複雑・ファジー小説
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- THE SECOND TAKE ーAIでも英雄にー
- 日時: 2020/06/19 23:54
- 名前: 多寡ユウ (ID: mVHy..WT)
こんにちは!
複雑・ファジー系ということで、
宜しくお願いします!
今日中に完結させます!
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その講演に、全世界が注目をしていた。
「皆さん本日は、大変ご多忙かつ困難な状況の中、お越しいただき誠にありがとうございます。私は仮想空間創造所リベラル社で教授を務めております、●●●●●といいます。今回の講演中では、JBとおよび下さい」
自己紹介が終わり、男が本題に入る。
「さて、地球は今現在、危機的状況に瀕しています。近年、JAXAが計画していた火星移住計画は、残念ながら失敗に終わりました。急速に進む高齢化問題・食料不足、そして米中露で起こった大規模な大核戦争を読んだ第三次世界大戦により、世界は荒廃し、大気は汚れ切りました。我々がこの世で生きる手段はもはやありません。酸素濃度は低下し、放射線濃度は日に日に増加の一途をたどっています。」
白衣を着た30代の研究員が、世界各国の首脳や、外務大臣に向かって講演をしていた。公園の内容は日本語ではあるが、翻訳アプリケーションが働いていて、自動でその国の言語に変わる。
白衣を着たその男は、名札を付けて、JBという名前であった。
「そこで、我々JAXAと業務提携を結んだ仮想空間創造所リベラル社が、ご提案するのが、新たなる移住化計画です。それがこちらです。この機械を使えば、長きにわたって人間をコールドスリープ状態にしながら、脳だけは別世界に転送することができます。その期間は、100年以上。この機械で100年もの間、国民を閉じ込め、大気と放射線が通常の濃度に戻った際に、活動を再開するのです。我々はこの計画を、異世界移住化計画と名付けました」
各国の首脳から、拍手喝采が巻き起こる。
みんな口々に、amazing, wonderful,coolとか何やら単語を発している。
「国民一人一人に、仮想ゲーム空間サーバーを用意し、一人だけの仮想空間を提供します。これで、何人もが一斉にサーバーにログインして生じるバグを回避することができ、未来永劫、誰もメンテナンスをする必要がない、完璧な居住空間としての仮想ゲーム空間ができあがったのです!」
しかし、これでいいのか。
こんなもので、人間を閉じ込めて、それでこの世界を、地球を放棄して、
お前たちは、それで生きているといえるのか。
100年間も仮想空間ということは、100年間分現実世界では年を取るということだ。
もし、100年たって現実世界に戻っても、そんなヨボヨボの人類には何もできない。何も遂げられない。全員がヨボヨボになって、死に行く地球をただ茫然と見ているだけ。そんな未来が待っているはずだ。だから、
この仮想空間は、理想郷ではない。
私は納得しない。断じてそうではない。この地球を立て直すために、尽力すべきだ。
決して、火星に移住ができないから、異世界に移住をしようという甘い話ではない、断じて。
私が変えてやる。
私がこの世界を、地球を救ってやる。
逃げるだけなんてダメだ。
救う。必ず。
そう一人の女性は、心に決めて、講演会場を出た。
🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊
場面は変わり、99層迷宮、第七層。
少女たちは、第六層でのボスエネミー、最初の人類アダムとのバトルに何とか競り勝ち、多くの犠牲者を出しながら、この第七層までやってきた。しかし、
その少女は、第七層の入り口にようやく降り立った時、
そこに広がっていたのは、一面に広がる小麦畑と、「第八層へ」という立て札のついたおんぼろのどこでもドアのような扉だけだった。
「ふう、よしみんなここで休憩しよう!エネミーはいなそうだ。手当が必要なものには、至急手当を!」
クランのメンバーにそう告げると、彼女はその小麦畑に座り込み、一息ついた。今までの七層までの歴史を振り返っていた。一層は、陽だまりの怪物である動くヒマワリ、二層は空を司るオオタカ、三層からは強敵になり植物型のモンスターである大樹モンスター、四層は太陽と月を司る人工衛星型モンスター、五層はバハムートと呼ばれる魚に羽が生えたモンスターで、六層が最初の人類アダム。
そして、七層のエネミーは、存在せず。一面の小麦畑と、八層があることを知らせる扉のみ。
「やはり、そうなのかもしれんな」
彼女は何かに勘付き、小麦畑を覆う人口の太陽の方に目を向ける。
「プレイヤーを、探さねば」
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- Re: THE SECOND TAKE ーAIでも英雄にー ( No.16 )
- 日時: 2020/06/20 00:30
- 名前: 多寡ユウ (ID: mVHy..WT)
「「「ユウキ君!」」」
隊長たちの声が聞こえる。
でも僕にはそんなの聞こえない。いくら隊長が挑んだって、ジェイソンには勝てない。僕は足手まといになるし、絶対に勝てっこない。だから、逃げるんだ。ジェイソンも、大樹もいないところまで。13層から脱出するんだ。転移ポートで。
「ふっ、はっ、へ・・・・、ふっ、はっ」
僕は必死で森の中めがけて駆け出した。
後ろから、隊長たちの声が聞こえてくる。だけど、僕には聞こえない。
そんなの聞く必要もない。僕は悪くない。僕は何も悪くない。
悪いのは、あんなに強いエネミーに挑ませようとする隊長たちだ。
森の中に入ると、薄暗い道が、ずーっと続いた。後ろから、ガギン!ガギン!という音や、ジェイソンの笑い声が聞こえるが、僕にはなにも聞こえない。
僕は悪くない。だって、僕はアイさんのために戦うといったんだ。でも、アイさんは隊員の一人を守るために死んでしまった。HPがゼロ。あれじゃ助からない。この世界に、蘇生術は存在しない。HPがゼロになったものに、ポーションを使っても意味がない。
そうだ。僕が頑張る必要なんてないんだ。なんで、こんな危険な目に合わなきゃいけないんだ。
前回は首を掻っ切られて死んだ。なんで、また同じような目に合わなきゃいけないんだ。
はやくはやく、転移ポートに戻ろう。戻って、帝都に戻って、自分の家に帰って、静かに過ごそう。99層攻略なんて、するべきじゃなかったんだ。しかもまだ13層。99層全部踏破するなんて、無理に決まっている。
辞めよう。このレジスタンスを。もうアイさんが死ぬところを僕は見たくない。
必死に僕は逃げた。後ろに、大勢の仲間を残して。
☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾
どれくらい逃げただろう。幸いローグ職だったこともあって、逃げ足は尋常じゃなく速かった。急いで転移ポートまで向かえば、20分程度だったはずだったが。一目散に逃げたせいで、転移ポートの場所もあやふやなまま逃げてしまった。
ここは、どこだ。
僕が今どこにいるのかわからない。転移ポートはどっちなんだろう。
そして、レジスタンスのみんなはどうなったんだろう。
・・・・・・・・・・・・・・・だめだ。そんなこと気にしてたら。
僕は、ただ、薄暗くて湿っぽいこの道をただひたすらに歩いた。途中、大樹の根っこが僕に向かって攻撃をしてくるが、自慢のローグ職の足の速さのおかげで、なんとか毎度のこと逃げることができた。
こうして、逃げてばっかりだ。
タクムを前にした時も。
アイさんが死んでしまった二回目の攻略も。
僕は逃げてばっかりだ。何事からも。僕が本当にしたいことをおろそかにしたまま、逃げ続けている。
(でも、僕にはできっこない。そんなできないことを、させるレジスタンスの人たちが悪いんだ)
こうやって、人はなんか悪いことがあると、他人のせいにしたくなるところも、自分の悪いところだ。
何時間歩いたろう。もう、戦闘は終わっていてもおかしくはない頃だ。
みんなどこだろう。無事かな。生きているかな。
そんなことを思案しながら歩き続けていると、
「?」
僕の目の前に、なにやら大きな扉が現れた。
その扉は、大きな木に取り付けられているようだった。荘厳な作りで、誰かの術式ということではなさそうだ。
「なんだ・・・・これは」
よくよくその大樹に取り付けられた扉に近づいて、調べてみると、扉の上についている立て札に、別の国の言葉でこう書いてあった。
CONGRATULATION. WELLCOME TO FINAL LAYERS.
「おめでとうございます。ようこそ、最後の層へ」
(最後の層・・・・・、最終層ってことか・・・・・・・・・・・・?って、なんのことだ)
ここは99層迷宮のはず。13層の次が最終層って、どういうことなんだ。
13層の次は、14層のはず。そして、そこから15、16,17ときて・・・・、最終的には99層に到達するということじゃないのか。
「どういうことだ・・・・・・・・・」
アイさんの説明では、99層が最終層だったはず。しかし、この扉には最終層へようこそという文言が記されている。
もしやこの扉を使えば、最終層までエレベーター形式で行けるってことなのか。
いや、しかし、アイさんの説明だと今までそんなエレベーターのようなものはなかったと、言っていたはず・・・・。
しかし、そんな考えるいとまもありはせず、一瞬にして、僕の身の毛がよだつ出来事が起きた。
「みーーーーーーーつけた💛I got チュー!」
後ろから、不気味に笑うよく耳にした声が聞こえてきた。
(びくっ!)
僕が恐る恐る、後ろを振り返ると、そこには、白いマスクに、4mはありそうな巨体、そして、右手には大鉈。そして、左手には、
「!!!!!!!」
リュウ、ゴウ、サユリさんの、三人の髪を引っ張りながら、三人の首だけを持っていた。
「・・・・・・・・・・う、うげぇぇぇぇええええええええええええええええ」
僕はその場で嘔吐する。いやそれよりも、
隊長の首をジェイソンが持っている。ということは、三人とも負けた、のか。
「あらぁ。ぼくちゃんには少し対象年齢がオーバーだったかしら💛このでかい図体のやつ、髪の毛が短くて持ちづらい、ワン。だからーーー、いーらない!」
そういって、三人の首のうち、ゴウ隊長の首だけをその場に落とし、自分の足で踏んづける。同時に、グジャ!という音を立てて、ジェイソンの足元が血で黒と赤に染まった。
「‥・・・ガクガク・・・・・・」
「あれぇ、ぼくちゃん?ちびってんのぉ?もーやだなあ。根っこにお前の居場所を教えてもらってこっちにcome hereしたけど、雑魚じゃん。やる気なくすぅ💛」
はあとジェイソンはため息をつく。しかし、当の僕は、何もできず、ただただ目の前の恐怖に対して、ちびることしかできなかった。
「まあいいや。お前、その扉。見ちゃったみたいだし。殺さないとねぇー。」
「な、なななん、なんで。この扉を見ただけでころされるんだ・・・・。ぼぼぼぼぼ、僕はおまえに、なにもして、、ななな、ないだろ!」
「あああああ、ウぜえなあ。Fucking bitch. そのとびらをくぐらせるわけにはいかねーのよ。それが“ゲーム”だからさ」
「!!!」
コイツ今、ゲームって言ったか。確か、アイさんも同じようなことを言ってた。コイツは何を知ってるんだ。
「お、おまえ、この世界は、なんなんだ。おまえは、なんなんだ!」
「なーーーーんで、それ言わなきゃいけないわけぇ?・・・・・・・まあいいか。お前ここで殺すしなああ」
「いいか。よーく死ぬ前に聞いておくんでちゅよ?わかりまちたか?honey?この世界はなあ、“人口的に作られた仮想空間なんだよん”!」
「!」
(アイさんが言ってたことは本当だったんだ。ということは、本当の世界は別にあるということか!)
「でも、なんで、お前が、それを知っているんだ」
「えええええええええええ、なんで、それも言わなきゃいけないのぉおお。あ、だったら、言う代わりに、お前の腕、二本とももらうわ」
「えっ」
僕が気づくよりも早く、ジェイソンは右手の大鉈で僕の両腕を綺麗に切り裂いていた。
「だいでゃえdy0あふえwrfpくぇfれ9pふえrpf8うえr!!!!!!」
声にならない声が、森中に響き渡る。
「はーい。これが逃げたものの、罪ってことやね」
「うあっがgだgだぐがgg8いうがっぎたいいうだいいい」
「うるせえぇーな。まあ両腕切ったから、教えてやるよ。俺氏優しーからな。実は、わたすぃ、ジェイソンは、このゲームに存在するAIなのでーす!きゃぴるーん!」
「!!??!?????あdfへdhdhっぃd」
「ああだめだ。コイツ、もう死にそうだな」
ジェイソンがAI?・・・どういう、いや、それよりも、痛い。全身がいたい。もう、これ以上、コイツにいたぶられたくない。いやだ。怖い。
「じゃあ、お前の両足を切断する代わりに、もう一個教えてあげる💛メイドの土産・ダ・ゾ!💛」
そういって、ジェイソンは僕がかろうじて残した両足までも、大鉈で秒速で切断する。
「だでぇ9位d9うf0和えryフ9るふぁえsry9f89絵wsrdぁぁぁぁぁl!!!!!!!!!!!!」
あまりの痛みに、何も考えられず、僕はただ叫ぶのみだった。感覚を切ってほしい。リンパを切って、この痛みの感覚を切断してほしい。脳と足の感覚を切ってほしい。いや、それ以上に、殺してほしかった。
「あああ、いいねぇ💛いい叫び💛だから、今から死ぬ君にもう一個教えてあげる💛」
「ジェイソンは、大鉈を僕の首に構えて、大きく振りかぶった。
「僕にはぜーったいに勝てない💛システムでそうなってるんだお💛」
バイバイとジェイソンが言って、大鉈が振り下ろされた。
またしても、僕の頭は、胴体と切り離され、絶命した。
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- Re: THE SECOND TAKE ーAIでも英雄にー ( No.17 )
- 日時: 2020/06/20 00:32
- 名前: 多寡ユウ (ID: mVHy..WT)
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(死んだ、な)
真っ暗な世界だ。でも、かろうじて思念はある。でも、自分の視界には何も表示されない。真っ暗な世界が広がる。一筋の光もない。僕はアイさんも、隊長三人も見殺しにした。
だったら、この光もないこの世界にずっといる方がましだった。
もうこの世界で、ずっと過ごしたい。そう思っていた時、いつぞやに聞いたピコン!という音を立てて、僕の視界にポップアップが表示された。
(・・・・・・・・・)
そこには、例のごとく、電子的なポップアップメニューの囲いの中に、一つの質問と、YES or NOの選択肢が表示されていた。
「一つ前のセーブ画面に戻りますか? YES or NO?」
またこの質問だ。何回やらせるんだ。この質問に答えたところで、何にもならない。状況は変わらない。ジェイソンも最後に言っていた、ジェイソンには勝てない。そういうシステム設定がされている。隊長も殺されていた。アイさんも殺されていた。だったら、ジェイソンに勝てる人間は、レジスタンスにはいないということだ。
ここで、もう一度、戻ってもなににもならない。
意味なんてないんだ。
だから。
僕は静かに死にゆくことをえらぶ。
あんな思いをして、結局結果が同じなら、死ぬ方がマシだ。また、レジスタンスに戻っても、13層のボスには勝てない。だったら、ここでNOを選んで、人生を終えよう。
そうしたら、もう傷つかずに済む。隊長たちも、そして、アイさんの死に顔も、もう見なくて済むんだ。
「NO」のボタンを押して、僕は目を閉じた。
🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊
「君、名前は?」
「え・・・」
気が付くと、僕は森の開けた場所にいた。
そして、目の前には、前の闘いで殺されたアイさんがそこに立っていた。
(アイ・・・・・さん)
僕はアイさんが視界に入ると、目頭が熱くなり、今にも泣きだしてしまいそうになる。
でも、
僕は、NOを選んだはずだ。なのに、なんで、またリセットしているんだ。
困惑と嬉しさのまじりあった非常に複雑な心境になった。そして、ここはどこなんだ。
森の開けた場所で、なぜか僕の周りは燃え盛る炎で囲まれている。
(どこかで。このシーンを僕はみた・・・・はず。・・・・・・・まさか)
これは、アイさんと初めて会った時だ。
なんでだ。NOを選んだんだから、もう一度やり直すなんておかしいはずじゃ・・・・。
いや、待てよ。確か、あのポップアップメニューに書いてあった文字は、
「一つ前のセーブ画面に戻りますか? YES or NO?」
だったはずだ。ということは、NOを選べば、
(二つ前のセーブ画面に、戻るっていうことか?)
なぜこのタイミングがセーブ画面になっているのかは皆目見当がつかない。それでも、あそこでNOを押しても、アイさんと出会う前の自分にもなれないし、ましてやあのまま死ぬことも不可能ってことか。
(なんだそれ・・・・・・・)
僕がアイさんと一緒にいても、アイさんを殺す運命は変わらない。アイさんの死は、必ず起こる。なぜなら、アイさんは13層攻略をするはずだからだ。しかし、レジスタンスが13層攻略をしても絶対に勝てない。ジェイソンは僕は死ぬ前に言っていた。「僕にはぜーったいに勝てない💛システムでそうなってるんだお💛」って。ということは、いくらレジスタンスが、13層攻略に挑んだところで、この世界の理の上だと、あのエネミーには勝てないんだ。ましてや、隊長や、僕たち隊員が危険な目に合ったら、必ず駆けつけて、アイさんは身代わりになって死ぬ。それは一回目と二回目で実証済みだ。隊長たち三人も、アイさんが死んでからジェイソンにものの一時間たたずに、首だけ残されて殺されてしまった。残りの隊員たちも、あの時全員死んでしまったと考えるのが自然だろう。
だったら、どうやっても、ジェイソンにはかてないじゃないか。
僕は何もできない。アイさんをしに行く運命を前にして、逃げ出した。そして、隊長たちをも見殺しにしてしまったんだ。
「うっうっ」
なんて情けないんだ。僕は。
そんな自分のふがいなさに、涙した。
いっそこのケルベロスの時に死んでいればよかったんだ。
アイさんに助けられるような人間じゃないんだ。僕は。
「君、どうかしたか?」
僕が泣いていると、初対面であるアイさんが声をかけてくれる。
アイさんはこの時僕と初めて会ったはずだから、突然助けた人が泣き出したんだ。驚くのも無理はないだろう。
「いえ、なんでも、ありません」
僕は最後に振り絞って、それだけを言った。もし、アイさんに、レジスタンスに勧誘されても、断ろう。そう心に決めていた。
「そうか、それならいいんだが。それで君、名前は?」
「ユウキです・・・・・・・」
「ユウキ君・・・・か。いい名前だ。君の勇気を買おう。ユウキ君・・・」
多分、ここで、アイさんは僕をレジスタンスに勧誘するはずだ。これが本当に過去ならば、ここでアイさんは僕を勧誘する。
でも、それを僕は断らなければならない。僕がいても足手まといになるだけだ。アイさんにとっても、僕がお荷物になって、守らなければならない人間が増えるのは、つらいことになる。
だから、僕は。
「すみません・・、僕はあなたと一緒には・・・「君、どこかで私とあったことはないか?」」
アイさんから、思いもよらぬ発言が飛び出して、僕の独白はさえぎられた。
「えっ、それって。どういう」
「いやな、勘違いかもしれないんだが。君が、この前、私の夢の中に出てきたんだ。同じ釜の飯をたべて、ダンジョンにももぐって、そして、私の宿敵に君が殺されるのを、私が防げた。そんな夢だ。いや、何を言っているのか。分からないだろうがな。いや、気にしないでくれ。ところで・・・、君のほうこそ、何か言おうとしていなかったか?」
「・・・・・!!!!」
(アイさんの記憶の中に、僕が残っている)
そんな、馬鹿な。そんなこと、一回目のリセットの際には起こらなかったはずだ。
なんで。
「なんでアイさん・・・」
「?????、なぜ、君が私の名前を知ってる??まだ名乗ってはいないはずだが」
「っ!いや、これは、あ、なんかどこかで見たことがある顔だなと思って、あなた、一応有名な人らしいですよ」
全力でごまかした。すると、意外とアイさんは騙せたようで、アイさんは「そうなのか?」と少し照れながら応答してくれた。
(一応、信じてくれたみたいだな)
「まあいい。君を私たちのクランに勧誘したいんだ、我らのクラン、レジスタンスへ」
ついに、アイさんが勧誘をしてきた。
でも、これを断る必要があるんだ、僕は。
「いえ、スミマセン。入りません」
「・・・、そうか。残念だな」
「スミマセン」
「理由を、聞いてもいいかな」
「・・・・・・僕は、僕は、本当はアイさんと一緒にこうやって話せるような人間じゃないんです。かっこ悪いし、泣き虫だし、臆病者なんです。それなのに、アイさんは、僕にいろんなことを教えてくれて、何度も助けてくれて。それなのに、僕はアイさんを前にして、逃げ出すような、最低な人間なんです。アイさんよりも弱くて、敵を前にして、仲間を置いて逃げ出すような、そんなダメな人間なんです。僕は、だから、僕は、お力には、なれません」
あなたの力にはなれません。あなたの力になりたいです。あなたには沢山助けてもらった。一緒に過ごしていて、本当に楽しい人たちにも出会わせてもらった。
あんなに楽しい日々は僕の記憶の中では、初めてだった。
だけど、そんなあなたたちを僕は死なせてしまう。
だから、僕はいないほうがいいんです。
あなたは地獄から何度も僕を救い出してくれた。
僕は、生き返ったあなたを、抱きしめることも、できないんです。
「だから、一緒には、いけません」
「・・・・そんなにも、己を卑下するな、ユウキ君」
(っ、でも本当のことなんです。アイさん。アイさんはまだ知らないかもしれないけど、これからアイさんの下で、僕がする行動は、そんな最低なクズのやることなんです)
「私も、愚かで無力な一人の人間でしかない。君と同じ場所に立ち、君と同じ空気を吸い、君と同じ言葉をしゃべる人間なんだ。私も自分を悲観することはあるし、自己嫌悪に陥ることもある。だから君と私は同じなんだ。ユウキ君。多寡がこの2mが、君にはそんなにも遠いのか?」
「・・・・・・・・・・・・」
(ええ。遠いです。あなたのような、周りを守るために、命を犠牲にできる人の横に立つことは。あなたのような眩しい人の横にいることが、僕にとってどれほどの重圧なのか、あなたにはわからない)
「アイさんは、僕を地獄から救い出してくれた。それだけで、僕には十分なんです」
アイさんたちをこれ以上、危険な目に合わせたくない。僕がいても足手まといになるだけなんです。アイさん。
「そうか・・・・・・・・・残念だ」
「・・・・・・・・・・」
僕たちの間で、沈黙が流れた。
そして、僕はレベル8のまま、これから隅っこで生きていくことを決めたんだ。
僕が失礼します、と言って、アイさんの元を去ろうとすると、
「ユウキ君。私はいくつか、君に隠していたことがあったのだ」
「・・?なんですか」
隠していたこと?って、今あったんだから、隠していたことなんてあるはずない。
「私は今君にあってから、二つの嘘をついた。ひとつは、君を夢でみたということ。もう一つは、」
一拍おいて、アイさんは改めて、帰ろうとしていた僕を見つめていった。
「君に会うのが初めて、と言ったことだ」
- Re: THE SECOND TAKE ーAIでも英雄にー ( No.18 )
- 日時: 2020/06/20 00:35
- 名前: 多寡ユウ (ID: mVHy..WT)
「?」
一瞬何を言っているのか分からなかった。というか、この時は、何を言っているのか、さっぱりわからなかった。
「アイさん、どういうことですか」
「ああ。まず一つ目だが、私は君を夢で見たといったが、あれは嘘だ。正しくは、君と同じ釜の飯を食べ、ダンジョンで修業をし、13層のボスであるジェイソンに立ち向かった。レジスタンスの仲間たちとともにな」
「!」
(どういうことだ。アイさんは何を・・・)
「そして、二つ目の私と君が会うのが初めてだということだ。これは真っ赤な嘘だな。私は君に会ってから、三か月は経過している。そうだな?ユウキ君」
「!!・・・なんで、そんな…馬鹿な。そんなことあるわけ・・・」
だって、アイさんは僕の初めてのリセットの時に、僕がリセットをしたことを知らない様子だった。
「ああ、通常の場合なら、そんなことはあるわけがない。だが、私と君という場合だったら、話は別だ。私はな、ユウキ君。このゲームに二人しか存在しない、AIなのだ」
??????????????
言っている意味がさっぱりわからない。
「すまないな。君にどうにも嘘をつきすぎた。だが、しかし、わかってくれ。ほかの隊員たち、つまりNPC達を説得するためには、いろいろ嘘をつかねばならなかったのだ。順番に説明しよう。この世界のことと、そして、私が何をしようとしているかを」
アイさんは、ことの次第を説明してきた。
アイさんにはたくさんの嘘があった。
まず、この世界が作られた世界で、他の世界は別にあるのではないかという話。
「あれは嘘だ。いや、正確には、嘘ではないが、真実ではない。真実は、100%、この世界は仮想ゲーム空間であり、本来の世界が別にある」
「そんな・・・・・・」
「本当だ。この世界は、日本の宇宙開発会社JAXAと、仮想ゲーム空間を取り扱う仮想空間創造所リベラル社で作られた世界、通称:JBだ。仮想ゲームの世界なんだ。ユウキ君。君がこの世界にフルダイブした際に、過去の記憶はすべて一度、クラウドサーバー上に保存され、君は新しい人間として、この世界にやってきた。つまり、記憶を書き換えられて、この世界に存在するわけだ」
「ちょ、ちょっと待ってください!僕には母親や、父親がいます!そしたら、ぼくの過去の記憶は残っているじゃないですか!」
「無論、本来の母親と父親ではないよ。先ほど逃げ帰った三人組も、君の本当の友人じゃない。この世界、JBのプログラムによって作られた超高性能なNPCだ」
「そ、そんなことって」
「あるのだ。ユウキ君。そして、君は今まで、二回のコンティニューを行った。そうだね?」
「・・・はい、そうです」
「一回目のコンティニュー。君はリセットと呼んでいるが、このリセットの際に、私は過去の記憶を知らずに、君と初対面であった顔をした。そうだね?」
「間違いないです」
あの時のアイさんは、僕と会うのは初対面という顔だった。僕がリセットしてきたという話を、馬鹿正直に信じてくれたが。
「すまない。あれも嘘だ。私は君がリセットをしたことも知っていたし、私が君を庇って、そのあと、君がジェイソンにやられて死んでしまったことも覚えている。そして、レジスタンスの本拠地で君と、再び落ち合ったことも、全て覚えていたよ。知らないフリをして、他の隊員には言わないでおいてくれ、なんて言ってしまってすまなかった。君が初めて13層からコンティニューして時間をさかのぼった時、私は君を無条件で信じた。そうだな?」
「はい、そうです」
確かにあれはおかしいと思っていたんだ。アイさんは僕が言ったことを意外とすんなりと受け入れてくれたし、なのにだれにも言うなとかいうし。
「あれは、私も13層の記憶を引き継いでいたから、信じたのだ」
「!!!・・・なんで・・、それを今まで黙ってたんですか」
「そうだな。正直な所、言ってもよかったとおもっている。しかし、他の隊員に君のそのリセットの存在を知らせるわけにはいかなかったんだ。なぜなら、君のリセットの力は君しかもっていない力だからだ。もし君の力をNPCが聞いて、それをJBシステムが感知でもしたら、私の計画がご破算だからな」
「・・・・言っている意味が分かりません」
「ああ。コホン。つまりだな。私の他の隊長たち、隊員たち、全員が、NPCなのだ。つまり、現実世界には肉体をもたない。この世界の住人なのだよ」
「!」
「そして、この世界の住人達に、君がリセットの力の存在を気づいたと知られるのはまずかったのだ。NPCは、直でJBと連絡経路を持っている。NPCが、君がリセットの力を持っていると気が付いたと、インプットしたら最後、JBに見つかり、君は強制的に、この世界からは退場となる」
「な、なんで。そもそも、なんで僕にリセットの力があるんですか。もし、僕がリセットできなければ、この問題はないはずじゃ」
「この機能は、私が本来の世界にいた際に、つけてもらったものだ。プレイヤーにはリセットの機能を付けてほしい、そう私から懇願した」
「アイさん・・・・、アイさんは何者なんですか」
「私は先ほども言った通り、AIだ。この世界に二人しかいない、な。そして、私のAIの知見は、すべて元の世界にいるもう一人の私がベースとなってできている。だから、このアバターは私であって私ではない。いわゆる、残留思念ってやつかな。だから、私はこのゲームの中で作られたNPCとも違う。本来の世界の記憶を持つ、人間の記憶を持つAIなのだ」
「・・・・・・話が、すごすぎて。何がなんやら」
「まあ無理もないな。私も説明せずに悪かったな。すまない」
「いえ・・・・、でも、もう一人のAIって誰なんですか」
「それは君も知っている通りだよ。私意外にも一人、圧倒的にこのゲームで強いやつがいるはずだ」
「・・・隊長たち・・・ですか?」
「ははは。隊長たちも強いが、あいつらはさっきも言った通り、NPCだ。私の掲げるこの世界からの脱出という大義についてきてくれた、仲間でもある。しかし、AIではない」
「そしたら・・・・・・もしかして、ジェイソン?」
「そうだ。ユウキ君。ジェイソンのフルネームはわかるね」
「ジェイソン・ボーヒーズ、ですよね」
「そうだ。頭文字をとってみろ」
「J?・・・・B?・・・・・・・JB・・・、JBですか。もしかして・・・」
「そうだ。ジェイソン・ボーヒーズ。13層のボスエネミーであるあやつは、エネミーではない。この世界、JBの生みの親にして、私の上司でもある仮想空間専門教授:ジェイソン・ボーヒーズその人のAIなのだ」
「生みの親が、ラスボス、ってことですか?」
「ああ、そうだ」
「でも、あの人がラスボスだったら、13層から下の87層はどうなっているんですか。ラスボスなのに、その下にラスボスがもっといるんですか」
「結論から言おう、あやつで最後だ。つまり、13層から下は、14層しか存在しない。このダンジョンは、私の先輩であるJBが作った世界だ。ユウキ君は、人類創世記というものを知っているか?」
「えっと、神様は七日間でこの世界を創ったとかいうやつですか」
「そうだ。旧約聖書にしるされている、アダム誕生以前の話だな。この99層迷宮は、それがモチーフになっているのではと私は推測している。
一日目に、神は天と地を創造された。
二日目から四日目は、自然環境の整備。
五日目に魚や鳥などの生き物、
そして六日目に人間を作り、七日目は休息をとっている。
しかし、これには続きがあると、JBは昔に言っていた」
「それは?」
「ああ、神様は七日間でその後、この世界を滅ぼしたらしいのだ。
一日目に、人間を焼き殺し。
二日目に、生き物をすべて殺し。
五日目までに自然環境を破壊し、
六日目までに天と地を破壊した。
そして、七日目はその破壊した功績に満足し、休息をとったというものだ」
「で、でも・・・・。それと、99層迷宮には、何の関係が」
「ああ、ユウキ君。
私のこれが私の今までの冒険の記録だ。
一層は、陽だまりの怪物である動くヒマワリ、
二層は、空を司るオオタカ、
三層は、強敵になり植物型のモンスターである大樹モンスター、
四層は、太陽と月を司る人工衛星型モンスター、
五層は、バハムートと呼ばれる魚に羽が生えたモンスターで、
六層は、最初の人類アダム。
七層は、エネミーが存在せず。
八層は、人間破壊兵器ポイズンゾンビ軍団
九層は、汚水王と言われる醜男
十層は、太陽と月を破壊する闇の王
十一層は、森を枯らす火焔魔
十二層は、空と地を支配する精霊王
十三層が、ジェイソン・ボーヒーズ。私のよく知っている先輩と同じ名前をしたエネミーだ。」
アイさんは今までの戦闘の記録を振り返りながら、教えてくれた。
すごい戦闘の数々だ。どれも強そうなエネミーばかり。アイさんの率いるレジスタンスの強さを物語っている。
「だから、私はこう考えている。この99層迷宮は、先輩が好きだった旧約聖書とその続きがモチーフになっているのではないかとな。これに気が付いたのは、七層にたどり着いた麦畑の以降のだったが」
長きにわたる戦いを思い出しているのか、アイさんが物思いに更けていた。
しかし、仕切り直しと言わんばかりに、キリッと僕の方を向いて、説明を続ける。
「この迷宮が、99層と名付けられているのは、プレイヤーに挑戦させないためだろう。
99層迷宮は、正確には99層迷宮じゃないと私は読んでいる。
というよりは、必要がないんだ。99層も。どんな挑戦者も、13層で止まってしまう。なぜなら、ジェイソンは、私たちが勝てる設定のエネミーではないからだ。99レベルを全員揃えて、200人もの大群で挑んだところで、あやつには絶対に勝てん。そういうプログラムなのだ。だから、99層もないのだよ。あの迷宮にはハナからな」
「・・・・・・でも、アイさんが前に。99層全体のマップを見せてくれたじゃないですか、透明化のスキルで。あれはなんだったんですか」
「ああ、透明化のスキルか。あれはもな、はったりだ。すまん。私のスキルは、透明化のスキルではない。
ただただ、オブジェクトを視認して、それを投影するAIとしての権限があるのみだ」
「でも、99層の扉を見せてくれたじゃないですか」
「すまん。AI権限でちょこちょこと改ざんを加えた。だますつもりはなかったんだが、他の隊員NPC達も高性能なコンピュータが内蔵されているから、完全にNPCたちをもだます必要があったんだ。すまない」
「・・・・そうだったんですね」
「確かに、あの力があれば、ジェイソンの位置がわかりそうなものですもんね」
「ああ、わかるよ、あの力があればな」
「えっ、じゃあどうして、ジェイソン戦の時に、あの力を使わなかったんですか」
「ああ理由はな、私がAIとしてこの世界にせんにゅうしていることを、バレてはいけないからだ。ジェイソン、いやJBは未だ、私がアイという名前を使って、この世界にAIとして忍び込んでいることを知らない。もし知られたら、私が妨害しようとしているのが、分かられてしまうからな」
「・・・アイさんは、どんな妨害をしようと企んでいるんですか」
「決まっている。プレイヤーの脱出だ」
「プレイヤー、ですか?」
「ああ、そうだ。この世界には、ただ一人だけ、プレイヤーがいる。現実世界からこの世界にフルダイブしている生身の体を有する人間がただ一人」
「・・・そんな、まさか」
「そうだ。リセット、つまり、コンティニューの力を持っている君だよ」
- Re: THE SECOND TAKE ーAIでも英雄にー ( No.19 )
- 日時: 2020/06/20 00:37
- 名前: 多寡ユウ (ID: mVHy..WT)
アイさんの話はまだ終わらず、ケルベロスの魔炎は徐々に時間とともに、消炎されていった。
「私はずっと正規プレイヤーを探していたんだ。なぜなら、このゲームを唯一クリアできるのは、プレイヤーの属性を持っているものだけだからだ。AIの私や、AIのジェイソンがこのゲームのクリア条件を満たしても、クリアにはならない。だから、私はこの世に一人しかいない正規プレイヤーを探していたんだ」
「それで、正規プレイヤーっていうのは、」
「ああ、それが、コンティニューすることができる君だよ。この世界は、君だけのために作られた大規模仮想空間なわけだ」
そんな、僕の両親も、薬局やのおばちゃんも、すべてぼくのために作られたNPCだった、のか。あのいじめられた日々も、すべて、この世界がシステムで組んだことってことか?
「私は、長らくプレイヤーを探していた。八層から先に、ジェイソンがいた時のために、プレイヤーのコンテニューの力が欲しかったのだ。私はこの仮想空間を探し回った。時には人を救い、時には盗人の中にいないか見て、文字通りくまなく、探した。そして、君を見つけたんだ」
アイさんは僕に笑いかけながら、僕を見て言った。
「NPCは自分よりもレベルが高い相手を前にするとき、逃げるというプログラムになっている。そういう動作が組み込まれているからだ。君の仲間であった、あの三人組が、ケルベロスから逃げたのも、同じ原理だ。
そして、私たちレジスタンスの隊長はジェイソンに攻撃をするが、隊員は大樹のねっこにしか攻撃をせず、ジェイソンには攻撃できないのと同じ原理だな。よって、推奨レベルが90あるジェイソンに向かって攻撃を放つことができるのは、隊長たち三人と、私だけということだ。つまり、レベルがジェイソンと同等かそれ以上のNPCであれば、ジェイソンに攻撃ができる。
つまり、ケルベロスや、ジェイソンに攻撃できるのは、ユウキ君。君のような“プレイヤー”かもしくは私のような“AI”に限るというわけだ」
アイさんは自分のメニューを開けると僕の方に向かって、そのメニューを移動させ、こういった。
「すると、やはり私の見た通り、君のアイコンは、NPCのアイコンではなかった。自分のアイコンを見てみろ、他のNPCは緑なのに対して、君は赤色。これがプレイヤーのサインだ。近くに近づかないと、わからない仕様になっているがな」
君に会えてよかった。と付け足し、アイさんはジェイソン戦に僕が必要だという。
「この世界唯一の君だけがローディング、つまり前回のセーブデータに戻るを選択することができる。その力を、私に託してほしいのだ、頼む」
「あの時僕を助けてくれたのは、慈悲、だったんですか」
「慈悲、か。そんなもので、君を助けたわけじゃないよ、ユウキ君。私は、君の勇気に惹かれたのだ。この子なら、何かやってくれるかもしれないと。ジェイソンを倒す人間の一人になってくれるのではないかと、そう思わせるものが、ユウキ君。君にはあったのだ」
「それは、僕のプレイヤーとしての力が欲しかったからですか・・・」
「それも否定はできない。ただ、これだけは信じてほしい。君の勇気を買ったのは本当だ。これは、プレイヤーだからではない。君がケルベロスに立ち向かう勇気あるものだった。それが私が君と一緒に戦いたかった理由だ」
「・・・・・僕以外にリセットの力を持っている人はいないんですか?」
「いないな」
「僕以外は、プレイヤーがいないからですか・・・」
「そうだ。この世界は君のための世界だからだ」
「・・・なんで僕の力が必要なんですか」
「13層のクリアの手段を知り、君をもとの世界に戻すためだ。その準備はすべて整ってある」
「僕がもし、このゲームをクリアしたら、この世界はどうなるんですか」
「崩壊するだろう。ユウキ君というプレイヤーをなくしたこの世界は、存在意義を失う」
「僕がクリアしたら、アイさんもいなくなるってことですか」
「私は、いなくならないよ。私というAIはいなくなるが、私という人間は居なくならない、AIとしてのアイは居なくなるが、桜田アイとしての私は、元の世界で君を待っている」
「・・・・・・・・・・」
「君には、元の世界を、再建してほしいのだ」
「元の世界の、再建??」
「ああ」
「元の世界はどうなっているんですか?」
「急速に進む高齢化問題・食料不足、そして米中露で起こった大規模な大核戦争を読んだ第三次世界大戦により、世界は荒廃し、大気は汚れ切っている。もはや世界には希望がないと、誰しもがそう言っている。そんな絶望的な状況だ。火星移住計画もとん挫し、この仮想空間移住計画で、全人類を100年にわたる眠りにつかせている。」
「なんで、アイさんは、そんな世界に僕を送りたいんですか」
「私と一緒に、この世界を立て直してほしい。仮想空間で100年の時を生きて、あっちでヨボヨボの体で、覚醒しても、何もできやしない。若いからこそ、今の地球にできることがあるんだ。地球のために、力を貸してほしい。ユウキ君。現実世界の地球を立て直すために、君の力が必要なんだ」
「・・・・・・・・・・地球のためとか、僕は知りません。ましてや、その記憶が消されてしまってないんですから、救いたいとも思いません」
「ああ・・・、最もな意見だな」
「でも、僕はまだ、アイさんに返すべきものがあるんじゃないか、と思うんです」
「返すべき、もの?」
「そうです。あなたは、僕にキラキラしたものを見せてくれたんです。レジスタンスの全員が好きです。リュウが好きです。ゴウが好きです。サユリが好きです。そして、アイさん、僕を地獄から助けてくれたあなたが好きです」
僕は何度同じ過ちを繰り返すんだろう。
またやっても負けるかもしれないのに。
「僕はあなたに会って、“人”を好きになることを学んだんです。タクムたちにいじめられて、“人”を好きになれなかった僕に、人を好きになることを教えてくれたんです」
どうせ、ジェイソンには勝てないかもしれないのに。
「だから、そんなあなたが、この世界が楽園じゃないというなら、僕は信じます。大切なことを教えてくれた、あなたを信じます」
どうしてこんなにも、アイさんのために生きたいと思ってしまうのだろう。
「だから、僕はもう一度、闘います。ジェイソンと。そして、現実世界で、あなたに会いに行きます。必ず」
アイさんはにっこりと笑うと、僕めがけて駆け寄り、僕をぎゅっと抱きしめた。
「・・・・・ありがとう。私の口と、耳と、心で、君の存在を覚えている。君がジェイソンを前に殺されてしまって、コンティニューした時、平常心を装っていたが、内心、不安だったのだ。もう、ついてきてくれないんじゃないかと。だから、あんな顔をしてしまった」
そうか、アイさんが、レジスタンスの本拠地にリセットして戻った時に、あんなに思いつめた顔をしていたのは、それが理由で・・・。
「ユウキ君。ありがとう。私についてきてくれて」
アイさんは目にいっぱいの涙を浮かべ、僕をもう一度ぎゅっと抱擁し、ばっと離した。
「おし!こうしちゃおれん!すぐに作戦会議だ!ユウキ君、今日には、現実世界で君と会えるのを、楽しみにしているぞ!」
「・・はい、やってやりましょう、13層攻略!」
3度目の戦いの火ぶたが切って落とされた。
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僕は死ぬ間際に合った出来事をアイさんに話した。
すると、アイさんはなにかに気が付いたように。
「13層の攻略は、ジェイソンを倒すことではなく、その扉で下に降りることではないか?」
という結論を導き出した。
そうして、月日は流れ、一か月が過ぎ、僕は前回と同じように、ローグ隊としてレベル50までリュウさんに特訓を受けた。
他の隊員も、全員、敵エネミーのせん滅よりも、いち早く14層への扉を探せるようにするため、素早さのステータスをあげた。
決戦の日に挑んだ。
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「作戦通り、10個の小隊に分けて、扉を探す!」
そうして、僕とアイさんは同じ隊で、森の中の扉を探していた。この森は、とてつもなく広いフィールドのため、100人全員で探すのは一苦労だ。そのため、10人の小隊で分けて探すことで、扉を見つけやすくした。すると、
僕とアイさんのポップアップメニューに一本のメッセージが入った。
「to: all それらしき、扉確認。位置情報を送ります」
よし、ビンゴ。作戦は的中だ。
あとはここから、そこに移動して、その扉をくぐるだけだ。
ここからの距離は、
「ざっと、2キロ!アイさん!」
「ああ、向かうぞ!」
攻略はついに大詰めを迎えようとしていた。
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- Re: THE SECOND TAKE ーAIでも英雄にー ( No.20 )
- 日時: 2020/06/20 00:39
- 名前: 多寡ユウ (ID: mVHy..WT)
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「全員!集まったか!」
「いえ、まだ、リュウの隊が到着しておりません!」
隊員がアイさんに向かって、現状を報告する。
リュウの隊が到着していないのも、めずらしい。あれだけ足が速い隊だ。一番乗りで到着しててもおかしくないはず。
「なにもなければいいが」
アイサンがそういうと、全員のポップアップメニューにメールが入る。
「to:all ジェイソンと遭遇 きをts」
そこで、メールは切られていた。
「くっ!」
アイさんが苦い顔をして、周りを見渡す。
どこだ。近くにはいるはずだ。どこだ。どこにいる。
森の中のため、大樹の根っこの蠢く音にかき消されているが、
確かに、ジェイソンは近くにいるはずだ。リュウたちの隊も近くにはいるはず。
全員で周りを見渡していると、
「ごっめ—————ん!!!!!!みんな!連れてきちゃったーーーーーーーー!」
頭上から、リュウと思われる声が聞こえた。
僕が真上を向くと、そこには、一直線に森のてっぺんから落下してくるリュウを含む10人のローグ隊と、
「おーーーーマー———エ————ラァーーーーー!!!!!!!!💛」
4mはあろうかという大男が空から降ってきたのだった。
そのままリュウたちローグ隊は、着地と同時にその場で飛散する。
さすが、元盗人率いるローグ隊。逃げ足の速さは一級品だ。
しかし、同時に、ドスン!!!!!という大きな音を立てて、あいつも下に落下してきた。
ジェイソン・ボーヒーズ。JBのAIであり、この世界のラスボス。僕たちをこの世界に閉じ込めている元凶だ。
「お前らぁ、何に勘付いたぁあああ?もしや、貴様らのなかに、プレイヤーがいるのかああ?💛」
「プレイヤー?何だそれは。お前は何を言っているんだ?」
アイさんがとぼけるが、しかし、ジェイソンは聞く耳を持たない。
「わかってんだぞ。お前らの中に、コンティニューをしているやつがいることくらい!この広大な森の中で、この扉を見つけることができるのは、何度もリトライをしている奴だけだ!!!tell me なあ、おしえてくれよぉ。だれなんだぁ?おしえてくっれたら、ほかのやつらの命はとらねぇええええと誓おう(笑)💛」
「はあ?しらねーよ、そんなの!俺らは一回きりの命で戦ってんだ!なめんな!でかいの!」
リュウがジェイソンに向かって叫ぶ、僕は少し居心地が悪くなりながら、小声で「・・・そうだー・・・」といった。
「左様、貴様の舐めた態度、私が叩き直してやろう」
「もぉーサユリちゃんは、出番が少なかったから怒だぞ!じゃなくて、リトライなんてできる子いないよぉ、あなたと違って死んだら終わりなの、わたしたち、死に物狂いなのよぉ」
「そうかい、なら、お前ら覚悟はできてんな💛bukkkorosu」
「やれるもんならやってみろよい!」
「ああ、我らレジスタンスの力、見せてやる!」
リュウとアイさんがそう叫ぶと、戦いの火ぶたが落とされた。
「フン!っ」
バゴンという音を立てて、ゴウの大楯と、ジェイソンのチェーンソーがぶつかり合う。
「あああああああ邪魔!!!!!💛」
ジェイソンはさも迷惑そうに、ゴウの盾を切り刻もうとするが、防御力トップクラスのゴウの盾は切り裂けずにいた。これで、NPC・・・人間ではないのだから。おそるべしだ。
「よそ見禁物だって!八卦手裏剣!」
リュウが、大技を繰り出し、リュウ自慢の大手裏剣が八個に分かれて、ジェイソンの胸元に刺さっていく。
「ああああああああ、それも邪魔!」
「こっちもあるわよー、聖霊砲」
先ほどまで詠唱していた魔術の詠唱が終わり、巨大な白い球体をジェイソンに向かて放った。その白い球はジェイソンの胸元にあたると、巨大な白い爆発を呼び、あたり一面がフラッシュで包まれる。
よし、いまだ!
作戦では、サユリさんが聖霊砲という聖属性の攻撃を撃つフリをして、実は目くらましの呪文を撃って、ジェイソンの視界を見えなくする。その瞬間に、僕が扉を開けて、14層をクリアするという戦法だ。
この戦法は、アイさんが自分で考えて、そして、レジスタンスのメンバーに言って了承をもらっている。
これがチャンスだ!一気に決める!
僕は全力疾走で、扉に向かって駆けた。あと、10m。あと、5m。あと、3m。
そして、あと1mのところで。
「おい、なに出ようとしてんだ」
ジェイソンの声と同時に、右腕から大鉈が繰り出された。
なに!まだ、ジェイソンの目くらましは効いているはずなのに!
まだ、サユリさんが放った目くらましは効いている。のに、なんで!
これが、JBの権限ってやつなのか?
この世界を出ようとしたものを、完膚なきまでに破壊しつくす。それがJBが作った理想郷の正体だ。
でも、まだ僕の速さの方が速い!
このまま加速すれば、扉に追いつく!
もっと速く!もっと前へ!届け!
しかし、ジェイソンの大鉈は容赦なく振り下ろされ、
「花鳥風月!」
がイギゴイギギギン!という音を立てて、アイさんの2本の黒刀とぶつかった。
「アイさん!」
アイさんは、大鉈を受け止めるのだけで精いっぱいの様子で、アイさんが土台にしている木の根っこが、大鉈の重力に負けて、メリメリと音を立てている。
「私のことはいい!行くんだ!ユウキ君!」
「でも!一緒に行くって言ったじゃないですか!」
一緒にアイさんとこの世界を出るって決めたんだ。それで、あの作戦にも乗ったんだ。だから、出るときはアイさんと一緒じゃないと意味がないんだ!
「あとで追いつく!必ず!だから先に行け!」
「でも!」
「でも!じゃない!君は、大丈夫だ!この世界で、君は強くなった!」
「!」
「人を憎しむことも!人をすきになることも!頑張りぬくことも!あきらめないことも!沢山学んで、強くなった!だから、そんな君なら、大丈夫だ!いけ!」
「アイさん・・・・・・」
「後から私は追いつく!心配するな!顔をあげて、下を向くな!」
「くっ、」
「まあああああああててぇててええれええええええええ、くっぅうううううそおおおおおがきぃいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ジェイソンの怒鳴り声が聞こえてくる。
「ふん、ジェイソン。お前の相手は、私だ!」
「このアマああああああ!!!!!!!」
「アイさん!」
「いけっ!ユウキ君!前だけを見るんだ!」
くっ!僕は決死の覚悟で、木に設置されている扉を開けて、その中に飛び込んだ。
途中、アイさんがくすっと笑った気がした。
と同時に、まるでアリスの世界のように、木の中の洞窟を滑り降りて、
ドサ!っ
「ぐわ!」
薄暗い洞窟に降り立った。
🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊
薄暗い洞窟だった。
もう、すでに5分は歩いたろうか。
細い洞窟の道がずっと続いていた。一本道で。
やはり、アイさんの読み通り、99層迷宮は全くのデマ。正確には14層までしかなかったのだ。サーバー上の問題なのか、それとも創作者の趣味なのか。僕にはどちらが理由なのかは見当がつかない。
ただ、ゴールまできたということだけは分かった。
ここがゴールだと分かったのには、理由があった。5分くらい狭くて暗い洞窟の道を歩いたその先に、何やら扉があるのが見えた。そしてその扉の上の立て札には、次のように書かれていた。
:CONGRATURATIONS! WELCOME BACK TO YOUR REAL WORLD:
「・・・・・・・・・これは」
アイさんが、一番最初に見せてくれた。99層にあるといわれていた立て札のある扉。
14層にあったのか。
この扉を開ければ、多分、新しい世界が広がるだろう。
僕がいた世界よりも、ずっとつらい世界が待っているのかもしれない。
それでも。
それでも。
それでも、僕は前に進なきゃいけない。
この世界のアイさんのためにも、
これから行く本当の世界のアイさんのためにも。
そして、なにより、ずっと臆病で弱虫だった、僕のためにも。
僕がこの扉をくぐったら、もっとつらい出来事が待っているだろう。
でも、それを甘んじて受け入れよう。
だって、それが、レジスタンスがつないでくれた、道だから。
隊員たちが、隊長たちが、そして、アイさんがつないでくれた道だから。
後ろから、誰かが来るようすはなかった。
それでも、僕は扉に手をかけ、力強く推した。
「待っててください。もう一人のアイさん」
この先の、不安も入り混じる新しい世界に、飛び込むために。