複雑・ファジー小説
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- 【リレー企画】世界紀行 ~troubadour’s~
- 日時: 2020/03/09 11:06
- 名前: おまさ (ID: 2nMcmtOU)
『世界を呪う輩は、
世界を知らない』
(You are foolish.look at the our world.)
*
これは、一介の吟遊詩人である少女と、それが紡ぐ運命の螺旋の立会人の青年の物語。
曰く、彼らは西の地の果てを目指している。
曰く、彼らの宿願は彼の地の翠巒に達することで成就する。
曰く、彼らは己の価値を、愛を捧ぐためと嘯き、定めんとする。
※ギャグファンタジーになる予定です。
***
そんなわけで、リレー企画です。宜しくお願いします。
リレーメンバー
おまさ
マッシュりゅーむ
- Re: 【リレー企画】世界紀行 ~troubadour’s~ ( No.6 )
- 日時: 2020/05/05 14:40
- 名前: マッシュりゅーむ (ID: bG4Eh4U7)
「……へぇー、結構良さそうなお店だな」
店内に入り、中を見渡す。
複数のランプに照らされたそのパン屋は、どこか心を落ち着かせてくれるような雰囲気を醸し出していた。
見た目よりも中は思ったより広く、一番奥に会計用のカウンターが置かれている。壁には少し古びた本の入った猫足の本棚や、彫刻の入った何かの箱、大きな樽などが置いてあり、中央にはダークブラウンの木製のテーブルが複数個通路を作るように並んでいる。
その上には多種多様で色とりどりのパンが器に入っていた。
見た感じ、少々冷めているようだが……。今日の売れ残りか?
「まぁ、普通パン屋を昼じゃなくて夜に来る客なんて少ないか」
仕方が無い。きっと昼間に来ていれば温かい物があったのだろう。
しかし、しかしだ。逆に言えば夜なので店内は今現在俺しかいない。まるで貸し切り状態だ。メレなんて知らない。
既に俺の背の上で小さな寝息を立てている少女を静かに睨む。
それから俺は、ゆっくりまったりとパンたちを物色する。
テーブルの間を二周、三周する。
どれも美味しそう、美味しそうなのだが………しかし肝心のアレが見当たらない。
「なにかお困りですか?」
と、最初に挨拶してくれた女性の店員に声を掛けられる。
どうやら俺がひたすらぐるぐるしているのを見かねて話しかけてきたらしい。
まぁ、目立つか。広い店内に客俺一人だからなぁ。
あはは……と頬をかき、問う。
「あ〜、えーと……『揚げパン』ってないんですか……?」
「へっ………」
少し遠慮がちに聞くと、その店員さんは目を丸くし固まる。
そしてそのままおずおずと確認を取るように尋ねてくる。
「…………『AGEぱん』………ですか……?」
「はい、そうで……………ん?ちょっと発音がちが———」
肯定しようとして、なんか凄い『あげ』の部分が変に聞こえたので小首をかしげると———
「———て、店長オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!?」
「うわっ、びっくりしたぁ!」
突如わなわなと震えだし、後ろを向いてカウンターの奥———厨房に向かって叫び出す。
思わず俺も大声を出してしまう中、その首が折れるんじゃないかってぐらいの勢いで振り返ったその動きにつれられ、俺もその方向を見る。
そして視線の先に現れたのは———
「———どうしたんだ」
響くイケボ。輝く眼光。黒の刺繍が生える白いコックコート。そして紳士の様な立ち振る舞い。
極めつけは———
「そーぉぉぉんっ!——んんなに叫んで。叫んっっっでッ!!」
———頭にすっぽりかぶった強盗みたいな黒い覆面と、残念な喋り方。
「店長!聞いてください。さっきこの方がぁ———」
「……………」
店員さんが事情を話す中、俺は徐々に揚げパンが食べられるという高揚感と、夜のテンションというものを失い、同時に表情も失った。
こいつは駄目だ。
正直、悪寒しかしない。
俺の本能が、此奴はアゴネェと同じ系統の人物(変人)だと訴えてくる。
「———そうかぁ……そうかッ!貴殿、我の伝説の『AGEパン』をぉ、」
「要りません失礼しました」
なのでなにか変なことに巻き込まれる前にそそくさと帰ることにした。
回れ右をして出口のドアから帰ろうとする。
「まあぁ、まてぇー、まてっ」
案の定捕まった。
「あんんぅ……しんっ!したまえぇ。貴殿の欲しいもん〜〜ぅのなら———あっ、る」
喋り方癖ありすぎんだろ。
半眼を作り、「ワタシ、アナタトハシャベラナイノデ」という姿勢とオーラをありありと示すが、ダメージはない。
「あのすみません、俺、本当に時間が無くて——」
「———時間が無いのならこんな場所へは寄らない。そうだろう?」
やんわりと嘘を交えてこの場を脱出しようとするが、顔を近づけてきて吐息交じりにそう囁いてきた。
クソッ、言い返せない上に無駄にイケボだから腹立つ……っ!
そして何故この時だけ流暢な言葉遣い!!?
「はぁ………まぁ、そうなんですけども」
「じゃっ、きん〜まりだっっっなッ!!———行ってこい」
諦めてその言葉を肯定すると、何故かそう言われる。
会話……成り立ってる?
「あの、どういう……?」
「ん?んんん?ん〜〜♪ 貴殿はぁ『AGEパン』が欲しんっのではなかったのかいぃ?」
疑問を口にすると、「ん」と言葉を発する時に首を左右交互に傾げ、「欲しんっ」の部分で首を前に倒し正規の状態に戻すという技を見せられながらそう言われる。
器用だな、と思いつつも俺はこの変人のせいで薄れていた当初の目的を思い出す。
そして同時に新たな疑問が頭の中で浮かんできた。
コイツの言っている『揚げパン』は———
「『AGEパン』をォぉ…、食べるためにはァぁ…、その者が素材をォ———」
「———あのすみません、一応聞きますが………『揚げパン』ですよ……ね?」
「あぁもっちろっん!」
僕が疑問を呈すると、そう言って両手を掲げ、大仰な振る舞いで続く言葉を言う。
「『Apotheosis Great Euphoria』。通称、『絶大なる神の幸福感』———………んがッ!味わえるッ!パ〜〜〜ン、だっっっ!!!」
確認しといてよかったぁ。これ俺の知ってる揚げパンじゃねぇわー。
———————————————————————————————————————————
おめでとー。ありがとー。
すみません、今回の登場人物のテンションが高すぎて萎えたので僕のテンションは低いです。
僕もおまさんの人気ぶりには圧倒されてます……。
更新速度は暇なだけなのでそれほどでもないですよ(笑)。
さて、今回のパンですが、正式名称は「アポテオーシス・グレイト・ユーフォリアパン」です。
この詳細はおまさんに丸投げしたく存じます。よろっ!
- Re: 【リレー企画】世界紀行 ~troubadour’s~ ( No.7 )
- 日時: 2020/05/26 10:45
- 名前: おまさ (ID: r1bsVuJn)
こんにちは、おまさです。
前回マッシュ様のテンションが下がってましたが、今回僕も同じくらいメンタルにダメージを受けたと思います。
というのも、今回書いてみてわかったのが『店長は筆者の精神をも削る』ということ。店長の台詞を一つ書くのに魂を浪費している気分です。SAN値がピンチです。
この、ある意味作中最強⚫もとい最恐の店長のせいでめっっつぁ疲れました。ハイ。
それと、前回の更新で「閲覧数100突破」とか言った記憶がありますが、いつの間にか400超えそうです。ご愛読本当にありがとうございます!!
マッシュ様。これからも二人三脚頑張っていきませう。
では、ごゆるりと本編をお楽しみ下さい\(^^)/
1
絶大なる神の幸福感ーーー即ち、「AGEパン」。響きからしてアゲホイ↑な雰囲気を醸し出している件のブツはしかし、パン屋の店員から歓迎されているというよりは彼らに畏怖に近い念を抱かせるものらしい。
「…年中イースト菌と向かい合ってる人達にこうまでさせるって…一体どんなパンだよ」
いや、もう最早パンという概念そのものを超越した存在やもしれない。口にすることも憚られるようなモノ、といえば的確か。
「名前を言ってはいけない、か。……闇の帝王に喧嘩売ってんのか」
ともあれ。
今もなお動揺が走っている店内の中、その強烈なキャラに圧迫感すら感じる、ゴーイングマイウェイな店長に向き直った。
「……あのー、」
「んん、ん、んんんん…? 一体なんだい何なんだぁーーーいっ? 質問の時は、大きな声で相手の目と目と目とめとめとめとめとめめめめめめっめめめぇぇぇっへぇぇええ↑」
「………。」
テンションが振りきれて珍獣と化した店長を見、俺は心底疲労を自覚した。ああ、こんなことならパン屋なんか寄らずに、早いとこ宿に向かえば良かった。
「……あの人って、いつもあんな感じなの?」
思わず、カウンターで立ち尽くしていた先程の女性店員にこそりと訊く。彼女は少々迷っていたようだったが、数秒の沈黙の後ーー諦めたように目を伏せた。
「…マジか。それは大変ですね」
「もう慣れました」
そう言って苦笑する店員に、俺も曖昧に苦笑いを返す。
ーーー俺の背中で、今はもうすっかり夢の中のメレだけが、ひとり呑気に寝息を立てていた。
2
さて、前置きが長くなったが、例のブツーーー「AGEパン」なるものについて説明せねばなるまい。
店長のテンションで説明すると見も心も壊れかねないので、修行か拷問のような気持ちで俺が忍び聞いたものをかいつまんで説明しよう。
かつて、この街⚫アルベロが世界有数の商業都市だった頃。
今も昔も流通が盛んなこの都市は、四方から多くの商品と人が集まってきた。遠方から来訪する旅人たちは当然疲弊しきっている。商業都市としてだけではなく、長旅の補給地点の役割も担っていたアルベロではだから、旅館や飲食業といったサービス業が発展した。
その、サービス業従事者たちに配ったのがパンだった。当時渡されていたパンはごくありふれたものだったが、日々精進している彼らには喜ばれたそうな。
更なる幸福感を与えるため、パン屋が思い付いたものこそ、この世のパンの頂点に君臨し奉る存在の「至高至極なる幸福のパン」ーーー即ち、現在の「AGEパン」の原型なわけだ。
究極の幸福感を求め様々な素材や製法を試行錯誤していくうちに、彼らは気付いた。『人によって究極って違うじゃん』……である。
故に、彼らパン屋は「AGEパン」をつくる際、客自身に好みの素材を集めさせることにした。彼らに言わせれば、『この世に一つとして、同じ幸福の形ーー同じ「AGEパン」は存在しない』ときたものだ。
……この時点でかなり身勝手な話だが、まだ続きがある。
どうも話を聞く限り、素材集めが常軌を逸して大変らしいのだ。
なんでも、素材集めを直ぐに終わらせて帰ってくると、「さては面倒臭くて妥協したな…?」と店長に受け止められ、『究極』を求め最低一週間ほど素材集めをやり直させるらしい。なるほど、これは店員にビビられるわけだ。
「さぁっぁぁぁぁぁぁぁぁああって!ーーー見せておくれよ、君の…君だけのAGEパン……ぅをっ!!」
「……いやだから、俺の中の究極のパンが揚げパンなんだってば」
「な、なな、ななななななななななななななななぁ、なぁーーーーぬぃーー!? パンパンをアゲアゲしちゃってちゃってちゃってっ…………ちゃうのお!? アゲゲガゲガゲガガエガアゲしちゃってちゃってちゃってっちゃってちゃってちゃってっっててててえぇてっへへうへへえぇえぇえぇいええーーぃええぇぇぃえいえいええいいえぃぇいえぇっへっへへへうへうえへぃぃ、………ぃぃぃぃぃいいいい!!」
「……。」
も う や だ こ の 街 。
完っ全にネェに騙された。つーかこの店長も、いい加減早く揚げパン作ってくんねーかな。
そんな感慨を抱いていると、少し思い出したことがあった。
『……揚げパン、好きなんだってぇ?』
そう、あのとき。メレが俺をネェに売ったとき、ネェが発した言葉。そして、俺の記憶が間違ってなければ、奴はこう言ったはずだ。
ーーーー揚げパンの美味しい店を教えてあげる、と。
そう言って案内されたこの店には揚げパンはなく、代わりにAGEパンのことだと受け止められた。……ということは、ネェは最初から「揚げパン」ではなく「AGEパン」と言っていたと考えるのが自然。ならば、『こう』言い換えることも可能ではなかろうか。
ーーーーAGEパンの美味しい店を教えてあげる。
…まさか、っ……!
脳内の疑念が理解に昇華され、電撃ともおぼしき戦慄が駆け巡る。その戦きが、口に出た。
「まさかアイツ……………AGEパン食ったことあんのか…………!?」
- Re: 【リレー企画】世界紀行 ~troubadour’s~ ( No.8 )
- 日時: 2020/07/18 20:36
- 名前: マッシュりゅーむ (ID: DTbnjiLY)
鳥肌が沸きだつ。もしそうだあるのならばそれは。
彼……じゃない彼女は———この店長を認めさせる素材を持ってきた、ということ。
ゴクっ、と、唾を思わず飲み込む。彼女は何を選んだんだ?一体、どのようなAGEパンを。
普通に興味ある。AGEパンの素材選びには一っっっ切興味はないが。
目の前でテンションが爆発し、くるくるそこで回った結果パンが置いてある机の手をかけ必死に吐き気を堪えている店長に聞く。
「……あのー、すみません」
「はぁ、はぁ、ふぅ……。ん?いやいや謝らなくてもいい。確かに私がこうなったのは君のせいではあるが、気にはしてはいないよっ!?」
なにいってんだこいつ。
息切れしたらしい店長はこちらに、ばっ、と腕を振り上げサムズアップしてきた。
「いえ、あの、俺ある人に紹介されてここに来たんすけど、その人もAGEパンを食べたと言っていて———」
「ほうほうほうほうほうぅぅぅ……っオ!!そっかそうか〜〜そうだったのかぁぁぁはははははッッッ!?」
「その人は何を持ってきたのかなー、と」
段々とこの人のテンションと喋り方に慣れてきたことを実感しながらそう言う。
天を仰ぎ高笑いしている彼は、こちらに向き直り小首をかしげる。
「ふ〜〜〜むぅ。その人とやらの名っが知りたいぃんあァ?」
その人の名が知りたいな、ね。翻訳スキルも身に付いてきた。要らねぇ。
それにしても名か。ネェさん。変人。香水の匂いがキツイ。………あれ?
———あの人の名前って何だっけ?
「………」
「……んんー?どっしったんのかな〜???」
「……店長すみません、そろそろ………」
「———ファッ!!?もうもうもうこんな時間んにィぃィぃィいいイイいい!??」
答えに窮していると、店員さんが店長に何か言い、店にかかっている時計を確認した店長が急に奇声を発する。
「すっまな〜〜〜い少年よぉおぉ。誠にまっことにッ!残念ながらお開きの時間のよぉっ?だぁー」
「えっ、なにを———ッ!?」
そう言ってこちらの肩を掴み、店の外へ押し出そうとする。
急なことで驚き、反射的に押し返そうとしてしまうが、動かない。
(うーん、こういう変な人ほど強いんだよなぁー。)
一瞬ちらりと呑気にそのようなことが頭をよぎる。
と、気付けば店の外まで出てしまっていた。
ドンっ、と最後に肩を一突きされ、地団太を踏みながら顔を上げると、店長は背中を反らせながら明らかにふざけて敬礼をしていた。
「———じゃなっ、少年よッッ!!明日は四時にここへしゅーごーだあぁあああああああっ!!!」
「ちょっっ、声でか———ってええええええ!??俺来なきゃいけないの!?しかも四時!四時て!」
パン屋さんの朝は早かったッ!!!
急なことに必死になって抗議するが虚しく、しゅばっ、と擬音が付きそうな勢いでお店のドアにかかっている看板を『CLOSE』にし、店の中へ入っていった。
怒涛の出来事で脳の処理が追い付かず、しばしフリーズする。
「………マジか」
「——んあ?……………ダインうるさい」
「…俺?俺なのか!??」
ようやく声を発せた時、先程までの騒音で目を覚ましたらしいメレが何か言ってくる。
思わず反論し、ふと、視線を感じるなと思い辺りを見渡すと、ここら辺に住んでいると思しき近隣の方々がこちらを何か恨めしい目つきで睨んでくるのが分かった。
なんか釈然としないが、居心地が悪くなった俺はそそくさと宿へ戻っていった。
- Re: 【リレー企画】世界紀行 ~troubadour’s~ ( No.9 )
- 日時: 2020/09/13 17:38
- 名前: おまさ (ID: Yo35knHD)
とってもとっても遅くなってとってもすみませんでした。
実際は1ヶ月前にできてたんですが投稿忘れてました(汗
ではお楽しみ下さい!
1
昨晩は宿に止めてもらったが、結局よく眠れなかった。
それは早朝から集合をかけられたというのもあるし、これからの展開にビクビクしていたというのもある。
それとあと一つ。
「…………」
「……ってオイィィイイ!? 寝るな寝るな立ったまま寝るな!」
「………ん、ぅぁー」
途中で寝落ちしかけて目をしぱしぱさせながら、緩慢に反応するメレ。美しい容姿を持つ少女だ、そのまま倒れて綺麗な肌に傷がつく事態は避けたい。
昨日は俺の背中の上で熟睡したものの、メレは元々かなりの低血圧。寝入りは早く、そして朝に極端に弱い。さらに彼女自身、(体力がないからなのか)睡眠時間がかなり長い。
ーーーー本来なら、メレは宿に残してきたほうがよかった。
それはもちろん、メレがゆっくり寝ていられる……という理由だけではない。元々メレは今回の件に関係ないし、何よりーーー、
「こいつ、吟遊詩人だもんな」
そう、本来なら5日間アルベロの滞在のうち3日はメレの演奏のために費やす予定だった。1日目は元々短めの演奏のつもりだったからよかったけれど、2、3日目はこの街の各地を回って一日中歌を歌う予定を立てていた。すでに2日目に突入しているこの状況はマズい。
最悪、ネェに頼んでアルベロの街を一緒に回って貰ってもよかったが。
「あいつには悪いけど、これは多分……俺のエゴだよな」
メレを守る。ーーそれが、あの炎の日から始まった誓約。長らく務めてきた護衛という立場と矜持は、他人にメレを任せることを俺に許さなかった。
「……あー、クソ! ちゃっちゃと素材集めて早く公演しねぇと!」
そんな風に、なけなしのやる気を振り絞って虚勢を張る。空元気でも、少なくとも萎んでいるよりはマシだと思うから。
「………ダイン」
「どした、メレ?」
「ん」
「……………眠いんだったら素直に言えよ……」
眠たげに袖を引くメレを、苦笑しながら背負う。本当に、心配なくらい軽い。
肩に華奢な腕をまわして、俺の背中に凭れるメレ。
ーーーその耳が、ほんのり茜色に染まっていることに、俺は気付かなかった。
2
「ーーんんんぬぉぉおおおお!!!?、ずぅーいゔんとはや、はやはやはややややーい集合、集合、集合、集合………しゅうごう!! まっことに用意周到ぅーー!!!さっすがー!!!」
「………………。………帰っていいすか?」
朝から近隣住民に騒音だと訴えられかねない声量で、店長はグッドモーニングを告げる。……つーか寝起きの喉をここまで酷使できる人間って今まで見たことないかもしれない。どうでも良いけど。
「そして絶対に覆面を外さないというね」
「おぉーやおやおやおやおや、会って、あっつぇ2日目の相手にそこまで求めるのはーーー些か酷じゃないかい?」
「……微妙にイケボだから腹立つ」
もうなんか、出会ってすぐの会話の情報量が多すぎて頭がパンクしそうだ。
「まーぁこの覆面は、言ってってててっててみればアイデンティティー!!! なんですわ。と同時に、じぃぶんなるぃの相手との距離感・感・感! ニューカマーソーシャルディスタンシングウーマンウーマンってとこっ」
「わけがわからねぇよ」
会話で心抉るのはともかくとして。
「ーーで? 肝心の君は、準備はできているのかい?」
「……いつにもなく殊勝だな、って言うには互いを知らなすぎるか」
「まぁ事実殊勝にもなるさ。……意味、分かるかい?」
さっきのテンションは何処へやら、異常に静謐ーー否、真摯な声音で店長が訊いてくる。
「そんだけ危ねぇ、ってことだろ。俺も一応準備はしておいたけど……」
ちらりと一瞥を向けた先、俺は両脚のホルスターの拳銃を見る。
護衛という立場上、射撃に関してはそれなりに仕込まれている。自衛はできる筈だ。
しかし店長は首を横に振った。
「そういう意味じゃない。ーー心の準備だ」
「…………」
ただひたすら真摯に、店長は問いかける。その問いかけは俺に、覚悟という海原に自覚という錨を降ろさせる。
「君には、覚悟があるのかい?」
と、そこまで言った店長は不意に瞑目し、数秒後ーー爛漫な双眸をカッと見開いた。
「ーーそう!! 君はAGEパン、……っを作って作った作れば作れ作り作ることになるんだ。……っそそそそそそそそそっその高揚に、興奮に、愛情に、寵愛に、幸福に、幸運に、っ………! 君は、貴方は、お主は、汝は、呑まれる覚悟はあるのかなぁっっ!!?」
「少しでも真面目に振る舞った俺の時間返せよ!!」
そんな俺の絶叫を「まぁーっ、まてっ、まてっぇ」と適当にいなし、店長は歩き出す。
あーもうやだこの人。AGEパンの材料を見つける前に、会話で疲労死する。
そしてーー、
「ったく、またアンタか!朝っぱらから喧しくして何のつもりなんだ!」
「待って待って違うって俺じゃないから! 冤罪だから!」
近隣住民と再びそんなやりとりがあったことだけ付け加えておく。
3
さて、店長と俺は現在、馬車に乗って移動中だった。
馬車といっても絢爛豪華な装飾が施されている貴族用あるいはパレード用の煌びやかな物と違い、行商人が乗るような積載量重視のシンプルなものだ。
乗り心地はそこそこの御者台に座って移動すること1時間。メレはなおも背中で惰眠を貪っている。
「ーーーんんんでぇ、その子とはいったいぜんたいなんだいけったいへんたいかんしょうたいどういう関係………でっ、ございましてますればまするんな所存っ?」
「ああ、この子はメレ。歌い手だ。以上」
店長と共に移動すること1時間。神経を摩耗させる店長との会話に対する防衛術を覚えるには十分な時間だ。
適当にいなされたのが不服だったのか店長は「なーんーだーよー」と唸る。
「っていうかアンタ店どうすんの? 一応店長でしょ?」
「あぁーん、……しんっ! したまえ。彼らにはパンマイスターとしての誇りが、矜恃が、自己満足が、あっる」
「プライドはともかく、自己満足って酷くね…………?」
そんな益体のない話は一旦ここで途切れ、御者台には沈黙の時間が流れる。暫しの静寂を経て、口を開いたのは店長だった。
******
さぁ、店長は何を言ったのでしょうか。
この続きはマッシュ様に丸投げする所存。
- Re: 【リレー企画】世界紀行 ~troubadour’s~ ( No.10 )
- 日時: 2020/09/26 11:58
- 名前: マッシュりゅーむ (ID: W0MEbhZQ)
「あ!そういえば聞きたいなぁと思わなくもなくもなくもなくもなくもないことが君にあったんだぁ……!聞いてもいいカイ!?ねぇねぇ、聞いても、ねぇ、聞いてもいい!?」
「はぁ………。まぁ、俺に応えられる質問なら———」
「———ねぇねぇねぇ!!!聞いても、聞いいいいいいいてもいいいい?!?ね———」
「———いいっつってんだろ!?」
テンションには慣れたがウザさにはいまだ慣れない店長との会話がまた始まる。多分一生順応することはないんじゃないだろうか。
そう漠然と思いつつも話の続きを促す。
すると彼は「んんっっ!」とわざとらしく咳をすると小首をかしげながらその「聞きたいこと」やらを聞いてくる。
「ずばり———貴殿とメレつぁんとの関係性、だぁ!!」
「護衛する側とされる側。以上」
そう、先程と同じように話を簡潔に終わらせると、彼は「またまたぁ〜……つんつん!」と口に出しながら俺の服の裾を突いてくる。
反射的に叩き落とす。
「ほんとはぁ、我の言いたいことぉ、分かっているだろぅ〜〜?———そう、それすなわち男女として、だよッ!」
俺の乱暴に払った手に関しては何も言わず、キャー言っちゃった、と言いたげに自身の両手を頬に添え、体をくねらせる店長。
覆面高身長の男性コックさんの乙女な一面………うーん、カオス。
多分げんなりしているのが表情に出ているだろうがそれを隠しもせず、俺は多分彼が一番望んでないだろう答えを言う。
「いや、普通だけど」
「………」
次の瞬間能面の様に——覆面で見えないが多分——なる乙女店長。
そしてこちらが思わずムカつく肩のすくめ方をしながら、大仰に溜息をつく。
「はぁ……おもんな。ないわーほんまないわあぁぁっぁあああーーーーっッっ!!!」
「さーせんね………っておいここ馬車の中っ、倒れる、倒れるからァッ!?」
こちらも負けじと溜息交じりで肩をすくめて見せたら、子供の様にじたばたし始め、大きく揺れる馬車。
大の大人が恥ずかしくないのかよ、と思いつつも必死に止めようと———
———バキッ
「「あ」」
ハモる声。目線は二人同時に馬車の床へ。
そこには、足をガンガン叩きつけて空いた穴が———
「おいおいお客さん。あんまり騒がないで下、さ………」
馬車を引いてる業者さんが顔を見せ、何かを言いかけ固まる。
その顔を見て、俺は思わず頬が引きつってしまった。
後日、たっぷりと修理代を請求される俺と店長であった。
「———え、俺関係ないよね!?」
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