕をやらせる気ですね。そんなのやらせない。」「枕だと、人聞きの悪い。君は立場をわかっているのかね。これは明らかな契約違反だ。借金とこれからの採算見込み兼ねて一億は下らない。君に払いきれるのかね。」「一億…」いきなり大人社会の厳然たる現実を突きつけられて躊躇した。しかし既に腹は決まっていた。例え地球が砕けてもそうすると誓っていたのだから。「雫…僕がしてあげられることは今は…これしかない。」バッグをとった僕は、それで一目散に三人を殴りつけた。「行こう雫。」彼女の手を取り、走って東京の街に出た。そして今。月夜の晴れた星空の中、胸を貸してただ泣いている雫を抱きしめた。「もう二度と離しはしない。」「佑…愛してる。」そんな絶望的な僕達に、希望の使者があらわれた。「雫さんに佑さんですね。我々は芸能界浄化睦軍部隊です。」…終
- Re: ブルーハーツが見えてくる ( No.7 )
- 日時: 2019/06/27 17:43
- 名前: 梶原明生 (ID: VlfYshYD)
「リンダリンダ」…………神木景太郎33歳。彼は所謂ニートだ。いや、正確には職を転々として食いつないではまたニートになることを繰り返していた。そんな彼が唯一愛したのは一人のアイドルだった。何度もアタックしては恋愛玉砕してきた彼にとってそのアイドルこそが仮想彼女だったのだ。関屋真美という名前のアイドルは二世アイドルでもあり、父の関屋みのるは昔憧れた格好いい男性アイドルだった。まさかその愛娘に恋するとは…深い縁を感じてますますいれあげた。しかし関屋真美に比べて自分はと言えば…華やかさの「は」の字もない庶民以下の貧乏ニート。母のパート代を宛てにして細々と暮らしてる。まさに「ドブネズミ」な生き方だ。こんなことではいけないのはわかっていた。それでも這い上がれない泥沼に無駄な努力だけが泥に染みていく。そんな時、常連な派遣営業マンから電話がかかってきた。「神木さんお久しぶりです。早速ですが東京にいい仕事あるんですよ。ワンルームマンション家電ネット付きで手取り…」いつもの営業トーク。「わかりました。」「え…」即断速攻だ。バッグ二個分で会社から送られたチケット片手に新幹線に飛び乗った。経験者でもあり、親会社に即決で雇われて仕事開始。仕事に明け暮れて、疲れて寮に帰る毎日。それでもいつか真美さんに会えるかもと思えば、まめにファンレターを書くのは苦でなかった。そんなある日。「ああ、今日も終わった。一週間つらかったな。明日から休み。何しようかな。」コンビニの袋片手に片手背伸びをしたら…何やら電灯の視線の先に座り込んでる人影が。「あれ、奥の部屋。俺の部屋…だよな。」よもや不審者か。警戒しながら近づくと、信じられない奇跡があった。ドアに座り込んでいたのは何と、 「関屋真美」 ではないか。「あ…」「神木景太郎さんですか。」「は、は、はい、そうですけど…何故。」一瞬テレビカメラやスタッフがいないかつい見回した。某ドッキリ番組を連想したからだ。ゲスイ発想は見事打ち砕かれる。「別にテレビドッキリじゃないですよ。いつかファンレターに書いてましたよね。困ったことがあったらいつでも訪ねてきてって。写真と寮の場所まで書いてくださって。」「そ、そうですけど、まさかこんな所で会えるなんて…と、とりあえず部屋へ…散らかってますけど。」慌てた景太郎はドアを開けると急いで中を片付けた。「へーっ、意外と小綺麗に中片付いてるんですね。慌ててるからてっきりもっと…」…続く。